それぞれのバレンタインアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 5Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 35.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/14〜02/18

●本文

●マーメイド・ベイ 背景
 むかしむかし、あるところに、眼下に綺麗な蒼い蒼い海を臨む、丘の上に建てられた石造りのお城がありました。
 そのお城は周りは夜で真っ暗だというのに、煌々と灯りが点り、まるで昼間のような明るさです。
 中から楽しそうな話し声や音楽が聞こえてきます。
 今日は、このお城の王子様と、王子様を助けた人魚のお姫様の結婚式が開かれていました。

 少し前、王子様の乗った船が大きな嵐に遭い、船が沈んでしまったのです。
 溺れそうになった王子様を助けたのが、人魚のお姫様でした。
 人魚というのは、上半身は人間ですが、下半身はお魚という、深い深い海の底、綺麗な珊瑚礁にお城を構え、海の中で生活をする、人間とは違う種族です。
 この人魚姫は、その日丁度成人式を迎えて大人の仲間入りをし、生まれて初めて海の上に行ったばかりでした。
 人魚姫に助けられた王子様は大変感謝し、是非、城に遊びに来て欲しいと人魚姫に言います。
 人魚姫は王子様に連れられてお城へ遊びに行きます。見るもの聞くもの食べるもの、全てが初めてで、人魚姫は楽しい毎日を過ごしました。
 しかし、人魚は海に住む生き物、陸の上で長くは過ごせません。海に帰らなければならなくなりました。
 また、王子様は隣の国のお姫様と結婚する約束をしていました。
 王子様と人魚姫は、2人ともお互いを好きでしたが、一緒にいられないのです。
 ですが、王子様は勇気を出して隣の国のお姫様に人魚姫が好きだと言い、人魚姫も海に住む人魚の魔女から人間になれる薬を譲ってもらい、張れて人間となる事ができました。
 こうして王子様と人魚姫は結ばれたのです。

「今日からはずっと一緒だよ、人魚姫」
 王子様は人魚姫を連れてお城のバルコニーへ出ました。
 お城の中の騒ぎが嘘のように静かで、さざーん、さざーん、とさざ波の返る音が聞こえます。
 ――♪ 〜♪
 すると、さざ波に混じって、王子様に聞き覚えるある歌声が微かに聞こえてきました。
 でも、その歌声はとてもとても悲しく、心が締め付けられるような歌声でした。
「この歌声は‥‥」
「王子様、夜風に当たりすぎると風邪を引いてしまいますよ。せっかく結婚したのに、寝込まれては困ります」
 王子様はもう少しで何かを思い出しそうでしたが、人魚姫に軽く注意をされるとその事をすっかり忘れてしまいました。
「そうだね。でも、風邪を引いて人魚姫に看病してもらうのもいいかな」
「まあ、王子様ったら!」
「そうそう、僕達の結婚記念碑だけど、あのような悲しい像でいいのかい?」
 王子様は人魚姫に甘えた後、入り江の方を指差しました。
 その小さな入り江は、王子様が人魚姫に助けられ、初めて会った場所です。その先端に、王子様と結ばれた人魚姫の石像が記念として建てられました。
 しかし、胸の前で手を重ねた姿の人魚姫の石像は、今にも泣きそうなくらい悲しい顔をしており、とても王子様と結ばれた事を喜んでいるとは思えないのです。
 しかも、お城のメイド達が、夜、あの人魚姫の石像が涙を流していたと噂をしていました。
「王子様と結婚できて、私は嬉しいです。あの石像は王子様と結婚できなかった私なのです」
「それであんなに悲しいのか‥‥」
 王子様は人魚姫の話に納得して、バルコニーからお城の中へ戻っていきます。

「可哀想な人魚姫‥‥」
「私達にあなたを元に戻す力があれば、今すぐにでも戻してあげたいのに‥‥」
 入り江の先端には、何人かの人魚が集まり、人魚姫の石像を見上げで泣いていました。みんな、人魚姫の兄弟や姉妹達です。
 そして、人魚姫の石像も泣いているではありませんか! しかも、先程聞こえた悲しい歌声も、この人魚姫の石像から聞こえてきます。
 この石像は本物の人魚姫だったのです。

 実は王子様と結ばれた人魚姫の正体は人魚の魔女が変身したものでした。
 人魚の魔女も王子様の事が好きで、人魚姫が人間なりたいと頼みに行った時、魔法を掛けて人魚姫を石に変えてしまい、入れ替わったのです!
 その事を知った人魚姫の兄弟姉妹達は、人魚の魔女の魔法を解く方法を探していました。
 すると、隣の国のお姫様が、王子様が人魚姫に贈り、悪い魔女が捨ててしまった『サムシングフォー』を見付けて、王子様に今の人魚姫が偽物だと気付かせる事ができれば人魚姫は元に戻る、と教えてくれました。
 
 人魚姫の兄弟姉妹達は、魔女の人魚の家がある、珊瑚礁の迷路へ向かいます。
 しかし、そこは魔女の人魚が魔法を掛けて迷路にしたので、意地悪な仕掛けがたくさんあります。

 果たして、人魚姫の兄弟姉妹達は、珊瑚や海草の中に隠されたサムシングフォーを見付ける事ができるでしょうか?
 また、人魚姫は元に戻り、王子様と結ばれる事ができるでしょうか?


●プロモーションドラマ制作依頼
 以上が、『ファンタジーランド』のアトラクションの1つ、『マーメイド・ベイ』の背景だ。
 ファンタジーランドは東京湾に浮かぶ遊園地で、アメリカに本部を持つアニメキャラクターの始祖『ファンタジースタジオ』が運営している。
 参加者は人魚姫の兄弟姉妹となり、珊瑚礁の迷路の中を進み、珊瑚や海草の中に隠されたサムシングフォーを見付けて出口まで行く、という内容になっている。
 サムシングフォーを全て見付けられた場合、元に戻った本物の人魚姫が出迎え、王子様と共に記念撮影のサービスが受けられる。この人魚姫と王子様はファンタジーランドのキャストが扮している。
 サムシングフォーを見付けられずに出口に来たり、途中でギブアップした場合、残念ながら本物の人魚姫に会う事はできない、という仕組みだ。
 今回、このマーメイド・ベイのプロモーションTVドラマを作成して欲しい、というのがファンタジーランドからの依頼だ。
 マーメイド・ベイは、人魚姫と王子様の恋愛を扱っており、探索系アトラクションなので子供の参加者も多いが、カップルや夫婦の参加者も多いという。バレンタインデーにあたり、プロモーションTVドラマを特番で放送する予定だ。
 人魚姫や王子様といったキャストの他に、音楽や音響、撮影スタッフも同時に募集している。
 基本的なストーリーと結末は、マーメイド・ベイの背景の通りで、途中のストーリーはキャストが相談して自由に決めてもらって構わない。恋愛要素やちょっとしたどんでん返し(隣の国のお姫様も実は人魚姫を亡き者にする計画を立てていた、等)も盛り込むと盛り上がるのではないだろうか。


☆★☆★CAST★☆★☆
・人魚姫
・王子様
・人魚姫の兄弟姉妹(4人まで可)
・魔女の人魚
・隣の国のお姫様
・その他、お城のメイドや兵士


☆★☆★技術傾向★☆★☆
発声・音楽・芝居・撮影・演出

●今回の参加者

 fa0155 美角あすか(20歳・♀・牛)
 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0634 姫乃 舞(15歳・♀・小鳥)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa1431 大曽根カノン(22歳・♀・一角獣)
 fa1761 AAA(35歳・♂・猿)
 fa2132 あずさ&お兄さん(14歳・♂・ハムスター)
 fa4823 榛原絢香(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文


●リチャード
 昨日、リチャードとマリーナの結婚式の会場として使われたホールはすっかり片付けられ、朝食が置かれてある。
「リチャード様、おはようございます。先に戴いておりますわ」
「カノンさん、おはよう」
「リチャード様ったら昨日の夜はあんなに激しかったんだもの、ぐっすり寝てしまったのも無理はないわ」
 身支度を整えた王子リチャードと人魚姫マリーナが姿を現すと、先客の隣の国のお姫様カノンが朝食を採っていた。
 リチャードの言葉をマリーナが受け継ぐと、その内容にカノンの顔は真っ赤になり、頭から蒸気が立ち上っているかのようだ。
「私、あんなに激しかったの、初めてよ。今夜はもっと愛して欲しいわ」
 リチャードはマリーナの口を塞ごうとするが、彼女のマシンガントークは止まらない。
 バキッ!と小さな音を立てて、カノンの持っていた銀のフォークが折れたとか折れないとか。
「マリーナ様、海藻のサラダはお嫌いでしたか? 先日までは美味しそうにお召し上がっておいででしたのでお出しいたしましたが」
「私、海藻サラダ、本当はキライなの、その代わりにワインを付けてよ」
(「海藻サラダが嫌い!? 盲点でしたわ」)
 マリーナが海藻のサラダに手を付けていないのでネリーが聞くと、彼女は代わりにワインを注文してきた。
 マリーナの好き嫌いを把握していたカノンは、海藻サラダの中に変なものを入れていたのだが、マリーナはそれに引っ掛からなかった。
 いきなりマリーナの好き嫌いが変わってしまい、困惑を隠せないカノン。
「あ、あら、昨日はワイン、飲まれておりませんでしたよね?」
「酔ってリチャード様に失礼なところを見せたくないもの。でも、結婚したからもう解禁、酔ったらリチャード様に介抱してもらうわ」
 先日までのマリーナと違和感を感じたカノンがそれとなく聞くと、マリーナは結婚したから地が出たと答えた。
 リチャードも、かつて感じていたマリーナへの胸の高まりを感じられなかった。


●人魚姫の石像
「リチャード様、本物の私がいるんだから、そんな石像、放っておけばいいのに」
「いや、君の石像だろ? だからこそ僕の手で綺麗にしないと」
 小さな入り江の先端に建てられた台座の上に佇むマリーナの石像。リチャードはマリーナと一緒に、散歩がてらその元へ足を運んでいた。
 リチャードは、王子といっても既に三十路を過ぎた良い男性だ。温厚で人の良い男性だが、元来の押しの弱さから今まで未婚だった。
 そんな彼にとって、マリーナは初めて自分からアプローチを掛けた女性なのだ。
 マリーナの石像は尾鰭を軽く起こした、逆Jの字の形で顔は海を向いている。儚げな雰囲気の中に、強い意志を宿す石の瞳は、確かにマリーナのそれそのものだ。
 本来であれば、マリーナとリチャードの結婚を祝福するオブジェのはず。しかし、その瞳は深い悲しみに彩られているようにリチャードには感じられ、石像を見る度に、胸が締め付けられるような痛みを覚えている。
 だからだろうか? 彼が石像を綺麗に洗うと、心なしか微笑んでいるようにも見えるのだ。

 浜風に乗って流れる歌声。
 それが誰の歌声であるか、知る者はほとんどいない。
 その歌声はとても綺麗で。でもとても悲しくて。

 ネリーは控えめで優しげな印象のメイドだ。リチャードに幼少の頃から仕え、彼の優しい人柄を知っているだけに、必ず幸せになって欲しいと常々思っていた。
 そこへリチャードがプロポーズしたマリーナが現れた。ネリーが祝福しないはずがない。
 しかし、結婚後のマリーナに違和感を感じていた彼女。使用人の分をよく弁えており、決して目立つような事はしないが、この日だけはリチャードの後を付けていた。
「せ、石像が涙を‥‥!?」
「その石像はただの石像ではないのです」
 リチャードとマリーナが立ち去った後、人魚姫の石像の瞳には真珠のような涙が浮かんでいた。
 口元を抑えるネリーに海から声が掛かる。そこには3人の人魚が顔を出していた。
「驚かせてゴメンね、あたし達はマリーナの姉弟なの」
 マリーナとよく似た顔の、尾鰭と同じ赤い髪をツインテールにした人魚が自己紹介をする。彼女はマリーナの姉でオリヴィア。双子のように育てられたマリーナの事をとても大切に思っており、彼女の恋も応援していた。
「この石像こそが本物のマリーナなのです」
「城にいるマリーナは偽物、行方不明になっている人魚の魔女ネヴィラが入れ替わった姿なのです」
 エメラルドグリーンの尾鰭を持つアリエーラが説明する。オリヴィアやマリーナの姉、人魚の長女だ。
 後ろに金髪を結わいて、美少年風のスレンダーな出で立ちのトールの話を聞いたネリーは、ようやく違和感の原因が分かった。

「あのマリーナは偽物なのですわね。なるほどなるほど」
 物陰からトール達の様子を窺うカノンの姿。彼女もリチャードの後を付けてきていたのだ。
 今のマリーナが偽物で、ネヴィラと入れ替わっている事をリチャードが知ったら、彼はマリーナにもネヴィラにも愛想を尽かすのではないか? 失意のリチャードを自分が慰めれば、彼は振り向いてくれるのではないか?
 そんな考えがカノンの脳裏をかすめる。実はマリーナがサムシング・フォーを捨てている場面を偶然目撃していた。
「わたくし、サムシング・フォーがどこに捨ててあるか知っておりますの」
 そう言いながら姿を現すカノン。オリヴィアが問い質すと、彼女はしばらく思案した後、ネヴィラがサムシング・フォーを投げ捨てた窓を指差し、潮の流れを考えて沖の方へと移動させる。
(「あそこにネヴィラの手掛かりが」)
 トールは真剣に沖の方を眺めていた。


●サムシング・フォー
 アリエーラとオリヴィア、トールの3人は、カノンに言われた沖合へと向かう。
「先日まではこんなところに海藻や珊瑚など無かったのですが‥‥」
 アリエーラは珊瑚礁の中に蠢く海藻を見ながら1人ごちる。どうやらネヴィラは本気でマリーナと入れ替わり、リチャードと結婚したいらしい。
「こんなところで立ち止まっていても、あの娘はずっと石のままよ! さっさとサムシング・フォーを探しましょ!」
 内心の焦りと苛立ちを隠しもせず、オリヴィアは尾をしならせると勢いよくネヴィラの作り上げた迷路へ潜ってゆく。
 アリエーラとトールは頷き合うと、彼女の後に続く。

 オリヴィアは程なく、岩陰の洞穴にたゆたう『ウェディングドレス』を発見する。
 一直線に飛び込んでいくが、洞穴の周りにはヒトデやらウツボやらの山。それらが一斉に彼女に飛び掛かってきたのだ!
「き、気持ち悪い! 止めなさい!! そんなところは‥‥ダ、ダメ! ダメなんだからね!!」
 柔肌やら胸を覆う貝殻の隙間やらにまとわりつく、ヒトデやウツボの吸い付くような気持ち悪い感覚に半泣きになりながらも振り払い、どうにかウェディングドレスの元へ辿り着く。ウェディングドレスには『青いリボン飾りをつけた白いガーター』も一緒に引っ掛かっていた。
「綺麗ね‥‥マリーナが惚れた王子だけの事はあるようね。これをマリーナが着ないなんて可哀想すぎるわ」
 ウェディングドレスは、マリンブルーの尾鰭を持つマリーナに合わせて、白地を基調に淡い空色で仕立てられている。ウェディングドレスの美しさに見惚れたオリヴィアは、何としてもマリーナに着せてやりたいと強く思うのだった。

「姉さん、大丈夫?」
「はぁぁぁ‥‥はぁはぁ‥‥え、ええ、トールさん、助かりました‥‥でも、少し気持ちよかったです」
「姉さん‥‥変な趣味に目覚めないで下さいね」
「変な趣味? 海藻マッサージが変な趣味なのでしょうか?」
 アリエーラは蠢く海藻の罠に引っ掛かってしまい、トールに助けられていた。
 荒く息を吐くアリエーラだったが、その息はどことなく熱く艶めかしい。トールが訝しむとこんなところで彼女の天然ボケが炸裂した。
 その後、アリエーラは大きなアコヤ貝の中の、大量の真珠に混ざっていた『イヤリング』を見付ける。
 トールもまた、『白いサテン製の上靴』をネヴィラに操られていたのであろう、住処にしていたタコから取り返していた。
(「どこかへ消えてしまったネヴィラさんを、マリーナさんと一緒にずっと探していたのに‥‥こんな事になっているとは」)
 トールは白いサテン製の上靴を胸に強く抱いていた。


●マリーナ
 リチャードはネリーから「今のマリーナ様は人魚の魔女ネヴィラが入れ替わっているのです」と打ち明けられても、にわかには信じられず、何故か引き寄せられるようにマリーナの石像の元へ毎日出向いていた。
 その日もマリーナの石像を洗っていると、3人の人魚が姿を現した。
「この石像こそが本物のマリーナなのです!!」
「こ、これは‥‥僕がマリーナに贈ったはずのサムシング・フォー!? ネリーの言っていた事は本当だったのか‥‥」
「あんた、この娘の事好きなんでしょ!? 何で本物と偽者の区別くらいつかないのよ!」
 アリエーラは懇願しながらサムシング・フォーを渡す。受け取ったリチャードは、感情的に目を潤ませながら詰め寄るオリヴィアに促されるように、マリーナの石像へヴェールを被せ、ウェディングドレスを羽織らせ、イヤリングを付け、冷たく硬い石の唇へ口付けを贈る。
 すると半開きになっていた石の唇から熱い吐息が漏れ、灰色の絵の具が水で流れ落ちるように、マリーナの身体はさぁっとみるみる元の色彩を、瑞々しい柔肌を取り戻していった。
「ごめん‥‥といって許してもらえるかどうか分からないけど‥‥今までごめん」
「リチャード様は絶対に本物の私だと信じて下さると心から思っておりました。ここに来て下さるのを、ずっと、ずっと待っておりました‥‥!」
 泣きながらリチャードにぎゅっと抱きつくマリーナ。
 恋人同士は一頻り抱擁した後、マリーナはオリヴィア達の方を向いた。
「姉様方、私の為に大変な思いをして集めて下さったのですね‥‥ありがとうございます」
「よかった‥‥ううん、いいのよ」
「終わりよければ‥‥ですね」
 オリヴィアもアリエーラも嬉し涙を流しながらマリーナが元に戻った事を祝福する。
「ちぃ、遅かった‥‥私だって王子様の事が好きだったんだもん!」
 駆け付けた時には一足遅く、舌打ちしながらネヴィラはマリーナから本来の人魚の魔女の姿へ戻る。

――ネヴィラ的計画――
 この人が王子様? なかなかいい男♪
→マリーナに偽の薬飲ませて石にして入れ替わっちゃえ
→サムシング・フォー邪魔だから捨てちゃえ
→見つけられないように迷路にしちゃえ
―――――――――――

 今回の一件は用意周到に練られた計画ではなく、ネヴィラのリチャードへの一目惚れから始まった行き当たりばったりな犯行だった。
「姉様方、あの方の事を許してあげて下さい。私も無事に元に戻れたのですし、リチャード様を想っての事ですから‥‥」
「彼女がした事は悪い事です。でも、恋する事は盲目になってしまいます。反省していると思いますので、今回は彼女を許してくれないでしょうか?」
「ごめん、ネヴィラの気持ちに気付く事が出来なくて‥‥でも、僕にはマリーナがいる、マリーナしかいないんだ。だから、君の気持ちに応える事は出来ない‥‥」
 被害者であるマリーナがネヴィラを許しているし、トールが彼女を後押ししている。リチャードも想いに応えられないと誠心誠意謝っている以上、アリエーラ達にネヴィラを責める事など出来ない。
「あんたなんかずっと陸で暮らせばいいのよ! 二度と私に顔見せないで!」
 ネヴィラがマリーナに投げ付けたのは、彼女が欲しがっていた人間になる薬だった。
 捨て台詞を残してそのまま海へ飛び込もうとするも、トールと激突してしまう!
「ちょっと! 何そんなところにぼーっと突っ立っ‥‥て‥‥?」
「好きな人の幸せな姿を見ると嬉しくなりませんか? 私も本当はあなたに幸せでいて欲しかったのですが、あなたをこのまま悲しい人にしておく事も辛かったのです」
「見つけた‥‥私の王子様!」
 紳士的な笑顔でネヴィラを抱き起こすと、トールを見る彼女の目はハートマーク。予期せぬ二枚目の出現にフォーリンラブ、ネヴィラの新たな恋が早くも始まった。
「カノン、君にも謝らなければならないね」
「リチャード様‥‥」
「お詫びと言ってはなんだけど、僕の知り合いの男性を紹介するよ」
「は、はい!?」
 リチャードは自分へのカノンの想いを察したのかどうかは知らないが、天然っぷりを発揮する。

「幸せになりなさいよ。じゃなきゃあたしが許さないから!」
「ありがとうございます、オリヴィア姉様‥‥リチャード様、これからはずっとお側にいられるのですね‥‥!」
「ああ、ずっと一緒だよ」
 人間になり、サムシング・フォーを身に付けたマリーナは、入り江でオリヴィア達にその姿を見せた後、結婚式へと向かう。
 トールに一目惚れしたネヴィラ。トールは以前から魔女に惹かれていたという。相思相愛の2人は上手く行きそうだ。
 海へ帰るアリエーラ達、トール達をリチャードの隣で幸せそうな笑顔で見送るマリーナ。

 悲しい歌が入り江で聞こえる事は、もう無い。


●CAST
 人魚姫・マリーナ:姫乃 舞(fa0634)
 王子・リチャード:AAA(fa1761)

 人魚の魔女・ネヴィラ:あずさ&お兄さん(fa2132)

 人魚姫の姉(長姉)・アリエーラ:美角あすか(fa0155)
 人魚姫の姉・オリヴィア:榛原絢香(fa4823)
 人魚姫の弟・トール:トール・エル(fa0406)

 隣の国のお姫様・カノン:大曽根カノン(fa1431)
 メイド・ネリー:桐沢カナ(fa1077)