八百八町異聞〜くノ一アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
08/23〜08/27
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●本文
『八百八町異聞』は、江戸時代も終盤に差し掛かった天明元年(1781年)の大江戸八百八町を舞台とした“痛快時代活劇”を謳う時代劇ドラマだ。
主人公は逐電屋を生業とする町民の平八郎。御歳二十九にして二枚目だが独身で、特定の彼女はいない。
この時代、老中の座に就いた田沼意次の行った政策により、悪化の一途を辿っていた江戸幕府の赤字財政は改善に向かい、景気もよくなったが、町人や役人の間に贈収賄が横行した。その結果、江戸幕府から追われる者が増え、江戸の外へ脱出させる手助けをする裏家業が逐電屋だ。
逐電屋の歴史は古く、五代将軍徳川綱吉の頃からあったといわれているが、その真偽は定かではない。
また、逐電を成功させるにはかなりの手腕が必要だが、平八郎は甲賀忍者であり、一度も逐電に失敗した事はない。
平八郎には逐電を手助けする協力者が少なからずいる。皆、平八郎を慕う、麗しい乙女達ばかりだ。
一人は、お鈴。表向きは読売(=瓦版)屋だが、その正体は伊賀忍者のくノ一で、裏社会の情報に精通している。以前、平八郎に命を救われた事があり、それ以来平八郎の事を「兄ぃ」と呼んで慕っている。十代後半の美少女だが、本人は一向に成長しないひんぬーを秘かに気にしているとか。
一人は、お珠。平八郎の住む長屋の界隈を担当する回り方同心“大蔵のとっつぁん”こと片山大蔵に協力している岡っ引の千造を父に持つ町娘だ。ひんぬーを苦にしていたお珠は妖刀桃正に操られて、胸の大きな女性の辻斬り未遂事件を起こしていたが、平八郎によって助けられて以降、押し掛け女房同然で通い妻をしている。二十歳前後の美女。
一人は、瑠璃。瑠璃は人間ではない。越前の海の沖に住む人魚族の末妹だ。江戸へ攫われた人魚族の長である姉を追ってやってきたが、姉を助けた平八郎に懐いて、強引に居候をしている。人魚だけあって、水を操る妖術(主に回復系)を使うが、まだまだ未熟なので成功率は三割にも満たない。十歳前後の美少女で、もちろん、ひんぬーだ。
一人は、華乃。華乃も人間ではない。奥多摩に住む雪女郎(=雪女)を束ねる長だ。妖怪退治を生業とする陰陽師に操られ、江戸まで降りてきて、女性達を凍り付かせていたが、平八郎に助けられ、瑠璃同様居候を決め込んでいる。惚れたら一途で嫉妬深い性格だ。雪女郎だけあって、口や手から吹雪を出すなど、雪に関連した妖術を使う。 20代の美女で、平八郎を慕う女性にしては珍しく、胸は大きい。
平八郎とお鈴、お珠、瑠璃、華乃の五人が、大江戸八百八町で次々と起こる不可解な事件に挑む、それが『八百八町異聞』だ。
そして今回、『八百八町異聞』の公開ロケが行われる事となった。普段は一般人に公開されない為、妖怪や陰陽師を扱った脚本が多いが、今回は一般人に公開されるという事で、獣人の能力で代用しなくても可能な脚本が書かれる事となった。
それは、平八郎対お鈴! 忍者合戦である。
平八郎は、平賀源内を師を仰いでいる。
源内は二年前の安永七年(1779年)に、二人を殺傷して投獄され、翌年獄死した事になってるが、これは表向きだ。死因を検分したのは親友の杉田玄白であり、玄白の偽の死因検分と意次の庇護の下、江戸の郊外に隠れ住み、『エレキテル』を始めとする発明品を作る、自由気ままな暮らしを送っている。
第二代服部半蔵正成が徳川幕府に召し抱えられて以来、伊賀忍者以外の忍者は肩身の狭い思いをしているが、源内は江戸に住む伊賀者以外の忍者を裏で保護していた。
源内を師と仰ぐ平八郎は流派のわだかまりはなく、故に伊賀流のくノ一であるお鈴を助け、付き合っているのだが、伊賀忍者としてはそれは面白くない。
加えて、平八郎は逐電屋だ。彼が逐電させた者の中には、江戸幕府の批判者も数多くいる。江戸幕府は平八郎のような一個人(=小物)にいちいち目は掛けていられないが、江戸幕府に仕える伊賀忍者は別である。
そこで第十代服部半蔵は、お鈴と親しいくノ一お琳に、お鈴と共に平八郎殺害の命令を下す。
お琳より平八郎殺害の命を聞いたお鈴は、平八郎を慕う想いと、伊賀流のくノ一としての使命の狭間で葛藤する事となる。
■特別出演者紹介■
・お琳:十代後半。普段は辻で竹細工の売り子をしているが、その正体は伊賀流のくノ一でお珠の親友。忍者刀の扱いはお珠に及ばないものの、忍術の腕前は上。平八郎と面識が無い分、殺害命令は忠実にこなす。胸は普通。
■成長傾向■
体力・格闘・軽業・発声・芝居
●リプレイ本文
●挨拶
屋内撮影所には『八百八町異聞〜くノ一』に出演する役者達が一堂に会し、セットを使って段取りを打ち合わせていた。
「江戸時代だから、アドリブでもカタカナを使っちゃいけないのか」
「カタカナで喋れるのは瑠璃だけなんだにゃー」
脚本の最終チェックをするMAKOTO(fa0295)。時代劇は今回が初めてだという。また、彼女が演じる雪女郎の華乃は、普段使い慣れていないお嬢様口調で喋る。そこでMAKOTOは楽屋で自己紹介してからというもの、何故か自分にベッタリな人魚の末姫、瑠璃役の西村・千佳(fa0329)に指導を頼み、台詞と仕草を上手く組み合わせて気品を出せるよう最後まで調整を続けている。
「平八郎様、葉月はまだまだお暑うございますわ。わたくしの特製冷汁と冷茶、氷菓子で涼しんで下さいな‥‥こんな感じかな?」
「すっごくお嬢様らしくて、華乃お姉ちゃんそのものだにゃー! 次は僕の台詞だにゃ‥‥お兄ちゃん〜♪ 瑠璃、お昼ご飯作っ‥‥あ゛あ゛、今日のお昼ご飯が!?」
千佳はお兄ちゃんやお姉ちゃんが大好きな子。今回はMAKOTOをターゲットとしてロックオンしたようだ。
「女性の登場人物は、ひんぬーの方が多いようですね」
「大方、原作者の趣味じゃないの?」
「そうやないみたいやで。お鈴とお珠は平八郎を巡る恋のライバルや、だからお珠の設定に合わせたんやないかな?」
エルティナ(fa0595)演じるお鈴と、ビスタ・メーベルナッハ(fa0748)演じるお悠の戦いは、今話のクライマックスの1つだ。また、八百八町異聞では、刃は潰してあるものの本物の素材を用いた日本刀や苦無を使用するので、殺陣(たて)の段取りも入念に行われる。
小休止に入り、脚本に目を通していたエルティナの何気ない一言に、ビスタが冷ややかに笑いながら、お珠役の研究の為、以前の放映を観た敷島ポーレット(fa3611)が意見を告げながら集まった。
エルティナは忍び装束の下に着る鎖帷子の下にサラシを巻き、胸を押さえている。同じく忍び装束を纏うビスタが演じるお悠はお鈴と違い、豊満な肢体をしているので、彼女はご自慢のバストを押さえる必要がない。
お珠も妖刀に付け込まれるくらい気にしているひんぬーだが、和服は元々身体の線が出にくいので、ポーレットも特に押さえてはいない。
艶やかな黒髪を湛えるエルティナと、白っぽい灰色の髪のビスタ、そして金色がかったクリームタビーの髪のポーレットの3人が和服に身を包む姿は、日本人にはない浮世離れした美しさを醸し出している。
「うわ!? うわうわうわー!? 高ーい!」
「宙に浮いても、足は違和感のないようにな。大丈夫、由姫の体重くらいじゃ、そうそうワイヤーは切れないぞ」
「う゛〜、私、そんなに重くないよぉ。犬神さんのいじわる〜」
「ははは、これは失礼」
初めて体験するワイヤーアクションに、お琳役の風間由姫(fa2057)はわくわく半分、ドキドキ半分、といったリアクションを見せる。ワイヤーを巧みに操るのは犬神 一子(fa4044)、裏方の彼はワイヤーアクションのサポートも慣れたもの。由姫のリアクションが楽しいのか、からかいを交えてワイヤーアクションの注意点を告げると、楽しんでいる彼女は可愛く頬を膨らませる。
普段は裏方の一子だが、今回は十代目服部半蔵を演じる。
「ここで、飛来して奇襲を仕掛けるお琳との戦いだな」
自分の前に下りてきた由姫へ、平八郎役の雨堂 零慈(fa0826)は苦無を逆手に構えて斬り掛かる。もちろん寸止めだ。
今までアクションシーンは獣人の超人的な身体能力に頼っているが、今回はワイヤーを使う為、今までと勝手が違うので、その確認もいつもより念入りに行っている。
平八郎の役も3回目とあって、元々時代劇の申し子として存在感を現し始めている彼は手慣れたものだ。
「よし、拙者の方で確認は最後だな。皆、今回の撮影も全力で臨もう!」
『では、風間さん、エルティナさん、犬神さん、メーベルナッハさん、スタンバイお願いします』
零慈が全員に発破を掛けると同時に撮影の準備も整い、最初のシーンに登場する役者達に声が掛かった――。
●八百八町異聞〜くノ一
江戸城に数ある城門の一つ、半蔵門。江戸城の西端に位置し、江戸城の他の門が五街道のいずれかへ通じているのに対し、半蔵門だけは五街道全てへ出る事が出来た。これは、歴代服部半蔵が伊賀忍者を従え、将軍より直々に諸大名の内情を探る任を受けているからだ。
半蔵門の門外にある服部半蔵の家。第十代服部半蔵は板の間に座していた。目の前には町娘風の少女が一人、頭を垂れて控えている。対峙する少女の身体は、半蔵から伝わってくる存在感と殺気に小刻みに震えていた。
「お琳。逐電屋平八郎は知っているな?」
半蔵に言われ、即座に記憶を探る。親友のお鈴と仲の良い甲賀者だ。
「‥‥はい」
「ここのところ、小金色の菓子を贈られた役人を批判した学者を次々と水戸へ逐電させておる。水戸に入られたら儂らでもどうする事もできん」
徳川光圀以来、水戸藩は徳川幕府の批判者を匿う傾向にあった。これは水戸徳川家から将軍を出さない幕府に対する秘かな反抗であった。
「田沼の狸親父も逐電屋は黙認しているが、上様のお耳を煩わす前に消せ。お琳、お鈴と共に命じる。失敗は許さん。もし甲賀者に後れを取るような事があれば‥‥分かっているな」
「‥‥はい」
平八郎殺害を命じられたお琳は、部屋を出ていった。
「お悠」
「‥‥ここに」
半蔵に呼ばれたお悠が、隣の部屋の襖をわずかに開けて返事をする。ずっと隣の部屋に控えていたが、お琳には分からなかった。それだけお琳より忍術・体術の腕が優れる証拠だ。
「お琳とお鈴を監視しろ。もし裏切るようであれば‥‥構わん、殺せ」
「御意に‥‥」
お悠は刹那の逡巡も無く任務を受諾すると、屋敷を出ていった。
「平八郎さん‥‥って、かかか華乃さん、何しているのですか!?」
押し掛け女房よろしく、お珠がいつものように平八郎の住む長屋の戸を開けると、平八郎に寄り添って寝る華乃の姿を見て目を丸くした。瑠璃が平八郎の足にしがみついて寝ているが、まだ子供なので気にしていない。
「おお、お珠か。もうそんな時間か。華乃のお陰で久々にゆっくり寝られたよ」
「ほほほ、わたくしも平八郎様のお側で寝られてまさに夢心地でしたわ」
「とにかく、平八郎さんから離れなさいよ!」
「私も私も、お兄ちゃん〜」
暢気に欠伸をする平八郎。華乃は着物の袖を口に当て、お珠の方を見ながら余裕の笑みを浮かべる。
葉月(八月)はまだまだ暑く、夜は寝苦しい。雪女郎の華乃は元々低体温なので、添い寝して快適な睡眠を提供したのだ。もっとも、彼女は自慢の肢体で魅了するつもりだったが、こちらはあまり効果はなかったようだ。
お珠がずかずかと上がり、華乃を引き離しに掛かると、今度は瑠璃まで平八郎に抱き付く始末。
平八郎の周りは今日も日常茶飯事から始まった。
「売れてる? 一緒にお昼ご飯食べよ」
普段は読売(=瓦版)屋をしているお鈴は、竹細工の店頭で働くお琳に声を掛け、一緒に昼食を採る事が多い。
「半蔵様からの命を伝える」
「!? 兄ぃを殺せっていうの!?」
お琳から平八郎殺害の命を聞き、思わず聞き返すお鈴。声を上げなかったのは流石はくノ一、といったところか。
「半蔵様の命令は絶対。それはあなたも分かっているでしょう?」
「そ、それは、分かっているけど」
「なら、これから決行する」
あくまで抑揚のない声で淡々と話すお琳。お鈴は従わざるを得なかった。
それから平八郎は不可解な事故と相次いで遭遇する。
お珠と華乃が作った昼飯を、家事を手伝っていた瑠璃がひっくり返してしまったので、蕎麦を食べに行ったところ、大八車が暴走して平八郎目掛けて突っ込んできたり、積んであった材木がいきなり倒れてきたり‥‥。
甲賀忍者だけあって寸前でかわし、事なきを得るが、明らかに事故ではなく意図的な仕業だと感じられた。
しかも、急に事故が増えたので、原因をお鈴に調べてもらおうとしたが、こういう時に限って見付からない。
そして逢魔が刻。平八郎は今度の逐電の下見を終え、帰路に付いていた。
「‥‥!? この手裏剣は‥‥」
耳を掠める風切り音。即座に苦無を逆手に構え、叩き落としたそれは手裏剣だった。
手裏剣に気を取られている隙に、平八郎の頭上から忍者刀を構えた少女が飛来する。平八郎は転がりながらかわして間合いを取る。
「くノ一!? 伊賀者か!? 女とはやりあいたくないんだが‥‥そう言っても退いてくれないよな?」
平八郎の言葉を否定するように、くノ一は跳躍して一気に間合いを詰める。少なくとも平八郎やお鈴より素速い。
苦無を弾き、平八郎の懐へ入ったくノ一が息を吸い込むと、今度は彼女目掛けて手裏剣が放たれた。
くノ一は火遁を止め、恐るべき跳躍力で平八郎の元から離れた。
「鈴ちゃん、どうして戦わないの!」
「琳ちゃん、こんなの間違ってるよ!」
手裏剣で援護と邪魔をしたのはお鈴だった。
お鈴が平八郎を本気で倒そうとしていない事に怒りを露わにするお琳。任務中にも関わらず、つい、いつもの愛称で呼んでしまうのは感情的になっているからだ。
「間違ってるって、そんな馬鹿な! 鈴ちゃん、本気で言ってるの!?」
お鈴の言葉に驚き、一蹴するお琳。しかし、お鈴は彼女の両肩を掴んで顔を激しく左右に振る。
「兄ぃは悪い人じゃないの! 話をしてみたらきっと琳ちゃんだって、それが分かるはずだよ!!」
「‥‥でも、半蔵様の命令は絶対で‥‥」
「それは分かるよ、くノ一だもの。でも、お鈴には命令以上に大切な物があるから! この命、半蔵様の命令の途中で失いそうになったけど、甲賀者の兄ぃに助けられてから、お鈴の大切な物は兄ぃなんだよ!!」
「命令以上に大切な物‥‥お琳が今まで信じていた事は本当だったの? ‥‥やっていた事は何だったの?」
お鈴の熱の篭もった言葉に、葛藤するお琳。
「二人揃って情に絆され任務を放棄しようとは‥‥この伊賀流の面汚し共めが!」
「きゃふ!?」
次の瞬間、お琳の背中を深々と飛来した忍者刀が貫く!
「琳ちゃん!? あなたは‥‥悠ちゃん!?」
「気安く呼ぶな、汚らわしい。忍ともあろう者が、光を求めるなど‥‥恥晒しめ」
お鈴もお悠の事は知っている。少なくとも今の自分に勝てる相手ではない。
「お鈴!」
「お鈴ちゃん!」
「お鈴お姉ちゃんー」
「お鈴、無事ですの!?」
「兄ぃ、みんな‥‥」
そこへ平八郎を筆頭に、お珠と瑠璃、華乃が駆け付ける。平八郎の帰りが遅いので迎えに来たお珠達は、手裏剣から襲撃者の一人がお鈴だと知った彼から事情を聞き、お鈴の元へ駆け付けたのだ。
「丁度良い。お鈴、冥土への連れは多い方が楽しかろう」
「今は戦国の世ではない‥‥だから女であるお前も人を殺める必要はない」
「戯れ言を!」
苦無と忍者刀で切り結ぶ平八郎とお悠。一拍空けて虚空から無数の苦無や材木、井戸の桶が飛来する。お悠が得意とする、鋼糸を使って苦無等を遠隔操作する傀儡の術だ。
「お鈴お姉ちゃんには手を出させない! 私も戦うよ! うーずーしーおー!」
「これ瑠璃、慣れない攻撃の妖術を使うより、そこの小娘を治す方に専念するのですわ!」
お鈴を護るように立ち塞がり、日本海の渦潮を召喚する瑠璃。しかし、元々成功率が低く、やはり召喚は失敗。飛来する材木は華乃の手から放たれた吹雪と、お鈴が自分で忍者刀で弾いた。
その間、お珠がお琳の止血をし、瑠璃が癒しの妖術を使い、何とか命の灯火を消させない。
「く、多勢に無勢か‥‥だが、お琳にお鈴! 任務を放棄した以上、貴様らは抜け忍として生涯追われる事となろう! 引導を受け取る準備は、常に整えておくのだな!」
お悠は感情の変化に乏しいが、纏っている殺気からお鈴や平八郎を憎み蔑んでいるのが分かる。
お鈴に聞き手を切られた彼女は、捨て台詞を残して夜陰へ消えていった。
『お鈴の親友を死なせる訳にはいかねぇ!』
(『‥‥平八郎‥‥? ああ、これが鈴ちゃんの言っていた“命令以上に大切な物”かな‥‥』)
お琳は朦朧とする意識の中で、必死に自分の手当てをする平八郎の真摯な表情を見た気がした。
平八郎は華乃の雪女郎の力を借りてお琳を仮死状態にし、忍者刀の摘出を行ったのだ。
一命を取り留めたお琳は、お鈴に誘われて一緒に住む事となった。
それだけではない。平八郎や瑠璃達に謝った上で、平八郎に抱き付き、親友のお鈴を含めてお珠達に宣戦布告をしたのだ。
今日も今日とて、平八郎の安息の地は長屋の屋根になりそうだ。
●握手会
撮影が終わり、屋内撮影所から零慈やビスタが姿を現すと、見学客は拍手で出迎えた。
「はい、構いませんよ」
エルティナは、孫と一緒に来たという老夫婦の写真撮影に、笑顔で対応する。
「放送の方も楽しみにしてて下さいね〜」
「お兄ちゃんこれからも応援よろしくにゃ〜♪」
ポーレットはにこやかに振舞い、千佳はたまに来る若いカップル――のお兄ちゃんの方――と両手でとーーーっても嬉しそうにぶんぶんと握手を交わす。
「やっぱりハッピーエンドじゃなくてはですね☆」
お琳が生きていてよかったと喜ぶ子供に、自分のように釣られて喜ぶ由姫。
「【香港山海経】にも出演してるんでそっちもヨロシク」
CM付きで対応してしまうMAKOTO。
「伊賀忍法、かざぐるま〜」
巨体を活かし、子供の手を握ってぐるぐる振り回して遊ぶ一子。
握手会は大盛況の元に終わった。また機会があればこの撮影所で行われるだろう。