紅葉狩りドラマSPアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/30〜12/04
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●本文
「ん?」
一陣の木枯らしが吹き抜け、“それ”は学校帰りの大和・武(だいわ・たける)の目の前を横切った。
剣道の達人で、前年度の高校生剣道全国大会の個人戦優勝の経験を持つ彼は、持ち前の反射神経で“それ”を掴んだ。
“それ”は落ち葉の中に一緒に舞う“ケープ”だった。市販のものではなく、おそらく手作りだろう。
どこから飛んできたのか、辺りを見回すと――。
「!?」
鮮やかに色付いた葉が散り始めて寂しさを感じさせる落葉樹の側に、開いている出窓を見付けた。その窓から一瞬だけ、艶やかなみどりの黒髪が北風に吹かれて舞い、そして窓の奥へ消えた。
秋の澄んだ夕日に照らされたそれは、あまりにも幻想的で美しく、武は柄にもなく魅入ってしまう。
天窓が閉まる音と共に現実に引き戻された彼は、再度辺りを見回すが、他にケープが飛んでくるような場所は見当たらなかった。
「天岩戸病院、か。ここ、病院の敷地内だったのか」
出窓のある建物は天岩戸病院。この近辺では唯一の総合病院だ。
武が病院だと気付かないのも無理はない。出窓のある建物は入院患者の個室病棟で、大正浪漫を思わせるレンガ造りだからだ。
受付で面会簿に名前と住所だけ書き、病院独特の消毒臭のする廊下を歩く。外観と異なり、内装は真新しい。
先程の落葉樹を目印に、程なく目当ての病室の前に付いた。ネームプレートには、『天・照』とある。
一度だけ深呼吸すると、意を決してドアをノックした。
「‥‥どうぞ」
やや間を置いて、小鳥の囀りのような綺麗な少女の声が聞こえる。
「失礼します」
「‥‥!? あなた、誰!?」
8畳から10畳ほどの広さの部屋には、冷蔵庫やテレビ、本棚が置いてある。
病室の中央からやや窓際に鎮座するベッドの上には、先程のみどりの黒髪の持ち主である美少女が、上半身を起こして天窓から外をボーっと眺めていたが、武が入ってくると整った顔を歪め、枕元に置かれたナースコールに手が伸びる。
面識がないのだから当然の反応だし、我ながら何をやっているのか、と武は思いつつ、ケープを差し出した。
「ちょっと待ってくれ! これを拾ったから届けに来ただけだから!」
「私のケープ!? ‥‥さっき、風で飛ばされたと思ったら‥‥ありがとう、拾ってくれたのね。ごめんなさい」
「いや、突然来た俺が悪いし」
「ふふふ、ありがとう。変だけどわざわざ届けてくれるなんて律儀な人ね‥‥よかったら休んでいかない? 温かい紅茶を淹れるわ」
ケープを見ると少女の態度は一転して柔らかくなる。先ず拾ってくれた礼を言い、睨め付けた事を謝る。
武が頭を掻きながら気にしていないと告げると、少女はクスクスと笑い、帰ろうとする彼を引き留めた。少女の目から見て武は悪い人ではないように見えたようだ。
「大和君、私と同じクラスなのね」
「いつも空いている席があると思ったけど、そうか、天さんの席だったのか」
「ミコちゃんは元気?」
「ミコちゃん? ‥‥ああ、いいんちょの事ね、相変わらずばりばりクラスを仕切ってるよ」
「ふふふ、ミコちゃんらしいわね」
少女――照(てらす)――の淹れた紅茶を飲みながら話をすると、奇遇にも彼女は武と同じ、私立高天原高等学校の生徒だという。しかも、“いいんちょ”の愛称で呼ばれる学級委員長山都・美琴(やまと・みこと)の親友で、先程武が拾ったケープも美琴の手作りだ。
2人はしばし、学校の話で盛り上がる。武は気付いていなかったが、照は修学旅行や学園祭といった学校行事には無理をして参加していた。
「でも、どうしてケープが?」
「‥‥あの葉が散って欲しくなかったから」
武はケープの事を聞くと、照は伏し目がちに視線を出窓へ向ける。そこには武がこの病室の目印にした落葉樹があった。木枯らしに吹かれ、葉が一枚、また一枚と飛んでゆく。
「‥‥あの葉が全て落ちると、私も‥‥」
「そ、そんな‥‥!?」
せっかく知り合い、仲良くなれたのに、衝撃的な言葉を聞き、照の病室を後にする武。
「照の友達が来ているとは珍しい」
武の背中から凛とした女性の声が聞こえる。振り返るとそこには、白衣を着た女医が立っていた。男装の麗人として舞台に立てそうな、彫りの深い顔立ちだ。
「失礼。私は照の主治医で月讀(つくよみ)という」
女医――月讀――は自己紹介をすると、武に話せる範囲で照の病状について話した。
彼女は幼い頃から身体が弱く、高校に入ってからは頻繁に入退院を繰り返すようになっていた。今度受ける手術が成功すれば、入退院を繰り返さなくても済むまでに快復するのだが、成功率は50%。照は受けるのを怖がっているのだという。
「“病は気から”という諺があるだろう? まさにその通りで、確かに成功率は50%だが、照本人の気の持ち様次第で、成功率を60%にも70%にもする事が出来る。君を照の友達と見込んで、彼女を励ましてもらえないだろうか?」
「60%にも70%にもする事が出来る‥‥分かりました、これも何かの縁です、俺、知り合いを誘って天さんを元気付けてみます!」
「頼む。照がああ言っているのは、自分の殻に閉じ籠もっているからだ。君の力でこじ開けて欲しい」
今の照は、天岩戸(あまのいわと)に引き篭ってしまったアマテラスも同じ。天岩戸をどうこじ開けるか、武達に委ねられたのだった。
■主要登場人物紹介■
・大和・武:外見17歳前後。高校生。両親の仕事の都合で転校を繰り返し、友達作りが下手な好青年。剣道の達人で愛用の竹刀の名前は草薙。
・天・照:外見17歳前後。高校生。武と同じ、私立高天原高校の生徒だが、体が弱く、入退院を繰り返している薄幸の美少女。病室から見える落葉樹を見て、「‥‥あの葉が全て落ちると、私も‥‥」と成功率五分五分の手術を受ける事を諦めている。趣味は読書とコンピュータゲーム(格ゲーが得意)。
・月讀:外見20代後半〜30代後半。照の担当医で男装の麗人。照の事を誰よりも気に掛けている。
・山都・美琴:外見17歳前後。高校生。照の数少ない友達で、時々お見舞いに行っている。学級委員長を務めており、愛称は“いいんちょ”または“ミコちゃん”。しっかり者。
・橘・緒登:外見17歳前後。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高天原高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。照との面識はほとんどない。
・サラスヴァティ(弁財天):外見20代後半。元々は河の神で、そこから音楽神、福徳神、学芸神となる。人間に顕現するとカジュアルスーツ姿の美女になる。神力は楽器による魅了、水を操る攻撃と防御、傷を癒す等。
・天埜・探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格だが、芯は一本通りしっかりしている。人間に顕現(=変身)していないサラスヴァティ達神様を見る事の出来る、数少ない信仰心の厚い人間。
■技術傾向■
容姿・発声・芝居
●リプレイ本文
●水くさいいいんちょ?
「‥‥という訳で、今日の放課後、天さんを元気付けに行きたいと思うんだ」
放課後、大和・武は天・照と面識にある“いいんちょ”こと山都・美琴と、彼女の親友である橘・緒登、そして何故かこういう時にはいつも近くにいる光というクラスメートの女子に声を掛け、昨日の天岩戸病院での一件を話した。
「っていうか、ミコちゃん、あたしに隠れてお友達作っていたんだ! まったく、水臭いだから!」
「隠していた訳ではありませんが‥‥緒登さん、ゲームあまりやらないでしょう? 照さんとは最初、インターネットのゲームで知り合ったのです。それからチャットやメールで文通しているうちに、実は同じ学校の同じクラスだったという事を知り、それ以来、遊びに行っているのです」
緒登は、幼馴染みで小中高とずっと同じクラスの間柄、自他共に認める大親友の美琴の、思わぬ隠し事に驚いていた。
美琴は、緒登があまりゲームをやらない事から、照は気が合わないのではないかと思い、紹介しなかっただけのようだ。
「これは貸し1つだからね。ちゃんとあたしにも紹介してよ」
「ゲームは下手だけど、行っていいなら行くよ」
それに親友とはいえ、隠し事の1つや2つ、あっても不思議ではない。「水臭い」発言は、緒登なりに美琴へちょっとだけ驚かされたお返しのつもりらしい。
光も一緒に承諾する。
「まだ残っていたのですか? 最近は日が暮れるのも早いです。クラブや委員会がなければ帰りなさい」
そこへ天・忍が顔を出した。家庭科の教諭だが担任や副担任は持たず、代わりに校内のスクールカウンセラーを兼ねている。その為か、眼鏡を掛けて、女子生徒も羨むキューティクルな黒髪をうなじの辺りでまとめ、シャツの上に白衣を羽織った姿は、女子生徒にすこぶる人気が高い。忍のスクールカウンセリング室はいつも、用もないのに数名の女子生徒が屯しているくらいだ。
「大和は男の子なんですから、しっかりと橘達を護るのですよ」
「分かっていますって。それじゃ、さようなら」
「「「さようなら」」」
4人揃って教室を出る。その後ろ姿を感慨深く見つめる忍。立ち聞きするつもりはなかったが、武達が照を励ましに行く話を聞いていたのだ。
照は忍が21歳の時に出来た子供で、実の父娘だ。教員・職員は忍と照の関係を知っており黙認しているが、生徒達には関係を公開していないし、忍自身、公私をキッパリと分けており、校内では基本的にいち生徒として扱っている。
●伝説のゲーマー!?
照の病室にお見舞いに行くと、彼女は格闘ゲームをしている最中だった。
照はパジャマ姿だったが、梳った黒い流し髪の右側の揉み上げを纏め、紅組紐と勾玉、布で出来た和風髪飾りをワンポイントとして着けている。
「大和君にミコちゃん!? 来てくれたんだ‥‥そちらは‥‥橘緒登さん、と光さん、よね?」
「どうしてあたしの事を?」
「ミコちゃんとはメールの文通友達なの。橘さんの事はいつも出てきたわ、幼馴染で大親友だって」
緒登からすれば初対面だが、美琴は照にメールで学校生活について書いて送っているようだ。
美琴と同じ答えが返ってきて、光は思わず吹き出してしまう。
「それに橘さん、去年も今年もミス・伊邪那美杯に出られてたからクラスの出し物参加出来なかったでしょ? 私は調理担当だったの。修学旅行も万一の事があったら他人に迷惑かけちゃうから、班ではなくて先生と行動してたし」
入退院を繰り返す照は、保健室登校も多い。また、学校行事には参加しているものの、裏方が大半だった。
「へぇ、料理やるんだ?」
「お父さんの影響かな? お父さんも料理好きなの。それに本を読んでるとね、いろんな料理が出てきて、そういったのを作るのも楽しくて。家族も喜んでくれるし」
本棚に並んだ料理の本を見ながら光が聞くと、照は胸の前に手を合わせて嬉しそうに応える。
天岩戸病院は私立の総合病院で、一般的な病院よりも患者用の娯楽施設が充実している。照のように院内を自由に歩き回れる患者の為に、厨房もある。照はお見舞いに来る家族に手料理を振る舞っているという。
「さっきはどんなゲームをやっていたんだ?」
「オンライン対戦の出来る格ゲーよ。大和君もやってみる?」
「うし、剣道部の腕を見せてやるぜ」
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「くそ〜、本当の試合なら簡単には負けないんだけどな」
「ふふふ、大和君、攻撃がワンパターンなんだもの」
あっさりボロ負けする武。
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「あぅ、負けた‥‥照‥‥手加減してー」
「手加減したら面白くないでしょ? それに手加減して相手に勝っても楽しくないよ」
「それはそうだけど‥‥何か悔しい」
武と交代したのはいいが、勝つどころか照から1ラウンドも取れない光。
「照さんに勝つのは容易ではないですよ。ゲーマーの間では、“秒殺の鈴鹿”の名前で恐れられていますから」
「そういうミコちゃんだって、“ひょっとこひよこ”でアクセスすれば、ひっきりなしに対戦を申し込まれるじゃない」
照のハンドルネームは“鈴鹿御前”、美琴のハンドルネームは“ひょっとこひよこ”といい、オンライン対戦が出来る格闘ゲーム界では、レジェンド級の腕前の持ち主として畏れられているという。
「あ、あたしの知らない世界だ‥‥」
親友の知られざる一面を垣間見た緒登は、言葉が出なかった。
●男子禁制! パジャマパーティーミ☆
「ミコちゃんの友達なら、あたしにとっても友達だよね。改めてよろしくね、照ちゃん」
「こちらの方こそよろしく」
気を取り直して握手を求める緒登。照も微笑みながら握り返してきた。
「しかし、ゲームをやっていたらもう面会時間が終わりか‥‥もっと話したかったんだけどな」
「(‥‥む)じゃぁ、武君だけ泊まっていったらどう?」
「ちょ!? 緒登さん、どうしてそうなる訳!?」
照の病室に来てからというもの、彼女の世話ばかり焼く武。照は重病人だから当たり前なのだが、美琴が照の事を隠していた時と似ているようでちょっと違う、心の中にすっきりしないモヤモヤしたものが緒登の胸の内に芽生えていた。
美琴の時以上につい冷たく突き放してしまう緒登。彼女のそんな台詞に武も驚きを隠せない。
「でも、緒登さんの意見は魅力的ですね」
「大和さんが分別のある男子だと思ってはいるが、年頃の女の子と一緒に男の子が泊まるのは大人として容認できないな。だが、女の子だけが泊まるのなら許可しよう」
緒登の言葉から、美琴は『パジャマパーティー』を思い浮かべていた。すると、病室の入り口から白衣を着た医師が顔を覗かせる。
白い髪は診察の邪魔にならないよう、1本に束ねてまとめている。何かと移動が多いので、服はすっきりとしたパンツスーツを着用し、その上から白衣を羽織り、聴診器を首に掛けている。
男装の麗人で、一見しただけでは性別が分かりづらいが、そのアルトヴォイスからも分かるように月讀は女性である。
月讀は、入院患者と一緒に宿泊できるホテルが併設されており、そこに泊まったらどうか、と緒登達に勧めた。医師の許可と面倒な手続きが必要なのだが、全て月讀が済ませくれる。
美琴と緒登は泊まる事にした。光は門限が厳しく、残念ながら泊まれない。
一度解散し、各自がお泊まり道具を取りに帰り、親に報告してからまた輝の病室に集まる事となった。
武は光を途中まで、緒登と美琴を家まで送った後、いつものように七福神が祀られている神社へ向かった。
『あたしでよければ保護者代わりに行ってもいいよ?』
「本当ですか、お願いします」
神社の娘、弁天――実際には弁財天が顕現した姿だが――に照の事を告げると、彼女は快諾した。
もっとも、光に顕現し、一部始終を見ていたのだが。
「照、今日は調子良さそうだな」
武達と入れ違いで、忍が病室を訪れる。スクールカウンセラーの仕事は増加傾向にあり、面会終了時間ギリギリにやってくるのが日常茶飯事となっていた。それでも1日も欠かさず娘の元を訪れている。
「今日、大和君とミコちゃんがお見舞いに来てくれたの。それで、今まで話した事無かったんだけど、橘緒登さんと光さんとお友達になったのよ」
「ああ、橘さんですか‥‥」
緒登の学校のアイドル振りはもちろん、忍も知っており、苦笑を浮かべるものの、内心では武達に感謝していた。照がこんな元気に話す姿を見るのは久し振りだからだ。
「それに、今日はこれから山都さんと橘さんが泊まりに来るんだよな?」
月讀が必要な書類を揃えて持ってくると、忍は頭を下げた。
「これ、今日の夕食よ」
「ありがとう。照は着実に腕を上げているから毎日が楽しみだよ」
月讀と一緒に病室を出ようとする忍に、照が冷蔵庫から昼間の内に厨房を借りて作っておいた料理を取り出した。
「照はいい友達を持ったな。あんなに明るい彼女を見るのは私も久し振りだ。やはり大和さんに頼んで正解だったな」
「‥‥照が手術を受けたいなら、何時でも同意書にサインしますので」
「分かった。だが、照に比べて君の方が顔色が良くない。気持ちは分かるが、無理はするな」
照に聞こえないように話す2人。忍は月讀に全幅の信頼を置いている。
表には出してはいないが、彼は照の病院に掛かる費用や手術費用を稼ぐ為に無理をしており、医者である月讀はそれを見抜いている。照を妹のように可愛がる月讀のお陰で、負担は減っているものの、ちゃんとした治療を受けさせるにはそれなりの維持費が掛かる。無理をするな、と言う方が無理なのだが‥‥。
「あれ? 弁天さん!」
『やっほ、武の代打で来たのよ。やっぱり大人がいた方が安心だからって』
「ふふふ、大和君らしいですね」
美琴と緒登が病院に戻ってくると、ロビーに見慣れた人影があった。弁天だ。
弁天を伴って美琴と緒登は、照の病室へ。彼女も準備を済ませており、月讀の案内で宿泊施設へと向かう。
ちょっとした高級ホテルのような作りの部屋だった。そこで照の手料理で遅い夕食を済ませ、その後はゲーム大会。一頻り遊んだ後はお風呂に入って身体を洗いっこし、湯冷めしないうちにベッドの中へ。
「元気になって学校に来たら、みんなといろんな学校行事を楽しむ事が出来るのに‥‥」
緒登がそう切り出した。
「学校帰りに寄り道して、いろんな所に遊びに行けるのに‥‥休みの日にみんなで遊びに行けるのに‥‥」
少しでも元気になって、楽しむ姿を想像できるように話を進めていく緒登に、照は何も言い返せない。
「ね、照。ちょっときつい事言っちゃうけど」
弁天はそう前置きをする。
「照の家族は手術に賛成なんだよね? お金とか成功率とかは知ってて。それでも照が受けないのはきっと逃げてるんじゃないかな? 失敗が怖くて。でも、逃げてたら何にもならないよ? 照の事応援して元気になる事期待してくれてる人達の事裏切っちゃう事になるんだよ? それでもいいのかな? ちょっと考えてほしいな。ね?」
「‥‥」
弁天の言葉にも返答しない。
「言いたいのはそれだけだから。じゃ、お休み」
●決断、そして‥‥
「俺もさ、転校ばかりでなかなか友達作れなくて作るのも下手で。でも高天原高校に来てからは、ここにいるみんなと友達になれた。色々やったよ、修学旅行に海に学園祭、みんなに出会えたからこそ楽しめたと思う。それで、これからも天さんも一緒にもっと色々やれるんだって思うんだ。手術怖いよな、成功率50%、言い換えれば半分は失敗するって事だよな。でも足りない分は俺達で補えないかな。足りない勇気・気持ちを少しでも支えられないかな。あの葉の代わりに」
パジャマパーティーの翌日、武は1人で病室を訪れていた。
武が指す出窓から見える広葉樹は、既に大半が散っていた。
「ミコちゃん以外の友達作るつもりなかったの‥‥死んだら寂しいじゃない」
「そんな事‥‥そんな事言うなよ!」
照の言葉に武はすっくと立ち上がり、彼女の手を握る。
「約束、元気になったら一緒に天さんの好きな事しよう! みんなで遊ぶのは決まってるから、それ以外でさ」
「う、うん‥‥分かった‥‥私、手術、受けるわ」
照には、同じ病気で入院した友人が中学時、手術を受けて死亡した事と、手術に多額の費用が掛かり献身的に看護してくれた忍に多大な苦労を掛けるのが心苦しく受けたくない、という理由があった。
だが、費用以上に病気であり続ける事の方が忍にとって苦労を掛ける事であり、失敗を恐れたら先に進めない、と弁天と武が背中を押す。
美琴や緒登にも励まされ、照は遂に手術を受ける決意を固めるのだった。
「‥‥これからも、よろしく‥‥ね」
そして1ヶ月後、忍に付き添われて教室へ登校する照の姿があった。
照の手術を執刀したのは月讀だ。術後の経過もすこぶる良く、登校許可を出したのも彼女だった。
まだしばらくは病院から通う事になるが、今の照を見ていれば、それも直になくなるだろう。
今日も病院から登校してゆく照の後ろ姿を見ながら、月讀は早くその日が来てくれる事を切に願うのだった。
♪〜
諦めることは 容易いけれど
負けないで 君は一人じゃないから
目には見えなくても 君を想う人
きっといる 君は一人じゃないよ
だから諦めないで
前を向いて歩いて
きっと輝く明日が見えてくるよ
〜♪
●CAST
天・照:美森翡翠(fa1521)
山都・美琴:結城 紗那(fa1357)
大和・武:月影 飛翔(fa3938)
月讀:橘・朔耶(fa0467)
天・忍:ヴォルフェ(fa0612)
橘・緒登:咲夜(fa2997)
弁財天・光(二役)/エンディングテーマ:フィアリス・クリスト(fa1526)