School Tripアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 1人
期間 05/18〜05/24

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、Succubus――文字通り夢魔の如く、行うライブの大半は夜という時間帯だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目を憚る事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの本質たるパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。彼女達は姉妹であり、恋人であった。


 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「『ゲリラライブin花の霞ヶ城』に協力してくれた歌手やロックバンドへのお礼は、何を送ったのかしら?」
「今回はわたしのシンセサイザーで録音したから、そのデータを入れたメモリーカードごとICレコーダーを送っておいたわ」
 シュタリアの同性でも溜息が出るくらい艶やかな緑色の黒髪を梳るスティア。
「‥‥ティリーナはまだ籠城中ですの?」
「あの娘、相当いじけているわ。先日の『ゲリラライブin花の霞ヶ城』でお姉様のお戯れを目の当たりにしたから‥‥」
 シュタリアは刹那、この部屋にいくつかある扉の1枚を見遣る。3人がゆうに一緒に寝られるベッドの上には、シュタリアとスティアの姿しかなかった。
 Succubusの3人は血は繋がっていないが、姉妹同然にここで一緒に暮らしており、その扉の先はティリーナの部屋になっている。
 彼女達は学校へ行っている時間を除いて、残りの1日の大半を共に過ごすが、それでもプライベートな時間は欲しいもの。1人1人の部屋があった。
「でも、あの子もわたくしの性格は知っているでしょう? それにわたくし達が『Succubus』を名乗り、何の為にゲリラライブをしているのかも」
「もちろん、それはあの子も分かっているわ。でもねお姉様、あの子はわたしより、女性の観客達より、ゲリラライブに参加した歌うたい達より‥‥お姉様の事が大好きなのよ」
 シュタリアは蒼色のルージュに彩られた唇を艶めかしく舐めた。スティアはそんな姉を後ろから優しく抱き締める。
 先月、ソメイヨシノの名所として名高い福井県の丸岡城下で行った『ゲリラライブin花の霞ヶ城』は、先の『ゲリラライブin大阪通天閣』同様、誘った歌手やロックバンドの事前準備と綿密な連絡の取り合いによって成功を収めた。
 しかし、ゲリラライブの途中、シュタリアは参加した歌手の1人と濃厚で深い接吻を5分近く交わし合い、それでティリーナはヤキモチを焼いたのだ。
 そう、ティリーナはSuccubusの中で唯一、他の女性歌手やロックバンドには興味を示さないし靡かない、超が付く程のシスコンなのだ。
 『ゲリラライブin花の霞ヶ城』が終わって以降、ティリーナは籠城作戦に出ていた。学校から帰ってきても早々に自室へ閉じ篭もり、ベッドルームは廊下よろしく通過するだけでいつものように寝る事はなく、シュタリアと会っても目を合わせようとしないし、彼女が声を掛けてもそっぽを向き、食事も一緒に採らない始末。
 ちなみに、3人の食事は主にスティアが担当しており、ティリーナの気持ちも分かるのでわざわざ部屋へ運んでいた。
「ティリーナのヤキモチ焼きは今に始まった訳ではありませんし、そこが可愛いところですが‥‥ティリーナを傷つけてしまったわたくしにも非はありますから、今月のゲリラライブはそういったパフォーマンスは抜きでいきますわ」
「京都を修学旅行で訪れている学生をターゲットとしたゲリラライブね」
 今回のゲリラライブは、地方から京都へ訪れている修学旅行の学生達がメインターゲットだった。中学生や高校生ターゲットにすれば、Succubusといえどもあのような行為は出来ないし、してはいけないだろう。
 逆に言えば、歌唱力や演奏力、パフォーマンスでどれだけ生徒達を涌かせられるか、純粋な実力がものをいう。
 ただ、いつものゲリラライブより問題も多い。
 今の時期の京都は、修学旅行の学生に限らず観光客が多いので、道や公共機関は混んでおり、現地集合の時間が合わせ難い事だ。また、京都は駐車場が少なく、あったとしても都合良く空いているとは限らないので、いつものように大型の楽器を車で‥‥とはいかないので、運搬方法も考えなければならない。
 それらをクリアーできれば、学生達を驚かせる事ができるだろう。
「‥‥という訳ですから、ティリーナ、今度のゲリラライブはあなた以外、見ませんわ」
「‥‥シュタリアお姉様ぁ!」
 どうやら扉の向こうで聞き耳を立てていたようだ。シュタリアが扉越しに声を掛けると扉が荒々しく開き、桃色の2対のドリル髪――もとい、ツインテールを揺らしながら、ティリーナが飛び出してきて、泣きながらシュタリアの胸へ飛び込んだ。
 そして3人はそのままベッドへと共に沈んでゆくのだった――


 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのゲリラライブは、いつもの夜ではなく、昼日中に修学旅行の学生や観光客でごった返す京都市内で行うという書き込みがなされていた。
 今回も彼女達だけではなく、他の歌手やロックバンドを誘うという。
 呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、交通費等必要経費は全てSuccubus持ちだし、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
 今回に限り、ゲリラライブ中は女性は弄られる危険性はないようだ。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文


●所詮はSuccubusなので
「Succubusとのライブも3回目ね〜。今回はラシアちゃんが加わったから、ますます楽しみ♪」
「ん? ああ、ゲリラライブも何度か参加してるから、あたしも楽しみだぜ」
 京都へ向かう在来線のボックスシートに腰掛けるMICHAEL(fa2073)は、『Succubus(サッキュバス)』の次女にしてドラム兼シンセサイザー担当のスティアから借りたノートパソコンで、ネット上で発信しているゲリラライブin花の霞ヶ城の映像を見ていたラシア・エルミナール(fa1376)へ話し掛けた。区切りが付いたところでラシアはヘッドフォンを外し、やや遅れてに応えた。
「ライブの映像をネットで発信するのも、手軽に見られてなかなかいいじゃねーか‥‥ただ、Succubusの事色々聞き及んでるけど、なーんかライブの後が不安だけどな」
「ふふふ、ノーマルな娘を堕とすのも楽しいわよ」
「‥‥遠慮しとくよ」
 スティアが妖艶な笑みを浮かべて応えると、ラシアはあっさり断った。
『着いたら起こしてくれ』
 クラウド・オールト(fa0175)は本当に寝ているかどうかは分からないが、会話に加わっていない。
 MICHAELは赤のミニスカスーツに身を包み、知的な雰囲気を漂わせていた。ラシアとクラウド、スティアはそれぞれ制服を纏い、ラシアは更に伊達眼鏡を掛けて癖っ毛を三つ編みに結い、地味な文学少女に扮していた。ラシアやクラウドのお陰で『修学旅行の生徒と、その班別行動に付き添う教師』という構図が見て取れるが、MICHAEL1人だけでは先生らしいとはいえないかもしれない。
「普段はツンケンしてるのに、寝顔は可愛いよね」
「本当に寝ているのかしら‥‥」
「くふぅぅん‥‥」
 MICHAELは悪戯を企んだ小悪魔的な笑みを、スティアはお嬢様然とした顔に粘っこい笑みを浮かべると、腕を組み、窓に寄り掛かって眠るクラウドの耳たぶを噛み、首筋に息を吹きかけた。彼女は艶めかしい吐息を発しながらも目覚めないところを見ると、本当に寝ているようだった。

「‥‥何だか変な気分だなぁ‥‥脚がスースーする‥‥」
「でしたら、学ランをお召しになった方がよろしいのではなくて?」
「それも一理あるな。勇花さんなら学ランも似合うと思うよ」
 紅 勇花(fa0034)が履き慣れないスカートの感想を呟くと、Succubusの三女にしてギター担当のティリーナが噛みついてきた。それを上手く受け止める不破響夜(fa1236)。
「‥‥ティリーナさん、修学旅行は‥‥もっと楽しく、行きましょう‥‥」
「そうそうぉ〜、そんな怒った顔しちゃ、駄目よぉ♪」
「だ、だ、誰の所為で怒っていると思っているのですか!?」
「えへへぇ〜、誰の所為かしらねぇ〜?」
 DESPAIRER(fa2657)が引率の教師としてたしなめるものの、鳴瀬 華鳴(fa0506)が屈託のない笑顔を向け、火に油を注ぐ。上りの新幹線の中、人目を憚らず華鳴を睨め付けるティリーナの凄まじい眼力も、華鳴には暖簾の腕押し、糠に釘状態。
 勇花達も鈴生六連が用意した制服を着ていたが、普段から男物の服を着ている勇花はスカートの下にスパッツを履いても、スースー感は拭えないようだ。響夜は下に衣装を着込んでいるのでそれ程でもないし、華鳴は伊達眼鏡を着用し、こちらは学級委員長を装っていた。黒いスーツに伊達眼鏡を付けたDESPAIRERは、まさに『ややキツイ印象の女教師』だろう。

「にゃん♪ にゃん♪ シュタリアお姉ちゃんと2人〜♪ えへ〜♪」
 こちらは下りの新幹線で京都へ向かう西村・千佳(fa0329)と、Succubusの長女にしてボーカル兼ベース担当のシュタリア。2人掛けの席に座り、京都の観光マップを広げていた。ちょっと大き目のリュック背負った千佳は、姉とこれから行く京都を楽しみにしている妹そのものだった。
 腕に抱きつきたい衝動を抑えて、手摺りに置かれたシュタリアの手に自分の手を重ねて握るだけにしておくが‥‥。
「大人しい娘は嫌いではないわ」
「シュ、シュタリアお姉ちゃん!? ティ、ティリーナお姉ちゃんは‥‥?」
「2人だけの秘密にしておけば大・丈・夫」
 観光マップの向こうで何があったのかは、千佳もシュタリアも一切喋らなかった。


●ゲリラライブin京都タワー前
 多くの人でごった返す京都タワー前。この時期、特に目立つのは修学旅行で京都を訪れた学生達だ。
 京都タワー前は通りを挟んでバスターミナルになっており、バスを待って列を作る学生達の姿が多く見受けられた。
「道行く諸君、ご機嫌よう! 突然だが、これからライブの時間だ!」
 勇花の愛用のギターから挨拶代わりの軽い旋律が響き渡った。帽子を取ると、帽子の中に隠していたうさ耳がぴょこんと起きる。
「にゃー!? 勇花お姉ちゃんに司会の座を奪われたにゃ!? まじかる♪チカ、いきなりピーンチ!?」
 魔女っ娘のステージ衣装に着替え、魔女っ娘のステッキ型マイマイクを持った千佳はいきなり台詞を取られたが、それを利用してマイクパフォーマンスで盛り上げた。
 白いTシャツの上に黒いレザーの半袖のジャンパーを羽織り、ジーンズを履き、サングラスを付けたクラウドが、ベースでオリーブの首飾りを演奏した。すると、MICHAELが用意しておいた大きな布をバッと被り、出てくる時にはマジックよろしくネコミミと尻尾を生やしていた。どうやら布の中で半獣化したようだ。
「さぁ、今回はここ京都タワー前にて、Succubusのライブが始まるよー♪ 皆、楽しんでいってね♪ まず1人目は今回初参加のラシア・エルミナールお姉ちゃん」
「曲名は『Love fire』、最初から最後まで一気に走り抜けるから、みんな、遅れんなよ!!」
 千佳に紹介されたラシアは前奏無しに唄い始めた。

♪数え切れないほどに呟いた あの言葉を思い出して
 胸の奥に残ったこの想い 熱く胸を焼き焦がすよ

 たとえどんなに遠く離れても この炎は消せやしない
 決して止む事の無い嵐でも 輝き続けるLove fire!♪

 黒いビスチェ姿のラシアの、蝙蝠を象ったチョーカーと蝙蝠の翼と耳がメロディに合わせて激しく揺れる。
 ここで勇花とMICHAELのツインギターと、クラウドのベースによる演奏が入った。

♪二人で歩いている ほんの僅かだけの時間
 別れてもしばらくは 胸が鳴ってる

 思い出すたびに 夜も眠れない
 ベッドの中で膝抱え

 何も考えず この想いだけを抑え続けていた

 数え切れないほどに呟いた あの言葉を思い出して
 胸の奥に残ったこの想い 熱く胸を焼き焦がすよ

 たとえどんなに遠く離れても この炎は消せやしない
 決して止む事の無い嵐でも 輝き続けるLove fire!♪

 全体的に速いテンポで、サビの部分と歌詞との区別はほとんどなく、説明した通り始めから終わりまでジェットコースターのように一気に駆け抜けた。
「続いて行ってみよー♪ 2人目は不破響夜お姉ちゃんだよ」
「曲名は『From the past to the future』、ロック調だけど私なりにノリの良さを追求してみた」
 制服を脱ぎ捨てると、先ず黒のタンクトップの下から押し上げる双房の水蜜桃がプリンのように揺れて自己主張し、次いで眩しい太股が露わになるカットジーンズ履きのロッカースタイルへ変貌を遂げる響夜。
 手にはエレキギターを持っていた。今回は彼女が演奏しながら唄う。

♪過ぎ去ってった旧世紀
 良いも悪いも色々あったさ

 古いものだと蓋をして
 捨て去って しまって良いのか

 人の目が前についてるのは
 前向きに進むためだけど

 前だけ見てれば前には行けるさ
 だけどそれじゃあ良いわけないから

 明日へ走れ 明日へ走れ
 過去の失敗 糧にしながら

 運命を打ち砕くために!♪

 曲は前回歌った曲を完成させたもので、追っかけの女性ファン達は1番の歌詞を響夜と一緒に歌い上げる。
 響夜自身はギターの演奏やブレスの動作1つ1つを大きく取る事で、客の目を惹き付けた。
「どんどん行くよー。次は‥‥って、うにゅ!? 僕の番だったよ、えへへぇ♪」
 そこで華鳴張りの天然ボケをかます千佳。

♪伝えたい想いがあるよ
 二人の心を重ね合わせ
 僕の気持ちを伝えるよ
 
 信じ続けるよ あなたのこと
 未来を恐れず 二人の勇気合わせ
 
 Fly♪飛んでいこう
 あの都市(まち)へ
 Fly♪翼を広げて
 一緒に‥‥♪

 千佳の歌は軽くノリのいいものだ。そこへDESPAIRERと華鳴のバックコーラスが華を添え、勇花とMICHAEL、響夜のトリプルギターとクラウドのベースも小休止するかのように、ライトなノリの四重奏を紡ぎ出す。
「みんな、楽しんでくれたかにゃ? 次は鳴瀬華鳴お姉ちゃんだにゃ♪」
「今回の曲『喪失姫』のテーマは『喪失』だよぉ。頑張るわよぉ♪」
 純白の服装に羽飾り付きの帽子を着用し、カナリアの翼を湛えた、純真無垢を具現化したような華鳴が、重々しいテーマをさらりと言ってしまう辺り、彼女の底知れない何かを感じる。

♪懐かしく 穏やかな日々
 硝子細工の様に 砕けて消えた

 静かに忍び寄る 終焉の足音
 その両の手に 鈍く輝く 銀(しろがね)の爪

(助けて‥‥誰か助けてぇ!)

 死神(かみ)に見初められた 憐れな花嫁
 散らされた花は 冷たい雨に濡れ 逃げ惑う
 頬を伝う雫は 深紅(あか)く染まる
 嘆きの歌声は 誰にも届かない

 その瞳は濁り もう何も映さない
 その耳には もう何も聞えない
 もう 何処にも還れない‥‥

 途中までは静かに重々しく、サビは演奏も止まり全くの無音の中で言霊を紡ぐ。そこから後は一転して激しくなり、終着へ向けて次第に声を小さくし、最後は崩れ落ちながら歌いきった。
 その演出に一役買ったのがDESPAIRERのバックコーラスだ。サビの部分を輪唱する事により、得も言われぬもの哀しさを倍増させた。
「次はDESPAIRERお姉ちゃんだよ」
「‥‥歌は、『Free』‥‥」
 紹介されると同時に、華鳴と立ち位置を交換するDESPAIRER。今度は華鳴が彼女のバックコーラスを務める番だ。

♪ちぎれた鎖 引きずりながら
 さまよい歩く 野良犬

 軽はずみにも 選んだ自由
 それはあまりに 重すぎて

 帰れる場所など あるはずもなく
 守ってくれる人もいはしない

 自由の味は 今でも甘く
 手放すことは 今は恐怖で
 板挟みのまま 苦しんで

 繋いでくれる 誰かがほしい
 守ってくれる 誰かがほしい
 帰って行ける どこかがほしい

 「But,I’m free」 悲しいほどに♪

 一番は自由を手にした当初の喜びを唄ったのに対し、二番は自由の重みを思い知る辛さを唄う。主旋律はどちらも一緒だが、DESPAIRERの歌い方の違いの所為で、一番の「期待の中に微かな不安」から、二番では「苦悩と諦め」へ一気にイメージが変わった。
「さぁ、まだまだ行くよっ!」
「にゃー!? また僕の台詞を取ったぁ!」
 勇花がメインとなり、MICHAELとのツインギターとクラウドのベースによる演奏が始まる。曲調は中学生や高校生にも受けがよさそうな、ライトなノリのロックだ。
 勇花は一所には留まらず、MICHAELと背中を合わせたり向き合ったり、ギターのネックを振り上げたり、更には回転やジャンプを交えて演奏した。方やMICHAELは観客の前まで行って投げキッスやウインクを送り、中学生や高校生向けのやや大人しめのパフォーマンスを披露した。
 クラウドはマイペースにクールに且つ格好良く、迫力を感じるようなチョッパーを炸裂させる。

 勇花達の演奏が終わる頃にはSuccubusの3人も準備を整えており、歌を披露すると、ラシア達は早々に、そして散り散りに撤収していった。


●泡沫の宴
 撤収した後、行きと同じグループでSuccubusのメンバーに案内されてやってきたのは、嵐山にある鄙びた温泉宿の離れだった。DESPAIRER達が遅れてやってきたが、途中で華鳴が28個入りの生八ツ橋を1ダース買っていた為のようだ。しかも既に箱を開け、1/3を食しているというから驚きである。
 シュタリアが挨拶し、スティアが乾杯の音頭を取ると、全員がグラスを合わせた。全員の前には京料理尽くしの膳が置かれていた。
「酒がないと始まらんな‥‥」
 早速、京都の地酒を注文するクラウド。お酒は20歳になってから! 当然、MICHAELが止める。
「なかなか魂が震える歌声だったぜ」
「ラシアさんの声も、ハートに来たよ。ダンスパフォーマンスにもチャレンジしたかったけど、ギター持ってちゃまだ無理だったけどな」
 ラシアと響夜はお互いの歌を称えながら、ロックヴォーカルのなんたるかについて話し始める。
 最初はそのような調子で反省会になっていたが‥‥。
「クラウドちゃん、ノリ悪すぎ」
「な、なにを‥‥んん!?」
「よぉし、私も頑張るわよぉ♪」
「あ‥‥はぅぅんん‥‥うぁ、あ‥‥」
 特に喋ろうとせず、音楽雑誌を読みながら食事を採っていたクラウドへ、MICHAELが深いキスを贈ったのを皮切りに、心の底が読めない、寒気のする笑みを浮かべた華鳴が勇花の唇を奪ってしまう。
「あたしはノーマルだし、そっちの気は‥‥」
「女同士なら残らないしいいだろ?」
 既にスティアと抱擁している響夜がラシアへと迫る。
「あう!? ディー‥‥お姉‥‥ちゃん‥‥」
「‥‥あなたの、血‥‥美味しい、ですよ‥‥」
 DESPAIRERに思いっきり抱きついて、顔を擦り付けたり胸の谷間に埋もれていた千佳は彼女にかぷっと噛まれ、血を吸われてしまう。

 夢魔達に誘われた泡沫の宴は朝まで続いたという。