それぞれのバレンタインアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
1人
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期間 |
02/14〜02/18
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●本文
ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。
●ある日の風景〜バレンタイン〜
「社長、やはりこちらに居られましたか。いい匂いですね」
副社長のエレクトロンボルトは、ヴァニシングプロの社長室に彩音の姿がないのを確認すると、居場所が分かっているかのように給湯室へ足を運んだ。
果たして、そこにはハミングを口ずさみながら、泡立て器でボウルの中を掻き混ぜている彩音の姿があった。
各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している彩音が、社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。最近は渋谷蓮達の力添えもあってスカウトが上手くいっており、ヴァニシングプロ自体には帰ってきているが、社長のイスにデンと腰掛けてデスクワークをする性格でない事くらい、十数年来の付き合いになるエレクトロンボルトは百も承知だ。
給湯室の中にチョコレートの甘い香りが漂っていた。ボウルの中身はチョコレートで、湯せんをして溶かしている最中だ。
「今年はトリュフチョコですか」
「去年とは違うものの方が食いでがあるだろう? 私の趣味みたいなものだがな」
「いえいえ、社長のチョコレートは社内でも評判ですから、みんな喜びますよ」
彩音はバレンタインになると、手作りチョコを社員と所属しているアーティスト全員に配っていた。
社長職を継ぐ前はエレクトロンボルトと共にロックグループで活動しており、その時、自炊をしていて、一通りの料理は作れる。
彩音の手作りチョコは美味しく、社内でも評判だった。
ヴァニシングプロの給湯室は、彩音が料理に凝っていたり、エレクトロンボルトがコーヒーにうるさい事もあって、一般家庭のキッチン並の設備が整っている。
「もっとも、キミは私があげなくても食べきれない程の量を毎年もらっているようだがな」
「参りましたね‥‥俺も社長のチョコレートを楽しみにしている1人なんですけど」
「ふふ、そう言われれば悪い気はしないな。よし、今年もあげよう」
エレクトロンボルトは細いフレームの丸レンズのメガネを掛けた、聡明な雰囲気漂う男性だ。普段は彩音のサポートに徹しているが、時々バックバンドとしてライヴに参加する事もある。知的で凛としたマスクは女性の受けがよく、バレンタインには彼宛にチョコレートが届いた。彼が自分で全て処理してしまうので、彩音はどれだけもらっているか把握していないが、相当量が届いている事は確かだ。
「それで、富田TVからバレンタイン特番の概要は届いたのか?」
「はい、こちらです」
中指でレンズ間のフレームを押し上げて掛け直すと、エレクトロンボルトは脇に抱えていたファイルを彩音に渡す。
ヴァニシングプロはバレンタインデーに、富田TVでライヴ番組を生中継する事になっていた。
「ふむ‥‥枠は1時間半か。アーティストの披露する歌は“バレンタインデー”にちなんだもので統一するとして、アーティスト達にトークしてもらう時間も十分取れるな。深夜帯だし、バレンタインデーにまつわる暴露話でもしてもらおうか」
「歌とトーク、という事で参加アーティストに通達して構いませんね?」
「ああ、よろしく頼む。暴露話は真面目でも思い出話いいし、惚気や失恋もいいだろう。失敗談やエロい話も、それはそれで観客や視聴者の共感を得られれば盛り上がるだろうしな」
書類にOKのサインを書き込むと、彩音はトリュフチョコ作りに戻るのだった。
☆★☆★技術傾向★☆★☆
発声・音楽・楽器・踊り・芸
●リプレイ本文
ヴァニシングプロが用意したコンサート会場はかなりの規模だ。
広いステージを、上下左右に囲むように備え付けられた照明が燦々と照らしている。背面に聳え立つオーロラビジョンには、今回参加するアーティスト達のプロモーション映像が映し出されている。
ステージから客席は遠いが、それでも集まったロックファンの熱気が伝わってくるかのようだ。
●アネモネ
先陣を切るのは“アネモネ”の天道ミラー(fa4657)と雪架(fa5181)だ。
ミラーは黒いシャツの上に白いスーツを羽織り、鎖の付いた首輪を下げている。スーツの胸には薔薇の造花と太目の赤い針金ハートを組み合わせたコサージュがあしらわれている。
一方、雪架は、濃いグレーのVネックセーターにピタっとした白いコーデュロイジャケットを纏い、パンツも白、足元を覆うウェスタンブーツも白、と白で統一。胸元にミラーとお揃いの薔薇とハートのコサージュを付けている。
♪
ありきたりな「退屈」を口にする度
誰かが言葉の背を押したんだ
それがこの世の法則だって 僕は思ってた
でも今日不意に気付いたんだ
「退屈」で区切った世界(ハコ)の中
いつも君がいたことに
晴れたWednesday 寝不足の目をこすって
女の子のための日なんて言わないで
差し出されたショコラみたく 甘く囁かせてよ
君が産まれ生きて笑い泣く この世は眩くて
僕は産まれ生きて憂い恋う 今 切ないほど
愛しさに満ちている
♪
『Love Song』の曲調はポップスロック。
雪架が奏でる軽快なピアノにミラーが爪弾くエレキギターが合わさり、ドラムのテンポ感の底上げも加わって、そのシンフォニーはピアノに厚みを、ギターにインパクトを与える。
雪架の優しく明るく伸びやかな歌声が会場を包み込み、サビにはミラーのコーラスも合わさって情感が増す。
雰囲気を後押しするのが、オーロラビジョンに流れるプロモーション映像。最初は演奏とリンクした動きや顔のアップが映し出されていたが、途中でチョコ作るアネモネの2人の姿へ切り替わる。
『男が作るのかよー』的な、照れのある楽しい雰囲気。試行錯誤、失敗の末、チョコが完成!
再びアネモネの演奏を撮す映像へ切り替わり、ラストへ突き進む。
すると、ミラー・雪架共に、懐から映像で作っていたチョコの箱をじゃーん!と取り出す。
ミラーは悪戯っぽい笑み浮かべるカメラ目線で箱に軽くキスをし、雪架は観客に差し出すような仕草でウインク。
女性の観客が一斉にその箱に手を伸ばしたのは言うまでもない。
舞台袖にいる緒方・彩音(fz1033)より、カンペで進行が伝えられる。
「実家がレストランやってて、父がそこの料理長なんデス。で、バレンタインにチョコパーティー開いたんデスね。友達や従業員の家族を呼んで騒いでたら、いつの間にかジャンケン大会になって、みんな酒入ってテンション高いから、勝ったら歓声、負けたら罰ゲーム。段々加熱してった時に、俺負けて‥‥! 椅子に座らされてリボンでラッピングされて、チョコのペン?で落書きの刑を受けマシタ。服の下には書くなって言ったのに‥‥!」
それを読み取ったミラーから暴露話を切り出した。
「さっき映像で使ってたチョコ製作は、フリじゃなくて実際に挑戦したんだ。愛はもらうよりあげたいタイプかな、俺は伝えたがりだから」
ミラーが笑いを取った後、雪架のマジトーク。そのギャップが観客を引き付ける。
「チョコは‥‥実はこれまで受け取った事なかったんですが、今年はラブソング作るのを楽しくさせてくれる相手がいまして、ちょっと期待してたり‥‥」
惚気で締める雪架だった。
●ミスター
アネモネの2人と入れ替わり、“ミスター”の黒羽 上総(fa3608)とアレクサンドル(fa4557)が舞台上に姿を現す。
上総は胸元に一輪の白薔薇を差したスーツを着崩し気味に着、アレクサンドルはシルクハットに燕尾服、マントと紳士の出で立ちだ。
「バレンタインの思い出か‥‥そうだな、子供の頃は毎年この日はチョコレートケーキを食べてた記憶があるくらいか。バレンタイン兼バースデーケーキとしてな。大切な人にチョコを贈る日と知るまでは、みんな誕生日にはチョコレートケーキを食べるものだと思っていたくらいだ」
「黒羽殿、ささやかですが誕生日の祝賀を」
上総がそう切り出すと、アレクサンドルは宙から黒羽根のピアスを出し、恭しく贈呈する。
「ありがとう。正直なところプレゼントをもらう時は、誕生日祝いとバレンタインのどちらなのか迷ったり勘違いしてしまった事もあったな。とにかく、今日という日が想い人達にとって素敵な日になる事を願うばかりだ。残念ながら俺には相手がいないがな」
「ははは、それは私も同じですよ。一番の思い出は、師に花を贈った時の事ですし」
上総が締め括るとアレクサンドルが後に続く。
「宙から薔薇を出して師に‥‥あれが私の初めての手品でしたね。此度の演出はこの応用になります」
紳士の礼を取り、一歩下がるアレクサンドル。
舞台全体の照明がやや暗めになり、上総に柔らかな一筋の白い光が当たる。
♪
甘い香りに包まれる街角
チョコを抱え足早にすれ違う少女達
浮かべる表情は期待と不安
微笑ましく思いながら 自分もその一人と気付く
これからキミに会いに行く
手には純白の薔薇の花束
『想いを伝える』 それが本質
普段言えないコトバ達
今日という日に力を借りてキミに贈ろう
「アリガトウ」と「アイシテル」
君と共に紡ぎたい
永遠(とわ)に永久(とわ)に いつまでも
♪
上総のスローなギターの弾き語りから『For You』が始まる。
最初の間奏で照明が明るくなり、アレクサンドルが後方から銀の紙吹雪の旋風を飛ばす。
手品だが、紙吹雪のただ中に立つ上総は幻想的だ。
Bメロからは静かで穏やかな、綺麗なメロディになり、ドラムはブラシとスティックで軽く叩く程度。
間奏は上総のギターの独奏。それが終わると、ミドルへテンポアップ。
歌も優しさの中に熱い情熱を込めて、要所をアレクサンドルのスキャットコーラスで味付けする。
フレーズの合間にシンバルでインパクトを付け、ドラムの飾り打ちで間奏へ。
Cメロはギターとドラムのスローから始まり、情熱的なギターの独奏を経て再びスローへ。
上総とアレクサンドルのスキャットハーモニーを重ね盛り上げる。
エンドはギターソロの優しいメロディから、ゆっくりと落として曲を消してゆく。
●フィアリス・クリスト(fa1526)
フィアリスは白の清楚な、でも胸元や背中は大きく開いてるドレスを着て、半獣化し、イヌミミと尻尾を生やしての登場。
「バレンタインデーにまつわる暴露話って言っても、あんまりこの手の話は私ないんだけどねー。バレンタイン関係は高校の時の1回だけだね。合唱部にいたんだけど、そこでとっても声がいい‥‥優しい歌い方する先輩がいて、その人が好きだったんだよね。声に一目‥‥というか、一聴き惚れかな? ‥‥して」
苦笑を浮かべつつもいい雰囲気で語る。
「で、バレンタインにチョコを作って、早めに学校来て机に入れたんだよね。でも、どれだけ待っても来ない。よく見ると他の人も誰も来てないんだよね。そこでやっと気がついたんだ。その日、学校休みだった事! その日は恥ずかしくてチョコは回収して帰って先輩にも何も言えずに終わって‥‥それ以降何も浮いた話がないんだよねー」
最後に笑いを取るフィアリスだった。
♪
君と共に歩く道が好き
君と共に歌う歌が好き
だから 君に伝えるよ
僕の言葉を
二人で歩いてきた道を ふと振り返る
二人で歌った歌を ふと思い出す
君と共に歩く道が好き
君と共に歌う歌が好き
だから 今 君に伝えるよ
大好き‥‥と
♪
●マリーカ・フォルケン(fa2457)
「わたくしも辛い恋を卒業したばかりで、偉そうな事言えませんけれど‥‥」
フィリアスが歌い終わると同時にステージ上の照明が落とされ、黒色のロングドレスを纏い、胸に白い薔薇のコサージュをアクセントに、銀製品の装飾品で統一したマリーカのみに淡い色のスポットが当たり、微かに焚かれたスモークと相まって、泡沫のようにステージ上に浮かび上がる。
「やはり言葉にしないと、秘めた想いというのは苦しくなる一方ですよね。まぁ、わたくしの場合には両想いでしたから、結果として思い切って良かったのですけれど‥‥もしこの恋が叶わなかったと思うと、いつか心が張り裂けたかもしれませんね」
彼女の言葉は客席には向いていなかった。舞台演出をする弥栄三十朗ただ1人へ向けられていた。
♪
想っていれば叶うなんて、そんなの御伽噺だってね、
初めて恋した乙女じゃあるまいし、そんな事始めから分かっているわ。
だけど、言い出せない、この気持ち。
抱えたままで、今日という日を迎えたの。
膨らみすぎた、この気持ち。
あなたの前に立ちさえすれば、気の利いた言葉の一つも出て来てもいいはずなのに。
何でたった一言が言えないの?
「愛しています」なんて、何度だって歌に載せてきたのに。
肝心な時に、なんて意気地なし!
だから、せめて、この包みに想いを託して、
受け取って、あなた。
この気持ちを分かって欲しいの。
マイ・ヴァレンタイン・ディ!
♪
キーボードを演奏しつつ、熱唱する。語り弾きが得意な彼女の十八番だ。
もどかしいばかりの女性の気持ちを観客と分かち合えるように、静かに奏でた『My V・D』の旋律は、多くの観客の共感を誘った。
●Azurite
“Azurite”の仁和 環(fa0597)はS−ARMYのパーカーを羽織り、モスグリーンのカーゴパンツに濃茶編上のShortBoots姿、EUREKA(fa3661)は紺のクラシカルワンピに白薔薇のコサージュをワンポイントで添え、白のShortBoots姿でステージ上に姿を現すと、トップギアまで暖まっていた観客のテンションはハイトップへ入る。
「えーと、バレンタインデーにまつわる暴露話ですが‥‥では結婚してた頃のお話でも。バレンタインデーには手作りチョコにお料理、お花も飾って旦那様を待ってたわ。そして夜は寝かせなかったの‥‥」
両手を頬に添えてポッと紅らめる。いきなり大人の話に観客のテンションもオーバートップだ!
「総時間10時間に及ぶ演奏を贈ったから‥‥それがバツイチの原因ね」
「言うと何故か驚かれるが、俺は彼女います‥‥ちゃんと」
EUREKAが遠い目をしながら落ちを付け、環へバトンタッチ。
「なのに哀しかった去年のバレンタインデー‥‥彼女とはDinnerデートしたが、その後仕事でその日はお別れ。後日、某ライヴハウスの『嘘吐き大会』で、ソレを理由に振られたという嘘が‥‥優勝? 信じるなよ!!」
(血の)涙を流しながら力説する環。
(「彩音サン、こんなところで演出しなくても‥‥」)
グランドピアノはステージの隅っこーの方に置いてあったり。
EUREKAが三味線を構え、環がグランドピアノに着くと、照明が明るくなり、オーロラビジョンにバレンタインで賑わう街と、歩道橋で思案するの環の映像が映し出される。
♪(「」ユニゾン 『』ハモリ)
犬も歩けば棒に当たる 君と歩けば僕はどうなる?
思い立ったがValentine 季節のMEMORY発掘開始
春花宴 花の笑み 薫る風にふわりシャボン玉
夏陽炎 ゆらめく街 夕立のシャワーはしゃいだ僕ら
秋茜空 舞う紅葉 君の髪に鮮やかな緋の悪戯
「そして冬の今日」
『差出された包みは甘く優しく心を満たす』
二人の吐息白く重なり 澄んだ夜空へ溶けていった
犬も歩けば棒に当たる 君と歩けば恋に落ちる
疑問解決一件落着 二人でMEMORY継続開始
『愛し愛しという心』
「Quod Erat Demonstrandum. YES!」
『Wish your Happy ValentineDay‥‥』
♪
『Q.E.D.〜かく証明されり』の前奏はスローの柔らかいピアノから始まり、三味線で勢いを付けてテンポアップしてゆく。
序盤は低音で味付けしつつ、ピアノが軽快に弾み、三味線が優しく響くリズミカルなメロディー。
歌も歌詞の1つ1つを印象付けるようにはっきりと。
Bメロに差し掛かると、二拍子気味へスローダウン。
歌詞に乗せた季節の情景が浮かぶような弱強弱のメリハリがつき、歌も友情から恋へシフトする心情を込め、豊かになる。
環とEUREKAがハモる寸前、一拍無音が入る。
それが印象転換となるように、メロディが一音一音伸びてゆく。
ハモリはテンポを戻し、柔らかめにやや早口に唄う。
高音から駆け下りるような煌く印象のピアノと、絡みを織り成す三味線の音色。
ピアノは低音で軽めにリズムを刻み、三味線は重音を響かせて前面へ出る。
空に溶けるよう、高くじっくり伸ばし歌った後、序盤のメロディが繰り返えされる。
でも、最初より力強く更に軽快に。
最後のハモリでは、ピアノの低音、三味線のウチで弾みを効かせ力強く奏でる。
テンポを落としてピアノの旋律で繋ぎ、最後のハモリはスローで心を込めて丁寧に唄う。
撥なしの三味線のピッツィカートで静かに終了。
●ハッピーバレンタイン!
ライブが終わった後、ステージ裏でささやかな打ち上げが行われた。
彩音お手製のトリュフチョコに、雪架とミラーの手作りチョコと、EUREKAのガトーショコラが加わり、ライブ後の小気味良い気怠さに甘いチョコが浸透し、疲れを癒す。
「今月誕生日の3人、おめでとう」
彩音は環と上総、EUREKAへ一抱えある袋包みを手渡した。恒例の誕生日プレゼントのそれは、トレンチコートとカジュアルジャケット、バスローブが入っていた。