【PSF】ライヴバトル南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/18〜09/22
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●本文
●ヴァニシングプロの日常茶飯事
ヴァニシングプロは日本の大手ロック系音楽プロダクションで、ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多い。また、二代目社長緒方彩音自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。
ヴァニシングプロは夏と冬の年2回、アジア・オセアニア、南北アメリカ、ヨーロッパ、中東・アフリカの4地域同時中継で、『ライヴバトル』を開催している。これは、プロ・アマ問わずアーティストを募集して盛大に行うロックライヴだ。
しかし、今年の夏には開催されず、ロックファンはやきもきしていた。
「『Powerful Sports Festival』ですか?」
「そうだ。今年の夏のライヴバトルは『PSF』に合わせる」
ヴァニシングプロの社長室。各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している彩音が社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。実質、ヴァニシングプロを取り仕切っているのは、彼女の前にいるエレクトロンボルトという副社長だ。
彩音が久しぶりに帰ってきたと思ったら、開口一番、そんな事を言い出す。彼女の気まぐれは今に始まった訳ではなく、十数年来の付き合いになるエレクトロンボルトは慣れっこだ。
「既に『PSF』側と話は付いている。ロックライヴで赤組と白組を応援する‥‥いわば歌の壮行会だな」
「歌の壮行会‥‥なるほど。ライヴバトルは元々参加アーティストを競わせるものですから、『PSF』の応援して赤組と白組に得点が入るのであれば盛り上がりますね。早速手配をしてきます」
「よろしく頼む。私はこれからアメリカに飛ぶのでな」
早速、と言いつつ、慌てずにマイペースで社長室を出るエレクトロンボルト。彼の背中へ渡米の予定を告げ、社長室にあるホワイトボードに予定を書き込むと、そのまま部屋を出ていく彩音だった。
●彩音の野望
有能な副社長エレクトロンボルトにライヴバトルの全雑務を押し付けてきたヴァニシングプロの社長緒方彩音の姿は、翌日には北アメリカはニューヨーク州、マンハッタン島にあった。
南北アメリカで行われるライヴバトルは、ブロードウェイにある劇場で開催されるので、その下見と挨拶に来ていた。
審査員は観客全員で、赤組(=奇数月生まれ)と白組(=偶数月生まれ)のアーティストの全演奏が終わった後、客席を中央で左右に分け、どちらの組の歌がよかったか、移動して決めてもらうという豪快な採点方式だ。
移動した観客の多い組に丸々10点がごっそり入る、まさにどんぶり勘定的な一発勝負。観客を満足させるだけの歌詞とテクニック、ヴィジュアルとパフォーマンスが要求されるだろう。加えて組のカラーも出していく必要もありそうだ。
彩音にはもう1つ狙いがあった。ヴァニシングプロへの『スカウト』だ。
彩音自身「綺麗なものが全て」と豪語しているが、それは外見だけに限った事ではない。綺麗な音楽、綺麗な歌声、ロックグループであれば綺麗なチームワーク、というように、全てにおいて綺麗さを求めており、それに伴う努力も見ている。才能やセンスの上に胡座をかき、それを磨かないアーティストや見掛けだけのビジュアル系は、ヴァニシングプロには所属していない。
今のところ『デザイア』がヴァニシングプロの全面的なプロデュースを受け、成功を収めている。ヴァニシングプロのプロデュースは、日本のロック界では若手の登竜門とされている。それだけ実力がある事をヴァニシングプロが保証するからだ。
「さて、どんな逸材が現れるか、どんな曲が聞けるか楽しみだ。これだからライヴは止められないんだ」
彩音は既に次の逸材を探していた。彼女はいち観客として客席に埋もれ、アーティスト達の前に姿を見せる事はない。だが、演奏が終わった後、もしかしたら彩音の肩を叩かれるアーティストが出てくるかもしれない‥‥。
※※成長傾向※※
容姿・発声・音楽・楽器・踊り
●リプレイ本文
●ブロードウェイの舞台
ニューヨーク市マンハッタン区にある『ブロードウェイ』と芸能人が聞けば、連日、多くの演劇や舞台、ミュージカルなどが開催されている、タイムズスクウェア周辺の劇場街の事を思い浮かべるだろう。
ヴァニシングプロの社長緒方彩音が、アメリカで開催するライヴバトル用に手配した会場は、普段はミュージカルで使用する小劇場だった。
「まさか、ロックのコンサートでブロードウェイの舞台に立てるとは思わなかったのじゃ」
「久々に歌手らしい仕事を請けましたケド、いきなりアイドル歌手としての晴れ舞台になってしまったですネ。持ち歌はちょっとロックっぽくは無いですケド‥‥」
そのステージに立って実際の客席の見え方を確認したり、幅を歩測する冬織(fa2993)と森村・葵(fa0280)は、ふと自分達を照らすスポットライトを眩しそうに見つめた。
「ブロードウェイの舞台で演奏できるのは、ミュージシャン冥利に尽きるのじゃ」
「だよなぁ。俺も葵と同じで、シンガーのくせにシンガーらしい仕事はこれが初めてなんだが‥‥く〜、新しい歌を用意する時間がなくて、クリスマス仕様で且つ応援歌じゃないのが悔やまれるぜ〜」
ステージの配置を頭に叩き込みながら、冬織達を見ている各務・皐月(fa3451)の言葉に、愛用のエレキギターの調整をしていたAKIRA(fa2608)が悔しそうに唸る。
「大丈夫ですのネ。既存の概念に囚われないというロックの提議では、外れてるっぽいジャンルを歌うのもまたロック魂かも知れませんネ!」
「なるほどな。それなら俺の歌も友情モノと解釈できるか」
「既存の概念の囚われない、か。生きる事=歌う事‥‥じゃな、わしには。艱難辛苦、喜怒哀楽、全ては歌に篭め‥‥歌姫としてブロードウェイの舞台で一花咲かせようかのぉ」
葵は自分で言っておきながら超屁理屈っぽいと思ったが、AKIRAと冬織はロック魂だと理解したようだ。
(「なかなか面白い面子が揃ったようじゃな」)
皐月は葵達の言葉を一言一句、聞き逃さない。彼らの歌に込める想いを、司会として少しでも観客に伝える為に。
「ステージ衣装はこんな感じかしら?」
「似合っていますよ」
楽屋では結城ハニー(fa2573)と鬼道 幻妖斎(fa2903)がステージ衣装合わせを行っていた。
幻妖斎達は『宇宙防衛軍』というユニットを組んでの参戦だが、名は体を表すという諺の通り、ロボットアニメに出てくるようなパリッとした軍服を意識したスーツを着ている。
特にハニーは、マイクロミニな深緑のワンピースに、歩くたびにコツコツと小気味よく床を鳴らす黒皮のロングブーツを履き、ナチュラルさをメインにした清楚感溢れるメイクを施す事で、流れるようなブロンドヘアと合わせて、“格好いい正義のお姉さん”を演出している。
幻妖斎は彼女と並ぶと、“防衛軍の長官”に見えなくもない。
「な、何‥‥?」
「恥ずかしがってはダメです、私達は“恋人同士”という触れ込みで、ブロードウェイの舞台で歌手デビューするのですから」
隣の楽屋では、煌姫 龍華(fa4464)にまじまじと見つめられた三神 操(fa4655)が頬を赤らめながら先に視線を外すと、龍華が操の両頬を両手で持って自分の方へ向けさせる。
2人は『操龍』というユニットを組んで、今回、初めて歌手として、また作曲家としてステージに立つ。
(「本当は違うけど、龍華さんと恋人というのはあくまで今回限りの設定だから」)
操は龍華が事ある毎に言う「恋人らしい振る舞いを身につける」という今回の目標を実践し、音合わせといった練習以外も可能な限り同じ時間を過ごしている。
「仕上げはやはりこれですね」
「ん!? んん‥‥」
軽くキスをする龍華。唇と唇が触れるだけの軽いキスだが、操は突然の事に目を丸くする。
「スキンシップですよ、スキンシップ。今はこれで‥‥でも、いずれ私のものにしてあげます」
離れた唇を舌なめずりをして妖艶な笑みを浮かべる龍華。まるで、獲物を前にした猛禽類のそれだった。
●鬩ぎ合いの中で
500席程の客席は、ロック好きな観客によって瞬く間に満員札止めとなった。立ち見ばかりか、フロントに設置された大型ディスプレイの前にも人垣が出来ている。
また、この小劇場がライヴバトルの会場として選ばれた理由の1つが、客席の左右の壁に設置されたディスプレイだ。アジア・オセアニア、中東・アフリカ、そしてヨーロッパで同時開催されているライヴバトルの映像が、リアルタイムで流される。
『ヴァニシングプロが主催するライヴバトルのステージへようこそ。今宵は『Powerful Sports Festival』の歌の壮行会として、各組を歌で応援するのじゃ。観客の皆にはどちらの組の応援歌が心に響く応援歌だったか、後程判定してもらうので、一曲たりとも聞き逃さないようにのぉ。もっとも、聞き逃されてしまうような歌では壮行会の意味はないが、無論、そのようなアーティストは1人もおらんぞ?』
皐月のライヴバトルの趣旨説明を兼ねたマイクパフォーマンスに、客席から早くも笑いがこぼれる。
『今宵、最初の歌い手は白組じゃが、このステージがデビューとなる操龍の2人じゃ! 曲のテーマは『燃えるような愛』、どんな曲なのか、今から楽しみじゃな』
皐月が下がると、ジャラリと鎖の音が鳴る。
無人のステージへ袖から先ず現れたのは額に一角獣の角を生やし、悪魔を模した露出の高く、背中に小さな蝙蝠の羽根を突けた黒いレザースーツ姿の龍華。音の正体は彼女か手に握る鎖で、それに引かれるように、鎖の付いた首輪を付け、天使をイメージした白ロリの衣装に身を包み、ヘッドケープを被り、小鳥の羽根を背中に湛えた操が現れた。
「皆さん、悪魔の子飼いの天使はどういう末路を辿るか知っていますか?」
操がギターを構え、演奏を始めよう、という時に、龍華が突然観客に話を振る。何の事かと操を含め、観客が彼女の動向を見守っていると、龍華は鎖を力強く引いて強引に操を引き寄せ、唇を奪う。
観客だけではなく操の注目も集めた。
♪育った街から遠く離れたこの場所で
見た瞬間にビビッと来た
次の日からは
喉はカラカラ 胸はモヤモヤ
居ても立ってもいられない
この思いを否定するなら 神なんて要らない
全ての敵を排除して ついに手に入れた私の天使
これから百年かけてゆっくりと
この思いをアナタの魂に注ぎ込む♪
かつて天使だった2人は愛し合ったが、それは禁断の恋だった。引き裂かれ、堕天使となった龍華。それでも操の事が忘れられず、彼女を天界まで奪いにいった――そんな情熱的な雰囲気を迸らせる。
サビの部分や間奏の時には、操と見つめ合い、「あなたは私の事をそう想っていないかもしれないけど、私はこれだけあなたの事を愛しているのよ」と見せつけた。
『冒頭から熱烈な恋の歌じゃったが、次の歌もまた情熱的じゃぞ? 赤組のAKIRAが歌う『Dual Face』じゃ!』
「情熱的というよりは友情だけどな」
皐月の説明を補足しつつ、ステージの上から愛用のエレキギターを携えてAKIRAがブランコの上に立って降りてくる。
「色々とあって、今回は赤組を応援するぜ。おぉっと、大人に事情に野暮な詮索はなしだぜ? ほら、バンダナ赤いし」
皐月がキーボードの準備を済ませる間、場を温めるAKIRA。ライヴバトルでは原則、バックミュージシャンは用意されない。全て参加者達の自前だ。皐月は司会を兼ねて、AKIRAも自分の出番以外はバックミュージシャンを務めている。
♪傍にいたい 冷たい雪の降り頻る街角で
照れるから言えずにいる その言葉をまた飲み込んだ
触れていたい 凍える右手繋いでくれた君が
恥ずかしそう そっぽを向く その仕草に笑顔こぼれる
二人 想い 知らず ただ逢いたくて 涙流してた
この日 想い 知って ただ溢れ出す
涙 貴方 君も 顔見合わせて 二人笑ったね
涙流れて 笑顔こぼれて クリスマスは Dual Face
でも 涙も 笑顔も 二人には Meaning is One.♪
ステージを照らす照明は落とされ、向けられたしんしんと降る雪を思わせるスポットライトを浴びながら、切々と歌うAKIRA。
言葉では言えなくても、伝えたい想いがある――それが表情や行動に表れてお互いの気持ちに気付く不器用な2人の想いを歌い上げる。
もちろん、最後は爽やかな笑顔で締める。
『クリスマスにはちと早いが、もう3ヶ月も寝ればすぐだし、友情はいつでも変わりないものであって欲しいものじゃな。次はそんな変わらない友情を感じさせてくれる、元気一杯な歌じゃ。歌うは白組の森村葵、歌は『白猫シロちゃん大勝負』じゃ!』
「にゃ―――――!」
皐月の紹介と同時に、元気良く猫の鳴き真似でステージへ飛び出してきた葵は、黒のゴスロリ姿だ。
♪しっろーねこ しっろーちゃん
あそこの魚屋もこっちの肉屋も美味そうだ
どんな獲物も 狙い撃ち
ハムもアジも 頂きさー
どきどき 緊張が高まる
怖い店長と 一騎打ち
しっろーねこ しっろーちゃん
ここも そこも あそこも どこでも突っ走れ
うちに帰ったら お楽しみ
勝利の味は どんな味♪
初めて歌うロックという事もあり、多少素人っぽく聞こえるが、それは見た目の愛らしさと元気のよさで十分カバー。
ステージの幅を計っておいた甲斐があり、ステージを目一杯使って縦横無尽に走り踊り、フィニッシュ時には観客席の側まで寄って、観客に向かって手拍子をお願いする。
曲調をアップテンポに変えたのが功を奏し、観客もノリノリで応える。
「白組、勝つぞー!」
景気付けに叫んで締めた。
『これは白組優勢か!? ここで赤組の切り札、『宇宙防衛軍』の登場じゃ! 葵は元気をくれたが、ハニーと幻妖斎は、都会の雑踏の中で忘れがちな心の『キレイ』を守る為に立ち上がった正義のお姉さんと長官なのじゃ!』
一旦、ステージ上の全ての照明が落とされると、様々な色の光線がめまぐるしく交差し、ヒーローよろしくギターを携えたハニーとベースを構える幻妖斎を映し出す。
ハニーはマシンガンを抱えるようにギターのネックを上に、幻妖斎はベースのネックを下にして、2人は背中合わのポーズを取っている。
♪持て余す記憶と
全てを支配しようとする bad news
下らない日常と
折り合いをつける日々が
魂までも凍らせる
そんな未来が欲しかったの?
don’t forget pure heart 負けないで今はまだ
you’ll be favorit heart アナタを待ってる人がいるから♪
やけにセクシーなハスキーボイスで優しく語り掛けるハニー。
それに幻妖斎がコーラスを合わせる。
激しいロックではなく、明るくポップ調なロックはノリがいい。
観客もすぐにメロディを覚え、足踏みで応える。
都会の雑踏の中を疲れたように歩く足は、ハニーと幻妖斎によって今、1つの大きな応援歌を奏でているのだ。
『さて、トリを務めるのは白組の冬織じゃ。歌は野生の白狼がコンセプトとした『Wild Innocence』じゃ』
♪Ah―――――♪
皐月の紹介が終わると同時に、狼の遠吠えの如く低音から高音に伸びる力強い声が劇場内にビリビリと響き渡る。
青いスポットライトに照らされて現れた冬織は、イレギュラーカットの裾の白のノースリーブドレスを纏い、腰に生成のショールをゆったり巻き、尾を見せている。アクセサリーの類は一切付けておらず、裸足が痛々しく感じる。
♪瞳開き 初めて見た色は 遥か遠い蒼
産声あげた小さな命 見守るように 試すように
何処までも続く天
息弾ませ 駆け抜けた風に 寄り添う色は翠
意識と爪研ぎ澄まし 吠える魂 包み込んで
様々な想い溶かす森♪
演奏は一切なく、冬織の声だけが響き渡る。
情景を語りかけるように、ゆったり豊かに歌い上げる。
彼女を照らすスポットライトが緑から赤へ変わる。
すると、たどたどしい伴奏が入り、冬織が再び歌い始めると共に徐々にテンポを上げ、力強く孤高の印象を爪弾く。
♪暁を告げる鳥の声
まどろみから覚めた白き獣
野性の色翻し 今出来ること貫いて
Stand up and Run
絶望に心切り裂かれても
Stand up and Run to the Victory
諦めず走り続けろ 幾つもの夜を越え
誰の為でもなく 生きることが勝利の証
いつしか全ては白き光となる Wild Innocence♪
音域の広さを活かした伸びやかな歌声は、後奏と共に柔らかくスローでフェイドアウトしてゆく。
●勝敗は!?
全員が歌い終わると、客席の中央に1本のロープが張られる。
『白組の歌が良かったと思う者はロープより右へ、赤組の歌が良かったと思う者はロープより左へ移動するのじゃ』
一斉に移動を開始する観客達。幻妖斎達はステージの上に勢揃いし、その動向を見守る。
全ての観客が移動し終えると、皐月が人数を数えていく。
『‥‥やや白組の方が多いようじゃな。よってこの勝負は白組の勝ちとするのじゃ!』
「PSFの競技はこれからが本番じゃが、それまで英気を養って欲しいのじゃ」
ライヴ終了後、皐月は出演者やスタッフ達に飲み物を振舞い、ささやかな打ち上げを開いた。冬織も日本から持参してきた煎餅と梅昆布茶を振る舞う。
「森村と冬織だな」
そこへ見知らぬ女性が姿を現すと、スタッフに緊張が走る。彼女はヴァニシングプロの社長緒方彩音だ。
「客席で聞かせてもらったが、なかなかいい歌声と度胸をしている。どうだろう、うちに所属する気はないか? 即答でなくてもいい、考えておいてくれ」
彩音から名刺を渡される2人。それはプロデビューへの道の1つかもしれなかった。