少女と巨大武器―企画篇アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
8.5万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/01〜06/05
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●本文
――ガリガリガリガリ!!
耳を劈(つんざ)く、勢いよく金属とコンクリートの擦れる嫌な音が辺りに轟く。
その音の発生源は、ブレザーの上にカーディガンを羽織った少女だった。
16、7歳くらいだろうか。走る少女の手には、彼女の背丈を超える巨大な、そして無骨なグレートソードが握られていた。
その刃がコンクリートの地面と擦れているのだ。
「これで‥‥‥‥終わりよ!」
――斬!
グレートソードを横に薙ぐ。溜めた台詞からも分かるとおり、渾身の一撃だ。風を切る音が、その威力を暗に物語る。
助走を付けた事もあるが、年相応の少女の力とは思えない。
――キン!
しかし、遠心力という慣性に乗せたグレートソードを、軽々と受け止める物があった。
セーラー服を着た少女が持つ死神の鎌――デスサイズ――だった。
「まずまずの威力ですが‥‥その程度の攻撃であたくしを倒そうなど十年早いですわよ?」
「く‥‥」
グレートソードの刃とデスサイズの柄がクロスし、それらを境に間近で対峙する2人の少女。
必殺の一撃だっただけに、それを受け止められたブレザーの少女は唇を噛み締めながら、セーラー服の少女を睨め付けた。
愉しそうな笑みをこぼすセーラー服の少女がデスサイズの柄を押すと、ブレザーの少女はグレートソードごと、軽く一歩後ろへ下がる。
――斬!
――斬!!
――斬!!!
チアリーダーのバトンよろしくデスサイズを軽やかに旋回させると、ブレザーの少女の身体は刃によって切り刻まれた。
「この勝負、あったな」
「ええ」
2人の少女の戦いを離れた場所から臨む少女達が居た。
1人は自分の背丈の倍、いや、3倍はあろうか、斬馬刀を地面に突き立てたボーイッシュな少女。
もう1人は冷たい輝きを放つ、幅広の刃を持つ青龍偃月刀を、まるでお人形のように胸に抱くお嬢様然とした少女。
いや、彼女達以外にもそこかしこから戦いを臨む少女達の姿があった。
――以上が、1時間のTVドラマ『少女と巨大武器(仮題)』の導入部分である。
当ドラマは『巨大武器を振るって戦う少女達』をコンセプトとした、痛快チャンバラ活劇を予定している。
採用された企画は実際にドラマ化されるので、奮って応募して欲しい。
・技能傾向
美術/撮影/演出
●リプレイ本文
●実はタイアップ企画?
富田テレビにて放送予定の、1時間のTVドラマ『少女と巨大武器(仮題)』。その企画書を持った8名が一堂に介した。
「コレクションフィギュアとのタイアップ企画ですか‥‥なるほど、痛快チャンバラ活劇はスポンサーの意向ですね」
「なら尚の事、頑張って所員達に楽させてやらんとなぁ」
巻 長治(fa2021)は出されたコーヒーを一口飲んだ後、ディレクターより配られた資料に目を通した。別名トレーディングフィギュアともいうが、巨大な武器と美少女達がセットになったそれを売り出すのがスポンサーの目的だった。
悠然と煙管を吹かす鬼王丸・征國(fa0750)は知る人ぞしる鬼プロデューサーで、プロダクションを運営している。良い作品の製作に携わる事は、それだけ良い意味でネームバリューが広がり、プロダクション員も成功しやすくなる。
「『少女』が『巨大武器』を操り、死闘を繰り広げる‥‥普通に考えれば荒唐無稽過ぎて、一笑に付されておしまいでしょうね。視聴者に納得させる設定を考える必要がありますね」
「大型の格闘武器と近未来、コンクリートジャングル、少女‥‥まぁ、なんというか見事なまでのミスマッチですねぇ。創り甲斐があって結構じゃないですか」
弥栄三十朗(fa1323)と妃蕗 轟(fa3159)は、企画自体に忌憚のない意見を述べた。
「轟さんや三十朗さんから見ればそうかも知れませんが、少女が巨大武器を振るう、まさにその荒唐無稽さが『萌え』ではないのでしょうか?」
「そうそう、ダイナミックな番組よね。女の子と巨大武器のアンバランスがウケるのかもね」
2人の意見に一石を投じたのは白河・瑞穂(fa0954)と中松百合子(fa2361)だった。
(「萌えっていう意味じゃ、瑞穂が一番分かってるんじゃないか?」)
(「なるほど、萌えか。どうも俺だと特撮傾向になっちまうからな。姉御と合同で案を考えて正解だったかも」)
百合子達と同意見の暁 蓮華(fa0631)は噛んでいたガムを膨らましながら頷きつつ、白衣に緋袴――巫女装束――姿の瑞穂を見て心の中でそう付け加えた。
百合子の隣に座る蓮城久鷹(fa2037)は、今回、彼女と合同で企画書を持ち込んでいた。ドラマである以上、特撮はある程度切り離して考えなければならないが、彼の選択は間違っていなかったようだ。
●少女と巨大武器―企画篇
意見の交換をしている間に、それぞれの企画がプリントアウトされたファイルが配られた。
最初にファイリングされていた事もあり、征國が煙管を置くとおもむろに立ち上がった。
「先ず、少女達の正体じゃが、組織の暗殺者や、戦いで勝利すれば願を叶えられるというのに釣られて集った少女達じゃ。少女達は強化され、巨大武器を振るう事が出来る。猫耳などはまぁ、萌えの範囲だが、たとえば猫耳+尻尾ならば三半規管、熊耳ならば体力特化、鱗が生えていれば防御力や特殊能力など、強化された部分を視覚的に判りやすくできるじゃろ」
これなら獣人の特殊能力を使用しても問題ないだろう。
「次に少女達が戦う理由じゃが、自由、あるいは願を叶えて貰える事にある。願いを叶えるのは、組織の一員で組織を抜けて自由の身になる、重病人のコールドスリープや治療、倒産寸前の会社を助ける、といったように、黒幕の組織に叶えられる範囲じゃな。おっと、組織というのは蛇頭やマフィアなど、各国でそれなり以上の影響力を持つアンダーグラウンドな組織じゃよ」
そして組織が戦いを開く理由は、組織間の大規模な抗争を避ける為と、組織の力を他の組織に見せる為だという。組織の人員をいたずらに減らすより、代表同士の決着を付けるという寸法だ。また、この戦いで、どの組織の少女がどの程度の時間生き残るかなどの賭けにも利用されてるとすれば、闇組織の利権が動き、莫大な利益を得れるから、少女達の願いも叶えられるようになっていた。
「私の企画も鬼征さんとコンセプト的には近いかも知れませんね。少女達が巨大武器を振るう理由付けとして、『強化人間』がしっくりきたのです」
征國が座ると、代わりに長治が立ち上がった。
「ネオトキオの地下には、とある軍事目的の研究所があり、そこで次世代の強化人間の開発が行われていました。しかしある時、実験体の1人が暴走し、圧倒的な力を持つそれを止める事は難しく、上層部はやむなく研究所そのものを物理的に完全閉鎖し、時間を稼ぐという策を取ります」
強化人間や軍事目的の研究所という単語に、ディレクターが反応したようだ。
「そのしばらく後、既に実験体は死んだものと判断した上層部は、強化人間の少女達を現場に向かわせ、データを回収してくるよう命じます。しかし、この暴走の一件は既に他国、ここは他の組織でも構いませんが、それらの知るところとなっており、ほぼ時を同じくして、彼らもデータを奪取すべく強化人間を送り込みます」
各組織の強化人間の少女達はネオトキオにて遭遇し、ある者達は戦い、ある者達は一時的に手を結ぶ。やがて、少女達によって研究所のドアが破られ、封鎖は解かれる。
「しかし、実験体は基地内のコンピュータを操作し、基地の閉鎖が解かれるまで基地の最深部で冷凍睡眠状態になっていたのです。目覚めた実験体はデータを回収すべく基地内に侵入した少女達を敵と判断し、その圧倒的な力を持って排除していきます」
実験体の生存を知った上層部はネオトキオごと実験体を爆撃、破壊する事を決定し、生き残っていた少女達は目的を脱出に変更した。しかし、その彼女達の行く手に実験体が立ち塞がる! 決戦の末、実験体の足を止める事に成功した少女達は間一髪で脱出し、その背後でネオトキオが爆炎を上げて轟沈するのだ。
「少女達が願いを叶える為に戦うという、戦う理由では鬼征さんと似ていますが、私の方は『何でも1つ願いの叶う宝石』を主軸としています」
そう切り出す瑞穂。少女達が戦う理由は、優勝賞金20億と何でも一つ願いが叶うという宝石を賭けてだ。参戦する理由も、力を試したい少女、親の借金の為に戦う少女、親の仇の為に戦う少女、お金の為に戦う少女など様々だ。
「譲れない願いの為に戦っていく最中、武器を交わし理解し合い、生まれる女同士の友情や、揃って海に落下し、人工呼吸で救われ芽生える愛情など、様々な人間関係が1つ1つの戦いを通じて生まれてゆきます。萌え、という観点では女の子同士の恋愛は盛り込むべきですし、その切っ掛けとなる人工呼吸は絵的にも映えます」
しかし、同時に、少女達の戦いで生まれるエネルギーを宝石に集め、最強の兵器を始動させるという主催者の陰謀が明らかになる。
「終盤の山場は、一致協力した少女達に追い詰められた主催者が、最強の兵器を不完全な状態で始動させ、暴走してしまいます。その影響で傷ついた少女達に最早止める力は残されていないと絶望の縁に建たされる中、一番弱いと思われた少女の秘められた力で、それぞれの武器が合わさって聖剣となり、全員が手にし一気に振るって兵器を消滅させます」
エンディングは、兵器の中枢で砕かれた宝石が光の粒子となって少女達に降り注ぎ、ささやかな幸せや願いを叶えて終わる方向だという。
「やっぱり女の子は宝石に弱いわよね」
「俺と姉御‥‥いや、中松女史で考えた企画も宝石が主軸なんだ」
瑞穂の企画の説明を聞き終えると、百合子が彼女へ微笑み掛けた。瑞穂と百合子はなかなか気が合うのかも知れない。
一瞬、射るような鋭い視線を感じたのか、久鷹は百合子の名を言い直しながら説明に入った。
「精霊の力を宿す宝石を手に入れた少女達が、『精霊石を全て集めた者は願いが叶う力を得る』というお伽噺に半信半疑、望む望まざるも戦いへと誘われる。自分の石を賭けて戦い、勝者は相手の精霊石を手に入れてゆくんだ」
「精霊石の効力だけど、攻撃・防御・回復・補助など、属性の魔法に似た技が使えるの。複数の精霊石と組み合わせ新しい技も得られるわ。そして少女達が振るう巨大武器は、普段は石を嵌めたアクセサリーで戦闘時に武器へ変化するのよ。契約者が使用する場合は精霊の加護で軽量化され、実際は見た目程重く無いという設定ね」
久鷹と百合子が交互に説明してゆく。巨大武器がアクセサリーというのは、女性らしい発想だろう。
「舞台となる『ネオトキオ』は、精霊の力が働き、石の力を引き出す事が可能な場所になっている。撮影時の半獣化は、武器装着時に石の力の具現化か、滅んだ種族である獣人のハーフとして暮らす、といった設定が妥当かな」
「ごく普通の生活や平穏な日常を送り、その反面、戦いへ身を投じる少女達の変化を映像化したいわね。痛快チャンバラ活劇だからアクションはもちろんだけど、それぞれが戦う理由や願い・望みは様々で、戦いの中で自分を見つめ直したり、戦いを拒みたい者と戦う事を欲する者との対立といった、二律背反な思想のぶつかり合う心理描写も入れたいわ」
「そうそう、願いが叶う件は、神の力や戦いを仕組んだ黒幕の口実ってオチを付けたいな」
最後に百合子が基本的なキャラクターとそれぞれが振るう巨大武器、宝石の組み合わせの原案を説明して締め括った。
「大型の武器と言われますと、青龍刀や斬馬刀など何故か東洋のイメージが強いですね。無論、グレートソードやハルバード、ランスといった西洋武器にもいい物は多いのでしょうけれど、私の偏見ですかね」
苦笑を浮かべつつ、そう前置きを入れる轟。
「さて、そこから広げて‥‥十二支‥‥四神、青龍・朱雀・白虎・玄武の所属に分かれており、数年に一度戦いを繰り広げる。その結果で何年か先までの情勢を占う巫女のような役割が少女達には課せられています。そこに黒麒麟‥‥『災厄』の象徴が浸透し、このままではネオトキオが象徴するような『堕ちた世界』になる、というお話です。過去にネオトキオで同じ戦いがあったというのも面白いかも知れません」
青龍には竜系と鼠系、朱雀には鳥系と蹄系、白虎には猫系と犬系、玄武には特殊系と熊系の獣人がそれぞれ付く、と獣人の種類を分けていた。
「災厄に汚染されなかった巨大武器が新たな適任者を見つけ、新たな適任者は悩みつつも戦いに足を踏み出す‥‥というのが切っ掛けで、無事であった仲間と共に、災厄に汚染された未来を少女達は救えるか? という流れです。それと巨大武器は人間型に変形します」
巨大武器には老若男女様々なタイプがあり、双子もあるという。本来、動物神である『彼ら』の力が戦闘時の少女達に力を与える為、耳が生えたり尻尾が生えたりする、というのが轟なりの萌えのようだ。
「皆良い物を持ってきたな‥‥だが、あたしのも負けてないぞ?」
そういって蓮華は説明を始める。
「少女達は強き未練を力に変えて、定められた魂を狩る、『死神候補生(デスカデット)』だ。その最終試験は十名の『死神候補生』達による死闘で、勝者は敗者の魂を吸収し、敗者の肉体は消滅するバトルロワイヤル。生き残った最後の1人だけが『死神(デス)』となり、未練を晴らす機会を与えられるんだ」
『愛する人に逢う為に――
憎き仇を討つ為に――
大切なものを取り戻す為に――
譲れない想いを胸に、少女達はその島――ネオトキオ――に集う‥‥!』
蓮華の企画書にはキャッチコピーもきちんと書かれていた。
「出だしは主役の少女達紹介だな。戦闘や会話を通じて、友情、或いは愛情も芽生えるだろう。しかし、少女達は死神候補生、相手の魂を吸収しなければ、自分が吸収され消されてしまう。少女達の葛藤や苦悩、魂を吸収した時、脳裏を巡る未練を描いてゆきたいな。クライマックスは親友となった2人の対決だ。そして最後の魂を吸収した時、少女の中で目覚める『魂』達‥‥生き残った少女は『死神』として生きず、未練も断ち切って仲間達の魂と共に旅立つ‥‥終わり方がしっくりくると思うよ」
「死神候補生ですか、なるほど‥‥私は、『ワレキューレ』としました。もっとも戦乙女ではなく、少女型近接戦闘兵器ですが」
少女の姿をしているのは戦場における視覚効果を狙ったのと、獣の遺伝子を取り込んでおり、獣の持つ特性を発揮出来る事にある、と、半獣化しても視聴者も納得出来る設定から切り出す三十朗。
「『ネオトキオ』を使って行われるのは最終試験です。指定の時間までに生き残った上位三機のワレキューレが制式採用となり、他は廃棄を含めた処分対象となります。自らの進退だけでなく、『妹』達の運命も彼女達の手に握られているのです」
その為、自らの力を頼み、独自に他の者達を狩っていく者。漁夫の利を狙い、暗躍する者。上位三機と言う事に目を付け、一時的に共闘を結ぶ者など、それぞれの「少女」に特徴を付け、その対比を楽しんでもらうコンセプトがあった。
「友情や裏切り、孤高なるが故の悲哀など、様々なドラマが繰り広げられるでしょう。そしてエンディングでは、最強のワレキューレと個々の力はそれほどでもない三人組が激突。それぞれが補完し合った三人組の勝利に終わるのです」
●果たしてドラマ化は!?
それぞれの企画の説明が終わる頃には、湯気を立ち上らせていたコーヒーもすっかり冷めていた。
ディレクターが立ち上がる。
どの企画も甲乙付けがたい為、可能な限り企画を採用し、時には設定を変え、隔週でオンエアしていく事になった。
最初に採用するのは瑞穂か久鷹&百合子、三十朗の企画で、早ければ来週中にも制作に入るという。そして視聴率の一番よかった企画が、コレクションフィギュアとのタイアップとなる事が告げられたのだった。