宝石箱の乙女達〜蛍石アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
9.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
01/19〜01/23
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●本文
「香澪葉(かれは)、今日も可愛いぜ―――――!」
秋葉知郎(あきはしろう)の一日は、枕元の壁に貼られた香澪葉・フローライトの等身大ポスターへのキスから始まる。
彼の1DKの城の居間には所狭しと同人誌の入った紙袋が何袋も置かれ、壁際に並べられた3つの本棚にはコミックや小説、ゲーム雑誌が入れられ、その前にはフィギュアが飾られているが、既に収納力を失い、入りきらないものは本棚の前や床に山積みになっていた。
インターネットに接続しっぱなしのパソコンが置かれたコタツ兼机もあり、布団を敷くスペースしか生活空間は残されていない。
壁には香澪葉・フローライトを始め、彼女の登場する美少女ゲームのポスターが貼られていた。
知郎のアパートは秋葉原にあり、お隣の神田にある私立大学に通う3年生だが、彼の城を見れば一目瞭然、アキバ系オタクである。
知郎は一日の大半を秋葉原で過ごす。秋葉原にあるアパートを出ると、午前中は秋葉原にあるショップ各店を回り、値段の変動と新入荷品のチェック。
「そのゲームはこの店だと値段は安いが、こっちの店にはまたオリジナルの限定テレカが付いてくるぜ」
「例の同人誌、この間行った時には売り切れてたけど、さっき再入荷してたぜ」
午後はオタク仲間と情報を交換しあい、秋葉原でバイトに勤しむ。
秋葉原の情報を交換し合うオタク仲間の内、池袋電(いけぶくろでん)はゲーム系、有明聖馳(ありあけせいち)は同人誌系のオタクだ。
――そして電や聖馳は、秋葉原に居を持つ知郎を『アキバ狂知郎』と呼んだ。
だが、その日は知郎にとっていつもと違う始まりだった。
「香澪葉、愛してるぜ―――――!」
彼が臆面もなく愛の言葉を告白する相手は、香澪葉・フローライトの等身大フィギュアだった。香澪葉・フローライトは、知郎が一番萌えているゲームキャラだ。メイド育成ゲームに登場する金髪碧眼の美少女で、性格は一途ながら天然の入ったメイドである。
知郎のバイト先に最初に入荷したものを、店員の立場を利用して手に入れたのだった。
香澪葉・フローライトの等身大フィギュアは、関節の可動カ所も一般的なそれより多く、より『人間』に近い質感をコンセプトとしていた。故にこの世に生を受けて21年、彼の最も高い買い物となった。
今日からは等身大ポスターから、等身大フィギュアへのキスが日課となる‥‥はずだった。
『香澪葉もご主人様の事を愛していますわ』
「へ‥‥!?」
聞き覚えがよーくある女性の声がリアルに聞こえ、知郎は思わず間抜けな声を出した。
「香澪葉‥‥なのか?」
『はい、ご主人様。ご主人様の香澪葉への愛が、香澪葉に命を吹き込んだのですわ』
肩を抱く知郎の手に、香澪葉の手が勝手に動いて添えられた。
普通の人間なら、ここで悲鳴を上げて手を振り払い逃げ出すだろう――しかし、知郎はアキバ狂知郎の二の名を持つオタクである。
「凄い‥‥凄いぜ香澪葉! 俺だけの香澪葉!!」
『はい、香澪葉はご主人様だけの香澪葉ですわ』
驚くものの、それは歓喜の声となり、思わず香澪葉を抱きしめた。この異常ともいえる状況をすんなり受け入れた彼は、彼女いない歴21年にピリオドを打ったのだった。
――突然動き出した等身大フィギュア、香澪葉・フローライトが彼女となって。
こうして、知郎と香澪葉の2人の生活が始まったが、香澪葉はもう一度キスをすると元の等身大フィギュアに戻ってしまった。
知郎はおはようのキスで香澪葉を目覚めさせ、おやすみのキスで香澪葉を等身大フィギュアへ戻して眠らせる事とした。
だが、二人の生活は長くは続かなかった。
知郎と同じく香澪葉・フローライトにハマっている聖馳が、香澪葉に目を付けたのだ。
香澪葉はキスをして目覚めさせた相手を『ご主人様』と認識する為、知郎が留守の間に香澪葉を攫い、自分をご主人様としてしまったのだ。
また、電は独自のオタクネットワークで、香澪葉と同じメイド育成ゲームの等身大フィギュア、魔裕巳(まゆみ)・ヘマタイトが同じように動き出し、しかもご主人様を傷付けてしまったという情報を得ていた。
――その現場は、香澪葉達が登場するメイド育成ゲームのバッドエンドと同じだという。
香澪葉も同様に、新たにご主人様となった聖馳の命を狙い始める。知郎は電やサークルの仲間と協力して香澪葉を止め、そして自分が本当のご主人様であり、香澪葉になら危められてもいいと告白する。
その時、香澪葉は――。
★主要登場人物紹介★
秋葉知郎:アキバ狂知郎の異名を持つアキバ系オタク。大学3年生の21歳。顔は三枚目。萌えジャンルはギャルゲー。
香澪葉・フローライト:メイド育成ゲームに登場するキャラの等身大フィギュア。設定年齢は18歳。金髪碧眼の美女で、性格はおっとりで天然だがご主人様には一途。
有明聖馳:20歳のクリエイター系専門学校生。萌えジャンルは男性創作系同人誌。知識をひけらかす癖があり、小狡く、目的の為には手段を選ばない事もしばしば。
池袋電:29歳のシステムエンジニア。萌えジャンルはゲーム・コンピュータ。格幅が良く、性格も大らかで人当たりが良く、知郎達の纏め役的頼れる存在。
魔裕巳・ヘマタイト:香澪葉と同じメイド育成ゲームに登場するキャラの、動き出した等身大フィギュア。設定年齢は16歳。元気少女だから過激な一面も。
★コンセプト★
キスにより等身大フィギュアが動き出し、心を持ってオタクと恋に落ちてゆく――この『宝石箱の乙女達』は、オタクの恋愛模様を、ギリシア神話に登場する彫刻ガラティアに恋をした彫刻家ピグマリオンに準えて描く『ピグマリオンプロジェクト』の作品です。
今回は等身大フィギュアに焦点が当てられましたが、今後は電脳天使(バーチャルアイドル)や美少女型巨大ロボ、美少女型決戦兵器等を定期的にオンエアしていく予定です。
★技術傾向★
発声・音楽・芝居
●リプレイ本文
―召しませ☆ふるこーす―
ハートのエース 胸ポケットにしまったら
御主人様にご挨拶 召しませ☆フルコース
人の姿取ってても 心は空っぽ?
そんな事はないわ 召しませ☆フルコース
あなたが大事にしてくれるなら どこまでも美しくなれるの
神様は教えてくれたわ 恋こそが生きるエナジー
髪も衣装も 貴方次第よ
貴方好みの女でいさせて 召しませ☆フルコース
●2人だけの秘密
『動き出した香澪葉の言葉はどことなく抑揚がなく、機械的だった――』
射し込む朝日に顔を照らされて目を覚ました秋葉知郎が身体を起こすと、同人誌とフィギュア、本に半ば埋もれた、雑多な見慣れた部屋が広がる。
しかし、その一角は場違いのように片づけられ、香澪葉(かれは)・フローライトの等身大フィギュアが薄暗がりの中にひっそりと佇んでいる。
最愛の人の口づけを今か今かと待つ仕草で‥‥。
「俺だけの香澪葉‥‥今、起こさないとな」
知郎は丹念に歯を磨いてから香澪葉に目覚めのキスを送るのだった。
『はぁ‥‥』
香澪葉のプリンとした艶やかな口から、生命の息吹を感じさせる吐息が漏れる。
『おはようございます、ご主人様』
「おはよう、香澪葉」
動き出した香澪葉はにっこりと笑って朝の挨拶をすると、知郎も緩みっぱなしの顔で返した。
『行ってらっしゃいませ、ご主人様』
「ああ、行ってくるぜ」
香澪葉の手作りの朝食を平らげると、彼女に見送られ、うきうき気分で家を出る知郎。思わずスキップする始末。
『さてと、ご主人様が帰ってくるまでに、お部屋のお掃除をしませんとね‥‥これは‥‥わたくし?』
見送った後、男所帯のお約束、散らかり放題の部屋を片づけようとした香澪葉は、自分の等身大ポスターが貼られているのに気付き、まじまじと見つめた。
『わたくし‥‥ゲームの中ではなく、本当にご主人様のものなのですよね』
伏し目がちになり、おもむろに唇に触れる香澪葉。そこには知郎とのキスの感覚がまだ残っているように思えた。
「‥‥ろう‥‥知郎‥‥秋葉知郎!」
「!? は、はい!?」
香澪葉のプロマイドをボーっと見ていた知郎は、ハスキーな声によって現実へ引き戻された。
彼の席の隣には、いつの間にか平和島晴海が仁王立ちしていた。30歳前後で博士号を取っただけの事はあり、やり手の教授宜しく、クールビューティーで且つ艶っぽい晴海は、知郎にとって萌える眼鏡っ娘だった。
「私の講義がそんなに退屈ですか? それにあなたのその娘を見る目、まるで恋人を見ているようでしたよ?」
「実際、恋人ですから。それに怒る晴海教授も可愛いですよ」
「ありがとう。でも、講義をちゃんと聴かないと出席はあげませんよ?(恋人!? オタクはやはりアニメやゲームキャラが恋人なのですね)」
知郎は丁度、黒部渓谷のように大きく険しい晴海の胸の谷間から、彼女の顔を見上げる形になった。知郎の返答に表向きは溜息をつきつつ、内心では彼の行動を逐一観察していた。
晴海の専攻は人類行動学で、今はオタクを研究しており、身近にいる知郎の行動を観察してオタクとはどういう生物なのかを調べているのだ。
晴海のお小言を遮るように、そこでチャイムが鳴り、知郎は九死に一生を得たのだった。
「でさぁ、香澪葉・フローライトと同時発売の魔裕巳(まゆみ)・ヘマタイトの方が、関節のギミックが香澪葉よりいいんだ」
「なるほど。お、狂知郎くん、来たね。お疲れさま」
行きつけのメイド喫茶では、待ち合わせていた有明聖馳と池袋電が等身大フィギュアについて歓談していた‥‥というより、聖馳が一方的に知識をひけらかし、電は聞き手に回っていた。
聖馳はビジュアル系アイドル並の二枚目で、その外見からはおおよそオタクとは思えない。メイド喫茶のメイド達も皆、彼の様子をちらちらと窺っている。
一方、電は格幅がよく、一般人がオタクといわれてイメージする代表例の1人だろう。
「狂知郎が最初に香澪葉を手に入れるとはな。次の入荷は2ヶ月待ちだとさ。ショップの店員の職権を乱用しやがってよ」
「まぁまぁ、2人とも。狂知郎くん、香澪葉たんとの生活はどうだい?」
「あ、ああ、とてもいいぜ」
「「?」」
ここで普段の知郎なら何がいいのが具体的に話すのだが、今日の彼は歯切れが悪く曖昧で、付き合いの長い2人には違和感が感じられた。
●奪われた香澪葉
『お休みなさい、ご主人様‥‥』
「お休み、香澪葉」
知郎が香澪葉にキスをすると、彼女の瞳から人としての意志の光が消え、本来の作り物のそれへと戻った。
「香澪葉‥‥俺、もっとお前と一緒に話したいよ、お前と一緒にいたいよ‥‥でも、いくら自我があっても等身大フィギュアだもんな‥‥」
意志のない香澪葉の身体をかき抱くと、知郎は彼女を飾る台座の上に立たせ、床に付いた。
「‥‥それは本当かい!?」
「こんな事を相談できるのは、電ちゃんくらいだぜ」
翌日、知郎は電を昨日とは別の行きつけのメイド喫茶に呼び出し、個室スペースで香澪葉について相談していた。
等身大フィギュアが動き、自我を持ったなんて事を相談でき、しかも信じてもらえるはオタク仲間でも電くらいだろう。
「実物を見てみないと何とも言えないけど‥‥問題は、香澪葉たんじゃなく、狂知郎くんが香澪葉たんをどう思っているかだと思うよ」
「俺が香澪葉をどう思っているか?」
「うん。香澪葉たんの性格は僕もゲームをしてるから分かってるつもりだけど、香澪葉たんの性格なら、きっと君と同じように悩んでいると思うよ。だから、狂知郎くんから香澪葉たんの存在をありのままに受け入れるだけじゃなく、認めてあげる必要があるんじゃないかな?」
オタクでありながら家庭を持っているだけの事はある。流石に最初は驚きと羨望があったが、話を聞くにつれ、冷静に受け入れた電は、知郎の求めていたアドバイスを的確に与えていた。
「‥‥そうか‥‥そうだよな。等身大フィギュアでも、香澪葉は香澪葉だもんな。ありがとう電ちゃん」
「もしよかったら、その動き出した香澪葉たんに会わせてもらえないかな?」
「もちろん、電ちゃんなら大歓迎だし、香澪葉も喜ぶと思うぜ」
「何で、狂知郎に香澪葉が。気に入らねえな‥‥」
しかし、偶然同じメイド喫茶を訪れていた聖馳が2人を見付けると後を付け、会話を盗み聞きしており、憎々しげに呟いた。
「ふ‥‥ふふ、これは手を出してみる価値はありそうだな」
すると、不意に不適な笑みを浮かべた。
聖馳は夏の冬の同人誌の祭典的イベントにサークル参加する為に同人誌を作っており、知郎に手伝いをしてもらう事もしばしあった。彼はその際、知郎の部屋を利用する事もあり、密かに借りていた鍵で合い鍵を作っておいたのだ。
『いらっしゃいませ、ご主人様のお友達様‥‥な、なにを!? ぅん‥‥』
それを使って部屋へ押し入った聖馳は、丁寧に挨拶する香澪葉を押し倒すと、キスをして等身大フィギュアへ戻してしまう。
『おはようございます、ご主人様‥‥』
「今日からオレがお前のご主人様だ」
そして再びキスをすると香澪葉は動き出し、聖馳を主人として認識してしまったのだった。
『香澪葉を攫い、自分のものとした聖馳。けれど彼は気づいていないのだ‥‥彼女の瞳が、危険な光を孕み出した事に』
●等身大フィギュアの見る夢
『美貌の大学教授・平和島晴海は、香澪葉の存在に薄々気付き始めていた――』
晴海は休日、用がなければ秋葉原へ繰り出し、ガードレールに腰掛けて道行くオタク達の行動を観察したり、オタクが立ち寄るショップへ行き、会話を盗み聞いたり、時には話し掛けたりと、研究に余念がなかった。
オタクの『萌え』はいまいち理解できないが、知識だけなら下手なオタクより詳しくなっていた。
「さぁ、知郎、等身大フィギュアを見せなさ‥‥」
『さよなら、お姉ちゃん』
「あなたは‥‥? ‥‥うぐぅ‥‥」
知郎が等身大フィギュアを買った事を突き止めた晴海は、学生課で調べた名簿の住所を頼りに知郎のマンションへ押し掛けたのだった。
しかし、そこにいたのは知郎でも香澪葉でもなく、晴海の見知らぬ少女――魔裕巳・ヘマタイト――だった。肩まで伸ばした灰色の髪は切り揃えてなくややボサボサし、セーラー服をベースにしたメイド服を着ていた。
魔裕巳は微笑みながら晴海の首を絞め始めた。晴海は自分を見つめる瞳に人の意志の光が宿っているものの、全く瞬きをせず、自分の首を締め上げるその手の感覚から、この娘が人間ではなく作り物だと実感し、恐怖した。
『電の電脳情報網は、凄まじいものだった――』
「晴美教授!? 電ちゃん、彼女は!?」
「間違いないよ。あの魔裕巳たんは動き出したもう一体の等身大フィギュアだよ。そしてあの首締めは、バッドエンドの1つだね」
そこへ運良く知郎が電を伴って帰ってきた。信じられない力で首を絞められている晴海は顔面蒼白で、半ば白目を剥いていた。
電がいうように、これは魔裕巳や香澪葉が登場するメイドさん育成ゲームで、魔裕巳の信頼のパラメータが低く、恋愛のパラメータが異常に高い場合に起こる『愛憎バッドエンド』と同じ光景だった。主人公を好きになり、独り占めしたくなった魔裕巳は、自分達メイドの世話をする主人公の姉を絞殺し、そして主人公をも同じ手に掛けるのだ。
知郎と電は魔裕巳に体当たりを喰らわし、晴海を助けた。
『‥‥幸せって長続きしないものなんだから頑張ってね♪』
2人掛かりで体当たりしたにも関わらず、魔裕巳は空中で体勢を立て直し、何事もなかったかのように着地した。
「ど、どういう意味だよ!?」
『キミの大切な人は、キミの仲間の所にいるって事だよ』
「香澪葉、晴海教授の手当てを‥‥香澪葉? 香澪葉!? 真逆、聖馳が‥‥香澪葉を!?」
電が背負う気を失いグッタリとした晴海を香澪葉に手当てしてもらおうと思った知郎は、部屋に彼女がいない事に気付いた。荒らされた形跡がない事と魔裕巳の言葉から、知郎は聖馳が攫ったのではないかと思い立ったのだった。
『偽りの主人である聖馳に襲い掛かる香澪葉。ナイフが鈍い光を帯びる。知郎は、間に合うのか?!』
「な‥‥なにするんだ、香澪葉。俺はお前のご主人様だぞって‥‥ひっ!? ‥‥く、来るんじゃねぇ!?」
聖馳もまた、香澪葉に襲われていた。
香澪葉の手には聖馳が集めているサバイバルナイフが握られている。
『わたくしのご主人様だから一緒に添い遂げられない以上‥‥天国で一緒に添い遂げましょう』
これは香澪葉をメイドとして完璧に育てすぎた場合に起こる『引き裂かれバッドエンド』だ。完璧なメイドとなった香澪葉は主人公の元から引き離され、別の屋敷へ行く事になってしまう。その事が主人公から告げられたその日の夜、香澪葉は主人公を刺殺し、返す刃で自分の心臓を刺し貫いて、あの世で添い遂げるというエンディングである。
『あー、もうこんな事したって楽しくもないのに‥‥この恩は倍返しなんだからね!』
その時、聖馳の部屋の扉を思いっきり蹴飛ばし、魔裕巳と知郎、電が躍り込んでくる。
魔裕巳は今度は聖馳を蹴り飛ばして香澪葉から引き離し、電が香澪葉の手からサバイバルナイフを叩き落とす。
「香澪葉がこういう事をする、その理由が何なのか今の俺には分かる! 香澪葉の思ってる事とか全部、一緒に背負うから。一緒に悩むから。だから、俺を頼ってくれ。俺と一緒に生きていこう!」
知郎はキスをして香澪葉を等身大フィギュアへ戻すと、もう一度キスをした。
『わ、わたくは‥‥今まで何を‥‥?』
「お帰り、香澪葉」
『ただいま、ご主人様』
香澪葉の暴走は収まっていた。
「聖馳くんの萌えは分かるよ。でも、もう少し他人を鑑みた方がいいんじゃないかな?」
「狂知郎達に嫉妬したんだよ俺は。だから‥‥俺が悪かった」
電に諭され、素直に謝る聖馳。
『‥‥ボクも、あんなご主人様に出会えてたら‥‥な、ぁ‥‥』
愛を取り戻した香澪葉と知郎の姿を見ながら、羨望と悔恨の念に駆られつつ、等身大フィギュアという素体が限界を越えた魔裕巳はその場に崩れ落ち、活動を停止してしまった。
その後、聖馳の部屋に魔裕巳の等身大フィギュアが飾られたという。
尚、晴海は一時期、危篤状態に陥ったが、無事に快復した。しかし、余程恐い体験を昇華したのか、香澪葉や魔裕巳が動いたところは一切覚えていなかった。
『知郎と香澪葉は、エンディングというゲームの終わりを真実の愛で乗り越え、今では周りも羨むバカップル。
聖馳は、知郎と香澪葉の真実の愛を目の当たりにして心を入れ替えたようだ。今は動かなくなった魔裕巳がいつかまた動くように大切にしているらしい。
池袋電は、今日も今日とてパソコンで秋葉系の情報収集に余念がない。
彼らは平凡とはいえずとも、幸せな日々を続けてゆくのだろう』
―好きになってもいいですか―
恋人はいますか
好きな人はいますか
もしも貴方がいやでなければ
隣にいてもいいですか
冷たく硬い手足
化学繊維の髪
貴方が隣にいてくれなければ
私はただのITEM
傍に置いてくれますか
私を見つめてくれますか
もしも貴方がいやでなければ
好きになってもいいですか
●声の出演
香澪葉・フローライト:大道寺イザベラ(fa0330)
秋葉知郎:和山 繁人(fa2215)
池袋電:梁井・繁(fa0658)
有明聖馳:比企岩十郎(fa2469)
魔裕巳・ヘマタイト:ミーア・ステンシル(fa0745)
平和島晴海:風間雫(fa2721)
ナレーション:柏崎 柚(fa0848)
OPテーマ『召しませ☆ふるこーす』/EDテーマ『好きになってもいいですか』:笹木 詠子(fa0921)