弁天サマにお願い!アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

『温泉?』
「はい、おじが経営している温泉があるのですが、弁天さんと探女さんもよろしかったらご一緒にどうかと思いまして」
 ここは地元の人には願い事が良く叶うと評判の、お騒がせ女神弁財天――サラスヴァティ――を始めとする、七福神が祀られた神社の境内だ。
 同じ町内にある私立高天原高等学校に通う大和・武(だいわ・たける)は、この神社の娘弁天と、この神社に仕える巫女、天埜・探女(あめの・さぐめ)を温泉旅行に誘いに来ていた。
 というのも、武は剣道の達人で、前年度に引き続き、今年度も高校生剣道全国大会で優勝した。そのご褒美と大会で痛めた身体を癒す為、彼のおじが経営する温泉宿に招待された。
 しかし、1人で行くのも味気ないし、クラスメイトで友達の橘・緒登(たちばな・おと)や、彼女の親友であり、“いいんちょ”の愛称で呼ばれる学級委員長山都・美琴(やまと・みこと)に声を掛けたものの、同年代の女の子達と一緒に行くのも何か気まずい‥‥そこで、普段からあれこれ相談に乗ってもらっている弁天に、日頃の感謝の気持ちを込めて、保護者を兼任してもらおうと思ったのだ。
『いいわよ。今年はまだ温泉に行っていないし。私の友達も誘っていいかしら?』
「はい、後数人でしたら余裕がありますから」
 とはいえ、弁天とは世を忍ぶ仮の姿。その正体は、探女が仕えるこの神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ――だ。弁財天達神様は人間に顕現(=変身)しない限り、普通の人はその姿を見る事の出来ない。

「しかし、弁財天様が大和さんのお誘いを受けるとは思いませんでした」
『温泉に行きたいっていうのはホントよ。でも、本当の理由は、そろそろ武と緒登をくっつけたいのよね』
 武が帰った後、探女が弁財天にお茶を淹れながら聞いた。
 武と緒登はお互いの事を意識し、友達以上恋人未満の関係が長らく続いていた。気兼ねなく話せる事と、2人とも一歩踏み込む事で今の関係を壊したくないと思っているのだろう。
 しかし、同じ事を思っているからこそ相思相愛なのだから、どちらかが告白すれば告白された方は応じて晴れて恋人同士になれる‥‥弁財天はそんな煮え切らない2人の関係をやきもきしながら見ていたが、この温泉旅行をターニングポイントと定めたようだ。
「2人とも自然と手を繋げるくらい仲が良いようですが、どうやって仲を進展させるのですか?」
『1つは、強力な恋のライバルの登場ね。武を取られると思えば、緒登も焦るでしょう』
 温泉宿には武の従姉妹の、美夜がいる。美夜は武の事を好いており、今回、彼を温泉宿に誘うよう働き掛けた張本人だった。
 しかも、従姉妹という立場から、幼い頃の武を知っており、緒登からすればライバルになるだろう。
『もう1つは、裸の付き合いね。別に裸でなくてもいいんだけど、身の危険を2人で一緒に乗り越えればそれだけ仲が深まるものよ』
 具体例として、少し山奥の露天風呂に入りにいったら、濃霧などにより下山できなくなり、山小屋で一夜を一緒に過ごすといった事だ。弁財天は水の女神でもあるので、濃霧を出す事など造作もない事なのだ。
 弁財天は2段構えで行くつもりだった。

 果たして、武と緒登の仲は、女神のテコ入れで進展するのだろうか?


■主要登場人物紹介■
・大和武:外見18歳前後。高校生。転校を繰り返し、友達作りが下手な青年。実は剣道の達人で、三年連続高校生剣道全国大会優勝。竹刀の名前は草薙。緒登の事が好きだが、今の関係を壊したくないので告白していない。
・橘緒登:外見18歳前後。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。武の事が好きだが、告白する勇気が無く、想いを押し殺している。
・尾張・美夜:外見19歳前後。大学生。武の従姉妹。抜群の剣道センスを持っていたが、武に完膚無きまでに負けてしまい、以来、武に惚れている。

・サラスヴァティ(弁財天):外見20代後半。元々は河の神で、そこから音楽神、福徳神、学芸神となる。人間に顕現(=変身)するとカジュアルスーツ姿の美女になる。神力は楽器による魅了、水を操る攻撃と防御、傷を癒す等。
・天埜・探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格だが、芯は一本通りしっかりしている。

・山都・美琴:外見18歳前後。高校生。緒登の幼馴染みで、小中高とずっと同じクラスの間柄の大親友。学級委員長を務めており、愛称は“いいんちょ”または“ミコちゃん”。しっかり者。
・パールヴァティ:外見20代後半。美の女神。サラスヴァティとは親友同士。人間の美女に顕現すると、エキゾチックな褐色の肌のストリートダンサー風の姿を好む。神力は吹雪・雷撃・炎撃・石化(いずれも広範囲攻撃)等。
・ラクシュミ:外見20代後半。吉祥天。美と幸福の神で、恋愛成就はお手の物。サラスヴァティとは犬猿の仲だが、ケンカするほど仲がいいともいう。人間の女性に顕現すると、ドレス姿を好む。

※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※原則、獣化は出来ませんが、弁財天達神様の力は獣人の能力で代用しても構いません。


■技術傾向■
体力・容姿・発声・芝居・演出

●今回の参加者

 fa0488 エル(16歳・♀・狸)
 fa0642 楊・玲花(19歳・♀・猫)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa1357 結城 紗那(18歳・♀・兎)
 fa1526 フィアリス・クリスト(20歳・♀・狼)
 fa3853 響 愛華(19歳・♀・犬)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4941 メルクサラート(24歳・♀・鷹)

●リプレイ本文


●紅葉は遅れているそうですが
「わぁ、綺麗〜。ミコちゃん、見て見て!」
「本当、真っ赤に萌えて‥‥これから散ってしまうと思うと寂しい気持ちもしますが」
「落ち葉は土へ還り、また木が美しい花や実を付ける養分になります。自然が生み出した素晴らしい理ですよ」
 車窓に広がる、山の斜面一面の紅く色付いた木々。
 橘・緒登は隣に座る“ミコちゃん”こと山都・美琴に指差すと、彼女は寂しそうに微笑みながら見た。ボックス席の対面に座る天埜・探女は、彼女へ紅葉の必要性を優しく説いた。
 緒登達は大和・武に誘われて、彼のおじが経営する温泉宿のある高原へ向かっている。
『とっとっと‥‥悪いわねー♪』
 その武は、緒登達の隣のボックス席で、引率を引き受けてくれた弁天こと弁財天(サラスヴァティ)のお酌をしていた。
『何か私、引率みたいじゃない? え? そんなしっかり見えない? そんなー‥‥おかしいなぁ? なんでだろ‥‥』
『未だ宿に着いてないのに、それだけ出来上がってましたら、ねぇ』
 弁天はカジュアルスーツ姿で、地に届く程の長いストレートの髪も今は結ってアップにしている。確かにその姿だけ見れば立派な引率なのだが‥‥。
 弁財天にとって、人間の酒は水も同じ。いくら飲んでも酔う事はないのだが、それは弁財天という女神の話。向かい側に座る吉祥こと吉祥天(ラクシュミ)が指摘するように、今は弁天という人間に顕現している以上、さきいかをくわえ、手に日本酒の注がれた紙コップを持っていれば、単なる酔っぱらいだ。
「弁天様、少しはお控えられた方が‥‥」
『そうね、温泉宿でもお酒は出るでしょうし、武、この一杯で最後にするわ』
 探女がそれとなく窘めると、弁財天は紙コップに残った日本酒を一気に呷った。

 電車を降りて路線バスに乗り継ぎ、揺られる事約30分。鄙びた温泉街が見えてくる。
 バスターミナルでバスを降り、武が先頭になってしばらく歩く。源泉を囲むように造られた温泉街の一角の、和風の旅館の前で彼は足を止めた。
「ここって‥‥」
「旅行雑誌や番組でもよく取り上げられる、この温泉地でも有名な旅館ですよね!?」
 緒登と美琴は目を丸くする。
「武ー!」
 旅館の方から武の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。見れば黒髪を高い位置で結び、凛とした美貌の和装美人が入口から駆けてきた。
「女将さん、にしては若すぎるよね。武君の知り合いなの?」
「いや‥‥」
 緒登が顔を引きつらせながら武に聞くが、彼も記憶になかった。
「良く来たな、武。道中、疲れただろう。温泉に入ってゆっくりするといい。それと久しぶりだから、立ち会いたい。どうだ?」
「立ち合いたいって‥‥まさか、美夜ちゃん!?」
(「美夜“ちゃん”!?」)
「私は美夜、尾張・美夜だ。何だ武、私だと分からなかったのか?」
「会うの中学生以来だろ? その、変わってて、一瞬分からなかったよ」
「変わってて、か。それは綺麗になったと受け取っておこう」
 武の美夜を呼ぶ言葉に緒登は逐一反応してしまう。
 美夜は緒登のこっそり百面相を見抜いており、武の腕を取り、自分の腕を絡めてくる。ふくよかな胸を彼の手に当て、親密さをアピール。
「大和君、そちらの方は?」
「俺の従姉妹で幼馴染みの、尾張美夜だ。俺は剣道をやっている都合で、全国を転々としてきたんだけど、小学生の時はしばらくこの温泉宿に厄介になっていたんだ」
「尾張美夜です。ようこそ、いらっしゃいました。日頃は武と仲良くして戴いてありがとうございます。どうぞ、ゆっくりなさって下さい」
 美琴の『緒登警戒センサー(自動発動アビリティ)』に美夜が引っ掛かった。彼女は間を取り繕うように、武に紹介を促す。
 温泉宿の娘らしく、客である美琴達は丁寧に接した。その堂々たる応対に、武も目を見張った程だ。
(『うふふ、なるほど、ですわ』)
 吉祥天は美と幸福の神で、恋愛成就はお手の物。美夜の武への想いを即座に感じ取っていた。


●ライバルが絆を強くする
 チェックインすると、武達は用意された部屋へ入った。女性陣で1部屋、武は男性なので1人で1部屋だ。
「しかし、あのお転婆だった美夜ちゃんが‥‥」
 武の記憶の中の美夜は、5年前の、まだ中学生の時の姿しかない。それがどうだ。温泉宿の女将の娘として、和装が板に付いた和服美人へと様変わりしているではないか。
『‥‥武君‥‥』
(「俺は緒登さんが好きだけど‥‥緒登さんにとって、俺はただの仲の良い男友達に過ぎないのか?」)
 不意に自分を呼ぶ緒登の声が頭にリフレインする。
「‥‥お前が私の性根を直してくれたのだぞ?」
「!? 美夜ちゃん!?」
「言ったではないか、立ち合いたいと。呼びに来たのだ」
 ボーっと寝っ転がっていた事もあるが、気が付けば私服姿の美夜が武の顔を覗き込んでいた。武は後ずさり、慌てて身体を起こす。
「‥‥性根を直したって、俺が?」
「そうだ。お前と初めて立ち合うまで、私は同世代の剣道仲間では、この辺りは疎か、県下でもトップレベルの剣道の腕の持ち主だった。しかし、お前と立ち合い、私は完膚無きまでに叩きのめされた」
「俺も美夜ちゃんと初めて試合をした時の事は今でも覚えているけど、あれは紙一重の勝負だったぜ?」
「確かに試合の内容は、な。だが、お前が言うようにお転婆だった私は、心の鍛え方が足りなかった。それに気付かせてくれたのは武、お前だ」
 美夜は備え付けのポットでお茶を淹れながら、昔話に花を咲かせる。
「あの日以来、私は母に頼み、心の鍛錬も行った。それが今の私だ。全てはお前に振り向いてもらう為に、な」
(「そんな事が‥‥」)
 美夜の思い掛けない告白に、武は飲んでいたお茶を吹きそうになる。
 しかも運命の悪戯か。部屋の外では緒登が武を呼びに来ており、話の半分以上を聞いてしまっていた。
『‥‥武君、温泉街へ繰り出す準備はいい?』
「あ、ああ、今行く」
「私の地元だ、私が案内しよう」
 話が一区切りしたのを見計らい、緒登は躊躇いがちにノックをし、扉越しに声を掛ける。
 返事に窮していた武にとって、ある意味、助け船だった。

『んー、やっぱり温泉はいいね。お酒は美味しいし、紅葉は綺麗だし、都会の喧噪を忘れてのんびりできるわ』
「地酒を熱燗にしてもらいました。どうぞ」
 武達が温泉街へ繰り出している間、弁財天と探女は早速、旅館の屋上にある展望露天風呂に入っていた。
 まだ昼間という事もあり、入浴客の姿はほとんど無い。
 弁財天はお猪口を弄びながら、紅葉に萌える山を肴に早くも数本の熱燗を空けている。
『悪いわねぇ』
「僕にもねぇ」
「だ、大黒天様!?」
『な、何やってんのよ!?』
 探女が湯船に浮いたお盆の上の徳利で熱燗を弁財天のお猪口に注ごうとすると、横から別のお猪口が差し出される。
 そこにはミディアムショートの黒髪の、小学生くらいの男の子が、ぬくぬくと肩まで浸かってお気楽極楽。
「ぼくは〜いつでもどこでも〜顔パス〜あっはっはー♪」
 男の子の正体は大黒天(シヴァ)だ。神通力で周囲の人々の認識を変えて顔パスで現れる、神出鬼没な、弁財天達からすればちょっと困った神様だ。
「サラスヴァティ達が来るって聞いたから、ぼくもご相伴に与ろうと思ってね。それにしても遅かったねぇ?」
 探女から一献受け、ご満悦の大黒天だった。

「この辺りはあまり変わってないな」
「そうだな。覚えているか、武、お前が初めてこの温泉に来た時の事を? あの時は‥‥」
 温泉街を懐かしそうに歩く武。美夜は『緒登の知らない幼い頃の武』を知っているというアドバンテージを活かし、昔話に花を咲かせた。
 武もそれなりに受け答えはするが、緒登や美琴がいる事を気遣ってか、無神経にべらべらとはしゃべりはしなかった。
「美夜さん、この辺りで日帰り入浴の出来るお勧めの温泉ってありますか? せっかく温泉街へ来たのですから、色々な温泉に入りたいと思いまして」
 美琴が緒登にとって不利な話題を変えた。

「なんだか面白い事になってるー♪ 探女も見てみなよ」
『(吉祥天の力が働いてるのは由々しき事だけど‥‥)さてと、温泉も堪能したしそろそろ動く時期かな?』
 大黒天が神通力の1つ千里眼で、武達の動きを見ていた。その力を探女にも分け与え、彼女にも見せる。
 弁財天は平静を装っているものの、美夜から吉祥天の神通力を感じ取っていた。おそらく、美夜に縁結びの神通力を与えて、武との仲を進展させようとしているのだろう。
 元々、積極的な性格ではあったが、吉祥天の神通力を受けて更に加速しているようにも思える。
 ――もちろん、弁財天への嫌がらせの為だけに!
「弁財天様、吉祥天様‥‥今回は、お2人とも、意地やプライドより大切なものがあるのではなかったのですか‥‥?」
 弁財天が強引にやりすぎないよう、恐る恐る釘を刺す探女。それでなくても、武達の事をはらはらしながら見守っているのだから。

 美夜が案内したのは、温泉街から少し離れた小高い丘の上にある露天風呂だった。
「わぁ、誰もいない」
「この露天風呂は観光雑誌には載らない、地元の者しか利用しない穴場でな。今の時間なら地元の者も利用しないから、ほぼ貸し切りだろう」
 誰もいない女性用の露天風呂に浸かる緒登と美夜。
「武がいない今だから、はっきりと聞いておきたい。緒登と武はどういう関係なのだ?」
「た、武君とは‥‥な、仲の良い友達よ」
「そう、仲の良い友達なのだな。良かった。わたしの知らないところで武が恋人を作るなんて思わなかったが、それを聞いて安心した。武と仲良くしてくれてありがとう。これからも仲の良い女友達でいてくれ」
 緒登の応えを逆手に取り、釘を刺す美夜。
「緒登さん‥‥本当にそれで良いのです?」
「ミコちゃん‥‥」
 緒登の武への本当の想いを問い質す美琴。
 美夜の宣戦布告に引き替え、緒登はまだ自分の想いに素直になっていないと、長年の付き合いから美琴は察した。
(「ミコちゃんの言う通り、私、まだ美琴さんと同じスタートラインに立ててない。このままじゃ、美琴さんに武君が取られちゃうかもしれない‥‥ううん、それだけは嫌」)
 突然現れた美夜が、武に急激にアプローチを開始したのだから動揺している事もある。だが、それが却って緒登に本当の気持ちを思い起こさせ、踏み出せずにいた背中を押す結果となった。
 露天風呂を出ると、辺りは一面、濃霧に覆われていた。河の女神たる弁財天の神通力だ。
「まいったな。霧が晴れるまでは降りられない」
(『あ、しまった。美琴達まで‥‥どうしようかな』)
 美夜は携帯電話で旅館へ連絡を取り、弁天達に先に食事を採るよう伝言を頼む。千里眼で見ていた弁財天は、少し計算が狂った事に気付いた。これも吉祥天の縁結びが邪魔をしているのかも知れない。
 4人は露天風呂に併設されている休憩室で濃霧が晴れるのを待つ事に。
「‥‥武、私はまだお前の本当の想いを聞いていない。教えてくれないか?」
 美夜がおもむろに切り出した。先程、緒登の想いは確認した。既に自分の想いは武に告げてある。後は武本人の想いを聞くだけだ。
「‥‥俺は」
「待って!」
 女神達の悪戯で、ふっと沸いた千載一遇のチャンス。緒登の今まで秘めてきた熱い想いが、遂に殻を破ろうとしていた。
「武君‥‥あの、あのね! わ、私、武君の事が――好きなの!」
「お前、先程は、仲の良い友達と‥‥」
「美夜さん、ごめんなさい。でも私、もう自分の気持ちに嘘は付けないの!」
「俺も‥‥俺も、緒登さん、いや緒登の事が好きだ。互いを想っていて遠回りしていたみたいだな、俺達。これからもよろしくな、緒登。そして美夜、すまない」
「武君‥‥武。ありがとう」
 武の想いを聞き、口を押さえ、溢れてくる嬉し涙を堪える緒登。2人とも同じ気持ちであった事に思わず苦笑いを浮かべる武。


●霧が晴れて心も晴れて
 濃霧はいつしか晴れていた。
「行こう、緒登」
「ええ、武」
 2人はしっかりと手を繋ぎ合い、幸せそうな笑顔を浮かべて旅館へと戻ってゆく。
「‥‥私の好きな武が想う程の女なのだ‥‥悪い奴ではないのだな」
「美夜さん、私達の町にある神社、凄く霊験灼(あらた)かなんですよ! 今度、私達も恋愛成就の為にお参りに行きましょう!」
 緒登が武と無事にくっつき、美琴も緒登を守る必要性が格段に減るだろう。今度は美琴と美夜、自分達が幸せになる番だ。
 美琴は2人の背中を見ながらそう思った。

『美琴、なかなか筋がよかったわね。縁結びの素質あるんじゃないかしら? 弟子に誘ってみようかしら』
「‥‥!? 弁財天様、わたくしが巫女として至らないと仰りたいのですね‥‥」
 弁財天は結果に満足しつつ、美琴のお膳立てに関心した。およよと悲しみの涙を流す探女。
『料理と御酒☆ ゴチでしたー♪』
 そんな弁財天の足下に、ヒラリと1枚の紙が舞い降りる。大黒天がオーダーした料理と酒の請求書が、しっかり弁天名義で書かれていた‥‥。


♪〜
 新しい季節 今歩きだそう
 緑と風薫 この街から

 君達の 夢の場所へ
 辿り着くために

 君達の 歩く道は
 遥かに 遠く長い道

 けれど‥‥

 二人一緒なら 行けるよ
 どんなに 長く苦しい道も
〜♪


●出演
 大和・武
  日向翔悟(fa4360)
 橘・緒登
  響 愛華(fa3853)
 尾張・美夜
  楊・玲花(fa0642)
 山都・美琴
  結城 紗那(fa1357)

 天埜・探女
  エル(fa0488)

 吉祥天(ラクシュミ)
  メルクサラート(fa4941)
 大黒天(シヴァ)
  日宮狐太郎(fa0684)

 弁財天(サラスヴァティ)/エンディングテーマ
  フィアリス・クリスト(fa1526)