七夕ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/08〜07/12
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●本文
「ささの葉さ〜らさら〜♪ のきばにゆれる♪ お星さまき〜らきら♪ きんぎん砂子♪」
ここは七福神が祀られた神社の境内。社務所から鈴を鳴らしたような『たなばたさま』の歌が聞こえてくる。
「五しきのた〜んざく〜♪ わたしがかいた♪ お星さまき〜らきら♪ 空から見てる♪」
二番を唄おうとすると、どこからともなく琵琶の伴奏が加わる。その伴奏に珠を転がしたような美声を合わせて披露しているのは、白衣に緋袴――巫女装束――姿の女性、この神社に仕える巫女、天埜・探女(あめの・さぐめ)だ。
『探女、楽しそうね』
「はい、弁財天様。もうすぐ七夕ですからね」
探女は社務所の窓口の脇に立て掛けた笹へ七夕飾りを付けている。声を掛けたのは、透けるような薄絹を幾重にも纏い、羽衣を羽織った女性だった。黒曜石を融かして糸にしたような漆黒の髪を結い上げ、神秘的で古風な雰囲気を漂わせている。その手に五絃の琵琶を持つ彼女は、この神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ――だ。
「しかし、彦星と織姫、一年に一度しか会えないなんて可哀想ですよね。今年は会えると良いのですが‥‥」
『あの2人、見ているこっちが充てられる程ラブラブで、一緒にいるといちゃついて仕事をしないから、一年に一度しか会えなくなったのよ? 日本だと梅雨時だから天の川も増水するけど、彦星が渡る時は無数のカササギがやってきて、天の川に自分達の身体で橋を架けてくれるから、実はちゃぁんと彦星と織姫は会っているのよ』
「でしたら今年も彦星と織姫は会えますね、よかった〜」
女神の見地から七夕の裏事情を語る弁財天。そんな事を話せば、子供達の夢を奪いかねないが、七夕の伝説を本気で信じている探女は安堵の息を漏らした。
『それが今年は、そうもいかないんだ‥‥』
『あら彦星じゃない‥‥って、どうしたのよその格好!?』
すると、弁財天と探女の後ろから男性の声が掛かる。振り返ると、いつの間にか全身水浸しの男性が居た。
「この人が‥‥彦星さん?」
『ええ、彦星よ。でも、本当にどうしたの? これから織姫のところに行くんじゃないの?』
『それが‥‥天の川の増水が思いの外酷くて渡れないんだ』
この男性が彦星本人だと弁財天から説明を受けた探女は納得する。甚兵衛羽織を着て下駄を履いており、これから七夕のお祭りに行くような出で立ちだからだ。
「先程、弁財天様が教えて下さいましたが、天の川が増水しても無数のカササギがやってきて、天の川に橋を架けて下さるのですよね?」
『そのカササギが、何故か来ないんだよ』
探女が先程の弁財天の話を思い出すと、彦星は残念そうに頭(かぶり)を振った。
『じゃぁ、あなたの愛人は? ほら、アルタイルちゃんとベガちゃん! あの娘達ならあなたを背中に乗せて天の川くらい渡れるでしょ?』
「愛人ですか‥‥なるほど、愛人を抱えているので、天帝様が織姫さんとの仲を良く思っていないと?」
『愛人言うな! この巫女が勘違いしてるじゃないか! アルタイルとベガっていうのは、俺が飼ってる雌牛の名前なんだ。雌牛といっても普段は君達人間の姿をしているけどね。せっかく織姫の星の名前を付けて可愛がっているのに、織姫も何かにつけてベガとアルタイルの事で機嫌悪くするんだよなぁ』
「彦星さんのお仕事は牛飼いなんですよね? ‥‥あ! 申し遅れました、私はこの神社に仕える巫女で雨埜探女と申します」
ベガはこと座の1等星で、アルタイルはわし座のα星で、それぞれ織姫星・彦星と呼ばれている。
そこで探女は自分がまだ名乗っていない事に気付き、恥ずかしそうに慌てて頭を下げた。
『‥‥だけど、アルタイルもベガも、ここのところの寒暖の差で風邪を引いて寝込んでいるんだ』
『あんですとー!? 自分の飼ってる雌牛の管理くらい、しっかりしなさいよ! あなた、天の川の畔の星雲で放牧を手掛ける牛飼いのプロなんでしょ!?』
『面目ない‥‥しかし、どうもおかしいんだ。アルタイルもベガもこの間まで元気だったのに急に風邪を引くし、織姫も最近、機を織っていないらしいし‥‥だから今年は、どうしても織姫に会いたいんだ!』
『最近、織姫ちゃんの織った機、見かけないわね。あたしの着ているこの衣も、織姫ちゃんの機で作ったの。丈夫だし、肌触りが違うのよねぇ。分かったわ。あたしも一肌脱ぐわ‥‥彦星、あなた確かカナヅチよね?』
弁財天に牛飼いのプロとして飼い牛の管理不行き届きという痛いところを突かれ、しょぼーんとなる彦星。だが、最愛の織姫の様子がおかしい事に薄々気付いており、織姫の織る機の愛好家である弁財天もその事を裏付ける。
七夕が近付くにつれ、彦星は居ても経ったもいられなくなり、どうやら天の川へ飛び込んだようだが‥‥。
『あまりそういう事は言わないでくれ。この有様を見れば分かるだろう?』
『こうなったら特訓あるのみよ!!』
そう、彦星はカナヅチだった! だからこそ、カササギや雌牛といった天の川を渡る為の手助けがあるのだが、今年はそれらが期待できそうにない。そこで河の神弁財天が一肌脱ぐ事にしたのだ。もちろん、お目当ては織姫の機だが、それは内緒にしておこう。
「しかし、弁財天様‥‥カササギの件と良い、飼い牛の件と良い、何か作為的なものを感じませんか?」
『探女もそう思う? もしかしたら誰かが彦星から織姫を奪おうとしているのかも知れないわ』
こうして彦星の特訓が始まったのだが、弁財天と探女は不安を拭いきれなかった。
■主要登場人物紹介■
・サラスヴァティ(弁財天):外見20代後半。元々は河の神で、そこから音楽神、福徳神、学芸神となる。人間に顕現するとカジュアルスーツ姿の美女になる。水泳は泳いで世界一周が出来るくらい、得意中の得意。
・天埜・探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格だが、芯は一本通りしっかりしている。禊ぎをする為か水泳はそこそこ得意。
・彦星:外見20代。天の川の畔に広がる星雲で雌牛を飼う牛飼いの男性。働き者だが、カナヅチ。
・織姫:外見20代。機織の上手な働き者の女性で、天帝の娘。織姫の織る機は女神の間で人気が高く、入荷と同時に売り切れてしまう程。それで過去に女神同士の戦いが勃発したとかしないとか‥‥。
・カササギ(複数):七夕で織姫と彦星の間をつなぐ掛け橋の役を担う鳥。鳥乙女とも呼ばれ、人化する事が可能。何者かに渡来を邪魔されているらしい?
・アルタイル、ベガ:彦星が飼っている雌牛達。普段は人間の美少女(あるいは美女)の姿を取っている。
・天帝:外見40〜60代。織姫の父親にして、その正体は七福神の一神、毘沙門天(多聞天)。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※原則、獣化は出来ませんが、カササギとアルタイル・ベガは半獣化が基本になります。
■技術傾向■
発声・芝居・演出
●リプレイ本文
●その頃、彦星達は‥‥
「弁財天、この装備は何だ?」
「ダイバー用の鉛のウエイトベルトだけど?」
「それは分かっている。じゃなくて! 何でこんなに一杯着けてるかって事だ!」
彦星の着ている甚兵衛羽織には、ダイバー用の鉛のウエイトベルトが、袈裟掛けと逆袈裟懸けと腰、更に両腕と両足首に巻かれていた。
ここは、弁財天が祀られている神社の近くにあるスポーツジムの屋内プールだ。カナヅチの彦星の特訓の為、天埜探女が口を利いて貸し切りにしたのだ。
弁財天は薄紫色を基調としたハイレグビキニに身を包み、豊満な悩殺バディを惜しげもなく晒している。一方、探女は楚々として可憐な白のワンピース+パレオ姿だ。
既婚者はいえ、本来ならここまで特化した対照的な魅力を擁する女性が2人も目の前にいれば、漢として目を奪われないだろうか!? いやない!!
だが、今の彦星にその精神的余裕は皆無だった。
「まさか、この出で立ちで泳げってんじゃないだろうな!?」
「マイムマイムを踊ると思う?」
「お前が実際に泳げるか手本を見せてみろよ!」
自分の体重に匹敵する重りを着けて泳げる訳がない。彦星の考えは至極もっともだが、探女に彼と同じ量の重りを着けさせ、プールへ飛び込んだ弁財天は、重りなど付けていないかのように100mを軽々と泳ぎ切ってしまう。
「嗚呼、何て鮮麗されたお美しいクロールのフォーム! まさに美の結晶です〜」
(「何だ、割と簡単そうじゃないか」)
胸の前で手を組み、瞳はハートマーク、うっとりとした表情を浮かべる探女は、まさに恋する乙女だ。その傍らで彦星は1つ、大きな思い違いをしてしまう。
「これで文句はないでしょう?」
「もちろん‥‥ごぼがばごば‥‥」
弁財天と入れ替わるように飛び込んだ瞬間、進む暇もなくそのままプールの底へ沈む彦星。
河の女神である彼女が軽々と出来たからといって、それはまったくと言っていい程手本にはならないのだ。
「ぜぃぜぃ‥‥お、俺を殺す気か!? これ、本当に役に立つんかよ!?」
「まだまだ大丈夫ですよね〜?」
弁財天に重りを外してもらい、プールの縁にしがみつきながら息も絶え絶えの彦星。それでも文句を言う様子を見た探女は、まだまだ行けると判断する。
「あのねぇ、七夕はもうすぐなんだから、悠長に普通の泳ぎの指導をしていたら到底間に合わないでしょ? こうなったら、身も心も魚になってもらうわよ!」
「なんだよそれ!?」
弁財天は重りを外す代わりにビート板を用意した。その上には何故かお茶碗や箸が置いてある。しばらくは、食事も泳ぎながら摂らなければならない程、ぶっ通しで泳がせるつもりのようだ。
「あらあら‥‥その程度で根を上げてしまうのですかぁ? 頑張らないと、織姫様、愛想尽かして逃げ出してしまいますよ〜」
「そうそう、織姫への真の愛があれば、身も心も魚になれるはずよ!」
「‥‥おりぃひめぇぇぇ! 待っててくれぇぇぇぇぇ!!」
『織姫』の名前を聞いて、彦星の瞳が『キュピーン☆』と輝く。彼はビート板に掴まり、ばた足で一心不乱にプール内を外周に沿ってくるくる回り始めた。
「織姫様の名前の効果は抜群ですね。彦星様に泳げるようになって戴きたいですが‥‥悪い事をしてしまったでしょうか?」
「彦星と織姫が今年の七夕に会えるかどうか、織姫の今年の新作の機(はた)が手に入るかどうか、全ては彦星が泳げるようになれば、丸く解決するわ!」
探女は、はちゃめちゃな特訓を彦星に押し付けた事を悪いと思っているが、弁財天は織姫の織る今年の新作の機が手に入れられるかどうかが問題のようだ。
「天の川が何やら騒がしいと思ったら、面白い事をしているじゃないか」
「あら、ディオニュソス様、いらっしゃいませ」
何の前触れもなく男性の声が背後から聞こえる。振り返った探女が深々とお辞儀をする相手は、左手にワインの瓶を、右手にワイングラスを持ち、袈裟のようなローブを着た男性だった。グラスの中のワインを飲み干し、瓶から注ぐが中のワインは減る気配がない。それもそのはず、男性はギリシア神話に登場する豊穣とワインと酩酊の神ディオニュソスだからだ。
「面白い事って気軽に言ってくれるけど、私にとっては死活問題なのよ」
「ははは、ここに来る途中、天の川の近くで会ったパールヴァティも同じ事を言っていたなぁ」
「パールヴァティ様まで!? あの、ディオニュソス様、織姫様や天帝様は今回の件、どう思われているのでしょう?」
「うぉぉぉぉ」と裂帛の気合いと共にひたすら泳ぎ続ける彦星を腕を組み仁王立ちして見つめる弁財天は、ディオニュソスへ視線だけ向ける。彼は、弁財天は隠し事が苦手な性格だと知っているので、笑って受け流した。代わりに探女が気になっていた質問をぶつける。
「残念だけど、彦星を手助けしている探女には話せないなぁ。もっとも、織姫に同じ事を聞かれても、同じ応えを言うけどね。こういうのは高みの見物が一番面白いんだよ」
(「なるほどね。これ以上探女や彦星に心配を掛けさせる訳にはいかないわ、こりゃぁ」)
彦星の特訓の成果を活かし、これからどうなるか楽しみなディオニュソスは、あくまで中立を貫く。探女は深々と頭を下げるが、弁財天は何かを察したようだ。
「探女、そろそろ最終段階に入るわよ」
「はい、弁財天様。彦星様、このくらいの激流を泳ぎ切れなくては、いざという時、織姫様を助けられないですよ〜」
彦星はビート板を使えばかなり泳げるようになったと踏んだ弁財天は、探女の提案でプールに激流を創り出し、その中を泳ぐ訓練へ移項させた。
「いざって何時だよぉぉぉぉ」
「おやおや」
思いっきり渦潮に流される彦星を肴に、一杯やるディオニュソスだった。
●その頃、織姫達は‥‥
所変わって、天の川の辺(ほとり)にある織姫の家。この辺りは神様の別荘が多く、織姫の家も豪邸とまではいかないまでも、女性の1人暮らしにはやや豪華な平屋建てだ。
織姫は北斗七星を愛車として乗り回す天帝の娘だが、父親から援助は受けていない。全て織った機による収入だ。織姫の機は、弁財天を始め、女神達の御用達なので、結構リッチな生活を送っている。
「まったく、あいつったら‥‥アルタイルやベガに優しいのは良いところだけど‥‥ううん、やっぱりそれでも、その半分、いいえちょっとでもいいからこっちにも気を使えっていうのよ。あいつがアルタイルに愛情を注いでるから、あんなに綺麗でスタイルいいんじゃない!」
居間では、織姫が織り掛けの機を放ったまま不貞腐れ、天女のような着物と羽衣を纏った姿で寝っ転がっている。周りにはお菓子の食べた跡が半ばバリケードを形成している。ヤケ食いをしているようだ。
ふと、脳裏にアルタイルの姿を思い出す。人化したアルタイルは織姫でも羨むくらい、艶やかな黒髪を湛えたのほほんとしたお嬢様の姿を取る。しかも胸は大きく形も良く(←ここが重要!)、ちょっとばかり胸に自信のない織姫からすれば、そんな女性(雌牛ですけど)が四六時中夫の側にいる事自体、気が気でないのだ。
「あんなんだからお父様だってお怒りなんだわ」
もっとも、彦星の育てているアルタイルとベガは彼の雌牛ではなく、大黒天(シヴァ)のものだ。だからこそ愛情を注いで大切に大切に育てており、彼は食べていけるのだ。
頭では『仕事』と割り切っているが、気持ちはそうはいかない。自分は彦星の妻であり、世界で一番夫を愛しているのに、364日待ってやっと1日だけしか会えないのだから‥‥しかしながら、彼女と彦星が会えなくなった理由は、一緒にいると当人達がイチャイチャして仕事をしなくなるからなので、責任の半分は織姫にもある。
気が付けば織姫は、天の川の川岸まで来ていた。
轟々と音を立てて流れる天の川。今年は例年より水かさが増しているし、流れも急なのは気のせいではない。
「来やしないし‥‥それ以前にこんなんじゃ渡れないじゃない!? 今年はカササギはどうしたのかしら‥‥彦星が来られないのってその所為なんじゃ‥‥」
彦星が来られない時は、カササギが羽根を広げて橋を作ってくれるはずだが、今年はそれすらない。急に心配になる織姫。
「‥‥ううん、カササギが来なくても、アルタイルもベガもいるはずだから、背中に乗ってくれば問題ないはずよ。やっぱりおかしいわ‥‥」
きゅっと唇を結び、しばらく対岸を見つめる織姫だった。
天の川の上流にあるカササギの家。
「しぇんしぇいしゃみゃぁ〜、これいじょうはのめましぇん〜。ぼくぁしにましぇん〜。あぁん、しょんなとこ、しゃわりゃにゃいでくだしゃい〜、うふふ〜、きもちいいれふぅ〜」
「‥‥なるほどねぇ、こういう事かい」
寝室では、人化し、黒地に白い羽を背中に湛えた麗しい女性の姿を取ったカササギが、布団で寝ていた。
彼女はしこたま酒を飲んだようで、完全に泥酔しきっていた。意味不明な寝言を言いながら掛け布団を抱えて身体をくねくね捩り、ちょっと危ない言動も見られた。少なくとも起こしたところで天の川に橋を架ける事は無理だ。
カササギの様子を見に来たパールヴァティは、その寝言から誰の仕業か見当が付いたようだ。
●だが、時既に遅し!?
「ごほ! ひ、彦星さん‥‥ど、どうしたのですか、そのお姿‥‥ごほごほ!!」
七夕当日、家に帰ってきた彦星を見たアルタイルは目を丸く見張る。それもそのはず、弁財天と探女の特訓の成果で、彼のボディは見事にビルドアップされていたのだ。
(「彦星さんと織姫さんの愛を確かめる為と言われましたけど‥‥お世話をしてくれる彦星さんを騙すのは気が引けますね‥‥それにここまで頑張っているようですし‥‥でもでも、これも彦星さんの為です! 心を鬼にして騙しましょう!!」)
風邪で臥せっている事になっているアルタイルは、特訓に行ってしまった彦星を止める事は出来なかったが、まだ行かせないようにする事は出来る。
「ごほ! ごほごほごほ!! ‥‥ひ、彦星さん‥‥ごほ! 私とベガが風邪を引いた頃から何かおかしいですね‥‥? こぼこほ! 前は熱心にもっと看病してくれましたのに‥‥ごほ!!」
「すまないアルタイル、この時期に風邪を引かせてしまったのは俺の愛情と世話不足だ。だが、後1日、1日だけ辛抱してくれ! そうすればお前の大好きなボンバークイーンケーキ、買ってきてやるから」
(「ボンバークイーンケーキ!?」)
彦星の真面目な眼差しとアルタイルの好物作戦に、彼女は撃沈してしまう。
「‥‥こぼこほ! そういえば七夕の夜にこんな事してていいのかしら? ごほ! 神様は地上の人達の願いを叶えるお仕事は終わってるんですか?」
「七夕の時に願い事を叶えるのは天帝だから、私達には関係ないのよ」
そこはかとなく聞いてみたかった質問をぶつけると、同行していた弁財天が応えた。やはりこの質問も足止めにはならなかった。
「待ちなさい」
「パールヴァティ!?」
上衣を脱ぎ捨て、自分から川に入ろうとした織姫を止めたのはパールヴァティだった。
「あれを見なさい」
「‥‥!? 彦星!?」
パールヴァティが指差す方を見ると、この激流を、時々波に呑まれながらも泳いでくる彦星の姿があった。
慌てて駆け寄ろうとしたところで川辺で転けてしまい、丁度辿り着いた彦星に抱きかかえられる。
「うゎっ!?」
その厚い胸板に驚きつつ、すぐに彦星の努力を感じ取って目を潤ませる。
「‥‥なんて無茶するのよ、馬鹿‥‥」
「無茶は承知さ。君に会う為ならね」
「彦星‥‥」
「織姫‥‥」
お姫様抱っこされた織姫が目を瞑ると、彦星は顔を近づけていった。
「さぁて、毘沙門天、何でこんな事をしたのか応えてもらいましょうか?」
恋愛の神であるパールヴァティは、怒りの感情によって破壊の女神カーリーへと変化していた。
「愛娘の行く末が気になってしょうがないからだ。彦星が本当に娘に相応しいか、花嫁の父として試練を行う権利はあると思うが?」
カーリーだけではない。弁財天や探女にも詰め寄られた天帝――毘沙門天――は、そう主張した。
織姫が彦星とアルタイル、ベガとの関係を疑っている事から、本来の雌牛の持ち主である大黒天に話を持ち掛け、アルタイルに仮病を演じてもらった。
天の川の増水については、河の神である弁財天の目を欺く為に、夫のブラフマー(梵天)に助力を請うた。
ひしてカカサギについては、ディオニュソスから呑みやすいがアルコール度はかなり高い酒だけを借り、日頃の功を労う宴を開いて酔い潰してしまったのだ。
「この障害を如何に乗り越えるかで、牽牛の人となりを見ようと考えておったが‥‥いきなりそなたを頼ったのは大なる減点だ。だが、最終的に牽牛は自分自身の熱い想いで乗り越えた。いろいろ不本意ではあるが、織姫の仲は改めて認めよう」
「まぁ、愛娘を想う父親の不器用な愛情表現だと思って、水に流そうじゃないか」
頭を下げる天帝と、あくまで中立を貫き、天帝のフォローも忘れないディオニュソス。
理由が分かったカーリーはパールヴァティへ戻り、ディオニュソスの酒で、いちゃつく彦星と織姫を肴に、神々は七夕の夜を飲み明かしたのだった。
●出演
彦星:相麻 了(fa0352)
織姫:宝野鈴生(fa3579)
アルタイル:佐々峰 菜月(fa2370)
サラスヴァティ(弁財天):羽曳野ハツ子(fa1032)
天埜・探女:豊田そあら(fa3863)
カササギ/パールヴァティ(カーリー):黒影 美湖(fa3594)
ディオニュソス:梁井・繁(fa0658)
天帝(毘沙門天):弥栄三十朗(fa1323)