Goddess Layer 5thアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/23〜02/27

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。

 しかし、ダイナマイト・シュガーが維新軍を率いて、正規軍に、アイギス佐久間に彼女の持つ東女のヘビー級ベルトを賭けたタイトルマッチを半ば強引に申し込み、そして奪取してしまった。
 そればかりか、リリム蕾奈の持つ東女タッグベルトもアイギス佐久間と一緒に獲得し、ここに来て東女は、ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間を中心にほぼ統一されたと言っても過言ではなかった。


「社長、今月の興行ですが」
「今月はお休み、バカンスに行くわよ」
 東日本女子プロレスの社長室に足を運んだアイギス佐久間は、東女の社長佐久間章枝から、今、まさに自分が嘆願しようと思っていた事を先に言われてしまう。
「あなたはそんな身体だし、由貴はあんな状態だし、それにJOWPの富畑から挑戦状も届いているしね」
「富畑からですか!?」
 章枝はバカンスへ行く理由を列挙しながら、引き出しから封書を取り出して机の上へ放る。それは丁度、机の上に出しっぱなしになっていた、女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の上で止まった。
 『Goddess Layer』の表紙を飾っているのは、先月行われた『西日本女子プロレス』との試合の中で、西女の双頭のエースの1人、ライトニングバニーがダイナマイト・シュガーにムーンサルトプレスを決めた瞬間だ。
 『JOWP=Japan Ocean Women’s Prowrestling』は中国地方を主に興行の中心としている女子プロレス団体だ。規模こそ小さいものの、現エース、富畑愛美はJOシリーズと呼ばれる投げ技を得意としており、プロレスファンの人気はアイギス佐久間に匹敵する。
 そしてダイナマイト・シュガーを除き、アイギス佐久間に黒星を付けた、唯一のレスラーでもある。
 由貴とはダイナマイト・シュガーの本名だ。
 ダイナマイト・シュガーは試合中に意識を失い、病院で精密検査を受けたが、結果は異常なし。念の為、休養を兼ねて入院しているが、初敗北の心へのダメージは思いの外深刻で、毎晩のように悪夢に魘され、昼間は試合の事を思い出すたびに泣き腫らしているという。
「恵美、由貴の事を心配する気持ちは分かるけど、あなたの方が重傷なのよ」
「分かっているわ、お母さん」
 章枝はアイギス佐久間――佐久間恵美――の母であり、逆水平チョップで真女の一時代を築いた元レスラーでもある。
 アイギス佐久間は左腕を三角巾で吊っていた。ロッキー龍子のフィニッシュホールド、ドラゴンバスター――パイルドライバー――を受け、左肩から鎖骨に掛けてひびが入っていた。全治約2ヶ月、少なくとも今月の興行は参加できない。
「アルノやシェリル、蕾奈があなたの抜けた穴を十分埋めてくれるでしょうけど、ここのところ試合続きだったから、たまには生き抜きも必要よ。それに、最初にバカンスへ行こうと言い出したのは蕾奈達なの」
 どうやらリリム蕾奈達に先を越されたようだ。
「それと良い機会だから、由貴にはジュニア級ベルトを返上してもらおうと思ってるわ」
「精神的により追いつめてどうするの!?」
「何言ってるのよ、あの娘はまだ15歳よ。普通の女の子なら、高校に進学して青春を満喫してる年頃じゃない。ベルトを3本も背負わせるには荷が重すぎるし、あのくらいの年頃の娘はね、どんなに筋を通したって理屈じゃ利かないのよ」
「だからベルトを返上させるのね」
「それに負けて得るものも多いけど、ここで崩れるようならそれまでの器って事よ。より高みを目指すのなら、あなたのように敗北をバネにしないとね」
 親馬鹿とも取れる発言だが、アイギス佐久間はダイナマイト・シュガーに敗れこそしたものの、未だに日本女子プロレス界の女王の座を恣(ほしいまま)にしている。その原動力は初黒星にある、と言いたいようだ。

 JOWPからの挑戦は来月受ける事で決まり、東女は今月は南国へバカンスに向かう。
 ダイナマイト・シュガーは立ち直る切っ掛けを掴めるだろうか?


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤由貴):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 東女の現ヘビー級ベルト、ジュニア級ベルト、タッグベルト保持者(防衛1回)。
 修得技:アームホイップ/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット/力、エルボー/打、ドロップキック/飛
 得意技:スーパーダイナマイト(延髄切り)/打→νスーパーダイナマイト(フライング二ールキック)/打
                              →いなずま重力落とし(ノーザンLスープレックス)/投
 
・アイギス佐久間(佐久間恵美):22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く慕うレスラーは多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 東女の現タッグベルト保持者(防衛0回)

※投:投げ技、極:関節技、力:パワー技、打:打撃技、飛:蹴り技、とカテゴリー分けをしています。


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3635 甲斐・大地(19歳・♀・一角獣)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文


●悪夢
「嗚呼ああアアぁぁァァ!!」
 ダイナマイト・シュガー(咲夜(fa2997))の絶叫が轟く。
「由貴!!」
「さ、佐久間さん‥‥? ‥‥あれ? ここはどこ? ボクは、試合はどうなっちゃったの!?」
「バカンスへ向かう飛行機の機内よ」
 身体を抱き抱えられて、ダイナマイト・シュガーはようやく周りを見る。そこはリングでもなければ、白い壁の病室でもない。
 アイギス佐久間(竜華(fa1294))は微笑みながら、荒い息を吐き、肩で息をする彼女が落ち着くよう背中をさする。
 シスター・アルノ(リネット・ハウンド(fa1385))やキューティー・タチバナ(橘)(甲斐・大地(fa3635))、黒崎 来兎(因幡 眠兎(fa4300))は、他の客に頭を下げて謝っている。
「たった一度の敗北で腑抜けてしまうとは情け無いですわね」
 ダイナマイト・シュガーを挟んで反対側の席に座るリリム蕾奈(夏姫・シュトラウス(fa0761))の言葉に、アイギス佐久間は強めに窘める。
「ひゃ!? ら、蕾奈さん、何を‥‥」
「一度負けたぐらいで戦えなくなるなんて、あなた、何様のつもりですの? 自分は無敵だと思っていましたの? それともアイギスや私に勝ったから負けてはいけないと? 自惚れるのも大概にしなさいな」
 リリム蕾奈はペロリとダイナマイト・シュガーの瞳に溜まった涙の雫を舐め取ると、叱咤して再び文庫本へ目を落とした。
「‥‥蕾奈‥‥ありがとう」
「あ、あなたに礼を言われる程の事ではないですわ。言葉のお礼より、キスの方が欲しいですわね」
 安堵の息を漏らしながらアイギス佐久間が礼を言うと、リリム蕾奈は文庫本に目を落としつつ、そんな事を言ってくる。先程からページが捲られていない事に、アイギス佐久間は軽く笑った。


●バカンス!
 空港の到着ロビーでは、一足先に現地入りしていたフォックス新庄(草壁 蛍(fa3072))と木ノ内 優(MAKOTO(fa0295))が東女一行の到着を待っていた。
 技の引き出しが多いオールラウンダーで、得手不得手は無いが関節技を好んで使用するフォックス新庄はヨーロッパへ、生粋のパワーファイターだった優はメキシコへ、それぞれ長期海外修行に出ていた。
 修行期間を終えて帰国しようと、東女の社長、佐久間章枝へ連絡すると、丁度、バカンスへ出掛けるという事で、2人は現地で合流する事になった。
「あ、佐久間に蕾奈、アルノが来たわ。知らない顔もあるけど、若手ね。ハーイ、佐久間! 蕾奈! アルノ!」
「フォックス新庄!? 久しぶり‥‥性格変わっていないかしら?」
 アイギス佐久間達の姿を見付けたフォックス新庄は、両手を振って居場所を知らせる。
 彼女はシスター・アルノと同期だ。シスター・アルノが知るフォックス新庄は、クールでストイックな堅物だったが、海外修行中に何かあったのか、軽い性格に変わっていた。再会を喜びつつも、シスター・アルノは軽い目眩を覚えていた。
「リリム先輩、お久しぶりです。佐久間先輩、随分と派手にやられたようですね」
「日本のマット界も、まだまだ強敵が多い証拠よ。でも、私はこの怪我をバネにもっと強くなるわ」
(「さっすがはアイギス佐久間さん。私、遊ぶ事しか考えてなかったよぉ」)
 優と握手を交わすアイギス佐久間。彼女の言葉に、お気楽極楽な性格で遊ぶ事しか考えていなかった来兎は、思わず感心してしまう。
「積もる話はホテルにチェックインしてからにしましょう。タチバナはグラビアの撮影があるのですよね?」
「は、はい、ボクはここで。夕方前には合流出来ると思いますので」
 リリム蕾奈がホテルにチェックインするよう促す。キューティー・タチバナは、ダイナマイト・シュガーや来兎と同じくデビュー1年目の新人レスラーだが、東女がアイドルレスラーとして売り出しており、このバカンス中も写真集の撮影の仕事が入っていた。
 東女一行はホテルへ。東女の南国バカンスは毎回このホテルに決まっているので、アイギス佐久間やリリム蕾奈、シスター・アルノはほとんど勝手知ったる我が家そのもの。来兎達新人に指示を出し、チェックインを済ませる。
「シュガーは泳ぎに行かないのかな?」
「そんな時間ないよ。もっともっと強くならきゃ! こうして遊んでいる間にもライトニングバニーさん達は強くなってるはずだもん」
「まぁ、遊ぶのは日々のトレーニングノルマはこなして、それからでも遅くはないけど、ね(‥‥どうも、よくないなぁ)」
 早速、今日の為に買った新しい水着に着替えた来兎は、ダイナマイト・シュガーが水着ではなくトレーニングウェアに着替えている事に気付いた。彼女の言う事も一理あるが、今のダイナマイト・シュガーには『初敗北』が重くのし掛かり、そのプレッシャーから逃れようと、自らに過酷さを強い、自分を痛めつけるように練習しているだけだと優は感じた。
 シスター・アルノはダイナマイト・シュガーの姿に満足そうに頷く。彼女は白いシャツにスパッツという、バカンスには似つかわしくないトレーニング姿だ。毎度の事ながら、バカンスを強化合宿と半分勘違いしており、若手や新人達をみっちり鍛えてやろうと情熱を燃やしている。
「来兎、あなたはどんなに打たれても前へと進む生粋のインファイターでしたね。技術不足は否めませんが、打撃技と、小柄な身体からは想像出来ないパワーで相手を圧倒するそのスタイルは、スタミナがものを言います。スタミナとパワーを鍛える為に、まずは浜辺のランニングからです」
「(お、鬼軍曹だぁ!)わ、私は蕾奈先輩と約束がありますので、お先に失礼しますね〜」
「うふふ、では行きましょうか」
 シスター・アルノに捕まりそうになった来兎は、リリム蕾奈を隠れ蓑にその追撃から逃れる。しかし、それが彼女にとって不幸になるとは、この時は知る由もない。
(「南国でのバカンスなのに、勘違いしてるのか天然なのか解らない連中がいるなんて!」)
 浜辺をランニングし、それが終わるとスクワット。それを延々と繰り返すシスター・アルノ達に、フォックス新庄は半ば呆れると、『バカンスなのに、バカンスしない連中を、バカンスへ引きずり込む!』というスローガンを掲げ、優を誘って活動を開始する。
 浜辺で汗を流しているダイナマイト・シュガー達の横で、サマーベットに寝そべりながらトロピカルジュースを啜ったり、キューティ・タチバナが合流すると遠泳を始め、その横をジェットスキーで滑走したりするが、ダイナマイト・シュガーは一向に練習を止める気配はなかった。
 アイギス佐久間も左腕を三角巾で吊っているものの、派手すぎない白と黒のツートンビキニを着て、南国は分を味わうつもりだった。最初は諫めて止めようとしたが、シスター・アルノが付いているし、助言して見守った方がいいと逆に思うようになり、本人も怪我を押して練習に付き添い始める。
 フォックス新庄と優は、ご丁寧に黒服着用で、宇宙人を連行する黒服の如く、ホテルへ戻ってきたダイナマイト・シュガーを拉致・誘拐し、そのままホテルのエステへ連れ込んで強引にリラックスさせた。
「あなたの事は良く知らないから1つだけ。初心に返ってみて。何を目指してこの道に入ったのか? その思いは今、あなたの中でどうなってる?」
「まだ15で若いんだし、負ける事は大した事じゃないよ。大切なのは諦めない事、諦めなければ道は開けるからね」
「‥‥でも、ボクが負けたら、他の団体に東女のベルトが獲られちゃうじゃないですか! ボクは負けられないんだ! ボクの事は放っといて下さい!!」
 フォックス新庄と優は、ダイナマイト・シュガーを立ち直らせようと励ましの言葉を掛けるものの、今の彼女には好意すら素直に受け入れられず、却って逆ギレを起こす始末だ。

「あ‥‥あの!? なんですか? なんですか!?」
「うふふ、わたくしを誘ったのはあなたでしょう? 最初からこういう事を期待していたのではなくて?」
「わ、私はただ遊びたかった‥‥だけで‥‥あ‥‥ちょ‥‥」
 嗚呼、トラブルメーカー来兎、リリム蕾奈に捕まった君はどこへゆく――。


●エキシビジョン〜15分1本勝負〜
「一丁やるか! 最近の東女の新人の実力、見せてもらうよ!」
「胸を借りるつもりで全力でぶつかります!」
 来兎やダイナマイト・シュガーがスパーリングが出来るよう、ホテルの目の前の海岸には簡易リングセッティングすると、優とキューティー・タチバナがリングへ上がる。シスター・アルノがレフリーを努める。
 試合開始と同時に、ハイキックを繰り出すキューティー・タチバナ。優はそれを直撃ギリギリでかわし、掌底を叩き込む。今度はキューティー・タチバナがその掌底を取り、アームホイップで返す。
 優が立ち上がったところへヒップアタックが炸裂。キューティー・タチバナが試合を優位に進める。
 ところがキューティー・タチバナの掌底に合わせて、優のローリングソバットが決まる。辛うじて堪えてコブラツイストへ持っていきたいキューティー・タチバナだが、ロープへ振られてアックスボンバーの直撃を受けてしまう。
「シュガーさんも頑張ってるんだ、ボクももっとやらなくちゃ!」
 粘って立ち上がるキューティー・タチバナの姿に、優は一瞬だけ目を見張りつつ、頼もしそうに笑みを浮かべると、彼女の起死回生の必殺バックドロップをボディプレスで返し、ぶっこ抜きジャーマンスープレックスでカウント3を取った。
「危うく“木ノ内スペシャル”を使うところだったよ。キミは良いセンスを持ってるけど、ハイキックとかコブラツイストとか、使う技が技量と比べるとちょっと高度かな? もう少しスタンダードで簡単に掛けられる技の方がいいと思うよ」
 優はそう助言する。キューティー・タチバナが人一倍気にしている、アイドル活動や歌・踊りの練習の為にプロレスの練習時間が削られている事を的確に衝いていた。特訓である程度補えるものの、練習量が圧倒的に足りないのは確かだ。
 スタンダードな技は派手ではないが、その分掛けやすい。技量に合った技を使うようアドバイスする優に、リングサイドでエキシビジョンマッチを見ていたアイギス佐久間も頷いた。
 もっとも、優はメキシコで身に付けた、『試合を支配する』という事を意識して、試合を終わらせないように流れを正確に予測して展開させていた。今回はなかなか上手くいったようだ。


●いなずま重力落とし
「普段とは違うトレーニングを積む事で、総合能力の向上に努めるのよ。伸び盛りなんだから、筋トレやフットワークだけでは駄目。柔軟でタフな身体を作りなさい」
 今までと同じように、延髄斬りを始めとする打撃技のトレーニングをするダイナマイト・シュガーに、アイギス佐久間は柔軟重視の基礎トレーニングを行わせた。同じ動作だけだと負担が大きいので、身体に掛かる負荷の分散・軽減が目的だ。
「一回負けた程度で落ち込まないで。キミがボク達の目標であり、誇りなんだから」
 シスター・アルノは元より、後半はキューティー・タチバナも加わって、バカンスは半ば強化合宿の様相を呈してゆく。
「誰だって必ず敗北する。重要なのはそこから立ち直り、その敗北から何かを学び次に生かす事ですわ。あなたに負けたアイギスが敗北後に得たものが決して後悔や恐怖だけではない事は、身近にいたあなたが良く知っているはずですわよ」
 逐一お節介を焼くリリム蕾奈。彼女のこの一言から、ダイナマイト・シュガーはアイギス佐久間に得意としているキャプチュードを習う事を決めた。
 とはいえ、アームホイップでしか投げられないダイナマイト・シュガーが、いきなりキャプチュードを体得するのは、技の体系上難しい。そこでバックドロップの練習から始めたのだが‥‥。
「腕力だけで投げない。上半身と下半身の連動と、全身を上手く使って」
「うわ!? うわわ!?」
「何‥‥今の‥‥」
 体勢を崩し、横へ投げてしまうダイナマイト・シュガー。それはバックドロップというより、ノーザンL(ライト)スープレックスに近い形だった。
「シュガー、今の投げ技、もう一度やってみて!」
「は、はい!」
 珍しく興奮気味のアイギス佐久間に促され、もう一度バックドロップを繰り出すが、やはり崩れてノーザンLスープレックス気味になってしまう。
「これだわ! しかもダイナマイト・シュガーが相手を落とさないように、無意識のうちに両腕をクラッチしているから、相手は受け身を取れずにマットに叩きつけられる!!」
「いなずま‥‥いなずま重力落としって名前にします!!」
 失敗は成功の母、と言うが、ダイナマイト・シュガーは新必殺技を開眼したのだった。
「私もうかうかしてられないわね。今まで以上の力で復帰を目指し、愛美との戦いに備えなければ」
「あなたは相変わらず若手には甘いですね」
 アイギス佐久間に苦言を呈しつつも、“いなずま重力落とし”の完成を心の中で祝福するシスター・アルノ。

 まだ完全に自信を取り戻した訳ではないが、アイギス佐久間のお墨付きをもらい、もう悪夢にうなされる事はなくなった。
 今度は自分を心配してくれた同期のレスラーや先輩達への挨拶回りだ。
「別にお礼なんていいですわ。獲物の価値が下がっては困るから手助けしてあげただけですもの。でも、どうしてもお礼がしたいというのなら唇を貰おうかしら」
 冗談を言うリリム蕾奈の横には、来兎の姿があったとか。

 尚、最終日に、遊び足りないダイナマイト・シュガー達に砂に埋められるという、ささやかな仕返しのサプライズを受けるシスター・アルノの姿があったとか。