5日遅れのホワイトデーアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 6.3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/19〜03/23

●本文

 ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
 また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。

●ある日の風景〜ホワイトデー〜
「ビジュアル系メタパンクバンドか‥‥」
 その日は珍しく、ヴァニシングプロの社長室に彩音の姿があった。更に珍しい事は続き、彼女は社長のイスに腰掛けてデスクワークに勤しんでいるではないか。
「明日は雨かな。ホワイトデーのデートに繰り出す若者は大変そうだ」
「私だってヴァニシングプロがプロデュースするニューフェイスのプロフィールの確認くらいするさ」
 コーヒーを淹れて持ってきた副社長エレクトロンボルトが窓の外を見ながら呟くと、彩音は微苦笑しつつ、再び視線を書面に戻す。
 彼と彩音の付き合いは十数年来になるので、エレクトロンボルトが嫌味で言っていないのは分かる。
 各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している彩音が、社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。最近は渋谷蓮達の力添えもあってスカウトが上手くいっており、ヴァニシングプロ自体には帰ってきている。
 一般的な社長が行うようなデスクワークは苦手で、その大半をエレクトロンボルトに押し付けているが、プロデュースしているアーティストや所属しているアーティスト、そしてこれからプロデュースするニューフェイスの現状把握には余念がない。
 彼は今日も自信作のコーヒーを机の余白に置きながら、彩音が目を通している書面に目を落とす。それは近々ヴァニシングプロがプロデュースする予定の、ビジュアル系メタパンクバンドのメンバー達のプロフィールだ。
 余談だが、彩音が料理に凝っていたり、エレクトロンボルトがコーヒーにうるさい事もあって、ヴァニシングプロの給湯室は一般家庭のキッチン並の設備が整っている。
「そうそう、先程君が言っていたホワイトデーだがな」
「ライブを行う予定は入っていませんね。バレンタインデーに富田TVからの特番の依頼を請けたので、ホワイトデーも請けるものと思っていましたが」
 彩音が切り出すと、エレクトロンボルトはガンマンの早撃ちよろしく懐から手帳を取り出して予定を確認する。
「それなんだが、所属しているアーティストから面白い意見を聞いてな。ホワイトデー当日に募集を掛ける事にした」
「ホワイトデー当日に、ですか? それですと、ライブは5日後になりますが」
「なるな」
 彩音はミルクたっぷりのノンシュガーコーヒーを一口すする。
「それでは、ホワイトデーのライブとは言えないのではないでしょうか?」
「まぁ、厳密には言えなくはなるが、元々ホワイトデーはバレンタインデー程格式張ったものでもない。それにホワイトデー当日、不幸にも仕事や外せない用事が入ってしまって、祝えない恋人達も少なくはあるまい?」
「なるほど、そういった人達をターゲットとした‥‥“5日遅れのホワイトデー”ですか」
 彼女の意図を読み、エレクトロンボルトも愉しそうに中指で細いフレームの丸レンズのメガネの、レンズ間のフレームを押し上げて掛け直す。
「コンサート会場はバレンタインデーと同じ場所を抑えるとして、ホワイトデーは過ぎてしまうから、富田TVでの生中継は無理だな。普通のライブになるか‥‥」
「バレンタインデー同様、アーティストの披露する歌をテーマで統一してはどうでしょう?」
「うむ、私も同じ事を考えていた。テーマはそうだな‥‥“5日遅れのホワイトデー”としようか。別に5日も遅れる事はないのだが、日常で約束の日時に遅刻する事は良くある事だ。それが恋人達なら些細なケンカになってしまうだろう。そういった、誰もが一度は経験するであろう、苦い“遅れ”と“恋愛”とを上手く絡めて唄ってもらう事にしよう」
「今回は、ホワイトデーにまつわるトークは無しの方向ですか?」
「時間が取れれば、参加アーティスト達をステージ上に集めてホワイトデーをテーマとした座談会っぽい事をやりたいが‥‥時間的に厳しいだろう。ホワイトデーのテーマである、男性から女性へのお返しは、歌に盛り込んでもらうのが良いだろうな」
「では、アーティスト達にはそのように通達します」
 エレクトロンボルトはライブの募集要項を作成する為、足早に社長室を出てゆく。1人残された彩音は、再び1人1人のプロフィールに目を落とし始めた。

☆★☆★技術傾向★☆★☆
容姿。発声・音楽・楽器・踊り

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0760 陸 琢磨(21歳・♂・狼)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1376 ラシア・エルミナール(17歳・♀・蝙蝠)
 fa2457 マリーカ・フォルケン(22歳・♀・小鳥)
 fa2495 椿(20歳・♂・小鳥)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●木之下霧子(fa0013)
「初めての音楽の仕事がこんな大舞台なんて‥‥頑張らないとですネ♪」
 ステージの袖で客席の様子を窺っていた霧子は、小さくガッツポーズを取った。その様子に緒方・彩音(fz1033)は安心したように頷く。
「緒方さん、不慣れですけれど、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いしますネ☆」
 霧子はぺこりんと元気よく挨拶すると、ステージへ。
 ペンギンっぽい燕尾服を着た霧子は、とてとてと中央よりやや前へ。リハーサルの時確認したところ、この位置が観客の顔を余す事なく見渡せた。
「初めまして、木之下霧子です☆ 『恋するペンギン』聞いて下さい。恋に必要なのは勇気と気持ちですヨ♪」


 夜の南極 ペンギン一羽
 ぱたぱた悩み 歩いて周り
 過ぎたホワイトデー 勇気出なくて
 彼女誘えず ぐるぐる歩き

 どうすれば 良いのだろう
 この思い 伝わるだろう

 恋するペンギン 月を見上げて
 歌を歌った 恋する歌を
 風が運ぶよ 楽しいメロディー
 彼女の元へ ふわりと届け

 アザラシもペンギンも 起き出し浮かれて
 みんな集まり 手を取って踊る

 月のライトに 氷の絨毯
 彼女も一緒に くるくる踊る
 これは素敵な ダンスパーティー
 南の果ての ダンスパーティー 


 笑顔で観客に挨拶すると、その台詞を出だしに歌い出す。
 『恋するペンギン』は童謡系の明るく楽しい曲調だ。
 ダンスといった動きは少なく、霧子は1人1人の目を見るようにゆっくり移動しながら歌を紡ぐ。
 それは彼女が恋をしてる人を応援しているかのようだ。

「みんな、恋は諦めたらそこで終わりですヨ☆」
 霧子はそう告げて締め括った。


●Tyrantess(fa3596)
 行きと同じくとてとてと下がる霧子と入れ替わり、Tyrantessが彼女からマイクを受け取る。白のショートジャケットとミニスカートの衣装は、ホワイトデーに合わせたカラーチョイスだ。
「遅刻か‥‥待ってるヤツも多いんだろうが、俺なら待たないな。待たせるのは気にしない方だが、待たされるのは嫌いだしよ。ま、待ってたような顔して、当日は別のヤツと一緒でした、ってトコだな」
 愛用の黒いエレキギターを軽く抱き、目を細めてギターヘッドにキスを落とすと、流し目で客席を見遣ってから弦を爪弾く。


 What r ur excuse?
 こんなに待たせた理由を聞こうか?
 ことによっちゃ それでBye−byeだ
 How’d u make up?
 言い訳するより誠意を見せろよ?
 本気だったら できるはずだぜ

 俺の好きなモノ、ほしいモノ、したいコト‥‥全部知ってるだろ?

 Today’s our White Day
 三倍くらいで 済ませられると思うなよ?
 Today’s MY White Day
 待たせた分まで 最高の日にしてくれよ?


 『MY White Day』は、散々待たされて怒ってると見せ掛けて、実はそれに付け込んで無理を言ってやろうと手薬煉引いて待っている、Tyrantess自身をモデルにしたような内容の歌だ。
 Aパートはちょっと拗ねて詰め寄り、サビの後、Bパートは一転してやや妖しげに絡みつく。強(したた)かな女性の小悪魔っぽさを演出する為、曲調はハードにし過ぎず、ミディアムテンポで。


●マリーカ・フォルケン(fa2457)
 マリーカがしずしずとステージへ現れる。
 成熟した大人の女性ならではのしっとりとした色香を、緋色の落ち着いたロングドレス越しにこぼれる彼女が現れただけで、声援が続いた客席は水を打ったように静まり返る。冷たい銀製品で統一された装飾が、発散されている色気をより洗礼させ、男女問わずその美しさに魅せられた。


【会いたい】
 今日届いた一通のメール。
【もう一度二人でやり直そう】
 今更なセリフね。

 疲れて、寄り添いあっていたあの頃。
 お互いがすべてだったよね。
 あなたの優しさに甘えて、あたしも微睡んでいたっけ。
 それはとても心地よく、あなたを愛している、そう思っていたのに。
 何時しかあなたの腕の中じゃ満足出来ないあたしが居たわ。

 あなたを嫌いになった訳じゃない。
 ただ分かっただけ。
 生きる道が違うって。
 今が大切なあなたと、明日を信じたいあたし。
 どこですれ違ったのかしら?
 あの日、立ち止まる事を選んだのはあなたよ。
 あの時、出てゆくあたしを見送るだけで立ち竦むあなた。
 
 せめて、あの後、止めてくれたなら、何かが変わったのに‥‥
 一月も遅れた、こんなメール。
 もうあたしの心には届かないわ。

 goodbye 好きだったあなた。


 歌姫である彼女は、弾き語りを得意としている。『一月の遅刻』はキーボードを演奏しつつ、歌を紡ぐ。
 曲調はスローテンポ、歌詞は独白するように、若干の怒りと寂しさを込めた。


●亜真音ひろみ(fa1339)
「ホワイトデーの曲を二度やる事になるとは思わなかったよ」
 ひろみはGジャンにGパンという、特にホワイトデーを意識してはいない、普通のラフな格好だ。
「あたしの恋愛は‥‥あ、いや、すまない、面と向かってそんな話をするのは慣れなくてね、サンダージェットストリームなら平気なのに」
 自分の恋愛話になると赤面して言い淀み、照れ隠しに黒髪を掻くめぐみ。ちゃっかり、ラジオ番組TJSの宣伝も忘れない。


 今が大事な時なんだと呟き
 デートを遅れた電話で済まし続けた俺に君から突然切り出された別れ話
 やっと気付いた君の願い

 遠ざけていたわけじゃない
 煩わしかったんじゃない
 ただ君が眩しくて見えなかっただけ なのに
 いつか君に釣り合う男になろうと必至で
 一番大切な事を忘れていた

 渡しそびれたライブチケット
 日にちを書き替え君に送るよ
 時期外れのプレゼント受け取ってくれないか?

 もう遅いかもしれないけど俺の全てを感じもう一度信じて欲しい

 出会った頃の言葉は嘘じゃないと

 君がいなければ全てが無意味なんだ
 君がいなければ俺はこの世界でただ一人きり

 今度は君の手を握りしめもう放したりはしないから

 もう一度二人出会った場所で同じ夢をみよう
 俺には君が必要なんだ


 会場を暖めた後歌い始める『Love Song』は、シンプルなロックバラード。
 唄い始めは緩やかに、Bパートから徐々にテンポをアップし、盛り上げてゆく。
 Bパートの最後で最高潮に達すると、Cパートからペースを落とし、最後のサビは囁くように想いを込めて終わる。
 背面のオーロラビジョンには、めぐみのライブ映像が流された。

「どうかな? 歌の内容的に男装した方が良かったかな?」
 めぐみがそう締め括ると、客席から黄色い声援が飛んだ。


●陸 琢磨(fa0760)
「俺がテーマと一緒に語るのは、『諦め切れない想い』だ」
 山吹色の大型のギター『サン・ライト』を肩から提げながら、琢磨がステージへ上がる。
「何事も諦めず、手遅れだと分かっていても、それが喩え無駄だとして後悔しようとも、それでも最後まで自分の想いを伝えようとする‥‥そんな語りをこのナンバー『BURN THE BREEZE』で、俺なりに表現してみた」


 既に過ぎ去った時間 やがては消え行く明かり

 最後の出会いは遠くて 出会うのが酷く怖い


 それでも会いたくて 会いたくて 会いたくて


 浮かべるあの娘の顔が 僕の足を絆で導いてくれる

 耐え切れない想いだけが 僕の身体を焦がしてる


 BURN THE BREEZE 奔れ 伝えろ

 BURN THE BREEZE 噛締め 吼えろよ

 あの娘と会って伝える 想いを胸に抱きしめ

 BURN THE BREEZE FOR LOVE


 Aパートの序盤はローペースで淡々と、そしてやや物悲しげな、切に訴えかけるようなバラード風に始まる。
 Aパート後のサビは、やや感情を込めて、誰かに訴えかけるように紡ぐ。
 中盤のBパートに入ると、ややテンポを速め、ロックへの変化のきっかけを作る。
 Bパートの最後の歌詞を言い切った時点で一気にハイペースのロックへと変え、以降は一気に駆け抜けた。


●ラシア・エルミナール(fa1376)&西村・千佳(fa0329)
「今回はラシアおにぃ‥‥ぢゃなくて、お姉ちゃんと一緒にゃ〜♪ よろしくにゃ〜♪」
「お、おい!?」
 だきゅ☆っと腕を組まれ、千佳に引っ張られるようにステージへ上がるラシア。ラシアが突っ込みを入れたのは、千佳に腕を組まれた事か、それとも「お兄ちゃん」と言いかけた事かは、この際置いておくとして。
 千佳は白、ラシアは黒の、雨合羽をイメージしたお揃いのフード付きコートを着ているが、千佳は半獣化してネコミミをちょこんと生やし、肉球グローブを付けた手にマイマイクを握っている。一方、ラシアは人間形態のままだ。
「実はSuccubusのゲリラライブ以外のライブは久しぶりなんだにゃー。ちょっと緊張してるにゃー」
「ナンバーは『Rainy day』だよ。あたしは待たされた事は無いから実際どうなんだろ‥‥遅刻。やっぱ落ち着かないモンなのかな? その辺は想像するしかないか‥‥この先あるかもしれないって事は、あんまり考えたくないけどね」
 千佳とラシアが掛け合いをする中、照明が落ちて暗くなり、オーロラビジョンに雨が降っている街中の風景が映し出される。

♪(●:ラシアパート、○:千佳パート)
 降り続ける変わらない風景 時計だけが動き続けている
 君の言葉疑うこともなく 景色眺め ただずっと待ってた

 重く続いた灰色の雨
 小さく呟いたその言葉 空に溶けていく

○Rainy day
 止まない雨の中 まだ信じてる
 迷いから目を逸らして

●二人Rainy day
 黙って差し出された傘を握った


 いつかMoonlight
●雨は上がり月が輝く
○だけどずっと信じていたい


 Rainy day
 Rainy day...


 雨音が『Rainy day』の出だしだ。そこからドラム→ベース→ギターと伴奏が増え、歌に入る。
 曲調も雨をイメージした、ややローテンポのロック。Aパート後のサビからギターを強調させていく。
 基本的にはラシアと千佳のユニゾンだが、Bパートは千佳の、Cパートはラシアの独唱が入る。
 Dパートになると、雨上がりの月をイメージした青白い照明が2人を照らす。
 Dパート後に間奏が入り、『Rainy day』を2人でリピートしながら最後はフェードアウト。

「ホワイトデーに会う約束をしたカップルが、雨の中ずっと待ち続けているというイメージだね。最後は間に合ったけれども、それは歌詞の中には明記しないで、聴く側の想像に委ねるって事で。さて、待たせているのはどっちの歌い手だろうね?」
 悪戯っぽく笑ってそう締め括るラシアだった。


●椿(fa2495)
「キミのその姿は、ふふ、若い女性には目の毒だな」
「ソレは、誉め言葉と受け取っていいのデスカ?」
 愛用の琴「花梨」が立ち弾き用にセットされている間、椿はステージの袖で彩音と軽く話していた。和洋調和のロックを目指している彼は、琴をロックに用いる。
 椿がチョイスしたステージ衣装は、サラリーマン風のスーツ。その姿を見た彩音の感想は、いまいち誉められているように思えない。
 だが、エレクトロンボルト共にステージへ姿を現すと、先程の彩音の台詞を実感する。サラリーマン風のスーツ姿が知性的な麗貌と相まって、椿を『仕事のできる男』として演出させた。


 無情にも0時に固く閉ざされた扉
 WhiteDay 5分遅れた僕に
 キミは怒って眠ったフリ‥‥


 灰かぶりにもなれない僕
 仕事は魔女も手伝ってくれない
 息切らし走る キミとの舞踏会へ
 But 5 after 0
 キミの部屋のドアは天岩戸

 ゴメン×2 I’m sorry
 Many apologies for being so late!
 キミが許してくれるまで
 何百回でも謝ろう

 1日2日と時は流れ
 やがて5日目の夜
 願いこめて叩くドア
「意地はるのも飽きたわ」
 苦笑するキミに5日分の想い贈るから

 どうか返品しないで?


 スローのアカペラで、困り溜息吐くように『For Beloved』は始まる。
 アカペラのサビの後、琴とキーボードの前奏で勢いを付け、一気にテンポを上げてAパートを歌い出す。
 Aパートは琴のメロディをキーボードの低音で支え。
 Bパートからは、琴はスタッカート気味、キーボートは和音を紡ぐ。
 全体の曲調はアップテンポでリズミカルに。
 Bパートの最後の歌詞を高く伸ばして歌い、高音から低音へのグリッサンドでサビへ入る。
 サビは琴を響かせて、歌とハモるような伴奏で。
 サビ後、1拍無音を入れ、最後はだんだん大きくしていき、華やかに明るく終わる。

 オーロラビジョンの演出も、『For Beloved』雰囲気作りに一役買っている。
 出だしのアカペラの前は、大きな秒針付時計が映し出され、キーボードで秒針音を打ちながら、14日から15日に変わると椿のアカペラが始まる。
 曲中は複数の時計が、不規則に時を刻み続ける。
 照明と背景の明暗で、曲中の昼夜を表現する。
 最後に時計達がピタリと揃うと、柔らかな光の中、カラクリ時計の男女の人形がキスをしてこちらも終わる。

「仕事で14日中に恋人の元へ到着できなかった苦悩のサラリーマン。拗ねた彼女のご機嫌直しを頑張る歌だけど、どうだったカナ?」
 黄色い声援に応えるように、コンセプトを語る椿だった。


●ライブが終わって
 楽屋でささやかな打ち上げが開かれた。ホワイトデーにちなんで、彩音お手製のクッキーやマシュマロに舌鼓を打ち、ライブ後の小気味良い疲れを癒す。
 霧子は彩音に呼び出され、楽屋の外へ。
「木之下クンは今回が初めての音楽の仕事と言っていたが、面白い感性を持っていると私は感じた。どうだろう、良ければヴァニシングプロに所属してその感性を磨いてみないか? 合わないと思ったら断ってくれて構わない」
「ヴァニシングプロ‥‥ですカ?」
 それは彩音からのヴァニシングプロへの勧誘だった。