八百八町異聞〜鬼女アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
8.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
09/27〜10/01
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●本文
時は天明元年(1781年)の入谷町。ここは大江戸八百八町の北東に位置し、近くには不忍池や浅草寺、吉原遊郭がある。入谷町一帯はかつて千束池の底だったが、戦国時代に埋め立てられて開墾され、いくつか寺院が建ったものの、その後、開発されず、ごく普通の町民街が広がっている。
今、江戸では「天明狂歌」が流行しており、その中で入谷町に建っている寺院の一つ、真源寺、通称入谷鬼子母神が『恐れ入谷の鬼子母神』と謳われている。
「流石の幕府召し抱えの伊賀者も、あの逐電屋は倒せなかったようだな」
入谷鬼子母神の本堂の前に、その男の姿があった。
白を基調とした狩衣を纏い、結い上げた髪に鳥帽子を被った出で立ちは陰陽師のそれで、寺院では些か場違いにも思える。
逐電屋とは、江戸幕府から追われる者を江戸の外へ脱出させる手助けをする裏家業だ。彼の言う逐電屋とは、平八郎の事だ。二枚目だが二十九歳にして独身で特定の彼女はいない。身分こそ町民だが、甲賀忍者であり、一度も逐電に失敗した事はないという腕前の持ち主だ。
平八郎が逐電させた者は江戸幕府の批判者も多い。江戸幕府は彼のような一個人にいちいち目を掛けないが、江戸幕府に仕える伊賀忍者は別である。
そこで伊賀忍者を束ねる第十代服部半蔵は、配下のくノ一に平八郎殺害の命令を下す。が、それは失敗に終わり、そればかりか、くノ一が平八郎に惚れ込んでしまい、抜け忍となる始末。
「私も猫股や雪女郎を嗾(けしか)けたが、奴には敵わないどころか、逆に改心させてしまった‥‥奴を倒すには最早“神”しかあるまい」
彼は本堂へ入ると、本尊の裏に回り、床を押すとゆっくりと開いてゆく。そこは隠し部屋だった。
狩衣の懐から符を一枚取り出すと、口元に近づけて印を切る。そのまま隠し部屋へ身を躍らせると、彼の身体は綿毛のようにふわりふわりと降りていった。
隠し部屋はしばらく開けられていなかったのか、中の空気は澱んでおり、苔臭い。
彼が再び符を取り出して印を切ると、今度は符が松明のように燃え出した。しかもその明るさは松明以上だ。
隠し部屋には、一体の石像がひっそりと佇んでいた。美しい女性の石像だが全身は苔生し、時が経っている事が窺える。かなりの長身で、胸元を流れるような長髪で隠し、腰回りを薄絹で覆っただけの全裸に近い姿をしていた。腕や足、頭に装飾品を付けているが、目を引くのは前頭から突き出た二本の角だった。何より、美しく整った顔立ちに鬼のような形相を浮かべ、両手に鉄槌を構えている。
――そう、鬼のような形相。
「我が先祖が封印したという鬼女、衣緒‥‥お前の封印を解く時が来たようだな」
この石像は、人食い鬼女を封印した本人そのものだった。
彼女の名は衣緒。江戸に幕府が開かれて間もなく、その妖艶な美しさで男性を誘惑して肉を喰らい、美しい女は噛みついて石に変えて鉄槌で砕く事に喜びを見出していた人食い鬼女だ。この入谷鬼子母神を始め、多くの鬼女が改心し、鬼子母神となったが、衣緒は改心しなかった為、陰陽師一族に封印されていた。
その封印を子孫が解こうというのだ。
「衣緒があの逐電屋を倒せれば、それでよし。目障りな逐電屋がいなくなれば妖怪共の妖力も集めやすくなるというもの。衣緒が倒されればそれもまた良し。その時は妖力だけを戴くとしよう」
彼には衣緒を歳封印できる自信があった。どちらに転んでも彼には損のない賭けなのだ。
彼の名は安倍逅明。妖怪退治を生業とする陰陽師で、とある目的の為に妖怪達の妖力を集めていた。
■主要登場人物紹介■
・平八郎:29歳。逐電屋(=夜逃げ屋)を営むが、その正体は甲賀忍者。二枚目で独身。特定の彼女はなし。武器は手裏剣や苦無。
・お珠:20歳前後。岡っ引千造の娘で美女だが、ひんぬーを気にしている。平八郎に助けられて以降、押し掛け女房同然に通い妻中。奉行所の情報に精通している。
・お鈴:十代後半。表向きは読売(=瓦版)屋だが、その正体は伊賀忍者のくノ一で裏社会の情報に精通している。但し、今は抜け忍の身なので、伊賀忍者から追われている。平八郎を「兄ぃ」と呼んで慕っている。ひんぬー。
・華乃:20代前半〜30代前半。奥多摩に住む雪女郎(=雪女)。平八郎に助けられ、居候を決め込んでいる。惚れたら一途で嫉妬深い性格。口や手から吹雪を出すなど、雪に関連した妖術を使う。 平八郎を慕う女性にしては珍しく、胸は大きい。
・お琳:十代後半。普段は辻で竹細工の売り子をしているが、その正体は伊賀流のくノ一でお鈴の親友。お鈴同様抜け忍の身で、同居している。忍者刀の扱いはお珠に及ばないものの、忍術の腕前は上。胸は普通。
・瑠璃:10歳前後。越前の海の沖に住む人魚族の末妹。姉を助けた平八郎に懐いて、強引に居候をしている。水を操る妖術(主に回復系)を使うが成功率は三割にも満たない。もちろん、ひんぬー。
・衣緒:20代〜30代。男は妖艶な美しさで誘惑してその肉を喰らい、美しい女は石に変えて鉄槌で砕く事に喜びを見出す人食い鬼女(ヤクシニー)。多くの鬼女が改心し、鬼子母神となったが、衣緒は改心しなかった為、安倍一族に封印されていた。逅明がその封印を解いてしまう。
・安倍逅明:20〜30代。冷酷非情で好戦的な陰陽師。攻撃系の陰陽術を好んで使う。妖怪を絶対悪と決め付けて憎んでいるが、何故か遭遇した妖怪や半妖は封印するに止めて、消滅させる事だけはしないという一面もある。
■技術傾向■
格闘・軽業・芝居
●リプレイ本文
●舞台裏
江戸時代の街並みが再現された屋外撮影所のあちこちで、『八百八町異聞〜鬼女』に出演する役者達が打ち合わせをする姿が見受けられた。
「平八郎さんハーレムも大きくなってきたねぇ」
「人魚や雪女郎といった人間以外の種族をも惹き付けてしまうのが平八郎の魅力のようだが‥‥平八郎を演じ続けてきて、最近、やっとその魅力を掴めた気がするんだ」
お珠役の森宮 恭香(fa0485)の、意味ありげな薄い笑みを向けられた平八郎役の雨堂 零慈(fa0826)は、それに応えるように苦笑を浮かべ、すぐに真顔に戻って逆手に構えた苦無を振るい、殺陣(たて)の段取りを確認する。
「でも、お珠からすれば、ライバル達にやきもきしながらも、実は心の中では平八郎に一番合い、気付かないところでお鈴に特別な気持ちを抱いている‥‥って感じてるんだよね。前回の話で切っ掛けがあったし、今回は過去の嫉妬とは違う感情変化を表現しなくちゃ」
「ディレクターに聞いた話では、残り2、3話というが‥‥それまでに恋模様を終わらせられるよう、このまま平八郎を演じ続けたいものだ」
「んー。逅明って淋しい人だなぁ」
「だが、その淋しさも、ある意味、愛情の裏返しだからな」
陰陽師の服装で茶屋の軒先に置かれた長椅子に座り、そこに臥せておいた台本を手に取って読み返していた安倍逅明役の柚木透流(fa4144)が思った事を口にした。
すると、お鈴とお琳を狙う刺客の戒役の水沢 鷹弘(fa3831)が隣に座って頷いた。息が乱れているところを見ると、鬼女衣緒役のキューレ・クリーク(fa4729)との殺陣の段取りの確認を終え、休憩がてらやってきたようだ。
「でも、大切な人の為の、他を犠牲にするのは、やっぱり淋しいと思うよ」
「そこが演じる楽しみでもあるだろう? 情に流される事なく、主の命令を忠実に守る忍者、私はやり甲斐があると思っている」
「今回もワイヤーアクションがあるんですね〜。楽しみです☆」
「忍者の身体能力は獣人の特殊能力で代用するけど、そういった特殊能力が無い人はワイヤーアクションを使うらしいにゃー」
ワイヤーアクションの装置に身体を固定する、くノ一お琳役の風間由姫(fa2057)と、彼女を手伝う人魚の末姫瑠璃役の西村・千佳(fa0329)。
由姫は運動能力を強化する特殊能力を身に付けていないので、ワイヤーアクションの使用が決まった。
「でも、このお仕事を請けた所為で、いつもやらせて戴いているお仕事ができなかったんですよね‥‥その分こちらで頑張りたいと思います! って、わわわ!?」
仕事の事で心配する千佳に、由姫は拳をぎゅっ!と握って心配ないと応える。すると、ワイヤーアクションの装置が動き、由姫の身体はふわりと宙へ浮く。今度は由姫の身体を心配する千佳だった。
「さらしって、結構きついんだね。お鈴はひんぬーだから、さらしをきつめに巻いて胸を目立たなくしておいたけど‥‥」
「私は獣化しても角はないからな。衣緒はほぼ、特殊メイクだ」
くノ一装束姿のお鈴役の咲夜(fa2997)を横目で見ながら、特殊メイクを施されるキューレ。
黒い肌のキューレは、鬼女の時にはそのまま側頭部に角を付ければいいが、人間時にはメイクで誤魔化さなければならない。
「俳優というのは大変なのだな」
「でも、自分以外の全く違う誰かを演じられる素敵な仕事だと思うよ。それに、あたしが石化していく姿を見られるのも貴重だしね。へ〜、もし、石化の魔法があって石にされちゃうと、こういう風に石化していくんだね」
今回が俳優初挑戦となるキューレに、衣緒が噛みついた後、そこから石化していく自分の様をCGで表現・加工した試し撮りのVTRを観ながら、嫌味にならない程度に先輩風を吹かせてみる咲夜だった。
●八百八町異聞〜鬼女
お鈴が消えた。
彼女の表家業は読売(=瓦版)屋であり、事件を追っていれば一週間以上平八郎の長屋に来ない事も多い。
しかし、それでも時折、大江戸八百八町の中をひた走る姿は見掛けるが、今回はそれすらない。
神隠し――まさにそんな言葉があてはまる。
「お琳、お鈴がどこに行ったのか、本当に知らないのか!? 伊賀者にやられたんじゃないのか!?」
流石の平八郎も心配になり、表向きは辻で竹細工の売り子をしているお鈴の親友お琳を訪ねるものの、同居している彼女もお鈴の居場所は分からず、心配しているという。
それに、お琳もお鈴も今は抜け忍。確かに今まで仲間だった伊賀忍者に狙われる身だ。
(『兄ぃが聞いたら、後でびっくりするような事件を追って居るんだ。琳ちゃん、これは兄ぃにはまだ内緒だよ』)
お琳は、最後にお鈴から聞いた言葉を思い浮かべる。
お鈴は平八郎の長屋界隈で起こっている、行方不明事件を追っていた。それに巻き込まれた可能性も否定できないが、お鈴程の腕の持ち主がそうそう後れを取る事はないはずだ。
お琳は平八郎に心配を掛けないよう、真実は告げず、自分でお鈴の行方を探すつもりだった。
「くくく‥‥あの鬼女、中々派手にやっているようだな」
安倍逅明は旅籠屋の一室で、先程辻で買った読売にゆったりと目を通し、嘲笑いを含めて細く笑む。
衣緒を封印から解き放って数日は、この旅籠屋で大人しくしており、読売屋が賑やかに行方不明事件を伝えるのを待っていたのだ。
筆を持ち、懐から何も描かれていない符を取り出すと、その表に呪いを書き、衣緒が連れ去ったであろう女達の様子を見に、縹色の小鳥の簡易式神を創り出す。
果たしてその場所にはのお鈴が変わり果てた姿で佇んでいた。まだ砕かれていないようだが、鉄槌が振り下ろされるのも時間の問題だろう。
「さぁ、どう出る逐電屋。お前の大切な小娘は風前の灯火だぞ?」
愉快とばかりに嘲笑を浮かべる逅明。
すると小烏の式神が、不意に別の女性の姿を捉えた。お珠だった。岡っ引きである父の情報を元に、この事件を調べているようだ。
「‥‥分からぬ‥‥何故だ‥‥私は、お前を生き返らせたいだけなのに‥‥」
お珠の姿を見た途端、『彼女』の事を思い出すと、また自分の『中』にいる『彼女』が警鐘を伝えてくる。
胸に手を当てて動悸を落ち着かせると、苦虫を噛み締めるように先程とは違う色合いの小鳥の簡易式神を飛ばす。その色はお珠と同じ顔の『彼女』が好きだといった色だった――。
「亡くなった男性の様子からして、人の仕業ではないよね」
お珠は帳面に書いた情報を見ながら頭の中で整理する。野犬に食われたような男性の遺体や、身体の一部だけが見付かっていた。しかも、女性も行方不明になっているが、こちらは遺体すら見付かっていない。
すると、お珠の前に小鳥が現れ、彼女の頭上をゆっくりと何回か旋回した後、北西の方へ飛んでいった。
「入谷の方? ‥‥恐れ入谷の鬼子母神‥‥とか? 人じゃないなら、またあの逅明って陰陽師の仕業かな。事件発生場所もこの長屋の周りだし」
逅明の罠だろうと予想できた。だが、先日、自分を見て動揺した逅明の顔を思い出し、敢えて誘いに乗る事にした。
「私もだけど、お琳ちゃん、瑠璃ちゃんも気を付けて。今度の相手は‥‥ただの妖しじゃないから」
念の為、平八郎達にそう伝えてゆく。
入谷鬼子母神は閑散としていた。
「これって‥‥石像を砕いた跡?」
『そうさ、但し、原材料は生身のねぇ』
境内には至る所に着物姿の石像の下半身と、砕かれた上半身が転がっている。お珠が妙に質感のある石像の頭を手に取ろうとすると、後ろから女性の声が聞こえた。
「生身の!? ‥‥まさかあなたが、あう!?」
『そうさ、みーんなあたしがこうやって石くれに変えてやったんだよ。数百年眠らされていた怒りは、この程度じゃまだまだ収まらないけどね』
振り返った瞬間、お珠は首筋を鬼女に噛みつかれていた。岩が割れるような鈍い嫌な音と共に、噛まれた場所から冷たく硬い石へ変わってゆくではないか!
話がよく見えないが、この鬼女は数百年間封印されており、男性達を喰らい、女性達を石に変えてその憂さ晴らしをしているようだ。
お珠の目に、忍者刀を逆手に構えたまま苦悶の表情で灰色の石像となって立ち尽くすお鈴の姿が飛び込んできた。
忍び装束はぼろぼろで、身体中におそらく角で切り裂かれたのだろう、切り傷が無数に走っている。それでも最後まで抵抗を諦めなかったのか、血気迫る仕草をしている。
お鈴は衣緒の正体に気付いて、自分では手に負えないと知ると、平八郎達へ知らせに行こうとしたのだ。しかし、衣緒も自分の嗅ぎ回るお鈴に気付き、捕らえようとした。
お鈴は忍者刀を振るい、衣緒の身体に無数の傷を作ってゆく。だが、相手はそれを上回る回復能力で、刀傷をたちまち治してしまう。
しかも、縦横無尽に振るわれる鉄槌をかわすのには限界があり、遂に一撃を腹部に受け、蹲ってしまう。
『お前なんか兄ぃが出てきたら、きっと調伏されるだから。その時になって後悔しても知らないんだからね』
噛まれ、口が石と化すまで、いや、石と化しても悪態を吐き続け、最後まで抵抗したのが今のお鈴の姿に現れていた。
「珠ちゃん!? 鈴ちゃん!?」
首まで石へと変わり、朦朧とした意識の中で、最後にお珠が聞いたのは、駆け付けたお琳の声だった。
彼女はお鈴を探して、やはり入谷鬼子母神へ辿り着いた。
「二人を、みんなを元に戻しなさい!」
『小娘に後れを取るあたしじゃないよ!』
忍者刀を構え、斬り結ぶお琳。一方、衣緒は人間の男性一人分の身長はあろうか、鉄槌を二本振るう。しかもその速さはお琳の忍者刀捌きとさほど変わらないから驚きだ。
『この時代の小娘は、甘いものに目がないそうだねぇ』
「こ、金平糖!? きゃう!?」
お供えされていた金平糖をお琳目掛けて投げ付ける衣緒。大好物を目の前にして生まれた一瞬の油断が勝敗を分けてしまう。
「んー‥‥お姉ちゃん達どこにいっちゃったのかな‥‥無事だといいんだけど‥‥」
お鈴に続いてお珠、お琳と立て続けに行方不明になり、平八郎は居ても立ってもいられず、瑠璃と共に調査に乗り出した。
「お前が平八郎だな。お鈴とお琳をどこへやった?」
「俺の方が聞きたいぜ」
そこへ、十代目服部半蔵よりお鈴とお琳の首を取るよう命じられた戒が現れる。彼もまた、二人の姿がなく、平八郎が何処かに隠したのではないかと疑い、苦肉の策として彼と接触したのだ。
「いいだろう‥‥私も共に行く。お前達の話が嘘か真か、すぐに分かる事だ」
平八郎から二人が行方不明になっている事を聞くが、もちろん、すぐには信用しない。だが、瑠璃の説明が加わると、監視がてら、行方不明の二人を探すという彼と行動を共にする。
お珠が残した言葉を元に、平八郎も入谷鬼子母神へ向かう。
そこでは、今まさにお珠とお鈴、お琳の石像目掛けて鉄槌が振り下ろされようとしていた。
即座に苦無を投げ付けて鉄槌の軌道を反らせる。空振りして地面を叩くと振動で石像が揺れ、お鈴の石像が倒れてしまう。
「今回限りだ。この二人は私の手で始末しなければならないからな」
戒が身を挺して護り、砕けるのを防いだ。
鬼子母神だけあり、平八郎と戒が力を合わせて戦っても、衣緒との力の差は互角以下。圧倒的な力の前に、偶然にも瑠璃が癒しの妖術を連続して成功させ、五分五分の戦いをする事が出来た。
(「うー‥‥こういう時少しでも戦えたらお兄ちゃんのお手伝いできるのに――‥‥お姉ちゃん達が無事に帰ってきたら‥‥戦いの訓練してもらおう‥‥」)
何も出来ない自分を歯がゆく思う瑠璃。
一瞬の隙を付いて、平八郎は角に刺さっていたお琳の忍者刀を更に突き立て、衣緒の角を斬り落とした。
角がなくなった衣緒に、角を返すのを条件に改心するよう説得する平八郎。鬼女にとって角は力の源であり、それがなければ鬼女としての力を振るう事ができない。
渋々条件を飲む衣緒だった。
「今日のところはこれまでだな‥‥お鈴とお琳に伝えておけ。どこへ逃げようとも、お前らの首は必ず取る、と」
仲間から火急の連絡が入り、その場を引き上げる戒。
「ん‥‥お姉ちゃん達‥‥皆これで大丈夫。無事でよかった――」
石になった皆を回復させ、今まで泣かなかった分思いっきり抱きついてなきじゃくる瑠璃。
「兄ぃ、ありがと〜! でも必ず兄ぃが助けてくれると信じていたから、少しも怖くなかったよ」
「このお礼は、身体を使ってお返しします」
「ちょ、ちょっと、そんな格好でそんな事言わないでよね」
平八郎に思いっきり抱き付くお鈴とお琳。特にお琳は衣緒の角に刀を突き付けた怒りを買い、石に変えられながらくノ一装束をひん剥かれていのだ。要するに全裸であり、平八郎が忍び装束を彼女の身体に掛けると、横からお珠が文句を言ってくる。しかし、その文句は強くはなく、むしろ二人はお似合いの相棒というような雰囲気だった。
「相も変わらず、甘い奴だな」
『きゃあああああああああ!? ‥‥こ、この術は安倍の‥‥また、あたしを封印する気、かい‥‥』
そこへ逅明が現れ、衣緒の強大な妖力を奪い、石化封印してしまう。
「まぁ、いい。これで俺の目的は果たせたからな」
「衣緒は改心したのに! あんたのやった事で、どれだけの人が被害に遭ってると思うの!? 絶対逃がさない! ‥‥きゃっ!」
「お珠!?」
平八郎を小馬鹿にしたような物言いでひらりと返し、お珠を、いつも以上にわざと感情を押し殺した目で見つめ、消える。
術で逃げるのを見計らい、捕まえようとして飛び付くお珠!
平八郎の叫びも虚しく、そのまま逅明と一緒に消えてしまうお珠だった。