Big Benヨーロッパ

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/14〜12/20

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。

「ロンドン塔を背景に、タワー・ブリッジでのゲリラライブも捨てがたいですが、今回のゲリラライブはウエストミンスター宮殿を背景とした橋の上で行いますわ」
 ウエストミンスター宮殿を、実際にテムズ川に架かる橋の上から臨みながら、シュタリアは申し訳なさそうに隣を歩くスティアに言った。
 ウエストミンスター宮殿はイギリスの国会議事堂の正式名称だが、むしろこの議事堂の北端に建つ、高さ96mのクロック・タワーに備え付けられた大鐘『ビッグ・ベン』の方が有名だろう。
「せっかくいい場所を見付けてくれたスティアには悪いですが‥‥」
「いえ、お姉様、お気になさらずに。お姉様がそう決定したのには理由があるもの。従うわ」
 だからそんな顔をされないで、とばかりに微笑むスティア。
 シュタリアは先のハロウィンのゲリラライブが終わった後もずっとイギリスに滞在し、ゲリラライブを行う場所を探していた。
 スティアとティリーナはSuccubusとして活動しているが、生憎、長期休みの取れない高校生の身。ハロウィンのゲリラライブが終わった後、日本へ帰国し、中間・期末考査を経て、こうしてシュタリアと合流していた。
「シュタリアお姉様、ライブを行う橋はどこです?」
 末っ子のティリーナは“超”が付く程のシスコン――しかも、次女のスティアより、長女のシュタリアにベッタリ――で、Succubusの中で唯一、他の女性アーティストに興味を示さないし靡かない。
 今もシュタリアの腕を取り、恋人よろしくしっかりと抱き付くと、子犬のように鼻をクンクンさせて、コロンの香りと混じり合ったシュタリアの甘酸っぱい体臭を味わい、半ば呆けながら聞いた。
 もっとも、お嬢様然とした、でも気の強そうな顔立ちは、子犬というより子猫だが。
「ウエストミンスター・ブリッジは、ライトアップされたウエストミンスター宮殿が一番栄える最高のロケーションですが、如何せん、交通量が多いですから。1つ先のランベス・ブリッジで行いますわ」
 どちらにせよ、橋の上で行うには変わりない。
 今回は誘うアーティストやロックバンドが披露する歌やパフォーマンスに、テーマを設けるようだ。今回のテーマは『川』『夜景』『ビッグ・ベン』だという。1つしか使わなくても構わないし、3つ全て使うのももちろんありだ。ただ、テーマを一切に使わないのは無しの方向で。
「そうそう、お姉様。参加したアーティストから戴いたプレゼントのアイディアですが、予想以上の反響だったわ」
 スティアが思いだしたかのように言う。
 Succubusの活動はゲリラライブのみに限定している。CD等は一切出さないが、デジカメで撮ったゲリラライブの様子をネット発信している。そのSuccubusのサイトを管理しているのが彼女だ。
 ハロウィンライブの際、ライブが始まる前に舞台となるコヴェント・ガーデンで買い物をしたのだが、その時、参加したアーティストの1人が「最近のSuccubusのライブはイギリスばかりで、直接見に来られるファンは少ないから、見に来られないファン達にプレゼントを用意するのはどうかな?」と提案したのだ。Succubusの3人はその提案を受けて、シュタリアが自分も愛用している高級コロン、スティアが紅茶詰め合わせ、ティリーナが桃色の2対のドリル髪――もとい、ツインテールを縛っているのと同じリボン、をそれぞれチョイスしたところ、プレゼントへの応募の為かサイトへのアクセス数が鰻登りだったのだ。
「そうですわねぇ、今回もライブ前にお買い物をしましょうか。場所は‥‥チャイナタウンがいいかもしれませんわね」
「シュタリアお姉様のチャイナドレス姿が見られるのですね!」
 まだ着ると決まった訳ではないが、チャイナタウンに行くと聞き、シュタリアにチャイナドレスを着せたいらしいティリーナ。
「それと‥‥ヴァニシングプロの緒方彩音社長より、私達のヴァニシングプロへの勧誘のメールが届いていたわ」
「ヴァニシングプロから!?」
 ヴァニシングプロといえば、日本国内最大手のロック系音楽プロダクションだ。メディアに意図的に露出していないとはいえ、そこからお声が掛かれば、スティアも流石に驚きを隠せない。
「クリスマスには日本へ帰りますから、その時までに考えておきますわ」

 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのゲリラライブも、イギリスのロンドンにある『ランベス・ブリッジ』で行うという書き込みがなされた。今回もファンはイギリスまで見に行く事はできないので残念がる書き込みが多かった。
 いつものように彼女達だけではなく、他のアーティストやロックバンドを誘う。呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、イギリス国内の交通費や滞在費を始めとする必要経費はSuccubus持ちだし、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
 尚、今回のゲリラライブは夜という事で、Succubusの本領発揮となる。女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性があるので注意されたし。

●今回の参加者

 fa0069 イオ・黒銀(22歳・♀・竜)
 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa3365 フランネル(21歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●チャイナドレス乱舞
 『Succubus(サッキュバス)』のメンバーとの待ち合わせは、ウォータールー駅の目の前にあるアイマックス・シネマが指定された。チャイナタウンのあるソーホーは、ハロウィンの時にゲリラライブを行ったアップル・マーケットのあるコヴェント・ガーデンから、直線距離で300mくらいしか離れていない。
 全員が集まると、先ずはチャイナドレス専門店へ向かう事になった。

「‥‥着たかったのよ、これ。撮影するなら綺麗に撮ってね」
 稲馬・千尋(fa0304)は真紅地に鳳凰が描かれたチャイナドレスを見つけると、早速試着する。スリットは控えめだが、胸を強調するタイプだ。
 鳴瀬 華鳴(fa0506)がこの日の為に購入したデジタルビデオカメラを向けると、ノリノリでいろいろなポーズを取った。
 その横では、フランネル(fa3365)が桃色の色と好みの柄でチャイナドレスを選んだものの、サイズは少し小さめでスリットも深く、後で後悔する事になる。
「響夜お姉ちゃんには、これを着て欲しいにゃー」
「こ、これか!? 色は好みだが‥‥」
 西村・千佳(fa0329)が不破響夜(fa1236)に勧めたのは、青地のチャイナドレスだ。福の文字が図案化されて背中に描かれており、色といい図柄といい、確かに好みではあったが、問題はかなりタイトという事だろうか。
 ちなみに、千佳の腕には、スリットが大きめの若草色のチャイナドレスが掛かっている。
「オールトちゃんにはぁ、これが似合うと思うわぁ」
「‥‥いや、だから、俺は、女物は絶対に着ない!! ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥分かったよ‥‥」
 既に白地に金糸で孔雀が刺繍されたチャイナドレスを着替えた華鳴は、クラウド・オールト(fa0175)の身体に龍が刺繍された深紅のチャイナドレスを当てる。しつこく迫られれば強く断る事もできたが、華鳴はニコニコとどこか粘っこい笑顔を浮かべたまま。暖簾の腕押し状態にクラウドは言い返せず、根負けして諦めて着る事に。
「何着か持ってるけど、丁度新しいのが欲しかったのよね〜♪」
「チャイナドレスを着てライブをしたいから、動きやすさを重視して、深いスリット入りとか、ミニとか、そういうのがいいわね。あくまで『セクシー』なラインまでなのがアーティストよね〜」
 大人の魅力を醸し出す黒地のチャイナドレスを身に纏い、羽扇子を優雅に仰ぐイオ・黒銀(fa0069)。MICHAEL(fa2073)はお気に入りの色、赤の中からポロリをしないようなチャイナドレスを探している。
「チャイナドレスって元々は娼で婦の人達が着ていたドレスが発祥で、すぐにできるようにスリットが深く入ってたりするの。んで更にそういう理由の為、下着は本来付けないんですって」
「‥‥ん、んん‥‥はぁぁぁ‥‥って、私のスリットの中に手を入れて、すぐにできる事や下着の有無を確かめる必要はないんじゃないかしら?」
 蘊蓄を披露するイオの手が千尋のスリットの中へ。蠢くと彼女は表情を俄に変え、どこか熱を帯びた艶めかしいと息を吐く。だが、指を舐めるイオにデコピンで突っ込む程、反応は冷静だった。
「ティリーナちゃんはちっちゃくて可愛いし、スティアちゃんはお嬢様お嬢様よね、シュタリアちゃんはお姉様って感じ?」
「私の髪で遊ばないで下さい! 私の髪を弄っていいのはシュタリアお姉様だけです」
 ティリーナの着替えを手伝いながら、見事にセットされたツインドリルで遊ぶMICHAEL。彼女がボディーラインチェックをしたところ、ティリーナは身長145cmくらい、スティアは162cmくらい、シュタリアは168cmくらいのようだ。また、シュタリアの胸は、Eカップのイオより大きいという驚愕の事実が判明する!

「ネットで調べると食べ物の情報しか引っかからないんだが、逆に食べ物には期待して良いって事だよな?」
 戦隊物よろしく、赤や青、白や桃色、黒や緑のチャイナドレスに身を包んだクラウド達は、響夜がネットで調べた飲茶が美味しいと評判の店へ向かう。
「うにゃー‥‥華鳴お姉ちゃん、本当によく食べるにゃー‥‥どこに入ってるにゃー?」
 3、4人のグループ用飲茶セットを1人で5セットペロリと平らげる華鳴に、千佳は目を丸くして彼女のお腹をふにふにと触る。“アイアンストマック”“甘い物ブラックホール”の二の名は伊達ではない。
 MICHAELはその食べっぷりを楽しそうに見ている。
「ねぇ、もし良かったらパートナーを務めてくれない? この曲1人で歌うと少し勢いに欠けちゃうのよ」
「素敵な歌詞ね。わたしでよければ喜んで。タイトルは‥‥『0:00a.m.』なんてどうかしら?」
 イオが作ったばかりの無題の歌詞をスティアに見せ、デュエットの誘いを持ち掛けると、彼女は二つ返事で承諾し、更に曲名まで考えた。
「誰かと組むのは初めてだから、楽しみなんだ。どんな演奏になるのかがね‥‥あ‥‥!?」
 タイトすぎるチャイナドレスを買った響夜とフランネルは実はお腹が苦しく、珍しいお菓子やパンが出され、千尋や華鳴と曲の打ち合わせをしながら飲茶の最中に留め具が飛んでしまい、2人ともフリーズしてしまったという。


●ゲリラライブinビッグ・ベン
 ビッグベンとは、ウエストミンスター宮殿の北端に建つ時計塔の、直径9フィート、重さ13.5トンの大時鐘の愛称だ。現在では時計塔全体、あるいは大時計そのものを指す事もある。
 夜間はライトアップされ、夜の帳が降りる中、国会議事堂共々橙色に浮かび上がるその姿は幻想的で荘厳だ。
 そんなビッグ・ベンを背景に臨むランベス・ブリッジに、1台のボックスワゴンが停車すると、ちょっと大人しい雰囲気のドレスを着てネコミミと尻尾をちょこんと生やした千佳と、チャイナドレス姿で竜の角と翼を宿したクラウド、同じくチャイナドレス姿――弾けた留め具は車内で直したらしい――フランネルが出てくる。
「さぁ、今回のSuccubusのゲリラライブは‥‥夜景が綺麗なランベス・ブリッジからだよー♪ みんな、夜景に負けないように盛り上がっていくにゃー♪」
「満天の星空の中を駆け抜けるように‥‥『NIGHT DRIVE』、さあ、ライヴの始まりだ‥‥!!」
 星空という川の中を疾走するようなイメージの、クラウドが爪弾くエレキギターの旋律がゲリラライブの開始をアピールする。
 テンポは速めのロック調。クラウドのギターソロだが、フランネルはそれに合わせて踊る。速めのテンポ故、否応なしに胸が弾んでしまうのはご愛嬌か。
 最後はチョーキングビブラートで余韻を残しながら終わらせると、今度はフランネルが千佳からハンドベルを受け取り、ビッグ・ベンの鐘の音『ウエストミンスターの鐘』のメロディを響かせながら、手摺りの上を平均台よろしく動く。
 途中、弾んだ胸に鐘が当たって予想外の音色を奏でるのは不慮の事故だろう。


 続けて、上から下までブラックレザーで統一した響夜と、白のブラウスと黒のベスト、ロングスカートといったゴシック調で纏めた千尋、羽根付ベレー帽の羽根も黒く、手首には黒い翼を模した飾りを付け、瞳には朱色のカラーコンタクトを入れて黒一色の華鳴が、それぞれ得物――エレキギターとキーボード――を持って車内から飛び出す。
 膝立ちになった響夜のエレキギターと、パイプ台の上に置いた千尋の奏でるキーボードが紡ぐパイプオルガンの旋律が、『鐘が告げる鎮魂歌(short.ver)』の始まりを告げる。

♪その鐘は 誰が為に鳴りますか‥‥

 夜を飾る 地上の星屑
 華やかな夜景(すがた)に
 月(夜空の女王)は 嫉妬の焔を焦がす

 水面に浮かぶ 泡沫の夢
 叶えられずに 儚く消えた

 煌く閃光 朱き流れ 消え逝く波紋
 全てを呑み込んで 黙する川は無常の人
 あの鐘の音は 誰の為に鳴りますか‥‥

 「あの鐘の音が告げるのは‥‥ふふふ‥‥」♪

 前奏の間、華鳴は顔を伏せた体育座り。
 彼女がソプラノを、千尋がメゾソプラノを、響夜がアルトを務め、パイプオルガンの音色に乗せるコーラスを始める。
 最初の1フレーズ後の間奏の間に、華鳴と響夜が立ち上がる。
 華鳴は十八番のダーク路線で、何事かと立ち止まった通行人の少女の頬に軽くキスを落とすなど、堕天使のように舞い歌う。
 響夜と千尋は逆にパフォーマンスはせず、歌と演奏に集中。純粋に歌唱力、演奏技術で通行人を魅了し、その足を止めさせる。
 最後の台詞は橋にもたれ掛かり、ビッグ・ベンの方向を向き、小悪魔な笑みを浮かべて呟く。
 台詞後に丁度、本物のウエストミンスターの鐘が鳴り響き、有終の美を飾った。


 華鳴と響夜が車内へ戻り、千尋だけが残る。今度は彼女のソロだ。
 キーボードもパイプオルガンからピアノの音色へ変える。

♪夜の街へと灯がともる
 月明かりを消すように

 街は灯りで溢れていく
 星明りを消し去るように

 月の明かりが届くのは
 今ではほんの少しだけ

 星を見上げることもない
 地上(ここ)には光が溢れてる

 The city is ornamented with light of imitation
 今日も人々は街の輝きを見続ける
 Moonlight and starlight faded out of memory
 誰も空を見る事無くずっと

 街の光は煌びやか
 人は心を奪われる

 空の光はささやかで
 人は皆 気に留めず

 It shines at night
 今日も街は眩しく煌びやかで
 It shone at night
 今日も空は孤独に寂しく♪

 『Night Shine 〜disappearance〜』はハロウィンのゲリラライブの時にも歌ったが、今回は別バージョン。
 ずっとスローテンポで、全体的に物悲しい雰囲気に包まれ、同じ曲でも大分心象が違う。
 英語のフレーズの部分はちょっと力が入る。
 最後は消えていくような感じでフェードアウトしてゆく。


 千尋も車内へ引っ込むと、入れ替わるようにMICHAELとクラウドが現れる。
 クラウド同様、MICHAELも深紅のチャイナドレス姿だ。愛用の赤いエレキギターと相まってよく栄える。

♪自分の気持ち伝えられず 一人街を見つめてた
 橋の上から綺麗な夜景を 一人見つめてた‥‥

 わからない 気づかない
 気づいてる わかってる

 街を見てたら ふと気づいた
 自分の 本当の気持ち
 今なら言える 想いに気づいた

 求めてる 気づいてる
 わかってる 伝えたい
 だから言うよ‥‥夜景に向かって『大好き』と‥‥♪

 千佳の歌は、ゆったりとしたテンポだ。MICHAELとクラウドもそれに合わせて静かに旋律を奏でる。
 千佳はいつものように動き回らず、白い羽を生やした魔法少女のステッキ型マイマイクを胸元で、両手で持ち、気持ちを込めて静かに歌う。
 そう、しずしずと流れる小川のせせらぎのように。


 千佳が歌い終わると、MICHAELは雰囲気を一転させる。
 今度は彼女のギターソロだ。
 衣装が衣装なだけに、いつものアクロバティックな動きはないが、代わりに『川』を彷彿させる、流れるように軽快で余韻を残す旋律でタップリと集まった観客を魅了した。


 クラウドと響夜が入れ替わり、千尋のキーボードも加わって、イオとスティアの『0:00a.m.(仮称)』が歌い紡がれる。

♪夜の都会(まち)を見下ろして 受話器を取った午前0時

 CordlessでMidnight call

 逢いたくなって 飛び出して

 逢えないSceneすっ飛ばして 貴方の元へ走ってく
 Kissで止めて My Heart

 スリルな夜の摩天楼 幾千輝いてる
 眠らない都会(まち)の下 ドラマチックだね

 二人だけの時間を もっと感じたい
 深夜映画みたいに どこかやるせない
 言葉よりもせつない 気持ち 感じてね

 貴方の情熱 Kissで伝えて

 Barning Love♪

 黒と白銀のチャイナドレスが色の、ソプラノとアルトが声のコントラストを彩る。
 更にイオから積極的に身体を絡ませると、スティアは聖母のように微笑んで全てを受け入れ、2人はどちらからともなくお互いの身体を絡ませ合う。
 間奏に入ると、堪らないとばかりにイオがスティアの唇を奪い、スティアも同じ気分だったようでイオの唇を深く貪る。
(「キスはいいとして‥‥唄うのを忘れないでよ」)
 2人は歌をそっちのけで、夢中でねちっこく唇を貪り合い、身体を重ね合う。お陰でMICHAEL達は、イオ達が歌を再開するまで、3フレーズも間奏を続ける羽目になった。


 イオの歌が終わる頃にはSuccubusの2人も準備を整えており、歌を披露すると、響夜達は早々に、そして散り散りに撤収していった。


●今のままでは勝てない?
 撤収を終えた後、シュタリアが逗留しているホテルへ集合し、ささやかな打ち上げが行われた。
 完全に火が付いてしまい、疼きを止められないイオは、スティアと早々に別室へ行ってしまう。
 響夜とギターテク談義をしていたクラウドはMICHAELにチャイナドレスを無理矢理着せられ着せ替え人形状態、フランネルはチャイナタウンで買った御酒を軽く口にしただけで酔ってしまい、千佳に甘えられる。
 ティリーナと千尋は我関せずと、ライブについて語り合っていた。妙に馬が合う2人。

「私ぃ‥‥強くなりたいのよぉ♪」
「あの娘はわたくしがいろいろと仕込んでいる事もありますが、自分に素直なのですわ。偽りの仮面を被り、計算尽くの言動があなたのキャラクターとはいえ、そのままでは満足させられないでしょうね」
 別の寝室では極秘撮影した秘蔵映像と引き換えに、シュタリアからご教授を請う華鳴の姿があった。だが、シュタリアは華鳴の本性に気づき、ティリーナに仕込んだテクニックは教えるが、それでも今のままでは敵わないと断言した。