真夏の夜のドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
4Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
18.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/20〜08/24
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●本文
それは、小牧浩輔(こまきこうすけ)の高校生活最後の夏休みが始まって間もなくの事だった。
浩輔は高校三年生。年明けに大学受験を控え、夏休みの遊びは最低限に留め、日々、受験勉強に勤しんでいる。
「浩輔、ちょっといいか?」
その日の夜も自室で受験勉強に取り組む浩輔の元へ、父、秀行(ひでゆき)が訪れた。
ノートに走らせていたシャープペンを置き、勉強机から父の方へ振り返る。
秀行は小洒落た眼鏡がトレードマークのナイスミドルだ。
一方、浩輔は、容姿はそこそこ、成績もそこそこ、運動もそこそこ、と凡庸を絵に描いたような性格をしている。
「何だい、親父?」
「う、うむ。母さんが亡くなって早五年。お前ももう十八だ。いろいろと苦労を掛けてきたな」
浩輔は中学生の時に母を病気で亡くし、以来、秀行と二人暮らしを続けている。親子間の仲は悪くない、むしろ良好なくらいだ。
それは改めて言われるまでもなく、浩輔は分かっている。どうも秀行の歯切れが悪い。
「今まで男手一つで育ててきたが、思えも今年は大事な大学受験を控えている。それで、だ。そ、そろそろ女手があった方が何かと便利じゃないかと思うんだが‥‥」
――ははーん、なるほど。
浩輔は秀行が何を話したいのか分かった。
「いいぜ、再婚しても」
「ど、どうしてそれを!?」
ズバリこれから切り出そうとしていた事を言い当てられ、あからさまに狼狽える秀行。
「分からいでか。高校三年にもなって、今更、新しいお袋でガタガタ騒ぐ歳じゃないし、親父が好きになった女性(ひと)なら、悪い女性じゃないと思うしな。俺は構わないぜ」
今まで再婚せず、男手一つで育ててきてもらったのだ。秀行にももう一度幸せになる権利はある。
そう思った浩輔は、再婚話を快諾した。
「い、いいんだな!? よ、よし、早速、明日にでも連れてくるよ! 美人だから見て驚くなよー?」
息子の快諾を得られ、子供のようにはしゃぐ秀行。
しかし、明日連れてくるとは急な話だ。秀行とその女性はかなり前から付き合っていたのかも知れない。
「‥‥って、ちょっと待てー!?」
「は、はい!?」
「ど、どうした浩輔!?」
翌日、昨日言った通り、秀行は幸せいっぱいな気分で再婚相手の女性を家へ連れてきた。
浩輔が驚くのも無理はない。秀行が再婚したいという女性は、浩輔と同い年‥‥いや、おそらく年下の美少女だったからだ。
確かに綺麗だが、端から見て、夫婦というより父と娘にしか見えない。
「典子(のりこ)といいます」
「歳は?」
「じ、十六歳です」
「援助交際かよ!?」
「ち、違うぞ、浩輔!」
「そんなんじゃないんです!」
自分より年下――高校一年生――の継母に呆れる浩輔。
慌てて秀行と典子が、出会いの顛末を話す。
切っ掛けは、典子が秀行に当てて掛けてしまった一本の間違い電話だった。まだ中学生だった典子は、高校受験で悩んでおり、事あるたびに秀行が励ましたという。
いつしか秀行の励ましは、典子にとってなくてはならない存在(もの)になっていた。それは父親や年上の男性という事を超越した、そう、言うなれば『恋』だったのだ。
そして典子が高校に合格してから半年の交際を経て、結婚に至ったのだ。
「確かに親子程の歳は離れていますが、私は秀行さんの事が好きなんです!」
「ま、まぁ、親父とあんたが好き合ってるなら、俺はとやかく言わないけどさ。あんたの親はいいのかよ?」
典子の真剣な眼差しに気圧される浩輔。
「典子の父親は既に他界していてね。女手一つで育てられてきたそうだ。お義母さんに結婚話を打ち明けたら驚かれたけど、許してもらえたよ」
それはそうだ。下手をすれば自分と同い年の婿が出来るのだから。
また、籍は入れるが、式を挙げたり、新婚旅行に行くのは、典子が高校を卒業してからのようだ。
そこまで話が進み、きちんと取り決めがされているのであれば、最早、浩輔に反対する理由はない。
「よろしくお願いしますね」
にっこりと微笑む典子。
こうして年下の継母を迎えた浩輔の、高校生活最後の夏休みは中盤へと突入するのだった‥‥。
▼△▼△主要登場人物紹介△▼△▼
・小牧浩輔:18歳。高校三年生。大学受験を控え、日々、受験勉強に勤しんでいる。突然出来た年下の継母に戸惑いを隠せず、どう接していいか分からないので突っかかってみたり、距離を置いている。
・小牧秀行:49歳。一流企業に勤めるサラリーマン。ナイスミドルで社内の女性の人気は高く、結婚を希望している者も多いとか。典子を一人の女性として愛している。
・小牧典子:16歳。高校一年生。浩輔に突然出来た年下の継母。家事のさしすせそ(裁縫・躾・炊事・洗濯・掃除)はそつなくこなす。普段はちょっぴり気弱だが、やる時にはきちんとやるタイプ。浩輔と早く仲良くなりたいと思っているが、避けられている節があり、浩輔が見ていないところでしばし落ち込む事も。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※募集するキャストは、浩輔、典子、秀行をメインに、必要に応じて新しいキャラを設定して下さい。
※原則、獣化は出来ません。
▼△▼△成長傾向△▼△▼
発声・芝居・演出
●リプレイ本文
●CAST
栗原あかり:長澤 巳緒(fa3280)
小牧典子:花鳥風月(fa4203)
小牧秀行:弥栄三十朗(fa1323)
如月雪:碓宮椿(fa1680)
麻生 美園:愛瀬りな(fa0244)
野々村 美鶴:竜華(fa1294)
伊藤桃子:鶴舞千早(fa3158)
伊藤美香:氷咲 水華(fa3285)
●日常でない日常
栗原あかりは、小牧浩輔の家の相向かいに住む幼馴染みで、同じクラスメイトだ。
家族ぐるみの付き合いをしており、浩輔が母を病気で亡くして以降、あかりの日課は寝坊癖のある浩輔を起こしに行く事から始まる。
(「あれ? お味噌汁のいい匂い‥‥おじさま今日は起きていらっしゃるのかしら」)
合い鍵で玄関の扉を開けると、あかりの鼻腔を芳ばしい味噌汁の匂いがくすぐった。
「おじさま、おはようございます」
「あかりちゃん、おはよう」
台所のテーブルで朝刊を広げている甚平姿の秀行に元気良く挨拶をすると、彼も当たり前のようにあかりへ返事をする。
「浩ちゃん、起こしに行ってきますね!」
「あ、あかりちゃん、浩輔は‥‥」
秀行が止めるより早く、軽快な音を立てて階段を駆け上げるあかり。
「浩ちゃん、いつまで寝て‥‥っえ゛!?」
「浩輔さん、そろそろ起きないと遅刻しますよ」
いつも通り元気良く布団をひっぺがそうと部屋に入ると、見知らぬ少女が布団の上から浩輔の身体を揺すっているではないか。
(「この娘‥‥誰? 鍵は掛かってたし、おじさまは何も言ってないよね‥‥にも関わらず、浩ちゃんの部屋に入ってるなんて‥‥ま、まさか恋人!? しかもいきなりおじさま公認の同棲!?」)
「えーと、お隣の栗原あかりさん、ですよね?」
頭の中で瞬く間に次々と勘違いが明後日の方向へ暴走してゆくあかりに、少女は困ったように上目遣いで聞いた。
「は、はい、栗原あかり、ですけど‥‥あの‥‥(『わたしは浩ちゃんの恋人です』なんて答え、聞きたくないよぉ)」
「初めまして、私、秀行さんの妻の典子といいます」
「妻? おじさまの? という事は、浩ちゃんの‥‥」
「お母さんになります」
「お母さん!? 嘘でしょ‥‥」
少女、典子の予想だにしなかった応えに、素っ頓狂な声を上げるあかり。その声で浩輔も目覚めた。
「突然の事であかりちゃんもびっくりしたと思う」
浩輔が典子と朝食を採っている間、あかりは秀行から事情を聞いていた。
「長い事家の事であかりちゃんにも迷惑を掛けたかもしれないが、これからは負担を掛ける事もなくなるはずだよ」
あかりに依存していた小牧家の家事は典子へ移り、あかりは朝早く起きたり、夕食を余分に作らなくても済む。だが、あかりにとってそれは苦ではなかった。むしろ、浩輔の世話を焼き、彼の身近に居られる事は彼女にとって大切な事だからだ。
「もちろん、今まで通り気軽にうちに来てくれていいよ。典子にはきちんと話しておくから。あかりちゃんは私にとって娘同然だし‥‥いずれは浩輔のお嫁さんに来てくれる予定だしね」
ウインクをする秀行に、あかりは照れて両手を振る。台所の浩輔から「親父、変な事言うなよ」と文句が飛んできたが、これはスルー。
「浩輔さん、あかりさん、そろそろ行かないと」
典子に言われて、家を出てゆくあかりと浩輔。それはいつもの光景だったが、1つだけ違うのは浩輔の隣に典子がいる事だ。浩輔が自分1人だけのものではなくなったようで、あかりにはそれがとても嫌だった。
●帰り道は危険がいっぱい!?
如月雪にはちょっと困った癖がある。歌が好きで、週に5回はカラオケボックスに1人でも行くのだが、知り合いを見付けると半ば強引に連行するのだ。
この日連行されたのは、大学の友人の麻生美園だった。
雪のリサイタルになるのはいつもの事だが、この日は美園のノリがいつもより悪かった。
「美園、何か悩み事でもあるの?」
「あ、ごめんなさい‥‥ええ、今、家庭教師で受け持ってる子の家庭環境がガラリと変わっちゃって‥‥勉強に身が入らないみたいなの」
ぽやんとしたおっとりお姉さんだけに、美園は思い詰めるととことん思い詰め、顔に出てしまう。
流石に雪もリサイタルは中止、彼女の話を聞く事にした。
「あたしもかなりビックリしたけど‥‥こんな事、彼には相談できないから」
美園の話を聞いた雪は、「うーん」と何かを必死に思い出すように眉を顰める。
「その子って、もしかして、小牧浩輔って名前じゃない?」
「そう! 雪ちゃん、浩輔君の事知ってるの?」
「知ってるも何も、あたしの高校の後輩だよ」
嬉しそうに両手を胸の前で合わせる美園。雪が在学中、部員が集まらなければ廃部確定のコーラス部に強引に入れたのが浩輔だった。雪が卒業した後、コーラス部は廃部になるかと思いきや、浩輔が部長を務め、部員を集めて活動を続けている。
義理堅く、一度引き受けた事は最後までやり通す性格のようだ。
町で連行した他のコーラス部の部員から、『浩輔に新しい母親が出来たらしい』という事は耳にしていたが、詳しい事は分からず、ようやく合点がいった。
「今日も家庭教師、あるの?」
「ええ、8時からだけど」
美園の返事を聞いて時計を見る雪。時間は午後4時前、まだ間に合いそうだ。
「よ! 何か悩んでたりしない、受験生?」
雪は浩輔の通学路で彼を待ち構えた。出会ったのは偶然を装ったが。
先ず、当たり障りなく自分の近況から話し始め、最後に新しい母親が出来た事を耳にしたと触れる。すると、浩輔から「新しい母親は年下で、ありえない。どう接していいか分からねぇ」と打ち明けられる。
「ま、まぁ、自分より年下の女の子がお母さんになっちゃうのはそうあり得ないと思うからよくは分かんないけどさ、新しい家族が増えた事は喜ばしいよ。今までお父さんと2人っきりだったんだし、そうじゃない?」
すると、「母親として認めていいのか分からない」と返事が返ってくる。こればかりは浩輔の心の持ち様だろう。
「さ、悩み聞いたんだから、今度はあたしの歌を聞く番だよ♪ あたしの歌を聞けば悩みなんて吹き飛ぶよ♪」
「確かに如月先輩のワンマン歌謡ショーを聞かされれば、そっちの方で悩んで、こっち悩みは吹き飛びそうだ」と返す浩輔。減らず口を叩けるまでに威勢が戻ってきたようだ。
「今日のカラオケは、先輩に対してそんな事を言う浩輔君の奢りです♪」
そのまま浩輔をカラオケボックスへ連行し、美園の家庭教師の時間までリサイタルを続ける雪だった。
「あかりちゃん」
「あ、美鶴姉さん」
帰宅し、普段着に着替えたあかりは、その足でスーパーへと買い物に出掛けた。いつものように自分の家の分と浩輔の家の分の食材を買っていると、近所に住むお姉さん、野々村 美鶴とばったり会う。
あかりにとって美鶴は憧れの女性であり、一人っ子の彼女の姉代わりだったので、今でも美鶴姉さんと呼んでいる。
「夕食のお買い物かしら? その割には量が多いけど」
美鶴も浩輔に新しい母親が出来た事は聞き及んでいるし、あかりが浩輔にどんな想いを抱いているかも知っている。あかりが今の居心地の良さを失いたくないと思い、浩輔の仲が進展しないのを心配し、敢えてからかっているのだ。
「こう君ちも大変よねー? お父さんの再婚相手がこう君より年下の可愛い子だし。かてきょの先生とも良い雰囲気っぽいって話しだし。何気にこう君、もてるのよねー。私も今度食べ」
「ま、まだお米炊いてなかったのでこれで失礼します。また今度、ゆっくりお話ししましょう」
美鶴の言葉を最後まで聞きたくないかのように、理由を付けてその場を走り去るあかり。
「くす、これで少しは危機感を持って、積極的になればいいんだけど‥‥とはいえ、残る問題は朴念仁のこう君の方か」
あかりを焚き付けた美鶴は、次は浩輔をからかおうかと、口元に手を当てて小悪魔のような笑みを零した。
その日の家庭教師は、美園がいつもより早く来ていた事と、浩輔がギリギリの帰宅という事もあり、いつもより遅く開始した。
浩輔は美園のちょっとたどたどしい慣れていない指導にも真剣に耳を傾け、熱心に話を聞く。美園から見れば、とても素直だ。
「平凡に見えるけど、受験勉強を頑張る集中力は凄い! 絶対受かるわ♪」
休憩の合間、「美園先生、俺、本当に受かるのかな?」と不安になる浩輔をそう励ます美園。「平凡は余計だよ」と苦笑いする浩輔。美園には雪との会話が効いてるように思えた。
「だから、切っ掛けがあれば、絶対、典子さんにも素直になれるよ! だって典子さん、自分に素直に愛を貫いているのよ? 家事だってこなせるし、あたし、尊敬もの」
「美園先生はあいつを尊敬する前に、料理の腕を磨かないとな」と浩輔は笑いながら言う。
「ひっどーい。いいもん、あたしは彼氏に作ってもらうから。浩輔君も、恋愛すれば分かるかもね♪ さ、続きを始めましょうか」
そう浩輔を焚き付け、あかりとの仲の進展を望む美園だった。
●年下の母親として
典子はまだ16歳という事もあり、週に一度は実家へ帰る。
典子の実家は、浩輔の家から電車で6駅離れており、30分は掛かる。
「最初はそんなものよ」
「そうかなぁ?」
実家に帰ると、母、美香に浩輔との仲が上手く行かない事を愚痴ってしまう典子。母は強し、というが、一笑する美香。
「それに浩輔君も典子と同じ気持ちだと思うわ。照れてるのよ。あのくらいの年頃の男の子は、異性を変に意識してしまうものだから」
典子は浩輔くらいの年頃の男性との恋愛をすっ飛ばして秀行と結婚してしまったので、美香はその辺りを説明する。
「それに、浩輔君も典子の事、嫌いじゃないと思うわよ‥‥ほら」
玄関のドアが開き、「美香さん、あいつまだいる?」と浩輔が駆け込んでくる。午後9時を回っており、とっくに家に帰らなければならない時間だ。普段なら秀行が車で迎えに来るが、今日は忙しいので無理と言っていたのをすっかり忘れて話し込んでいた。
それで心配したのだろう、代わりに浩輔が迎えにきたのだ。
ちなみに、浩輔からすると美香は祖母になるが、美香自身そう呼ばれるのはまだ早い歳なので、「美香さん」と呼ばせている。一度だけ浩輔が「お祖母さん」と呼んだ時は、にっこりと笑いながら、両拳でこめかみをグリグリしていた。
「それにしてもお姉さん、遅いわね。会ってから帰りたかったけど‥‥」
その時、不意に電話が鳴った。美香が出ると、その顔色がみるみる悪くなってゆく。
「桃子が‥‥交通事故で‥‥入院したって‥‥」
「い、急いで病院に行かなくちゃ! タクシーを」
崩れ落ちる美香を浩輔が抱き留め、「こっちの方が速い」と典子が電話を取ろうとする手を制した。
自転車で2人乗りをし、典子は浩輔に連れられて、姉、桃子が搬送されたという病院へ向かった。
「あ、典子ちゃ〜ん!」
「あ、典子ちゃ〜ん、じゃないわよ。心配したんだから!」
典子と浩輔が病室へ駆け込むと、桃子はお笑い番組を見ながら爆笑している最中だった。
事故は、自転車で最寄りの駅から家へ帰ろうとしたところ、横断歩道で車に突っ込まれたというものだった。幸い、命に別状はなく、左足の骨にひびが入ったのと右足の捻挫、そして背中の軽い打撲だという。
既に警察の事故検分は終わり、ぶつけた相手との折半も済んでいるという。今時のイケイケ系なねーちゃんながら、私立の経済大学に通うだけの事はあるようだ。
「典子ちゃん、心配かけてごめんね〜」
「もういいよ‥‥何か、お姉さんの元気な顔を見たら、怒る気も失せたから」
そこへタクシーで後から来た美香がやってきて詳しい話を聞くと、典子と浩輔は明日も学校がある事から家へ帰らされた。
「浩輔さん‥‥ありがとう」
2人乗りしながら、背中越しに浩輔に礼を言うと、「‥‥いいって。俺達、家族だろ?」という言葉が返ってきた。
『‥‥我ながら焦りすぎたのかもしれないな。典子にはすまないが、もう少し時間を置くべきだったのかもしれない。と言っても、今更時計の針を戻す事は誰にも出来ないのだし、何かとやっていくしかないだろう。典子も無理をする必要はない。たぶん時間が掛かるだろうが、少しずつ3人で1つの家族に成っていけばいい』
不意に、秀行が出掛ける前に話した事を思い出す。桃子の事故という、切っ掛けは不幸かもしれないが、いや、不幸だからこそ助け合い、そして少しだけ本当の家族に近づけた気がする典子だった。
●幼馴染みは前途多難
「‥‥う、美味しい」
翌日、あかりはいつもより早起きをして小牧家へ乗り込み、典子と朝食を作った。
典子の料理の味見をし、自分より美味しいので軽く凹むが、「俺はあかりの味の方が好きだな、食い慣れてるし」とつまみ食いをした浩輔の感想で舞い上がる。
「典子ちゃん、本当におじさまが好きなんだね‥‥分かるな、なんとなく‥‥」
また、話すうちに、歳が近い所為もあり、一所懸命母親になろうとしている典子の気持ちを共感でき、浩輔と早く仲良くなって欲しいという気持ちが芽生えていた。
「‥‥浩ちゃん、典子ちゃん、きっといいお母さんになるよ。だから迷わなくていいと思うよ。本当に好きな人とずっと一緒にいたいって気持ち、私も同じだから‥‥私も本当に好きな人と一緒にいたいから」
浩輔を真っ直ぐ見つめるが「そんなヤツがいるんだ」とあっさりスルー。
「浩ちゃんのバカー!」
「‥‥浩輔の事を頼む。あいつにとって一番近いのはたぶんあかりちゃんだろうし、いろいろ相談になってくれると嬉しい。そして、出来るなら典子の事も‥‥」
前途多難に涙するあかりの味方は秀行だけかもしれない。