Goddess Layer 6th’アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 菊池五郎 |
| 芸能 | 2Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 2.4万円 |
| 参加人数 | 7人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 03/09〜03/13 |
●本文
※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるＰＣの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※
１９９０年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
１９８０年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、９団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。
その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
“東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に２４回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。
だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍（＝革命軍）」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈（ライナ）が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。
しかし、ダイナマイト・シュガーが維新軍を率いて、正規軍に、アイギス佐久間に彼女の持つ東女のヘビー級ベルトを賭けたタイトルマッチを半ば強引に申し込み、そして奪取してしまった。
そればかりか、リリム蕾奈の持つ東女タッグベルトもアイギス佐久間と一緒に獲得し、ここに来て東女は、ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間を中心にほぼ統一されたと言っても過言ではなかった。
東女は先月の興行を休み、バカンスへと出掛けた。
表向きの理由は、ダイナマイト・シュガー率いる維新軍が、アイギス佐久間を始めとする正規軍にタイトルマッチを申し込んだのを皮切りに、リリム蕾奈が組織した反乱軍との戦いを経て内部闘争に終止符を打つと、今度は『陸奥（むつ）女子プロレス』のエース、“独眼竜正宗”こと伊達沙苗や、『西日本女子プロレス』の双頭のエース、ロッキー龍子とライトニングバニーが、相次いで挑戦状を叩き付けてくるなど、連戦によるレスラー達の慰安が目的だ。
だが、本当の理由は、ダイナマイト・シュガーを初敗北のショックから立ち直らせ、全治約２ヶ月のケガを負ったアイギス佐久間の回復にあった。
その甲斐あって、ダイナマイト・シュガーは見事に新しい技を習得して立ち直り、アイギス佐久間も試合へ出られるまでに回復した。
今度の相手は、中国地方を中心に興行を行っている女子プロレス団体『ＪＯＷＰ（＝Japan Ocean Women’s Prowrestling）』だ。
しかし、それとは別に、ダイナマイト・シュガーが所持していた東女のジュニア級ベルトが返上され、東女の若手や女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』で話題になっている。
現在、東女のジュニア級の王位は空位。ＪＯＷＰとの興行の中で、タイトルマッチが行われる事になった。
「能登、あなたもタイトルマッチに参加するのよね」
「‥‥はい。それが私の運命ですから」
若手はダイナマイト・シュガーが立ち上げた維新軍に多く所属しているが、アイギス佐久間率を慕って正規軍に所属している者も少なくない。彼女は若手達のトレーニングを見ながら、１人のレスラーに声を掛けた。
フォルトゥナ能登。関節技を得意とするレスラーだ。ダイナマイト・シュガーより後の入門ながら、現在１８歳という事もあり、ギリギリジュニア級ベルトへ挑戦できる。
「正規軍から他にも挑戦する者がいるから、あなただけを応援する事は出来ないけど、実力を出し切れば自ずと結果は見えてくるわ」
「‥‥はい。頑張ります」
「かすみ、あなた、ジュニア級のタイトルマッチに出なさいな」
「はぁん‥‥お姉様、あたしが、ですか？」
時を同じく、リリム蕾奈は反乱軍の１人、松岡かすみにタイトルマッチに出るよう話を進めていた。気配を消して後ろから近付き、掌すっぽりサイズの小振りな胸を鷲掴みにするのも忘れない。
かすみはちゃきちゃきの江戸っ子で、パワー技で押しまくるレスラーだ。友達に誘われて地元の体育館で開催された東女の試合を見に来た折りに、リリム蕾奈に目を付けられて食べられてしまい、そのまま入門していた。
「正規軍も維新軍もジュニアベルトを獲っているのに、わたくし達だけ持っていないのは不公平でしょう？」
「くふぅん‥‥あたしもそう思います‥‥ぁぅう‥‥お姉様の為にも、ベルトを獲ってきます‥‥」
※※登場人物紹介※※
・フォルトゥナ能登：１８歳
占い師を目指していたという、プロレスとかけ離れた経歴を持つ。ある日、占いで「プロレスラーになれ」との天啓を受け東女の門を叩く。掴み所のない不思議少女で、相手の先の先を読むような関節技が得意。口癖は「あなたに相応しい技は決まったわ」。
所属：東女・正規軍
修得技：ボディスラム／投、ストレッチプラム／極、ショルダータックル／力、掌底／打、ドロップキック／飛
得意技：あなたの運命はここで尽きる（ドラゴンスリーパー）／極
・松岡かすみ：１７歳
東京の下町で育った江戸っ子。お祭り（騒ぎ）が大好きで、幼い頃から神輿担ぎで鍛えた心身のタフさを武器に、パワー技で押しまくる。彼女の不幸は、友達に誘われて東女の試合を見に来た折りにリリム蕾奈に食べられてしまい、百合に目覚めてしまった事だろうか。
所属：東女・反乱軍
修得技：ブレーンバスター／投、脇固め／極、ラリアート／力、逆水平チョップ／打、ドロップキック／飛
得意技：デスバレーボム／力
※※カテゴリー分けと代表的な技※※
投：投げ技‥‥アームホイップ、ボディスラム、ブレーンバスター、バックドロップ等
極：関節技‥‥スリーパーホールド、脇固め、片逆エビ固め、コブラツイスト等
力：パワー技‥ヘッドバット、ラリアート、パイルドライバー、パワーボム等
打：打撃技‥‥逆水平チョップ、エルボー、掌底、延髄斬り等
飛：蹴り技 ‥‥ドロップキック、ローリングソバット、ヒップアタック、フライングボディプレス等
※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居
●リプレイ本文
東日本女子プロレスとＪＯＷＰ（＝Japan Ocean Women’s Prowrestling）の戦いの舞台となる後楽園スクエアの1873席ある客席は、チケット発売開始からわずか数分で売り切れ、電話回線やネット回線をパンクさせた。
立ち見を含めても最大収容人数2005人しかない後楽園スクエアは、「格闘技の聖地」「格闘技のメッカ」等と呼ばれている。この場所でアイギス佐久間と富畑愛美という、日本の女子プロレスの人気を二分する二大女傑の勇姿が見られるのだ。
加えて、ダイナマイト・シュガーが返上した東女のジュニア級ベルトを巡る若手の王座決定戦も行われるとくれば、女子プロレスファンが沸かない訳がない。
●各陣営の思惑
真女時代からの親友にして自他共に認める好敵手、アイギス佐久間と富畑愛美の対決は叶わなかったが、ダイナマイト・シュガーの持つ東女のヘビー級ベルトのタイトルマッチが組まれている事もあって、ジュニア級ベルトを巡る王座決定戦のトーナメントは、前座的に組まれている。
「‥‥今はヘビー級タイトルマッチの前座でも構わない。いずれは維新軍が東女を動かす。例えジュニア級と言えど、ベルトは渡せない！」
維新軍所属の南条遥（神楽（fa4956））は、やけに眩しく感じるリング上の照明を、目を細めて見上げている。彼女は派手さはないが、緻密に試合を進めていき、勝ちをもぎ取るいぶし銀的な関節技の使い手として、正規軍や反乱軍からも一目置かれている。ダイナマイト・シュガーがアイギス佐久間率いる正規軍の反攻勢力として、若手で結成した維新軍（革命軍）の五指に入るが、遥自身、ダイナマイト・シュガーの背中を見るしかない今のポジションに甘んじているつもりはない。
「そ、そうですね！ ダイナマイト・シュガーさんが巻いていたベルトですから、維新軍が手放す訳にはいかないですよね！ よーし、広橋達も頑張りましょうー！！」
遥の呟きにガッツポーズと共に元気良く応えたのは、同じ維新軍の広橋 美久（雨宮慶（fa3658））。たまたま観に行った試合で起こった場外乱闘に巻き込まれてしまい、その時助けてくれたアイギス佐久間に憧れて入団した経緯を持つ。
維新軍へ身を投じたのは、アイギス佐久間に自分の成長を見て欲しいからだ。
参戦枠が開いていたので少しでも経験を積もうと参加したのはいいが、遥の意気込みを聞いて維新軍がジュニア級ベルトを獲る意味を改めて理解すると、気合いを入れ直す。
「ほほほ、ジュニア級ベルトは庶民の貧相な腰ではなく、“１００万ドルの天使”と東女のファン達に謳われる、この私の腰に巻かれてこそ、真価を発揮するのですわ」
美久達の前へ挑発的な台詞と共に現れる、正規軍の美倉さくら（銀城さらら（fa4548））。２人とも表情にこそ出さないが、「またか‥‥」と内心げんなりする。
さくらは大財閥の令嬢で、興行の移動の際は常にＳＰに囲まれて１人で移動する事で有名だ。デビュー以来全戦不敗を誇っており、実力はあるのだが、如何せん箱入り娘的唯我独尊な性格が災いして、試合会場にも黒服や女性ＳＰを入れろといった無茶な要求をし、社長の佐久間章枝と衝突する事も少なくない。今回も入場の演出で、先程まで揉めていた。
「‥‥ベルトが誰の腰に巻かれるかは、運命だけが知っています‥‥」
彼女に応えたのは、さくらと同じ正規軍のフォルトゥナ能登（月葉・Ｆｕｅｎｆｔｅ（fa1234））だった。こういう場合、普通なら同じ所属の選手を庇うのが仲間だが、フォルトゥナ能登は占いの結果を端的に告げるのみ。
流石のさくらも毒気を抜かれてしまい、肩を竦めて溜息をこぼした。
「寝言は寝てから言って欲しいですね。特にフォルトゥナ能登、あなたはいつも眠そうですから。実力から言って、ベルトは私の手に収まるに決まっています」
そこへ割って入るスモウレスラー。隈取りのフェイスペイントで顔を隠した彼女はクロウ（蒼流 凪（fa3623））だ。年齢も本名も、東女のほとんどのレスラーに明かされていないが、デビュー戦で右掌底の一撃で対戦相手をＯＫしてしまった実力の持ち主だ。東女ファンの間では、新相撲の出身ではないかと噂されているが、本人が真相を語らない為、その素性は謎に包まれている。
「ダイナマイト・シュガーの所為で他の派閥と和解こそしていても、反乱軍にベルトが無い事自体はあまり気に入りませんわねぇ。そうでしょう、クロウ？ かすみ？」
「はい‥‥お姉様ぁ」
クロウの後ろから、松岡かすみ（泉 彩佳（fa1890））を伴って現れるリリム蕾奈（相澤瞳（fa5111））。クロウ、かすみ共に彼女が結成した反乱軍に所属している。
東女はアイギス佐久間の存在の大きさからヒール系レスラーが少ないが、その少ないクロウ達を束ねているのもリリム蕾奈だ。彼女もヒールに関しては百合の対象と見なしていないが、リリム蕾奈自身エゴイストヒールなので自然とヒールが集まってくる。
また、ＪＯＷＰとの対戦では先鋒を務める彼女が、こうして若手達に発破を掛けに来ているように、意外と面倒見も良く、クロウ達が反乱軍に籍を置いているのもリリム蕾奈のカリスマ性も起因していた。
長身のリリム蕾奈と小柄なかすみとでは、２０ｃｍもの身長差がある。リリム蕾奈が後ろからかすみを抱く形で、かすみはリリム蕾奈の胸に顔を埋めて、陶酔しきった瞳で仔犬のように甘えている。
「かすみ‥‥あなたがベルトを獲ったら、目一杯“御褒美”をしてあげますわ‥‥」
「あ‥‥んっく‥‥お姉さま！ ‥‥ふぁぁ」
「‥‥もっとも、もし獲れなかったら、それなりの覚悟はしてもらいますわよ‥‥ふふっ、どちらに転んでも悦しみですけど♪」
「や、はぅ‥‥お姉様‥‥試合前にそんな事したら‥‥んん！」
耳元で艶っぽく囁き、そのまま耳たぶを甘かみすると、かすみのリングコスチュームの胸と下腹部に手を伸ばすリリム蕾奈。愛撫されたかすみは立っていられなくなり、まるで試合後のように息も絶え絶えにリリム蕾奈に身体を預けた。
クロウはいつもの事なので慣れっこだが、流石のさくらもこの光景には言葉が出なかった。
ある意味、この場を丸く収めたかもしれない。
●１回戦・第３試合〜３０分１本勝負〜
結婚式の定番の入場曲に合わせて、ウェディングドレス姿のさくらが花道に現れる。彼女は途中で自らウェディングドレスを引き裂くと、曲はハードロック調へ変わり、白いエナメル質のボンデージスーツのリングコスチュームに早替わりする。
花道で曲に合わせて一頻りダンスを披露した後、クロウの待つリングへようやく上がる。
「今夜のディナーは少々チープね、ほほほ」
「では、お嬢様のご馳走に与るとしましょうか」
クロウを指差して挑発すると、彼女は舌なめずりをしてさくらを見返す。
試合開始のゴングが鳴ると同時に、クロウは前へ出る。さくらは間合いを取るべく後退する。
圧倒的なスピードで自分の間合いを常に維持し、フライングニールキックやジャンピングハイキックなど、蹴って蹴って蹴りまくる。クロウを組み付かせない戦法だが、彼女も組み付く必要はない。さくらの蹴りに合わせて張り手を繰り出し、彼女の白い肌に紅葉を残してゆく。
「なるほど、お嬢様の肉は食いでがありますね」
「庶民のくせに‥‥格の違いを知りなさい」
クロウの言うご馳走とはこの事だった。試合の主導権はさくらが握っているものの、張り手の応酬で今一歩、深く踏み込めず、苛立ちを隠せない。
やがてさくらのスピードに慣れてきたクロウが、隙を衝いて大外刈りや払い腰といった投げ技を決めてくる。さくらも負けじとＳＴＦ（ステップオーバー・トゥホールド・ウィズ・フェイスロック）を決めるが、これはクロウが強引な体勢から必殺のマグナム（掌底）を放って振り解く。
クロウはそのままパワーボムを叩き込むが、さくらは起き上がり、ミリオンダラードリーム（延髄斬り）で彼女を沈めると、そのまま体固めへ持ち込み、カウント３を取る。
「私のレベルに達するには、まだまだですわね」
毒を吐きながらも、笑顔でクロウに手を差し伸べ、立ち上がるのを助けるさくらだった。
●準々決勝・第１試合〜３０分１本勝負〜
「遥さんやダイナマイト・シュガーさんと一緒に、日々、鍛えている成果が出ました！」
一回戦を勝ち上がった美久は、一回戦シードのフォルトゥナ能登と対戦した。
「‥‥見えるわ、この戦いの結末‥‥勝つのは、私」
「例え勝てなくても、全力でぶつかっていきます！」
先手を取ったのは美久。フォルトゥナ能登の腕を取ってロープへ振り、戻ってきたところへショルダータックル！
今度はフォルトゥナ能登が美久の手を取り、同じくショルダータックル！
続けて美久のドロップキック！ 今度はフォルトゥナ能登のドロップキック！
まるでフォルトゥナ能登は、美久が次にどんな技を仕掛けてくるのか分かっているかのように、同じ技を繰り出す。
これなら、と美久がヒップアタックを出すと、痛恨の自爆。お尻から落ちてしまい、そのままストレッチプラムを決められてしまう。
幸い、ロープ際だったのでロープブレイクすると、今度は一転してフォルトゥナ能登の動きが複雑化した。ショルダータックルと見せ掛けて、ドロップキックを放ったり、一瞬姿勢を低くしてドロップキックと思わせて、掌底の連打など、疑心暗鬼に陥った美久に畳み掛けるようにフェイントを多用する。しかも、要所要所では確実にストレッチプラムを決めてくるのだから堪らない。
「‥‥でも、広橋は負けられないんです！ 強くなった証を維新軍のみんなに見せたいんです！！」
決してギブアップせず、身体を痛める事を承知で強引にストレッチプラムから抜け出すと、逆にフォルトゥナ能登にスリーパーフォールドを仕掛けてゆく美久。
「‥‥運命が‥‥美久に引き寄せられている‥‥？」
試合の流れは完全に自分が制しているのに、運命は美久へ向かって流れ始めている事に驚くフォルトゥナ能登。
「決まって！！！」
「‥‥なら、運命を私に引き戻すまで‥‥あなたに相応しい技は決まったわ‥‥」
必殺のフライングショルダータックルの直撃を受けながらも、美久の身体を強引にボディスラムへ持ってゆくフォルトゥナ能登。そのままドラゴンスリーパーを決め、美久の意識を刈り取ったのだった。
「‥‥運命は最後の最後でその姿を変えるものです‥‥」
意識を取り戻した美久に、フォルトゥナ能登は肩を貸しながら一緒にリングを下りていった。
●決勝・東日本女子ジュニア級王座決定戦〜６１分１本勝負〜
「入場の演出も私の希望通りに満足に出来ない正規軍なんて、こちらから願い下げです。私の軍勢“美倉軍”を立ち上げます」
「反乱軍や正規軍、維新軍が気に入らなければ、自分の軍勢を好きに立ち上げなさいな。ただ、実力があっても、目立とう精神の派手な格好だけのレスラーに、練習生を含めて何人が付いてくるでしょうか？」
準決勝でさくらが突然、新軍勢結成をマイクパフォーマンスで宣言して試合放棄すると、リリム蕾奈がかすみの援護射撃を兼ねて乱入するという一波乱があったものの、東女ジュニア級王座決定戦決勝は遥とかすみの対決となった。
恐いのは一方的なグラウンドの極め攻勢だ。遥も長身なので、組み付かれるとパワーで勝っていても体格差からかすみの方が不利になる。
「いっくよー！」
まるでこれから神輿を担ぐかのように、声を出して果敢に攻めるかすみ。リリム蕾奈と一緒にいると、どうしても百合に見られてしまうが、普段の彼女はお祭り好きの江戸っ子なのだ。
パワーにものを言わせて遥をロープへ振ると、まずはラリアート！ 反撃で掌底を食らうものの、数撃の被弾ではびくともせず、今度は自らロープへ飛んでドロップキック！ 遥がスリーパーフォールドへ持ち込もうとすれば、逆水泳チョップの連打など、組み付かれない技の組み立てを心掛け、試合の流れを強引に自分へ引っ張ってくる。
相手がグラウンドの展開を嫌がっているのなら、遥も自分のプロレスにこだわるつもりはない。ドロップキックをＪネックブリーカーで迎撃したり、脇固めを仕掛けると思わせて裏投げに持ち込むなど、確実にかすみのスタミナを奪っていった。
一進一退の攻防が続く中、残り時間１分。『勝負は６０分を過ぎてから』というとある偉人レスラーの格言に則り、東女のタイトルマッチは６１分と半端な制限時間に定められている。
「ジュニア級ベルトはお前様のものだよ！」
ここでかすみが遥を神輿のように担いで、そのままデスバレーボムへ！ ところが遥はカウント２．９で返し、両者ふらふらになりながらも立ち上がる。
「‥‥シュガーが返上したベルトは、維新軍から動かさない‥‥わたしが新王者となる！」
先に動いたのは自らに発破を掛けた遥。飛びつき腕ひしぎ逆十字を極めて、かすみをマットへ叩き付ける。かすみは口の中で「お姉様」を連呼しながら、ロープへ向かう。
既に振り解く体力は残されていない。
ギリギリと締まる腕。
遠いロープ。ロープの先には、試合を見守るリリム蕾奈の姿があった。
「‥‥ごめんなさい、お姉様‥‥」
ロープまで３０ｃｍの距離でかすみは力尽き、ギブアップ。
「‥‥良い勝負だったわ」
リリム蕾奈にお姫様抱っこされながらリングを下りるかすみにそう声を掛ける遥。明暗を分けたのは、『自分の為』に戦っていたのか、それとも『お姉様の為』に戦っていたのか、気持ちの持ちようだったのかも知れない。
ここに南条遥という、東日本女子ジュニア級の新王者が誕生したのだった。
