Midnight Streetアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
なし
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/25〜03/03
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●本文
『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
ボーカル兼ベースのシュタリア。
ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。
『Only two persons’night along which it is invited to the light of the moon and he walks with you.
You who allow as are always kind,and watch me.
Only by being in a you side,I need nothing.
But it tells this my thought and you and does not go out.
It tells and he is you about this thought of Moon Light and me.』
彼女達は月と恋愛(片思いや悲恋)を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
メディアに露出していない理由は、Succubus――文字通り夢魔の如く、深夜にしかライブを行っていないからだ。しかも、好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。
そして、ライブ中にも関わらず、人目を憚る事なく抱擁し合ったり、接吻を交わすパフォーマンスが、彼女達のSuccubusたる所以なのだ。
シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けがあるが、血は繋がっていない。
そして今度、Succubusは深夜の大都市の大通りに現れ、路上でゲリラライブを行うという書き込みがファンサイトになされていた。
しかも今回は彼女達だけではなく、他のロッカーやロックバンドを誘う内容が書かれてあった。
呼び掛け=有志なので報酬はないが、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
また、ファン達はこのゲリラライブを見逃すまいと、深夜の大都市を徘徊するのだった。
――そうやってファン達をやきもきさせる事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
●リプレイ本文
●移動中
「真夜中のライヴか、楽しそうだね」
「大阪は不思議な物が一杯です!」
「‥‥場所は、通天閣の真下にある‥‥通天閣南本通り、でしたね‥‥」
「私、ライブ自体初めてなのでぇ、頑張っちゃいまーす♪」
紅 勇花(fa0034)と空野 澄音(fa0789)、DESPAIRER(fa2657)と鳴瀬 華鳴(fa0506)は新幹線に乗り、一路、大阪は通天閣を目指していた。
『Succubus(サッキュバス)』から今回のゲリラライブの好きな開催場所を聞かれたところ、大阪という意見が一番多かった事から、通天閣の真下にある通天閣南本通りで行う事になった。
勇花はシャツの上にレザージャケットを羽織り、ジーンズ履きに帽子を被ったいつものスタイルで、愛用のギターをケースに入れて網棚に上げてあった。彼女の相向かいに座る澄音は、カジュアルなパンツスタイルにダウンジャケットを羽織り、艶やかな黒髪にキャスケットをちょこんと乗せていた。伊達メガネ越しに借りた華鳴とDESPAIRERの歌のスコアに目を通しながらデモテープを聞く姿は、知的なメガネっ娘である。
澄音の横に座るDESPAIRERは、そのままダンスパーティーへ行けるような漆黒のタイトなドレスに痩躯を包んでいた。座席に座っていても俯き加減で、元々無口なのか口数は少ないが、真向かいに座る華鳴を始め、話し掛ければ応えた。チョコレートを頬張る華鳴の天真爛漫な愛らしい容貌は、地味なコートを着込み、伊達メガネを掛ける事で息を潜めていた。
座席を向かい合わせ、会話を弾ませる4人の姿は、これからゲリラライブへ行くというより大阪へ観光に行く女性のグループだと乗客には映るだろう。
「ライブ、初めてなのですか?」
「はい、だからとぉっても楽しみですぅ。よろしくお願いしますねぇ、ティリーナちゃん」
華鳴と通路を挟んだ隣には、Succubusの三女にしてギター担当のティリーナが乗っており、ツインドリル髪――もとい、縦ロールのツインテールを揺らしながら彼女に聞いていた。
「千尋お姉ちゃんと一緒〜♪」
「大阪は広いし、人も多いから、はぐれないように手を繋ごうか?」
「ホント!? じゃぁ、スティアお姉ちゃんも一緒にね♪」
「あらあら、私もいいの?」
こちらは在来線を利用して大阪駅に着いた西村・千佳(fa0329)と稲馬・千尋(fa0304)、Succubusの次女にしてドラム兼シンセサイザー担当のスティアだ。
お兄ちゃんやお姉ちゃんが大好きな千佳は、はぐれないように差し伸べられた千尋の手――というより腕に抱き付き、空いている片方の手でスティアの腕を引き寄せてしっかりと抱いた。
落ち着いた知的なお姉さん風の千尋と深窓の令嬢を思わせるスティアに挟まれた千佳本人は、まさに“両手に花”である。
「うにゃ、スティアお姉ちゃんやSuccubusのお姉ちゃん達は、初めましてじゃないような気分なんだよね♪ この抱き心地とか♪」
「既視感(デジャブ)、ね。千佳はアイドルだから、もしかしたらSuccubusのメンバーと会っているのかも知れないけど」
スティアの抱き心地を何故か身体が覚えているという千佳に、千尋は既視感だと説明した。
「ゲリラライブなんて‥‥ゲリラライブなんて‥‥楽しみ〜♪」
「‥‥ああ」
「それに、Succubusとのコラボなんて‥‥燃えるわ〜!」
「‥‥ああ」
「クラウドちゃんやシュタリアちゃん、それに今回一緒にライブやる皆と、ライブを通じて是非とも仲良くなりたいわね」
「‥‥ああ」
「女の子だけってのも面白そう。この中に1人だけ男の子がいたりしたらもっと楽しそうだったけど」
「わたくしは可愛い女性だけで安心しておりますわ」
MICHAEL(fa2073)が運転するワンボックスワゴンの車内。後ろにはクラウド・オールト(fa0175)のドラムセットを始め、澄音のキーボード等が積まれていた。
MICHAELの話題に相槌を打つ助手席のクラウドだったが、後ろの席からSuccubusの長女にしてボーカル兼ベース担当のシュタリアが顔を出す。
「‥‥た、頼む。近づかないでくれ‥‥」
「あら? レンタカー代、身体で払ってくれるのではなかったかしら?」
「待て‥‥俺はそんな意味で言ったんじゃないぞ‥‥」
「キスなんてスキンシップだよ、スキンシップ♪」
ころころと笑いながら顔を近づけるシュタリアに、クラウドは窓際へ身を寄せて抵抗を見せる。MICHAELは楽しそうに横目でちらちらと二人の様子を窺っていた。
Succubusのゲリラライブは有志なので報酬が出ない代わりに、交通費等はSuccubus持ちだった。なので、各交通手段にSuccubusのメンバーが同行しているのだ。
しかし、クラウドがドラムセットを運ぶ為にレンタカーを借りたいと告げると、シュタリアは難色を示した。レンタカー代を出し渋った訳ではない。気付かれないよう突然、演奏を始めて人々を驚かせる事にSuccubusのゲリラライブの醍醐味があるので、意外と目立つ車による楽器の上げ下ろしは避けたかったのだ。
本来はドラム担当のスティアがシンセサイザーを使用しているのは、そういう理由があるからだ。
クラウドは「身体(=ゲリラライブ)で返す」とレンタカーを借りたが、その後、唇を奪われそうになったのを皮切りに、先程のように事ある毎にシュタリアがそれを持ち出しては迫ってきた。
Succubusのライブ中のパフォーマンスはサービスではなく、絶対にシュタリア達の趣味だと、身を以て実感したクラウドだった。
●ゲリラライブin大阪通天閣
大阪のシンボル塔『通天閣』のある一帯は、娯楽の街『新世界』と呼ばれ、大阪の庶民に古くから愛されている。
「真夜(しんや)の祭に誘われて、白兎タリストここに来る‥‥ってね」
「Succubusのゲリラライブin大阪通天閣、ただいま開催です♪」
月夜に浮び上がる、ライトアップされたパリのエッフェル塔と凱旋門を模して造られたという通天閣をバックに、黒のロングコートとレザーパンツ姿のクラウドのシンバルの音が鳴り響き、帽子を取って中に隠していた兎耳を露にする勇花と、猫娘姿のMICHAELのツインギターが辺りにつんざく。
キーボードの音を確かめながら、周囲の人々に挨拶を兼ねてゲリラライブの開催を告げる澄音。メガネっ娘から一転して、チェーンを背中に湛えるキセキレイの翼や腕に巻き付け装飾性を高めている。
事前にSuccubusのファンサイトの掲示板のゲリラライブの告知の書き込みを見て、当たりを付けて待ち構えていたファンもいたが、大半は何も知らずに呆然と見入っている者達ばかりである。携帯電話でこまめに連絡を取り合い、到着時刻を調整した甲斐があったようだ。
「シュタリアちゃん、先ずは成功だねぇ」
周りの者達の反応を楽しげに見ているシュタリアへ、カナリアの翼を背中に湛え、純白の服装を纏い、羽根飾りが付いた帽子を被った華鳴が抱きついた。
「最初はDESPAIRER君の『Moonshine』です! この日の為に作った新曲だそうですよ!」
澄音がDESPAIRERを右手で示し、軽く説明すると、蝙蝠の翼を覗かせる背中の大きく開いた黒のドレスを纏った彼女が前へ歩み出る。
♪「愛してる」と囁く貴方の その瞳が全て語ってる
「これはつまりただのゲームさ 愛に似せたただのゲームさ」と
どうせホントの愛なんて
そこにもここにもどこにもない
どうせ掴めぬ星よりも
グラスの煌めきがちょうどいい
偽りの愛はMoonshine
罪と知ってもなお欲しくなる
そして今宵もFeel so fine
酔えば全てを忘れられる♪
ややスローテンポの気怠くももの悲しい感じの曲は、「真実の愛を求める事に疲れた女が、偽りの愛という名のムーンシャイン(=密造酒)に溺れていく」という、Succubusをリスペクトして、彼女達と同じ『月と恋愛』をテーマにした歌だ。
DESPAIRERの歌声に合わせて、リードギターの勇花がテンポを気持ち遅めに、ドライで気怠い雰囲気を出し、澄音がシンセサイザーを使い、左手で和音に重点的に右手で旋律を演奏する。
サビの部分では、DESPAIRERが最前列にいる女性へゆっくり歩み寄り、舌舐めずりをしながら頬を撫でたり、顎をしゃくったりと、セクシーなパフォーマンスも忘れない。
男性陣から、「おお!」と感嘆のどよめきが漏れる。
「来る時はかくれんぼが大変だったけど、その分、リアクションはご機嫌のようですね。次は華鳴君の『鳥籠姫』です!」
司会よろしく、周囲と絡んで雑談しながら華鳴を紹介する澄音。
♪幽閉されし鳥籠(ケージ)の姫君
四角く区切られた世界(そら)に想いを馳せる
古の鎖に繋がれて
禁忌(タブー)と知りながら恋焦れる
小さな胸に秘められた 儚き情事(ゆめ)を叶える為に
愛欲に狂いし姫君は 戒めを解き放ち
無垢なる翼を広げ飛び立つ あの人の待つ場所へ‥‥
(愛しています、お兄様‥‥)
鳥籠の外へと舞い出でて 歪な愛の日々を狂夢(ゆめ)見る
その先に 甘い蜜(ハニー)を湛えた 罠があるとも知らずに‥‥
未来(あす)は要らない 愛してもらえるのなら
穢れた楽園(エデン)の夢を見る少女 破滅の匂いを纏い翔る
報われぬ闇に囚われた鳥籠姫‥‥♪
前へ出る時に何も無い場所で転び、ドジっ娘を印象づけての物静かな歌い出しとなったが、サビの少し前辺りから一転してスカートを振り乱し、軽やなテンポに変わる。ジャンプして、下着が見えるか見えないかというギリギリのラインでスカートを押さえ、「見せないよ」とペロっと舌を出して笑ったり、サビが終わった後の間奏ではクラウドへ近づき、竜の尻尾の付け根――というかお尻を触ったりと、清純可憐の中に小悪魔的な一面も魅せた。
勇花とMICHAELも、出だしは静かで暗鬱な雰囲気を醸し出し、華鳴の動きに合わせて激しく狂的な曲調へと変える。澄音は御伽噺の中のようなふわふわした感じを出し、サビに入ったら音の設定をピアノに変え、抑え目に演奏した。
「はやー‥‥お姉ちゃん達、みんな、上手ー。僕も負けていられないね♪」
「テンション上げていこうか!」
「うん♪ うふふ〜♪ 今回はお姉ちゃんばっかりだから、それだけで気合が入るよ〜♪」
ちょこんと覗く猫耳と尻尾、小さな天使の翼が付いたフリフリの魔女っ娘を思わせるステージ衣装、そしてマイマイクも魔女っ娘のステッキという、妹系アイドルの千佳が前へ出ると、勇花が発破を掛け、彼女も満面の笑みで応える。
♪明るい空へと 駆け出していこう
暗い気持ち全部 空へと吹き飛ばして
手を繋いで 一緒に走れば
笑顔の力が 沸いて来るよ
胸から溢れる マジカルパワー
絶対無敵の 心の魔法
きっと負けないから‥‥♪
千佳の歌は魔女っ娘アニメの主題歌で流れていそうな、夜の暗さを吹き飛ばす明るいノリだ。千尋のベースとクラウドのドラムもそれに合わせて、軽くリリカルな演奏で、MICHAELに至ってはギターを片手にアクロバティックにバク宙を繰り出す。
「後ろまで来て‥‥俺は別にそんな事はして欲しくないぞ‥‥」
間奏中、千佳が仔猫のように擦り寄ってくるとMICHAELもそれに応えて頬にキスを落とし、2人掛かりで左右からクラウドの頬にキスをしたりと彼女をからかうのも忘れない。
「さぁ、Succubusの前の取りを務めるのは千尋君、歌は『tempester』です!」
取りを務める千尋が澄音に紹介されて前へ出た。
♪荒れ狂う嵐の様に 全てを吹き飛ばすアンタ
止まない嵐は無いって言うけど アンヤは止む事無いじゃない!
嵐ばっかの毎日じゃ 周りの皆も疲れるだけよ
そろそろ綺麗な青空 覗かせたっていいんじゃない?♪
最初は物静かな曲調だが、そのテンポは速めだ。中盤から激しさを増していき、サビのところで一番激しく、速くなる。
中盤の激しさは、クラウドの力強く迫力のあるドラムで盛り上がり、ツインギターの勇花とMICHAELも千佳や華鳴と一緒に跳んだり回ったりする。
最後の方はゆっくり、静かに終わる。DESPAIRERもそれに合わせてバックコーラスを添えた。
最後にSuccubusの3人が歌を披露すると、千尋達は早々に、そして散り散りに撤収していった。
「せっかく大阪に来たんだから、やっぱりタコヤキとか食べたいよね〜」
MICHAELの一言で、撤収が終わった後、タコ焼きの元祖といわれる店で落ち合い、ささやかな打ち上げが行われた。
「あなたのお陰でいい演奏が出来たわ」
「私も楽しめましたし、千尋君も楽しんでもらえたようでよかったです」
アルコールとジュースで乾杯する千尋と澄音。エレキギターやシンセサイザーのアンプやスピーカーは、澄音が近くの楽器店で交渉して使わせてもらっていた。
「華鳴お姉ちゃんのダンス、格好よかったよ♪ 僕もああいう風に踊りたいな♪」
「千佳ちゃんの踊りの振り付け、可愛かったですよぉ。食べちゃいたいくらいですぅ」
華鳴にべったりの千佳。華鳴はそんな千佳を愛らしく思い、ぎゅっと抱き締めた。
「ドラムが力強いと、ギターもやりやすいよ」
「‥‥そういってもらえれば幸いだが‥‥今日は散々だった‥‥だがライブそのものは楽しかった」
「‥‥いじられやすい、体質のようですね‥‥」
何故かキスされたり、触られまくったクラウドはげんなりしていたが、勇花が感想を述べて元気付ける。DESPAIRERの言葉が追撃となったのはいうまでもなかった。