Goddess Layer 4thアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 14.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 01/26〜01/30

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。
 その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。

 しかし、ダイナマイト・シュガーが維新軍を率いて、正規軍に、アイギス佐久間に彼女の持つ東女のヘビー級ベルトを賭けたタイトルマッチを半ば強引に申し込み、そして奪取してしまった。
 そればかりか、リリム蕾奈の持つ東女タッグベルトもアイギス佐久間と一緒に獲得し、ここに来て東女は、ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間を中心にほぼ統一されたと言っても過言ではなかった。


 ――『西日本女子プロレス』は東女同様、真女の流れを受け継いだ、西日本で最大勢力を誇る女子プロレス団体だ。
 真女が分裂した際、西日本の主要レスラー達が集まっただけあり、規模・レスラーの実力共に東女に引けを取らない。
 毎年9月15日には『関ヶ原の合戦』と題して、東女と西女を中心に、東日本の女子プロレス団体と西日本の女子プロレス団体が、それぞれ東軍と西軍に別れて戦うエキシビション・マッチを東女と共同開催している。
 だが、現エース、“難波の龍虎”ことロッキー龍子とライトニングバニーにとっても、アイギス佐久間は東女の前に立ち塞がる最強のアイギスの盾であり、未だ倒す事は叶わなかった。

「東女が面白い事になっとるなー」
「バニーさん、練習中に雑誌を読むのはお行儀が悪いですわよ」
 西女のジムは、練習の真っ最中だ。にも関わらず、ライトニングバニーは女子プロレスの専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』を読み耽っている。新人に示しがつかないと、ロッキー龍子が窘める。
 とはいえ、いつもの光景であり、2人とも西女の双頭のエースだ。それに、ライトニングバニーは西女の中で人一倍練習をしているのを誰もが知っている。見咎める者などいないだろう。
 ――ロッキーの龍子を除いて。
「龍子も見てみぃや。佐久間を敗ったっちゅうダイナマイト・シュガーが、今度は独眼竜正宗を敗ったそうや」
「今月号ですわよね? 既に今朝、家で読んで参りましたわ」
「龍子は何も思わへんのか? ウチらが敗れなかったアイギスの盾を、東女のパッと出の新人が敗ったんやで?」
「‥‥わたくしが、何も思わないと‥‥お思いですの?」
 ライトニングバニーが、先月行われた『陸奥(むつ)女子プロレス』のエース、“独眼竜正宗”こと伊達沙苗とダイナマイト・シュガーの試合の生地を指差すと、ロッキー龍子の声音がわずかに震えた。彼女が静かに怒っている証拠だ。
 ロッキー龍子は兵庫県は芦屋の生まれて、家は江戸時代から続く呉服問屋という生粋のお嬢様だ。何の因果か、健康の為に女子プロレスを始めようと真女に入門してしまった経歴を持つ。外見からして“深窓の令嬢”なので、相手に舐められないよう、リングネームはできるだけ強いものを、という事から付けたという。
 ライトニングバニーはメキシコ生まれのメキシコ人だ。真女に勧誘されて入団した直後に分裂してしまい、何かと馬の合うロッキー龍子と共に西女に所属した。初めて覚えた日本語が関西弁だったので関西弁を喋っているが、どこか怪しかったりもする。
「流石は龍子、やる気満々やな! ほな、早速挑戦状を‥‥」
「それには及びませんわ。既に今朝、ジムに来ると同時に出しておきましたから。バニーさんの事ですから、断るはずはないでしょう?」
「おお、恐! でも、龍子の言う通り、ウチは断る理由はあらへんで」


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 東女の現ヘビー級ベルト、ジュニア級ベルト、タッグベルト保持者(防衛1回)。
 修得技:アームホイップ/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット/力、エルボー/打、ドロップキック/飛
 得意技:スーパーダイナマイト(延髄切り)/打

・アイギス佐久間:22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く慕うレスラーは多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 東女の現タッグベルト保持者(防衛0回)
 修得技:フロントスープレックス/投、脇固め/極、DDT/力、エルボー/打、ドロップキック/飛、等
 得意技:キャプチュード/投

・ロッキー龍子:20歳
 西女の双頭のエース、“難波の龍虎”の1人。生まれも育ちも生粋のお嬢様で、規律や練習について潔癖気味。パワー技を得意とするオールラウンドレスラーだが、極め技はやや苦手。
 修得技:ブレーンバスター/投、スリーパーフォールド/極、スクラップバスター/力、踵落とし/打、フェイスクラッシャー/飛、等
 得意技:ドラゴンバスター(バトルドライバー)/力

・ライトニングバニー:21歳
 西女の双頭のエース、“難波の龍虎”の1人。メキシコ生まれのメキシコ人で、ちょっと怪しい関西弁を喋る。フットワークを活かした打撃技と、スピード感溢れる空中殺法を得意としている。
 修得技:ブレーンバスター/投、片逆エビ固め/極、ショルダータックル/力、シャイニングウィザード/打、ミサイルキック/飛、等
 得意技:ムーンサルトプレス/飛

※投:投げ技、極:関節技、力:パワー技、打:打撃技、飛:蹴り技、といったカテゴリー分けをしています。

※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)
 fa4203 花鳥風月(17歳・♀・犬)
 fa4558 ランディ・ランドルフ(33歳・♀・豹)
 fa4613 レディ・ゴースト(22歳・♀・蛇)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)

●リプレイ本文

 東日本女子プロレスと西日本女子プロレスの戦いの舞台となる田園コロッセオの12000席ある客席は、チケット発売開始からわずか20分で売り切れ、満員札止めの状態だ。
 かつて日本女子プロレス界を席巻してきた真日本女子プロレスから袂を分かち、お互い真女の流れを受け継いだ、いわば後継者同士。その東西の最大勢力の一騎打ちに、プロレスファンが沸かない訳がない。


●タッグマッチ〜30分1本勝負〜
 コロッセオ内に戦闘機のドッグファイトを彷彿させる軽快なロックが流れると、青コーナーへ西女のクラップ・ブルーベリー(花鳥風月(fa4203))とチャーミィ尾野(甲斐・大地(fa3635))ペアが颯爽とリングへ走ってくる。
「今日も華麗な空中殺法を魅せるぜ!」
「全力を尽くします」
 続けて、気怠い中華風の曲が流れると、黒地に赤い華の刺繍が施され、胸元が大胆に開き、深いスリッドの入ったチャイナドレスを纏ったシェリル・リー(竜華(fa1294))と、ワイシャツにズボン風、ネクタイを締めた服装のエスター・クラーク(ランディ・ランドルフ(fa4558))が赤コーナーへ花道を歩いてくる。
「好(ハォ)! みんな、愛してるわよ!」
「‥‥」
 シェリルは両手を掲げてファンの声援に応え、投げキッスもサービス。その横のエスターは軽く手は上げるものの、表情は変えず黙々と歩く。彼女は真女時代に日本に帰化したイングランド人で口下手の為、あまり言葉を発しないが、“クールビューティー”として女性ファンの黄色い声援が多い。
「相変わらずお色気だけは一丁前だな。そろそろ、ケツが重たくなってきたんじゃないのか? 保育士にでも転職して、ガキ相手にプロレスごっこでもしてるんだな!」
 リングへ上がったシェリルに、早くも敵愾心剥き出しのクラップ。空中戦をメインとしている彼女は、見た目より実用性を重視してスポーティーなタンキニ水着をリングコスチュームとしていた。また、チャーミィ尾野はスレンダーボディに不釣合いな爆乳――Kカップ――の持ち主だが、リングコスチュームは邪魔にならないよう露出は控えめなワンピース+パレオだ。
「私が先に出ます」
「ちょっとくらい年上だからって威張るんじゃねえよ!?」
 クラップの挑発にやれやれ、とシェリルがリングに残ると、チャーミィ尾野が先手を買って出る。味方である彼女にもクラップの毒舌は止まらない。
 ゴングが鳴ると同時に、先制攻撃とばかりに裏拳を繰り出すチャーミィ尾野。シェリルはそれをかわすと、先ず掌打を当ててチャーミィ尾野の動きを止め、流れるような動きでくるりと回り肘頂を叩き込む。
(「速いし重い!? 見た目よりもパワーの乗ったレスラーです」)
 チャーミィ尾野はシェリルの重い攻撃に間合いを取り、自らをロープへ振ってドロップキックを放つと、シェリルは更にその上を飛んでローリングソバット張りの回し蹴りをカウンターで決める。
 それでもめげずに腕を取ってアームホイップを決めると、シェリルもアームホイップで返してくる。
 シェリルは東女が提携している海外の団体から来ているチャイナ系レスラーだ。中国拳法独特の回転の効いた打撃技と投げ技を得意としていた。
 チャーミィ尾野はずば抜けた得意分野はないものの、そつなくこなすオールラウンダー寄りのレスラーだ。だが、シェリル相手にはそれが裏目に出て、経験の差もあり、なかなか主導権を握れない。
 チャーミィ尾野は真女の分裂後に西女へ入団したので、経営が違うライバル団体という認識だ。
 気合いで半ば強引に腕ひしぎ十字固めを決めてそのままバックドロップへと繋げると、クラップとタッチする。
「俺が一番高く飛べるんだよ!」
 リングに立ったクラップは、一本指を高く掲げてエスターを挑発する。しかし、その視線は挑発した本人ではなく、リング下で試合の様子を見守るライトニングバニーに向けられていた。
 クラップは日本生まれのメキシコ人で、「誰よりも高い」と自負する空中戦を得手にしている。同じメキシコ人であり、空中殺法を得意とし、使う技もほぼ同じというライトニングバニーを、「キャラが被っている」という理由で一方的にライバル視していた。
 ロープを使ったショルダータックルの連射をシェリルに浴びせ、それを皮切りに高速シャイニングウィザードで畳み掛ける。
「‥‥危険だ、代われ‥‥」
 スタミナが減っている事もあり、クロックの速度に負け始めるシェリル。危険と感じたエスターが交代する。
「こんなトウの立ったババアが空中戦だ!? 東女は若い女いないんじゃないの?」
 クロックとエスターは、ロープを使って互いに縦横無尽にリングを駆け抜け、交差する。
 エスターのローリングソバットをクラップが上半身スエーで飼わしたと思ったら、今度はクラップのショルダータックルをエスターはサイドステップでやり過ごす。
 お互い空中戦を得意としている分、一撃でも被弾して動きを止めれば相手に付け込まれる。
 先に当てたのはエスターのエルボー。最初は頭部を狙わなかったものの、当てるには頭部や米神を狙うしかないと考えを切り替えたのだ。鋭い一撃は、クラップを出血させるに十分な切れ味を持っていた。
「‥‥これで決める‥‥」
 エスターがトップロープに登り、ポストからミサイルキックを、逃げ道を塞ぐようにシェリルが鉄山靠を放ち、クラップを挟撃する。
 チャーミィ尾野のカットは一足遅く、クラップはエスターに3カウントを取られたのだった。


●セミファイナル・シングルマッチ〜60分1本勝負〜
 タッグマッチの興奮冷めやらぬリングの上に、西女のライトニングバニー(ブリッツ・アスカ(fa2321))と東女のダイナマイト・シュガー(神楽(fa4956))が上がる。
「おーおー、凄い声援やな。お前、すっかりエース級のレスラーやな‥‥なんや、不満そうやな?」
 東女の観客席からは、割れんばかりの「シュガーコール」が鳴り響いている。
 ライトニングバニーはリングネーム通り、ウサミミに兎の尻尾の付いたレオタード、リボンタイに編みタイツと、バニーガールの衣装をコスチュームとしている。
「ははーん、自分の試合がタイトルマッチじゃなく、ましてセミファイナルなんがそない気に入らんか?」
「そんな事ないけど‥‥」
「そりゃ、東女のベルトを3本も持ってりゃ立派なエース級や。けどな、それでちやほやされて浮かれてるようじゃ、まだまだヒヨッコや。あのアイギス佐久間に勝ったっちゅう実力も、たかが知れとるなぁ」
「ボクは実力でアイギス佐久間さんに勝ったんだ!」
「ほな、その実力とやら、見せてもらおうやないか」
 図星を指されたダイナマイト・シュガーはいきり立つ。
 彼女はまだ15歳、普通の女の子なら高校に入学して青春を謳歌している年頃だ。ライトニングバニーの言うように、今まで鮮やかに勝ち星を上げてきた、いや、鮮やかに勝ち過ぎたからこそ、心の中に生まれた慢心、若気の至りと言っても良いだろう。
 早くも若手とベテランの経験の差を利用した駆け引きにまんまと乗ってしまったダイナマイト・シュガーは、ゴングが鳴ると同時にいきなりヘッドバットを口火をする。よろけるライトニングバニーにエルボーを叩き込んでリングへ押し倒し、そのままスリーパーフォールドを決める。
「く! まだまだこんなものじゃないよ!」
 ロープが近いにも関わらず、自力でスリーパーフォールドを外したライトニングバニーの身体をロープへ振り、自らもロープへ飛んでドロップキック。胸板に深く突き刺さると、再びスリーパーフォールドへ持ち込む。今度はロープブレイクするライトニングバニー。
 レフリーの試合再開の合図を待たずに間合いを詰め、腕を取ってアームホイップへ繋げようとするが、これはブレーンバスターで返される。続くドロップキックもロープへ振ったがかわされ、逆にショルダータックルを撃ち込まれる。
(「流石のアイギス佐久間も、無尽蔵ともいうべきスタミナにものを言わせて攻め立てられな、自分のペースを失うわな。しかもこの破壊力‥‥だが」)
 ダイナマイト・シュガーが主導権を握り、ほぼ互角に近い試合展開を見せているが、その中でもライトニングバニーは彼女の力量を見られるだけの冷静さを有していた。
「やっぱあんた‥‥アイギスの盾に比べて全然大した事ないわ。ほな、終わりにしようか?」
「言わせておけば!!」
 ダイナマイト・シュガーのスーパーダイナマイトが炸裂する。しかし、ライトニングバニーのシャイニングウィザードはそれよりも打点が高い。
 カウンターが見事に決まり、ふらつきながら立っているダイナマイト・シュガーに畳み掛けるようにショルダータックルを直撃させてダウンさせ、片逆エビ固めを決める。自力で外せず、ロープブレイクするダイナマイト・シュガーだが、既に下半身を完全にやられていた。
 彼女の視線に映ったのは、華麗な弧を描くライトニングバニーの肢体だった‥‥。


●ファイナル・シングルマッチ〜61分1本勝負〜
「アイツとやった時、アイギスは悪いもんでも食っとったんやないか? パワーも、スピードも、技のキレも言う程のモンやない。あの元気と根性だけは買うたるけど、ウチにはそれだけの選手としか思えへんかった」
 控え室で待機していたロッキー龍子(レディ・ゴースト(fa4613))の元を、休憩もそこそこにライトニングバニーが訪れ、ダイナマイト・シュガーと戦った感想を述べた。

 ダイナマイト・シュガー敗れる!!
 ライトニングバニーのムーンサルトプレスを受け、気を失ったダイナマイト・シュガーが担架で運ばれていく姿は、東女のファンだけではなく、東女のレスラーにも、試合を控えているアイギス佐久間(リネット・ハウンド(fa1385))にも、少なからず動揺を与えていた。
(「私が勝たなければならない‥‥ふふふ、おかしなものね。こんな気持ち、ベルトを失ってから久しぶりに感じるなんて」)
『笑っていられるほど、今のあなたに余裕がありますの?』
 ダイナマイト・シュガーに敗れて以降、久しぶりに感じたエースとしてのプレッシャーに、闘志を燃やしながらも思わずほくそ笑んでしまうアイギス佐久間。彼女の様子が気に入らなかったのだろう、きらびやかな西陣織の着物を纏ったロッキー龍子がマイクを借りてきつめの口調で語り掛けた。生粋のお嬢様である彼女は、リングガウンもコスチュームも数百万は下らない超高級品を身に付けている。
『あなたを倒した小娘は、とんだ見込み違いでしたわ。あんなに簡単にバニーさんに敗れるなんて‥‥本当にしょっぱいですわ。まさかあなた、あまりに弱いから油断して足元を掬われた、なんて情けない負け方をしたんですの? 嗚呼、本当に情けない。せいぜい、あの小娘みたいに無様な負け方だけはしないで下さいね』
「お心遣い、痛み入ります。確かに私は先程の試合で負けてしまったダイナマイト・シュガーに敗れていますが、あなたもまだ私に勝利した事がないのではないですか?」
 ダイナマイト・シュガーに負けたアイギス佐久間に怒りを感じているロッキー龍子は、その想いをそのままぶつけるが、そこは日本女子プロレス界の女王。落ち着きを払って冷静に切り返す。
 ロッキー龍子がマイクを返すと、試合開始のゴングが鳴り響く。
「ロッキー龍子さん、1つ教えてあげましょう。盾とは、決して砕けないからこそ盾なのですよ」
 アイギス佐久間はそう言い放つと、間合いを詰めながら自重を乗せたエルボーを放つ。その腕を取ってブレーンバスターへ繋げるロッキー龍子の投げに耐え、逆にそのまま組み付いてフロントスープレックスへ。
  ロッキー龍子に反撃の糸口さえ与えない、果敢な攻めだ。いささか、勝ち急いでいるきらいもあるが、大技ではなく、小技でまとめており、隙がない。
(「隙がなければ壊してでも作るまでですわ」)
 ドロップキックをスクラップバスターで強引に叩き落とすロッキー龍子。スクラップバスターやフェイスクラッシャーといった技を好んで使うのは、力でねじ伏せるスタイルであり、相手を壊すのではなく、相手と自分、どちらが最後まで立っていられるか、それを試合に求めているからだ。
 ダウンし、立ち上がるアイギス佐久間へ容赦なくフェイスクラッシャーを食らわせる。次第にロッキー龍子のペースになってゆく。
「これで‥‥止めですわ!」
 アイギス佐久間の腹の前に両手を組ませた状態でロックしたパイルドライバー――ドラゴンバスター――が炸裂。
 カウントが入るが、アイギス佐久間は“アイギスの盾”である意地だけで、カウント2.9で立ち上がる。
「最強のモンスター、ドラゴンを倒す“竜殺し”でも、このアイギスの盾は砕けはしません!」
 勝利を確信していただけに、動揺を隠せないロッキー龍子に必殺のキャプチュードを決める。
 しかし、アイギス佐久間も先程のドラゴンバスターで肩を痛めており、ロッキー龍子共々立ち上がれない。
 ここで試合終了のゴングが鳴る。レフリーは両者KOの引き分けを下したのだった。

「腕が上がらないくらい肩を痛めても、キャプチュードを放つとは‥‥そうよ、今日の、強いあなたを私は求めていたんですわ。この決着は改めてつけましょう」
「今年の『関ヶ原』が楽しみやな。今年こそ、最強の座はウチらがもらうで」
 ライトニングバニーに肩を借りながら立ち上がったロッキー龍子は、シェリルやエスターに支えられたアイギス佐久間と握手を交わす。
 だが、この場にダイナマイト・シュガーはいない。彼女は病院へ搬送されていた。