Goddess Layer 2ndアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 14.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 11/17〜11/21

●本文


※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた真日本女子プロレスが分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ東日本女子プロレスだ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功している、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。
 その名は、東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 そのアイギス佐久間に挑戦状を叩き付けたのが、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーだった。
 東女のヘビー級ベルトへの挑戦権は、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が順当だと思われていただけに、ダイナマイト・シュガーの大胆不敵な挑戦は、東女ファンでなくてもプロレスファンを沸かせるには十分だった。

 そして迎えたタイトルマッチの日。
 ダイナマイト・シュガー率いる維新軍(=革命軍)と、アイギス佐久間を擁する正規軍は、シングルマッチとタッグマッチでそれぞれ一勝を上げ、一勝一敗のまま、勝敗の行方はダイナマイト・シュガーvsアイギス佐久間のタイトルマッチへ持ち越された。

「‥‥ボク、勝った、の?」
 未だに勝利の実感が湧かないダイナマイト・シュガーへ、リングの傍らで試合を見守っていた維新軍のメンバーが駆け付け、揉みくちゃにして勝利を実感させる。
「‥‥私の完敗ね、おめでとうダイナマイト・シュガー」
「‥‥ごめんなさい」
 スーパーダイナマイト(延髄切り)によって意識を刈り取られていたアイギス佐久間は目を覚ますと、24回自らが腰に巻いた東女のヘビー級ベルトをレフリーから受け取り、ダイナマイト・シュガーへ差し出した。
 しかし、彼女は受け取ろうとしない。それどころか視線を合わせず、俯いたまま謝ってくる始末。
「謝る事はないわ。気を失ったのは私の鍛え方が足りないのだし、いい勝負だったわ」
「そうじゃなく、あなたに挑戦状を叩き付けたり、一杯失礼な事、しちゃったから‥‥」
 妙にしおらしいダイナマイト・シュガー。日本女子プロレス界の女王は微笑むと、ヘビー級ベルトを彼女の腰に巻いた。
「過程はどうあれ、それはあなたが実力で勝ち取ったチャンピオンベルトよ。シャキッとしなさい、ヘビー級チャンピオン、ダイナマイト・シュガー!」
「アイギス佐久間さん‥‥うう‥‥うわあああああ〜!」
『今、東日本女子プロレスのヘビー級ベルトが、前保持者のアイギス佐久間の手で、現保持者のダイナマイト・シュガーの腰に巻かれます。どうした事だ、ダイナマイト・シュガー!? アイギス佐久間に抱きつき、号泣し始めたぞ!? 漢泣きか!?』
 一瞬のしゃくり上げの後、ダイナマイト・シュガーはアイギス佐久間の胸に飛び込み、号泣し始める。彼女はアイギス佐久間に憧れて東女へ入門した少女達の1人だ。アイギス佐久間に挑戦したくて維新軍を結成したり、挑戦状を叩き付けたが、本心ではアイギス佐久間の事が好きで好きで堪らないのだ。
 今、憧れの人に近付けたという実感が湧き、堪えきれなくなってしまっていた。
「わたくしの獲物を横取りしてくれるなんて、やってくれますわね」
 先輩と後輩の抱擁は長くは続かなかった。
「アイギス佐久間のヘビー級ベルトは、彼女ごとわたくしが戴こうと思っていたのですのよ」
「リリム蕾奈‥‥」
 そこへ水を差すようにリリム蕾奈が現れる。アイギス佐久間はダイナマイト・シュガーを優しく放した。
 リリム蕾奈はダイナマイト・シュガーを値踏みするように、それこそ足下から頭頂まで舐めるように見ると、粘っこい蠱惑的な笑みを浮かべた。
「あなたはまだ青い果実ですが、その瑞々しさは食べるに値ますわね。ふふふ、わたくし、タッグベルトを持っておりますの。あなたのヘビー級ベルトと賭けて、挑戦いたしますわ」
『おおっと、ここで反乱軍のリリム蕾奈の登場だー! いつも通りファーストキスデスマッチか!?』
「あなたが負けたら、ファーストキスを戴き、わたくしのコレクションに加えて差し上げますわ」
「気を付けて。リリム蕾奈は同性愛者よ。反乱軍は彼女が囲ってる、今言ったコレクションしているレスラー達ばかりよ」
 ダイナマイト・シュガーに耳打ちするアイギス佐久間。
 若手のレスラーは、中学校卒業後、入門する事が多いので、ファーストキスがまだの少女達も少なくない。リリム蕾奈は百合で、そういった若手のファーストキスを奪い、自分の傘下に加えるのを趣味としている。
 だが、タックベルトは魅力的だ。アイギス佐久間達正規軍も協力を申し出ているので、ダイナマイト・シュガーは挑戦を受ける事にした。


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 東女の現ヘビー級ベルト、ジュニア級ベルト保持者(防衛0回)。
 修得技:アームホイップ、スリーパーフォールド、ヘッドバット、エルボー、ドロップキック
 得意技:スーパーダイナマイト(延髄切り)

・アイギス佐久間:22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、また、面倒見も良く慕うレスラーや若手が多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 修得技:フロントスープレックス、脇固め、DDT、エルボー、ドロップキック、等
 得意技:キャプチュード

・リリム蕾奈:18歳
 東女でアイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主だが、百合な性格故、若手にファーストキスを賭けたデスマッチを仕掛けたりする。反乱軍を組織し、百合なレスラー達を囲っている。スピードのある飛び技を得意としている。
 東女の現タッグマッチベルト保持者(防衛8回)。
 修得技:ブレーンバスター、片逆エビ固め、ラリアート、ニーリフト、ヒップアタック、等
 得意技:プランチャー

※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa2573 結城ハニー(16歳・♀・虎)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)
 fa4382 アルディーヌ・ダグラス(16歳・♀・猫)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)

●リプレイ本文


●シングルマッチ〜30分1本勝負〜
 維新・正規混成軍と反乱軍の戦いの舞台となる駅前特設会場の2500席ある客席は満員札止め、立ち見すら一杯の状態だ。
『いよいよ、維新・正規混成軍対反乱軍の戦いが始まります。リリム蕾奈率いる反乱軍の強さは、アイギス佐久間率いる正規軍とほぼ同程度と言っても過言ではありません。混成軍は先ずは一勝を上げ、弾みを付けたいところです』
「実況、誰に物を言ってるんだい?」
「うふふ、炎みたいな試合をしましょ★」
 リング上から実況の内容に文句を付けるエンジェル・ハニー(結城ハニー(fa2573))。その出で立ちは、赤いエナメル製のハイレグ水着に、炎のマークの入った赤いエナメル製のロングブーツと、まさに女王様である。
 対峙するルーベラ翡翠(アルディーヌ・ダグラス(fa4382))は、黒地に炎の模様の入ったレオタードに細い身体を包み、蜂蜜色の長い髪をツインテールにしている。
 着いた字(あざな)も“炎の蹴撃手”と“炎のうっちゃりアイドルレスラー”と、リングコスチュームから字まで似ている2人だ。
「セイヤァ!」
 試合開始のゴングと同時に、エンジェル・ハニーは一気に間合いを詰めると、下段蹴りで先制攻撃を取り、上段回し蹴りから踵落としへと繋げる。
 一撃一撃の威力はそう高くはないが、スピードの乗った蹴りは死角から繰り出される為かわしにくく、その技のキレにルーベラ翡翠の白い肌がみるみるうちに赤くなってゆく。
 蹴りのラッシュに耐えながら、ルーベラ翡翠は一瞬の攻撃の間を衝いて、エンジェル・ハニーの脇の下をくぐり抜け、倒す。伝え反りだ。
 エンジェル・ハニーが空手技をベースにしているのに対し、ルーベラ翡翠は相撲技をベースとしていた。プロレスでありながら異種格闘技のような対戦の様相を呈している。
 エンジェル・ハニーの肘打ちに上手出し投げをカウンターで繰り出し、張り手の応酬を加えてペースを握らせない。
「喰らいやがれぇぇ!」
 何とか流れを引き戻したいエンジェル・ハニーは、必殺のトマホークを放つ。高速二段後ろ回し蹴りの一発目が決まったところで、ルーベラ翡翠は彼女の二発目の足を取り、そのまま太股を下から払って身体を捻りながら倒す内無双でねじ伏せた。
 そこでカウントが取られるが、後頭部をしたたか打ち付けたエンジェル・ハニーは起き上がれなかった。
「いい試合だったわね。燃えたワ」
「流石だね、私の完敗だよ」
 身体を起こす為に差し出された手を握り、潔く握手をするエンジェル・ハニーとルーベラ翡翠だった。


●シングルマッチ〜30分1本勝負〜
『青コーナー! 反乱軍所属! 職人気質な飛び技使い〜、上村真夜!』
「私には飛び技しかない‥‥より一層磨きを掛けるだけだ」
『赤コーナー! 維新軍所属! いぶし銀な関節技の使い手〜、南条遥!』
「‥‥今日もベストを尽くすわ」
 レフリーの紹介を受けて颯爽とリングへ上がる上村 真夜(大神 真夜(fa4038))と南条遥(神楽(fa4956))。
 真夜は先の東女のヘビー級タイトルマッチの時は維新軍として参戦していたが、今回は反乱軍に加わっていた。
 真夜はリリム蕾奈とは年齢も近く、ほぼ同期の入門だ。反乱軍に身を寄せる理由としては十分だが‥‥。
(「‥‥どうして、反乱軍に付いたかは今は聞かない‥‥アスリートらしく、その答えはリング上でわたしに教えて」)
(「恩義には報いる。それがたとえ彼女らを裏切る事になっても」)
 早くもリング中央で、無言で視線を交わし合う2人。レスラーである以上、応えはリングの上で聞くのが定めだ――。
 試合開始のゴングが鳴り響く。
 間合いを取る遥。グラウンド展開に持って行ってこそ実力を発揮できるが、空中殺法を使う真夜とは相性が悪い。
 そこで間合いを取ったのだが、真夜は自らをロープに振ると、その反動を活かしたローリングソバットを放つ。辛うじてかわす遥。間髪入れず、逆サイドから今度はドロップキックを繰り出す。これもかわしたと思ったが、真夜の着地から体勢を立て直す方が早く、腕を取られてアームホイップで投げられた。
(「‥‥上村さんの技、以前より、キレもスピードも増している」)
 遥はそう実感した。前回の東女のヘビー級タイトルマッチで敗戦を期した真夜は、パワーを鍛えるのではなく、『より速く、より鋭く、そしてより高く』を目標に掲げて練習に励んでいた。
 動きの止まった遥の腕を取り、ロープへ振って打点の高い、鋭いローリングソバットをお見舞いする。顎への直撃は避けてダメージを最小限に留めつつ、真夜の動きが鈍る一瞬の反撃の隙を窺う遥だが、攻め立てる彼女の動きは一向に鈍る気配はなかった。恐るべきスタミナである。
(「受け身になっていては私には勝てないぞ?」)
 ようやく、遥もその事に気付いたようだ。
 リングを縦横無尽に走り回る真夜の足を強引にでも止める事を優先し、相打ち覚悟でドロップキックには掌底で、ローリングソバットには裏拳で迎撃し、少しでも動きを止めればスリーパーホールドや変形のチョークスリーパー、脇固めを極め、体力を確実に、少しずつ削ってゆく。
 真夜、遥、双方ともクリーンヒットを見ないまま試合展開は泥沼化していくと思いきや、やはり関節技が着実にスタミナを奪ったのか、真夜の動きが如実に鈍くなってゆくのが分かる。
 それでも強引に遥をアームホイップでリングに叩き付け、必殺のムーンサルトプレスを放つだけのスタミナはまだ十分有していた。
 だが、遥はそれをかわし、自爆に終わる。彼女はふらふら立ってきた真夜の腕に飛び付き、そのまま得意とする飛びつき腕ひしぎ逆十字を決める。
 ロープへ逃れようとする真夜。だが、藻掻けば藻掻く程、決まってゆく。
 そこでギブアップ。
 試合時間29分44秒と、制限時間ギリギリで勝利を収めた遥だった。
 だが、それ以上に、何故、真夜が反乱軍へ身を投じたのか、ファイトを通じて分かった。彼女はきっとまた自分達維新軍の元へ帰ってくる‥‥そんな自信すら芽生えていた。その時はきっと、笑顔で迎えられるだろう。
 真夜は何一つ変わっていないのだから。


●東日本女子タッグ・タイトルマッチ〜61分1本勝負〜
『これより、東日本女子タッグベルトのタイトルマッチ、61分1本勝負を行います』
『混成軍、反乱軍共に、一勝一敗で東日本女子タッグベルトのタイトルマッチを迎えます。東日本女子のジュニア級とヘビー級の二冠を持つダイナマイト・シュガーが、リリム蕾奈へ何処まで喰らえ付けるか、注目の一戦です』
 レフリーと解説の宣言に沸きに沸く会場。
「ボクが先に出ます! 任せて下さい」
「あ、いけません!」
 憧れの人であるアイギス佐久間(竜華(fa1294))と肩を並べて戦えるのだ。彼女に少しでも良いところを見せようと、アイギス佐久間の制止を振り切って先発としてリングへ上がるダイナマイト・シュガー(MAKOTO(fa0295))。
「私が出よう」
「わたくしの分も、残しておいて下さいましね?」
 リリム蕾奈(夏姫・シュトラウス(fa0761))の見送る言葉に、赤いマスクから覗く口元に笑みを浮かべて応える覆面レスラーのデッドリー・京(リネット・ハウンド(fa1385))。
 そして、運命のゴングが鳴り響く。
 先に動いたのはダイナマイト・シュガー。リング中央で組み合うと、デッドリー・京をロープへ振り、返ってきたところにエルボーを‥‥と思いきや、デッドリー・京はそれをかわしてカウンターのエルボーを叩き込む。
 果敢にアームホイップで投げてみれば、今度はボディスラムで投げ返される。しかも、1回投げれば3回投げ返される、というように、早くもキャリアの差が露呈して、主導権をデッドリー・京に握られ、じわじわとスタミナを奪われてゆく。
 9度目のボディスラムからふらふらと立ち上がる隙を衝いて、デッドリー・京からリリム蕾奈へタッチ。
「これであなたもわたくしのコレクションに加わるのですわね。ふふっ、あなたの唇はどんな味がするのかしら?」
「ボ、ボ、ボクはノーマル! そっちのシュミは無い! それにボクのファーストキスは、夕陽の綺麗な海岸で大好きな人と愛を誓いながらって決めてるんだ!!」
 リリム蕾奈は自らの唇を人差し指でなぞりつつ、妖艶に微笑む。あっさり挑発に乗り、スタミナが切れ掛けているにも関わらず、仕掛けるダイナマイト・シュガー。
 だが、最早、エルボーもヘッドバッドもドロップキックも見る影もない。いとも簡単にかわされ、ニーリフトを皮切りに、蹲ったところへステップキックを顔面に叩き込こまれて更にスタミナ奪われる。
 動けないダイナマイト・シュガーを高く持ち上げてブレーンバスターでリングに叩き付けたリリム蕾奈は、助走を付けたプランチャーで止めを刺すと、フォールに入る。
「気持ちは分かるけど、少し休みなさい」
 そこへアイギス佐久間がカットに入り、そのままダイナマイト・シュガーと交替した。
「折角の逢瀬を邪魔するなんて、女王といえども無粋ですわよ」
「可愛い後輩を夢魔の毒牙に掛ける気は更々ないわ」
 リリム蕾奈がフォールを邪魔された事に不満を述べると、アイギス佐久間は「相変わらずね」と微苦笑する。
「でもまぁ、その代わりをあなたが務めてくれるなら、それもいいですわね」
「私もよ。この高ぶりは懐かしいわ。一挑戦者として挑ませてもらうわ」
 再び妖艶な笑みを浮かべるリリム蕾奈と、24連続防衛の王者としてではなく、新たな挑戦者として挑む心持ちを新たにするアイギス佐久間。
 スピードではリリム蕾奈に分がある。それを武器に攻め立てるが、アイギス佐久間はあくまでオールラウンドレスラー。得意とする投げ技を中心に、打点の高いドロップキックや隙あればDDTを叩き込むなど、試合の流れを一気に引き戻した。

「はぁはぁ、流石はアイギス佐久間さん‥‥それに引き替え、ボクは何やってるんだろう‥‥あぐ!?」
「ようこそ私のリングへ。ダイナマイト・シュガー」
 アイギス佐久間のファイトを見ながら自己嫌悪に陥るダイナマイト・シュガーは、デッドリー・京の接近に気付かず、背後から襲い掛かられ、断崖式のネックブリーカーで場外へ引きずり降ろされた。
「お前、首の骨がずれる音を聞いた事があるかえ?」
 首を痛めて倒れたダイナマイト・シュガーの首を掴み、ネックハンギングツリーで吊り上げると彼女の耳元にそっと呟き、そのまま頭を鉄柱に叩き付ける。
 鈍い音と叫び声がリングに木霊する。だが、試合権がない者同士のなので、レフェリーが制止に入る事はない。
 デッドリー・京は自分のテリトリーとばかりに、ダイナマイト・シュガーの頭を何度も鉄柱へ叩き付けて額を割ると、近くのパイプイスで殴りつけて畳み掛ける。
 彼女は試合中に首に重症を負い、医者に半身不随を宣言された過去があった。しかし、リリム蕾奈が日本でも指折りの名医に口利きをし、リハビリも献身的に付き合った結果、奇跡的に復活し、それ以来、デッドリー・京は彼女に恩を感じている。
 尚、彼女は場外戦を得意とし、ラフプレーが目立つが、先程ダイナマイト・シュガーを場外へ引きずり降ろしたように、その名の通り一撃で致命傷になりえる大技で対戦者のスタミナを根こそぎ奪い取るパワーファイターだ。
「お前の次はアイギス佐久間の番だ」
「あの人の前で、これ以上の無様は晒せないんだ!」
 止めの奈落式ネックブリーカーの体勢に入るデッドリー・京へ、ダイナマイト・シュガーは無理な体勢から強引にエルボーを放って顎を打ち上げ、着地と同時にスーパーダイナマイトを繰り出す。
 アイギス佐久間の意識すら刈り取った必殺の延髄切りは、デッドリー・京にも容赦なく襲い掛かった。

「京!?」
「どこを見ているの?」
 仲間を重う一瞬の隙すら見逃さないのは女王の貫禄か。キャプチャードでリリム蕾奈をマットへ沈めるアイギス佐久間。
「ダイナマイト・シュガー!」
「はい、これで決めます!」
「ええ、これで決まりよ」
 ダイナマイト・シュガーが場外乱闘を制したのを見届けたアイギス佐久間は、彼女に声を掛ける。
 連戦に加え、アイギス佐久間の必殺技を受けても尚、立ち上がるリリム蕾奈は称賛に値する。だからこそ、最高の技で倒さなければならない。
 ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間が左右からリリム蕾奈の身体を持ち上げ、垂直落下式ツープラトンブレーンバスターを決めたのだった。

「今回は素直に敗北を認めますわ。でも、これで諦めた訳ではないですわよ。いえ、むしろ今回の事で本気であなた達を欲しくなりましたわ」
 デッドリー・京に肩を借りながら、リリム蕾奈は東女のタッグベルトをダイナマイト・シュガーへ渡そうと近付く。
 すると、受け取ろうとするダイナマイト・シュガーの唇を不意打ちよろしく塞いだ。
「これはほんの手付け代わりですわ。わたくしは更に強くなって帰ってくる。そして今度こそ必ずあなた達の唇を戴きますわ。わたくしが戴くその日まで、その唇を汚らわしい男なんかに渡さずに大事に守っておきなさいよ」
 再びあの妖艶な笑みを浮かべると、敗者とは思えない程昂然と胸を張り、高笑いを上げつつ反乱軍を率いてリングを去った。
「手付けって何なんだよ〜。結局ファーストキス、奪ったじゃないか〜」
「彼女からすれば、深いキスを残しておけって事じゃないかしら?」
 東日本女子プロレスを統一した証であるタッグベルトを胸に抱きながら、泣き崩れるダイナマイト・シュガー。アイギス佐久間のフォローはフォローになっているのだろうか!?