サーベルタイガーヨーロッパ

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 1Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 やや難
報酬 27.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 10/03〜10/05

●本文

●昼の大英博物館
 人類が作り上げた空を飛ぶ道具、航空機の1つに、『オーニソプター(ornithopter)』がある。日本語では「羽ばたき式飛行機」や「はばたき機」等と訳されるが、鳥や翼竜、蝙蝠のように翼を羽ばたかせる事によって飛ぶ航空機だ。
 このオーニソプターの歴史は古く、1490年に1人の天才画家が既に設計図を描いていた。
 その後は1678年までその登場を待つ事になるが、実際に飛行が可能なものは19世紀に入ってからだ。
 しかし、1490年に引かれた設計図を元に、実際にオーニソプターが製作されたという説もある。そのオーニソプターが、イギリスのロンドンにある『大英博物館』に展示されているという。
「ん〜、小鳥のメーフィルちゃんがぁ〜、あそこまで飛ぶとなるとぉ〜、やっぱりぃ〜、オーニソプターが必要だよねぇ〜」
 メーフィル(fz0041)は相も変わらず、間延びした口調で空を見上げながら呟いた。


●夜の大英博物館
 最近、大英博物館の周りにあるスクエア(=広場)で、深夜、動物の唸り声が五月蠅いという通報が、何件も警察に寄せられていた。
 警察が調査したところ、その動物の正体は猫だった。但し、その身体は2m近くあり、上顎から緩やかに湾曲した長い牙が、まるでサーベルのように生えていたという。
 恐竜といった歴史が好きな者なら、その形状を聞いてピンと来るかも知れない。
 180〜160万年前から1万年前まで、更新世と呼ばれた時代に生きたネコ科の肉食動物の中でも、大型の犬歯を持つ剣歯虎――サーベルタイガー――だろう。
 もちろん、サーベルタイガーはとうに絶滅しており、今いるネコ科の肉食動物の内、サーベルタイガーに近いのは虎だが、虎の犬歯はそこまで発達してはいない。
 警察が駆逐を試みたものの、その身体の要所は甲殻で覆われ、しかも、銃器では一切傷つける事が出来なかったという。
 サーベルタイガーはその巨体にも関わらず、木の幹を登って逃げてしまった。


 WEAはこれらの情報より、何らかのネコ科の肉食動物にナイトウォーカーが感染し、サーベルタイガー化した可能性を考えた。
 そうなると、興味本位で近付いた人間は感染源にしかならないだろう。
 WEAは警察に働き掛けて、周囲の住人や観光客に、深夜、大英博物館の周りへ行かないよう警戒させ、獣人達にサーベルタイガー型ナイトウォーカーの退治を依頼した。
「よ〜し、頑張ってぇ、ナイトウォーカーを退治しよう〜!!」
 メーフィルもその退治の依頼を受けた1人だ。小柄な身体に不釣り合いな、1.5mを越える幅広の刃を有した、2m強の斬馬刀を背負っていた。


 ※※技術傾向※※
体力・格闘・軽業・射撃

●今回の参加者

 fa0431 ヘヴィ・ヴァレン(29歳・♂・竜)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2122 月見里 神楽(12歳・♀・猫)
 fa2671 ミゲール・イグレシアス(23歳・♂・熊)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)
 fa5662 月詠・月夜(16歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文


●前準備はしっかりと
「ミゲールいいま。よろしゅうです」
「うん〜、よろしくねぇ〜」
 ミゲール・イグレシアス(fa2671)とメーフィル(fz0041)が、顔合わせを兼ねて握手を交わす。
「メーフィルさんは力持ちですね‥‥同じ小鳥獣人とは思えないです」
「細い身形や腕力とは裏腹に、身の丈に不釣合いな斬馬刀を得物に選ぶとは‥‥ある意味、滑稽としか言えないな。いや、馬鹿にしているつもりは無いにせよ」
 月詠・月夜(fa5662)はメーフィルが幌にくるんで背負っている斬馬刀を見ていた。メーフィルの背丈は、友達の湯ノ花 ゆくる(fa0640)とほぼ一緒で147cm。外見年齢相応に身体の線は細く、2.5mはあろう斬馬刀を斜めに背負っていた。
 神保原和輝(fa3843)もその点が気になったようだが、メーフィルは不釣り合いな得物を蹌踉めかずに背負っており、体運びもしっかりとしている。
(「使いこなしている、という事かな。ただ、メーフィルさんは斬馬刀と言っているが、大太刀より長巻に近い形状だよね‥‥軽量化の技術が施されているオーパーツという可能性も考えられる」)
 メーフィルの持つ斬馬刀は、刀身の幅が広く、両刃の武骨な造りになっている。
 月夜が言うように、小鳥の獣人は往々にして力持ちとは言い難い。和輝が「滑稽」と言った上で、メーフィルの持つ斬馬刀をオーパーツだと睨むのもあながち間違いではないかも知れない。
 その後、ヘヴィ・ヴァレン(fa0431)と泉 彩佳(fa1890)より、月夜へ22口径ショック弾や封魔の弾丸といった特殊な弾丸が渡され、装備が調えられてゆく。


「サーベルタイガーは通常の銃が効かないのに撃たれても逃げる、臆病な面もあるようですね」
「人間を前に逃げた‥‥って事は、餌以外に労力を使わない程度の頭はあるって事か。何にしろ、犠牲者が出ずに済んだのは幸いだな」
「‥‥逆の方向で考えられないかな?」
 サーベルタイガー型ナイトウォーカーが現れた大英博物館近辺は、深夜、警察が一時的に非常線を張るが、範囲が広い為、完全にとはいかず、一般人が入り込む可能性も考えられる。
 ヘヴィと彩佳、月見里 神楽(fa2122)は非常線のチェックも兼ねて夜間の警察の配置を確認していた時の事だ。ヘヴィと彩佳がサーベルタイガー型ナイトウォーカーについて図っていると、神楽が疑問を口にした。
「確かにナイトウォーカーにとって人間は捕食対象ではないけど、銃撃されたのなら抵抗の為の反撃の1つや2つ、しても不思議はないよ」
「そう考えると、人間を前に逃げたっちゅう方が不自然やな」
 戦いの経験豊富な神楽の言葉には説得力があった。ミゲールは思わず唸る。
「ナイトウォーカーが私達獣人を誘き寄せようとしている、というのか。面白い。ヘヴィ殿の言うように今のところ犠牲者が出ていないのなら、このまま被害が無いまま倒してしまう事が第一だ」
 大神 真夜(fa4038)が神楽の言いたい事を推測しながら、サーベルタイガー型ナイトウォーカー退治に意欲を燃やす。


 昼間、サーベルタイガー型ナイトウォーカーが活動していない間に、ヘッドフォード・スクエア、ブルームズベリー・スクエア、ソーホー・スクエアごとに事前に戦えそうな場所などを分担して調べた。
「‥‥匂うデス‥‥。‥‥メロンパンの‥‥良い匂いです‥‥♪」
 ホクホク顔でモグモグとメロンパンを頬張るゆくる。『イギリスの食事は不味い』という昔からの定評があるが、今のロンドンは世界中の味が楽しめるグルメタウンへと変わっている。
 ゆくるが見付けたベーカリーショップのメロンパンの味はなかなかのもの。
「メーフィルさんと‥‥和輝さんも‥‥おひとつどうデスか‥‥?」
「あの2人なら、ここは私達に任せてブルームズベリー・スクエアの方へ行きましたよ」
 ゆくるが同行しているメーフィルと和輝にもメロンパンを奨めると、既に2人の姿はなく、月夜が和輝達の行き先を告げた。
 メロンパンを食べつつ探索していれば怪しむ者はいないだろう。だが、ベーカリーショップを見付けるたびに立ち寄るのは如何なものかと。


「オーソニプターとはまた、懐かしいものを展示しているな‥‥過去の遺物を展示し、皆に分かってもらうのは専ら博物館の役目とはいえど」
「ひゃう!? な〜んだぁ〜、和輝ちゃんかぁ〜。驚かさないでよぉ〜」
 ゆくる達が探索していたソーホー・スクエアから、ブルームズベリー・スクエアへ行く道すがらに大英博物館がある。
 メーフィルの後を追った和輝は、彼女が大英博物館へ入り、1490年に1人の天才画家が描いた設計図を元に作られたという『オーニソプター(ornithopter)』を熱心に見つめている姿を認め、邪魔にならない程度に感想を漏らした。しかし、メーフィルは和輝の方が驚く程、吃驚した。かなり熱心に見ていたようだ。
「済まない。ゆくるさんの例があるから、寄り道するなとは言わないが‥‥メーフィルさんは何故、コレを必要とするのかな?」
 翼を持たない獣人なら空を飛んでみたいと思い、オーニソプターを必要とするのも分かるが、メーフィルは小鳥の獣人であり、自力で空を飛ぶ事もできる。
 メーフィルはその場では応えず、大英博物館を出た後、空を指差した。
「和輝ちゃんはぁ〜、このお空の上にぃ〜、女神様がいるって信じられるぅ〜?」
 メーフィルはサンタクロースを信じていて、クリスマスにはプレゼントをもらう為に靴下を用意するタイプなのだろう。
「メーフィルちゃん〜、女神様に会いたいんだぁ〜」
「‥‥会えるといいな」
 獣人も生物である以上、その能力には限界はある。女神に会いに行く為にオーニソプターが欲しい、という発想は、この年頃の子供としてはなかなか面白味のある着眼点ではないか。
 和輝は微笑みながら応えると、ブルームズベリー・スクエアへ向かった。


 神楽が猫に、真夜が蝙蝠に、月夜が小鳥に虎を見なかったか聞いたところ、それぞれソーホー・スクエアとヘッドフォード・スクエアで、それらしい獣を見たという話が聞けた。少なくとも2体はいるようだ。


●サーベルタイガー
 彩佳、神楽、ミゲール、和輝がソーホー・スクエアへ向かい、へヴィ、ゆくる、月夜、真夜、メーフィルがヘッドフォード・スクエアを張り込む。
 WEAからの依頼とはいえ、ヘヴィ達の身が保証されている訳ではない。警察に見付かれば職務質問を受ける可能性もあるが、そこはイベント警備員のヘヴィ、手慣れたもので、事前に夜間の警察の配置を確認しておいた事もあり、易々と非常線を抜けてスクエアへ入る事ができた。
「障害物があると得物の扱いに支障が出るし、木に登られて逃げられる訳にもいかないから、木から遠ざけてぇところだな」
 スクエアは敷地の外周に沿って、大小様々な大きさの木が植えられている。昼間は憩いの広場となるが、サーベルタイガーが木に登れる以上、逃走経路でしかない。しかも木に登られればヘヴィ達は不利になるので、できるだけ広場の中央で戦いたい。
 ゆくるが超音感視で、木や茂みといった死角にも潜んでいないか注意しながら探索する。人目を気にして、帽子で蝙蝠の耳を、背に当る部分を切り抜いたリュックを背負い、中に翼を入れて隠し、見た目にも半獣化がわからないよう配慮している。
「ごめ〜ん! お花摘みに行ってくるぅ〜」
「我慢しながら戦うのも大変だからな。サーベルタイガーが潜んでいる可能性もあるから、気を付けて行ってくるんだ」
 今まで我慢していたのか、それともナイトウォーカーとの戦いを目前に控えて緊張したのか。モジモジしていたメーフィルがスクエアの外へ駆け出してゆく。山用語で隠しても、真夜の一言でどこへ行ったのか分かってしまうのが悲しいかな。


「警察官さんからは逃げるけど、今度は彩佳達(=獣人)だから襲ってくるよね?」
 人気のない事を確認し、半獣化して望遠視覚で視点を空に置くと、鋭敏視覚で暗視力を強化してサーベルタイガー型ナイトウォーカーを探す彩佳。葉が生い茂っていれば、それだけで気をつけるくらい警戒している。
「木登りは神楽みたいな猫がするものだと思ってたけど、ナイトウォーカーみたいな虎さんも得意なんだね」
(「確か、虎は木登りはしなかったはずやけど」)
 鋭敏視覚で周囲を観察する勘違い子猫の独り言に、潜伏して待機しているミゲールが心の中で突っ込みを入れた。猫やライオンは木登りをするが、同じネコ科の虎は木登りをしない。
『神楽さん!!』
 風もないのに微かに葉が揺れたのを見付けた彩佳が、トランシーバーでは間に合わないので知友心話で神楽に告げる。
 先程まで彼女がいた場所へ、鋭い爪が頭上より振り下ろされた。間一髪、間に合った。
 神楽の目の前に飛び降りてきたのは、サーベルのように上顎から緩やかに湾曲した長い牙が生えている、サーベルタイガーだった。
『こちら、ヘッドフォード・スクエアのヘヴィだ。サーベルタイガーが現れ、現在交戦中だ、どうぞ』
 その時、誰かのトランシーバーにヘヴィから通信が入る。時を同じく、ヘッドフォード・スクエアでもサーベルタイガーが現れていた。


 毛布を頭から被って完全獣化し、光学迷彩で周囲に溶け込んだ月夜の初手のギャンブルブリッドは、見事にダメージを与えた。
 その後も上空から通常弾を撃つが、甲殻に当たる直前で赤い壁のようなものが一瞬見え、弾丸が弾かれてゆく。
「甲殻で硬い上に、通常攻撃も効かないようだな!」
 側面から無双の斧で仕掛けるヘヴィ。刃付きの棒という感覚で、棒術の要領で柄も攻撃に利用する。
「‥‥コアは‥‥甲殻の奥に‥‥隠されているようデス‥‥」
 ヘヴィが隙を作った間に、ゆくるが超音感視でコアの位置を探る。
 無双の斧は柄より斧頭の方が威力が高いので、ヘヴィは間合いを常に一定以上保つように動くが、サーベルタイガーの素速さは彼以上だった。跳躍で間合いを詰められ、牙や爪で切り裂いてゆく。
「大神真夜。推参」
 真夜がカットに入るが、ヴァイブレードナイフを使ったヒットアンドウェイは、素速さが相手より上でなければ効果は薄い。翼を補助的に使った回転蹴りやアクロバティックな動きも、サーベルタイガーの跳躍でなかなか当たらない。
 それはゆくるも同じだ。月夜と違い、光学迷彩を使えない彼女は人目につくような高さでは飛ばない(飛べない)為、どうしても低空飛行にならざるを得ない。加えてヘッドフォード・スクエアは100m四方の公園で、障害物も少なくない。その中で低空で、時速60kmで飛行すればどうなるか。想像に難くない。
 月夜がカースブリッドを当てて動きを鈍らせると、ゆくるが毛布を投げて目眩ましをし、月夜がショック弾を撃ち込んでいる間にゆくるが後ろに回り込み、真空風刃を使用した回し蹴りを叩き込む。そのまま掴もうとするが、サーベルタイガーも黙って喰らっている訳ではない。体勢を立て直してゆくるの手をかわし、爪で切り付けた後、牙を突き立てる。
「音律設定ナイトウォーカー。砕けろ」
 だが、真夜が攻律音波を使うには十分な隙を作った。攻律音波により甲殻が砕け、コアが姿を現す。
「遅くなっちゃったよぉ〜」
「メーフィル!?」
 間が悪く、そこへメーフィルが帰ってくる。サーベルタイガーは無防備な彼女を獲物に定め、飛び掛かる。
 ヘヴィが咄嗟に声を上げると、メーフィルは目にも留まらぬ速さで斬馬刀を構え、広い刀身を盾のように使ってサーベルタイガーの牙を弾いた。ぶつかった衝撃で牙が2本とも砕ける。
 その好機をヘヴィが見逃すはずはなく、無双の斧で掬い上げるように叩き込んで裏返すと、月夜が封魔の弾丸を撃ち込んで動きを鈍らせ、ゆくると真夜が虚闇撃弾をありったけ叩き込み、ようやくコアを破壊したのだった。


「忍法『壁走りの術』、なんてね♪」
 神楽は俊敏脚足を使い、自分を囮にサーベルタイガーを引き付けながら、ミゲール達の元へ向かう。
「囮役の月見里さんにはちょっと可哀想だけど‥‥」
「木登りが得意なそうやけど、捕まえてしまえば一緒やで」
 神楽を喰らおうとサーベルタイガーが口を開く。絶好の狙撃チャンスとばかりに、和輝がソルジャーボウに番えた矢を放ち、怯んだところへ潜んでいたミゲールが姿を現し、金剛力増を用いて2本の牙を両腕で掴んだ。
 ミゲールとサーベルタイガーの根比べだ。サーベルタイガーは前足の爪で彼を引っ掻くが、牙に比べれば威力は落ちる。耐えられない痛みではない。
 その間、彩佳がシャイニンググローブを発動させ、神楽はバトルガントレット爪を伸ばして、サーベルタイガーへ攻撃を仕掛ける。
 こちらのサーベルタイガーも甲殻で硬いだけではなく、物理攻撃が効かないようだ。彩佳のシャイニンググローブと神楽の爪はダメージを与えているが、バトルガントレットは赤い障壁に阻まれてしまう。
 神楽の放雷紫爪で痺れさせると、ミゲールも牙を放して爪を伸ばし、細振切爪を振るう。
 ソルジャーボウから放たれた矢がコアを破壊し、こちらのサーベルタイガーも退治された。


 サーベルタイガー型ナイトウォーカーはゆくると月夜が考えていた以上に俊敏だったようで、彼女達が考案した連係攻撃は思うように決まらなかった。前衛で戦ったミゲール達も無傷とはいかず、芸能関連の仕事に支障が出ないよう、ヒーリングポーションやリカバリーメディシンで手当てした。
「みんなのお陰でぇ〜、ナイトウォーカーが退治できたよぉ〜、ありがとう〜」
 メーフィルは喜びながら、貴重な弾丸を提供したヘヴィと彩佳へ、それぞれ巨蟹宮の髪飾りと人馬宮の髪飾りを贈った。