秋の学園祭ドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/29〜11/02
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●本文
「‥‥という訳で、私達のクラスの学園祭の出し物は、『メイド・バトラー喫茶』に決定しましたわ」
ここは私立高天原高等学校二年生の教室。地元の人には願い事が良く叶うと評判の、お騒がせ女神弁財天――サラスヴァティ――を始めとする、七福神が祀られた神社と同じ町内にある私立高校だ。
“いいんちょ”の愛称で呼ばれる学級委員長山都・美琴(やまと・みこと)の言葉に、「えー!?」とか「なんじゃそりゃぁ!?」といったクラスメイトの文句の声が上がる。
すると美琴は慌てる素振り1つ見せず、チョークで黒板を指し示す。
「メイド喫茶とバトラー喫茶の賛成者が同数ですわよね? メイドかバトラーがもてなす以外は同じ喫茶なのですから、一緒にしても出来るのであれば、文句はありませんわよね?」
彼女の公平な采配に、クラスメイト達は黙るしかなかった。
もちろん、メイド喫茶をやりたい者達とバトラー喫茶をやりたい者達の意向を汲み、主に女子がメイド服を着て、男子がバトラー(執事)の格好をし、来店した客に入口でメイドとバトラー、どちらに応対して欲しいか聞くというシステムを取るようだ。
「武君、メイド喫茶に手を挙げてたでしょ?」
「ははは‥‥緒登さんのメイド服姿が見てみたいと思ってね」
隣に座る橘・緒登(たちばな・おと)に聞かれた大和・武(だいわ・たける)は、苦笑しながらも素直な応えてしまう。緒登は素直に応えてくれた内容は嬉しく思いつつも、「困った人ね」とちょっと意地悪っぽくそっぽを向く。
「武君には悪いけど、緒登はあっちに出るのが確定してるから、クラスの出し物には参加できないのよ」
前の席に座る緒登の友達の仲納可奈が黒板の別の場所を指差した。そこには『ミス・伊邪那美杯:橘緒登』と書かれている。
「ミス・伊邪那美杯?」
「あー、春に転校してきた武君は知らないんだよね。学園祭の時に行われるミスコンの事だよ。緒登は去年、ミス・伊邪那美に選ばれてるんだよ」
「本当は、クラスのみんなと一緒に楽しみたいのだけど‥‥」
春に転校してきた武は、去年の学園祭の事は知らないので首を傾げると、可奈が説明する。
学園祭では、ミス・伊邪那美(いざなみ)を決める、ミスコンテストが毎年開催されている。各クラスより、他薦、もしくは自薦で1名、代表者を選出し、制服での挨拶と水着審査、歌唱審査の3つの審査の総得点の高い女性が、ミス・伊邪那美に選ばれるのだ。
緒登は高天原高校のアイドルであり、男女問わず、秘かに恋い焦がれている者も少なくなく、非公認ながらファンクラブまである。去年、出場したところ、ダントツとまではいかないものの、2位と僅差で優勝した為、今年はディフェンディングチャンピオンとして参加が義務付けられている。
緒登自身はあまり乗り気ではないようだが、日々、勃発する緒登を巡る争奪戦の事を考えると、彼女に出場してもらわなければ暴動が起きてしまうのだ。
「って、いいんちょ、『伊邪那岐』に俺の前が書いてあるんだけど!?」
「大和君には橘さんの護衛をお願いします」
伊邪那岐(いざなぎ)は、ミス・伊邪那美候補を護衛するのが仕事だと美琴が説明した。また、ミス・伊邪那美候補が選ばれた場合、段上へ迎えに行く、名誉ある役でもある。
武は普段から愛用の竹刀『草薙』を持ち歩くほど剣道の達人で、前年度の高校生剣道全国大会個人戦優勝者でもある。
「大和なら適任だよな」とか「あの2人、仲良いものね」とクラスメイトも賛同する。
「今年も橘が参加するのですわね!?」
三年生の教室。緒登のミス・伊邪那美杯への参加を聞き付けた、白山・菊理媛(しらやま・きくりひめ)はリベンジに燃えていた。
彼女は一年生の時、ミス・伊邪那美杯へ参加し、ダントツの1位でミス・伊邪那美に選ばれたのだ。
菊理媛の家は白山財閥であり、幼少の頃より蝶と花よ、と育てられ、文武両道、加えて美しい、正真正銘のお嬢様だった。
しかし、そんな彼女を敗ったのが庶民の緒登だった。僅差とはいえ、2位は2位。ミス・伊邪那美ではない。
菊理媛は女子に人気があり、「お姉様」と慕われているのに対し、緒登は男女問わず人気がある。これが勝敗を分けたようだ。
「わたくしが男性票を獲得するか、橘の票を落とすしかありませんわね‥‥彼女の伊邪那岐は大和武という男子ですか‥‥ふふふ」
三年生である菊理媛は今年で最後、もう後がない。ミス・伊邪那美になる為に、形振り構っていられなかった。
『ミスコンねぇ』
「一般参加枠もあるようですが、駄目ですよ、弁財天様。弁財天様がお出になられれば、人間は勝ち目はないのですから」
七福神が祀られた神社の境内では、武から学園祭に誘われた弁財天と、この神社に仕える巫女、天埜・探女(あめの・さぐめ)が、ミス・伊邪那美杯に焦臭い臭いを感じ取っていた。
『ミスコンに参加するかどうかは当日にならないと分からないけど、賽銭を入れている武や緒登を護るのは、願いのうちだもの』
といいつつ、学園祭の出店の食べ物を行脚するつもりなのだろう、と探女には弁財天の考えている事が分かってしまうのだった。
■主要登場人物紹介■
・大和・武:外見17歳前後。高校生。両親の仕事の都合で転校を繰り返し、友達作りが下手な好青年。剣道の達人で前年度の高校生剣道全国大会個人戦優勝者。愛用の竹刀の名前は草薙。
・橘・緒登:外見17歳前後。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高天原高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。
・山都・美琴:外見17歳前後。高校生。緒登の幼馴染みで、小中高とずっと同じクラスの間柄の大親友。学級委員長を務めており、愛称は“いいんちょ”または“ミコちゃん”。しっかり者。
・白山・菊理媛:外見18歳前後。高校生。武達の先輩で、1年前のミス・伊邪那美。白山財閥のお嬢様で、成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗と、非の打ち所がないが、若干高飛車な性格の為、男子の人気はいまいち。
・サラスヴァティ(弁財天):外見20代後半。元々は河の神で、そこから音楽神、福徳神、学芸神となる。人間に顕現するとカジュアルスーツ姿の美女になる。神力は楽器による魅了、水を操る攻撃と防御、傷を癒す等。
・天埜・探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格だが、芯は一本通りしっかりしている。人間に顕現(=変身)していないサラスヴァティ達神様を見る事の出来る、数少ない信仰心の厚い人間。
・パールヴァティ:外見20代後半。美の女神でサラスヴァティとは親友同士。人間に顕現するとエキゾチックな褐色の肌のストリートダンサー風の美女の姿を取る。神力は吹雪・雷撃・炎撃・石化(いずれも広範囲攻撃)等。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※原則、獣化は出来ませんが、弁財天の神力は獣人の能力で代用しても構いません。
■技術傾向■
軽業・容姿・発声・芝居・芸
●リプレイ本文
●意外な副作用
『いらっしゃいませー! メイド・バトラー喫茶へようこそ! 当喫茶店ではメイドかバトラー、お客様のお好みの方でおもてなしいたします。どちらのおもてなしをご希望でしょうか?』
教室の入り口を開けて入ってきた女子2人組に、メイド服に身を包んだ光が応対に当たる。
「よ! なかなか好評のようだね」
「酒田先生、見回りの最中ですか?」
控え室で在庫の確認をしていた“いいんちょ”こと山都・美琴は、入ってきたクラスの副担任酒田・繁雄に、作業の手を止めて挨拶を返す。繁雄は「そのまま作業を続けて」と手で制し、近くのイスに座った。
美琴は紺のパフスリーブと膝上5cmのスカートのメイド服にフリルエプロンを纏い、レースカチューシャで前髪を押さえ、ハイニーソックスを履いたメイド姿で先陣を切ってクラスのみんなを仕切っていた。
「僕の担当はミスコンのナレーターだから、午後まではフリーでね」
「控え室は禁酒ですわ」
「ははは‥‥優秀な学級委員長を持って、僕は安心してクラスの出し物を任せられるよ」
繁雄が背広のポケットから携帯用の酒缶を取り出そうとするのを察知し、美琴は先手を打った。彼はばつが悪そうにポケットからからの手を出し、微苦笑する。
「さっき、正門前でパールヴァティを見掛けたけど、待ち合わせをしていたんじゃないかな?」
『もうそんな時間!? いつもと違った服だし、こういうのもたまにやると楽しいから、うっかりしていたわ』
繁雄は控え室に帰ってきた光にだけ聞こえるようそっと耳打ちする。
光の正体は、認識を誤魔化して生徒として潜り込んでいる弁財天――サラスヴァティ――、繁雄の正体はギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神ディオニュソスだった。
『喫茶の方は少ししか交代時間が取れないし、ミスコンに出たらパールヴァティと食べ歩きする時間無くなるわよね? よく考えたら今回は私は実は大忙し?』
人化し、酒田繁雄として学校に入り込んでいるディオニュソスと違い、弁財天は神力で「光」という生徒の存在を私立高天原高等学校の全生徒・全教職員に一時的に誤認識させているので、その間はクラスのタイムスケジュールに従って行動しなければならない。
(「大和君は緒登さんの事、ちゃんと護っているでしょうか。私も付いていければよかったのですが‥‥」)
ミスコンという単語を聞き、美琴は刹那作業の手を休める。彼女がミスコンで選ばれるミス・伊邪那美(イザナミ)候補の橘・緒登を護衛するナイト役の伊邪那岐(いざなぎ)に大和・武を指名したのは、2人の仲の進展を見守る意味もあった。本心は緒登と一緒にいたいようだが、委員長の責務を全うする事が美琴の最優先事項であり、そこに私情は挟まないつもりでいた。
●ミスコン前哨戦は危険がいっぱい!?
『やはり祭りは活気があっていいねぇ』
弁財天と待ち合わせるパールヴァティは正門の壁に寄り掛かり、学園祭の喧噪を楽しそうに見ていた。彼女は人間に顕現する際、ストリートダンサー風の衣装を好むが、それはお祭り好きから来ている。
エキゾチックな褐色の肌を惜しげもなく晒した美女が、尊大とも思える自信ありげな態度で待ち合わせをしているのだ。パールヴァティは気付かないが、噂が噂を呼び、謎の美女を一目見ようと、遠巻きに人垣が出来ていた。
『待たせた分はサラスヴァティの奢りだよ』
『取り敢えず、全屋台制覇を目指してるから、奢っちゃうわよ。意外とこういうところの食べ物って、面白いのが多いんだよね』
そこへ光から本来の姿に戻った弁財天が駆け付ける。彼女が時間にルーズなのは親友だから当然知っているので、特に咎める事はせず、代わりに出店の料理を奢ってもらう事にした。
『学園祭のパンフによると、この屋台で限定50個の松茸中華まんを売っているそうだよ』
『やぁサラスヴァティ、遅かったねー。これ最後の1個っ』
『ちょ!? 大黒天、待ちなさい! 食べちゃダメー!!』
片っ端から屋台を回ってゆくサラスヴァティが並ぼうとした矢先に、最後の1個を手にするミディアムショートの黒髪に赤いキャップを前後逆に被った小学生くらいの男の子。彼女の制止もお構いなしにひょいと平らげてしまう。
少年の正体は大黒天――シヴァ――、パールヴァティの夫だが、彼は好んで子供に顕現している。
『全制覇の夢がー!』
『あははっ、いろいろ手を出しすぎたサラスヴァティの自業自得だね。じゃあね〜♪』
『全屋台制覇』の目標が大黒天によって打ち砕かれ、項垂れる弁財天。大黒天は彼女に注意を促すと、メイドのお姉さんに囲まれて雑踏の中へ消えていった。
『なるほど、旦那様がこの屋台に目を付けたのはそういう理由だったんだねぇ』
パールヴァティは屋台の生徒達の小声のやりとりをしっかり聞いていた。
白山・菊理媛をミス・伊邪那美にする為、緒登が来たら下剤入りの中華まんを売るという内容だった。だが、大黒天の神力により、既に下剤は胃腸薬へ変えられていた。
『まぁ、こういう妨害については止めるけど、ミスコンの実際の対決に関しては私は力を貸せないわね。こっちは自分の力でやってこそ、だろうし』
『それは同感だよ。今回ばかりはフェアではなくなるからねぇ。それに美の女神たるあたしがあんなのに参加しても、結果は見えているだろ?』
『パールヴァティと張り合える人間って、クレオパトラか楊貴妃 、ヘレネくらいだしね』
ミスコンに関しては、弁財天もパールヴァティもあまり乗り気ではない様子。もっとも、パールヴァティは美の女神であり、弁財天は芸術の女神だ。それこそ世界三大美女でもなければ勝負にならないだろう。
緒登への助力に関しても消極的で、妨害のみ防ぐ方向で意見が一致した。というより、2人とも、単に屋台を回りたいだけなのだが。
パールヴァティと弁財天、大黒天が屋台を回るたびに、菊理媛の親衛隊の緒登への妨害を悉く阻止しているので、緒登は武と何事もなくゆっくりと屋台を回る事ができた。
ただ、菊理媛の伊邪那岐役大山・崇神のフォローもあった。彼の家、大山家は白山家に仕える一族で、崇神は幼少の頃から菊理媛の世話係のような事をしてきた幼馴染でもある。いつも菊理媛に付いている事から、心無い男子からは“腰巾着”などと言われる事もしばしば。
崇神は菊理媛の味方だが、本気の悪意が彼女に向かわないよう、菊理媛の親衛隊が独断で彼女を伊邪那美にしようと画策している妨害の内容を聞き、被害が出ないように対策を講じているのだ。
「はい、ブルーベリー生クリームのクレープ」
「ありがとう。でも意外だなぁ、武くんがクレープ好きなんて」
「そうかい? 俺、お祭りの時は必ずクレープ食ってるんだ」
武は緒登の事を1人の女性として、緒登は武の事を1人の男性として、意識し始めてはいる。だが、武は今の心地よさを失いたくないのでそれ以上踏み込もうとはしないし、緒登は今の気持ちが“恋”である事をまだまだ自覚していない。
「お隣、宜しいかしら?」
そこへ菊理媛がやってきて、武の隣に座る。
「あなた、お強いんですってね。そんな小娘より、わたくしの伊邪那岐になって欲しかったですわ」
「あ、あの!?」
「‥‥武くん、白山先輩直々のご指名だよ。ミコちゃんが決めた私より、白山先輩の伊邪那岐になったらどう?」
武の腕に身体を寄せてくる菊理媛。彼の腕は、制服越しに菊理媛のたわわに実った双房の果実の感触に包まれる。今までクレープを美味しそうに食べていた緒登は、急にばくばく食べきり、そっぽを向いてすっくと立ち上がると、すたすたとどこかへ行ってしまう。
「すみません! 先輩の気持ちは嬉しいですけれど‥‥俺、やっぱり大切な友達である緒登さんは裏切れませんから」
(「何よ武くん、白山先輩と仲良くしちゃって! ‥‥そりゃぁ、白山先輩が綺麗なのは分かるけど、私の伊邪那岐なのに‥‥」)
「橘さん、待ってくれ」
引き留めたのは武ではなく崇神だった。
「ごめん、菊理媛はホントの根っこは優しいんだよ。ただ財閥令嬢って環境が甘やかしたり、本人もそれを背負って素直になるって事を忘れてるだけなんだ。だから許してやって。アレは猫みたいに構ってサインでもあるから、またやられてもそう思って構ってやってほしい」
崇神は菊理媛の色仕掛けが本心でない事を説明した。
「お、緒登さん! やっと追いついた。さっきのは誤解で」
「許してあげるから、ミスコンが終わったら何か奢ってね」
崇神と入れ替わるように武が息急き立ててやってくる。どうやら菊理媛を振り切り、本気で緒登の事を心配していたようだ。その態度だけで緒登は嬉しかったが、ちょっとだけワガママを言ってみたくなった。
●ミス・伊邪那美の栄冠は誰の手に!?
各学年、各組から1人ずつ、ミス・伊邪那美候補が選出されるこのミスコン、『ミス・伊邪那美杯』。
一般枠も用意されており、30名を越える美少女・美女達がステージ上へ集っている。
中でも群を抜いているのが、昨年のミス・伊邪那美緒登と優勝候補の菊理媛だ。
緒登は、普段はストレートにしている後ろ髪をポニーテールにし、白地にハイビスカス柄の肩紐のないワンピース水着に水色系統のパレオを巻き、ミュールを履いた姿で水着審査に臨んでいた。
一方、菊理媛は、胸元と腰で紐止めした真紅のビキニ姿だ。ナイスバディを惜しげもなく晒しているのは、自分の容姿に自信を持っている現れでもあり、その態度も威風堂々としている。
緒登がディスコミュージックに合わせてダンスを踊るのに対し、菊理媛はユーロビート調の音楽に合わせてダンスを踊るなど、パフォーマンスでは甲乙付け難く。
勝敗は歌唱審査へ持ち越される。
♪慈雨さえ降らぬ 乾きし大地に
孤高を誇る 美しき薔薇よ
その芳しき薫りは 誰が為に‥‥
そう、我も同じ 孤高の薔薇ぞ
誰もが手折る 事など思わず
我を手にする者は 何処にいる‥‥
ああ‥‥誰もが気付き得ぬとしても
気高き薔薇は 咲き誇る
人知れず 誇り高く‥‥♪
『赤き薔薇』はこの日の為に菊理媛が作詞・作曲した歌であり、BGMは用意されていない。アカペラで朗々と歌い上げるが、作曲に協力した崇神がギターで伴奏した。
♪運命の出会いとか、一目惚れとか
少女漫画の出来事だよね。
そんな都合の良い事なんか、起きっこないって、解っているけれど。
期待しちゃうのが、あたしの乙女心。
今日もしっかり身だしなみ。
何か良いこと起こると良いね。
運命の出会いとか、一目惚れとか
少女漫画の出来事だよね。
でも、でも、起きっこないと思っていたのに、これって神様のいたずら?
どきどきしている、あたしの乙女心。
これはもしかして運命なの?
漫画みたいに出会ったあなた。
あなたが側にいてくれること。
それはなんだか心地よいよね。
だから、今はそれを大切にしたいね。
この気持ちが何か解るまで♪
『初めてのこの気持ち』もまた、緒登が作詞・作曲した歌だ。
「恋が始まったばかりの女の子の曖昧な気持ちを唄った歌のようだね。橘君にもそんな人がいるのかな?」
「え!? い、い、いませんよ、まだ‥‥」
繁雄に歌の内容を指摘されると、緒登は赤面して両手を思いっきり振って否定した。
「じゃぁ、観客席の意見も聞こうかな」
『‥‥美人は見飽きた』
繁雄がそう言うと、マイクを持った生徒会役員が、客席で食べ物頬張っていた大黒天にコメントを求めた。周囲にさり気なく『お姉さんキラースマイル』で愛想を振りまきながらぽそりと答えると、沸いていた会場が一瞬静まり返ったとか。
ミス・伊邪那美に選ばれたのは緒登だった。菊理媛はまたも僅差で敗れてしまう。
「何故!? 何故ですの!? 何故、このわたくしがあんな小娘に後れを取るのです!?」
「僕は菊理媛のホントの気持ちはわかるよ。だから少しずつでも令嬢とかそう言ったのを降ろして周りに接していこうよ。みんなも菊理媛の良いところもわかってくれる。まずは緒登さんや武君達からさ」
ミス・伊邪那美の冠を被ったまま、武と楽しそうに屋台を回る緒登。2人の後ろ姿を悔しそうに見つめる菊理媛に崇神がそう諭す。
『それに、もう少し身近な人の想いも汲まなきゃね』
そこへパールヴァティが後ろから声を掛けた。
『あの2人、楽しそうだろ? あれが伊邪那岐と伊邪那美の、本来の姿だよ。ミス・伊邪那美に選ばれるのは、容姿だけじゃ駄目って事さ。お節介だったかな?』
『パールヴァティ、お待たせ。美味しい物は何度食べても美味しいし‥‥これならお茶にも合うしね?』
弁財天が神社で食べる茶請け用のお菓子を買い込んできた。2人して帰路に付く。
「身近な人の想い‥‥」
言われるまで気付かなかった想い。いつも身近にいて、自分を護り、はっきり意見を言う存在。
菊理媛は崇神の顔を真っ直ぐ、真摯に見つめた。思えば、彼の顔をこうして見つめたのは何年振りだろうか。
「‥‥今までありがとう。これからも宜しくお願いしますわ」
今はそれだけを言うのがやっとだったが、これから彼の想いに応えていきたい、と菊理媛の中に新たな想いが芽生え始めていた。
●CAST
大和武:日向翔悟(fa4360)
橘緒登:咲夜(fa2997)
山都美琴/白山菊理媛:結城 紗那(fa1357)
大山崇神:月影 飛翔(fa3938)
ディオニュソス(酒田繁雄):梁井・繁(fa0658)
シヴァ(大黒天):日宮狐太郎(fa0684)
パールヴァティ:シヴェル・マクスウェル(fa0898)
サラスヴァティ(弁財天)/光:フィアリス・クリスト(fa1526)