Halloween partyヨーロッパ

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/31〜11/06

●本文


 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。


「ウエストミンスター宮殿やビッグ・ベンを背後に臨む対岸でのゲリラライブも良いですわね」
「あら、お姉様、それでしたらロンドン塔をバックに、タワー・ブリッジの上でゲリラライブを行うのも宜しいのではなくて?」
「スティアお姉様、シュタリアお姉様に口答えする方が宜しくないのではなくて?」
 ウエストミンスター宮殿――国会議事堂の正式名称――とビッグ・ベンを実際に対岸から臨むシュタリアの言葉に、スティアが前に見たタワー・ブリッジの光景を思い出しながら言う。すると、シュタリアの腕を取り、恋人よろしくしっかりと抱き付いて離さないティリーナが、スティアに反論した。
 Succubusの3人は、先の『ローマン・バス』でゲリラライブが終わった後、ずっとイギリスに滞在し、各地を回って観光と洒落込みながら、ゲリラライブを行う場所を探していたのだ。
 末っ子のティリーナは見ての通り、超が付く程のシスコン――しかも、次女のスティアより、長女のシュタリアにベッタリ――で、Succubusの中で唯一、他の女性アーティストに興味を示さないし靡かない。スティアもそれを知っているから、いちいち気に留めはしない。
「ティリーナ、スティアはわたくしの為にゲリラライブの候補を挙げているのですわ」
  ほら、シュタリアはその事を知っているから、ちゃぁんとフォローを入れてくれる。もちろん、ティリーナもその事は分かっているから、「シュタリアお姉様の意地悪!」と、桃色の2対のドリル髪――もとい、ツインテールを淋しそうに揺らしてそっぽを向きながら、お嬢様然とした、でも気の強そうな顔の唇を尖らせる。
 Succubusの3人に血の繋がりはない。しかし、姉妹同然に一緒に暮らしており、お互いを愛し合い、身体を重ね合う事で、心と体で深く深く結びついているのだ。
「お姉様方、今度のゲリラライブ、あれを題材にするのはどうですか?」
 ウォータールー・ブリッジを渡ると、ティリーナが前を指差す。そこはマーケットで、いたるところに大きなカブをくりぬき、刻み目を入れ、内側からろうそくで照らしたお化けの提灯――ジャック・オー・ランタン――が飾られている。
「ああ、ハロウィンですわね」
 なるほど、とシュタリアが感心する。ジャック・オー・ランタンは最もハロウィンらしいシンボルだろう。アメリカ風のハロウィンでは刻みやすいカボチャを使っているが、イギリスとアイルランドでは今なお伝統的なカブを使っている。
 今頃のイギリスの街中では当たり前の光景だが、シュタリアとスティアは、観光名所でゲリラライブを行おうと考えていただけに、これは盲点だった。
「お姉様、ティリーナの提案ですもの、ハロウィンの日にゲリラライブを行うのはどうかしら? 場所はあそこ、アップル・マーケットがいいと思うわ」
「ハロウィンといえば、魔女に黒猫にコウモリ、幽霊にバンシーにゴブリン、魔神やドラキュラの仮装をしながらライブを行うのも面白いですわね」
「シュタリアお姉様は魔女の仮装が似合いますよ。スティアお姉様はバンシーに扮されてはどうですか? 私はシュタリアお姉様に仕える黒猫が人間に変身したというモチーフを考えました」
 スティアが指し示すアップル・マーケットは、ガラス屋根のショッピングセンターの事で、建物の中には40前後の店がひしめき、いつも賑わっている。
 店が閉まった夜にその広場で、ハロウィンの登場人物の仮装し、ゲリラライブを行うというのだ。ティリーナは早くも何の仮装をしようか考え始めている。面目躍如といったところか。


 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのゲリラライブは、イギリスのロンドンにある『アップル・マーケット』で行うという書き込みがなされた。今回もファンもイギリスまで見に行く事はできないので残念がる書き込みが多かった。
 いつものように彼女達だけではなく、他のアーティストやロックバンドを誘う。呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、イギリス国内の交通費や滞在費を始めとする必要経費はSuccubus持ちだし、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
 尚、今回のゲリラライブはハロウィンという事で、ある程度のおふざけは無礼講となる。女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性があるので注意されたし。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa3365 フランネル(21歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●お買い物〜♪
 Succubus(サッキュバス)のメンバーとの待ち合わせは、ウォータールー駅の目の前にあるアイマックス・シネマが指定された。ここは高さ20m、幅26mのヨーロッパ最大の巨大スクリーンを持つ、立体映像が楽しめる映画館だ。
 アップル・マーケットのあるコヴェント・ガーデンへは、アイマックス・シネマよりウォータールー・ブリッジでテムズ川を渡れば、歩いてそう掛からない。
「ゲリラライブは夜からですから、それまで場所の下見とお買い物でもしましょうか」
「賛成ー! アンティーク雑貨やお土産のお店とかあって、1日中見て回れるところだものね♪ 私はお土産に石鹸でも買って帰ろうかな♪」
「それに、洒落たカフェも多いと聞いている。腹が減っては戦はできない、と諺もあるし、ゲリラライブの前に腹拵えをしておくのもいいな」
 Succubusの次女スティアの提案に顔をほころばせる富士川・千春(fa0847)。不破響夜(fa1236)は諺を告げるが、要はSuccubus達にイギリスの寒い秋空の下で待たされたので、カフェで一服したいだけだったりする。
(「‥‥ところで、何かいつも以上にヤな予感がするのは何故だろう。そして、その予感を感じつつも今回も呼びかけに応じたのは何でだろう‥‥」)
「今回は猫耳天使にゃ〜♪ “まじかる♪シスターズ”として、猫耳は絶対外せないのにゃー♪」
「私の仮装は、ファンタジックなドラゴン少女をイメージしたものですわ」
「へぇ〜、勇花ちゃんはぁ、吸血鬼って言うしぃ〜、響夜ちゃんはぁ、狼男ならぬ狼女でしょぉ〜。ティリーナちゃんはぁ、何の仮装をするのぉ〜?」
「あなたに教える義務はないですし、教えるつもりも更々ないです」
「ふええええん、シュタリもん〜、ティリーナちゃんが虐めるよぉ〜」
「お姉様を変な名前で呼ばないで下さい!」
「まぁまぁ、ティリーナもそのくらいにしておきなさいな。わたくし達は魔女の仮装をいたしますわ」
 紅 勇花(fa0034)は、仮装の事で談笑する西村・千佳(fa0329)とフランネル(fa3365)、Succubusの三女ティリーナに無邪気な笑顔で話し掛け、冷たくされるとSuccubusの長女シュタリアを某猫型ロボットに見立てて泣き付いてみせる鳴瀬 華鳴(fa0506)を見ながら、得も言われぬ嫌な予感を感じていた。
 コヴェント・ガーデンは、アーチ型のガラス屋根で覆われた一大ショッピングセンターだ。ゲリラライブを行う予定の石畳の広場では、今は大道芸人達がパフォーマンスを披露し、アーティスト達が思い思いに歌を披露している。
「んふ〜♪ こうやってるとフランネルお姉ちゃんとデートしてるみたいー♪」
 響夜と華鳴、シュタリアとティリーナはオープンカフェで一服し、クラウド・オールト(fa0175)とフランネルにくっついて歩く千佳――今回のお姉さんのターゲットはフランネルらしい――はアップル・マーケットを見て回り、土産になりそうな持って帰れる食品や、ダンス中に使えそうな杖や小物を見付けて買い物をしている。
「‥‥どうしたの?」
「‥‥千尋さんには敵わないな。千尋さんはどうしてゲリラライブに参加してるのかなーって、思って」
 勇花が先程からどことなく影を落としているように見えた千尋は、思い切って聞いた。
「私が参加している理由? そうね‥‥Succubusに勝ちたかったから‥‥かしら。でもやっぱりパフォーマンスも重要よね。今までのライブで良く分かったわ。私も私なりのパフォーマンス探さないと‥‥」
「お姉様やティリーナのパフォーマンスは参考にならないと思うけどね」
 千尋の答えに、一緒に買い物を楽しんでいるスティアが応える。そう言い切ってしまう辺り、流石はSuccubusの良心だ。
「ここでちょっとした提案なのですが」
 話が重くなってきたのを察してか、千春が元気よく挙手する。
「せっかくの観光地ですし、最近ファンがゲリラライブを生で見られないので、Succubusの3人が選んだお土産をファンの方3名にプレゼント! とか、今回のゲリラライブの様子をネット配信する時にするのはどうかしら?」
「いい提案ね。お姉様とティリーナにも伝えてくるわ」
「ん!? ん、んん、ん、ぅ‥‥んぷぅ」
 ――前言撤回。スティアはいい提案のお礼とばかりに、千春の唇に啄むようなキスを。続けて貪るような深いキスを贈ると、オープンカフェの方へ駆けていった。やはり彼女もSuccubusなのだ。


●ゲリラライブinハロウィン
 アップル・マーケットの大抵の店は午後7時には店終いをする。
 しかし、今日はハロウィン! 午後8時を回ってもコヴェント・ガーデンのあちこちに、魔よけの焚き火が焚かれ、カブをくりぬいたジャック・オー・ランタンの灯りが点り、魔女やお化けに仮装した子供達が「Trick or treat!」と唱えてお菓子をねだってゆく。
 大人達もお化けや魔女を始め、コウモリや黒猫、ドラキュラやフランケンシュタインの仮装をし、オープンカフェで飲んだり、音楽に合わせて陽気に踊る。
「トリック・オア・トリート! Succubusが送るハロウィンのゲリラライブ‥‥今宵はここ、アップル・マーケットで開幕にゃ♪ ハロウィンの夜の不思議な一夜‥‥みんな、思いっきり楽しんでいってねー♪」
 下に白いブラウスが覗く、ゴシック調デザインの漆黒のタキシードとマントを着用し、吸血鬼の仮装をした勇花のギターの高いチョッパー音が辺りに響き渡り、ゲリラライブの開始をアピールする。
 千佳は定番の魔法少女ではなく、今日はハロウィンという事で、白いフリフリの服に背中に天使の羽を付け、純白の天使の格好をしている。でも、半獣化しているのでネコミミと尻尾は健在。
 千佳の隣には華鳴がいる。しかし、千佳と対照的にこちらは全て黒一色。羽根付ベレー帽の羽根も黒く、手首には黒い翼を模した飾りを付け、瞳には朱色のカラーコンタクトを入れている。差詰め、堕天使といったところか。
「最初はボクと華鳴お姉ちゃんの番だにゃ♪ 『崩れ逝く世界(short.ver)』、思いっきり激しくいくよ〜♪」
 ゲリラライブが始まる前からハロウィンパーティーで出来上がっている事もあり、聴衆もノリノリで応える。

♪光蝕む闇の中 伸ばした指先
 届かずに 嘆きの声を上げる
 それでも『出口』を探し続ける
 崩れ逝く世界の果てで

 醜く歪んだ幻想の街 本能が牙を剥き
 硝子細工の理想 星屑のように砕け散る

 壊れた理想郷 二度と戻らない
 それでも『楽園』を追い求める
 崩れ逝く世界の果てで

 何時の日か 辿り着ける
 『未来』と言う名の扉へ‥‥

「ふふふ‥‥その先に、希望はあるかしら?」♪

 半獣化して、竜の翼と尻尾を出し、中世貴族のようなボロボロの衣装と黒いマントを羽織り、頭に王冠を被った、魔神の仮装をしたクラウドの、アップテンポ且つダイナミックなベースが轟く。
 華鳴は軽快にステップを刻み、歌いながら舞い踊り、千佳は激しく走り回る。
 勢い余って観客に向かって転け、下着が見えてしまうのはご愛敬。
 一方、華鳴は最前列の女性客の元へ歩み寄り、その顎に手を添えてキス‥‥の直前でお預け。
 千佳は元気のいい天使、華鳴は小悪魔的な堕天使を演じ、最後の台詞は小首を傾げ、屈託の無い笑顔で囁くように言う。


 続けて、響夜が華鳴とクラウドと入れ替わるように前へ出る。
 服装は愛用のダメージジーンズに革ジャンのロッカースタイルだが、半獣化し、ボサボサの髪からは狼の耳が覗き、お尻からは狼の尻尾が出ている。
「狼男の仮装なんだが‥‥これでエレキギターを持ってると、なんかどっかの格闘ゲームに出てきそうだが、気にするな! 歌はハロウィンの由来を歌詞にしてみた『All Hallows eve』。伝説や習慣にも興味や敬意を持ってほしい、っていう方向で作ったんだ。ワンフレーズしか聴かせられないのが残念だが、十分、ノれる仕上がりになっていると思う」

♪日が沈んで 街は闇に沈みゆく
 死者 精霊 魔神 魔女
 今夜尋ね来たるは怪物たち
 火を灯せ ランタンに
 怪物たちを追い返せ
 人よ恐れよ 伝説を
 人よ敬え 伝説を
 明けて来たるは All Hallows♪

 千佳にマイクを向けられ、仮装の曲の説明をすると、響夜はエレキギターを爪弾く。
 彼女の説明通り、聴衆が一体となって響夜の奏でる旋律に乗った。


「衣装発注では、柄とかだけでデザインまでは任せていたので‥‥ここまで露出が高いとは思ってませんでした‥‥」
 翼を広げながら、響夜の前に降り立ち、着ていたワンピースを脱ぎ捨たフランネルは、千佳にマイクを向けられると衣装の感想を語る。
 半獣化に合わせ、柄は鱗模様のV字カットのレオタードなのだが、V字カットの部分が超ハイレグ仕様だった。Succubusにお任せするとこうなる。
 そのままその場に残る響夜の、ハロウィンらしく明るく楽しいメロディに合わせて、ステップを踏み出すフランネル。
 先程購入した杖を新体操のステッキのように回転させたり、カブの小物をお手玉のように扱い、足を上げ、その間を潜らせたりする。
 しかし、ぶっつけ本番の所為か、杖でレオタードを引っ掛けてビリッと破り、自ら露出を増やしてしまったり、カブの小物が胸元に落ちて胸が増えてしまう失敗をするが、それはそれで笑いが取れたので良しとしよう。


 フランネルの失敗はいつもの事ながら、それを誤魔化すかのように千佳がアップル・マーケットの2階部分を指差す。
 そこには、シークレット悪魔翼と尾を付け、黒と白を基調としたゴシックなドレスに身を包んだ千春の姿があった。スリットから覗く脚線美が何ともセクシーな、小悪魔だ。

♪恋の味 真夜中に最後のキス

 口にしたのは甘い甘いカクテル
 みんなに合わせて酔った振り

 選んだのはあたしの心
 奪ったのはあなたの手

 あたし後悔しなかったよ
 「それは魔法なんだよ」って
 誰もが口を揃えても醒めなかった
 解けない呪文なら

 夢や未来は見ないのよ
 あなたと夜明けまで
 ただ想って想って諦めるから

 あたし後悔できなかった
 それは「今夜だけの魔法」と
 あなたの唇が動いたとしても
 体には熱しか伝わらない

 ただ恋しくて愛しくて
 あの夜触れていたかった

 「これは魔法なんだよ」って
 あなたが言っても醒めなかった
 消えない傷跡だから

 恋の味 真夜中に最後のキス♪

 真紅のエレキギターを弾きながら、『daybreak magic』を歌い上げる千春。


「ハロウィンかー。最近日本でも話題にはなるけど、やっぱりこっちの方が盛り上がってる感じだね」
 Succubusのライブでは恒例となっている、勇花とクラウドのギターソロが始まる。
 勇花は不協和音を含めた和音を中心にしたやや堅めの構成で、恐怖というよりは畏怖といえるような雰囲気をギターコードだけで表現していく。
 一方、クラウドの今回の演奏イメージは、クールに且つ恐怖感のある、だ。世界の支配者として君臨する雰囲気を出す為、不気味な笑い声を上げつつ、ベースでクールな雰囲気を残すよう旋律を保つ。
「ふはははは! 餞別だ。受け取るがいい!!」
 黄金の髑髏よろしく笑いながら、飴玉が入っている小さな袋を10〜20袋程、聴衆の子供達にばらまくクラウド。


 今回、トリを飾るのは、白いシャツに紺のベストを羽織り、赤い蝶ネクタイを結び、縦縞長ズボンを履いて、ちょっと大きめな革靴を肩から掛けた、不思議の国のアリスの白兎の仮装をした千尋だった。
 垂れウサ耳を目立たせるよう、髪を後ろで縛って纏め、ポニーテール気味に。
 カボチャお化けとカブお化けのステッカーを貼り付けたキーボードと、腰にぶら下げた懐中時計がワンポイント。

♪夜の街を見つめてみなさい そこはすでにファンタジー
 月が冷たく笑うなら 星はキラキラ動き出す
 ネオンがチカチカ光るなら 影がおどけて躍りだす

 太陽が沈んだって 街はいつでも輝くわ
 ホンモノとニセモノに照らされて いつまでもずっと

 光じゃホンモノでも敵わない イミテーションじゃ尚更ね
 だけど夜に光れば美しい ホンモノでもニセモノでも素敵だわ
 太陽にだって負けないくらい 闇の中にだって光は溢れるわ♪

 事前に録っておいたドラム音をキーボードから自動再生させつつ、そのメロディに合わせてキーボードを弾く千尋の『night shine』。
 千尋の歌が終わる頃にはSuccubusの3人も準備を整えており、歌を披露すると、フランネル達は早々に、そして散り散りに撤収していった。


●惨敗?
 撤収を終えた後、Succubusが手配したホテルへ集合すると、ハロウィンなので、華鳴が作ってきたお手製のパンプキンパイと軽い飲み物でささやかな打ち上げが行われた。
 その時、タキシードを脱いだ勇花の胸がボタンを弾き飛ばして、ポロリとブラウスから転がり出る。実はブラウスのサイズがかなり小さく、それに気付いたのが本番間近だったので、タキシードで押さえ付けていたのだ。
「あらあら、粗相はダメよ、勇花さん。ボタン、縫い直さなきゃね」
「うに〜♪ この状況でじっとなんてしていられないのにゃ〜♪」
 勇花に迫る千春と千佳。もちろん、ボタン以外の場所が弄られたのは言うまでもない。

「‥‥」
「ふん、口程にもないですね。まだ、スティアお姉様の方がマシですよ」
 別室ではベッドの上で、華鳴が瞳の奥に底知れぬ闇を宿したまま見開き、惚けていた。
 ベッドの縁に腰掛けたティリーナは、嫌なものを振り払うかのように何度も手を振って飛沫を飛ばし、身支度を整えていた‥‥。