ご主人様と呼ばないでアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/25〜03/03

●本文

 桜小路家といえば、ドーム型球場が数個は楽に入る広大な敷地を有し、メイド達を多く抱える邸宅に住んでいる、その街で知らない人はいない程のお金持ちだ。
 しかし、お金持ちにありがちな高慢や尊大な態度はなく、桜小路家の主人は町内会の役員を率先して引き受け、福祉事業への精力的な寄付を行っている。桜小路夫人は廃品回収といった町内活動へ積極的に参加し、溝掃除や道路掃除といったボランティアでもその姿をよく見掛ける。
 2人とも街の人達の評判はすこぶるよく、愛されていた。

 だが、不幸は突然やってくる。
 桜小路夫妻は海外出張中に事故に遭い、一人息子の桜小路元政は天涯孤独の身となってしまう。
 しかも、「遠い親戚」や「両親の親友」を名乗る大人達が大挙して彼の元を訪れ、あれやこれやといううちに、元政から親の遺産を根こそぎ奪っていってしまった。
 元政に残されたのは、17年間、両親と一緒に過ごした広大な屋敷と、取り敢えず一生不自由なく暮らしていけるだけの、本来彼が相続するはずだった遺産の1/100にも満たないお金と、奇跡的に一命は取り留めた、彼と両親の護衛兼執事グレイスンだけだった。
 強欲で利権を貪る汚い大人達に、両親の残した遺産を吸い取られ、思い出の品まで次々と踏みにじられた元政は人間不信に陥った。
 グレイスン以外の人間と口を利かなり、屋敷のメイド達を全て解雇し、学校を休んで部屋に閉じ篭もってしまう。

 柚木真澄は、元政が通う高校の同級生でクラスメートだ。
 以前、元政にピンチの時に救ってもらった事があり、以降、秘かに片思いをしていた。
 真澄は元気が取り柄の美少女だが、想いを打ち明ける勇気はなく、クラスメートと掛け合い、席替えで偶然を装って元政の隣の席になったり、わざと教科書を忘れて見せてもらったりし、彼の近くにいるのが精一杯だった。
 担任の密味静先生より、元政が引き篭もってしまった事を聞くと、真澄は一大決心をする。
 妹の柚木愛と一緒に元政の屋敷へ押し掛け、グレイスンに頼み込んでメイドとして雇ってもらったのだ。
 グレイスンもまた、真澄なら閉ざされてしまった元政の心の扉を開ける事ができると感じたのかもしれない。彼女達を快く雇ったのだった。
 最初、元政は真澄も両親の遺産目当てだと思い、全く取り合わなかった。
 掃除をすれば時価数百万円の壺や絵画を壊し、洗濯をすれば洗濯機を壊し、殺人料理で元政を三途の川へ誘ったりと、普段の学校生活では想像も付かなかった真澄の天然ドジッ娘の本性が次々に明らかとなってゆく。
 真澄は給料をもらうどころか、借金を拵えていく始末。
 しかし、それでもめげる事なく献身的なご奉仕を続ける真澄に、元政はいつの頃からか少しずつ、ほんの少しずつ心の扉を開けてゆくのだった‥‥。

■主要登場人物紹介■
・桜小路元政:17歳。桜小路家の一人息子。お金持ちにありがちな高慢さや尊大さはなく、人当たりはよく、クラスでは比較的目立たない存在。顔はそこそこ、成績はそこそこ、運動はそこそこ、と全てにおいて凡庸。
・柚木真澄:17歳。元政のクラスメートで彼に片思いをしている(片思いに至るピンチを救われたエピソードは、担当する方にお任せします)。元気が取り柄の美少女で、クラスでも人気は高いが、告白は全て断っている。運動神経は抜群でスポーツ全般をそつなくこなすが、家事全般は全然ダメで、実は天然ドジッ娘。
・柚木愛:15歳。真澄の妹。元政の事を「お兄ちゃん」と呼んで慕っているが、恋心は全くなし。姉とは対照的に運動は苦手だが、家事全般は得意中の得意。趣味は裁縫で、自分の作ったコスプレ衣装を真澄によく着せている。桜小路家のメイドとなった時、メイド服を作ったのも愛だったりする。
・密味静:35歳。元政と真澄のクラスの担任。色々な意味で身体を張って悩める生徒達の悩みを解決している事から、生徒達から『体当たりの密味』と呼ばれている。独身。
・グレイスン:65歳。桜小路家に仕える執事兼主人の護衛のロマンスグレー。元政が日本語を喋る前から世話をしており、彼が唯一心を開いている存在。カポエラを体得しており、その腕前は免許皆伝。

■技術傾向■
 発声・芝居・演出

●今回の参加者

 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa0921 笹木 詠子(29歳・♀・パンダ)
 fa0946 九重 ゐづな(14歳・♀・狐)
 fa1181 青空 有衣(19歳・♀・パンダ)
 fa1737 Chizuru(50歳・♀・亀)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)

●リプレイ本文


●これが日常茶飯事になりつつある?
 桜小路元政(さくらこうじ・もとまさ)は、一日の大半を自室で過ごしていた。彼の部屋には風呂や一人暮らし用の簡単なキッチンなど、最低限生活に必要なものは揃っており、食料さえあればずっと閉じ篭もっている事も可能だった。
 ただ、元政はガーデニングが好きなので、部屋から通じているベランダにある草花に水をやったりするのだが――。
『ふえ〜ん‥‥絵画が〜、壺が〜』
『お姉ちゃん、大丈夫? しっかし、また高そうな絵画を破いたり、壺を割っちゃったよね〜』
「チッ‥‥またか‥‥」
 人間と違い、草花は嘘は付かないし騙さない。手塩に育てれば育てるほど綺麗な花を咲かせ、大きく成長し、応えてくれる。だから元政は草花が好きなのだが、その心が安らぐ唯一の一時をぶち壊す騒音と叫び声。
 元政が唯一、心を開いている執事のグレイスンが全員解雇させたメイドや使用人の代わりに雇ったクラスメートの柚木真澄(ゆずき・ますみ)とその妹、柚木愛(ゆずき・あい)だった。
 元政は露骨に舌打ちした。真澄はどうやらモップで掃除していたようだが、屋敷が広い為、埒があかないと業務用の掃除機を使ったところ、操作を誤って暴走させ、彼女はコードでぐるぐる巻きになり、掃除機は廊下に飾ってある時価数百万円の絵画や壺に激突したようだ。
「お坊ちゃま、ティータイムでございます」
 そこへノックを三回してグレイスンが入ってくる。
「グレイスン。あの二人、どうして雇ったんだい?」
「不肖ながらこのグレイスン一人では、お坊ちゃまで手一杯でございます。やはり屋敷の中の事を任せる者は必要でございましょう」
「それは分かるけど‥‥あの二人に屋敷の中の事を任せていたら、お金がいくらあっても足りないよ」
 グレイスンの淹れた紅茶を飲みながら溜息をつく元政。しかし、グレイスンはそんな元政の姿を、目を細めて見るだけで応えなかった。
 引き篭もってしまった元政を見ては、心が痛い毎日を過ごしている彼にとって、真澄と愛は元の明るい少年に戻してくれる可能性を秘めていると思い、独断で雇ったのだ。もちろん、真澄本人の熱意や、彼女や元政の担任密味静(みつみ・しずか)の後押しもあったが。

「掃除機は愛さんが掛けた方がいいですね」
「今日はまた派手にやったわね」
 学校が終わった後、桜小路家へ直行するのが日課となっている静は、後片付けをする真澄と愛、ボランティアで二人のメイドの指導をしている入瀬(いるせ)の様子を見て、袖をまくりながら駆け寄った。
 入瀬は元々この屋敷で働いていたメイドの一人で、遺産狙いとは関係なく、それなりに元政の事を気に掛けていたものの、グレイスン程信頼されていなかった為解雇されたが、釈然とせず、グレイスンから真澄と愛の働きぶり――ドジ三昧――を聞き、こっそり戻ってきて指導を請け負っていた。
 静先生は現代国語の担任で、自分の恋愛よりも生徒を大切に想い、桜小路家近くにある職員用のマンションに住んでいるが、最近は桜小路家に通い詰めている、今時珍しい体当たり熱血教師である。自分の豊満な身体が男子生徒を誘惑してしまう事は重々承知しているので、ハイネックインナーにタイトスカート、色濃い目のパンストといったボディラインは見えるが露出の少ない衣装を心掛けていた。

「はぁ〜、私ってダメだなぁ。入瀬さんに本格的に教えてもらおうかな」
「愛に良い考えがあるんだ!」
 真澄は仕事の後の入浴で愚痴を愛にこぼしていた。
 桜小路家の屋敷には風呂が複数あり、真澄と愛が入っているのは二十人はゆうに入れる広々としたメイド用の風呂だった。
 風呂から出た真澄は、早速、愛の良い考えに乗る事にしたが‥‥。
「この服で誘惑すれば、お兄ちゃんもイチコロだよ」
「誘惑って‥‥私、そういうので元政君に認めてもらいたい訳じゃないわ」
 そういって真澄に着せたのは、下着がスケスケのベビードールだった。
「じゃあ、誘惑がダメならこういうのはどうかな? きっとお兄ちゃんはこういうのが趣味なんだよ」
「ほ、本当かしら?」
 巫女装束とか、ゴスロリとか、動物スーツとか、愛が今まで真澄のサイズで作り、日の目を見る事の無かったコスプレ衣装をファッションショー宜しく、あの手この手で言葉巧みに真澄に着せ替えていった。
 ‥‥翌日、袴がマイクロミニの巫女装束を着て庭木に水をあげていた真澄は、ベランダからその姿を見ていた元政に思いっきり引かれたのは言うまでもなかった。
 愛が元政の屋敷に来たのは、真澄一人だと危なっかしくて放っておけないというのが一番の理由だが、趣味のコスプレ衣装を提供したように、姉が元政を人間不信から立ち直らせようと必死になってるのを端から見て楽しんでいる一面もあった。


●これがご主人様の敵!?
「また来たのか、あの人達‥‥もう、いい加減にして欲しいよ」
 呼び鈴が鳴り、窓から正門を見た元政の表情が一層暗くなる。
「また邪魔者が来た〜」
 そこには三人の人影があり、愛が応対に出た。
 一人は趣味の悪いスーツに身を包んだ、小太りで毛の薄い中年の男性。見るからに古典的な成金で、その名もズバリ、成金銭次郎(なりかね・ぜにじろう)といい、元政の遠戚に当たる。
 もう二人は銭次郎とは対照的に、清楚で優しくややおっとりとした大和撫子と、彼女によく似た和服美人だった。大和撫子の彼女は綾辻薫子(あやつじ・かおるこ)、元政の許嫁である。和服美人は薫子の母、綾辻麗華(あやつじ・れいか)で、元政の父の姉であり、彼の伯母である。
「屋敷は手入れが行き届いてるようやし、メイドを雇う金も残っとるようやな」
 愛の全身を舐め回すように見る銭次郎。
「元政が一人で暮らすのでしたら、このような広い屋敷は必要ないでございましょうに」
 一方、麗華は手入れの行き届いた屋敷と庭を見回していた。
 二人とも、元政の持つ残りの遺産が目当てなのだ。
「元政さんは今日も‥‥」
「うん、お兄ちゃんはいる事はいるけど、薫子お姉ちゃん達とも会わないと思うよ」
「せっかく元政の元気な姿を見に来てやったっちゅうのに」
(「お兄ちゃんにとっては余計なお世話だよ」)
「なんや? 挨拶を知らんモンが増えとるようやな」
「あなた達が財産ばばねたせいで、愛達を教育するお金無いんだって」
「これも指導のなっていないた為‥‥お叱りは私が」
 薫子が訊ねると、愛は悪びれる事なく応える。銭次郎の見え透いた社交辞令に、愛が心の中で舌を出すと、彼はそれを直感で感じ取ったようだ。すかさず入瀬が割って入り庇った。入瀬は愛達に期待を掛けているのだ。
「薫子、あなたは許嫁なのですから、元政を元気付けてくるのでございます」
「‥‥はい、お母様」
 麗華が娘にそう言い残し去ってゆくと、残された銭次郎もばつが悪そうに帰っていった。
 薫子は愛の後に付いて屋敷へと入ってゆく。

「随分と洗い物を溜めているようですけど、メイドたるもの、ご主人様には常に綺麗で清潔な衣類や寝具を提供するのではありませんか?」
「が、頑張ります‥‥」
 早速、薫子が目聡く見付けた衣類やシーツの山に驚く真澄。しかし、負けじとメイド服の袖を捲くり、衣類やらシーツやらを次から次へ洗濯機に放り込んでゆく。
「真澄さん、洗濯物はちゃんと分別しないと‥‥」
「え!? きゃぁ!?」
 様子を見に来た静先生のアドバイスも時既に遅く、業務用の洗濯機にも関わらず、容量を超える洗濯物に、洗濯機が爆発し、黒い煙が真澄と静先生を包み込んだ。
「メイドのくせに洗濯一つまともに出来ないとは‥‥こちらはわたくしがしておきますわ」
 もちろん、この程度で洗濯機が壊れるはずはない。真澄に声を掛ける前に薫子が細工しておいたのだ。この他の失敗も影で彼女がわざと引き起こしたものがある。表向きは大和撫子の薫子だが、裏ではかなりの女王様気質のようだ。

「グレイスン。今日の被害総額はいくら?」
「150万円程でございます」
「そうか‥‥あの二人は違うのかな‥‥」
 やって来る銭次郎や麗華達へ突っかかっていく愛や、真澄が毎日のように遺産を崩壊させていく様に、元政は二人は強欲な親戚達とは違うと思い始めていた。
「元政様‥‥」
 グレイスンを伴なった元政が自分に見せた事のない柔らかそうな表情で真澄を見ている姿に、薫子は唇を噛み締めていた。
 薫子と元政の許嫁話は、昔、元政の父と麗華の間の雑談で上っただけだったが、元政の持つ遺産を根こそぎ奪おうと麗華が強引に利用し、薫子を乗り込ませているのだ。だが、薫子は母に隠しているが元政に好意を持ち、心から彼の心を開きたいと願っていた。なので、母の言いつけと自分の本心の間で罪意識に苛まれ、その苛々が真澄苛めにも繋がっていた。

 全身が煤だらけになってしまった真澄と静先生は、静先生の勧めもあって一緒に入浴する事になった。
「‥‥先生ねえ、昔、好きな人にすごい振られ方したの。『存在が邪魔』だって‥‥先生はその言葉で立ち直れなくて退いちゃって。なんだか、元政君を見てると、彼の事を思い出しちゃうのよね。真澄ちゃんはその頃のあたしに被って見える‥‥でも、全然違う。失敗しても、何を言われてもびくともしない強い気持ち。その気持ちがあの時のあたしにもあったら‥‥ってね。真澄ちゃん、あなたなら、きっと大丈夫。『女として』応援してるわ」
「静先生‥‥私、頑張ります!」
 二人きりのだだっ広いお風呂に静先生の過去が厳かに響いた。背中を流しながら励ます静先生に、真澄も力強く応えるのだった。
 元の元政に戻ってくれるきっかけを探したが、どうする事も出来ずに教師としての限界を感じていた静先生にとっても、真澄と愛は入瀬同様希望だった。

「その服装は桜小路の家のメイドだな?」
 その頃、夕食の買い物へ出掛けた愛は、スーツを着崩した如何にもな男達に囲まれていた。
「愛様! 旋風波動脚でございます!!」
 そこへグレイスンが駆け付けると、十八番のカポエラの回し蹴りを繰り出し、男達を瞬殺した。
「グレイスンさん、ありがとう。格好良かったよ〜」
「嫌な予感を感じたのですが、愛様が無事で何よりでございます」
 気丈に振る舞っていたものの、愛はまだ15歳の女の子だ。不安を吹き飛ばすようにグレイスンに抱き付いた。彼もしっかりと受け止め、不安が和らぐよう小さな背中に手を回したのだった。

「聞いたで、メイドが襲われたんやってなぁ。難儀やったなぁ。最近は何かと物騒やからな、いくらグレイスンが強いいうたかて一人じゃどうしようもないやろ」
 愛が襲われた噂を聞き付けたのか、銭次郎が如何にも「心配してます」というように息急き立ててやってきた。
「コネも何も無いお前じゃ、この先ずっとこの家に引き篭もっても先は無いで? 何て事は無い、取引やろ? 古くてボロっちい家と使って無い権利はワシが転売したる。お前はもっと安全で快適な所に住んで安穏と暮らせる。安全はワシが永久保障や、どや?」
「‥‥悪いけど‥‥この家を出て行く気はないし、メイド達を手放すつもりもないから‥‥」
「一時の感情に流されて、将来を棒に振っても、ワシは面倒みきれんで!?」
 遠回しに『こういう事から逃れたいなら遺産を寄越せ』と圧力を掛けるが、元政は相変わらず俯いていたものの、その声音にはしっかりとした拒絶が含まれていた。
 今は何を言っても聞かないと悟った銭次郎は、お約束の捨て台詞を吐いて屋敷を後にした。
「グレイスン。人を動かすモノって、一体何なんだろう?」
「信じる心、でございましょう。このグレイスンはお坊ちゃまを信じております」
「信じる心、か‥‥」
 元政の質問に嬉しそうに答えるグレイスン。
 元政の脳裏に浮かんだのは、愛の無邪気な笑顔。それは『利』の為だけに動く人間ばかりではないという証。
 次いで浮かんだのは、真澄の何度失敗しても諦めず、邪魔されても折れず、一つの想いの為に努力する姿。それは『利害』を越えて行動する、そういう人間もいるという証。
 そこへ真澄が元政を労おうと、唯一きちんと淹れられる紅茶を持ってやってきた。
「ご主じ‥‥いえ、元政君‥‥私の事を信じて‥‥とまでは言わないけど、妹の愛やグレイスンさん、静先生の事は信じてあげて‥‥みんな、元政君の味方だから‥‥」
 真澄はポケットの中に常に忍ばせているお守りを握り締めながら、思いの丈を静かに、力強く伝えた。
 それは、運動が得意な彼女が、その日ま体育の授業中に足を捻挫して倒れてしまうが、保健委員だった元政に介抱された包帯の切れ端が入っていた。真澄の片思いの始まりとも言うべき宝物である。
「‥‥か、柏木、さん。その‥‥紅茶、グレイスンの分もお願いしてもいいかな?」
「‥‥は、はい!!」
 初めて元政からお願いされた真澄は、声が裏返りつつも元気よく挨拶して新しい紅茶を淹れる為に部屋から出ていった。
「今回は引き下がりますが、わたくし、元政様を諦める気はございませんのよ」
 部屋の外で待ち構えていた薫子が、真澄に笑顔で宣戦布告して去っていった。

 元政は全ての人間を信じられるようになった訳ではないが、真澄達四人は、きっと自分を陥れるような、そんな人間ではないと徐々に信じ始めたのだった。


●声の出演
柚木真澄:槇島色(fa0868)
桜小路元政:青空 有衣(fa1181)
柚木愛:九重 ゐづな(fa0946)

グレイスン:梁井・繁(fa0658)
密味静:笹木 詠子(fa0921)
入瀬:イルゼ・クヴァンツ(fa2910)
綾辻薫子/綾辻麗華:Chizuru(fa1737)
成金 銭次郎/下っ端:モヒカン(fa2944)