Hi-Expressアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 08/31〜09/04

●本文

 西暦2049年、人類は文明の進化の機転となる節目を迎えた。この年、国際連合(以下、国連)は『全世界原油枯渇宣言』を全世界へ発信。この宣言が示すとおり、地球に埋蔵されている原油は枯渇した。
 以降、既に産出され、貯蔵されている全世界の石油は国連が管理する事となり、主に地球と月を行き来し、月の鉱物資源を運ぶシャトルの燃料として使われる事となった。
 石油を失った人類は多少混乱したものの、1世紀前に起こったというオイルショックのような大きな騒ぎには至らなかった。既に石油に代わるバイオプラントが開発されて実用段階に入っていたし、交通機関はガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関から、EV(エレクトリック・ビーグル:Electric Vehicle)やAB(エアーバイク:Air Bike)といった無公害エンジンを搭載した乗り物へ移行しつつあった。
 その為、飛行機や船舶といった石油を大量に消費する乗り物は衰退の一途を辿り、代わりに人々の暮らしには車社会へと発達していった。
 世の中も車社会の発展と共に様変わりしてゆき、日本ではABの免許は12歳より、EVの免許は15歳より修得できるようになった。

 物資の輸送は、かつて貨物列車が担っていたように、大量の物資はLMC(リニアモーターカー:Linear Motor Car)が輸送するが、手紙や書類、或いは人を素早く指定された場所へ送り届けるには、LMCは不向きだ。
 そこで登場したのが、『Hi-Express』と呼ばれる運び屋達だ。彼ら、彼女らは時速400kmで走る特別製のEV“ロードフェンサー”で、時には会議の資料、時には人といった合法・非合法問わないあらゆるものを、『着払い』で送り届ける。
 送り主からすれば、目的地まで無事に届けば誰が届けても構わないので、『Hi-Express』の間での届け物の奪い合いは日常茶飯事だ。
 多くの『Hi-Express』達は、ギルドやグループといった組合や集団に所属し、万一、荷物を他の『Hi-Express』に奪われてしまった時は、ギルドやグループのメンバーが取り返す等、安全を確保している。

 そして現代、西暦2098年に至る。
 正吾とガリアスは、ロードフェンサー“ブレイカー�T”を駆る『Hi-Express』達だ。
 ロードフェンサーは基本的にプロトタイプレーシングカーの形状をしており、常温超伝導モーターにより最高時速400kmまで出す事が出来る。加えて、“ブレイカー�T”には『オーバーブースト』と呼ばれる、エンジン出力を上げるブースト機構を搭載しており、一定時間内なら時速500kmまで達するが、エンジンブローの危険性もある為、短時間しか使用できない。
 とはいえ、法的最高速度は一般道は時速100km、高速道路でも時速250kmまでなので、最高時速を出す事は多くない。他の『Hi-Express』達、特に届け物を奪う事を専門に活動している『バンデッド』達を振り切るくらいだろう。
 だが、『バンデッド』達はマシンガンといった武装をしている事が多い。“ブレイカー�T”には切り札として、高機動ロボット形態へ変形する事が可能だ。足のローラーダッシュを用いたパンチやキックといった格闘がメインだが、肩にはホーミングマイクロミサイルを搭載している。

 朝いちの会議に間に合うよう、書類を無事に届けた正吾とガリアスは“ブレイカー�T”を走らせていた。正吾がハンドルを握り、ガリアスがコンピュータを駆使して最短ルート選択といったナビゲーターを務める。
「お、可愛い娘発見♪」
「発見、じゃないだろ。手を上げて俺達を停めたんだから、仕事だろう?」
 車窓から町の様子(正確には道行く女の子)を眺めていたガリアスは、ブロンドヘアの美少女を見付け、ご機嫌そうに口笛を吹く。しかし、その美少女は正吾達へ手を上げていた。ロードフェンサーはプロトタイプレーシングカーのスタイルをしているので、タクシーと間違えて停める事はない。運びの仕事の依頼だ。
「‥‥大阪府庁までお願いします」
 ガルウイングドアを開け、ガリアスが気障なポーズで出迎える。
 美少女はか細い声で目的地を告げると、彼のエスコートで“ブレイカー�T”の後部座席へ座る。
「名前は?」
「‥‥やすら」
 “ブレイカー�T”を発車させながら正吾が名前を聞く。
『その娘、大変よ』
「お、トリエラ、今日も可愛いぜ」
 その時、正吾とガリアスの前にある小型ディスプレイに、少女の姿が映し出される。彼らが所属するチームのオペレーター、トリエラだ。
『はいはい、ありがとう』
「何がどう大変なんだ?」
『そう、その娘、遺産相続問題に悩まされてるみたいなの。大阪に行って遺産を受け取らない司法手続きを取るみたいだけど‥‥』
「なるほど、その手続きが気が気でない無粋な奴がいるって事ね」
 正吾が冷静に聞くと、トリエラは身元を照合した結果を告げ、納得するガリアス。
 身元の照合は合法とは言い切れないが、ドライバーやナビゲーターの安全を守る為でもある。
「やすらちゃん、俺達に任せておきな。無事に大阪に届けてやるからな」
「ああ」
 ガリアスの言葉に正吾も力強くアクセルを踏むと、高速道路へと入ってゆくのだった。


■主要登場人物紹介■
・正吾:17歳、男性。EV歴2年のドライバー。相棒ガリアスの突っ込み役だが、心の中で密かに熱血するタイプ。ロードハッカーに妹を殺されており、ロードハッカー達を憎んでいる。
・ガリアス:25歳、男性。EV歴8年のオペレーター。女好きで、それが祟ってトラブルに巻き込まれる事もしばしば。以前は恋人と『Hi-Express』を営んでいたが、自分の運転ミスで恋人を死なせてしまって以降、ハンドルを握れなくなってしまった。
・トリエラ:18歳、女性。“ブレイカー�T”を所有する『Hi-Express』チームのオペレーター。ちょっと気が強いが、気配りの利く少女。コンピューターに強く、ハッキングして顧客の素性を洗ったりする。
・やすら:15歳、女性。普通の女子中学生だったが、ある日突然、祖父の残した膨大な遺産の受取人となってしまい、身の危険に曝される。祖父が手続きを取った大阪で手続きすれば、遺産相続を拒否できるが‥‥。


■補足■
 OPテーマはヴァニシングプロが手掛ける。第1話ではOPテーマはなく、その曲制作の為、緒方彩音がアフレコ現場の見学に来ている。


■技術傾向■
 発声・芝居

●今回の参加者

 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa0921 笹木 詠子(29歳・♀・パンダ)
 fa2640 角倉・雨神名(15歳・♀・一角獣)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa4339 ジュディス・アドゥーベ(16歳・♀・牛)
 fa4614 各務聖(15歳・♀・鷹)
 fa5111 相澤瞳(20歳・♀・虎)

●リプレイ本文


●妹の面影
「池袋から大阪までのルートか‥‥まぁ、普通だったら東名、名神ルートかな?」
 ガリアスは助手席に備え付けられたコンピューターで、池袋から大阪府庁前までのルート検索を始める。
 EV(エレクトリック・ビーグル:Electric Vehicle)やAB(エアーバイク:Air Bike)にはカーナビゲーションシステムが標準搭載されているが、『Hi―Express』のナビゲーター達はコンピューターを愛用する。従来のカーナビの機能に加え、所属しているギルドやグループから“バンデッド”の情報を提供してもらったり、政府のデータベースへ(非合法的に)アクセスして依頼主の素性を調べたりといった、『Hi―Express』の仕事を安全且つ確実にこなす上で必要な情報を得る為だ。
「池袋からだと、中央道経由っていうルートもあるな。こちらは起伏が激しい上にカーブも多いが、東名より交通量が少ないから時間的には変わらない。とはいえ、バンデッドの事を考えると、中央道でやり合うのはやすらちゃんの気分を害す事になりかねない。基本は東名から名神ルートに しよう。事故や渋滞等があった場合は、臨機応変で最速のルートを使う方向で問題ないな?」
「‥‥了解だ」
 ガリアスがキーボードを叩くと正吾の目の前のフロントガラスの一角に、首都高から東名→名神ルートの概略図が、運転に支障のない色彩で表示された。


『では、料金はこちらでよろしいですね?』
「‥‥はい、よろしくお願いします」
 その間、後部座席では、運転席の背面に取り付けられたディスプレイを介して、トリエラとやすらが料金の交渉を行っていた。
 料金は着払い制なので、事前に概算を伝え、+必要経費を到着時に計上する事を納得してもらった上で利用してもらう。『Hi―Express』達の料金は普通のタクシーの数倍から数十倍もするからだ。
 しかし、やすらは緊張した面持ちで頭を下げ、トリエラとは視線を合わさずに、彼女の言い値で即答した。
 トリエラは彼女に気付かれないよう溜息を付く。やすらの身元は照会しているから、彼女が料金を払える事は分かっている。しかし、両親は彼女が中学へ入学すると同時に事故で他界し、その後、心優しい親戚夫婦に引き取られ、幸せに暮らしていたが、祖父の遺産の受取人になった途端、周囲の人間の態度が一変して戸惑っているのだろう。
 ルームミラーにちらちらと視線を走らせ、やすらとトリエラの遣り取りを垣間見る正吾。
「気になるのか?」
「‥‥ん、あいつが生きていれば、あの娘くらいの歳になれたかな、と思ってな」
 ガリアスも正吾もお互いの身の上は知っている。正吾は妹を、ガリアスは恋人を、それぞれバンデッドの中でも“ロッドハッカー”と呼ばれる手段を選ばない悪の組織の関与で殺されていた。
 正吾の妹は2歳違いだというから、彼はやすらに妹の面影を重ね合わせているのだろう。
『‥‥いい事? この業界、確かにお金も大事だけど、何よりも一番大事なのは、請けた依頼は必ず成功させるって実績と信頼なんですからね‥‥もし下手打とうもんなら、経費全て自腹で払ってもらいますからね!?』
「トリエラ、怒った顔も可愛いぜ♪」
 やすらを映していたディスプレイに、突然トリエラの怒り顔がアップで映し出される。彼女は蜂蜜色の髪をアップに纏め、キツい印象を与える眼鏡を掛けている。ガリアスは眼鏡が伊達である事を知っている。美人ではあるが依頼主に嘗められないよう、やり手に見せているのだ。
「‥‥もうすぐ海老名だな。一気に大阪まで行きたいから、ここで休憩を兼ねて充電するぜ」
「あ、はい、そうですね‥‥」
「やすらちゃん、何か飲む? そうそう、ここのメロンパンとカツサンドとアイス、凄く美味しいんだぜ!」
「‥‥やすらの分は俺が奢るが、ガリアス、お前は自分で買え」
「では俺は間を取って食べ物を奢るとしよう」
『全然間取ってないじゃない!』
「‥‥うふふ、皆さん、仲が良いのですね」
 高速で流れる車窓の風景を、落ち着かない様子で不安そうに眺めていたやすらは、正吾に聞かれても曖昧な返事を返すだけだ。
 ガリアスと正吾、そしてディスプレイを繋ぎっぱなしのトリエラの遣り取りを見て、やすらは緊張が解れ、ほっと安心したような、ブレイカーIに乗って初めての笑顔を見せた。
「やすらちゃん、やっぱり笑うと可愛いぜ」
「‥‥先程の会話、聞いていましたよ。ガリアスさん、女性にそんな事ばかり言っているようですね」
「‥‥一本取られたな」
 先程のガリアスとトリエラの遣り取りは、ばっちりやすらにも聞こえていたようだ。彼女に突っ込まれ、正吾が肩を竦めると、ガリアスはやれやれとばつが悪そうに髪を掻いた。


 ブレイカーIを電気スタンドへ預けると、正吾が飲み物を、ガリアスが食べ物を買い、休憩所の席に着いた。
「祖父が亡くなってから、周囲が変わってしまって‥‥おじ様達には迷惑を掛けたくなくて、1人で手続きをしに行こうって決めたんです。私はただ、普通に暮らしていたいだけなのに‥‥」
 遺産の事をぽつぽつと話し始めるやすら。命の危険もある為、積荷の情報は既にトリエラから聞いているが、話をする事でやすらの気分が落ち着くなら、と正吾もガリアスも聞き役に徹っしている。
「‥‥確かに人それぞれ色々あるけど。やらないで後悔するより、やって後悔する方がいいんじゃねぇ? 金なんて頑張りゃ自力でいくらでも稼げるしな」
「‥‥そう‥‥ですね」
「‥‥まぁ、人にアドバイス出来る程、俺もいいもんじゃないけど」
「そんな‥‥そんな事ないですよ!」
 正吾の素っ気ない言葉はしかし、やすらに『新しい目標』を考えさせるには十分だった。


●ハルピュイア
 ブレイカーIは海老名SAを出ると、東名より名古屋瀬戸道路を経て東名自動車道へと入る。
『やすらさん、勝手に調べた事は謝ります。どうやらやすらさんの『親類』を名乗る方から、やすらさんを大阪へ連れて行かず、連れ戻すという依頼が“ハルピュイア”に出されたようよ』
 ガリアスと正吾は、海老名SAより1台のロードフェンサーに付かず離れずの距離で付けられている事を察知していた。
 トリエラがやすらの身辺調査を行った過程で判明した情報と警戒を、謝罪と共に伝える。
「‥‥“ハルピュイア”?」
「正吾は聞いた事無いか? 美女と美少女のみで構成されている異色のバンデッド集団だぜ。所属するには、ドライビングテクニックやナビゲーションの腕以上に、美女や美少女ってのが絶対条件だって専らの噂だ」
『おとなしく〜、あなた達が運んでいる女の子を〜、渡して下さい〜』
『あたしらに目を付けられたのが運の尽きだね。お客さんは渡してもらうよ!』
「そんな‥‥あんな女の子達が!? 私と同じくらいの歳なのに‥‥」
 ハルピュイアを知らない正吾に、ガリアスが喜々としながら説明する。
 すると助手席のフロントガラスに、フリフリの甘ロリ系ドレスに身を包んだその少女メイと、ちょっと日焼けした肌に露出の多い服を着ているワイルド系の女性ミナの姿が映し出される。
 ロードフェンサー“ケライノーI”のナビゲーターのメイが、ブレイカーIの通信システムへ強制介入してきた。
 メイもミナも外見は15、6歳くらいの少女だ。EVの免許が取れる歳とはいえ、その歳でバンデッドに身を窶している事に、やすらが驚くのも無理はない。
 メイは間延びした声で降伏勧告しつつ、降伏しないと踏み、ケイラノーIに搭載されたマシンガンで威嚇射撃を行う。ところが威嚇射撃どころか、下手な鉄砲よろしく、ブレイカーIのリアウイングに直撃したではないか!
『はわわぁ〜!? 当たってしまいましたぁ〜』
「‥‥誰が降伏を勧告しながらマシンガンをぶっ放すような犯罪者の言う事なんて聞くか。やすら、シートベルトをきっちり締めてくれ」
 何故か当てたメイの方が大慌てする始末。
 やすらが4点式シートベルトを付けたのを確認すると、正吾は『オーバーブースト』を作動させ、時速500kmで一気にケライノーIを突き放す。
『お兄ちゃん達も大した事ないね‥‥うちの雛(ヒナ)の方が断然上手いよ!』
「‥‥何!?」
 助手席のフロントガラスに、メイとミナではない、別の可愛らしい少女の姿が映し出される。
『傷はつけとうないやけど、逃がさへんえ?』
(『雛ちゃん、実はトライブテクニックが天才的だったり? ふふ』)
 いつの間にかブレイカーIの隣に、ケライノーIとは別のロードフェンサーが併走しており、雛と呼ばれたドライバーの美少女が微笑むと、助手席に座る羽衣(うい)がブレイカーIへ向けてマシンガンを撃ち始める!
 時速500kmを出していては、細かなハンドル操作は不可能だ。正吾はオーバーブーストを切り、前に後ろに右に左にと道路を上手く使って直撃は避けるものの、速度を落とさなければならず、ルームミラーにケイラノーIの姿が映り始めた。
 雛と羽衣の駆るロードフェンサー“オキュペテーI”は、中央道でやすらの姿を探していたが、メイから連絡を受け、小牧JCTでミナ達と合流した。数的優位を作ったので、メイが仕掛けてきたのだ。


 ミナですら追いつけなかったブレイカーIに、何故、オキュペテーIが追いつけたのか?
『いたけど、オーバーブースト使われたら、オキュペテーIのブーストじゃ追いつけへんで!?』
『安全運転、ブレーキ全開!』
 せっかく数的に優位に立っても、性能差で追いつけない事に雛が焦りを感じると、羽衣は『奥の手』として逆の凄い指示を出した。
 すると雛は、アクセル全開の超高速危険運転でブレイカーIを追い詰め、今に至る。
 雛は怪しい関西弁をしゃべる、普段は突っ込み役だが、実は右と左も間違える超ボケっ子なのだ。羽衣はその事をよく知っていて、わざと逆の指示を出して行かせたい方へ誘導する、スリル大好きな子だった。


「やられたぜ。豊田南、名古屋、小牧、一宮辺りなら、まだ名阪国道か名古屋高速に変更が利いたが‥‥名阪に乗ってしまった以上、このまま大阪まで行くしかルートがない。ただ、名神は交通量が多いから、渋滞になりやすいところも多いが‥‥」
「‥‥まだ渋滞のないここで、あの娘達を仕留める。死人は出したくないしな。トリエラ、障害物情報を出しておいてくれ」
『了解したわ。但し、“バーストアタッカー”は大量に電力を消耗するから――』
「‥‥分かっている。1撃で仕留める」
 ガリアスが迂回路を探す中、正吾はトリエラに高機動ロボット形態“バーストアタッカー”への変形を打診する。彼女は釘を刺すと、高速道路の管理システムへハッキングを仕掛け、電光掲示板及びGPSに障害物情報を流した。
『雛! 羽衣! お遊びはそろそろお終いだよ! きっちり決めに掛かろうじゃないか!』
 ミナがオキュペテーIに総攻撃を指示したその時、ブレイカーIのリアウイングが左右に展開し、本来、常温超伝導モーターがあるべき部分から腕が出てきたではないか! 左右のヘッドライト部分が足へと変わると、先程出てきた手で道路を押して起き上がり、ブレイカーIは高機動ロボット形態バーストアタッカーへ変形した。
 肩に内蔵されたミサイルランチャーより、ホーミングミサイルが発射され、発射口を覆っていたカバーが紙吹雪さながらに乱舞する。
『どうしてこうなるんですかぁ〜!?』
『今回はあたし達の負けだけど、次にあった時にはこの借りはしっかり返してやるからね。覚えておく事だね!』
 ホーミングミサイルの中身は火薬ではなくとりもちで、ケイラノーIとオキュペテーIはタイヤを取られ、路肩で停止してしまう。
 自分がバンデッドなのを棚に上げて地団駄を踏むメイの隣で、ミナがロードフェンサーへ戻るブレイカーIへ捨て台詞を吐いた。
「それだけの腕があるんだから、これに懲りたらバンデッドなんて悪い事はしないで、『Hi―Express』をやらないかい? 俺達はいつでも大歓迎だぜ?」
『ウチをヒヨコ扱いした『Hi―Express』になんか、絶対ならへん! いつか泣かしちゃるんだからぁ〜』
『私達が手っ取り早くお金を稼げる方法はコレぐらいだもん‥‥生活費と、ハルピュイアの運営費の貯金と‥‥雛の方向オンチを直す費用の為だもん! 止められないよ!』
 ガリアスが羽衣達に『Hi―Express』にならないか、いつものスマイルで口説くが、羽衣にも雛にもバンデッドをしている理由があり、聞き入れられる事はなかった。
 スリル大好きな羽衣なので、この仕事でお金が入ったら派手に使うかと思いきや、妙に現実的だったりする。


「私、少し考えたんです。祖父の遺産を寄付出来ないか、手続きの前に相談してみようって。両親のいない子供達が、みんな、普通に暮らせるように」
 大阪府庁前に無事到着したやすらは、ガリアスに代金を渡した。
 正吾の一言とハルピュイアを見て思うところがあったのか、やすらは手続きの件を考え直す事を決めていた。
「‥‥俺達『Hi―Express』にしか出来ない事があるように、やすらにしか出来ない事もあるはずだ」
「頑張れよ。俺達でよければいつでも力になるからさ。あ、これ、俺個人の端末の番号ね。個人的なお誘いはいつでもOKだぜ」
「うふふ、ありがとうございます」
 彼女は生き生きとした笑顔になり、正吾とガリアスに手を振って別れたのだった。


●声の出演
 正吾:笹木 詠子(fa0921)
 ガリアス:梁井・繁(fa0658)
 トリエラ:相澤瞳(fa5111)

 やすら:姫乃 舞(fa0634)

 ミナ:咲夜(fa2997)
 メイ:ジュディス・アドゥーベ(fa4339)

 羽衣:角倉・雨神名(fa2640)
 雛:各務聖(fa4614)