Goddess Layer 11th’アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 易しい
報酬 2.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/17〜08/21

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、ニューフェイス、現ヘビー級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲い、東女の数少ないヒールレスラーを加えた「反乱軍」が、今の東女の主な軍勢だ。


「あ、アイギス佐久間さん‥‥はぁはぁ‥‥け、結婚するって本当ですか!?」
「‥‥ええ‥‥」
 後ろから息急き立てて追い掛けてきた少女が、悲愴めいた表情でアイギス佐久間に問う。彼女は少女と目を合わせる事なく、視線を逸らしながら応える。
「私‥‥私‥‥アイギス佐久間さんからまだまだ色んな事を教わりたい! まだまだ未熟ですけど一緒に戦いたい! アイギス佐久間さんの持つベルトに挑戦したい!」
「‥‥何も私でなくてもいいでしょう? 東女にはシスター・アルノやシェリル・リー、エスター・クラークといった第一線で活躍しているレスラーが他にもいるわ」
「で、でも、東女のヘビー級ベルトは、アイギス佐久間さんの腰に巻いている時じゃないとダメなんです!」
 先程、少女は偶然、東女の社長室でのアイギス佐久間と社長との遣り取りを聞いてしまった。それは運命の悪戯だったかも知れない。聞くつもりなど無かったのに。
 アイギス佐久間の結婚、それは彼女の女子プロレスからの引退を意味していた。
 少女はアイギス佐久間が引退しないよう、ベルトを返上しないよう、とにかく理由を並べ、捲し立てる。しかし、アイギス佐久間は少女の問いに正答を述べてゆく。
 どう足掻いてもアイギス佐久間の結婚を止める事は出来ないのか!?
「‥‥あ、あなたが好きなんです! お慕いしているんです! だから‥‥だから‥‥」
 少女は涙目で内に秘めていた、誰にも告げた事のない想いを慕っているアイギス佐久間へぶつけた。
「‥‥ありがとう。でも、もう遅いわ」
「!?」
 そう、遅すぎた。アイギス佐久間の決意は変えられない。
「‥‥分かりました。では最後に私とベルトを賭けて勝負して下さい。勝ったらベルトとアイギス佐久間さんをもらいます」
「私が勝ってもメリットはないけど‥‥降り掛かる火の粉は、あなたであっても振り払うわよ?」
『OK!』
 男性の声が聞こえると、アイギス佐久間と少女はお互いに「ふー」と深い息を吐いた。
「お疲れさまでした」
「はい、お疲れさまでした」
 2人は先程の緊迫した雰囲気とは打って変わって、爽やかに挨拶を交わしてゆく。
 東女は北海道札幌市に本拠地を置き、北海道と関東を中心に興行している女子プロレス団体『ピリカシレトク(「美しい地の果て」の意)』、通称『知床プロレス』の招待を受け、ダイナマイト・シュガーを始め、何人かのレスラーが招待選手として試合に参加しているが、その中にアイギス佐久間は含まれていない。
 彼女はテレビドラマの出演依頼を請け、この撮影所で撮影に臨んでいた。
 写真集といったグッズの発行やテレビや映画への出演依頼は、団体の貴重な臨時収入源だ。東女の社長、佐久間章枝はアイギス佐久間のスケジュールが空いていた事もあり、映画出演の依頼を請けさせていた。
 内容も、アイギス佐久間はヒロインで、交通事故に遭いそうになった際、身を挺して助けてくれた男性と恋に落ち、プロレスを辞める決意をする。しかし、そこへアイギス佐久間を慕っている後輩レスラーがあの手この手で結婚を阻止しようとし、最後には試合を挑むという、ハートフルラブコメディタッチの1時間ドラマだ。
 また、試合はアイギス佐久間以外の試合も行われる。実際の東女のジュニア級タイトルマッチを行い、その場面を挿入する事になっている。
「少女の役、わたくしがやってもいいのですけどね」
「リリム蕾奈が? シャレにならないわ」
 撮影所にはスケジュールが空いている東女のレスラーも来ており、エキストラとして撮影に参加している。リリム蕾奈もその1人だ。
「それに、少女はアイギス佐久間の事を純粋に好きであって、あなたのような肉体関係は望んでいないもの」
「それは残念ですわ。いい機会ですからあなたに告白しようと思っておりましたのに」


 ――ところが、その会話を聞いていた監督は面白いとばかりに、少女役にリリム蕾奈を急遽起用してしまった。
 果たしてこのドラマはどうなる事やら。


※※登場人物紹介※※
・アイギス佐久間(佐久間恵美):22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く、自団体・他団体問わず慕うレスラーは多い。投げ技とチョップを得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 修得技:バックドロップ/投、脇固め/極、DDT/力、逆水平チョップ/打、ドロップキック/飛
 得意技:キャプチュード/投

・リリム蕾奈(真鍋蕾奈):18歳
 東女でアイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主だが、百合な性格故、若手にファーストキスを賭けたデスマッチを仕掛けたりする。スピードのある飛び技を得意としている。
 修得技:ブレーンバスター/投、片逆エビ固め/極、ショルダータックル/力、ニーリフト/打、ヒップアタック/飛
 得意技:プランチャー/飛


※※カテゴリー分けと代表的な技※※
投:投げ技‥‥アームホイップ、ボディスラム、ブレーンバスター、バックドロップ等
極:関節技‥‥スリーパーホールド、脇固め、片逆エビ固め、コブラツイスト等
力:パワー技‥ヘッドバット、ラリアート、パイルドライバー、パワーボム等
打:打撃技‥‥逆水平チョップ、エルボー、掌底、延髄斬り等
飛:蹴り技 ‥‥ドロップキック、ローリングソバット、ヒップアタック、フライングボディプレス等


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa3020 大豪院 さらら(18歳・♀・獅子)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4613 レディ・ゴースト(22歳・♀・蛇)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5770 バッファロー舞華(14歳・♀・牛)

●リプレイ本文


●戦いは愛憎の果てに
 ――アイギス佐久間、引退す!
 日本女子プロレス界の無敗の女王の突然の引退宣言は、スポーツ各紙や女子プロレス専門雑誌月刊『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の見出しを賑わせた。


「アイギス佐久間さん〜、ご結婚おめでとうございます〜」
「ありがとう」
 東女の本社ビル内にあるジムで筋力トレーニングをしていたレナ・マグリフは、ジムへやってきたアイギス佐久間に挨拶をする。
「レナも主題歌が決まったそうね。歌の練習は捗っている?」
「ありがとうございます〜。いいえ〜、トレーニングの後の歌のレッスンは大変で大変で〜」
「でも、それだけ東女(ウチ)もレナをちゃんと売り出したい証拠だから、練習の両立は大変だと思うけど頑張ってね」
 アイギス佐久間は微笑みながらレナの肩に手を置く。
 外国人選手のレナは身体が大きく、およそレスラーらしからぬ雰囲気が一部の東女ファンの間で人気を博している。体力もやる気もあるが、技術的にはまだまだ未熟なアイドルレスラー候補だったが、東女も本格的にアイドルレスラーとして売り出そうとしていた。
「‥‥しかし、本当に結婚引退するとはな」
「エスターは反対だった?」
 新人レスラーの練習を見ていたエスター・クラークが、アイギス佐久間に気付くとやってくる。彼女は真日本女子プロレス時代に日本に帰化したイギリス人だ。
「‥‥いや、アイギス佐久間さんの女としての幸せを否定しているのではない‥‥あなたが現役の時に、あなたから、あなたが腰に巻いているヘビー級のベルトを奪いたかった‥‥それだけだ」
 エスターは寂しそうに言う。アイギス佐久間が引退すれば、彼女の持つタイトルは東女や他団体へ返上され、王座は空位となる。
「東女のヘビー級チャンピオンって肩書き、そのまま持って引退させないって事ですよ」
 バッファロー舞華とのスパーリングを終えたブラックビーストが、リングの上から声を掛けた。ブラックビーストは東女のベテランレスラーの1人で、勝ち負けよりも観客へのアピールを優先する事から、“黒い悪魔”と呼ばれる覆面ヒールレスラーだ。
 今は、東女のジュニア級タイトルへの挑戦を控えているバッファロー舞華のセコンドに付き、練習に付き合っている。
 バッファロー舞華は、『タクティカル・パニッシャー』のキャッチフレーズで売り出し中の、剛腕ラリアートで快進撃を続ける東女の期待の新人レスラーだ。パワーファイターながら冷静な判断で勝機を見極める策士でもあり、現ジュニア級ベルト保持者にして、派手さはないが、緻密に試合を進めていき、勝ちをもぎ取るいぶし銀的な関節技の使い手、南条遥とは相性がいいとブラックビーストは踏んでいる。
「そう言われると、それもそうですね〜」
 ポンッと手を叩いて納得してしまうレナ。ぼんやりしていて人の意見に流されやすいタイプのようだ。
「だったら尚の事、“東女の守護女神”亡き後、私達で東女を守っていかなくちゃ」
 空かさず、横須賀 皐月(よこすか さつき)がアイギス佐久間とブラックビーストとの間に割って入る。彼女は“スープレックスマスター”の異名を持つ投げ技の使い手で、アイギス佐久間の同期であり、自他共に認める親友でもあった。
「亡き後って‥‥勝手に殺さないでよ。でも、ブラックビーストも好きな人の1人でも出来れば、私の気持ちを分かってもらえると思うわ」
 微苦笑しつつ、惚気話を始めるアイギス佐久間。ブラックビーストは肩を竦め、バッファロー舞華のスパーリングへ戻った。
「確か〜、お相手は〜、市ヶ谷病院の〜、内科の先生でしたよね〜?」
「良いわね、私も白衣の王子様ならぬ、白馬の王子様が迎えに来てくれたらな〜」
 レナは惚気に乗って、アイギス佐久間に婚約者との馴れ初めを聞く。彼女が語る婚約者の惚気は、日本女子プロレス界の無敗の女王の威厳もへったクレも無い、ベタ惚れの小娘レベルだったが、レナのきらきらと宝石のように輝く瞳は『夢見る女の子』のそれであり、アイギス佐久間の『素敵な恋』を羨ましく思うと同時に応援もしていた。それは皐月も同じだ。
 アイギス佐久間の婚約者は、東女が掛かり付けにしている総合病院、私立市ヶ谷医院の内科の先生だ。インターンで市ヶ谷病院へ来て、初めて診た患者がアイギス佐久間だった事から知り合い、忙しい合間を縫って逢瀬を重ね、婚約者が医師国家試験に合格し、市ヶ谷病院勤務となったのを機に、アイギス佐久間は彼を支えたいと引退を決意していた。


「最近、ずっとトップでいる事に疲れてきたのよ」
 練習後、本社ビル内にあるカフェテラスへやってきたアイギス佐久間は、無二の親友の皐月しかいない事もあってか、弱音を漏らし始めた。
「それでも誰かにトップを渡したくはないのよね。みんなは私を目標に出来るじゃない? でも私は‥‥王座を守る事に必死になるばかりで、強くなりたくて必死に頑張ってた頃の気持ちが思い出せなくなっているわ」
「恵美‥‥独りで抱え込まなくていいんだよ。そんなに重荷なら、他の人にも預けちゃいなさい」
「ふふ、皐月は預かってくれるの? 東女の看板を」
「もちろんよ。私達の事は気にしないで、自分の幸せを掴みなさい。大丈夫、あなたが抜けても東女の看板は守ってみせるから」
 東女の中では社長以外、リングネームの無い者を除いてリングネームで呼び合うのが原則だが、アイギス佐久間と皐月は、2人きりの時は本名で呼び合う事にしていた。


(「アイギス佐久間さんは『戦う理由』を見失っているだけだよ!」)
 2人きりではなかった。偶然、本当に偶然、佐藤由貴が通り掛かり、アイギス佐久間の本音を聞いてしまった。
 彼女はアイギス佐久間に憧れて東女へ入門した少女達の1人だ。得意としているスピードのある飛び技はジュニアの中でも定評で、ニューフェイスの中心的レスラーになりつつあった。
 アイギス佐久間の本音を聞いてしまった由貴は、居ても立ってもいられず、皐月と別れた彼女へ想いと挑戦状を叩き付けた。由貴がデビューして間もないニューフェイスであっても、アイギス佐久間へ彼女のそれらを真っ向から受け止めたのだった。


●セミファイナル・東日本女子プロレスジュニア級タイトルマッチ〜61分1本勝負〜
「ふん、アンタはただの通過点だ」
「‥‥今日もベストを尽くすわ。今日は戦友の由貴の為にも戦うわ。だから、あなたにはその花道になってもらう」
 試合前のマイクパフォーマンスで、赤コーナーに立つ、トップに白百合のワンポイント、ボトムはショートパンツ風の黒のセパレート水着に身を包んだ遥を挑発するバッファロー舞華。遥は至って冷静にさらりと受け流し、それが逆にバッファロー舞華を逆撫でする事となり、彼女はゴングが鳴る前から仕掛けてゆく。
 リングネームの如く、猛牛ブロー(掌打)を繰り出す。遥も掌底を使う事もあり、バッファロー舞華の掌打を冷静に手で弾き、逸らす。次々と放たれる猛牛ブローはしかし、遥の身体を捉える事はなかった。
 一向に猛攻が収まる事はなく、遥は一瞬の隙を衝いて手首を取り、そのまま脇固めを極める。
「何だオマエ、この程度か?」
 強引に振り解くバッファロー舞華。腕にダメージを受けているが、あたかも効いてないようなフリをしている。
 今度は間合いを取ると、猛牛スプラッシュ(ファイヤーバードスプラッシュ)を仕掛けてくる。これも冷静にかわし、スリーパーホールドを極めようとするが、今度はバッファロー舞華の策の方が勝っていた。猛牛スプラッシュを囮に、自爆したと見せ掛けて、背後に回る遥の方へくるりを身体を向けると、猛牛バックドロップ(捻り式バックドロップ)で彼女の身体をリングへ叩き付ける!
 それが切っ掛けとなり、試合はバッファロー舞華のペースで展開してゆく。だが、遥も常に反撃の機会を窺い、隙あらば、要所要所で着実に技を決めてゆく。
「ちまちまちまちま、ちまちまちまちま、五月蠅いんだよ! これでぇぇぇどうだぁぁぁ!」
 バッファロー舞華は必殺のハリケーンボンバー(アックスボンバー)で、強引に遥をリングへ叩き付け、顔を踏みつけてフォールした。
 カウント1、2‥‥2.8! ギリギリで返す遥。
「何ぃ!」
「ごめんなさい、ここで踏み留まる訳にはいかないから」
 バッファロー舞華の大技志向が災いした。大技程完璧に決まれば威力は高いが、それは完璧に決まればの話だ。遥は決まる寸前で決めの甘さを衝いてダメージをわずかに緩和していたのだ。
 的確にダメージを蓄積させ、スタミナを奪うと、最後は裏投げ→飛びつき腕ひしぎ逆十字の必殺コンボへ持ち込んで、ギブアップを奪った。
 最後の最後でキャリアの差が勝敗を分けた試合だった。


●ファイナル・アイギス佐久間引退試合〜61分1本勝負〜
「由貴。全力でぶつかって、あなたの想いを全部アイギス佐久間さんにぶつけなさい! それがあなたらしさよ」
「由貴さんも〜、アイギス佐久間さんも〜、負けないで下さいね〜」
「レナちゃんはどっちの応援をしてるんだよぉ」
 花道を歩きながら、自分達の試合を終えて由貴のセコンドに付いた遥とレナが発破を掛ける。内心、2人の応援をしているレナの口を衝いて出た言葉に、由貴は苦笑いを浮かべながらリングインした。
 続けてセコンドの皐月を伴ったアイギス佐久間がリングインし、赤コーナーで由貴を迎え撃つ。
「あなたの想いと私の想い、どちらが勝っているのか、はっきりさせましょう」
「私のアイギス佐久間さんへの愛の力は誰にも負けません」
(「あ、愛の力って何!?」)
 同性愛に対して潔癖なまでに嫌いな皐月は、由貴の意外な戦う理由に、思わずコントよろしく横っ飛びしそうになるくらい目を丸くして驚いた。
 運命のゴングが鳴る。先に仕掛けたのは由貴。ショルダータックルで先手を狙うが、アイギス佐久間はそれをかわして逆水平チョップを叩き込む。
 チョップ! チョップ! チョップ! 肉の爆ぜる音がリングに響き渡る。たちまち由貴の柔肌が赤く腫れ上がる。アイギス佐久間は本気だ。
 由貴は被弾しながらもニーリフトを叩き込んでチョップから逃れると、ヒップアタックで反撃する。アイギス佐久間をリングへ倒したところへ片逆エビ固めを極める。アイギス佐久間は強引には振り解かず、ロープブレイク。
 離れた由貴へドロップキックで飛来。怯んだところへDDTを決める。試合運びに明らかにキャリアの差が出ていた。
 由貴の起死回生のブレーンバスターを堪え、逆にブレーンバスターで投げると、数多(あまた)のレスラーを倒してきた、アイギス佐久間の伝家の宝刀、キャプチュードで投げる。
 カウント1、2‥‥2.9! 土壇場、土壇場で返す由貴。
「これが愛の力です!!」
 片逆エビ固めが効いていたのか、必殺のキャプチュードに耐えきった事に動揺を隠しきれないアイギス佐久間へ、由貴は助走に前転の捻りを加えて勢いを付けたプランチャーで吶喊! アイギス佐久間は直撃を受け、そのままダウン。
 皐月は観客からの応援を集める為に、エプロンを叩きながら客席に向ってアイギス佐久間コールを促す。
 カウント1、2‥‥3! しかし、声援は気絶したアイギス佐久間を目覚めさせる事は叶わなかった。


「約束通り、結婚は破棄してもらいます。これからも、ボク達新人レスラーに、弛まぬご指導ご鞭撻をよろしくお願いします」
「‥‥負けたわ」
 自らの負けを認め、由貴へ手を差し伸べるアイギス佐久間。
 しかし、由貴は手は取らず、熱い抱擁を交わす。
「男なんて汚くて下賎で下等な生物なんです。美しくて格好良くて気高くて素敵なアイギス佐久間さんには相応しくないんです」
「ア、アイギス佐久間、お幸せにね。お、応援するわよ」
 大好きなアイギス佐久間の為に勝ちたいという純粋で一途な想いを見せ、周囲を感動させていた由貴だが、その発言に頭を大げさに抱えつつ、トドメを刺す皐月だった。


●出演
 アイギス佐久間(草壁 蛍(fa3072))
 佐藤由貴:リリム蕾奈(夏姫・シュトラウス(fa0761))

 南条遥(神楽(fa4956))
 バッファロー舞華(バッファロー舞華(fa5770))

 横須賀 皐月(レディ・ゴースト(fa4613))
 レナ・マグリフ(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))

 ブラックビースト(大豪院 さらら(fa3020))
 エスター・クラーク(ランディ・ランドルフ(fa4558))


※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※


●撮影を終えて
「最後の言葉(アドリブ)、あれはリリム蕾奈の言葉でしょ?」
「でも、リリム蕾奈にしては珍しく、最後の最後のみでしたよね」
「それに〜、ダイナマイト・シュガーさんの性格を〜、とても良く把握されていて〜、私〜、本物のダイナマイト・シュガーさんと〜、お話ししているような感じでしたよ〜」
「ふふ、ダイナマイト・シュガーを常日頃よりよく観察しているからこそ、演じきる事が出来たのですわ。それに現実の試合でアイギス佐久間に勝って行ってこそ意味があるので、皐月さんの危惧していたような事はやりませんわ」
 収録後の打ち上げで、リリム蕾奈の演じたダイナマイト・シュガーの感想を口々に述べるアイギス佐久間と皐月とレナ。
 リリム蕾奈も同性愛者としてもプロレスラーとしても譲れない一線があり、そのプライド故に今回のような演技となったようだ。ちなみに、一体何故ダイナマイト・シュガーを、そして一体ダイナマイト・シュガーの何を観察しているのかは、遥もバッファロー舞華も恐くて聞けなかった。