Cherry Blossomアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/09〜04/15
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●本文
『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
ボーカル兼ベースのシュタリア。
ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。
彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
メディアに露出していない理由の1つが、Succubus――文字通り夢魔の如く、夜にしかライブを行っていない事だ。しかも、好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目を憚る事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、Succubusの本質たる所以のパフォーマンスだ。
シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「お姉様、先日の『ゲリラライブin大阪通天閣』は大盛況だったわね」
蜂蜜色のたゆたう髪を梳き、スティアがパソコンのモニターを見ながら言った。そこに映し出されたSuccubusのファンサイトのアクセス数は、ここのところ鰻登りだ。また、ファンが撮ったであろうゲリラライブin大阪通天閣の様子が動画として発信されていた。
ファンサイトへのゲリラライブの告知といったパソコンに関する事は、スティアの役目だ。
「他の歌手やロックバンドを誘って正解だったようですわね。彼女達にお礼としてライブの様子を録音した機材は送ったのでしょう?」
「はい、今回はCDで録ったから、携帯プレーヤーごと送っておいたわ」
3人がゆうに一緒に寝られるベッドに横たわり、次女の言葉に嬉しそうに応えながら譜面に筆を走らすシュタリア。その傍らにある液晶テレビには、スティアが撮ったゲリラライブin大阪通天閣の様子が流されていた。
作詞はシュタリアの役目のようだ。
「シュタリアお姉様ぁ、今度のゲリラライブも誘うのですか?」
「あら、ティリーナ、あなたは面白くありませんでしたの?」
シュタリアの緑色の黒髪を梳りながら、ちょっと不満そうな猫撫で声で甘えるティリーナ。シュタリアの手にある譜面は、先程まで彼女が曲を書き入れていたものだ。
作曲はティリーナが行っていた。
「そんな事はぁ、ありませんけど‥‥」
「なら、今度のお花見の場所でのゲリラライブにも、他の歌手やロックバンドを誘いますわ。その方が盛り上がりますし、それに、うふふ‥‥」
「お姉様は前回、可愛い女の子がいながら、玩べなかったのを残念に思っているのよ」
桃色の2対のドリル髪――もとい、ツインテールを揺らし、唇を尖らせるティリーナの頭を撫でながら、今度のゲリラライブの予定を告げるシュタリア。彼女の気持ちを代弁するように、妹を諭すスティア。
そして3人はそのままベッドへと共に沈んでゆくのだった――
その後、ファンサイトに、今度のSuccubusの夜のゲリラライブは、お花見真っ盛りの場所で行うという書き込みがなされていた。今回も彼女達だけではなく、他の歌手やロックバンドを誘うという。
呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、交通費等は全てSuccubus持ちだし、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
但し、女性は弄られる危険性があるので身持ちは注意されたし。
●リプレイ本文
●Succubusの悪い癖と、それに順応する者達
「ゲリラライブを見に来るファンも大変ですけど、それだけSuccubusの皆さんが愛されている証拠ですよね」
フランネル(fa3365)が見上げると、視界一杯に大輪の花を綻ばせる桜の木が広がる。
彼女がいるのは、ソメイヨシノの名所として名高い福井県は丸岡城。花見の場所取りの激しさを聞き知っているフランネルは、始発の新幹線や在来線を乗り継いでここまで来た。百聞は一見にしかずというが、『Succubus(サッキュバス)』の長女にしてボーカル兼ベース担当のシュタリアの助力もあって、入り口付近にライブが可能なスペースを確保していた。
「ふふふ‥‥わたくし達のファンは、わたくし達のそういった全てを好いているのですわ。こういう事が好きなのも、ね‥‥」
「あ、あの‥‥ひ、人が見てますけど‥‥ひゃ!?」
膝を抱えて座るフランネルに寄り添うシュタリアが、彼女の耳元で囁く。吐息が耳に掛かるたびに身体を震わせるフランネルの反応が初々しいのか、シュタリアは彼女の耳たぶを甘噛みした。
桜に負けないくらい顔を赤く染めながら、辺りを見回すフランネル。確保した場所は広いのでちょっかいを出されると思っていたが、皆、こちらの様子をちらちらと窺うだけで関わろうとする者はいなかった。
「今回はお花見♪ お花見♪ 綺麗なお姉ちゃん達とのお花見♪ 楽しみだにゃ〜♪」
「あら? 私を御所望? 良いわよ、ゲリラライブが終わったら、心ゆくまで可愛がってあ・げ・る」
新幹線の3列シートの真ん中にちょこんと座る普段着の西村・千佳(fa0329)は、イオ・黒銀(fa0069)と稲馬・千尋(fa0304)に挟まれ、お姉ちゃん好きとしては最高のシチュエーションだ。
イオはトレーナーの上にジャケットを羽織り、ホットパンツを履いて、サングラスとキャスケットで顔を隠していたが、千佳が彼女の腕に抱き付き、服の上からも分かるEカップの豊かな胸の感触を楽しむと、イオは千佳の肩に手を回して引き寄せた。
「‥‥よく食べるわね」
「えへへぇ‥‥」
向かい合わせた座席に座る鳴瀬 華鳴(fa0506)は、本日5パック目の桜餅(1パック5個入り)を開けていた。彼女の甘い物好きには、いつもの伊達メガネを掛けていない所為か、千尋も呆れているように見える。千尋は伸ばした髪を纏めて縛り、地味なコートを着ていた。華鳴も地味な服装にこちらは逆に伊達メガネを掛け、本人は花粉症を装って目立たないようにしていたが、その食欲で十分目立っていた。
華鳴の隣に座る不破響夜(fa1236)は譜面を見つめ、会話には加わらなかった。短い黒髪の活動的な彼女が、品がよくおしゃれなジャケットと捲きスカートに身を包んで真剣に読書する光景は、なかなかに凛々しい。
「‥‥何?」
「先程から熱心に読んでるので、その横顔に見惚れてしまったの」
響夜はようやく、隣に座るSuccubusの次女にしてドラム兼シンセサイザー担当のスティアが、自分を見つめているのに気付いた。かなり長い間、見つめられていたようだ。
「‥‥ゲリラライブは初体験なんで、失敗しないようにな。歌とギターの練習になるし、度胸試しもにもなる、と思ってね」
「ふふー、響夜お姉ちゃん、お花見を楽しむ為にもゲリラライブは思いっきり盛り上げちゃおう♪ 思いっきり運動した後のご飯は美味しいしよ♪」
「頑張っちゃうわよぉ、お〜♪」
ばつが悪そうに黒髪を掻く響夜へ千佳が発破を掛けると、華鳴は相も変わらず間延びした声で応えるのだった。
「日本最古の天守閣を持つお城をバックにして、桜の花に囲まれてのライブ〜♪ 情景に負けないようにしないと!」
「‥‥ああ」
高速道路を快走する、MICHAEL(fa2073)の運転するレンタカーのワンボックスワゴン。クラウド・オールト(fa0175)はMICHAELと千尋のベースギター、響夜のエレキギターが置いてある後部座席の後ろに積んだドラムセットを組み立てており、話に相槌を打つだけだった。
(「同行しているのがティリーナでよかった。前回されたとはいえ、正直抵抗はある‥‥」)
クラウドは助手席に座るSuccubusの三女にしてギター担当のティリーナを見遣った。
「オールトちゃんはノリが悪いよねぇ、ティリーナちゃん?」
「そうですね‥‥って、MICHAEL! 前見て下さい、前!!」
「キスくらいいいじゃない〜、減るもんじゃないし♪」
MICHAELが不意打ちよろしくティリーナの頬にキスを送ると、彼女はワンテンポ遅れて避ける仕草をするが、その間に前の車へかなり接近していた。慌てる事なく車線変更するMICHAEL。
ティリーナもクラウドと同じく、ノリのいい方ではなかった。話し掛ければ応えるものの、どうやら重度のシスコンでシュタリアやティリーナ以外には興味がないようだ。
●ゲリラライブin花の霞ヶ城
丸岡城の城郭一帯には約400本のソメイヨシノが植えられており、見頃を迎えると城が桜の花霞に聳え見える事から、別名霞ヶ城とも呼ばれている。
「Succubusのお姉ちゃん達との2回目のゲリラライブin花の霞ヶ城、開幕だよ♪ サクラの花に負けないくらい綺麗に目立っていってみよう♪」
被ったニット帽の横からは二対の角を、羽織った黒のレザージャケットの背には翼を、紺のジーンズの後ろからは尾を生やした姿のクラウドのシンバルの音が響き渡り、うさ耳を揺らす千尋と赤を基調とした着物風の衣装を纏ったMICHAELのツインギターが轟く。
待ち構えていたSuccubusのファンもいたが、大半は普通の花見客だ。酒が入っている者も多く、突然の美女達の出現に色めき立った。
猫耳と尻尾をちょこんと生やした魔女っ娘のステージ衣装に、魔女っ娘のステッキ型マイマイクで周囲の人々へゲリラライブの開催を告げる千佳は、ライトアップされた桜の花びらのシャワーを浴び、まるで花の妖精のようだ。
「一番手は私、イオ・黒銀よ!」
キャスケットとサングラスを外しながら、イオが前へ歩み出た。ウインクしながら投げキッスを1つ、すると「イオお姉様〜」と早くも彼女の魅力の虜になる女性も出てきた。
「(流石はSuccubusのファンね)曲は『In your Heart』、あなたのハートに届けるわ」
♪ただそっと触れるだけで
どんな時も笑って行ける 君の温もり
いつからか強気なフリ 続けていた そんな時
雨に濡れる寂しい夕暮れに 気付いてしまった君への気持ち
さぁ 止まってる暇は無い 一秒でも君に伝えたい
笑顔で君のもとへ行くよ だから受け止めてね In your Heart♪
クラウドの、力強く、迫力のある、そして落ち着いたドラムのリズムに気持ちよく声を乗せるイオ。
最後に手をピストルの形にして観客へ照準を合わせるが、イオが撃ち抜いたのは意外にもティリーナだった。
「二番手は私、稲馬千尋よ。曲名は『アナタに伝えたい‥‥』」
イオが手を掲げると、前に出ながらタッチする千尋。紫を基調とした衣装の胸元に吊されたハーモニカが、うさ耳と一緒に揺れる。
♪いつも皆の前では笑顔の貴方
笑ったり ふざけたり 冗談混じりに怒ったり
あたしの前でも優しくて 色々気遣ってくれる
だけど貴方は悲しみを見せない 表面上じゃなくて 心の奥底の悲しさ
あたしを悲しませない為だってのは分かるの でも それが逆に酷く悲しいの
苦しみや悲しみを一人で抱え込んでいたって それだけであたしは幸せになれない
どんなに辛くてもいい どんなに酷くてもいい
あたしは貴方の一緒に居られるのが嬉しいの
だけど貴方の気持ちが分かるから それを口には出せないの
言えないまま今日も 笑顔で貴方を迎えるアタシ‥‥♪
曲のテンポは全体的にゆっくりで、ベースギターから紡がれる旋律にも、千尋の歌声にも悲しい叫びの感情が篭められていた。
最後はそれら全ての悲しみを押し潰すかのように、徐々に消え入ってゆく。
「次は私の番だな。不破響夜だ、よろしく!」
静まり返ったその場に、響夜の低めのハスキーボイスが響き渡ると、彼女は上着を景気よく脱ぎ捨て、胸がはち切れんばかりに下から押し上げて、先端の蕾の形すら露わにする黒いちびTシャツに、太股が眩しい青のカットジーンズという、ロッカースタイルへ変わる。
♪待ってるだけでも明日は来るさ
だけどそれじゃあ良いわけないから
明日へ走れ 明日へ走れ
自分の足で 明日へ走れ
運命を切り開いてゆけ!♪
春とはいえ、夜はまだまだ肌寒い。ロック仕立てのテンポの速い響夜の歌は、その寒さを熱気でぶっ飛ばす勢いだ。
バックダンサーを務めるフランネルも、響夜と一緒にワンピースを脱ぎ、中に着込んでいた彼女と色違いの同じ衣装姿(ピンクのカットジーンズ)で派手に舞い、踊る。
水面にたゆたうような蜂蜜色の髪が宙に波打ち、響夜に勝るとも劣らない、いや、もしかしたら彼女より大きかもしれない2つのたわわな水蜜桃がリズミカルに弾むのは、さぞ福眼だろう。
演奏が終わるとクラウドもドラムスティックを手でくるくると回し、そのまま宙に投げて両手で1本ずつキャッチする。
「集まってくれたたくさんのお兄ちゃんとお姉ちゃんの為に、一所懸命歌うね〜♪」
魔女っ娘の千佳は一際異彩を放っているが、愛らしい花の妖精はそれすら自分の魅力としてしまっていた。
♪小さな胸の中 ずっと抱えてる
一つだけの 大切な想い
一生懸命頑張るあなたに
想いをこめて頑張れ
あなたの笑顔を見るたびに
僕は強くなれるから
小さな胸の中 ずっと抱えてる
たった一つだけの 想いがある
あなたがくれた勇気 あなたの笑顔
全部が大事な僕の宝物
だから‥‥僕はあなたのために歌うよ‥‥
小さな僕の歌を♪
千佳はマイクを両手で持ち、祈るように静かに歌う。その姿はお兄ちゃんやお姉ちゃんに恋い焦がれ、内に秘めた想いを必死に伝えようとしているようにも見える。
彼女の歌に、千尋と華鳴がバックコーラスとして彩りを添える。
「今回のSuccubusの前の取りを務めるのはぁ、私、鳴瀬華鳴よぉ。歌は『黒恋姫』‥‥」
(「‥‥や、止めてくれ。そういう事はあまり好きではないんだ‥‥」)
千佳と代わると思いきや、クラウドの頬にキスを落とす華鳴。胸や尻を触られるのは元より、抱かれるのもキスされるのも苦手なクラウドは彼女へ囁くが、華鳴は粘っこい小悪魔的な笑みを浮かべるだけだった。
♪深き暗闇の中 貴女を見つめてる
冥き恋慕の焔が この胸を焦がす
届かぬ想いと 譲れぬ願いの狭間で揺れ動く
私は闇の中で咲乱れ 舞い散る花
でも何時か 醜く枯れてしまう
狂おしい程に愛に飢えて‥‥
「奪イ取レ」
心に舞い降りた 卑しき悪魔の囁き
嗚呼 もう私は止まれない
背徳の風になり 貴女を攫いに参ります
愛し合いましょう 何度でも
黒い花が咲き誇る庭園で 何時までも
そう、永遠に‥‥
(うふふ‥‥お姉様、もう絶対放さない)
始終テンポのよい曲調だが、テーマは『略奪愛と同性愛』。そのテーマよろしく、清楚な外観と裏腹に、華鳴の踊りは妖艶だった。
最後の台詞は、シュタリアを後から抱き締めながら囁き、その唇を奪うと、彼女は華鳴に応えてより深いキスを贈った。
MICHAELが演奏を止めても、2人は貪り続ける始末。
「お楽しみのところをジャマしちゃ悪いから、終わるまであたしの曲を聴いてね!」
MICHAELはソロ演奏に入る。単調なリズムから次第に激しくしていくと、動きやすさを優先させた着物風の衣装は、胸元がはだけ、伸びやかな足が露わになるが、彼女はそんな事はお構いなく、最後はチョッパーで一気に爆発させた。
MICHAELの演奏が終わる頃にはSuccubusの3人も準備を整えており、歌を披露すると、フランネル達は早々に、そして散り散りに撤収していった。
●花を愛でるといっても‥‥
クラウドが先頭に立ってコンビニで買い出しを済ませると、場所を変えて打ち上げ兼花見が行われた。
「お姉ちゃん達お疲れ様〜♪ 今回も楽しかったね〜♪」
「君達はこっち、お酒はもう少し大人になったら一緒に飲ませてあげる」
千佳はビールと酒を手に、イオや千尋、MICHAELやフランネルへ注ぎ、その都度抱っこしてもらったりと甘えまくる。
危うく響夜やクラウドに注ぎそうになると、イオがビシッと言って止めた。
「ゲリラライブも多少慣れたから、他の人の歌にコーラスを入れられるようになったけど‥‥歌と演奏に集中しきって、パフォーマンスが何もできないのが残念ね」
「私は次に参加する事があったら、もっと長い歌を唄ってもいいな」
早くも今回のゲリラライブの反省点を話し合う、千尋と響夜。
「夜桜を愛でるのもいいですけどぉ、私はこちらの花も愛でたいですぅ」
「花を愛でながら呑む一杯、日本人って贅沢よね〜」
草餅を美味しそうに頬張っていた時とは打って代わり、寒気のする笑みを浮かべる華鳴。その笑みの意味するところを察知したMICHAELもまた、花――フランネル――へ近付いてゆく。
「や、止めて下さい‥‥あ! イオ様まで‥‥あん! あぁ‥‥私、もう一杯一杯で変に‥‥はぁぁ‥‥なってしまいます‥‥あう!!」
そこへイオも加わり、アルコールは強くない上に3人に愛でられ、真っ赤になって動揺しつつもされるがままになるフランネル。
「‥‥良い具合に咲き誇っているな‥‥とても良い場所だ」
花が何度も何度も散る中、我関せず1人花見をするクラウドだった。