6月の花嫁ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/29〜07/03
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●本文
七福神が祀られた神社の境内。その拝殿の奥、御神体が祀られている本殿の入口に腰掛ける、2人の女性の姿があった。
1人は夏を思わせる鮮やかなカジュアルスーツ姿の女性で、この神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ。もう1人は白衣に緋袴――巫女装束――姿の女性で、この神社に仕える巫女、天埜・探女(あめの・さぐめ)だ。
梅雨の時期だけあって、連日、雨が降っている。弁財天といった神様は、人間に顕現(=変身)しない限り、普通の人にその姿は見えないし、雨粒で濡れる事もない。しかし、雨が降って憂鬱なのは人間と変わりないようだ。
ちなみに、探女は顕現していない弁財天達神様の姿を見る事が出来る、数少ない厚い信仰と裏表のない清らかな心の持ち主だ。
『しかし、癪よね。ラクシュミはこの時期は大忙しだっていうのに、あたしのところはいつもの散歩コースの人間ばかりよ』
「まぁまぁ、弁財天様。いつも欠かさずにお祈りして下さる事は、喜ばしい事ではありませんか。そういう信心深い方の無病息災を是非、ご利益として与えて下さいな」
タイトスカートから覗く、自身の自慢でもある黄金律の脚線美を誇る足をぶらぶらさせながら、弁財天はつまらなそうに呟いた。
ラクシュミ――吉祥天――は美と幸運を司る女神で、弁財天とは犬猿の仲だ。縁結びは得意中の得意で、『ジューンブライド』のこの時期は大忙しである。一方、弁財天は学芸、福徳を司っているが、縁結びはそれ程得意ではない。
なので、今の時期は比較的願い事も少なく、暇を持て余している。
すると探女は、このしとしとと降る雨の中、傘も差さずに濡れ鼠で参道を歩いてくる1人の女性の姿を認めた。今年流行のサマーワンピースに身を包み、鬢の髪を縦ロールにした、一見するとお嬢様風の女性だ。
雨の降りはそう強くはない。女性の姿を見ると、如何に長時間、この雨の中を歩いてきたかが窺える。それにおぼつかない足取り、俯いた顔などが、不安に拍車を掛けた。
「迦具土(かぐつち)さん‥‥! ‥‥うっ、ううっ‥‥」
女性はふらふらと拝殿の前まで来ると、震える手を合わせて参拝した後、いきなり賽銭箱に泣き崩れてしまう。いや、おそらくかなり前から泣いていたのだろう。
「弁財天様‥‥」
『あの娘の願いは‥‥』
心配そうに弁財天を見る探女。神様は自分と自分の眷属に対する祈願事は、心の声でも聞く事が可能だった。
女性の名前は須世理・毘売命(スセリ・ビメ)という。毘売命には火之・迦具土(ひの・かぐつち)という付き合って2年になる彼氏がおり、結婚の約束をしていた。
しかし、迦具土の両親は毘売命との結婚を快く思わず、別の女性との結婚を強引に進めていたのだ。
迦具土の家は『火之グループ』という大企業で、彼はその御曹司らしい。
毘売命は先程、迦具土に別れ話を切り出され、失意の内にこの神社まで来たようだ。
「‥‥迦具土さぁん‥‥ううっ‥‥迦具土さぁん‥‥ぐす‥‥」
『あなたねぇ、振られて悔やむくらい好きなら、先に結婚しちゃうくらいの甲斐性はないの!?』
「べ、弁財天様‥‥申し遅れました、こちらはこの神社の跡取りの弁天様、私はこの神社の巫女で天埜探女です」
弁財天は毘売命の前へ駆け寄ると、頭ごなしに怒鳴る。何の前触れもなく心の内を見透かされた毘売命は涙も引っ込み、仁王立ちする女性を呆然と見上げながら、状況が理解できずに目をぱちくりさせる。
慌てて探女が、自分と弁財天を紹介する。
『彼と結ばれたいんでしょ!? だったら、親が勝手に決めた相手より、自分の方が彼に相応しい事を見せつければいいのよ!』
「で、でも‥‥どうすれば‥‥」
『か・ん・た・んよ。結婚式に乗り込んで、花婿を攫っちゃえばいいのよ!』
「迦具土さんを攫うのですか!?」
『攫わなくても、「その人より私の方が相応しい」って、親の前で言ってやるのよ! それくらい出来なきゃ、あなたの恋はそこまでのものに過ぎないわ。さっさとその彼は諦めて、別の恋でも探したらどうかしら?』
毘売命の窮地に火が付いた弁財天は彼女を焚き付ける。
「‥‥嫌‥‥嫌です! 私は火之グループとか、お金目当てで迦具土さんを好きになった訳ではありませんし、迦具土さんを想うこの気持ちは誰にも負けません! その事を迦具土さんと迦具土さんのご両親にはっきりと伝えたいです!!」
哀れ、毘売命もやる気になってしまった。
『彼を攫ってきたら、ここで式を挙げるといいわ。あたし達が祝ってあげる。ね、探女?』
「はい、弁財天様に祝福されたお2人だけの神前婚も宜しいと思います(火之グループの結婚式ですから、かなり大掛かりなものになりますよね。弁財天様だけなら神力で何とかしてしまうかも知れませんが、毘売命様が一緒となると‥‥これは応援を呼んだ方がいいですね)」
火之グループについては探女も知っている。その発生は戦国時代の刀鍛冶職人の組合ともいわれ、今では包丁やハサミといった身近な刃物を始め、それにまつわるレストランチェーンを全国に展開する大企業だ。その大企業の御曹司の結婚式ともなると、さぞ大きなものと予想できる。
だが、略奪愛は弁財天のツボであり、一度燃えた彼女を止める事が出来ないのは、探女も重々承知だ。だから止めるではなく、毘売命の想いが少しでも実るよう、弁財天の親友にあたる女神パールヴァティに応援を要請しようと考えていた。
■主要登場人物紹介■
・サラスヴァティ(弁財天):外見20代後半。人間に顕現するとカジュアルスーツ姿の美女になる。神力は楽器による魅了、水を操る攻撃と防御、傷を癒す等。
・天埜・探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格だが、芯は一本通りしっかりしている。
・須世理・毘売命:外見20代前半。お嬢様大学に通う普通の大学生。お嬢様大学に通っているが、本人は一介の庶民。火之迦具土とはサークルで知り合い、相思相愛の仲。2年間の交際を経て、結婚を約束していたが‥‥。
・火之・迦具土:外見20代。刃物からレストランチェーンを手掛ける火之グループの御曹司で、既に火之グループの一員として働いている。気さくな性格だが親には逆らえない。
・速佐須・良比売:外見20代前半。親同士が決めた迦具土の婚約者。何度が火之グループ主催のパーティーで迦具土と会っており、惚れているらしい?
・パールヴァティ:外見20代後半。美の女神でサラスヴァティとは親友同士。人間に顕現するとエキゾチックな褐色の肌のストリートダンサー風の美女の姿を取る。 神力は吹雪・雷撃・炎撃・石化(いずれも広範囲攻撃)等。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※原則、獣化は出来ませんが、弁財天、パールヴァティ達神様の力は獣人の能力で代用しても構いません。
■技術傾向■
発声・芝居・演出
●リプレイ本文
●切っ掛けは‥‥
須世理・毘売命(すせり・びめ)にとって、その日はいつもと変わらない、2年の付き合いになる彼氏、火之・迦具土(ひの・かぐつち)とのデートだった。
いつも通り腕を組み、迦具土が毘売命をエスコートする。彼は派手に着飾らない。映画を観て昼食を採り、公園を散歩する。だが、迦具土の様子がいつもと違う。心ここに在らずといった雰囲気で、会話も上の空だ。
「迦具土さん、何かあったの?」
「‥‥本当に好きで結婚したい人が現れたから、毘売命さん、キミとはもう付き合えないんだ」
思い切って聞くと意外な答えが返ってくる。
「‥‥さよなら、もう二度と会う事はない」
毘売命は耳を疑うが、迦具土は少々容赦ない口調で言い放つと、呆然と立ち尽くす彼女をその場に残し、踵を返して離れてゆく。
(「これでいい‥‥怒りや怨みで僕の事を忘れてくれた方がキミの為なんだ‥‥」)
立ち尽くす毘売命の心を表すかのように雨が降り出した。
それからどうやって辿り着いたかは覚えていないが、気が付けば七福神を祀った神社におり、略奪愛は弁財天――サラスヴァティ――の好みで、その好みに付き合わされ、すっかりやる気になってしまう毘売命。
そこへスッと傘が差し出された。
「和歌姫さん!?」
「ああ見えて意外とそそっかしいお兄様の事ですから、毘売命姉様に詳しい事を言わずに別れ話を切り出したと思いまして」
和傘を差し出した少女は火之・和歌姫(ひの・わかひめ)。迦具土の妹であり、火之一族の守護神に仕える巫女だ。今も巫女装束を纏い、弁財天とパールヴァティへ巫女の敬礼する。
毘売命は迦具土に紹介されて以来、和歌姫と個人的に親しくしていた。会う事はあまりないが、電話やメールでやり取りしている。
毘売命が怪訝そうな様子を見て、和歌姫は「やっぱり」といった表情で返す。
迦具土の縁談を強引に進めているのは、彼と和歌姫の父、火之・別雷(ひの・わけいかずち)だ。火之グループは事業を拡大し過ぎ、本来の業種でなら挽回可能であった程度の躓きが大きな痛手となって圧し掛かり、資金繰り難で内情はかなり逼迫していた。
そこで資産家の速佐須家と縁続きになって、乗り切ろうとしているのだ。
「お兄様もグループの一員ですから、ご自分が人身御供になろうとしているのですわ」
「ふふふ、迦具土さんらしいわね」
『お、初めて笑ったねぇ。その笑顔にあんたの彼は惹かれたんじゃないのかい?』
振り方といい、グループの為になるやり方といい、迦具土らしい。全てを知った毘売命から笑みがこぼれた。
その吹っ切れた笑顔に、遊びに来ていたパールヴァティも快く手を貸す事を決める。彼女自身、想い続けてやっと夫の大黒天――シヴァ――と結ばれており、想いを共感していた。
「‥‥お兄様と結婚したら、火之グループからの風当たり厳しいけどよろしいですの?」
「そんな事は関係ないわ。迦具土さんの結婚相手は私が一番相応しいに決まってるって、自信を持って言える。それに迦具土さんだって、あんなに私の事を想ってくれてるもの。それを火之グループのみんなに分からせてあげるのよ!」
『よく言ったわ! 本当に相手の事が好きならそれを全てぶちまけないとね。いじけてないで自分の想いをぶつけて、それでもダメなら奪い取るくらいの勢いじゃないと!』
毘売命の迦具土への揺るぎない想いを確認した弁財天と和歌姫は頷く。
「でしたら和歌は、毘売命姉様にお味方致します」
『結婚式会場の見取り図ね。流石は和歌姫、これさえあれば結婚式やってる真正面から突撃出来るわよ―――――!!』
『あのねぇ、サラスヴァティ、見取り図が手に入ったのに、何でわざわざ真っ正面から突撃するんだい? こういう時は潜入するのがお約束だろ?」
『いやねぇ、パールヴァティ、冗談、冗談ヨ? 流石に正面から突撃するのは無謀だよね、うん。あはははは‥‥』
白衣の懐から油紙に包まれた式場の見取り図を取り出し、毘売命へ渡す和歌姫。パールヴァティに無謀な突撃案を突っ込まれ、弁財天の乾いた笑いが拝殿一帯に虚しく響いた。
「毘売命姉様、前日に家へ来て戴けますでしょうか? お1人味方に付けたい方がおりますの。変わった小父様ですが毘売命姉様の決意を認めて戴ければ心強いはずですわ」
くすくすと笑う和歌姫と軽く打ち合わせをした毘売命は、晴れ晴れとした表情で神社を後にした。彼女の気持ちに応えるかのように、降っていた雨も止んでいた。
「お初にお目に掛かります、弁財天様、パールヴァティ様、大和の武神、建御雷之神(たけみかづち)の巫女、火之和歌姫と申します」
和歌姫が改めて正式に挨拶をすると、火之グループの守護神である建御雷之神の協力を得る事を女神達に進言したのだった。
迦具土は一度家へ帰ると、スーツを着替えて車を回し、婚約者である速佐須・良比売(はやさす・らひめ)を迎えに行った。
「遅くなってすみません」
「迦具土さんが約束の時間に遅れるなんて珍しいですね。雨ですもの、気にしないで下さい」
家から出てきた良比売は、大人し目な夏物のワンピースを纏い、涼しげなつば広の帽子を被っている。
2人はお見合いをしてから、こうして何度かデートを重ねていた。
先程まで降っていた雨は車を走らせる頃には止んでおり、良比売の希望もあって自然公園へと向かった。
「あ、虹! 私、雨上がりの森林を散歩するの、好きなのですよ」
「水溜まりに注意して下さいね」
「その時は、迦具土さんが知らせて‥‥きゃ!?」
「おっと、困ったお嬢さんだ(良比売さんも楽しそうだ‥‥これで良かったんだ、これで‥‥)」
雨上がりの晴れ始めた空に架かる虹を、良比売は帽子を押さえて追い掛ける。迦具土が水溜まりに注意するよう呼び掛けた途端、良比売は水溜まりを踏みそうになる。迦具土は間一髪、良比売の身体を後ろへ、自分の方へ引き寄せ、水溜まりから救う。
思い掛けず迦具土の、服の上からは分からない逞しい胸元に引き寄せられた良比売は、照れ隠しから笑う。迦具土はその笑顔に自分を納得させるように心の中で何度も言い聞かせた。
その後、三つ星のフレンチレストランで夕食を採り、良比売を家へと送る。
「良比売さん‥‥結婚しましょう」
「‥‥はい」
迦具土がそう切り出すと、良比売はやや躊躇った後、肯定した。このお見合い、2人揃ってどこか乗り気ではないのは確かだが、既に式の日取りが決まっている以上、踏ん切りを付ける必要があったのだ。
●試練
迦具土の実家は結婚式を明日に控え、彼を始め、大半の者が留守にしていた。
和歌姫の案内で家の最深部へ。何度か遊びに来ている毘売命も家の奥へ入るのは初めてだ。
そこには神々しい、厳かな雰囲気の社があった。建御雷之神は火之グループの守り神で、創成期から一族を見守っている。特に刀鍛冶において一族と深く関わっているが、過度の干渉はせず、こと婚姻といった些事には無関心だ。
『和歌、この者が‥‥』
「はい、建御雷之神様。お兄様を心から好いており、またお兄様も本当の想いを寄せる須世理毘売命姉様です」
「は、初めまして、須世理毘売命です‥‥」
そこに仁王立ちする、狩衣姿に太刀を佩き、鬼神の能面を被った男性へ、和歌姫に紹介された毘売命は雰囲気に呑まれつつも頭を下げる。
『汝に問う、神に頼る前に自らが出来るだけの努力を重ねたのか否か』
「神様に? 確かに神社にお参りに行きましたけど、神様に頼るつもりはもうありません。それに、迦具土さんへのこの想いは神様に強要されるものでも、強制されるものでもなく、嘘偽りのない、私の本心です」
鬼神の能面越しでも、毘売命を見据える男性の鋭い眼力は感じる。しかし、彼女はそれを真っ向から受け止め、更に跳ね返したのだ!
すると、鬼神の能面の下の口元にかすかに笑みが浮かんだ気がした。
『良かろう、汝が想い、火之の一族に相応しい。儂からも祝福しよう』
「あ、ありがとうございます」
建御雷之神の眼鏡に適ったようだ。へなへなと腰を抜かす毘売命を支える和歌姫。武神の眼力に真っ向から立ち向かったのだから無理もない。
「明日は、弁財天様の神力で集中豪雨を起こして戴けないでしょうか? 騒ぎは小さい方が望ましいですから、招待客を出来るだけ減らしたいのです」
和歌姫はそう弁財天に耳打ちし、承諾を得た後、毘売命を休ませに出ていった。
『あまりの肩入れは、却って人の子の為にはならないと存じますが、天竺の麗しき女神の方々』
『古来より、女神に肩入れされるのは、清らかな心と信仰心の賜物だよ。あの子はそれを持ってるから、あたしもサラスヴァティも動いたんだ。あんたもそうだろう?』
建御雷之神は自らの神力のテリトリーである火之グループへ、弁財天やパールヴァティが介入してきた事を快く思っていないようだ。皮肉の1つも飛び出すが、そこは愛の女神、あくまで穏やかに受け流した。
●それぞれの明日
和歌姫の願い通り、その日は朝から雨だった。集中豪雨とまではいかないが、かなりの本降りだ。
火之グループは古い一族らしく、結婚式は神式で行う。超一流ホテルのワンフロアを借り切って、斎場と披露宴会場を設けている。
和歌姫の手引きで引出物を搬入する業者のふりをして裏口から入ると、弁財天が認識を誤魔化してそのまま引出物置き場に居座る事にした。
『式の様子を見てくるわ』
『あたしも行くよ。サラスヴァティ1人だと、毘売命を置いて突撃しそうだからねぇ』
『私ってそんなに信用ない?』
弁財天はラベンダー色のマーメイドラインのドレスを、パールヴァティは純白のスリットドレスに身を包む。
2人のやり取りを見てくすくすと笑う毘売命。緊張は解けたようで、パールヴァティは彼女の手を握った。
『あなたがちゃんと決めないと本当の幸せなんて来ないし、先に進めないのよぉ』
「はい」
しっかりと頷く毘売命だった。
結婚式は大詰めを迎えた。
「迦具土さん、これから私と幸せに‥‥」
良比売がそう決意した次の瞬間。
「迦具土さん! あなたそれで良いの!? 私は認めないわよ!!」
「毘売命さん!?」
会場の観音開きの扉がバーンと盛大な音を立てて開き、ウェディングドレス姿の毘売命がつかつかと足早に迦具土の前へ歩み寄る。突然の事に親族達は呆気に取られている。
「キ、キミはもう関係ない事だ」
「あなた達は一体何? 迦具土さんもこう言ってるし、さっさと出ていって下さい。人を呼びますよ!」
平静に言い放つ迦具土だが、想いで結ばれている毘売命には狼狽えているのが見て取れる。毘売命の前に立ちはだかる良比売。
「だいたい、両親の敷いたレールの上しか通っていけないようでは、火之グループもあなたの代でお終いよね! 私、そんな弱いあなたを好きになった覚えなんかないわよ!? 思い出して、本当のあなたを!!」
「小娘が言わせておけば!」
『一本取られたな別雷よ。この娘こそ迦具土の嫁に相応しい。2人なら火之グループは末永く安泰だろう』
毘売命を追い出そうと別雷が立ち上がると、近くに座っていた和歌姫の口から建御雷之神の声が聞こえた。和歌姫の身体を借りたのだ。
「私は自分に自信を持って、心に正直に生きる事に決めたの! あなたに相応しいのはこの私よ」
「一度振った僕を変わらず愛してくれている女性(ひと)を振る程、僕は自惚れ屋ではないよ‥‥すまない、良比売さん」
「‥‥薄々、そんな気がしていました。その女性が迦具土さんの本当に好きな女性なのですね。それに‥‥そこまで言い切る自信、私にはありません。これからは私ではなく、その女性の事を大切にしてあげて下さい。そして‥‥幸せになって下さいね」
毘売命の言葉を全て受け止めた迦具土は笑顔で頷き、良比売の方を向く。彼女も迦具土の本当の気持ちに気付いていたようで、首を左右に振った。
「キミに僕を支えていて欲しいんだ。お父さん、お母さん、この結婚は白紙に戻して下さい。僕はこの女性と、須世理毘売命さんと結婚します」
それが生まれて初めての、迦具土の両親への反抗だった。
「うぅ‥‥うわぁぁぁぁん!!」
『よく頑張ったね。次はあんたが幸せになる番だよ』
別れ言葉を切り出し、会場を後にした良比売は、パールヴァティの豊満な胸に抱かれた途端、堰を切ったように泣き出した。パールヴァティは「迦具土の遠い従姉のお姉さん」として認識を誤魔化している。
『パールヴァティ、今回もありがとね。何か暴走しちゃったみたいだし』
『あんたの暴走はいつもの事だし、気にしてないよ』
愛の女神は今度は良比売に幸せになってもらいたいと思い始めていた。
「幸せ‥‥パールヴァティさんの事、お姉様って呼んでいいですか?」
良比売は涙目でパールヴァティの顔をすがるように見上げる。彼女の恋の行方は迷走を続けそうだ。
♪〜‥‥
夢へ向かうこの道を ゆっくりと歩いてきた
ゴールはまだ見えないけど 諦めずに歩いていく
自分が嫌いになる日も 苦しい日も
目を閉じれば 君の姿が目に浮かぶ
大好きだよ♪ ずっと励ましてくれる
大好きだよ♪ ずっと会いたかったよ
だから 心をこめて君に‥‥
〜♪
●CAST
須世理・毘売命:瀬名 優月(fa2820)
火之・迦具土:リュアン・ナイトエッジ(fa1308)
速佐須・良比売:姫月乃・瑞羽(fa3691)
火之・和歌姫:美森翡翠(fa1521)
火之・別雷/建御雷之神:弥栄三十朗(fa1323)
パールヴァティ:黒影 美湖(fa3594)
サラスヴァティ(弁財天)/エンディングテーマ『大好きだよ♪』:フィアリス・クリスト(fa1526)