クリスマスドラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 7.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/26〜12/30

●本文

 通りにはクリスマスソングや音楽が流れ、店頭にはクリスマスツリーが飾られ、街路樹や壁には電飾が施され、イルミネーションを彩る。
 今の時期、街はクリスマス一色だ。
「どうぞ。クリスマスケーキのご予約、まだ間に合いますよー」
 今日は家に誰もいないので、学校帰りに夕食を買いに商店街を歩く大和・武(だいわ・たける)へ、お菓子屋の店頭でビラ配りをしていたサンタクロース娘が笑みと共にチラシを差し出す。武は愛想笑いを浮かべてそれを受け取った。
「クリスマス、か‥‥」
 チラシを制服のポケットにねじ込みながら独りごちる。残念ながら今のところ予定はない。クリスマス・イヴが日曜日だが、パーティーといったお誘いも特にない。
 もっとも、武は家の都合で転校を繰り返しており、今は私立高天原高等学校に通っているが、それ程親しい友人が少ないというのも予定のない理由の1つだろう。
 「1人きりのクリスマス」をテーマにしたクリスマスソングを背に受けながら、武は商店街を後にした。
 辻をいくつか越えると、閑静な住宅街へ出る。住宅街の奥に、地元の人には願い事が良く叶うと評判の、お騒がせ女神弁財天――サラスヴァティ――を始めとする、七福神が祀られた神社がある。
 暇だと神社へ行き、神主の娘弁天――サラスヴァティが人間へ顕現した仮の姿――や、神社の巫女天埜・探女(あめの・さぐめ)と雑談をするのが、半ば日課になっていた。
 1人で夕食を食べても味気ないと思った武は、神社へ足を向ける。流石に夕食のご相伴に与った事はないが、武も持参し、良く一緒に食べるのだ。
「わきゃ!?」
 次の瞬間、今まで誰もいなかった裏路地の方から女の子の可愛い悲鳴が聞こえてきた。
 武が駆け付けると、そこには白いもこもこのファーが暖かそうな真っ赤な服を着て、三角形の同じく真っ赤な帽子を被った女の子が、どうやら塀の上辺りから落ちたのか、手に持っていた白い大きな布袋の上に逆さまに転がっている。布袋がクッションになり、見たところ外傷はないようだが‥‥。
(「うわ!?」)
 慌てて武は視線を下に向ける。女の子はスカートを履いており、薄紫の下着が諸に見えてしまっていたからだ。
「大丈夫かい?」
 それとなく声を掛け、布袋から散らばったらしい綺麗にラッピングされ、リボンが掛けられた小さな小箱を拾い集め始める。
「わきゃ!? あ、ありがとう!」
 女の子は武の声に再び悲鳴を上げるが、散らばった荷物を拾い集めているのを見ると、くるっと半回転、体勢を整えて立ち上がり、両手を腿の上まで持ってきてぺこりと頭を下げた。
「‥‥ところで、お主は儂が見えるのよね?」
「(お、お主!? わ、儂!? 随分と古風な娘だな)見えるけど‥‥あ、もしかして、サンタクロースに見えるかどうかって事? なら、十分サンタクロースに見えるよ」
 女の子の問いに戸惑うものの、先程も街頭で見掛けたサンタクロースのバイトか何かをしているのだと解釈し、武は見たままの率直な感想を応えた。歳は、15、6歳くらいで、武と同じ学年か1つ下くらいだろうか。ツインテールと、眉毛に沿って切り揃えられた髪が印象的な女の子だ。
「失礼‥‥くんくん‥‥なるほど。お主からは微かに女神の匂いがするわね。神に近付いたものには、一時的にその力が宿るといわれているけど‥‥だから英霊である儂の姿が見えるのね」
「女神の匂い? これの事かな?」
 女の子は武に近付き、鼻をひくひくさせて頻りに頷く。武の心当たりといえば、以前、神社で買った弁財天の縁結びのお守りくらいだが。
 武が知らないのも無理はないが、彼は人間に顕現した弁財天と何度も接触しており、その神力が残り香のように身体に宿っているのだ。
「儂とした事が、初対面の殿方に、しかも助けてもらったのに挨拶もしないなんて失礼な事を。儂の名前はイリス・ニコラウス3世、気軽にイリスと呼んでね」
「俺は大和武、武でいいよ」
 女の子――イリス――は名前からして外国人のようだ。
「じゃあ武、お主に聞くけど、クリスマスの夜は暇かしら?」
「生憎と暇でね。アルバイトでも手伝うのかい?」
「アルバイト‥‥? まぁ、そんなものね」
 今度はイリスが武の応えに首を傾げた。
「今、お主に拾ってもらったその小箱を、この街の全家庭に届けたいの。でも、儂一人では難しそうだから、お主にも手伝ってもらいたいのよ」
「全ての家に!? 確かにそれをイリスさん1人でやるのは大変だよなぁ。いいよ、引き受けるよ」
 武はチラシのポスティングのようなあるバイトだと解釈したようだ。
「引き受けてくれるの!? ありがとう! じゃぁ、当日、ここで待ち合わせましょ」
 イリスは微笑んだ後、武に地図を渡した。待ち合わせ場所は、武もよく利用しているこの住宅街の公園だった。
「人手は多い方がいいと思うんだけど、なんなら友達にも声を掛けようか?」
「そうしてくれると助かるわ。衣裳は儂の方で用意するから」
 こうして、ひょんな事から武のクリスマスの夜の予定は埋まったのだが、彼はイリスが“本物”のサンタクロースの孫娘である事を知る由もなかった。


■主要登場人物紹介■
・大和・武:外見17歳前後。高校生。両親の仕事の都合で転校を繰り返し、友達作りが下手な好青年。剣道の達人で前年度の高校生剣道全国大会個人戦優勝者。愛用の竹刀の名前は草薙。
・イリス・ニコラウス3世:外見15歳前後。サンタクロースである聖人ニコラウスの孫娘で、その存在は英霊(=精霊に近い人間)であり、本物のサンタクロース。宙に浮いたり、壁や屋根を登る事ができる。普通の人間に姿は見えないが、武や彼の友達には見える。

・橘・緒登:外見17歳前後。高校生。美少女で黄金律のスタイルを持つ私立高天原高校のアイドル。本人は気さくな性格で嫌味はない。
・山都・美琴:外見17歳前後。高校生。緒登の幼馴染みで、小中高とずっと同じクラスの間柄の大親友。また、照の数少ない友達でもある。学級委員長を務めており、愛称は“いいんちょ”または“ミコちゃん”。しっかり者。
・天・照:外見17歳前後。高校生。武と同じ、私立高天原高校の生徒だが、体が弱く、入退院を繰り返していた薄幸の美少女。今は手術を受け、快復している。趣味は読書とコンピュータゲーム(格ゲーが得意)。
※外見はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。
※原則、獣化は出来ませんが、イリスのサンタクロースの能力は獣人の能力で代用しても構いません。


■技術傾向■
容姿・発声・芝居

●今回の参加者

 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa1357 結城 紗那(18歳・♀・兎)
 fa1526 フィアリス・クリスト(20歳・♀・狼)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3584 花田 有紗(15歳・♀・リス)
 fa3691 姫月乃・瑞羽(16歳・♀・リス)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4616 グライス・シュタイン(32歳・♂・猿)

●リプレイ本文


●誘いの言葉にご用心?
 イリス・ニコラウス3世と別れた大和武は携帯電話を取り出すと、クラスメイトである橘緒登に電話を掛けた。
『も、もしもし、武君!?』
 3コール目に出た緒登は、心なしか声が上擦っているように聞こえる。
 夏に江ノ島に行く都合で緒登の携帯電話の番号を控えたものの、武から連絡を取る事はほとんどなかったから、突然の電話に驚くのも無理はない。
「急で悪いんだけど、クリスマス、空いてる?」
『ク、クリスマス!? 特に予定は入れていないよ』
 クリスマスの予定を聞くと、緒登の声はますます上擦った。
「実は、クリスマスにサンタクロースのアルバイトをしてくれる女の子を探しているんだけど、緒登さんならサンタクロースの格好も似合うんじゃないかって思って、声を掛けたんだ」
『サンタクロースの‥‥バイト? ‥‥パーティーとかじゃなく?』
「ああ、サンタクロースのバイトなんだけど、出来そうかな?」
 パーティーのお誘いではなく、単なるバイトだと分かると、緒登のテンションは一気に下がってしまう。
『武君もそのバイト、するんでしょ? いいわ、そのバイト、引き受けるわ』

 武が次に電話を掛けたのは、“いいんちょ”こと山都美琴だった。彼女は幼馴染みで大親友の緒登がアルバイトを引き受けた事を聞き、他に女の子がアルバイトをしていないか訊ねると、2つ返事で引き受けた。
「イリスさん‥‥か。大和君、本人にその気はなくてもモテるのですよね」
 美琴の武に対する認識は大分軟化し、今では私立高天原高等学校のアイドルである緒登を『守ってくれる存在』となっている。だから、2人一緒の時は邪魔しないように近くにいるようにしているが、今回は少々勝手が違う。
 イリスというサンタクロースの女の子、武が女の子の事を話す事はあまりないが、彼の口振りからしてかなり可愛いようだ。美琴は由々しき事態になるのではないかと危ぶんでいた。

「いいんちょもOK、と。後、1人くらい欲しいかな?」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! と」
 武が三度、携帯電話を掛けようとすると、元気な少女の声が聞こえてきた。
 彼の前に現れたのは、同じクラスメイトの光だった。手には2つ、ホットコーヒーを持っている。
「えっと‥‥ごめん、さっきの電話の内容聞いちゃってて。私でよければお手伝いするけど?」
「公園で話してる俺も悪いし、光さんがOKならこちらからお願いしたいくらいだよ」
 その1つを武に渡しながら、罰が悪そうに舌をちろりと出す光。ホットコーヒーがかじかみ始めた手を暖める。
 武は夕食の買い物の途中だったので、近くの児童公園のベンチに腰掛けて緒登や美琴に電話を掛けていた。
 彼はアルバイトを引き受けてくれた事に礼を言って別れた。
「君もつくづくお節介焼きだねぇ」
「むー、忙しいのが嫌な訳じゃないけど‥‥息抜きの時間くらい欲しいわよ」
 武が立ち去った後、彼のクラスの副担任・酒田繁雄が光の後ろから現れる。
 どうやら光同様、アルバイトの話を聞きつけて静観していたようだ。彼らの通う高天原高校は私立校なのでアルバイトは「学業の妨げにならない程度」にしても構わないし、自分達でできる事は自分達で苦労して難関を乗り越えさせる事が繁雄の教育のモットーなので、特に手出しする訳ではない。
「息抜き、ねぇ。まぁ、僕はクリスマスに関してはお酒が飲めるからいいくらいだけどね」
「あなたの場合、何かにつけてお酒を飲むでしょうに」
「ははは、それが『本業』だからね」
 教師にタメ口を利く光だが、繁雄は気にしていない。
 彼の本業とは、その正体であるギリシア神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神ディオニュソスの事だ。現に繁雄の手には美味しいシャンパンが握られている。
「しかし、ニコラウス3世とは‥‥聖人以外にも先程、道教の神を街で見かけたよ。どうも彼の周りには神が集まりやすいのかもしれないね」
 繁雄もその1人なのだが、他人事のようにのほほんと言うのだった。


●サンタクロースガールズ
 クリスマス当日――。
「メリークリスマス! 良い子達!!」
「ありがとう、サンタクロースのおじさん!」
 街頭では、本物のサンタクロースと見紛うような白い髭を顎に蓄えた男性がクリスマスケーキを売っていた。
 彼からクリスマスケーキを買った子供達はみんな、本物のサンタクロースがいると確信した事だろう。子供達に人気があり、クリスマスケーキは飛ぶように売れてゆく。
 しかも彼に似たサンタクロースに扮した男性が、街のそこかしこで同じ店のケーキを屋台で売っているという。
 クリスマスが明けた後、子供達のちょっとした話題になるのだが‥‥。
「‥‥こりゃぁ、今夜は雪になるかもしれないなぁ」
「それはそうだ、儂が来ているのだからな、孫行者よ」
 サンタクロースの男性が、雲で覆われた空を見上げながら雪が降らないよう願うが、その願いを否定するかのような少女の声が聞こえた。
 そこには彼と同じく、サンタクロースの衣装を着た少女が立っていた。
「お祖父様からお主の話は聞いている」
「お祖父様‥‥? お前、ニコラウスの孫が!」
 少女――イリス――をしばらく訝しげに見た後、彼はようやく合点がいったといったように手をぽんと叩く。聖人の力を感じ取ったようだ。
 彼の名は孫行者、日本では孫悟空といった方が分かりやすいだろう。齊天大聖(せいてんたいせい)という道教の神の一柱でもある。
 街のあちこちに彼とよく似たサンタクロースがいるのも、72の仙術の1つ、髪の毛に息吹きを吹き込む分身の術で人海戦術で売り捌いているのだ。
「今年は孫が来たのか。ニコラウスとは何度も橇(そり)レースでやり合った仲でなぁ。強いだけに敵も多い。俺でよければ護衛するぜ」
 遠い目をしてニコラウスとの思い出を思い出すと、孫行者は押しかけ護衛を買って出るのだった。

「今日は、大和を通じて儂の仕事を手伝ってくれて感謝する」
「光だよ。よろしくね。えー‥‥イリスちゃん‥‥で、いいのかな?」
 集まった武や緒登、美琴や光に挨拶をするイリス。
 可愛い外見から紡がれる古風な言葉は、握手をする光と違い、緒登や美琴からしても違和感がある。
「イリスさんは既に着替えられているようですが、私達はどこで着替えればいいのでしょう?」
「‥‥あ。すまん、そこまで考えていなかった」
 美琴に聞かれると、頬を掻いて視線を逸らすイリス。どうやらちょっぴりドジっ娘のようだ。
「‥‥こんな事もあろうかと、着替える場所は一応確保しておきました。サンタクロースの服をお貸し下さい」
 溜息を付きつつ、イリスからサンタクロースの服を受け取ると、美琴は緒登と光を着替える場所まで誘導する。
「わ、本当にサンタの服だ。一度着てみたかったんだ♪」
「サンタの服って、こ、これを着るの‥‥!?」
 受け取ったサンタクロースの服を見て、光とは対照的に驚きを隠せない緒登。
 サンタクロースの衣装は、黒のチューブトップを着て、黒のスパッツを履いたものをベースに、ベスト状の白いファーの付いた赤い上着と、赤のミニスカートにロングブーツ、ロンググラブ。
 可愛くおへそを出すそれは、さながら『スタイル強調型サンタクロース服』といったところか。
「た、武君‥‥あまり、見ないで‥‥ね」
「いや、その、よく似合うよ」
 露わになった太腿(絶対領域完備!)とおへそを手で隠しながら、もじもじと現れる緒登。恥ずかしさからか、仄かに紅くなっている頬がどこか色っぽい。その仕草をぽーっと見ていた武も、心無しが頬が紅い。
「街全体に配るんだから、手分けして配った方ほうがいいよな」
「1人ずつじゃ面白く‥‥いえ、大変だし‥‥2人ずつでペアになって回ろうか?」
「じゃぁ、わたし、武君と一緒に廻る! ‥‥ほ、ほら、武君、転校生だし、わたし、この街が地元だから詳しいから!!」
 武の手分けをして配る提案に、光がペアになる事を追加すると、緒登が我先にと武とペアになる事を宣言する。その後、しどろもどろに理由を述べながらも、その視線はイリスに向いていた。
「ふむ‥‥それも良かろう。儂もこの街の地理に明るい者と組もうと思っておったが、先客がおるのでな」
 イリスは彼女の心境を知ってか知らすが、ほくそ笑む。
「では、私は光さんと組みますね。これで3組ができましたが、配る地域はこの街を三等分すればいいと思います」
 美琴は用意しておいたこの街の地図のコピーを取り出し、カラーマーカーで大まかに三等分すると、それぞれ緒登とイリスに渡す。
「うむ、流石はいいんちょ、手際がよい」
「え!?」
「いや、こちらの独り言だ。各自が配る分のプレゼント袋を用意した。ポストの形状に合わせたプレゼント箱があるから、基本的にポスティングしてくれれば構わない。ポストが無い家については、玄関先に置いてもらえればいい。では、よろしく頼むぞ」
 孫行者が橇に乗ってやってくる。その荷台にはサンタクロースが担いでいる白いプレゼント袋が人数分あり、イリスはプレゼントの配り方について説明すると、武達1人1人に袋を渡した。

 武と緒登は、緒登が地の利を活かして地図で確認し、体力のある武がポスティングしていくように、上手く役割分担する事で順調にプレゼントを配ってゆく。
(「‥‥どうして、武君と一緒に廻る! なんて宣言しちゃったんだろう? ‥‥変だな、わたしってば‥‥」)
 武の後ろ姿を見ながら、先程のいつもと違う自分の言動に、緒登は自問自答する。
 今回のイリスがそうだが、何か起こる度に武の周りにはいつも綺麗だったり、可愛い女の子がいる事が、緒登の中で武に対する想いを変化させたのかもしれない。
 ただ、それは嫉妬というより、今はまだ大切な男友達が他の女の子と一緒にいて欲しくない、というレベルではあるが。

 美琴は自分で割り当てた分の地図を見て、最短で最も効率のいいルートを弾き出してから行動を開始した。
 いつもの学校での“いいんちょモード”が発動し、てきぱきと一分の隙もなくポスティングしてゆく。その勢いに光は半ばたじたじになりながら、付いてゆくのがやっとだったとか。

 武・緒登ペアが集合場所に戻ってきた時には、既に美琴・光ペア、イリス・孫行者ペアはポスティングを終えて戻ってきていた。美琴が驚いたのは、イリス達は美琴より後から出発したにもかかわらず、彼女達より先に戻ってきていた事だ。
「お疲れさま、これで一息入れましょう」
 そこはいいんちょ。気を取り直すと、プレゼントを配り終えた後、集合場所に戻る前に自分の家に寄って事前に用意しておいたショートケーキを持って来ると、自販機で全員分の熱めの紅茶を買い、差し入れる。
「あ‥‥雪だ‥‥ホワイトクリスマスだね‥‥今年は」
「何を言っている、儂がおるのだから当たり前だろう?」
 集合場所の公園にあるあずま屋で、ささやかな打ち上げ兼クリスマスパーティーが開かれると、天からのプレゼントよろしく雪が降り始める。
 光の言葉に、胸を張るイリス。実はあまり胸がないので、スタイル強調型サンタクロース服を着ていても、その仕草は可愛かったり。
「儂はサンタクロースの祖ニコラウスの孫、イリス・ニコラウス3世だ」
「‥‥という事は、本物のサンタクロースのお孫さん!?」
 意地悪っぽく正体を明かすイリス。緒登は目を丸くする。
「お主達のお陰で、この街に“小さな幸せ”を配る事ができた。これは儂からのお節介だ。2人に幸せがありますように、メリークリスマス!」
 イリスは武にコンサートのペアチケットをプレゼントすると、その場にいる全員にお礼を言い、孫行者の駆る橇に乗ってそのまま空へ光となって消えていった。
「イリスさん、本物のサンタクロースだったんだ‥‥夢じゃないよね!?」
「‥‥いやぁ、世の中には不思議な事もあるものだな」
 武の手に残ったペアチケットと、緒登達が着ているサンタクロースの服が、イリスとの出会いが夢ではない事を物語っている。
「‥‥このチケット、元旦のものだ。緒登さん、良かったら一緒に初詣に行ってから、このコンサート行かないか?」
「え!? あ、うん‥‥いいよ‥‥」
 緒登が積極的に自分に絡んできた事に戸惑いを覚えながらも、自分にとっての緒登の存在を再認識すると、武は彼女を初詣に誘うのだった。

 お邪魔にならないよう、武と緒登を2人きりにし、その場を去った美琴と光。
「イリスさん‥‥?」
「何を不思議そうにしてるのだ? 儂だってまだ若い、“普段”というものはあるのだぞ」
 2人の目の前に、ブラックレインを着たたイリスが現れた。
「あなたは確か、智智(ちさと)さんでしたね。どおりで見覚えがあったはずです」
「ふふ、流石はいいんちょ、そういう訳でよろしくな」
 イリスはサンタクロースとしてのお役目がない時は、智智として普通の娘同様、高天原高校へ通っていたのだ。
 また一波乱ありそうな予感がする美琴だった。


♪〜
 聞こえるかな 届くのかな
 あなたへの このメロディー

 誰かの元へ急ぐ 人並みの中でふと
 雪降る空を 見上げたら
 寂しさが 込み上げてきた

 私を見つけて 抱きしめて
 寂しいこの世界から
 暖かい手で 私を包んで
 幸せにして欲しい
〜♪


●CAST
 イリス・ニコラウス3世:姫月乃・瑞羽(fa3691)
 大和・武:日向翔悟(fa4360)

 橘・緒登:咲夜(fa2997)
 山都・美琴:結城 紗那(fa1357)

 ディオニュソス:梁井・繁(fa0658)
 孫行者:グライス・シュタイン(fa4616)

 光/エンディングテーマ:フィアリス・クリスト(fa1526)