新たな旅立ちドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
04/07〜04/11
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●本文
『桜の木の下で食べるは神饌(しんせん)は、また一段と格別だわね〜』
「弁財天様、お神酒が空になっています。お注ぎします」
『あら、悪いわねぇ‥‥っとと、桜の花びらも入って、風流よねぇ』
七福神が祀られた神社の境内の桜は、今、満開を迎えていた。
一際大きい一本の下に畳を敷き、お菓子を頬張るカジュアルスーツ姿の女性と、彼女のお猪口にお酒を注ぐ女性が花見を楽しむ姿があった。
お菓子を頬張る女性は、この神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ。その弁財天に神酒を注いでいるのは、この神社に仕える巫女、天埜探女(あめのさぐめ)だ。
弁財天は人間に顕現(=変身)しない限り、普通の人にその姿は見えないが、顕現しないまま外で花見をすると、探女の一人芝居のように見えてしまうので、弁財天は今は人間の女性の姿に顕現していた。
「弁財天様、先程からあの青年が何やら一心に御祈願されているようですよ」
『あたしも気になっていたのよ』
拝殿ではなく本殿の前で手を合わせる青年の姿があった。ブレザーに似た制服を着ているところから、この神社の近くにある私立高校の男子だと見受けられた。
(「明日から転校初日が始まりますが、俺、友達を作るのヘタなんで、少なくても構いませんから、どうか気の合う友達が出来ますように‥‥」)
『転校生かぁ。探女、あの子をここに呼んできてあげて』
「畏まりました」
弁財天は彼の願い事を聞くと、探女に命じて彼を花見に招待した。神様とて人間の考えている事が分かる訳ではなく、自分や仲間、眷属の神に対する願い事を聞く事が出来るのだ。
彼は最初、いきなり初対面の神社の巫女さんに声を掛けられて戸惑っていたが、探女が半ば強引に連れてきて畳の上へ座らせた。
『あなた、この辺じゃ見掛けない顔だけど?』
「あ、はい、つい最近引っ越してきたばかりの、大和武(だいわたける)っていいます」
探女からお茶を受け取り一息付くと、弁財天の質問に答えて自己紹介を始める武。
『悪気があって見ていた訳じゃないけど、随分と熱心にお参りしていたから、感心したのよ』
「熱心にっていうか‥‥明日から転校初日なんですけど、転校を重ねてもこの不安には慣れなくて、通学路を確認していたらこの神社を見付けたので、それでお参りしていただけなんですよ」
やり手のキャリアウーマン風に見える弁財天だが、そこは女神、相談に乗りやすいのか、武は身の上を話し始めた。
彼は幼い頃から両親の仕事の都合で、西へ東へ転校を繰り返し、なかなか気の合う友達が作れないという。この街には長く留まれそうなので、今度こそ気の合う友達を作りたいと思っているそうだ。
『探女、お守りを上げなさいな』
「この神社に祀られている弁財天様のお守りです。これを持っていればきっといい出会いがありますよ」
「そんな、お花見に誘ってもらった上に、タダでもらうのは悪いですよ」
弁財天に言われ、巫女装束の袖の下からお守りを取り出す探女。律儀な性格なのか、タダでは受け取れないと、社務所に張ってあるお守りの額と同じだけ収める武であった。
開けて翌日――
「転校初日に遅刻するなんてシャレにならないぞ」
武は通学路をひた走っていた。一人暮らしの彼は目覚ましを掛けておいたのだが、その目覚ましが電池切れで止まっており、起きた時には準備時間を含めて遅刻ギリギリの時間だったのだ。
「新学期早々遅刻するなんて、シャレになら‥‥きゃあ!?」
次の瞬間、お約束ともいうべきか、曲がり角の向こう側からどこかで聞いた事があるような台詞を言いながら食パンをくわえて駆けてきた少女とぶつかってしまう。
武の視界が一瞬暗転したが、柔らかいクッションみたいなものに顔を突っ込んだお陰で、地面に倒れた痛みは和らいだようだ。
「わきゃ!?」
「あ‥‥(クマさんのアップリケ)」
「み、見えた‥‥?」
「み、見えてない見てない!!」
その柔らかいクッションみたいなものが少女の豊かな胸だという事に気付き、慌てて離れようとすると、暗転から一転、視界に白地に可愛いクマさんのアップリケが飛び込んできた。
二人とも尻餅を付き、武が少女の胸に顔を突っ込んだ形になっており、少女は即座にスカートの襞を手で掴んで隠した。ここは見えてしまっても見ていないと言ってあげるのが漢である。
「だ、大丈夫!?」
「すまない、俺の方こそ急いでいたから‥‥」
この場合、二人とも前方不注意だが、少女の方から気遣ってきたので、武は何事もない事を示すように元気よく立ち上がり、手を差し伸べて少女を立たせた。
「その制服‥‥」
「ああ、今日から転校してきた大和武っていうんだ」
「私は緒登、橘緒登(たちばなおと)よ。転校生を案内していた事にすれば、遅刻しても言い訳になるかしら?」
「道に迷ったところを橘さんに出会って案内してもらった事にすれば、遅刻の言い訳になるよな」
自己紹介し合った二人は、緒登のぺろっと舌を出しながらの言葉に笑い合い、堂々と遅刻したのだった。
弁財天のお守りは早くも効果を発揮し始めたのだが――
「あー、みんなに新しい友達を紹介する」
「武君!?」
「橘さん!?」
クラスも一緒になり。
「橘の隣が空いてるな」
「はい」
「よろしく、橘さん」
席も隣になり。
弁財天の縁結びの御利益はトントン拍子で進んでいったが、そこに待ち受けていたのは――
「先生! 大和君の親睦を深める為にも、席替えをするのがいいと思います」
一人の男子生徒がそう提案した。緒登はクラスの、否、この学校のアイドルであり、男女問わず、秘かに恋い焦がれている者も少なくなく、非公認ながらファンクラブまである。高嶺の花で逆に誰一人告白した者はいなかったが、そこへ突然、武がやってきて、緒登と親しくしているのだから彼女を慕っている者やファンクラブ員は黙ってはいない。
『吉祥天を見習って縁結びをしてみたんだけど、上手くいかないわねぇ。これは何か手を打たないと』
顕現を解いて女神の姿に戻り、空から教室の様子を窺っていた弁財天は、緒登の隣の席を巡って、血で血を争いかねない席替えのくじ引きのバトルロワイヤルが始まろうとしている事に、微苦笑を浮かべたのだった。
■主要登場人物紹介■
・サラスヴァティ:外見20代後半。弁財天。神としての能力は音楽・芸術と 財福。人間の美女に顕現(=変身)するとカジュアルスーツ姿を好む。
・天埜探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女 。おっとりしていて穏和な性格。
・大和武:外見17歳前後。高校生。転校を繰り返し、友達作りが下手な青年。実は剣道の達人で前年度の高校生剣道全国大会の優勝者。竹刀の名前は草薙。
・橘緒登:外見17代後半。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
●リプレイ本文
●学級委員長の心配事
大和武を職員室へ案内した橘緒登は、その足で新しいクラスへ急いだ。幸い、先生は来ておらず、皆、思い思いに話し込んでいた。しかし、学校のアイドル緒登が教室に入ると、男女問わず彼女のファンの視線が注がれた。
「橘さん、こっちです」
窓際にいた前のクラスの学級委員長がすかさず手を振る。彼女は緒登の幼馴染みで、幼稚園から小中高と同じクラスの親友、毎回学級委員長を務めており、愛称も“いいんちょ”だ。
「緒登が遅刻するなんて珍しいね」
「可奈ちゃんだって、昨日夜遅くまで廃墟を調べていて、遅刻ギリギリだったくせに」
友人の仲納可奈が委員長の友人シギュン・ウートガルドに突っ込まれた。
「は、はい、みんな、席は決まっていないから好きに席に着いてください」
そこへ聞き慣れない、ややぎこちない緊張した感のある女性の声がした。それが担任の先生だと気付くと、緒登達は席に着いた。
学級委員長が確保していた緒登の席は窓際の最後尾で、前の席までは机が二つ並べられているが彼女の隣はない。緒登の前には学級委員長と可奈が座り、シギュンは同じ窓際の最前列にいた。
「みんなの担任になった、天乃日照です。大学を卒業したての先生一年生ですが、よろしくお願いしますね」
黒板に名前を書く日照。大学を卒業したてという事はまだ若いという事で、悲しい男の性かな、男子生徒ははしゃぐ。
「私と同じく、みんなに新しい友達を紹介しますね」
「武君!?」
「橘さん!?」
教室の扉がノックされ、日照は男子生徒を連れて教壇へ戻った。その男子生徒の顔を見た途端、緒登が声を上げ、彼女に気付く武。
「‥‥橘さん、の隣が空いてますね?」
「はい」
日照は教室を見回して緒登の隣に席がない事を見付けると、生徒の顔写真が張ってある出席簿に視線を落として名前と顔を確認してから、武に廊下に用意してある机を運んで移動するよう指示した。
「改めてよろしく、橘さん(弁財天のお守りのご利益かな? またお参りに行って報告しないとな)」
左胸の内ポケットにしまってあるお守りに服の上から軽く触れ、挨拶を交わす武と緒登。
途端に教室内は一発触発の張り詰めた雰囲気が漂い始める。学級委員長は不測の事態によって停戦状態の緊張が一気に高まった事を感じ、次の策を考え始めていた。一方、シギュンは緒登と顔見知りらしい転校生のいい雰囲気を横目で見ながら、悪戯っ子的な笑みを秘かに浮かべていた。
「私はみんなの名前と顔を一日も早く覚えたいですし、大和君がこのクラスに馴染んでもらう為にも、自己紹介をしましょう!」
緒登の隣の席の意味を知らない日照は、廊下側の最前列の生徒を指して自己紹介を始めさせるのだった。
緒登のファンの男女は隣の席を狙っており、席替え事に繰り広げられる争奪戦は、学級委員長も頭を悩ませている問題だ。
しかし、そこは幼馴染みであり親友、できるだけ緒登が困らないように席替えの時は彼女を壁際や窓際の最後尾にし、敢えて隣の席は空白になるよう仕込んでいた。他の生徒も学級委員長の策だと薄々勘付いているものの、緒登の隣を自分以外の誰かが占めていないという事実に、ひとまず納得しており、微妙なバランスの上に停戦状態が成り立っていた。
学級委員長の策を知る数少ない一人、シギュンは、普段は緒登の隣を巡る争いに巻き込まれないよう、学級委員長に協力して裏工作によって席が遠くなるようにしていたが、今回は何やらよからぬ事を考えついたようだ。
●巫女の心配事
七福神が祀られた神社の境内。
『やっぱり慣れない事はするものじゃないのかな? まぁ、このままじゃお守りの効果がないって言われちゃうかもだし‥‥なんとかしないとね』
弁財天――サラスヴァティ――は困った風に呟く。しかし、その片手には神饌の桜餅が、もう片方の手には湯飲みが握られており、困っているようには見えない。
『天界の花も見事だけど、地上の桜も今の時期は見事なんだよね。あ、最後の一つもーらい♪ 探女、僕にもお茶ね』
『あー、あたしの桜餅ー!?』
「畏まりました、大黒天様」
サラスヴァティが皿に残っていた最後の桜餅に手を伸ばすと、その横からひょいっと手が伸び、彼女の手は空を切った。
彼女の横にはいつの間にか、高めの位置で一つに束ねた髪の、白い稚児服のようなものを着た少年がおり、桜餅を美味しそうに頬張った。
天埜探女は少年に、湯飲みに緑茶を注いで差し出した。外見こそ少年だが、彼は七福神の一神、大黒天――シヴァ――、サラスヴァティの夫ブラフマーと同格の神であり、神格は彼女より上だ。
「弁財天様は音楽に福徳、学芸と多彩な御利益を承っていますから、縁結びを承るのも宜しいと存じます。ですが、お出掛けになられる際はくれぐれも女神だとバレないように行動して下さい。大黒天様、弁財天様へ助力をお願いします」
『分かってるわよ。それに、こんなのの力を借りなくても、あたし一人で大丈夫よ』
『探女の頼みなら断れないよね』
サラスヴァティは耳にたこができるくらい探女に注意されていた。こんなの扱いされたシヴァは肩を竦めつつ、探女にだけ聞こえるようウインクした。
●親友達の心配事
「武君は廃墟って好き? 前の学校の近くにはいい廃墟ってあった?」
放課後になると、可奈がそう挨拶を切り出した。彼女は廃墟マニアで、この街と近隣にある廃墟は粗方調べており、新しい情報を持っているであろう武に目を付けたのだ。
「は、廃墟? ‥‥探険するのは面白いよな。前にいた学校の通学路に、消防署と病院の廃墟があったんだ。消防署はかなり古くて、今時珍しい2階から1階へ降りるあの棒があったね」
「ホント!? いいよね、消防署の棒。あたしもあの棒、一度降りてみたいんだ〜。病院の廃墟はどうだった?」
いきなり意気投合する2人。
「武くん、剣道やるんだ?」
そこへ緒登達の知らない女子生徒が声を掛けた。女子の視線の先には、机の横に立て掛けてある竹刀袋があった。
クラス替えで同じクラスになった女子だが、実はサラスヴァティが憑依しており、話題を変えたのだ。
「俺の実家は剣道の道場でさ、今、日本各地に支部を作るのに夢中で、それで転校を繰り返さなきゃならないんだ」
「そう‥‥大変ね(この子が友達を作るのが苦手なのは、せっかく仲良くなっても別れなければならないっていう事があるからなのね)」
武の祈願の真意を慮ったサラスヴァティだったが、帰り支度を済ませた学級委員長が緒登達に声を掛けると、聞き足りないとばかりに可奈が武を誘った。
「緒登の隣の席を巡る戦いの中で、友情を芽生えさせる事ができるかもしれないわ」
『人間て見ていて飽きないよね。ただ、熱中するあまりに行き過ぎた行動になる事もあるから困ったもの。相乗連鎖にならなければいいんだけどねー』
武達の後ろ姿を見送るサラスヴァティ。普通の人には見えない神の姿で、更に念の為姿隠しの術を使用したシヴァがサラスヴァティの考えに警笛を鳴らしていた。
●学園のアイドルの心配事
「席替えの意見が出ましたけど、新学期の始業式で使われた体育館の椅子運びを一番頑張った男子は、一人だけ好きな席を選べるようにしましょうか?」
「先生! それだと男子だけズルイです! 公平に籤を作るのはどうですか? あたしが作ります!」
翌日のホームルームの時、席替えの意見が出ると、「武の親睦を深める為」という名目もあり日照はあっさり許可した。
火に油を注ぐ発言だが、可奈を始め、クラスが盛り上がっている様子を見て、何も知らない日照は満足していた。
「こんな事もあろうかと、クジは私が作ってきたわ」
「私が席替えをまとめますね」
「あなたは一年生の時も学級委員長をしていたそうね。席替え、任せてもいいかしら?」
シギュンが上に丸い穴の空いた箱を取り出し、学級委員長が席替えの管理を申し出ると、生徒名簿を見た日照は任せる事にした。
『大和くんの所為ではないですけど、席の数も偶数になり、今までの策が使えません。それならいっそ橘さんの隣の席は私が占拠して他の者に睨みを利かせる事ができれば、微妙ではあるものの再びバランスが取れると思ったのです』
実はこのクジは、昨日、緒登と可奈、武と別れた後、学級委員長がシギュンに策を提案して作ったものだった。
シギュンは根はいい子だが、悪戯好きで陰謀家な兄ロキの影響の所為か、意外にも裏工作に長けており、それは席替えのたびに緒登の隣が空白になり、シギュンが緒登から離れる事に現れていた。
「じゃあ、籤を引く順番は公平にじゃんけんね! はい、みんな、じゃん・けん・ぽ‥‥あたし? シードに決まってるじゃない♪」
教壇の前に集まり、ジャンケンを始める生徒達。その中心には可奈がいた。
「ほら、武くん、頑張ろう。緒登の隣の席取りたいんでしょ?」
「そうだな、せっかく仲良くなれたんだしな」
女子生徒――サラスヴァティ憑依中――の武を誘う台詞も聞こえてくる。
「いいんちょ、そんなにみんな、武君の隣になりたいのかしら? 確かに武君って今までにいないタイプだけれど‥‥」
「そんな事はありませんけど‥‥橘さんは大和くんの事をどう思っています?」
緒登は学級委員長のブレザーに似た制服の裾を、後ろから軽く引っ張った。緒登と付き合いの長い学級委員長は、彼女が恋愛事に疎い性格だと分かっており、案の定、どうしてこんな騒ぎになっているのか、渦中の張本人は分かっていなかった。
「え、武君の事? ‥‥まだ会って間もないけど、私、こんなに男の子と話したの初めてだし、嫌いじゃないけど、それがどうかしたの?」
アイドル扱いされている緒登へ真剣にぶつかってくる男子はいない事もあり、彼女にとって武は今一番気になっている男子だった。
「武君! あたしと緒登ちゃんの仲を引き裂く気ね!?」
「可奈さん、みんな、どういうつもりなの!? こんな些細な事で騒いで! 少しは恥を知りなさい! 特に可奈さん、友達でも私はあなたを軽蔑するわ!!」
クジ管理委員に就任したシギュンがクジを読み上げ、学級委員長が板書していく。シギュンは弁財天の影響を知らずに受けているので、元より武が緒登の隣に来るよう読み上げるつもりだったが、彼自身が緒登の隣を引き当てていた。
すると可奈が籤の結果を無視して机を二人の間に割り込ませるという強硬手段に出たので、流石の緒登も柳眉を逆立てて怒り出り、机を叩いたのだ。
教室は水を打ったように静まり、今まで席替えの様子を眺めて楽しそうに見守っていた日照もおろおろするばかり。
「橘さん‥‥みんな、大和くんの隣を狙っていた訳ではないです‥‥」
「‥‥えっ、えっ、え〜!? 私はそのう〜。ごめんなさい!!」
学級委員長に事の真相を耳打ちされた緒登は、顔を真っ赤にしながら謝って慌てて席に着いた。
斯くして、武は緒登の隣の席となり、学級委員長と可奈は前と変わらずその前、シギュンは希望通り4人から少し離れた席となったのだった。
『公平の為にも手伝いはしないつもりだったけど‥‥流石にこの雰囲気は良くないからね』
緒登を後押ししたのはシヴァだった。
●女神の心配事
「まぁ、こういう結果になっちゃったんだもの、仕方ないわよね。武君、今日の放課後、学校の旧校舎を案内するわね。緒登ちゃんも、今日こそ安全な廃墟だから!」
武と意気投合した事で一目惚れてしまった可奈だが、恋はまだ始まったばかりだ。
しかし、サラスヴァティが憑依していた女子が武に世話を焼くものだから、変な噂が立ち始めていた。
「安全な廃墟って‥‥」
「この草薙はいつも俺と共に歩んできた大事な相棒なんだ。この草薙に掛けて橘さん達は護るよ」
『試練だよ、試練。この試練を乗り越えられたら‥‥おいらからのご利益があるかも知れないね』
旧校舎にはこの学校の怪談の一つがある――下級生から新たな情報を手に入れた可奈がいつものメンバーに武を加えて誘った。
5人の姿を楽しそうに見つめるシヴァ。
「俺さ、うちの道場の宣伝看板みたいなものなんだ。せっかく友達が出来ても道場の名が上がって門下生が増えれば、また引っ越さなきゃならない‥‥でも、今回は結構長くいられそうなんだ」
旧校舎で愛用の竹刀草薙を振るい、緒登達を護った武はシヴァのご利益を授かり、当分、引っ越さなくて済むようになった。
学級委員長は席替えと廃墟探険の結果を受けて、今期の学級委員長に立候補し、就任した。緒登争奪戦が学校レベルに発展しないよう、生徒会長に立候補する事で彼女を護ろうと心に決めていた。
「まあ、とりあえず何とかなった‥‥かな? んー、ここからは彼次第、という事にしておこうかな。という訳で、探女、お茶にしよ、お茶に」
「お疲れさまでした、弁財天様」
満開の桜の木の下で、仕事の後のお茶を楽しむサラスヴァティと探女だった。
♪今日から始まる物語
胸にドキドキ秘めて 1日が始まる
この先に どんな道があるのか
誰にもわからないけど
白紙の地図に 自分の道を描いていこう
今日から始まる 新しい道を♪
●CAST
大和武:レティス・ニーグ(fa2401)
橘緒登:咲夜(fa2997)
学級委員長:結城 紗那(fa1357)
シギュン・ウートガルド:リーベ(fa2554)
天乃日照:都路帆乃香(fa1013)
仲納可奈/天埜探女:エル(fa0488)
シヴァ(大黒天):日宮狐太郎(fa0684)
サラスヴァティ(弁財天)/エンディングテーマ:フィアリス・クリスト(fa1526)
撮影補助:燐 ブラックフェンリル
演技指導:亜真音ひろみ