Succubusの新年会アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 不明
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/25〜01/29

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。

 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「クリスマスイヴのゲリラライブでは時間がなくて、ライブ後の打ち上げができず、残念でしたわね」
「参加してくれたアーティスト達が、思い思いの素敵な歌を披露したのですもの、仕方ないわ」
 バスの中で大きく伸びをするシュタリアの身体を、スティアが恍惚とした表情で丹念にマッサージしている。
 Succubusの3人はただいま入浴中だ。バスルームは広く取られており、バスユニットは3人がゆうに一緒に入れる程大きい。Succubusの3人は血は繋がっていないが、姉妹同然にここで一緒に暮らしている。
 去年のクリスマスイヴに行ったゲリラライブ『Christmas Eve』では、参加したアーティスト達が次々と力作を披露し、予定していたライブ時間をフルに使っていた。その為、恒例のライブ後の打ち上げができなかったのだ。
「シュタリアお姉様は、打ち上げを楽しみにしているのですものね!」
「あら、ティリーナ。アーティストと話をするという事は、それだけで様々な感性が得られるのですわよ?」
 愛おしくシュタリアの緑の黒髪を洗っていたティリーナが、途端にお嬢様然とした、でも気の強そうな顔立ちの口を尖らせる。
 末っ子のティリーナは“超”が付く程のシスコン――しかも、次女のスティアより、長女のシュタリアにベッタリ――で、Succubusの中で唯一、他の女性アーティストに興味を示さないし靡かない。
 ティリーナはシュタリアが他の女性アーティストと話をしているだけでヤキモチを焼くのだ。
 しかも、シュタリアは可愛い女の子を前に“会話だけ”で済むはずがない。打ち上げでは会話以上に踏み込む事も多く、ティリーナはその事でここ最近はずっとやきもきしていた。
「ティリーナ、お姉様にそんな口を利くものではないわ。それに、あなただってアーティストと話しくらいするでしょう? その事でお姉様が注意した事があって?」
「そ、それは‥‥」
「ふふ、いいのですよ、スティア。ティリーナのギターへの想い入れが強い証拠ですもの」
 他の女性アーティストに興味を示さないし靡かないティリーナだが、ギターの事となると話は別だ。彼女は早弾きを得意としており、ことギターテクや作曲に関しては饒舌になる。
 シュタリアは姉離れ、という程ではないが、自分以外にももっと興味を持ち、視野を広げて欲しいと思っていた。だからこそ、日本国内最大手のロック系音楽プロダクション『ヴァニシングプロ』からの勧誘を承諾し、ティリーナを所属させたのだ。
 血こそ繋がっていないが、我ながら姉バカだと思う。そして、これから切り出す事も、ひいてはティリーナの視野を広げるのに一役買って欲しいとも思っていた。
「スティア、次のゲリラライブですが」
「初詣、成人式共に、時期を逃してしまったわね。次はバレンタインと見せ掛けて、節分にします?」
「いえ、今月はゲリラライブは行わず、新年会を開きたいと思いますの」
「新年会、ですか」
 ファン達をやきもきさせるのが、Succubusのゲリラライブの目的である。バレンタインはオーソドックスだと思ったスティアは、意表を衝いた節分を思い付いたが、シュタリアの返答は全く違うものだった。
「そう、新年会ですわ。去年、ゲリラライブに参加して下さったアーティスト達を労うと共に、親交を深め、今年のゲリラライブの指針を話し合えたらと思っておりますの」
 Succubusのゲリラライブに、アーティストの参加は欠かせない。もっと、アーティストと親交を深めたいとシュタリアは思っているようだ。
「‥‥場所はどこで行うのでしょう? ホテルの部屋を借ります? それともライブハウス? カラオケボックスは遠慮したいですが」
「いえ、ここでやりますわ」
「こ、ここでって、この家で、ですか!?」
「ええ。キッチンもありますから、手作り感のあるアットホームな新年会ができると思いますの。それに防音も備えていますから、簡単なセッションも可能でしょう? 疲れたらお風呂で語り合うのもいいですし」
 シュタリアの応えに素っ頓狂な声を上げるティリーナ。スティアも意外だという表情を浮かべている。
 この秘密の花園は、ファン達には場所すら公開していない、ティリーナ達も友達すら連れてきていない、いわばSuccubusの聖域である。そこへ他人を招こうというのだ。
「お姉様のお考えはわたしの理解の範疇を越えているけど、お姉様がよろしいのでしたらわたしに反対する理由はないわ」
「スティアお姉様!?」
「ティリーナはどう?」
「どうって‥‥ずるい! そんな聞き方ずるいです、シュタリアお姉様! スティアお姉様も了承した今、私が反対してもやるおつもりのくせに!!」
 ぽかぽかとぐーでシュタリアの胸の辺りを殴るティリーナ。これでも反対を表明しているのだが、端からはじゃれているようにしか見えない。
「では、決まりですわね。スティア、ファンサイトに告知しておいて下さいな」

 その後、ファンサイトに、Succubus主催の新年会の告知がされた。アーティストのみ参加可能という事で、それを見たファンは一斉に溜息を付いたという。
 新年会は“無礼講”と銘打っているが、アルコール類の事ではないので、未成年者は注意する事。尚、女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性があるので、こちらも注意されたし。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0069 イオ・黒銀(22歳・♀・竜)
 fa0175 クラウド・オールト(16歳・♀・竜)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4581 魔導院 冥(18歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●Succubusの聖域
 新年会の料理や飲み物、お泊まりセットを持ってSuccubusが指定された待ち合わせ場所に集まったMICHAEL(fa2073)達の前に現れたのは、何とマイクロバス! しかも、紅 勇花(fa0034)達が座席に着くと、乗っていたティリーナ(fz1042)が全員にアイマスクとICレコーダーを着用させた。
 ちなみに、鳴瀬 華鳴(fa0506)の性格を把握しているティリーナはアイマスクを外さないよう、彼女の隣に座りぴったりと肌を寄せていた。鼻腔をくすぐるティリーナの甘酸っぱい体臭と、少し身体を動かせば味わえるティリーナの柔らかい身体の感触。華鳴からすれば、まだまだ詰めが甘いようだ。


「ようこそ、Succubusの秘密の花園へ」
 アイマスク&ヘッドフォン着用のままマイクロバスを降りた後、前の人の肩を掴んで歩かされた西村・千佳(fa0329)達は屋内へと入った。
 シュタリアの声が聞こえたのでアイマスクとヘッドフォンを外すと、そこは玄関先だった。華鳴は即座にバッグからデジタルビデオカメラを取り出して撮影を始める。
「本日はお招き戴いて、恐悦至極ってとこかしら」
「ここでイオさんのように手作りだって言えれば、ちょっと格好が付くんだろうけど、残念ながら既製品なんだよね」
「俺もそうだから気にするな。俺の行き付けの店のタコスなんだが、たっぷりスパイスが利いてて美味いんだぜ」
「ふははは、御機嫌よう! 先日は世話になった。これは土産の、魔界名物『蜂蜜まんじゅう』だ。蜂蜜を混ぜたタイヤキ生地とこしあんの上品な甘さのハーモニーが堪らない一品だゾ。皆で心して食すが良い」
 イオ・黒銀(fa0069)が持参した手作りピザや唐揚げといったお摘みを、不破響夜(fa1236)がサンドイッチの詰め合わせセットを、Tyrantess(fa3596)がたっぷりスパイスの利いたタコスを、魔導院 冥(fa4581)が蜂蜜まんじゅうを挨拶宜しくシュタリアに渡すと、彼女はたおやかに笑って受け取る。
「‥‥台所を貸してもらえないか? ‥‥いつもライブに参加させてもらっているからな。今日の料理は任せてゆっくり休んでいてくれ」
 クラウド・オールト(fa0175)は新年会にちなんで、お節料理と雑煮を作るという。彼女から食材を受け取ったスティアがキッチンへ案内した。
「クリスマスの時はうっかりしてて参加できなかったからな。今回参加できて良かった」
「そうね、今回は骨休みのつもりで来たから、作詞も作曲もしないわ‥‥面倒だし」
「食前に軽く一杯どう? 響夜はこっちだけど」
 テーブルに付いた響夜と稲馬・千尋(fa0304)は、
「Succubusのみんなの私生活を覗き見覗き見〜♪」
「Succubusのお姉ちゃん達ってどんな部屋なんだろー。楽しみなのにゃ〜♪」
「MICHAEL隊長! 鍵が掛かっていて開かないであります!!」
「むむ、流石は女の子の秘密の花園、そう簡単には開かせないわね〜。じゃぁお風呂とか覗いちゃおうかな〜♪」
「それ、秘密の花園の説明は合ってるけど、使い方は間違ってるぜ」
「うにゃー、お風呂、温泉みたいに広いにゃ〜」
 早速家の中を探検し始めるMICHAELと千佳、それに付き合わされながらもノリノリのTyrantessを見ながら、まったりくつろぎムードだ。千尋へイオが軽く一杯勧める。未成年の響夜にはソフトドリンクで。
「一緒にこれを完成させて〜、冥ちゃんと3人でセッションをしたいと思うの〜」
「歌詞は鳴瀬君が決めているが、題名と曲調は3人で決めたいそうだ」
 華鳴は冥と一緒に、作り掛けの曲の歌詞をティリーナに見せ、セッションを持ち掛ける。華鳴1人なら断られていたかもしれないが、冥が一緒という事もあり承諾した。
「私としてはハードロックやデスメタルが好きだから、曲調は哀愁漂うブルースの要素を含んだミドルテンポで行ってみたい」
「私は早弾きを入れたいですから、それぞれの得意分野が活かせるよう、曲調を変えるのはどうでしょう?」
 冥とティリーナの提案をメモる華鳴は、声は間延びせず、表情も真剣そのもの。


 クラウドがお節料理と雑煮を作り終え、響夜達の前に並べると、イオや千尋も手伝ってタコスやサンドイッチのセットを広げ、MICHAEL達も探検から生還(?)する。華鳴達のセッションも形になったようだ。


●無礼講
「今日は、わたくし達Succubusの新年会にお越し下さり、ありがとうございますわ。今宵は日頃のゲリラライブの疲れを癒し、今後のゲリラライブについて話し合えればと思いますわ。それでは乾杯!」
「「「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」」」
 シュタリアが乾杯の音頭を採ると、全員がグラスやぐい飲みを掲げて重ね合わせる。
「‥‥お節の食材には、それぞれ意味がある事を知っているか? ‥‥例えば数の子だ。卵の数が多いという事で子孫繁栄という意味がある。ヤり合う事はいい事ってところか」
「酒飲みのおつまみは魚介が一番よね♪」
 お節料理の料理の意味を話すクラウドに、イオと呑み比べているMICHAELが相槌を打つ。
「私達お酒組みが大暴走したら止めてね‥‥」
「あぁ、イオさんにセクハラされた事もあったわね。もーてーあーそーばーれーたー」
「ふふ、何なら今度は身体だけではなく、心も弄ぼうかしら?」
「‥‥遠慮しておくわ」
 スティアの隣に腰を落ち着け、談笑しながらお酒をハイペースで煽るイオ。彼女の手が千尋の胸とかお尻に延びようとすると、棒読みで泣き真似をするが、イオの返事はきっぱりと断る。
「華鳴お姉ちゃんはいつも以上によく食べるにゃ〜‥‥太らないのかにゃ?」
「ある意味、女の敵だな」
「お前はこっちだな。一部の地域では汁粉を雑煮として出すらしい‥‥果物は余り物を入れただけだ」
 酒の呑めない千佳や響夜、Tyrantessは食べる方がメインになった。勇花が持ってきたショートケーキ1ホールと、クッキー詰め合わせ1箱を瞬く間に平らげ、サンドイッチの詰め合わせをティリーナの分まで食べた華鳴の勢いは止まらず、クラウドは彼女用にさくらんぼやバナナ、パイナップルにりんごを具材とした餡餅の汁粉を出した。

 夕食が一段落すると、勇花は愛用のギターを取り出した。
「あんまり場の雰囲気には合わないかも知れないけど、一番得意なタイプの曲ってコトで」
 即興でスピーディー且つ激しい曲を披露する。
「この前のライブで、あたしがピンチヒッターになってあげたよね〜」
「ギター持つと目つきが変わる? そんな事無いと思うんだけどな‥‥」
「いやいや〜。別に怒ってるわけじゃないけど‥‥見返りはちゃんと貰わないと、ね♪」
 最初は弾く気はなかったが、良い演奏を聞くと弾きたくなるのがアーティストの性か。MICHAELは悪戯っ娘のような笑みを浮かべながら愛用のエレキギターを取り出して、勇花に続いて即興で一曲披露した。


夜空に 浮かぶ 紅き月
灼ける城を映す 無常の鏡
慟哭の歌声 暗闇を裂いて
愛しき人は 黒に染まる

もう 戻れない
神をも 恐れぬ 禁忌(こ)の道

無垢な心に 穢れを呑み込んで
幾千の罪を重ね 幾億の業を背負う
悪魔に この身 捧げても
貴方に もう一度 抱かれたい――‥‥


 その後、冥と華鳴、ティリーナがセッションを始めた。
 タイトルは『罪哭(な)き姫』。全体的に冥の奏でるミドルテンポで、華鳴はブルース感漂うよう唄うが、途中のフレーズではティリーナの早弾きが入る。
「‥‥そういうのを聞くと、俺もセッションしたかったが‥‥次の機会にでも、だな」
 演奏が終わった後、クラウド達から惜しみない拍手が贈られる。相談した甲斐があったと3人は微笑み合い、ティリーナははっとしてそっぽを向いてしまったが、連帯感は得られたようだ。


●宴もたけなわ
 クラウドや勇花が食器の後片づけをする中、話題は今年のゲリラライブへと移る。
「今年のゲリラライブは、そうね〜、国内でいえば、メジャーじゃない地方を回るとか? 地方に住んでてライブに行きたくても行けない! ってファンは結構いるだろうし。そういうファンの事を考えるのも大事かなって思ったり〜」
 MICHAELが自分の経験談からそう切り出す。
「TVに出ない方針を貫き通すのも良いと思う。折角ヴァニシングプロに所属したのなら、スタジオゲリラライブも良いのではないか?」
「スタジオゲリラライブは面白そうだな。折を見て、どこかで一度くらいでかい事やってもいいかもな。俺は一度しか顔出せてなかったが、結構楽しかったぜ」
 冥が新しいゲリラライブのスタイルを提案すると、Tyrantessもゲリラライブで大きな事を考えていたようだ。
 参加者が見込めればシュタリアも是非したいとの事だ。
「海外といえば〜、去年の海外ライブは全てイギリスだったから〜、今年はアメリカに足を伸ばしてみたらどうかしら〜?」
「今年も世界中飛び回りたいにゃ〜♪ アメリカとか中東とかも行きたいにゃ♪ そして、いろんなお兄ちゃんやお姉ちゃんと遊ぶのにゃ〜♪」
 華鳴や千佳からは、ヨーロッパ以外の地域でのゲリラライブが提案された。


「にゅ〜、ちょっと疲れちゃったにゃー。みゅ、スティアお姉ちゃん。お風呂一緒に入ろー? 一緒にー♪」
 千佳はスティアと響夜、Tyrantessとイオを誘ってお風呂へ。
 スティア達3人が一緒に入っても余裕のあるバスタブだが、5人入ると流石に少々窮屈に感じられる。
「く、食われるのも嫌いじゃねえけど、さ‥‥」
「身体を洗われただけでここまで‥‥こんなの初めて‥‥」
 スティアと身体の洗いっこをしたTyrantessと響夜は、熱い吐息を吐きながら洗い場に寝そべっていた。そこへイオが絡んでくるのだから堪らない。


「まだ、勇花にも見せてない秘密‥‥これが、本当の私‥‥なのに‥‥」
「本当のあなたかどうかは知りませんが、所詮はその程度なのですよ」
 ティリーナの部屋で彼女のベッドに横たわる華鳴は、ティリーナの捨て台詞と扉の閉まる音を遠くで聞いていた。
 シュタリアは夕食後、Tyrantessとずっと「思うままに魂で弾く」音楽談議や「楽しい事」について語り合い、いろいろと教えており、相手にされなかったティリーナの機嫌はすこぶる悪かった。
 自らを抑制する箍を外し、隠してきた本性を開放してティリーナへ再度挑んだが、今回も勝てず、気を失った。
 何も飾らず、何も偽らず、打算と計算も捨てた本当の自分で挑んでも勝てない。スタートラインから遙か遠くにあるのだろうか‥‥。


「お疲れ様だな」
「私の弟もギターやっててさ、同じく早弾きが得意なのよ。見てて良く指とか攣らないなぁとか思ってるけどね」
 部屋から出てきたティリーナを、冥がソフトドリンクを片手に出迎える。今までイオと、ギター談義をしていた。
「君は早弾きが得意と聞いてな。アレは地道な基礎の積み重ねの上に成り立つもの、相当な努力をしているのだろう」
 ティリーナは1日最低2時間のギターの練習は欠かさないそうだ。
「私はスウィープが好きだが得意という程でもない。裏方志向でリフばかり練習しているのが現状か」
「いえ、冥さんの得意なメロディに合っていると思います」
 イオは冥を褒めるティリーナに驚いた。ギターの事となると親しみを持ってくれるようだ。
「ティリーナってさ、ギター弾く時に何を見て、何を思ってる? たま〜にあなたって観客じゃなくシュタリアだけにベクトルが向いてる気がしてね」
「その通りですよ。わたしはシュタリアお姉様の為だけにギターを弾いているのです。それがいけませんか?」
「いけなくはないだろうけど、弟はステージに立ったら気持ちを向ける方向は観客だって言ってた。折角自分達の歌や音楽を楽しみにして聞きに来てくれてるんだから、全部を曝け出して応えてやら無いとナンセンスだ‥‥ってね」
「テクニックでカバーできるのは、いつか限界が来るだろう。その時、誰の為に、何の為に、ギターを弾いているのか、問われるだろうが、どんな応えを出すかはティリーナ次第か」


「‥‥クリスマスライブの時の事なんだけど‥‥」
 勇花はシュタリアに相談を持ち掛けたところ、一緒にお風呂に入る事になった。千尋が先客としていたが、「邪魔したら分かってるわよね?」と強い威圧感を放っていたし、真面目な話なのでシュタリアもそんな野暮な事はしない。
「ライブ中にキスされて、ついそれに応じてたら、夢中になり過ぎて演奏の手が止まっちゃったんだ。勢いでやったとはいえ、それで肝心の演奏の方が疎かになっちゃったのが情けなくて‥‥それにSuccubusの皆にも申し訳なくて。それを謝りたかったのと‥‥こんな僕だけど、今後も機会があれば一緒にライブさせて貰ってもいいかな、と」
「私の去年の反省点は、やっぱりパフォーマンス不足かしらね」
「え!?」
 自らの痴態を振り返り反省する勇花に、千尋も自分の反省を語り掛ける。
「歌と楽器演奏に集中してると、仕方ない事なんだけどね。でもこれからも余裕はあまりないかな。私、楽器大概扱える分、ちゃんと集中してないと弾けないし‥‥自分がその時やりたい音楽に合わせて楽器を使いたいから、楽器のこだわりって無いのよね」
「つまり、人それぞれという事ですわ。勇花の演奏が止まってもMICHAELがフォローしてくれたように、ゲリラライブは1人で行っている訳ではありませんもの。ですから、またゲリラライブに参加して下さいな」


 尚、全員がお風呂から出る際、お土産としてシュタリアが1人1人に見立てた新しい下着が用意されていた。