July Brideアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 1人
期間 07/18〜07/24

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。


 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「ただいま」
「‥‥!? シュタリアお姉様、お帰りなさい‥‥お会いしたかったわ」
 その日の夜、スーツケースを持ったシュタリアが帰ってくると、3人がゆうに一緒に寝られるベッドの上で横になり、ノートパソコンに向かっていたスティアが姉の声に気付き、玄関先を見て息を呑んだ。にじむ涙を指で拭うと、ベッドから飛び降り、そのままシュタリアへ抱き付く。姉は甘える妹の顎に手を添えて唇を重ね合わせ、姉妹は長い長い大人のキスを貪り合った。
「ふふふ、スティアは寂しがり屋ですわね」
「寂しがり屋と仰いますけど、1ヶ月も留守にされては寂しくもなるわ」
 離れてゆくお互いの唇を結ぶキスの余韻を物足りなさそうに目で追いながら、スティアはお嬢様然とした顔に頬を可愛く膨らませる。
 シュタリアは『遺跡探索』に参加する為、ヨーロッパへ飛んでいた。スティアとティリーナは気軽に休めない高校生という身分なので同伴できず、ただただ姉の帰りを待っていたのだ。
「後で1ヶ月分たっぷりと可愛がってあげますわ‥‥ところで、あの子はまた籠城中ですの? ティリーナにオーパーツのお土産があるのですが‥‥」
「無理もないわ。あの子、シュタリアお姉様に1ヶ月も置いてけぼりにされたのですから、前にも増して相当いじけているわ‥‥」
 シュタリアは自分の声が聞こえているはずにも関わらず、一向に開かないこの部屋にいくつかある扉の1枚を見遣る。
 Succubusの3人は血は繋がっていないが、姉妹同然にここで一緒に暮らしており、その扉の先はティリーナの部屋になっている。彼女達は学校へ行っている時間を除いて、残りの1日の大半を共に過ごすが、それでもプライベートな時間は欲しいもの。1人1人の部屋があった。
「お姉様はわたしの事を寂しがり屋と言うけど、それならあの子は超が付く甘えん坊よ。この1ヶ月、わたし以上にお姉様に会えなくて寂しい思いをしていた事は分かってあげて」
 スティアはうっとりとした表情で姉の外出着を脱がせ、部屋着――シュタリアの好きな蒼いシースルーのロングキャミソール――を着せながら優しく諭す。
 末っ子のティリーナは超が付く程のシスコンで、Succubusの中で唯一、他の女性歌手やロックバンドに興味を示さないし靡かない。それ故、学校から帰ってきて早々に自室へ閉じ篭もる籠城作戦は、ティリーナがシュタリア絡みでいじけた時の常套手段だ。
「分かりましたわ‥‥スティアの相も変わらないお小言を聞いたら、ここに帰ってきたという実感が湧きましたわ。すぐにでもゲリラライブをしたいくらいですわね。何かアイディアはありまして?」
「もう、お姉様たら! そうそう『フォルトゥナ・ヒル』という結婚式場からメールが届いていたわ」
「結婚式場‥‥? ジューンブライドにしては些か遅いですわね」
「メールが届いたのは6月中でしたし、その時には既にお姉様はヨーロッパへ出掛けられていたじゃない。今、富田テレビでCMが流れている、グランドオープンしたばかりの結婚式場よ。披露宴のパフォーマンスとしてゲリラライブをやって欲しいっていう依頼なの」
「結婚式場でのゲリラライブ‥‥面白そうですわね」
 今回のゲリラライブは、『フォルトゥナ・ヒル』という結婚式場での、披露宴を盛り上げる内容になりそうだ。
 いつも工面している現地集合と待ち合わせ時間や、大型の楽器の輸送・セッティングに関しては、『フォルトゥナ・ヒル』の集合になり、式場のスタッフが用意してくれるので今回は考えなくてもいいだろう。
 ただ、結婚披露宴という事もあり、パフォーマンスや歌詞には気を配らなければならない。新たな門出を祝う席なので、ダーク系の歌詞はもちろん御法度だ。また、Succubusお約束のパフォーマンスも当然抜き。
 それさえ気を付ければ、後は歌唱力や演奏力、軽業や踊りといった純粋な実力で、新郎新婦や披露宴の出席者達を驚かせ、沸かせるだけだ。
「他の歌手やロックバンドとの交渉や、『フォルトゥナ・ヒル』のスタッフとの打ち合わせは、いつも通りスティアにお任せしますわ」
「分かったわ。後はどうぞごゆっくり」
「‥‥という訳ですから、ティリーナ、不在にしていた1ヶ月分、たっぷり可愛がって差し上げますわ」
「‥‥シュタリアお姉様ぁ!」
 どうやら扉の向こうで聞き耳を立てていたようだ。シュタリアが扉を開けると鍵は掛かっておらず、桃色の2対のドリル髪――もとい、ツインテールを揺らしながら、ピンクのベビードール姿のティリーナが泣きながらシュタリアの胸へ飛び込んだ。
 連れ添って部屋の扉を閉める2人を笑顔で見送ると、スティアはベッドの上のノートパソコンへ戻るのだった――


 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのゲリラライブは、『フォルトゥナ・ヒル』という結婚式場の披露宴で行うという書き込みがなされた。今回ばかりはファンもおいそれと見に行く事はできないので残念がる書き込みが多かった。
 今回も彼女達だけではなく、他のアーティストやロックバンドを誘う。呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、交通費等必要経費は全て『フォルトゥナ・ヒル』持ちだし、今回は参加アーティスト全員に一着ずつドレスやタキシードがプレゼントされる。また、必要とあれば、その披露宴に合うステージ衣装も用意してくれるそうだ。
 尚、今回もゲリラライブ中、女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性はなさそうだ。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa0565 森守可憐(20歳・♀・一角獣)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa3365 フランネル(21歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●早くも戴きますよ?
「へぇ、結構賑わってるじゃないか。結婚式って結構高く付くモンなんだろ?」
「新郎新婦2人だけの挙式プランや、内々だけの少人数のプランなど、従来よりかなり値段を抑え、それでも質の高いプランも数多くあるようです」
 6月にグランドオープンしたばかりの結婚式場『フォルトゥナ・ヒル』がゲリラライブのメンバーに用意した貸し切りの送迎バスから降り、新郎新婦予備軍でごった返すロビーを見渡した亜真音ひろみ(fa1339)の感想に、事前にテレビのCMやパンフレットを見たフランネル(fa3365)が応える。
「一生に一度はウェディングドレスを着て、式を挙げたいですよ」
「慣れないジャンルの歌だから歌詞にはあまり自信がないけど、式を挙げる立場に立って考えてみたんだ。喜んでもらえたら幸いだよ」
 ロビーの一角にディスプレイされているウェディングドレスを、うっとりとした表情で見つめる森守可憐(fa0565)。『お嫁さん』はいつの時代も、多くの女性の憧れだろう。可憐の言葉に、ひろみは傍らで一緒にウェディングドレスを見ながら、赤面しつつも今回のゲリラライブの意味を改めて実感した。
「祝福する歌は、好きな分野ではありますが‥‥ゲリラライブはした事がないので、その辺りの勝手は何とも‥‥ドキドキしますね」
「あたしもSuccubusとやるのは初めてだから、どんなライブになるか楽しみだよ」
「ゲリラライブといっても普通のライブと変わりませんわ」
 “Succubus”の長女シュタリアが歩み寄ってきてひろみと握手を交わす。可憐を見て舌なめずりをしたのは気のせいだろうか?

「千春ちゃんは和服着慣れてるしぃ、黒髪にはぁ、絶対ぃ、白無垢が似合うわよぉ」
「華鳴ちゃんの黒髪だって長くて綺麗だし、アップにしたら白無垢に映えるんじゃないかな?」
 ウェディングドレスの試着コーナーでは、鳴瀬 華鳴(fa0506)と富士川・千春(fa0847)が白無垢をお互いの身体に合わせていた。
「結婚式場かー‥‥僕には縁の無い場所かもしれないなぁ」
「理由は聞かないけど、そんな暗い顔じゃ、新郎新婦は祝福できないわよ?」
 華鳴に連れてこられたものの、2人から少し離れた場所で1人ウェディングドレスを見遣る紅 勇花(fa0034)。千春はウェディングドレスを1つ取り、乗り気でない勇花を試着室へ連れ込んでしまう。
「ちょ!? あん! ひあぁぁぁ‥‥そこは違‥‥うんっ‥‥んんん! くうぅぅぅん‥‥」
 服を脱がされ、ウェディングドレスを着せられる勇花。着替えの最中、何故か千春の指が胸や腰、お尻や太股の付け根をこね回し、勇花は漏れそうになる吐息を殺す。
「‥‥!? これが‥‥僕‥‥? ‥‥あの人が見たらなんて言うかな‥‥」
「うんうん、よく似合ってるわよ。せっかくだから写真も撮っておきましょうよ」
 鏡に映った“綺麗な少女”に目を丸くする勇花。千春は今度は撮影所へと引っ張ってゆく。
「綺麗で可愛いのに、怒った顔ばかりじゃもったいないわぁ♪」
「何か勘違いされていませんか? 私はあなたを嫌っているのではなく、眼中にないだけです」
 華鳴はこの機会に、相当嫌われていると思われる、“Succubus”の三女ティリーナと仲直りして友達になりたいと思い、無邪気に笑い掛けるが、予想外な答えが返ってくる。
「そ〜んな事言う悪い口はぁ、これかしら〜?」
 華鳴はティリーナの両頬を「むにーん」と引っ張った。

「今回はみんなで一緒に来たから、移動中に遊んでもらえなかったにゃー‥‥Succubusのお姉ちゃん達と遊びたかったのにゃー」
「‥‥平和でいいじゃないか‥‥平和ってこんなにも素晴らしいものなのか‥‥」
 西村・千佳(fa0329)は移動中にSuccubusのメンバーと遊ぶ(=弄られる)事が多いのだが、今回はそれがなくちょっと残念そう。クラウド・オールト(fa0175)は対照的に平穏を噛み締めている。
「私はそういう事は人前ではあまりしないから」
 クラウドの言葉に、ころころと笑う、“Succubus”の次女スティア。クラウドも千佳も、シュタリアやティリーナと違い、スティアが人前でそういった行為に及んでいる場面は見た記憶がない。
「こちらに可憐様とシュタリア様は来られませんでしたか?」
「いや、2人とも見てないが?」
 そこへフランネルがやってくる。『フォルトゥナ・ヒル』側との打ち合わせの時間だというのに、先程から可憐とシュタリアの姿が見えないのだ。クラウドも2人は見ていない。
「可憐お姉ちゃんだけズルいにゃー」
「打ち合わせは私がSuccubusの代表として行くから、2人はしばらく放っておいてあげて」
 察した千佳は2人を探しに行こうとするが、スティアに両肩を掴まれて周り右。

「あ、あの、私、初めて挑戦するロックのアドバイスを戴きたいだけで‥‥こういうつもりは‥‥ん!?」
 千佳の予想通り、その頃、可憐はシュタリアに空き部屋へ連れ込まれていた。
「んん‥‥はぁ‥‥はぁはぁ‥‥」
「んふぅ‥‥素敵な大人のキスでしたわ‥‥降ったばかりの新雪のような白くきめ細やかな肌‥‥わたくしが愛でた痕を残したいですわ‥‥」
「はああ、やっ‥‥はぁああんっ‥‥うぁ、あ‥‥」
「着痩せするタイプですのね‥‥うふふ、柔らかくて美味しいですわ‥‥嫌がっているに身体はこんなに‥‥今度はシロップを戴きましょうか‥‥」

 ――打ち合わせが終わった後、戻ってきた可憐は半ば放心しつつも緊張がほぐれ、シュタリアはホクホクしていたという。


●新たな門出に祝福を!
 中世の貴族達の会食場を模した会場での披露宴は終盤に差し掛かった。
『ここで、当フォルトゥナ・ヒルより、プレゼントがございます』
「富士川千春です。ご結婚、おめでとうございます。2人へ『WHEEL of FORTUNE』をプレゼントします」
 式場の司会スタッフのが切り出すと、ステージのカーテンが開き、蝙蝠の耳と翼を湛え、ウェディングドレスを着た千春が現れる。花嫁ではないのでヴェールは付けていない。
 真紅のエレキギターを爪弾き、歌い始める。

♪文字盤の歪んだ腕時計 次に二本の針が揃ったら
 その日まで募った想いを言葉にして伝えるわ
 だった一言だけど 誰よりも想っているんだから

 永遠も運命も信じていない女の子だったけれど
 針に絡まった赤い糸を 二人の手でたぐいよせていこう
 「どこに繋がっているの?」今更からかわないで
 二人の距離をもっともっと‥‥


 目を閉じて思い描く未来に キミは毎日必ず居るよ
 覚えているかな? 初めてくれたプレゼント
 二本の針が何周しても 私達が笑っていられるように

 「キミが幸せならそれでいい」と本気で思えた
 その優しい瞳が 私を見ていてくれる限り
 その笑顔が私に 魔法をかけてくれる限り
 指を絡めて いつまでの傍にいることが出来るの

 二人の距離をもっともっと‥‥♪


「この善き日を祝うお手伝いをさせて戴きます。曲は『ありがとう』です」
 貴族の別荘を思わせる会場では、ドレス姿で登場したフランネルが司会スタッフよろしく新郎新婦の幸せを願った前説を礼儀正しく行う。

♪言葉に出来ない気持ち どうやって伝えれば良いのだろう?
 私は良い子ではなかったね 何時も心配かけてごめん

 My important people
 本当は とても 嬉しいのに
 こんなにも 何故 涙が出るの?
 思い返せば全てが 愛に満ちていた

 今なら素直に言える ごめんなさい
 そして「ありがとう」と

 My important people
 私は 今 羽ばたきます
 私は もう 振り返らない
 幸せな未来へ向けて 翼広げて‥‥空へ 空へ♪

 フランネルと入れ替わりに可憐が現れると、スロウバラード調の歌を紡ぐ。
 嫁ぐ女性の家族への想い、嬉しいけど、切ない気持ち‥‥それらを歌に篭め。
 新婦の両親だろう、啜り泣く声と同時に拍手が湧き起こる。
 可憐が歌い終わると、ドレスの下に着ていたレボリューション姿になったフランネルが再び現れ、Succubusの演奏の下、出席者のテーブルの合間を縫うように、大きな動作の優雅な踊りを披露した。


「これがあたしとクラウドからのプレゼントだ」
 スタイリッシュな会場では、バーカウンターを囲んで身内や親しい友人だけの小さな披露宴が執り行われていた。
 バーテンダーの1人として潜り込んでいたひろみが、バーカウンターのスツールに腰掛け、ロックバラード中の歌を紡ぎ始める。すると、タキシードを着て竜の翼を出し、BGM担当として隅の方の椅子に座っていたクラウドが演奏を始める。

♪始まりはきっと些細な出来事
 そこから始まり共に同じ道を歩き始めた二人
 時には相手を想い過ぎるあまり不安になったり衝突したこともあるけれど
 それらを乗り越えて来たから今この時が輝いてるんだ
 幸せになれるのは六月の花嫁だけじゃない七月の花嫁だってきっと幸せになれる
 周りに祝福されたあなた達の笑顔を見ていると羨ましいぐらいにそう確信できるから
 今日のこの日に乾杯

 ほんの少しの偶然と運命の導きによって出会えた二人
 色々あったけど全て含めて認め合えた二人だから今この日を迎えられたんだ
 人の出会いは偶然と運命の紙一重
 この縁(えにし)がずっと続きますように‥‥
 今日というこの日に乾杯♪

「「乾杯!」」
 ひろみの歌詞に合わせて、何度目かの乾杯の音頭が取られる。
 歌い終わったひろみとクラウドも、そのままお酌に預かる事に。肴は新郎新婦と、クラウドのラウンジ風にアレンジした賛美歌のギターソロだ。


♪永い刻の果て 貴方の姿が変わっても
 何度も生まれ変わり 私の姿が変わっても
 この想いだけは 変わらない‥‥

 優しい風に導かれ 貴方と共に幾星霜
 朱い花弁舞う中で 心地良い胸に抱かれて
 不朽の想いを捧げ 御身の傍で咲き誇る

 この未来(さき)に 嶮しい道が続いていても
 二人なら きっと前に進めるから――

 幾千の時が過ぎても 愛しています
 幾万の涙を流しても ずっと愛しています
 それだけは 変わらない‥‥

 「この愛は、永遠に‥‥」♪

 千春に着付けを手伝ってもらい、華鳴は白い小鳥柄の、カナリアの翼を出せるように仕立てられた和服を纏う。髪を結ってもらい、和服に合いそうな簪を挿し、薄化粧を施された彼女は、しめやかに式が執り行われている座敷へ、しずしずと、しかし唄いながら華やかに入ってゆく。
 今回の曲『千日紅short.ver』のテーマは『永久不滅』。
 音程を下げ、ゆったりとしたテンポの邦楽よろしく歌う。
 最後の台詞は新郎新婦に捧げるように手を伸ばした。


 敷地内の小高い丘『幸運の丘』の上に立つ小さなチャペルは、『フォルトゥナ・ヒル』の一番の売りだ。
「まじかる♪チカwith白兎タリスト、此度お二方を祝福すべく馳せ参じました」
「さて、それじゃあ‥‥魔法少‥‥って、今日は違う。まじかる♪チカwith白兎タリスト行くよー♪ お兄ちゃんお姉ちゃん達、楽しんでね〜♪」
 上から下まで真っ白なスーツを纏い、うさ耳をちょこんと生やした勇花と、純白のウェディングドレス風の衣装に身を包んだ千佳が、式真っ最中のチャペルの出入り口の扉をバーンと開けて乱入する。

♪〜
 始めようよ ここから
 私達の 物語
 二人の旅立ちの 時はもうすぐ
 朝陽が上って 夜が終わるよ

 これから一緒に 歩いていこうよ
 どんな道でも 二人ならいけるよ

 私達の新たな旅立ち
 皆が祝福してくれるよ
 だから‥‥ずっと一緒に、ね
 〜♪

 可愛らしい千佳の詞のイメージに合わせ、勇花は愛用のエレキギターで軽快かつポップなサウンドを奏でる。
 千佳が歌い終わっても撤収せず、今度は勇花のギターソロの番だ。
 軽快で飛翔感に溢れたメロディ。結ばれた二人が力を合わせて羽ばたいていくような、そんなイメージの曲を贈る。
「「Congratulations!」」
 勇花のギターソロが終わると、2人で新郎新婦に一言掛けて撤収していった。


●酒池肉林とはまさにこの事?
 ゲリラライブの評判はすこぶる良く、成功を収めた。
 また、千春は今回のライブの様子を式場のカメラマンに頼んで撮ってもらい、後日、公式サイトでファンに向けてネット配信する事になった。

 『フォルトゥナ・ヒル』には小さいながらホテルも併設されており、一室を借り切って打ち上げが行われた。
「華鳴ちゃんの為に、全部食べられるウェディングケーキを用意してもらったよ」
 Succubusが用意した飲み物や軽食の他に、千春が手配したウェディングケーキ丸々1つと可憐が持ってきた仙台土産の『萩の月』が並べられる。
 可憐はひろみやシュタリア達とロックについて語り合い、クラウドと勇花は端で黙々と切り分けられたケーキを食べながら、今日のゲリラライブの様子を撮ったビデオを見て、小さな反省会をしている。
「残念だが、彼氏がいるんで他のお姉ちゃんを当たってくれ。代わりに酒とデザートならいくらでも付き合うよ」
「にゃー、残念。初めてのお姉ちゃんだし甘えたかったのだ〜♪ 千春お姉ちゃ〜ん♪」
「うふふ、うい奴うい奴」
 ひろみに素っ気なくかわされた千佳が千春に抱きついて甘えまくると、千春もそれに応えて千佳の身体を味わい始める。
「今日の挙式を見ていたら、私も素敵な結婚式がしたくなりましたね」
「じゃぁ、私がお相手になってあげるわぁ♪」
 ゲリラライブに出た和服姿のままウェディングケーキの実に3/5を1人で食べていたの華鳴は、フランネルの感想を曲解すると本性を隠した粘っこい笑みを浮かべ、小悪魔よろしく組みしだき、あられもない姿のフランネルを蹂躙するのだった。