Desert Live中東・アフリカ

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/07〜03/11

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。


 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「‥‥熱は37度2分‥‥軽い風邪、ですわね」
 長女のシュタリアはベッドの傍らにイスを置き、末っ子のティリーナが口にくわえていた体温計が電子音を鳴らすとそれを取り、液晶の表示を見てそう告げる。
「期末考査でかなり無理をしたようですから、その反動でしょうね」
「でも、シュタリアお姉様の妹が学年で3位以内に入っていないのは、お姉様の名前を汚す事になりますもの」
「あら? わたくしの妹であれば、3位なんて言わず、トップを取るくらいでなければ、ねぇ」
「そ、それは‥‥」
「ふふ、冗談ですわ。今日は考査後の休みなのでしょう、ゆっくりと寝ていなさいな」
 ティリーナは普段はお嬢様学校に通っている高校生だ。『成績が下がったようですから、しばらく活動しなくていいですわ。わたくしとスティアの2人で楽しみますから』と、シュタリアに三行半を突き付けられる事をティリーナは一番恐れている。故にSuccubusのゲリラライブといった活動と両立させる為、特に試験の時期は無理をしがちだ。 
 という訳で、ティリーナは期末考査終了後に熱を出し、額に冷たく濡れたタオルを置いて自室のベッドで横になっている。
 しかし――と、改めてシュタリアは彼女の部屋を見回し、微苦笑する。Succubusの3人は血は繋がっていないが、姉妹同然にここで一緒に暮らしている。
 先ず目に付くのは、自分――シュタリア――の写真だ。ベッドのヘッドランプのスペースを始め、机の上や家具の上、出窓など、至る所に写真立てに入れられた自分の写真が飾られている。おそらくファンが撮ったものだろう、中にはティリーナや次女のスティア、ゲリラライブに参加したアーティストとライブ中に濃厚に絡んでいる場面の写真まである。
 ティリーナは“超”が付く程のシスコン――しかも、スティアより、シュタリアにベッタリ――で、Succubusの中で唯一、他の女性アーティストに興味を示さないし靡かない。
「次のライブはゲリラライブではなく、エジプトでのオンラインライブですから体力がものを言いますわ。病み上がりでは連れていけませんもの」
「でしたらシュタリアお姉様ぁ、添い寝して下さい」
「嫌よ、わたくし、風邪を移されたくありませんもの」
「汗を掻けばこのくらいの風邪でしたらすぐに治りますわ」
 ティリーナがシュタリアを求めているのは確かである。
「! んー、んぐ‥‥」
 するとシュタリアはティリーナに突然、深く口付ける。舌が口内へ入ってきて、次いで液体が流し込まれ、そして最後に錠剤が運ばれてくる。
 離れる姉の顔を、妹は名残惜しそうに、物足りなさそうに見つめる。
「そんな顔しないの、これで我慢なさい」
「では、私が眠るまで、お話しして下さい」
 まぁ、話くらいなら、とシュタリアは再びイスに腰掛ける。
「あなたに何度も挑んできているあの娘ですけど、そろそろ負けてあげたらどうかしら?」
「な、何で、私が負けてあげなければならないのですか!?」
 シュタリアがそう切り出すと、ティリーナは眉毛を釣り上げる。
「あら、あなたはわたくしが手取り足取り教えているのですわよ。スタートラインが遙か先にある勝負ですもの、負けるはずがないではないですか。勝ち目の皆無な勝負なのに、それでも立ち向かって来るあの娘は健気でしょ?」
「シュタリアお姉様は私より、あの小娘を庇うのですか!? 私とシュタリアお姉様の仲を裂くのであれば、何人たりとも全力で相手をするだけです」
「‥‥ふ、ふふふ」
 シュタリアは突然吹き出す。
「シュタリアお姉様?」
「ティリーナ、あなた、本当にあの娘の事が好きなのですわね」
「‥‥し、知りません!」
 全力で向かってくる相手には全力で応える。
 ティリーナはわがままそうだが、実は照れ屋で不器用なだけなのだ。
 ぷいっと頬を膨らませてそっぽを向いてしまったティリーナの頬に軽く口付けを落とし、シュタリアは部屋を後にした。


 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのライブはゲリラライブではなく、エジプトで行われるライブの映像をオンライン上で流す、オンラインライブを行うという書き込みがなされた。
 日本国外でのライブだが、リアルタイムでライブ映像が見られるとあって、ファンのテンションも一気に高まった。
 いつものように彼女達だけではなく、他のアーティストやロックバンドを誘う。呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はなく、エジプトまでの交通費は参加アーティストの自前だが、飲食費や滞在費といった現地での必要経費はSuccubus持ちだし、発声や音楽センス、楽器演奏はもちろんの事、パフォーマンス次第では軽業や踊りも鍛えられるいい機会だろう。
 尚、今回のライブもSuccubusの本領発揮となる。女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性があるので注意されたし。

●今回の参加者

 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4581 魔導院 冥(18歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●最高の生贄
「‥‥流石に暑いわ‥‥考えてみれば、3月とはいえ日本はまだまだ冬の寒さだったものね‥‥」
「そうか? 日本とは段違いに暖かいが」
「3月になると2月より寒くなる事が多いが、それと砂漠の暑さは別次元のものだと私も思うぞ」
 稲馬・千尋(fa0304)は手を翳し、燦々と降り注ぐ陽ざしに、メガネ越しの紅玉の瞳を細める。彼女の言葉に応えた不破響夜(fa1236)は、用意周到に陽ざし避けのマントを羽織っている。方や、自らを“悪魔”と称する魔導院 冥(fa4581)は、着ている黒のゴシックドレスはアイデンティティなのか、この陽ざしの中、平然と一緒に歩いている。
 冥達はエジプトはカイロにいた。カイロのこの日の気温は28度だ。
「‥‥そういえば、何で今回は砂漠でのライブになったのかしら‥‥」
「新年会の時、『アメリカとか中東とかも行きたい』と仰ったではないですか」
「あー、千佳ちゃんがそんな事言ってたねぇ‥‥でも、いきなりアフリカでなくてもいいと思うけど。無難にアメリカとか」
 既にエジプトに居てなんだが、根本的な疑問を浮かべる千尋。ちなみに彼女の日焼け対策は万全だ。
 同行しているシュタリアが応えると、紅 勇花(fa0034)が先日の新年会の時のやり取りを思い出す。この場にいない西村・千佳(fa0329)が、確かにそんな事を言っていた。しかし、千佳は中東やアフリカだけではなく、アメリカも挙げていたはず。
「あら、良い意味で期待を裏切ってこそ、Succubusでしょう?」
「人がやらない事をやった方が楽しいものね。お陰でエジプト初上陸だし〜♪」
「そういやこっち来るのは初めてだな。こんな機会でもなけりゃ、エジプトへ来る事なんてねぇからな」
 勇花がそれを口に上らせると、シュタリアはすうっと目を細めて妖艶な笑みを浮かべ、彼女達がSuccubusたる本質を語る。
 面白い事好きのMICHAEL(fa2073)や、機会という意味ではTyrantess(fa3596)も、シュタリアの考えに賛成だ。
「ところで、千佳ちゃんは華鳴ちゃんの気を上手く逸らしてくれてるかな?」
「ああ、その点なら華鳴君の為に“最高の生贄”を用意しておいたから、千佳君1人でも何ら問題ない」
「生贄‥‥ああ、なるほどね。“彼女”なら、確かに最高の生贄だわ♪」
「本人には悪いが、エジプトにいる間くらい、華鳴君に華を持たせても罰は当たるまい」
 勇花がふと明後日の方向を見ると、冥が愉しそうに応える。今いるメンバーを見渡し、MICHAELも“最高の生贄”の意味を察すると納得した。
 3月10日は鳴瀬 華鳴(fa0506)の誕生日だ。千佳が音頭を採って、オンラインライブ中に華鳴の誕生日を祝う計画が進んでおり、Tyrantess達は誕生日プレゼントを買いにショッピングモールを訪れていた。シュタリア達も喜んで賛同している。
 華鳴がかなり大食漢なのは周知の事実だ。そこで、誕生日プレゼントは全員でお金を出し合って、黄金の装飾が施された巨大なスプーンか、普通に可愛く、普段使うのに躊躇わないくらいの食器類にしようと思ったのだが‥‥後者はともかく、前者は流石に見当たらない。
「銀製のギターピックもあるのか」
「俺も愛用してるけど、エレキとの相性は抜群だぜ。それにこの輝きがたまんねーんだよな」
 自分の用の土産物もついでに見ていた響夜がウルフファングを見付けると、実際に愛用しているTyrantessがうっとりとした表情を浮かべる。
 その様子を見ていたスティアがウルフファングをギタリスト全員へ、シュタリアが誕生石をあしらった首飾りを歌唄い達へプレゼントすると告げた。


「重いのですけど‥‥」
「風邪を引いてたって聞いたからぁ、心配してたんだよぉ」
 華鳴とティリーナ――最高の生贄――は、食べ物の露店が建ち並ぶ通りへ来ていた。ティリーナの腕を華鳴が強引に取って腕を絡め、逃がさない姿勢だ。ティリーナは相変わらず素っ気ない態度を取るものの、流石に心配してくれる者を無下にはできないようで、振り解きはしなかった。
「‥‥華鳴に心配されるようでは、私も焼きが回ったようです」
「華鳴お姉ちゃん、ティリーナお姉ちゃん、一緒に食べ歩きするにゃ〜♪」
「‥‥!? 良かったぁ〜、それだけ減らず口が叩けるならぁ、もう元気そうねぇ♪ 病み上がりなんだからぁ、しっかり栄養を付けなくちゃ、ねぇ♪」
 今まで、何時も冷たくされ、「眼中にない」と言われ、「あなた」と他人行儀にしか呼んだ事がなかったティリーナが、初めて華鳴の名前を呼んだ。
 千佳は特に気に留めていないが、華鳴は一瞬息を呑む。しかし、聞き返せば、きっとティリーナはそっぽを向いてしまうだろう。だから華鳴は、いつも通りティリーナの減らず口をさらりと毒舌を含めて受け流しつつ、無邪気な笑顔で千佳に誘われて屋台を梯子したのだった。


●オンラインライブinギザの三大ピラミッド前
 Succubusの初の試みとなるオンラインライブは、ギザの砂漠にある3基のピラミッド――クフ王、カフラー王、メンカウラー王――と、そこに隣接する大スフィンクスが見える場所で行われる事になった。
 MICHAELがエレキギター用の機材やオンライン用の機材を積んだ車を運転してライブ場所まで運び、スティアがオンライン用のカメラといった機材のセッティングを終える。
「さぁ、砂漠の暑さに負けないくらい激しく行ってみようー♪ オンラインライブの開始にゃ♪」
 半獣化してネコミミと尻尾を生やし、肉球グローブを嵌めた手で魔法少女のステッキを模したマイマスクを握る千佳が、カメラの前に現れ、オンラインライブの開始を告げる。


 彼女と入れ替わるように、Tyrantessとスティアがカメラの前に出る。Tyrantessの衣装は赤をベースに、上はショート丈、下は深紅のロングスカートだ。とはいえ、そこはTyrantess、ざっくりスリッドが入り、健康的な黒い脚線を覗かせている。


 怒りを抱いて 我はこの世に生まれた
 愚かなる者に 裁きを下すために
 一度大地へ 解き放たれた後は
 神々でさえも 止められる者はない

 Raging Lioness 我は非情なる狩人
 この爪で 牙で 人々を引き裂き
 返り血で我が身を 赤く紅く染めよう

 Raging Lioness 我は聖なる殺戮者
 この爪も 牙も 乾くことなどない
 この広い砂漠を 赤く紅く染めるまで


 Tyrantessがエレキギターを爪弾き、唄う【Raging Lioness】はエジプト神話に登場する女神セクメトをテーマにした曲だ。
 エジプト特有の気怠い曲調をロックに盛り込んだ「エジプシャン・ハードロック」(Tyrantess命名)で、王達の守護神であり、復讐者でもあるセクメトを紡ぎ出した。


 続いて、再び千佳とエレキギターを構えるMICHAEL、ベースを持って優雅に佇むシュタリアへオンラインカメラが向く。
「スフィンクスっていう巨大な猫も近くにいる事だし♪ ミイラを目覚めさせちゃうくらい熱いライブをしないとねっ!」
 MICHAELも半獣化し、ウサミミと尻尾を覗かせている。


 砂漠のような街にも 綺麗な花は咲いている
 泣いてるだけじゃ 何も変わらないよ
 だから歩き出そう

 君はいつも 迷いの中で
 自らの夢を 探している
 思い通りにいかなくて 信じ続けて行こうよ
 僕はずっと 君の傍にいる

 砂漠のような街にも 綺麗な花は咲いている
 悲しんでいても 何も変わらないよ
 だから歩いていこう 一緒に


 歌い出しは、千佳とシュタリアのアカペラ。
 Aパートが終わった瞬間、MICHAELは激しく演奏開始。一気にトップギアへ、全力全開へ持っていく。自身もいつも全力全開だが、その限界を超える意気込みだ。
 B・Cパートは全開のMICHAELに合わせるように、千佳も全力で唄い、シュタリアもベースに専念する。
 千佳が歌い終わると同時に、MICHAELとシュタリアは余韻すら残さず、演奏をピタリと止めた。


 響夜と華鳴、ティリーナの出番となった。
 響夜は昼間と変わらずマントを羽織ったまま、華鳴は半獣化して金糸雀の翼を背に湛え、古代エジプト風にアレンジした黒衣を纏い、顔に黒地のヴェールを付けている。


 砂塵の荒野に佇み 立ち尽くす乙女
 瞳に孤独を宿す‥‥

 名も無き少女は 一陣の疾風(かぜ)
 朽ち往く王墓の 墓守の刃
 誰にも侵せぬ 聖域への扉

 呪われた身体 引き裂かれる痛み
 それでも 運命を嘆かない

『私は死に 私は生きる』 命尽きては黄泉がえる
『繰り返す 何の為に?』 愛の為に
『私の約束 貴方の約束 私の全て』 王が戻るその日まで
 永久(とわ)に―‥‥
♪※『』:響夜のティリーナのデュエット

 響夜がギターを、ティリーナがベースを務め、【墓守姫】の出だしは悲壮感漂う静かなスローテンポから、徐々に激しく早く。
 Bパートの終わりで響夜がマントを脱ぎ捨てると、下に着ていたシースルーの素材をふんだんに使ったベリーダンサーを彷彿させるボーカリストスタイルへ。
 Cパートでは、ティリーナが得意のスリーフィンガー・ピッキングから早弾きを披露。彼女は華鳴から距離を置いて立っていたが、演奏している時はとても生き生きしていて楽しそうだ。華鳴はちょっとだけ胸にどす黒い炎が渦巻くのを覚える。
 Dパートに入ると、デュエット部分では響夜とティリーナが背中合わせになり、掛け合いのように唄う。続く歌詞は華鳴のパートだが、唄いながら2人に近付いて顎から頬のラインを撫で、絡んでゆく。


「華鳴お姉ちゃん、ちょっとその場で待つのにゃ♪」
「え〜、なになにぃ?」
「ここでサプライズイベントにゃー♪」
 次に控えている千尋と交代しようと、歩き始める華鳴を千佳が引き留めた。
 すると、アコースティックギターへ持ち替えたMICHAELが伴奏を始め、華鳴を除く全員で【ハッピーバースデー】を合唱した。
「華鳴ちゃん、お誕生日おめでとう。これは僕達全員から。ほら、いつもお世話になってるし‥‥ね」
「これは‥‥私達Succubusからです。私からではないので、勘違いしないように」
 勇花がみんなを代表して華鳴の額に金のサークレットを付け、ティリーナがSuccubusを代表してブラッドスターを首に掛ける。プレゼントは無難にアクセサリーになった。
 普段は小悪魔的に振る舞う華鳴だが、流石に感極まったようで、うるうるっと来てしまう。ティリーナに抱き付こうとしたが彼女は先の先を読んで距離を取っており、代わりに勇花に抱き付いた。
 昼間、腕を組んで屋台巡りをし、名前を呼ばれた事で距離は縮まったと華鳴自身は思っていたが、ティリーナからの誕生日プレゼントだったのかもしれない。


 オンラインカメラはスタンバイを終えた千尋を映す。
 日本やイギリスでのゲリラライブは冬の外という事で、その反動からか紫を基調とした半袖と腰に大きなリボンを結った黒のハーフパンツ、黒のロングブーツといった薄着だ。


 果てた身体の依代(よりしろ)は 強烈な印象を与え
 朽ちる前の偉大さを その身を通して伝えてる
 強靭な守護者を従えて 威風堂々聳え立ち
 どんな事があろうとも その身が揺らぐ事も無く

 その力を示すように 見せ付ける様に
 人を見下ろし立ち続ける

 偉大な姿は時代(とき)を経ても
 朽ちる事無く 存在(あり)続ける
 その身がそこに在る限り
 魂は消え果ぬ

 たとえ朽ちてもその偉大さは
 思いと心へと 存在(あり)続ける
 人々の心に在る限り
 魂は消え失せぬ


 【アヌビスの天秤】(スティアが命名)は、最速のテンポで勢いのある歌だ。
 重低音を響かせる為、千尋自らがベースギターを爪弾き、メインの音にしている。


 トリを務めるのは冥と勇花だ。
 冥は黒のゴシックドレスはそのままに、半獣化して翼を生やした悪魔スタイルになり、勇花は黒い薄手のロングコートを羽織っている。
「死したる者が、いずれ還る日の為に‥‥か‥‥還ってきてくれるなら、いいのにね‥‥」
 勇花は演奏前、ピラミッドを見て、そんな事を呟いていた。


A.星々の導き、遠き日を辿る
  金字塔は語る、遥かなる記憶

B.黄金の海原 漕ぎ逝く天の船
  願いを乗せて解いた手と手‥‥

S.沈めどまた昇る太陽は導く
  途切れた約束を繋ぎ、もう一度‥‥
  暁を背に来る懐かしき影を待ち続けて‥‥

Z.巡り‥‥戻り‥‥逝き‥‥そして、また巡り戻り‥‥
 「運命さえも、二人を分かてない‥‥」


 【太陽の環】は、「輪廻転生」をテーマに勇花が作詞した歌だ。
 故に曲調はボーカル兼サイドギターの勇花の声質を活かし、明るめを保ちつつ、冥がライトハンド&タッピングを多用した演奏で、荘厳で神秘的な雰囲気を添える。
 前奏無しで唄い始まり、ゆっくりと穏やかに、テンポを上げてゆく。
 加速し続け、Sパートでトップスピードへ。まさに山場と言わんばかりに、冥も荘厳さを強調する為低音でバックコーラスを務める。
 その際、2人はお互いを肌で感じられるよう、背中を合わせで演奏する。
 そのままZパートへ入るとスピードを僅かに落とし、ギターソロの後奏へ入る前に一瞬止まり、再びテンポを戻して神秘的なイメージを演出し、余韻を残すように終わらせる。


 Succubusも歌を披露すると、今回はゲリラライブではないので撤収する必要はない。
 シュタリアが気を利かせたのか、全員分のラクダが待機しており、彼女が乗ってきた車に器材や楽器を積んで先に帰り、MICHAEL達はギザの三大ピラミッド周辺をラクダに乗って見学したのだった。