Goddess Layer 3rdアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 14.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/08〜12/12

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。
 その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。

 しかし、ダイナマイト・シュガーが維新軍を率いて、正規軍に、アイギス佐久間に彼女の持つ東女のヘビー級ベルトを賭けたタイトルマッチを半ば強引に申し込み、そして奪取してしまった。
 そればかりか、リリム蕾奈の持つ東女タッグベルトもアイギス佐久間と一緒に獲得し、ここに来て東女は、ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間を中心にほぼ統一されたと言っても過言ではなかった。


 ――『陸奥(むつ)女子プロレス』は、宮城県仙台市は青葉城近くに居を構える、主に東北六県で活動している女子プロレス団体だ。
 だが、プロレスからショー要素をできる限り外し、本格的な格闘として見せる事から、空手や柔道、レスリングやボクシングといった異種格闘を身に付けた女性達がこぞって門を叩く。
 現エース、“独眼竜正宗”こと伊達沙苗も、元日本空手選手権の覇者だ。

「伊達さん、今月号の『Goddess Layer』見ました?」
「いや、まだだが?」
「東女が凄い事になっていますよ」
 いつの時代も買い出しは新人レスラーの練習の一環である。
 買い出しから帰ってきた後輩レスラーは、練習を終えてリングから降りてきた沙苗に、タオルと一緒に月刊Goddess Layerの今月号を渡した。Goddess Layer――戦女神達の神域――は女子プロレスの専門雑誌で、女子プロレスラーの愛読者も多い。
「‥‥何!? アイギス佐久間が新人レスラーに敗れただと!?」
 クールで口数の少ない沙苗が声を荒げる。「何事!?」と、ジムにいたレスラー達は練習の手を止め、沙苗に注目した。
「‥‥アイギス佐久間は私がこの手で倒すつもりだったのに‥‥」
 沙苗も以前、東女に殴り込みを掛け、アイギスの盾に阻まれた1人だった。その悔しさをバネに技に更なる磨きを掛け、今月中にもアイギス佐久間へ再戦を申し込もうと思っていた矢先の事だけに、アイギス佐久間が自分以外の、しかもよりにもよって新人レスラーに負けたというニュースは、彼女にとって余程衝撃的だったようだ。
「今月の殴り込みは止める?」
「‥‥いや、当初の予定通り、挑戦状を送り付けてくれ。アイギス佐久間を倒したという新人‥‥確か、ダイナマイト・佐藤とかいったな。それだけの実力を持っているかどうか、私が確かめてやろう。もし持っていなかった時は、東女のベルトを陸奥女子がもらい受けるだけだ」

 
 ――所変わって、東女のジム。
「挑戦状、ですか?」
「ええ、あなたを名指ししてきているわ」
 先輩レスラー達の服を洗濯機に掛けるダイナマイト・シュガーの元へ、アイギス佐久間が沙苗より届いたばかりの挑戦状を持ってきた。
 ヘビー級ベルト、ジュニア級ベルト、タッグベルトと3冠を制しているとはいえ、ダイナマイト・シュガーはまだまだ新人。先輩の服やリングコスチュームを洗濯するのも彼女の立派な練習だ。
 一度は反旗を翻したとはいえ、ダイナマイト・シュガーにとってアイギス佐久間は 憧れの人である事に変わりはない。先日のリリム蕾奈率いる反乱軍との戦い以降、こ うして話す機会が増え、純粋に嬉しかったりする。
「伊達早苗さんですか‥‥佐久間さんは戦った事あるのですよね?」
「ええ。彼女の得意技、九頭竜脚は、ロー、ミドル、ハイキックを叩き込むコンビネーションキックの進化系ね。コンビネーションキックを3発叩き込むの。つまり、計9発のキックのラッシュ、だから九頭竜脚と呼んでいるわ」
「そんな技、ボクに受けきれるかな‥‥」
 視線を落とすダイナマイト・シュガーの左胸に、アイギス佐久間は軽くパンチを当てる。
「あなたが保持している東女のベルト、沙苗に、他の団体のレスラーに決して渡してはダメよ。私の想いも込められているのだから‥‥」
「あ!? ‥‥はい、ボク、やれるだけやります!!」
 アイギス佐久間の想いを受け取ったダイナマイト・シュガーは吹っ切れ、満面の笑みで応えた。


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 東女の現ヘビー級ベルト、ジュニア級ベルト、タッグベルト保持者(防衛0回)。
 修得技:アームホイップ、スリーパーフォールド、ヘッドバット、エルボー、ドロップキック
 得意技:スーパーダイナマイト(延髄切り)

・アイギス佐久間:22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く慕うレスラーは多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 東女の現タッグベルト保持者(防衛0回)
 修得技:フロントスープレックス、脇固め、DDT、エルボー、ドロップキック、等
 得意技:キャプチュード

・伊達沙苗:19歳
 元日本空手選手権の覇者。独眼竜の異名を持つが、彼女は伊達政宗の子孫らしい。正宗はその手刀の切れ味から名刀の名が自然と付いた。投げ技や極め技は苦手だが、それを補って余りある程の破壊力のある打撃技と蹴り技を得意としている。
 修得技:ボディスラム、スリーパーフォールド、ショルダータックル、掌底、フライングニールキック、等
 得意技:九頭竜脚(コンビネーションキック(ロー・ミドル・ハイ)×3)


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)
 fa4386 氷神 ユカリ(20歳・♀・鷹)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)

●リプレイ本文


●心配性の先輩
 東日本女子プロレスと陸奥女子プロレスの戦いの舞台となる総合アリーナの5500席ある客席は、札止めとまでは行かなかったものの、満員の状態だ。
 陸奥女子プロレスが関東まで興行に来る事はあまりない。その為、関東近郊の陸奥女子ファンが詰め掛けて会場の一部を占拠し、観客席も東女vs陸奥女の様相を呈している。

「嗚呼、もし佐藤さんが負けでもしたら‥‥東女の歴史あるタイトルは!? 東女の未来は!?」
 “独眼竜正宗”こと伊達沙苗(竜華(fa1294))がダイナマイト・シュガー(泉 彩佳(fa1890))に挑戦してきた事に、東女の中で何故か一番狼狽えているシスター・アルノ(リネット・ハウンド(fa1385))。リングネームの通り、修道女の服に身を包んでいる。
「伊達さんは佐久間さんでも苦戦した相手‥‥佐藤さんで勝てるかどうか‥‥佐藤さん、今からでも遅くはありませんわ。佐久間さんと交替しましょ!」
「‥‥大丈夫、シュガーは勝つわ(‥‥そう、シュガーの持つ王座は東女のモノ。いずれはわたしが正々堂々と奪ってみせる‥‥)」
 シスター・アルノがヤキモキするのも無理はない。ひたすら一途で真っ直ぐな性格の持ち主だが、同時にひたすら体育会系気質で、先輩・後輩関係にやたらうるさいお局様でもある。先のアイギス佐久間(草壁 蛍(fa3072))率いる正規軍と、ダイナマイト・シュガー率いる維新軍の戦いで、若手に対してリスペクトの念を持つようになりはしたが、それはそれ、これはこれ。新人に任せたばかりに、誉れ高き東女のヘビー級ベルトを他の団体へ奪われると思うと、気が気でない。
 だが、そんなシスター・アルノに、南条遥(神楽(fa4956))が淡々と素っ気なく、だがダイナマイト・シュガーを信じる一念を込めて諭した。遥はダイナマイト・シュガーと同期であり、彼女の実力はシスター・アルノよりも知っている。
「気負ってはいないようね」
 ダイナマイト・シュガーの普段と変わらない様子に、アイギス佐久間は微笑んだ。ダイナマイト・シュガーにとって初の他団体との試合興行となるが、気負った様子や沙苗の雰囲気に呑まれた様子はなく、先ずは一安心といったところ。
「伊達さん、強いですよね?」
 沙苗の主な試合のビデオは見たし、アイギス佐久間との対戦のビデオなんか十何回と見返している。今更愚問だが、どうしてもアイギス佐久間本人の答えが聞きたかった。
「ええ、強いわ。彼女の九頭竜脚は、おそらく私のキャプチュードより破壊力はあるわね。でも、私のキャプチュードに耐えられたあなたなら、九頭竜脚にも耐えられるはずよ」
 答えを聞き、頭を撫でられたダイナマイト・シュガーは蕩けつつ、アイギス佐久間の、遥の、シスター・アルノの想いを応える決意を固めた。

「東女は正規軍から2人、維新軍から2人出してきたようだな。新人が相手とは私達も舐められたものだな」
 一方、青コーナーでは、シューター弘前(大神 真夜(fa4038))がダイナマイト・シュガーと遥を見遣る。柔道の白と黒をイメージした衣装に身を包む彼女は柔道巧者で、強さを求めて陸奥女の門を叩いていた。
「沙苗が名指しで挑戦状を送ったダイナマイト・シュガーは別としても、アイギス佐久間が勝ち目のない編成をするとは思えないよ」
「まぁ、アイギス佐久間に勝ったダイナマイト・シュガーとか、確かにそれ程強そうには見えないが‥‥だが、見た目で判断するのは禁物だ。油断は敗北を招くからな」
 虎の覆面ファイター・タイガー聡美(MAKOTO(fa0295))がシューター弘前を軽く窘めると、東女のメンバーを品定めをしていた沙苗が改めて注意を促す。アイギス佐久間と一戦交えた沙苗は、アイギス佐久間が偶然で勝てる相手ではない事を一番よく知っている。
 タイガー聡美は沙苗の空手仲間であり、親友でもある。彼女が空手からプロレスへ転向した際、付き合って一緒に転向していた。陸奥女のメンバーの中で沙苗と一番付き合いが長く、彼女の良き理解者だ。
「その実力が黄金なら願ってもないじゃないか。金メッキならその場で粉砕すればいい!」
 パフォーマンスとばかりに、不死原(氷神 ユカリ(fa4386))がコーナーポストに飛び膝蹴りを喰らわせる。軋む音が会場に響き、ロープが激しく揺れる。
 その名の通り、陸奥女でも無類のしぶとさを誇り、重い一撃を得意としている。
 彼女のリングネームは、奥州藤原氏からもらい、不死身の藤原、略して不死原としているが、本物の実力を黄金と掛けたのは、どうやら中尊寺金色堂を引き合いに出したようだ。


●シングルマッチ〜30分1本勝負〜
 試合開始のゴングが鳴り響く。
「‥‥今日もベストを尽くすわ」
 トップに白百合のワンポイント、ショートパンツ風のボトムという、黒のセパレートのリングコスチュームに身を包んだ遥はリング中央で間合いを取。シューター弘前も足を止め、遥の出方を待つ。
 30秒間、両者とも無言のまま、リングの中央で弧を描きながら移動し、相手の隙を窺った。
 先に動いたのはシューター弘前。一瞬の隙を衝いて遥を抱え上げ、リングに叩き付けるボディスラムを繰り出す。遥は起き上がり際、掌底を繰り出すが、これはかわされてスリーパーフォールドを決められる。
「私も関節技や投げ技が得意だ。奇遇だな」
 シューター弘前は首を絞めたまま耳元で囁き掛ける。その間、遥はロープへ躙り寄り、ロープブレイクでスリーパーフォールドから脱出する。
「どちらが強いか、勝負を挑む」
「‥‥望むところよ」
 お返しとばかりに遥は再度掌底を繰り出す。だが、これはフェイントで、シューター弘前がかわしたところへ変形チョークスリーパーを決める。シューター弘前は自力で振り解いた。筋力は彼女の方が上のようだ。
 序盤を制したのはシューター弘前。ある程度ファンサービスを意識してか、グラウンドの展開になると、彼女は巴投げを決めて、そこからスリーパーフォールドやアキレス腱固めへと着実に繋いでゆく。
 劣勢に立たされた遥は、掌底に裏拳を織り交ぜてカウンターを狙い、スリーパーフォールドと見せ掛けて脇固めを決めるなど、こちらはフェイントを多用して食らいついてゆく。
 だが、組んだと思ったら、足払いで足を頭まで跳ね上げられたり、執拗にアキレス腱固めを決められ続け、体力はあるのに立っているのが精一杯という状態に追い込まれていた。
 後がない遥は起死回生の裏投げを放ち、シューター弘前が立ってきたところへ、得意技の飛びつき腕ひしぎ逆十字を狙うが、その飛び付きを逆に利用されて腕を取られ、そのまま1本背負いを決められてしまう。
 最早立つだけの脚力は残っておらず、3カウントを取られてしまう。試合時間は29分21秒。ギリギリのところで惜しくも敗れてしまった。
「なかなか良い勝負だった」
「‥‥せっかくわたしを選んでくれた先輩達に申し訳ない結果ね‥‥明日からもう一度やり直さないと、ジュニア級ベルトも夢のまた夢だわ」
 シューター弘前に手を借りて起き上がる遥だった。


●タッグマッチ〜60分1本勝負〜
「あなたの事だから、『ほら、やはり新人に任せるべきではなかったのです』と文句の1つも出るかと思ったけど?」
「南条さんへの文句は試合後、たっぷりと言います。今は陸奥女子に勝つ事が最優先事項です」
 アイギス佐久間の後に続いてリングへ上がるシスター・アルノ。1試合目で陸奥女が勝ち星を上げた事で、完全に肝が据わったようだ。
「一度ある事は二度ある。一度砕けたアイギスの盾! 再び砕けてもらうよ!」
「東女がなんだってんだ! 女王〜、そろそろ隠居のお歳じゃないのか?」
 タイガー聡美と不死原は気合い充分。
 アイギス佐久間とタイガー聡美がリング中央で対峙する中、試合開始。
 がっちりと組み合うアイギス佐久間とタイガー聡美。
 先手を取ったのはタイガー聡美。フロントスープレックスでアイギス佐久間を投げるが、手応えに違和感が残る。タイガー聡美はどうやら、アイギス佐久間の土俵である投げ技での勝負を仕掛けたようだ。
 再び組み合うと、またフロントスープレックスで投げるが、やはり手応えが軽い。アイギス佐久間は自分から投げられて、タイガー聡美の見せ場を作っていた。しかも、タイミングを微妙に崩し、受け身を取る事で、そのダメージはほとんどない。違和感の正体はこれだった。
 ここで両者がタッチ。
 シスター・アルノは逆水平チョップを繰り出したり、不死原をロープに振ってエルボーを叩き込んだりと、得意のキックは見せない。
「もっと打ってこいよコラ!!」
 生温い攻撃に不死原は挑発する。シスター・アルノは戦法を切り替え、強烈なシュート系のキックを連発して不死原を追い立てる。カニ挟みからのチンロックといった連携技も見せるが、不死原はその全てを受け切り、それでも平然と立っているではないか!
 客席からどよめきが起こる。まさにプロレスラーの頑丈さと陸奥女の意地の集大成である。
 そして重いストンピングの一撃で試合の流れをひっくり返してしまう。
 ここで不死原がタッチ。
「レスラーにしては良い蹴りだ! でも沙苗の方が上ね!」
 シスター・アルノの蹴り技の威力は不死原で見ているし、親友の沙苗は打撃技と蹴り技主体のレスラーであり、そのスパーリングを受けているタイガー聡美は、キックに注意しながら一気に間合いを取り、コブラツイストを決める。
 空かさずアイギス佐久間がカットに入る。
「そろそろ仕掛けるわよ」
 コーナーへ帰り際、シスター・アルノにそう耳打ちする。
 ここで踏ん張らなければ全てが終わりだ。シスター・アルノはアイギス佐久間の想いに応える為にも立ち上がり、フルネルソンを仕掛けようとするタイガー聡美を必殺のスイート・チン・ミュージックで蹴り飛ばし、辛うじて赤コーナーへ辿り着くとアイギス佐久間にタッチする。
 アイギス佐久間は序盤で掴んだタイガー聡美の癖から積極的に誘いを掛け、バックドロップを川津落しで、パワーボムをウラカン・ラナ・インベルティダで返してゆく。
「‥‥不死原! 来い!!」
「後は‥‥任せました」
 不死原を呼んで逆転への望みを繋ぐダブルインパクトを仕掛けようとするが、息も絶え絶えのシスター・アルノに阻まれ、彼女はリングへ来る事が出来ない!
 そのまま必殺のキャプチュードを炸裂させて沈め、アイギス佐久間は日本女子プロレス界の女王の健在振りを見せつけるのだった。


●東日本女子ヘビー級タイトルマッチ〜61分1本勝負〜
「後は、私がシュガーに勝てば良いだけの事だ。あなた達の想いと努力を無駄にしない為にも、精一杯戦ってくる」
 沙苗は敗れたタイガー聡美と不死原を労い、リングへと上がっていった。
 求道的で、自他共に、特に己に厳しいが、精一杯戦った仲間を思いやる強いリーダーでもある。

「アイギス佐久間を敗った、あなたの力を見せてもらおう」
「言われなくても嫌と言う程見せます!」
 ゴングが鳴り響くと同時に、ダイナマイト・シュガーは沙苗をロープに振り、返ってきたところへドロップキックを繰り出す。それでは倒れない彼女を再度ロープへ振り、今度はエルボーを叩き込む。
(「‥‥確かに強い。だが!」)
 一見、ダイナマイト・シュガーが果敢に攻めているように見えるが、沙苗は彼女の攻撃を受けながら力量を見計っていた。
 そして力量はアイギス佐久間以下と見極めると、三度目のエルボーに合わせてカウンターで鋭い手刀を入れて反撃に転じる。
 今度は沙苗が名刀正宗の名に相応しい切れ味を誇る手刀の連打で押し始め、ダイナマイト・シュガーが怯んだところをロープへ振り、胴回し回転蹴り(=フライングニールキック)を当てる。身体をくの字に曲げてダウンするダイナマイト・シュガー。
「この程度か‥‥なら止めを刺してやろう。受けて見ろ、九頭竜脚!!」
 ダイナマイト・シュガーの栗毛の髪を掴んで無理矢理起き上がらせると、ローキック・ミドルキック・ハイキックのコンビネーションキックを3連続で放つ、必殺の九頭竜脚が派手に決まる。
「東女のヘビー級ベルトは戴いていく!」
「わ‥‥渡さない‥‥ベルトは‥‥ボクの‥‥アイギス佐久間さんの‥‥東女みんなのものだ‥‥」
「!? 九頭竜脚を受けて立ち上がるとは‥‥あなたが2人目だ」
 高らかにベルト奪取を宣言する沙苗。だがの彼女の足を掴みながら、ダイナマイト・シュガーが声援や仲間との絆や想いを受けてふらふらと立ち上がる。
 九頭竜脚を受けて立ち上がったのは、アイギス佐久間に続いて2人目だが、ダイナマイト・シュガーは満身創痍。止めとばかりに再度九頭竜脚を放つが、彼女はその勢いを掴まえて、逆にアームホイップで返してくる。そして沙苗がダウンしたところへ、空かさず背後に回り込み、スリーパーフォールドを決める。
 自力で振り解き、手刀で流れを変えようとしたその時、ダイナマイト・シュガーの身体は沙苗の腕を飛び越え、スーパーダイナマイト(=延髄切り)が爆発した。

「強いな。また再び戦える事を祈る」
「今度は陸奥女子の他の強豪レスラーとも戦ってみたいです」
 守ったヘビー級ベルトを腰に巻いたダイナマイト・シュガーは、鳴り止まない拍手の中、沙苗と握手を交わす。
「だが、東女内部だけでなく私も倒せたという事は、他団体も黙っていまい。特に西女の難波の虎と竜あたりはな。私が再戦を申し込むまで兜の緒を締めておけ」
「西日本女子の難波の虎と竜‥‥」
 沙苗の助言に、ダイナマイト・シュガーは新たな強敵の出現を予感していた。