Goddess Layer Fアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 10.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/25〜10/29

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、北より『ピリカシレトク(知床プロレス)』、『陸奥(むつ)女子プロレス』、『東日本女子プロレス(東女)』、『湘北レディース』、『JOWP(=Japan Ocean Women’s Prowrestling)』、『西日本女子プロレス(西女)』、『六甲歌劇団』、『くろしおマーメイド(マーメイ)』、『CrusaderZ(CZ)』の9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ東女だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、ニューフェイスにして現ヘビー級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲い、東女の数少ないヒールレスラーを加えた「反乱軍」が、今の東女の主な軍勢だ。


 女子プロレスファン待望の、『関ヶ原の合戦』も終わりを告げた。
 『天下分け目の戦い』と称される史実上のこの合戦を準えて、東女と西女の共同開催で、毎年9月15日に東日本の女子プロレス団体と西日本の女子プロレス団体が、それぞれ東軍と西軍に別れて戦うエキシビション・マッチが行われる。
 今年は東軍に軍配が上がった。

 その関ヶ原の合戦の、閉会式での事だ。
 エキシビジョン・マッチの最優秀選手賞(MVP)やベスト5、デビュー1年未満のレスラーだけが参加できるニューフェイス・トーナメントの新人王賞といった関ヶ原の合戦の表彰式に加え、協賛の女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の協力により誌面で行われた「あなたが選ぶ今期MVP・ベストバウト・ベストタッグ」「お姉さんにしたい・妹にしたいレスラー」などのアンケートの結果が発表され、そちらの表彰式も恙(つつが)なく執り行われた。
 そして大会の開催委員長である、東女の社長佐久間章枝が壇上へ上がり、閉会を宣言しようとすると。
「佐久間先輩、少しだけマイク、いいか?」
 CZの代表取締役社長兼エース、そして日本女子プロレス界最年長の現役レスラー武藤澪が章枝の元へやってきた。彼女がここで話す事は予定にはないが、プロレスにMCは付き物だし、何よりいつになく真摯な表情から、付き合いの長い章枝は何かを察したようだ。
「俺、武藤澪はこの関ヶ原の合戦を戦い、現役として思い残す事はなくなった。今後はここにいるダイナマイト・シュガーのような日本女子プロレス界の未来を背負う後進の育成に専念する」
 会場がドッとざわめく。
 それは実質、日本女子プロレス界最年長の現役レスラーの引退宣言だった――。

 閉会式が終わった後、関ヶ原の合戦に参加したレスラー達は、自然と澪の周りに集まっていた。
「騒がせるつもりはなかったんだが、済まなかった」
「でも、どうしてですか?」
 澪の第一声は謝罪の言葉。アイギス佐久間の問い掛けは、この場に集まった一同全員の想いを代弁していた。
「最盛期をとうに過ぎている、という事もある」
 澪は36歳。彼女の最盛期はアイギス佐久間の母、章枝が現役だった真女の時代だ。
 しかし、時代は移り変わり、真女は崩壊し、その一部が東女へ。章枝は引退し、東女の社長として、自分の意志を継いだ娘のアイギス佐久間を始めとする東女のレスラーの育成に専念している。その結果、東女ではアイギス佐久間やリリム蕾奈の世代へ代替わりし、それだけではなく<早くもダイナマイト・シュガー達新しい世代が台頭し始めている。
 ところが、自分はどうだ?
「最盛期を過ぎたって、武藤さんはまだまだ現役のトップイベンターじゃないですか!」
 ダイナマイト・シュガーがオーロラビジョンを指差す。西軍は澪と西女のエース、“難波の虎”ライトニングバニーが同一一位の成績を修めている。これだけを見ても、澪はまだまだ最前線で戦っており、全盛期が過ぎた事を理由に引退するのは納得がいかないのだろう。
「引退を決めたのは、ダイナマイト・シュガーのファイトと、アイギス佐久間がバルディッシュ真田へ贈った言葉だ」
『私もうかうかしてられないわ。あなただけではなく、ダイナマイト・シュガーを始めとするこれから育つレスラー達に負けない為にも、ね』
「以前、俺はダイナマイト・シュガーと戦い、日本女子プロレス界の行く末の一端を見せてもらった。お前達に立ち塞がる壁となり、喜んで乗り越えられる踏み台になろうとも考えた‥‥だが、関ヶ原の合戦を戦い抜いて、それは俺の役目ではない事が分かった」
 澪は一旦言葉を区切り、自分を心配して集まってくれたダイナマイト・シュガーやアイギス佐久間達現役レスラーの顔触れを見渡した。
「さっき言ったように、俺はこれからは後進の育成に専念したい。アイギス佐久間を越えられるレスラー、ダイナマイト・シュガーに続く若手を、俺の手で育てたい」
 それは澪のかねてからの夢であり、日本女子プロレス界の未来の為に彼女が遺せる、彼女が出来る事だと、この関ヶ原の合戦を通じて実感し、その想いが強まったのだ。
「俺は今日のファイトを最後に、レスラーとしては二度とリングへ上がる事はない。だからこそ現役最後にお前達の勇姿を焼き付けておきたい」
 澪の『遺言』を叶えるべく、人知れずドリームマッチが行われる事となった。


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤由貴):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 修得技:アームホイップ、いなずま重力落とし(ノーザンLスープレックス)/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット/力、エルボー、スーパーダイナマイト(延髄切り)/打、ドロップキック/飛
 得意技:νスーパーダイナマイト(ハイキック)/打※但し未完成


 ※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa3658 雨宮慶(12歳・♀・アライグマ)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5111 相澤瞳(20歳・♀・虎)
 fa5412 姫川ミュウ(16歳・♀・猫)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)

●リプレイ本文


 『関ヶ原の合戦』の舞台となった田園コロッセオ。西軍・東軍ファンが沸いた12000席の客席に人影はなく、ひっそりと静まり返っている。観客は“キックマスター”の異名を持つ、CrusaderZの代表取締役社長兼エース武藤澪(緒方・彩音(fz1033))、ただ1人。
「澪さんの前だもん、無様な試合は出来ないよね」
「‥‥ええ。ダイナマイト・シュガー、やっとあなたに追い付いたわ。幾多のトップと戦ったあなたの実力にどこまで迫れるか、試させて」
 東日本女子プ ロレスの若きエース、ダイナマイト・シュガー(咲夜(fa2997))と、彼女を目標に研鑽の日々を重ねてきた南条遥(神楽(fa4956))は、がっちりと握手を交わす。
「広橋が澪さんに日本女子プロレス界の未来を見せる事が出来るかどうかは分からないけど‥‥」
「未来は白地図も同じ。何をどのように書き込むかはあなた次第ですよ?」
 東女の新人、広橋 美久(雨宮慶(fa3658))は、日本女子プロレス界最年長の現役レスラーを前に若干及び腰だったが、ピリカシレトク(知床プロレス)のエース、セルリアンブルー(姫川ミュウ(fa5412))にタイアップしているアニメの劇中の台詞で発破を掛けられ、胸を借りる事に。
「あんたなら相手にとって不足なしや」
「関ヶ原の合戦の出場権はダイナマイト・シュガーに譲って出場しませんでしたからね。武藤さん程のお人に見届けてもらうのですもの。その分、たぁっぷりと可愛がってあげますわ」
 西日本女子プロレスのエース、“難波の虎”ライトニングバニー(ブリッツ・アスカ(fa2321))が、東女の3巨頭のエースの1人、リリム蕾奈(相澤瞳(fa5111))の足下へ手袋を投げ付ける。古典的な挑戦状に、リリム蕾奈は舌なめずりをして応えた。
「‥‥で、ついさっき東女を抜けた小娘が、何のノコノコこの場にいるんだい?」
「アタシ達BF(ブラックファイア)が、リングを黒とオレンジに塗り替えてやるよ」
「小娘が粋がるんじゃないよ! アンタじゃ役不足なんだよ!」
 分裂や退団、移籍はプロレス界のパフォーマンスの1つとはいえ、“黒い悪魔”こと、東女の中堅覆面レスラーブラックビースト(大豪院 さらら(fa3020))は、関ヶ原の合戦中に東女を退団してエンタプロレスへ移籍した風見優雅(鬼門彩華(fa5627))が、未だにこの場に残っている事に苛立ちを覚えていた。
 スポットライトが当たるリングを指差すと優雅も頷いた。


●シングルマッチ〜61分1本勝負〜
 澪が試合開始のゴングを鳴らす。
 先に仕掛けたのは優雅。持ち味のキレとスピードを活かした連続ソバットを叩き込む。
 ブラックビーストは隙を見てハンマーブローやニーリフトを繰り出すも、優雅は踊るように華麗な脚捌きでかわし、体勢が崩れた彼女へ通天閣落し(ジャンピング踵落し)を放つ。
 ストロングスタイルを得意とするブラックビーストは、優雅の速攻を捌ききれず、防戦一方になっていた。
 ところが、見切ったはずのハンマーブローが優雅の背中にクリーンヒットする。ブラックビーストが隠し持っていた栓抜きで間合いを変えたのが原因の1つ。加えて、優雅は手数こそ多いが、パワーに欠ける。ブラックビーストはガードを固めてダメージを軽減し、スタミナの消耗を抑えていた。
 くの字に折れ曲がった優雅の身体を抱え、ハイアングルボディスラムで投げる。ダウンしても容赦せず、首を掴んで立ち上がらせ、そのままネックハンギングを極める。
 吊されながらも優雅がカンフージャブで抵抗を試みると、ブラックビーストは投げ捨てネックハンギングボムでマットへ叩き付けた。
 足で顔を踏みつけ、澪がカウントを取りに行く。
 2.9! ギリギリでブラックビーストの足を退け、立ち上がる優雅。
 しかし、足が遊んでいるのは手に取るように分かるので、ブラックビーストは必殺のブラックファング(デスバレーボム)で止めを刺しに行く。
「そろそろいくで〜! 一撃必殺!!」
 掛け声と共に助走を付け、轟獣流弾丸蹴(シャイニングケンカキック)を叩き込んだ。それはカウンターとなり、ブラックビーストの巨体はロープを越えてリングアウト。
 カウントの必要も無いKO勝ちだった。


●シングルマッチ〜61分1本勝負〜
 続く試合はセルリアンブルーと美久の対決。
 美久は関ヶ原の合戦の為に新調したリングコスチューム(憧れのアイギス佐久間のリングコスチュームと全く同じ)に身を包んでいる。一方、セルリアンブルーは青いプリーツスカート+虹色のリボンの新フォーム姿だ。
 後手に回ってはいけないと、試合開始と同時に果敢に攻め立てる美久。しかし、アームホイップにはカウンター気味のラリアートを合わせられ、逆水平チョップはガードされてフロントスープレックスで投げられ、ショルダータックルはかわされて背後に回り込まれて脇固めを極められてしまう。
 試合の流れはセルリアンブルーが掴んでいるが、美久は全く衰える事なく、更に勢いを増して攻めてくる。技術も身体能力もまだまだ未熟だが、アイギス佐久間も一目を置いている人並み以上の根性の成せる業だ。
 逆にセルリアンブルーのスタミナが尽き始めていた。チャンスとばかりにヒップアタックを当て、セルリアンブルーが立ち眩んでいる間へ必殺のフライングショルダータックルを敢行した。
「東女はいい若手を育てていますね。負けられません。大自然の怒りを私の拳に聞きなさい。折檻します!」
 押し切られたセルリアンブルーは、美久と東女のレスラーへ賞賛を贈りつつ、何とか彼女の勢いを止めようと必殺の裏拳を放つ。
 顔面にクリーンヒットし、美久は目の前に火花が散り、視界が白くなるが、全力で踏み留まって一気に間合いを詰めた。
「アイギス佐久間さんの直伝! 今日こそ成功させます!」
 密かに練習していたDDTを決める。
「ココでの勝負でしたら!」
 そのまま背後に回ってスリーパーホールドへ。グラウンドの展開で負ける訳にはいかないと、セルリアンブルーは美久の手を往なし、逆にアキレス腱固めへ持ってゆく。
 がっちりと極まり、振り解けない。美久は根性でリング中央からロープまで張って行き、ロープブレイク。
 だが、眼前にセルリアンブルーの裏拳が再び迫る。先のアキレス腱固めで足の踏ん張りが利かずに、直撃を受け倒れてしまった。

「良いDDTでしたよ。あれが完璧に決まっていれば勝負は分かりませんでした」
「手合わせありがとうございました! まだまだこれからです! アイギス佐久間に追いつけるよう、もっともっと頑張ります!」


●シングルマッチ〜61分1本勝負〜
 ライトニングバニーとリリム蕾奈の試合は、序盤から息も付かせぬ華麗な空中殺法合戦が繰り広げられた。
 2人ともスピードは日本女子プロレス界のトップレベル。お互いにクリーンヒットこそないが、スタミナの削り合いの様相を呈した。
 こうなると純粋な力量よりも勢いで差が出てくる。関ヶ原の合戦に参加したライトニングバニーの方が出来上がっており、勢いは彼女にあった。
 得意技の「ライトニング」レッグラリアットを叩き込み、空中殺法の応酬に終止符を打ち、試合の主導権を握る。
 しかし、勢いが良すぎる故の落とし穴もある。
 リリム蕾奈は技が決まらない焦りから次第に冷静になり、今までの試合運びでは逆転の目は無いと割り切った。オーソドックスなレスリングスタイルへスイッチし、ライトニングバニー必殺のムーンサルトプレスを膝を立てて迎撃する。これは痛い!
 腹部を押さえて蹲るライトニングバニーに足四の字固めを極め、グラウンドの展開で着実に足を殺し、自分のスタミナ回復に努めた。
 だが、ライトニングバニーにも同じ事が言えた。必殺技を潰された事で、彼女も冷静さを取り戻したのだ。
 どうにか持ち直たライトニングバニーはドラゴンバスターを決めるも、スタミナが回復しているリリム蕾奈を仕留めるには至らない。
 不意を突いたプランチャーなど、グラウンドの展開をメインに多彩な空中殺法を織り交ぜてゆくリリム蕾奈。
 決着が付かないまま、61分を迎えた。

「あかんな〜、ウチもまだまだ甘いみたいや」
「引き出しの多さによる駆け引きは、経験がものを言いますものね」
 澪がレフリーとして間近に見ている事もあり、決着が付けられなかったライトニングバニーはばつが悪そうに髪を掻く。
 リリム蕾奈は今の試合を見ているであろう美久達若手にも、口ではなくファイトでそういった事を伝えたつもりだ。
「ウチもうかうかしていられへんな。この決着は次の西女と東女のリングで付けようやないか」
「ええ、望むところですわ。今度闘う時は完膚無く叩きのめして、わたくしのコレクションに加えて差し上げますわ」
 2人とも不敵な笑みを浮かべて握手をかわす。すると、ライトニングバニーはハッとなった。
「って、ダイナマイト・シュガーともまたやろうって言ってたんやったな。アイギス佐久間とも今度こそ決着つけなあかんし‥‥どないせぇちゅうねん! んぷ!?」
「ふふふ、まさに油断大敵、ですわね。ダイナマイト・シュガーへの挑戦権、あなたにもアイギス佐久間にも渡すつもりはありませんわ」
「う、う、う、うちのふぁーすときす!? 返せー!」
「あら、そうでしたの? 破格の手付金、ごちそうさまでしたわ」
「ごちそうさまって‥‥巫山戯んな! たった今、この場で再戦や!!」
 リリム蕾奈と再戦の約束をして、ダイナマイト・シュガーとも再戦の約束をしている事を思い出した。更に付け加えるならば、関ヶ原の合戦でアイギス佐久間に負けており、彼女とも再戦の約束をしている。
 苦笑するライトニングバニーの眼前にスッと寄り、唇を重ね、奪ってしまうリリム蕾奈。
 ところが、それがライトニングバニーのファーストキスだったから大変な事に。颯爽と退場してゆくリリム蕾奈を、ライトニングバニーが追い掛けていった。


●シングルマッチ〜61分1本勝負〜
「考えてみると、これまでアイギス佐久間さんを始め、多くの先輩レスラーと戦ってきたけど、遥みたいな関節技の使い手と戦った事はそんなに無いんだよね。強敵だから気を引き締めていかないと‥‥」
 リングに上がったダイナマイト・シュガーは、自身の頬を張り気合いを入れる。彼女の思い当たる関節技の使い手は、くろしおマーメイドの“キューティ・ペア”の1人、ラッキー南くらいだ。

 試合開始のゴングが鳴る。
 ダイナマイト・シュガーは間合いを詰めると、遥の手を取ってロープへ振り、返ってきたところへエルボーを叩き込む。続くエルボーには遥が掌底を合わせてダウンさせ、スリーパーホールドへ持ってゆく。
 力任せに振り解くと、ダイナマイト・シュガーはアームホイップで投げ、ドロップキックへ繋げると遥が踵落としで迎撃し、脇固めをキッチリ決める。
 めまぐるしい主導権争いが繰り広げられた。遥はダイナマイト・シュガーをリングサイドで見続けて研究し尽くしており、積極的に攻勢に出て、得意のグラウンドの展開で確実にダメージを蓄積させている。
 しかし、ダイナマイト・シュガーも今までの戦いの経験から要所要所を抑え、被弾率を最小限に留めている。
(「‥‥経験の差はそう簡単には埋められない‥‥流石、と言いたいけど」)
 スーパーダイナマイト(延髄切り)をかわしてJネックブリーカーを決めるも、裏投げから飛びつき腕ひしぎ逆十字という遥の必殺コンボはダイナマイト・シュガーに読まれており、逆にいなずま重力落とし(ノーザンLスープレックス)を受けてしまう。
 受け身を取り損ねたが、それでもカウント2.8で返した。
「‥‥まだ、わたしの全てを見せていないもの。寝ていられないわ」
「それはボクの台詞だよ!」
 先に進化の程を見せたのはダイナマイト・シュガー。新必殺技νスーパーダイナマイト(ハイキック)が炸裂した。不意を衝かれた遥は直撃を喰らったが、未完成が仇となって致命打とはならなかった。
 とはいえ、十分、効いている。遥は好機を逃さず、笑う足を密かに叱咤し、彼女も新必殺の裏STFを極める。
 足の極め方が違うだけで、今までのSTF以上に脱出できない。それでもダイナマイト・シュガーは遥の身体ごとロープまで引きずり、間一髪ロープブレイク。
 そこで試合終了のゴングが鳴り、決着は付かずじまいとなった。

「‥‥νスーパーダイナマイト? あのハイキックが完成していたら、勝負は決まっていたわね。お互いにまだまだ、という事かしら? これからも戦っていきましょう」
「遥、ありがとう! お互いに切磋琢磨して、東女を盛り上げていこうね!」
 遥に手を差し伸べられ、立ち上がったダイナマイト・シュガーは、満面の笑みを浮かべて礼を言った。
 リリム蕾奈やライトニングバニーだけではなく、こんな間近にも素晴らしいライバルがいる。
 2人へ、ブラックビーストと優雅、美久とセルリアンブルー、リリム蕾奈とライトニングバニー、そして澪が惜しみない拍手を贈った。
「みんな、良い試合をありがとう。俺もこれで心置きなく引退できる。それに俺の目標も決まったよ。お前達に打ち勝つ、強力なレスラーを育てる事だ。うかうかしていられないようにな」
「う、受けて立ちますよ。ボクも何時までも若手じゃいられないし、νスーパーダイナマイトを完成させて迎え撃たなきゃ!」
 澪の言葉に偉大な先人の引退を実感し、ダイナマイト・シュガーは涙ながらに応えた。

 ――これからもダイナマイト・シュガー達の、Goddess Layer――戦女神達の神域――での戦いは終わる事はない。