学園祭・オン・ステージアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
5Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
17.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
10/09〜10/11
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●本文
ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。
彩音自身「綺麗なものが全て」と豪語しているが、それは外見だけに限った事ではない。綺麗な音楽、綺麗な歌声、ロックグループであれば綺麗なチームワーク、というように、全てにおいて綺麗さを求めており、それに伴う努力も見ている。
才能やセンスの上に胡座をかき、それを磨かないアーティストや見掛けだけのビジュアル系は、ヴァニシングプロには所属していない。ヴァニシングプロのプロデュースは、日本のロック界では若手の登竜門とされている。それだけ実力がある事をヴァニシングプロが保証するからだ。
●10月のヴァニシングプロ
「ん‥‥?」
昨日、夜遅くまで路上ライブを見に行っていた緒方彩音が、ヴァニシングプロの自社ビルに姿を現したのは日が傾き始めた頃だった。
ヴァニシングプロではフレックスタイム制を導入しており、社員は好きな時に出勤し、働いている。特にアーティストのマネージャーは、アーティストのスケジュールで動く事が多いので、フレックスタイム制は必要だろう。
もっとも、実質、ヴァニシングプロを取り仕切っている副社長のエレクトロンボルトを始め、事務系の社員は取引や打ち合わせ等があるので、結果的に普通の会社員の平均的な出勤時間帯に出勤しているが。
彩音が自社ビルの姿を認めると、入口の歩道の前にセーラー服を着た数人の少女達の一団が居た。ひそひそと話し合い、ビルの中へ入ろうとしたり引き返したりしている。
(「持ち込み‥‥の類ではないな」)
少女達を見て、彩音は即座に判断する。ロックアーティストの中にはアポなしでマスターテープを持ち込む者も少なくない。
しかし、少女達からはそういったロックアーティストの『オーラ』が感じられなかった。日夜、各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、新人発掘に精を出している彩音は、そういった『オーラ』を感じ取る術に長けているといえよう。
では、持ち込みでなければ、ヴァニシングプロに中の用なのか?
よくあるのは「アーティストに会いたい」や「アーティストへのプレゼント」といったファンの要望だ。この手の類はありがたいが、そうそう叶えられるものではないので、無下には断らないが大抵は受付で終わる。
(「だが‥‥そういった雰囲気でもないそうだな」)
少女達に興味を覚えた彩音は、彼女達とは反対に躊躇う事無く声を掛けた。
「ヴァニプロに何か用かい?」
「「「わきゃ!?」」」
突然、声を掛けられ、素っ頓狂な悲鳴を上げる少女達。悪い事をしようとしていて、咎められた時の反応に似ている。
「すすす、すみません!」
「いや、何も悪い事をしていないなら謝る事はない。私はただ、ヴァニプロに用があるのかと思ってね」
ツインテールの少女が深々と頭を下げて謝ってくる。その反応に流石に彩音も悪い事をしてしまったと微苦笑し、仕切り直してここにいる理由を聞いた。
「お姉さんはヴァニシングプロの関係者の方ですか?」
「関係者といえば関係者になるな。協力できるかも知れないから、用があるなら話してごらん」
関係者も関係者、社長なのだが、このセミロングの少女は知らないようだ。彩音はメディアへの露出は少ないので無理もないが。
「実は、私達の高校で開催する学園祭のステージに、有名なアーティストの方をお招きしたいと思いまして‥‥」
ロングストレートの少女が事情を掻い摘んで説明した。
少女達は学園祭実行役員だというが、少女達の通う高校の学園祭は女子校という事もあって平日に開催される為か、今まであまり派手ではなかった事を受けて、今年はステージの出し物として著名なアーティストに来てもらいたいという提案が挙がり、思い切ってヴァニシングプロへ直接お願いに来たところだという。
しかし、いざ、自社ビルを前にするとなかなか踏ん切りが付かず、そこへ彩音が声を掛けた、という寸法だ。
「アポは?」
「‥‥ありません」
「予算は?」
「‥‥できれば安く」
(「普通なら断られるだろう‥‥だが、その心意気と行動力が気に入った」)
少女達の話を聞く限り、好条件とはいえないが、『聴衆を引き付ける事』はロックアーティストには欠かせないものだ。それに、路上ライブと違い、聴衆は必ずしもロックを聴きに来ている訳ではない。このステージでそれを養う事はできるだろう。経験は何物にも代え難い財産といえる。
「ロックアーティストの中には、ドラムやピアノといった大型の楽器を使う者もいる。それらの搬入をキミ達が行い、招待したロックアーティストの手を煩わせない。それと、女子校だというが、男性のロックアーティストも問題なく入れるよう手筈を整える。それが引き受ける条件だ」
「それは構いませんが‥‥お姉さんは一体‥‥?」
彩音が条件を出して引き受けると、ツインテールとセミロングの少女は手に手を取り合って喜ぶが、ロングストレートの少女は逆に怪訝そうな表情を浮かべた。
自己紹介をしていないのだから無理もない。彩音は3人に名刺を渡した。
「私がヴァニシングプロの社長緒方彩音だ。詳しい話を詰めようじゃないか」
名刺に書かれた名前と彩音を交互に見て驚いている3人の背中を押し、自社ビルへと消えてゆく彩音。こんな楽しい事が舞い込んでくるのだ。遅い出勤も悪くない。
※※成長傾向※※
容姿・発声・音楽・楽器・演出
●リプレイ本文
●制服
「女子高か‥‥何もかも皆懐かしい、てか」
「あら? 思い出に浸る程の歳ではないでしょうに」
ラシア・エルミナール(fa1376)が楽屋として宛われた教室から校庭を見下ろして呟くと、最年長のマリーカ・フォルケン(fa2457)がころころと笑う。
「学園祭って独特の雰囲気で凄く気分がウキウキしちゃうのよね♪」
「お外で食べる焼きそばにフライドポテト、喫茶店のケーキ巡りとか楽しいんですよね♪ 神楽の学校の文化祭ももうすぐなんだよ」
「高校の学園祭は、食べ物系の出店OKのところも多いんだよね」
「しかし少年、世の中そんなに甘くはないのだよ。出店の料理の味は、作る人の腕に掛かっている‥‥つまり、今日日の料理の出来ない女子高生の屋台の料理は、想像を絶するのだよ!!」
「な、なんだってー!?」
千音鈴(fa3887)と月見里 神楽(fa2122)が文化祭の楽しさを語ると、まだ文化祭や学園祭とは無縁な倉瀬 凛(fa5331)が羨ましがる。すると阿野次 のもじ(fa3092)が彼の肩に手を置き、伏し目がちに話し始めた。背中が煤けて見えるのは気のせいだろうか。
「ステージが始まる時間までまだ余裕があるようだし、今日日の女子高生の料理の腕とやらを、ぐるっと見て回りたいね」
「ふっふっふっ、こんな事もあろうかと、ここの学校の制服を用意してもらっちゃいました」
ラシアは昔の制服とベレー被、伊達眼鏡を持参していたが、神楽が「じゃーん☆」とこの高校の制服を取り出す。学園祭実行委員の1人、ロングストレートの少女に掛け合い、制服を借りようとしたところ、秋物のカーディガンのセットで3着程もらってしまっていた。
神楽は黒のカラーコンタクトを入れて伊達眼鏡を掛け、お団子頭にする。ラシアも同じく伊達眼鏡を掛け、ベレー帽を被って癖っ毛を隠す。のもじは伊達眼鏡にカチューシャという出で立ちだ。
マリーカと千音鈴、凛は楽屋に残ると応えた。平日の女子校での学園祭なので外部からの一般客は多くなく、マリーカや凛は目立ってしまうからだ。
神楽は楽屋で待機している学園祭実行委員の1人、ツインテールの女の子を誘って学園祭へ繰り出した。
「シャチョさん、こんなところで若い子物色(スカウト)ちゃ駄目だよ」
緒方・彩音(fz1033)は女子生徒に囲まれていた。豊満な身体を惜しげもなく晒す露出の高めの服装をした女傑は、今日日の女子高生に綺麗な映るようだ。
一方、のもじはクレープを片手に、この女子校の生徒の一群に混じって歓談しながら彩音の側を通り過ぎるところだった。極自然なのもじの姿に、彩音が名前を呼ぼうとすると、人差し指を口を当てて内緒のポーズを取った。学園祭の中に紛れ込んで雰囲気や話の話題を掴んでいるようだ。
(「阿野次クンは確か、はた‥‥いや、楽しんでいるようだし、歳の話は無粋だな」)
のもじが楽しんでいるのなら、実年齢は些細な問題かも知れない。
途中で学園祭実行委員の1人、セミロングの少女も加わり、神楽とラシアはお勧めの喫茶に来た。
先程のもじが凛を散々脅していたが、ケーキ作りや紅茶が趣味の女子生徒も少なくなく、神楽はケーキを一口口に含むと頬を抑えてほわわんと至福の笑みを浮かべ、ラシアも芳ばしい紅茶の香りを楽しんだ。
ここのケーキと紅茶のセットをテイクアウトし、お留守番をしているマリーカや凛へ差し入れたのだった。
●講堂のステージ
講堂には、クラスやクラブの出し物のない女子生徒が集まっていた。
「YEAH! 盛り上がってるかーい。やって参りました、記念すべき初のロックコンサート。司会を務めます、ANOTUGI☆NOMOZIです。みんなヨロシクねー☆」
観客席から1人の女子生徒が颯爽とステージ上へ躍り出る。この女子校のいち生徒と違和感のないのもじは、最初からハイテンション。
「ハイ! そこ! 生徒押しのけて前段で被りついていない! 2Bの先生! お目当てはすぐに出るから落ち着いて」
よく見れば最前列に若い男性教諭の姿が。会場がドッと沸く。観客弄りで掴みはOK。
「それじゃまず1曲目は、StagioneらのCOOLに活かしたナンバー。ポイントは伴奏なし、手拍子のリズムのみのアカペラロック、みんなで一緒に音楽を作っていこう!」
のもじがステージの袖を指し示すと、『Stagione』の椿(fa2495)とがお太郎を胸に抱いた冬織(fa2993)が姿を現す。
途端に耳をつんざく歓声が講堂に轟く。椿も冬織も、余程芸能界に疎くなければ知らない者はいない。
「コンニチハー!! 『Stagione』のいちおーリーダーの椿と、裏番長の冬織ちゃんデス! でも冬織ちゃんの本体はがお太郎なんダ‥‥はっ!? 今のカットでお願いしマス!」
冬織から殺意の波動を感じ、慌てて取り繕うも、ステージだから無理な訳で。
「え、えーと気を取り直して。ミンナ学園祭楽しんでマスカ? 良いヨネ! 屋台とか屋台とか喫茶店とか屋台とか!」
「全部食べ物じゃな」
「美味しいモノを食べた後ハ、軽く運動しないとネ! はい、ミンナ両手上に挙げて万歳! そしたラ、そのまま手を合わせて『パン』、次は『パン・パパン』‥‥はい、そのまま手拍子続けてネ♪ それじゃ行くヨ。『みんなアイのせい』‥‥One、Two、Three、GO!」
♪
『We still don’t know where we are going
Look like lost children
But you can go anywhere
Because ――』
☆街に溢れる迷える子羊
笑い暮らすも一生 泣いて暮らすも一生なら
Positiveに全て笑い飛ばし
汝の隣人に愛を
『きっと心はHallelujah!』
★So it’s 愛
★街にたむろう迷える狼
何もしないで後悔 行動起こすも後悔なら
Negativeは一掃悩まず動け
『汝の右頬打たれたら
左も差し出し腫れろや!』
☆So it’s 哀?
「愛(かな)しい想い 哀しい想い
世界はアイに溢れてる」
☆どちらが欠けても人は未完成
★この存在が『I(アイ)だから』
★街を彷徨う迷い子達よ
見えぬ明日を恐れるな 汝は何処へでも行ける
☆世界はアイに溢れてる
「So because みんなアイのせい」
『きっと明日も晴れるや!』
(☆椿 ★冬織 『 』ハモリ 「 」ユニゾン)
♪
椿が女性の心理を巧みに衝いたMCで上手くみんなをリズムに誘い、ノせて行き、『みんなアイのせい』を唄い始める。
手拍子伴奏なので、リズムはミドルテンポで単調に。
歌詞に合わせ、時折コミカルな動きを入れながら、歌声で心情の切替や場面のメリハリを付けていった。
「はい、ありがとうございましたー。続いてのナンバーは、って、あれ!?」
椿と冬織が舞台袖へ消え、のもじが再び登場すると、突然、ステージ上のライトが一斉に消えた。
「そんな‥‥母さん‥‥どうして‥‥私、どうしてこんな事を‥‥」
スポットライトが付き、Try―Once―Moreを抱き締め、その場に泣き崩れる、チュニック+ジーンズ姿で髪を纏め短く見えるようにした千音鈴の姿を浮かび上がらせる。
「鈴、可愛い鈴、お前が娘である事を、私は誇りに思っているよ」
「母さん! 生きてたのね! ‥‥あー良かった♪」
もう1つのスポットライトが灯ると、彩音の姿を照らし出し、千音鈴と彩音はひしと抱き合う。
「以上、『ヴァニプロ殺人事件』のもう一つの結末でしたー」
「『ヴァニプロ殺人事件』は撮っていて楽しかったけど、唯一辛かったのは楽器が凶器だったって事! 私はそんな事しないもの。今回は『Rainbow Chaser』の特別ver.&夢の親子共演でGO!」
のもじが綺麗に纏める。6月に放送したので、観た聴衆も少なからずいるようだ。
千音鈴はTry―Once―Moreを撫でると、そのまま構える。彩音はエレキギターを構え、椿はキーボードへ、神楽はドラムへ着いた。
♪
※胸の奥で育てた 夢のカケラ達
遥か遠い虹目指し 飛び立てる翼になれ
氷る湖歩くような 不安定な未来
『虹を掴む話だね』 大人達は笑うけど
傷だらけになっても いつか強さへ変わる
信じて今走り出す 追いかけなきゃ手は届かない
道に逸れ 涙流し
大切なモノを見失い
光は遠く 立ち竦む度に
背中押してくれた仲間達
Let’s chase the rainbow!
With you!
※Repeat
未来(あす)という虹目指し
飛び立てる翼になる
♪
ドラムカウント後、アカペラから始まる『Rainbow Chaser』は、明るく、力強く、希望を感じさせる、そんなミドルテンポの軽快なポップロックだ。
アカペラのAメロ後に前奏が入る。
椿のキーボードでベース音もカバーし、千音鈴のギターと彩音のエレキギターの異なる響きで軽快さを演出。
英詞は特に元気良く唄い。
ラストは高く伸ばして余韻を残さず締めた。
「親子丼、ご馳走さまー。続いてもおっかさんが頑張るよー。涙無くして語れないナンバー、ハンケチ、用意してね」
「誰がおっかさんです、誰が」
のもじのMCに突っ込みを入れつつ、マリーカが現れた。落ち着いたシャツにスラックス姿、蜂蜜色の髪はゆったりと三つ編みに結っている。
「本日は学園祭にお招きありがとうございます。若い皆さんといるとわたしまで元気をもらえそうです。今日は皆さんの為に新曲は作ってきました。気に入ってもらえると嬉しいですけれど。では聞いて下さい。『take my step』」
♪
どうして、思いのままにならないの?
どうして、こんなに不自由なの?
誰だって、一度は行き当たる壁。
じゃあ、あなたはどうしたいの?
そこで悩んで、立ち止まって何がしたいの?
ねえ、Pretty Girl
そこで何も変わらないと決めつけて、
文句ばかりを吐いて、
まだ、
誰かが変えてくれるなんて、
そんな都合の良い事、
ありはしないと、もう気付いたら。
【現在(いま)】が気に入らないのなら、
俯いて立ち止まっていたら駄目よ。
どんなに高い山だって頂きがあるように、
踏み出せば、そこから何かが始まるから、
その一歩は小さくても、その一歩はあなたを変えるから、
さあ、思い切って踏み出そう、
今日とは違う、明日の為に
♪
ステージ上の照明がゆっくりと消され、マリーカだけをピンスポットで照らす。
愛用のキーボードを持ち、弾き語り風に音を紡ぎながら、高らかに軽快なリズムで元気が出るように歌い上げた。
「最後のナンバーになりました。2Bの先生お待たせ! 『astrology』です!」
頭に白いターバンを巻き、結び目を横にして斜めにし、結び目から布を垂らした凛と神楽、ラシアがステージ上へ現れる。
ターバンの色は白で統一しているが、腰には凛は渋い緑、神楽は赤、ラシアは黒の薄い布を巻いている。
「こんにちは、『astrology』です! この学校の学園祭に来られて嬉しいです! 綺麗な女の人ばかりで、僕もドキドキ〜。‥‥よし、これだけ言っておけば、後で出店に寄ったらおまけしてもらえるだろう。あ、ここ笑うところですよ〜」
凛の1人ボケ&ツッコミに会場からクスクスと笑い声が漏れる。
「それじゃ、準備はOK? メンバーを紹介します! ボーカルはパワフルな歌声で皆を魅了する、ラシア・エルミナール!
ギターとコーラス、ほんわかキュートな音楽家、月見里神楽! 最後にバイオリンは僕、ちびっ子ミュージシャンの倉瀬凛! 曲は『Desert Moon』。歌姫達が紡ぎ出す幻想的な世界、聴いて下さい」
♪
A)white fullmoon
砂漠の空 風に流れて
A’)loneliness night
砂の海 消えた蜃気楼
B)幻求めて歌うよ
S)輝く砂の中でただ一人
例え明けぬ夜の闇だとしても
ステップ踏んで 歌を掲げて
道標(みち)が消えぬよう
A’)Desert in star
照らすBlue Moon 消えぬ幻影
B)現実求めて踊るよ
S)冷たい夜の中でただ一人
例え覚めぬ幻としても
腕を広げて 全て抱き寄せ
夢が消えぬよう
♪
MCを終えた凛が中央寄りの横位置で、一番前に立つと前奏が始まる。
ターバンや腰に巻いた布だけではなく、ラシアのベアトップと幅広のズボンの衣装が表すように、3人はジプシーに扮していた。
風の様に囁くバイオリン。『Desert Moon』は夜の砂漠、月下で踊る踊り子を思わせる、何処かエキゾチックなメロディの、スローテンポなロックバラードだ。
Aメロから歌が始まり、ラシアが布を靡かせながら、ステージの中央まで、凛の隣へ出てくる。
流れる風のような美しい旋律のボーカルに、そっとバイオリンが寄り添う。
A’メロから神楽のギターが加わる。凛の反対側、やや後方でイスに座りながら爪弾き、異国の空気を醸し出す。
ラシアが神楽の元へ。
Bメロは伴奏は弱め、ラシアが語り掛けるように唄いながら、先程の中央へ戻り、凛がやや後ろに下がる事で彼女へと視線を集中させる。
ラシアは歌ってる時も踊りを彷彿させるように動き、サビではステージの外縁に沿って歌いながら動いた。
哀愁の中に希望の光を感じる旋律。ボーカルに添えられたギターとバイオリンが織り成す美しい調和に、コーラスが厚みを加える。
サビ後の間奏では、神楽がギターソロを披露する。異国の地へ想いを馳せるような、そんな旋律だけが講堂に静かに響く。
最後はギターとバイオリンが控えめに優しく響き、フェードアウト。
演奏を終えた神楽とラシア、凛が頭を下げると、会場から深い溜息が漏れた後、拍手が巻き起こる。
「思わず息するのも忘れて聞き入っちゃったよねー。良い音楽はお肌に染み渡って良いそうです。NOMOZIさんのこのつるつるお肌を見れば、その効果は一目瞭然だよね」
会場が笑いの渦に包まれる。
「これにて記念すべき初のロックコンサートはお終い。みんな、楽しめたー?」
割れんばかりの拍手が応えとなった。