岩に刺さった剣ヨーロッパ
種類 |
ショート
|
担当 |
菊池五郎
|
芸能 |
1Lv以上
|
獣人 |
4Lv以上
|
難度 |
難しい
|
報酬 |
18.1万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
05/29〜06/02
|
●本文
イギリスはロンドンより南西に100km程離れたイッチン河畔の町ウィンチェスター。
この町の郊外に打ち捨てられた古い教会があった。教会には使われていない地下墓地(カタコンベ)が今も残されており、司祭が不在という事もあって地元の者は近付かなかった。
しかし、最近、この教会付近を通り掛かった観光客から相次いで奇妙な目撃情報が寄せられていた。誰もいないはずの教会の中から物音がしたり、動物の死骸が散乱しているという。
WEAが先んじて調査したところ、どうやらナイトウォーカーの仕業らしいと目星をつけた。
それだけではない。調査員の話では、教会の中に『岩に刺さった剣』があるというのだ。
だが、その報告を最後に、調査員は消息を絶ってしまった‥‥。
『岩に刺さった剣』といえば、思い浮かぶのは、中世イギリスにおいて“円卓の騎士”を率いてイギリスを統一した王アーサー・ペンドラゴンが持っていた王者の剣『エクスカリバー』だ。
「アーサー王の伝説では、ウィンチェスターはキャメロットと呼ばれていましたの。エクスカリバーである可能性はありますわ」
そう説明するのはリュシアン・リティウム。ロックヴォーカルからテレビドラマの俳優までこなす女性マルチタレントだが、アーサー王の伝説やティル・ナ・ノーグといったイギリスの伝承やおとぎ話に造詣が深い。
「‥‥ただ、岩に刺さった剣は、アーサー王の伝説にもう1本登場しますの。円卓の騎士の1人、ガラハッド卿が持っていた剣ですわ」
聖杯を見出した円卓の騎士ガラハッドもまた、岩に刺さった剣を有していたという。
「どちらにせよ、この岩に刺さった剣がオーパーツである可能性が高いですの。皆様には岩に刺さった剣の調査と、消息を絶った調査員の調査をお願いしたいのですわ」
岩に刺さった剣は形状を確かめるだけでいいという。エクスカリバーは大きな鍔と丸い柄が付いており、ガラハッド卿の剣は柄を上にして持つと十字架のように見えるというのだ。
また、ウィンチェスターの別の場所でも同時期にナイトウォーカーが現れている事から、調査員もナイトウォーカーの毒牙に掛かった可能性は高いといえる。
教会及び地下墓地を調査するのであれば、最低限の装備は調えるべきだろう。
「くれぐれも岩に刺さった剣を抜こうとは思わない事ですわ。もっとも、エクスカリバーであれば王者の資格のある者しか抜けませんが、ガラハッド卿の剣は相応しくない者が持つと呪いの虜になってしまいますから‥‥」
最後に注意を促すリュシアンだった。
●リプレイ本文
●甦るアーサー王の伝説?
ウィンチェスターの郊外にある教会に現れたというナイトウォーカーと『岩に刺さった剣』。それらの調査の途中で消息を絶ったWEAの調査員。追跡調査を依頼したリュシアン・リティウム(fz0025)が待ち合わせ場所に指定したのは、ロンドンの郊外にあるパブ『Gomory』だった。
お昼過ぎという事もあり、店内には先に来ていたリュシアンとGomoryの女性マスター以外いなかった。御影 瞬華(fa2386)達の姿を認めると、女性マスターは看板を『CLOSES』へ変える。
「さて、今回は調査ですか‥‥『岩に刺さった剣』とはまた、興味の引く話ですね」
「薄暗い地下墓地(カタコンベ)‥‥其処で、特派員達が見た物とは‥‥いったい!? ‥‥地下探索って、そんな気分じゃないか?」
瞬華が切り出すと、地酒(ローカルビール)を飲んでいたせせらぎ 鉄騎(fa0027)がナレーションの真似をした。
「カタコンベに数百年前の聖剣が今頃発見ねぇ‥‥胡散臭い匂いがぷんぷんするよ。誰の罠って訳でもないと思うけど‥‥」
「私、伝承や神話は大好きなのですよ。たとえ御伽噺だとしても、全てを解き明かすまでは夢がありますから。私達獣人がいるのなら、御伽噺も幻想と割り切って捨てるにはもったいないと思いませんか?」
早切 氷(fa3126)が面倒くさそうに灰色の髪を掻いた。瞬華は微笑みを湛えたまま身振り手振りを交える。
「小太刀を扱う者として、純粋に『岩に刺さった剣』に興味があったので調べたのじゃが‥‥リュシアン殿が「抜かない方がいい」というように、なかなかに厄介な代物のようじゃ」
小太刀の二刀流を主とする古流剣術の使い手、天音(fa0204)は、調べたアーサー王の伝説に関する資料のコピーを全員に配った。
アーサー王が抜いた『岩に刺さった剣』(=エクスカリバー)は、刺さっていた岩に「この剣を引き抜く者こそ、真のブリテンの支配者である」と刻まれていたという。イギリスの王たる資格を持つ者でなければ抜けないようだ。
一方、円卓の騎士の1人、ガラハッド卿が抜いた『岩に刺さった剣』は、真の勇者であれば抜く事が出来るそうだ。しかし、真の勇者であっても、持ち主として相応しくなければ剣の呪いの虜となり、人を次々と殺めてしまうというのだ。
「ガラハッド卿の剣だとしたら、俺達でも抜ける可能性があるって事か?」
(「やるなと言われればやりたくなるのが人情だよね♪ それに人生何事もチャレンジあるのみってね♪」)
驚く小塚透也(fa1797)の傍らで、ベルシード(fa0190)はほくそ笑んだ。抜ける可能性が出てきた上に、強力な呪いが掛かるという話は彼女にとっては人生を楽しくするスパイスでしかなく、一層やる気が増した。
「俺は、強力な武器よりも、ナイトウォーカーに憑かれた人や動物を助けるオーパーツの方が‥‥現状、倒すしかないだけに、な‥‥」
「俺も岩に刺さった剣が、ナイトウォーカーを攻撃する事によって、ナイトウォーカーだけが死んで寄生された生物を助けられるっていうオーパーツなら、喉から手が出る程欲しいけどな。リュシー、そういう文献や噂について聞いてないか?」
「残念ながら今のところは‥‥」
ジーン(fa1137)に同意する透也。しかし、リュシアンは申し訳なさそうに頭を横に振った。
「岩から剣が抜けないなら、岩の方を砕けばいいんじゃないの?」
「ベルシード殿の言う事は一理あるでござる。もし誰にも抜けないようなら、岩を切断して剣を持ち出せないか試したいのだが、どうでござろう?」
「調べてもらったテンオトサンには悪いけど、しっかし、物好きが多いねえ。呪いの掛かった剣なんて、触らぬ神に祟りなしだと思うけどねえ‥‥」
「天音(あまね)さんですわ。『岩に刺さった剣』は岩から抜く事に意味がありますし、岩自体、妖精の国のものとされていますので、獣人の力を以てしてもそうそう砕けないと思いますわ」
古流剣術を嗜み、居合いを得意とする七枷・伏姫(fa2830)がベルシードの提案に乗り、リュシアンに許可を求めたが、彼女は難色を示した。さり気なく氷の間違えを訂正するのも忘れない。
「調査員の遺留品を発見できれば、中に地図や資料があるかもしれないな」
「そういう事だな。ま、取り敢えず、調査員の安否と、剣の所在をはっきりさせなきゃな」
カタコンベは古いものだけに、内部構造などの資料はないとリュシアンが応えると、ジーンの言葉を受けて氷がそう締め括った。
●ウィンチェスター
ロンドンからウィンチェスターへ移動すると、透也とベルシードを中心に二手に分かれ、地元の人に教会とカタコンベの噂などについて聞き込んだ。
透也達は旅行者を装い、ベルシード達は旅番組の取材と称したものの、元々地元の人は近付かない場所である。透也が覚悟していたように、伝承を調べているといっても胡乱がられ、WEAが提供した以上の情報は得られなかった。
また、『岩に刺さった剣』の情報は一般人には公表されていないようで、こちらも有益な情報はなかった。大人達の関心は潰れた修道院で次々に発見される奇妙な死体の方に向けられていた。
そこは視点を変えて、透也が地元の子供に聞いたところ、大人達が近付かない教会は子供達の格好の遊び場だという。流石にカタコンベまでは入った事はないようだが、子供はお小遣い稼ぎに観光客を案内する事もあるそうだ。案内された観光客の中に調査員も入っていた。
「子供達が教会に入っている以上、『岩に刺さった剣』はカタコンベにあると見るべきだろう」
ベルシード達からの情報も取り纏めた結論を述べる透也だった。
●カタコンベ
リュシアンは教会の入口前に停めた車内で待機し、鉄騎達はヘッドランプや懐中電灯、予備の灯りのペンライトにトランシーバーを持ち、本格的な調査隊さながらの完全武装でカタコンベへ足を踏み入れた。
「比較的新しい足跡が確認できますね。大人と子供のもののようです」
「天井はそう高くないようじゃから、頭上からの攻撃は分かりやすいのう。先は二股に分かれておるようじゃ」
獣化した瞬華が鋭敏視覚を使い、出入口を調べた。天音は半獣化し、同じく鋭敏視覚を使って天井と先を見据えた。
先はT字路になっており、左右に分かれている。天音・ジーン・瞬華・伏姫が右手へ、鉄騎・ベルシード・透也・氷が左手へ向かう事になった。
「‥‥古いカタコンベのようだな。遺跡の調査員なら、傷を付けるような真似はしないと思うが‥‥」
完全暗視が得られるジーンを先頭に進む。壁は石造りの丈夫なもので、ところどころにキリスト教にまつわる壁画があった。瞬華がマッピングを行い、天音と伏姫がナイトウォーカーの奇襲を警戒して常に周囲に注意を払っている。
墓は移動させた後のようでもぬけの空だが、倒された墓石などが通路を塞ぎ、半ばダンジョンとなっていた。
ジーンは調査員が残したかも知れない目印や、念の為、真新しい傷跡やチョーク痕なども探すが、そういったものは見つからなかった。
『こっちも今のところ見つかって‥‥うん? こんなところに子供が‥‥』
「うわあああ〜!?」
氷達とトランシーバーでこまめに連絡を取り合っていると、前方から男性の悲鳴が聞こえた。
「こんなところに一般人が!?」
「透也殿が子供から聞いた、観光客かも知れないでござる」
天音と伏姫は人間へ戻ると、声のする方へと向かった。
男性が腰を抜かしてへたり込んでいた。彼の視線の先には惨たらしい変死体があった。ジーンは一目でナイトウォーカーに憑依された者の末路だと分かった。
瞬華が男性を落ち着かせて話を聞くと、死体は男性の連れの彼女だった。地元の子供に案内されて興味本位でカタコンベへ入ったのだという。
「一度、彼を外へ送り届けた方が良いですね」
瞬華がそう提案すると伏姫達は頷き、ジーンが肩を貸して来た道を引き返した。
L字路に差し掛かると、男性は「靴紐が緩いから結び直したい」とジーンを止める。天音達が先へ進んだところで‥‥。
「!? ‥‥ナイトウォーカーに感染していたのか」
男性はナイトウォーカーとしての本性を現し、1人になったジーンへ鉤爪で襲いかかってきた。ジーンは初撃を辛うじてかわして獣化し、出口の方へ行かせないよう立ち位置を変える。
そこへ瞬華達が騒ぎを聞き付けて戻ってきた。
「私の射線上に出ないように注意して下さいね?」
特殊警棒の二刀流で防御に徹し、ナイトウォーカーを引き付ける天音。その間、両手に構えたCappelloM92で、ジーンが見付けた装甲の弱い部分を的確に狙い撃ちする瞬華。
ジーン1人なら補食できると思っていたようだが、4人となれば話は別だ。ジーンと天音の攻撃によりコアが露わになると、ナイトウォーカーは逃げ出そうとする。
「逃がしはしないのじゃ!」
「これで‥‥止めでござる!!」
天音がナイトウォーカーの足元の地面に破雷光撃を放ち、出鼻を挫いて動きを牽制すると、今まで少し距離を置いて居合いの構えを取っていた伏姫が糸目を全開に見開き、弓を引き絞るように身体を捻りながら全速力で突撃し、間合いに入ったところで身体の捻りによって得られる回転力と俊敏脚足で強化された足による突進力を加えた渾身の突きをコアに放ち、破壊したのだった。
「セッキサンだっけ? 戦闘になったら頼りにしてるよ〜」
「鉄騎だ。盗掘除けの罠がいくつか生きているようだな」
氷にランタンで足下を照らしてもらいながら、自身はヘッドランプで壁などの罠を調べる鉄騎。殺傷力はないものの、盗掘除けの罠が生きているところをみると、大分昔に放棄されたカタコンベのようだ。
ベルシードが後方からナイトウォーカーの奇襲を警戒し、その隣では透也が難しい顔でマッピングを担当していた。
「誰かいるの‥‥?」
「子供の声だよ!?」
前方の曲がり角から子供の声が聞こえると、ベルシード達はすぐに獣化を解いた。氷がランタンの明かりを向けると、そこには小学生くらいの子供の姿があった。鉄騎が保護すると、子供は「観光客に面白い所はないかと聞かれ、ここに案内したがはぐれてしまった」と説明した。
「こんなところに子供が‥‥」
『うわあああ〜!?』
氷がトランシーバーでジーンと連絡を取っていると、男性の悲鳴がトランシーバーから聞こえてきた。
ベルシードに子供を任せ、鉄騎と透也、氷は瞬華達の方へ向かう。
「キミは‥‥ナイトウォーカーだったの!?」
ベルシードが1人になったところで、子供はナイトウォーカーへと変貌を遂げる。ワンテンポ遅れてベルシードも獣化し、口に生えた牙で噛みつこうとするナイトウォーカーを飛操火玉で牽制すると、その音で鉄騎達を呼び戻した。
だが、足が早い者がいないのが災いし、氷達が駆け付けた時には、ベルシードはかなりの飛操火玉を消費していた。このナイトウォーカーは壁面も地面にように歩き、かなりの俊敏だ。
「助けてあげる事は出来ない‥‥済まない」
今いる通路は比較的広いので、鉄騎は日本刀で、氷はクローナックルで牽制しながら左右から挟み撃ちにして注意を引き、透也が謝罪の言葉を呟きつつ、CappelloM92で足を狙い、機動力を削いだ。
弱ってくるとベルシードが残っている飛操火玉を放ってブラインド代わりにし、鉄騎が竜の爪でコアへ向けて手刀突きを繰り出し、続けて彼女がCappelloM92を零距離から撃ってコアを破壊したのだった。
その後、天音達は調査員の遺留品を、透也達は『岩に刺さった剣』をそれぞれの奥で見付け、合流したのだった。
●『岩に刺さった剣』
調査員は遺体すらなく、遺留品のリュックみが残されていたところを見ると、先程戦ったナイトウォーカーのどちらかに補食された可能性が極めて高かった。また、ナイトウォーカー同士は特に連携していない事から、どちらも『岩に刺さった剣』に引き寄せられた獣人達を単に補食しようとしていただけと考えられる。
地元の子供や案内されてカタコンベへ足を踏み入れた観光客のカップルは、ナイトウォーカーの依代にされてしまったのだ。
『岩に刺さった剣』は、その形状と岩に何も刻まれていない事から、ガラハッド卿の剣の可能性が高かった。
天音が刃の錆び具合や切れ味を確かめると、刀身は全く錆びておらず打ち立て同然で、その切れ味は日本刀を凌駕していた。少なくともオーパーツには間違いないだろう。
調査が終わったると、ベルシードが何も言わずに抜け駆けよろしく柄に手を掛けて抜こうとするが、彼女では抜けなかった。糸目に戻った目を再び見開いた伏姫や天音、鉄騎も試みるが、いずれも抜けない。
「何だ、簡単に抜けるぞ‥‥って、悪ぃ」
『岩に刺さった剣』を引き抜いたのは氷だった。しかし、彼は引き抜いた次の瞬間、瞬華を斬りつけていた。辛うじてかわす瞬華。呪いに掛かった振りをしているのかと思いきや、氷本人もヤバイと思って剣を弾こうとしたようだが、剣は手から離れないのだ。
相手はアーサー王の伝説に登場するオーパーツである。そこまで甘くはない。
「くれぐれも! ‥‥こっちに呪いをふり撒かないで下さいね?」
瞬華とジーン、透也が散々籠手打ちを繰り出し、ようやく氷の手から『岩に刺さった剣』は落ちたのだった。
リュシアンが氷の手当てをすませ、子供と観光客のカップルの変死体を回収した後、『岩に刺さった剣』を預かった。
また、ジーンの希望で調査員の遺留品は家族へ返された。すると、ジーンに感謝した家族が形見分けとして、調査員が愛用していた双眼鏡を彼に託したのだった。