春の修学旅行ドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/18〜05/22

●本文

『修学旅行? もうそんな季節なんだ』
「ええ、秋は文化祭や運動会といった行事が目白押しとかで、春に修学旅行へ行くそうです」
 ここは七福神が祀られた神社の境内。参道の両脇を彩っていた満開の桜は今、新緑が眩しい。
 一際大きい桜の木の下に畳を敷き、お菓子を頬張るカジュアルスーツ姿の女性と、彼女と話すブレザーに似た制服を着た青年、二人の話を微笑ましく聞きながらお茶を淹れる巫女装束姿の女性がいた。
 お菓子を頬張る女性は、この神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ。ブレザーに似た制服を着た青年は、この神社の近くにある私立高校に通う大和・武(だいわ・たける)。二人にお茶を注いでいるのは、この神社に仕える巫女、天埜・探女(あめの・さぐめ)だ。
 弁財天は人間に顕現(=変身)しない限り、普通の人にその姿は見えないが、顕現しないまま外で探女と話をしていると、探女の一人芝居のように見えてしまうので、弁財天は今は人間の女性の姿に顕現していた。
 武は先月、近所に越してきたばかりだったが、幼少の頃から転校を繰り返している為か友達作りが苦手なので、この神社を見付けて弁財天に転校先で友達ができるよう祈願したところ、早速、学校のアイドル、橘・緒登(たちばな・おと)と仲良くなり、それが元で緒登の友達とも知り合えた。
 彼の律儀な性格から弁財天にお礼を言いに神社へ通い、弁財天や探女とも仲良くなったのだ。
「行き先はどちらです?」
「二泊三日の予定で、奈良と京都です。一日目に奈良の東大寺を見て、そのまま京都入りし、二泊目と最終日は京都の自由行動です」
 探女からお茶を受け取りながら応える武。
『京都ねぇ。あたし、京都にはうるさいのよ』
「本当ですか!? あ、弁天さんは神社の娘さんですもんね。京都には何度も行っていると思いますし、自由行動の時に参考にしたいので、よかったらお勧めの見学場所とか教えてもらえます?」
 弁財天は武に「神社の娘、弁天」と自己紹介していた。祀られているのだから、あながち嘘ではない。
 また、弁財天は多くの神仏が集う京都へ時々出掛けていた。
 京都は班別の自由行動という事で、武はその見学コースを考えているようだ。武の班は、緒登や彼女の友達で構成されていた。
(『学校のアイドルと同じ班‥‥何か一悶着ありそうね』)
 早くも危惧する弁財天。席替えのたびに、緒登の隣の席を巡って血で血を争いかねない席替えのくじ引きバトルロワイヤルが勃発しかねないのだから無理はなかった。

『真っ昼間に騒ぎは起こさないと思うけど、夜はその限りではないわね』
「と申しますと?」
 武が帰った後、彼の後ろ姿が消えていった鳥居を見つめながら弁財天は呟いた。お茶の後片付けをする手を止めて探女が聞き返した。
『緒登の学校のアイドルとしての影響力はかなり凄いわ。下手をすれば修学旅行中にバトルロワイヤルが勃発するかも知れないのよ』
「でも、修学旅行先で競うものがあるでしょうか?」
『それがあるのよ‥‥修学旅行の定番、“枕投げ”がね』
「枕投げ、ですか」
 思い当たらないとばかりに首を傾げる探女へ、弁財天はここぞとばかりに畳み掛けた。
『真面目な探女はやった事ないから分からないかも知れないけど、枕投げは枕が誕生したと同時に生み出された、歴史あるスポーツなのよ。緒登の何かを賭けて枕投げバトルロワイヤルが起こるかも知れないわ』
「そ、それは知りませんでした‥‥」
 「歴史あるスポーツ」と聞いて、驚く探女。もちろん、枕投げはあくまで近年のお遊びであり、そんなに由緒はない‥‥はずだ。
「しかし、緒登さんの何かが賭けられるそうですが、弁財天様は具体的になんだと思われますか?」
『‥‥そ、それは‥‥(貞操の危機じゃ大袈裟すぎるわよね)‥‥そ、そう! ファーストキスよ、ファーストキス!』
「ファーストキス、ですか」
『宿泊を兼ねた修学旅行は、想いを打ち明ける絶好の機会でもあるのよ。だから、枕投げバトルロワイヤルに勝った者が、緒登のファーストキスをもらうかも知れないのよ』
 だんだん凄い方向へ話が進んでいますけど?
「では、弁財天様は緒登さんのファーストキスを護る為に同行されますか?」
『何なら探女も来る? 高校一つの認識くらいなら、修学旅行中だけなら誤魔化せるし、あなた一人くらい生徒として潜り込ませる事は可能よ? そうだ、せっかくだからパールヴァティも誘おうかしら? ラクシュミは‥‥ふふふ、そうね、この辺で借りを作っておくのもいいかも知れないわね』
 パールヴァティや吉祥天――ラクシュミ――を誘おうとしている辺り、「理由を付けて修学旅行に行きたいだけでは?」と思い掛けた探女だったが、慎み深い彼女はもちろん、そのような事は口にしない。それに探女は学生時代は巫女の修行に明け暮れ、楽しい思い出があまりなかった。弁財天や武達に協力して、楽しい思い出を作るのもいいかも知れない。
 かくして、武や緒登達の修学旅行に、弁財天達も付いていく事となったのだった。

■主要登場人物紹介■
・サラスヴァティ:外見20代後半。弁財天。神としての能力は音楽・芸術と財福。人間の美女に顕現(=変身)するとカジュアルスーツ姿を好む。
・天埜探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格。
・大和武:外見17歳前後。高校生。転校を繰り返し、友達作りが下手な青年。実は剣道の達人で前年度の高校生剣道全国大会の優勝者。竹刀の名前は草薙。
・橘緒登:外見17歳前後。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。

・パールヴァティ:外見20代後半。美の女神。サラスヴァティとは親友同士。人間の美女に顕現すると、エキゾチックな褐色の肌のストリートダンサー風の姿を好む。
・ラクシュミ:外見20代後半。吉祥天。美と幸福の神で、恋愛成就はお手の物。サラスヴァティとは犬猿の仲だが、ケンカするほど仲がいいともいう。人間の女性に顕現すると、ドレス姿を好む。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※パールヴァティとラクシュミも認識を誤魔化して一生徒として紛れ込みますので、この2人もクラスメイトとして扱いますが、使用しても使用しなくても構いません。
※原則、獣化は出来ませんが、弁財天達神様の力は獣人の能力で代用しても構いません。

■技術傾向■
 発声・芝居・演出

●今回の参加者

 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa0684 日宮狐太郎(10歳・♂・狐)
 fa0910 蓮城 郁(23歳・♂・兎)
 fa1108 観月紗綾(23歳・♀・鴉)
 fa1357 結城 紗那(18歳・♀・兎)
 fa1526 フィアリス・クリスト(20歳・♀・狼)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3594 黒影 美湖(21歳・♀・猫)

●リプレイ本文


●考えてみれば凄い光景です
「ディオニュソス様、こちらをどうぞ」
「ととと、悪いね‥‥相変わらず良い神酒だねぇ」
 七福神が祀られた神社に仕える巫女、天埜探女がディオニュソスと呼んだ男性にぐい飲みを渡し、この神社で醸造している神酒を注いだ。
「しかし、君が僕の勤めている高校に神力を働かせてくるとは思わなかったよ」
『武と緒登には色々と関わっててね。この祈願はなんとかして成就させてあげたいのよ』
 ディオニュソスはオリュンポス十二神の一人、豊穣とブドウ酒と酩酊の神である。人間に顕現している時は英語の教師、酒田・繁雄(さかた・しげお)と名乗り、大和武や橘緒登のクラスの副担任を務めていた。
 弁財天――サラスヴァティ――は先程まで食べていた神饌のみたらし団子を湯飲みの上に置き、隣に座るディオニュソスにウインクをしながら両手を合わせた。
「‥‥そういう事なら僕も一肌脱ぐとしよう。僕のクラスの生徒として認識を誤魔化すといい。その方が僕も便宜を払えるからね」
 彼は無精髭を生やした顎をさすりながら応えた。
『あたしもディオニュソスのお言葉に甘えさせてもらおうかねぇ。京都なんてじっくり回った事ないから、日本建築を見たいんだよ』
『ふーん、京都旅行なんだ? 僕は気が向いたら行ってみようかなっと』
『嗚呼、旦那様、そんな事言わないでよ』
 パールヴァティは行く気満々だが、彼女が寄り添うように座る高めの位置で一つに束ねた髪の、白い稚児服のようなものを着た少年は乗り気でない様子。少年へ縋る褐色の肌のエキゾチックな美女という構図はちぐはぐだろう。しかし、外見こそ少年だが、彼は美の女神パールヴァティが溺愛する夫にして、七福神の一神、大黒天――シヴァ――、ディオニュソスと同格の神であり、神格は彼女達より上だった。


●いいんちょ、気張ってます
 ――修学旅行当日。
「これから新幹線に乗ります。座席は決めた通りですが、新幹線は一分しか停車しませんので、とにかく先ず乗って下さい。自分の座席に着くのはその後です」
 駅に集合した武や緒登達へ、“いいんちょ”こと学級委員長、山都・美琴(やまと・みこと)が号令を掛ける。繁雄はのほほんとした昼行灯タイプの教師なので美琴に任せっきりだが、生徒の最後尾に居る辺り、フォローしているようだ。
 日頃から学校のアイドル緒登の争奪戦に頭を悩ませている美琴は、修学旅行という一大イベントなら誰もが緒登の隣の席に座りたいと踏み、事前学習の時間に先手を打って自分が緒登の隣の席を確保し、牽制していた。クラスの誰もが、美琴と緒登は幼なじみで、いつも公正な立場を取っている事から、その采配には納得したようだ。
「武君が同じ班で助かったわ。京都も詳しいのね」
「ああ、去年、住んでいたから、市内の大抵の場所なら案内できるぜ」
 緒登の班の自由見学のルートは、武が考案したものだった。緒登の班は美琴、武、綾小路真珠――パールヴァティの生徒時の偽名――、光――弁財天の生徒時の偽名――、探女という六人の構成だ。
 緒登は窓際の席だが、彼女から後ろに座る武や真珠と座席を向かい合わせていた。
(「大和くんはいい人だけど、今、おおっぴらに緒登とくっつくと色々と問題が発生しそうです。現時点では出来ればあまり親しくして欲しくないですね」)
「そうかねぇ? 逆に緒登がさっさと彼氏を作れば、学校のアイドルを巡るバトルロワイヤルなんて起きないんじゃないかい? 彼氏が出来れば諦めるもんさ」
 美琴の胸の内を言い当てる真珠。緒登は武とばかり話しており、美琴と真珠の話すら聞いていない。本人は普段通り振る舞っているつもりのようだが、周りが見えていないし、周りにも武を意識している事は一目瞭然だった。
 美の女神だけにその言葉には説得力があった。
 

●襖を開けたら、こんにちは
 初日は京都で下車し、そのまま班単位で奈良へ移動。東大寺とその近辺を自由見学した後、三日間宿泊する京都の旅館へチェックインを済ませる。
 予め送っておいた荷物をロビーで受け取り、部屋へと向かうと――。
「やぁ遅かったね、僕、待ちくたびれちゃったよ」
 呑気にお茶を啜りつつ、部屋に用意してあった人数分の八ツ橋を頬張った大黒天が出迎え、その場にいた全員を唖然とさせた。
 どうやら先回りし、この旅館の女将の子供として認識を誤魔化していたようだ。


●お試しあれ
 初日の夜は何事もなく二日目を迎えた。
「例年、必ず消える生徒がいるから、班長は班員をしっかりまとめろよ‥‥って、山都が班長なら言う事じゃないな」
 ロビーで繁雄に班員全員が揃っている事を確認してもらうと、市バスの一日乗車券を貰い、最寄りのバス停へ。
 最初の見学場所は清水寺だが、武はその先の五条坂バス停で降りた。清水道バス停で下車し、清水坂を登った方が土産物屋も多いのだが、道を一本ずらす事で閑静な方を取った。
「五条坂の途中には、湯葉の美味しい店があるのよ」
 光がうんちくを披露する。
 荘厳な仁王門をくぐると朱色の三重塔が見え、その奥に清水寺の本堂と、釘を使わずに百三十九本の柱で足場を組んだ『清水の舞台』がある。
「桜や紅葉の季節にも来てみたいですね」
 眼下に広がる錦雲渓の新緑に、うっとりと目を細める探女。探女も京都へ来るのは初めてで、緒登や美琴のように騒がず、光にぴったりと寄り添っているが、嬉しさが自然と零れていた。
「音羽の滝は学問と病気、それと特に恋愛にご利益があるから、飲むといいのじゃ〜」
 子供の声がすると、ミディアムショートの黒髪に赤いキャップを前後逆に被った十歳くらいの子供の走り去る後ろ姿が見えた。
 音羽の滝へ向かうと、なるほど、水は人気があり、並んで飲む程だった。
「三年坂へ向かう角の七味屋の七味は美味しいわよ」
 清水坂を下りながら光に勧められて七味屋へ寄り、三年坂、二年坂と降りて、『ねねの道』と呼ばれる高台寺下の石畳の石塀小路を歩く。
「橘さん、ほら、皐月躑躅(さつきつつじ)だ。確か、花言葉は『協力』だったかな。俺もいいんちょや橘さんの友達が協力してくれたお陰で、橘さんとも友達になれたんだよな。感謝しなくちゃね」
「そ、そんな事ないよ」
 四季の花々や景色を指差して教えていた武は、見事な皐月躑躅を見付けて緒登を呼んだ。学校のアイドルとして気疲れしているであろう緒登に元気になってもらいたいとお礼を述べたが、そのストレートな物言いに緒登は照れてしまう。
「橘さんの苗字でもある、京都御所の紫宸殿の『右近の橘』は来月頃開花かな? 花が上を向いて咲くから立花と言うそうだね。前向きで明るくて、本当に橘さんみたいだよな。いつか一緒に見に行きたいね」
「あ、ありがとう‥‥右近の橘かぁ、私も見てみたい‥‥わきゃ!?」
「お姉ちゃん、すぬまのぢゃ〜」
 京都御所の方を遠い目で見ながら、開花した右近の橘を思い出した後、緒登へ屈託無く笑い掛けると、緒登は頬をほんのり桜色に染めながら、彼が向いていた方を向き、右近の橘に思いを馳せた。
 そこへ子供がぶつかってきて、武が緒登を胸の中へ抱き締める構図となった。
「橘さん、大和くん、そろそろ休憩にしませんか?」
 美琴のわざとらしい声で慌てて緒登を離す武。ねねの道界隈には甘味処が多く存在し、そこを巡るのも美琴と緒登の自由見学の一つだった。
 宇治茶と京菓子にしばし舌鼓を打つ女性陣。
「‥‥あの子供、清水寺にいたわよねぇ。誰かに似てるのよねぇ‥‥」
「弁財天様‥‥武さんと緒登さんがさり気なくたくさん話せるように仕向けているようですが‥‥弁財天様が一番武さんとお話ししておりますよ? しかも食べ物の事ばかり‥‥」
 子供の後ろ姿を思い出し、訝しがる光。そこへ探女が突っ込みを入れた。

「山都達は全員揃っているようだな」
 ねねの道の甘味処を梯子した後、全国に三千以上ある祇園社の総本社、八坂神社へ来ると、生徒達がきちんと班別に自由見学をしているか見回っている繁雄と出会った。
「(ディオニュソス様が美味しい日本酒に目がないのは仕方ないですしね)酒田先生はもうお土産を買われたのですか?」
「祇園はいい京土産が多いぞ〜。少し足を伸ばせば新京極もあるから、自由見学が終わったら行くといい」
 繁雄の手に京都の銘酒が提がっているのを認めた探女がさり気なくフォローする。
 気が付けば二時を回っており、緒登達は武の勧める祇園にある豆腐料理の店で遅い昼食を採った後、法然上人が浄土宗を布教し、日本最大の三門を抱える知恩院まで足を伸ばして自由見学を終え、今度は祇園と新京極とを梯子したのだった。


●切っ掛けは
 夕食後、部屋でくつろいでいた武は、同室の男子生徒達に緒登との関係を聞かれた。「友達だけど?」と応えると、ねねの道で武が緒登を抱き締めたところを見られていたようで、男子生徒は納得がいかない様子。武は何度も事故だと説明するが、男子生徒は食い下がり、初日の新幹線の中で楽しくお喋りしていた事も挙げ、「学校のアイドルを独り占めする奴は許さない」と大義名分を掲げ、敷いてあった枕をぶつけてきた。前年度の高校生剣道全国大会の個人戦優勝者である武は、動体視力には自信があり、枕を簡単に避けると、その部屋の男子生徒全員が武目掛けて枕を投げ付けてきた。
 これが、枕投げバトルロワイヤルの切っ掛けだった。『大和武を倒した者は、今夜、橘緒登と一緒の時間を過ごせる』‥‥そんな噂が流れ始め、緒登に憧れている生徒は男女問わず枕を持って蜂起したのだ。
「さーて皆さんお待ちかねぇ、枕投げバトルロワイヤルの時間がやってまいりました。実況あーんど審判は、私、光が務めます♪ バトルロワイヤルなのでルールはシンプルに! 枕が当たった人は失格、それ以降の参加は不可。後、宿を損傷させた人も失格です。さぁ、このバトルロワイヤル、最後まで立っていられるのは一体誰なのかっ!」
「何、実況してるんだい!」
「ふにゃ!?」
「物を壊すなよ」
 何故かノリノリで実況している光。武を影ながら支援する形で男子生徒を殲滅していた真珠だが、ハイテンションになったのか、光へ一騎打ちを挑んだ。実況に専念していた彼女はあっさり轟沈。そこへ旅館内で騒ぎを起こしていないから見回りに来た繁雄が一言言い残して黙認した。
「ふふふ、邪魔をする方は赦しませんよ?」
 敵に対してにっこりと笑みを湛えながら誰彼構わずばかすか投げる探女。その笑顔に戦意を喪失してしまうので、これは手強い。
「ふふふ、弁天様の仰る通り、枕投げはこんなにも楽しいスポーツなのですね」
 参戦しなくては始まらないと参戦したところ、初めて味わう枕投げの楽しさに酔いしれる探女は、本来護るべき武にすら枕を投げ付けていた。その枕は武を狙っていた女子生徒――武の性格上、女子生徒へ反撃できない――に当たり討ち取っていくので結果オーライ?
「どの部屋に行っても枕投げをしているみたいなの」
「橘さんはこの部屋から出ない方が良いです‥‥って、残っているのは大和くんと天埜さん、綾小路さんだけのようですね」
 枕投げバトルロワイヤルの意味も分からず、あたふたしている間に決着は付いたようだ。もっとも、美琴が流れ枕から緒登を護っており、本人の与り知らないところで始まり、そして終わっていた。

「嫌なら断っていいんだぜ?」
「ううん、私は知らなかったけど、そういう事になってるなら、武君と一緒に散歩するよ」
 「勝ち残った大和くんが橘さんと出掛けないとみんな納得しない」と美琴の説得もあり、武と緒登は旅館の周りを散歩する事になった。
(「‥‥そういえば、私、今、大和君と二人きりなんだ。あれ、顔が熱い‥‥どうしたんだろう、私?」)
 今までの緒登なら、男子と二人っきりでもさして気に留めなかっただろう。しかし、無意識の内に武を男性として意識し始めてた今の緒登は、本人も理由は分からないが何故かドギマギしてしまい、顔を少し紅く染めながら、「えぃ!」っと思い切って武の手を握った。
 武も緒登の細く滑らかで、わずかに震える手を握り返すと、どちらとも喋る事なく、でも微笑み合いながら幸せそうに散歩したのだった。

「弁財天様の祝福の賜物ですね。見ていて心がほっこりします」
「きゃる〜ん☆ 色々あったけど今回もなんとかなったかな?」
「サラスヴァティ、キャラが違うよ」
 初々しく手を繋いで歩く武と緒登の確実に芽吹いてゆく想いへ、弁財天の祝福を贈る探女。恋愛成就が上手くいっている事に安心した弁財天の口から出た台詞を突っ込むのはディオニュソス。
「しかし、あの子は誰だったんだろうねぇ」
「まぁ、いいんじゃない?」
 清水寺やねねの道で会った男の子の事を思い出すパールヴァティに、大黒天はただ笑い返すだけだった。


♪当たって砕けて 落ち込んだ時は
 一人で篭ってたら ダメになっちゃうよ
 窓を開けて 朝陽を浴びよう
 きっと元気が 沸いて来るから

 晴れた日には バスに乗って
 知らない街に出かけよう
 辛い日は 過去に置いてきて

 晴れた日には バスに乗って
 知らない街に出かけよう
 胸の奥に 閉まっていた
 ときめきが動き出すから♪


●CAST
 大和武:蓮城 郁(fa0910)
 橘緒登:咲夜(fa2997)

 山都美琴:結城 紗那(fa1357)
 天埜探女:観月紗綾(fa1108)

 ディオニュソス(酒田繁雄):梁井・繁(fa0658)
 パールヴァティ(綾小路真珠):黒影 美湖(fa3594)
 シヴァ(大黒天)/謎の男の子:日宮狐太郎(fa0684)
 サラスヴァティ(弁財天)/エンディングテーマ:フィアリス・クリスト(fa1526)