Goddess Layer 7thアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/31〜04/04

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、ニューフェイス、現ベビー級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、今の東女の主な軍勢だ。


「今度はこっちから挑戦状を叩き付けようよ!」
 ダイナマイト・シュガーは練習中に、ジムに居た全員にそう言った。立て続けに挑戦状が送られてきており、ダイナマイト・シュガーは今度は東女から撃って出るべき、と思ったようだ。
「こちらから撃って出るとして、あなたは具体的にどこの団体と戦いたいの?」
 東日本女子プロレスは主に関東一円で興行しているが、地方へ巡業する事もある。
 とはいえ、既に今月の興行は決まっているし、東女は正規軍と反乱軍だけでもかなりの数のレスラーがおり、維新軍が離反を表明しても興行は十分可能だ。それに、シスター・アルノやシェリル・リー達のファンも多くおり、仮にダイナマイト・シュガーの持つ東女ヘビー級タイトルマッチが組まれなくても集客は十分見込める。
 彼女の意見が通るとは考えにくいが、せっかくやる気になっている勢いを殺ぐのは良くないので、若手の指導をしていたアイギス佐久間は、社長の佐久間章枝に掛け合おうと聞いた。
「“キューティ・ペア”と戦いたい!」
 ダイナマイト・シュガーはベンチの上に置かれた女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の表紙を見ながら応えた。
 『くろしおマーメイド』は高知県高知市に本拠地を置き、四国地方で主に興行している女子プロレス団体だ。アイドルレスラーに力を入れており、真女時代からのアイドルレスラーの大半が移籍している。その人気は凄まじく、カセットテープやCDといったグッズの売り上げは他の団体とは桁外れで、興行を観に全国各地から四国へ足を運ぶプロレスファンも多い。
 中でも“キューティ・ペア”のマッキー北都とラッキー南は、ファンの間では「力の北都、技の南」と呼ばれ、攻防共にバランスの取れた日本女子プロレス界屈指のタッグパートナーだ。
「キューティ・ペアに挑戦する‥‥ふふ、面白いではないですか」
 いち早く賛同したのはリリム蕾奈だった。彼女はタッグのベストパートナーを探しており、先日の試合で見つかったらしい。早くもタッグマッチをしたくてうずうずしている。
「リリム蕾奈! ‥‥分かったわ。社長に掛け合ってみるわね」
 アイギス佐久間は「仕方ない」と肩を竦めて溜息を付いた後、社長室へと向かった。
 ――その後、今月の興行は、正規軍と反乱軍はくろしおマーメイドで、維新軍は陸奥プロレスで行う事が通達された。

 くろしおマーメイドに所属するレスラーは、ほぼ全員がアイドルレスラーだ。だからだろうか、エースという概念は実力より売れているレスラーに付き、先輩・後輩といった上下関係も他の団体に比べると厳しくない。
「‥‥東女がうちに挑戦状を? 物好きもいるものね」
 ラッキー南はスパーリング中に、パートナーのマッキー北都から、東女より挑戦状が届いた事を聞かされた。しかし彼女は動揺1つせず、スパーリングパートナーにアキレス腱固めを極めたままだ。
「まぁ、そう言うなよ。久しぶりに本気で戦える相手だよ。一丁、派手にやってやろうぜ!」
 パートナーの反応に慣れっこのマッキー北都は、豪快に笑うと、サンドバッグへ得意のラリアート――メガトンボンブ――を繰り出す。重いサンドバッグが天井まで跳ね上がった。 
 キューティ・ペアは名実共にくろしおマーメイドのエースと言っても過言ではなかった。


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤由貴):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 ベルト:東女ヘビー級(防衛2回)、東女タッグ(防衛0回)
 修得技:アームホイップ/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット/力、エルボー、延髄切り/打、ドロップキック/飛
 得意技:いなずま重力落とし(ノーザンLスープレックス)/投

・アイギス佐久間(佐久間恵美):22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く、自団体・他団体問わず慕うレスラーは多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 ベルト:東女タッグ(防衛0回)
 修得技:フロントスープレックス/投、脇固め/極、DDT/力、逆水平チョップ、エルボー/打、ドロップキック/飛
 得意技:キャプチュード/投

・マッキー北都:18歳
 くろしおマーメイド所属、日本女子プロレス界のアイドルレスラー“キューティ・ペア”の1人。「正義は勝つ」が信条の熱血少女で、恵まれた体格を活かしたブルファイトを得意としている。
 修得技:ノーザンLスープレックス/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット、パワースラム/力、逆水平チョップ/打、弾丸(ブリッツ)ドロップキック/飛
 得意技:メガトンボンブ(ラリアート)/投

・ラッキー南:18歳
 くろしおマーメイド所属、日本女子プロレス界のアイドルレスラー“キューティ・ペア”の1人。冷静に状況を分析し、緻密な頭脳プレイをスタイルとしており、相手の隙を衝いて一瞬でギブアップを奪う関節技を得意とする。
 修得技:アームホイップ/投、片逆エビ固め、アキレス腱固め/極、DDT/力、掌底/打、ローリングソバット/飛
 得意技:サザンクロス・パニッシャー(サソリ固め)/投


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa4548 銀城さらら(19歳・♀・豹)
 fa5111 相澤瞳(20歳・♀・虎)
 fa5412 姫川ミュウ(16歳・♀・猫)

●リプレイ本文


 くろしおマーメイドと東日本女子プロレスの戦いの舞台となる、とさスタジアム特設リングの2744席ある客席は、前売り券は即日完売、当日券も超満員札止めとなった。
 日本女子プロレス界屈指のタッグ“キューティ・ペア”のマッキー北都とラッキー南に、あの東女を統一した維新軍のダイナマイト・シュガーが、日本女子プロレス界の女王アイギス佐久間と共に挑むのだ。滅多に見られない好カードに、プロレスファンが沸かない訳がない。


●昨日の友は今日の敵
 とさスタジアムは観覧席の中央にオーロラビジョンが備え付けてあり、開始前はその日の興行に参加しているアイドルレスラー達のプロモーション映像が、マーメイ(くろしおマーメイドの略称)の選手が入場する時はそれぞれの持ち歌が流される。
 今、流れているのはマーメイの瀬能 かずさ(姫川ミュウ(fa5412))のプロモーション映像だ。
 かずさはボーイッシュな外見とアンバランスな豊満なバディが売りの若手だ。勝率は非常に低いが、デビュー以来、極め技以外でのKO負けは無いという戦歴を残しており、極め技で気絶する時の恍惚とした表情がマーメイファンの間で人気を博しており、早くもファンを獲得している。
 リングコスチュームにいち早く着替えたダイナマイト・シュガー(咲夜(fa2997))は、スタジアムからオーロラビジョンを惚けた顔で見上げている。東女にもアイドルレスラーは何人かいるが、ここまで大々的にアピールはしていない。
「演出に呑まれてはダメですわ。それでは本来の力を発揮できなくてよ?」
「はぁ‥‥あっあっ‥‥ああ!」
 突然背後からリリム蕾奈(夏姫・シュトラウス(fa0761))の声が聞こえると同時に抱き付かれ、耳たぶを甘噛みされてしまう。思わず吐息を漏らし、腰砕けになるダイナマイト・シュガーにアドバイスしつつ、リラックスさせようと、リリム蕾奈の手は彼女の胸を鷲掴みにし、ワキワキと揉んでいたりする。
「べ‥‥別にタッグを組むだけで、反乱軍に入る訳じゃないからね!」
 今回、リリム蕾奈とタッグを組むパートナーの木ノ内 優(MAKOTO(fa0295))は、その痴態を目の当たりにして、何故か頬を赤らめてそっぽを向いてしまう。先日のJOWP(=Japan Ocean Women’s Prowrestling)との試合の後、リリム蕾奈と何やらあったらしいが‥‥。
「あんたは変わってないなぁ。また女を囲ってるのか?」
 そこへ、マッキー北都(ティタネス(fa3251))がやってくる。マッキー北都とリリム蕾奈は東女の前身、真日本女子プロレス時代からの知り合いだ。
「リリム蕾奈、あまりダイナマイト・シュガーをいじめないでもらえるかしら?」
「‥‥アイギス佐久間さん、お久しぶりです」
 アイギス佐久間(リネット・ハウンド(fa1385))がリリム蕾奈からダイナマイト・シュガーを解放すると、マッキー北都の後からやってきたラッキー南(相澤瞳(fa5111))がぺこりを頭を下げる。彼女のように、団体は違えどアイギス佐久間に敬意を払う女子レスラーは多い。
「あなたも元気そうで何よりだわ。フリーになってどう?」
「東女の時と違い、全て私の自由に出来ますから、目一杯楽しんでいますわ」
 アイギス佐久間はSPに囲まれている美倉さくら(銀城さらら(fa4548))に、SP越しに声を掛けた。さくらは大財閥の令嬢で、金にものを言わせた豪華で派手な演出をしたかったが、それで東女の社長佐久間章枝と折り合いが付かなくなり、東女を離れて今はフリーで活動していた。


●タッグマッチ〜30分1本勝負〜
 既にリリム蕾奈・優ペアはリングへ上がっている。
『かずさ、今日もイっちゃうよ〜♪ 応援、よろしくね〜♪』
 自分の持ち歌が流れ、かずさがマイクを片手にファンの声援に応えながら花道を歩いてくる。
 続けて、結婚式の曲を入場曲に、SPに囲まれてウェディングドレス姿のさくらが花道に登場する。花道の中程で自らウェディングドレスを引き裂くと、白いエナメル質の女王様風ボンテージスーツへ早替り。曲もアップテンポに変調し、女性SPと共にセクシーなダンスを披露した。
『さぁ、女王様とお呼び!』
 リングへ上がると、そのままコーナーポストへ。観客を挑発するのがお決まりのマイクパフォーマンスだが、今回は客層が客層なので、いまいち盛り上がりに欠けた。

 優とかずさが先行で出ると、リング中央で対峙する。リリム蕾奈には、優にタッグマッチの経験を積ませて自信を付けさせるという目的があり、彼女を主体に戦わせるつもりだ。
(「リリム蕾奈さんに見せてもらったビデオと資料だと、柔道部出身だけあって良い払い腰をするんだよね」)
 ゴングが鳴ると同時に前へ出る優。かずさも前へ出て、間合いは一気に詰まる。やはり払い腰が狙いと踏んだ優は、掌底で牽制する。かずさは嬉しそうに受けつつ、逆水平チョップで反撃。しばらく掌底と逆水平チョップの応酬が続く。
「イイ♪ イイよ♪ もっとかずさを打って♪」
「ななな、何、この娘!?」
「替わりなさい、優」
 良い手応えが残るが、かずさに効いている様子は全くなく、むしろもっと打ってと嬉しそうに言ってくる始末。優はそれを挑発と受け止めると、ヘッドバッドやローリングソバットを乱発し、端から見ても分かる程体力を消耗してしまった。
(「ふふ、あの手のレスラーは弄る分には愉しいのですけど、優にはまだ荷が重かったようですわね」)
「私相手に、ほくそ笑んでいる余裕などありまして?」
 かずさも渋々さくらとタッチ。フットワークやロープワークを巧みに使い、リリム蕾奈に組み付かせる事なく、フライングニールキックや擦れ違い様に裏拳を叩き込んで押しまくる。
 だが、リリム蕾奈はスピードのある飛び技を得意としており、そのスピードはさくらの遥か上。フライングニールキックはニーリフトで迎撃され、裏拳にはカウンターでラリアートを合わせられる。
「く、格の違いを思い知らせて差し上げますわ」
 ハイキックを水面蹴りで返されたさくらは、必殺のエンジェルハート(シャイニングウイザード)でリリム蕾奈の顎を捉えるが、彼女はそれをかわし、さくらの足は空を切る。リリム蕾奈はさくらの足を取り、そのまま片逆エビ固めを決めた。

「これって放置プレイ? 焦らされれば焦らされた分、気持ちよくイけるけど‥‥うふふ♪」
 交代して以降、タッチに来ないワンマンなさくらに、かずさは頬を膨らませた。その時、リリム蕾奈の戦い振りを真剣に見守る優の姿を視界に捉え、彼女は悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「やっぱりリリム蕾奈さんは凄ひぁぁぁぁぁ!?」
「優さんの胸も凄くおっきいよ♪ かずさ、この胸で窒息したいな♪」
 優が突然、頓狂な声を上げる。気付かれないように場外を移動してきたかずさが、110cmを誇る優の胸を背後から揉みしだき始めたのだ!
 予想だにしなかった場外乱闘に、優はぶっこ抜きジャーマンスープレックスを放とうとするが、それより早くかずさが背負い投げを決めてしまう。先程の手合わせで、「どんな技を仕掛けてもかずさを喜ばせるだけ」と脳裏に焼き付いており、それが優を躊躇わせてしまったのだ!
「かずさと一緒にイこ♪」
 受け身に失敗し、息の詰まった優にかずさはレッグスプレッド(股裂き)を仕掛ける。
「その程度で心を乱されるとは、もっと特訓が必要ですわね」
 次の瞬間、リリム蕾奈がコーナーから飛んだ! 綺麗な弧を描く芸術的なプランチャーがかずさを直撃する!
「そ、そうだよ、このくらい、リリム蕾奈さんに比べればどうって事ないよ」
「あぁん! やん、んんんー!!」
 レッグスプレッドから解放された優は、プランチャーの快感に酔いしれるかずさを、A(アルゼンチン)バックブリーカーからS(シュミット)式バックブリーカーへ繋げる必殺の木ノ内スペシャルを繰り出す!
 かずさは恍惚の声を上げながらイってしまった。
 同時にリリム蕾奈もさくらをブレーンバスターで沈めるのだった。

「私のレベルに達するには、まだまだですわね」
『かずさ、久し振りにイっちゃった〜♪ また気持ち良くしてね〜♪』
 みくらは毒を吐きながらも、笑顔でかずさに手を差し伸べるが、彼女は突如復活してリリム蕾奈・優ペアへマイクパフォーマンス。ダメージは皆無のようだ。
「今日はお祝いしなくてはね。色々と」
 妖艶な笑みを浮かべて優と花道を帰るリリム蕾奈だった。


●タッグマッチ〜30分1本勝負〜
 アイドルレスラーと一言で言っても、必ずしも歌が上手いとは限らない。マッキー北都は歌が苦手で、持ち歌『めぐりあい青春』を唄うのは専らラッキー南。彼女はダンス専門だ。
「今日は東女(うち)のヘビー級チャンピオンが、アイドルレスラーと戦いたいと言うのでお邪魔させてもらったわ」
「“あの”アイギス佐久間に、売り出し中のダイナマイト・シュガー。しかも東女のタッグ王者とくれば、相手にとって不足はない!」
 真女分裂以来、リング上で初めて挨拶を交わすアイギス佐久間は挑発姿勢を見せるが、マッキー北都は気に留めず、気合十分の様子。

「‥‥任せるわ」
「ボクが先に行きます!」
 パートナーの性格上、真っ先に飛び出していくので、ラッキー南はそれを踏まえつつ、対戦相手の動きからデータを取るべくエプロンで待機。アイギス佐久間も同様で、ダイナマイト・シュガーが先行する。
 ゴングが鳴ると、先手必勝とばかりにエルボーを繰り出すダイナマイト・シュガー。肘に被せるようにカウンターで逆水平チョップを放つマッキー北都。だが、ダイナマイト・シュガーはマッキー北都の掌をかわし、身体を回転させて本命のエルボーを叩き込む。
 マッキー北都は笑いながらヘッドバッド! ダイナマイト・シュガーは踏ん張るとお返しにヘッドバッド!
 ダイナマイト・シュガーが30cmの身長差をものともせず、アームホイップで投げると、今度はマッキー北都がパワースラムでダイナマイト・シュガーの身体をリングへ叩き付ける。
 足を止めた打撃の応酬、投げ合いの一進一退の攻防が続く。
「‥‥北都、熱くなり過ぎよ」
「シュガー、交代するわ」
 それぞれのパートナーがほぼ同時に交代を要請。それぞれタッチする。
(「やっぱりアイギス佐久間さんは凄いよ。交代時を巧く調整してくれる。ボクはアイギス佐久間さんを信じて全力でぶつかるだけだよ」)
 ダイナマイト・シュガーは知らす知らずのうちに息が上がっていた。体格差のあるマッキー北都と渡り合っているのだから当然だ。それを見極めたアイギス佐久間を凄いと思うと同時に、持てる力を存分に発揮しようと改めてリングを臨む。
 それはマッキー北都も同じだ。熱くなる前にラッキー南がフォローしてくれるからこそ、ガンガン前へ出る事ができる。
 アイギス佐久間はラッキー南の関節技を警戒して、逆水平チョップで牽制し、フロントスープレックスへ繋げるなど、主導権を握らせない。
 しかし、ラッキー南はアイギス佐久間一瞬の隙を衝いてアキレス腱固めや片逆エビ固めを決め、着実に足を封じに掛かる。アイギス佐久間必殺のキャプチュードを封じる布石だ。
「やるわね」
「‥‥ありがとうございます」
 交わす言葉は少ないが、アイギス佐久間に認められているという事が、ラッキー南の内に秘めた闘志をより静かに燃えさせた。
 先に交代したのはラッキー南。タッグ屋としての本領発揮とばかりに、自軍エリアの赤コーナーでこまめにタッチを繰り返し、アイギス佐久間を消耗させてゆく。
 それでもアイギス佐久間はマッキー北都と体格を利用したDDTを放つなど、女王としての貫禄を見せつける。
 アイギス佐久間も交代し、再度、ダイナマイト・シュガーとマッキー北都との対決になると、ラッキー南はホームグラウンドである地の利を活かして、ファンに声援を要請する。スタジアム中からマッキー北都コールが湧き起こる。
 声援に応えるようにマッキー北都は右腕を掲げると、幾多の選手を一撃で病院送りにした必殺のメガトンボンブ(ラリアート)を放つ!
(「しまった、避けきれないよ! なら!!」)
 声援に呑まれたダイナマイト・シュガーは一瞬、回避が遅れる。ならば、と、スーパーダイナマイト(延髄斬り)で相打ち覚悟の迎撃に出る。
 2人とも互いの必殺の一撃を受けダウン。
「‥‥北都!」
「行かせないわ!」
「‥‥こんなところで正気ですか!?」
「勝つ為だもの」
 カットに入ろうとするラッキー南に、アイギス佐久間は狭いエプロンにも関わらずキャプチュードを決め、そのままもつれるように場外へ。
 リング上では、ダイナマイト・シュガー、マッキー北都共に力尽きて倒れ。場外ではリングから落ちたダメージで、ラッキー南は戻る事ができない。唯一立っているアイギス佐久間も、ラッキー南の執拗な関節技により、立っているのがやっとの状態だ。
 レフリーは両者KOの判定を下したのだった。

「久しぶりに全力を出し切って試合ができた。楽しかった。また来いよ。それとも今度はこっちから行こうか?」
「まだまだ、強い人は沢山いますね。もっともっと練習を積んで、今度はボクが勝ちますよ」
 噂通りどころか、噂以上に強かったダイナマイト・シュガーがすっかり気に入ったマッキー北都は、彼女の髪をわしゃわしゃと撫でる。
「あなた達のデータは充分取らせてもらったわ‥‥次に闘う時は私達が必ず勝つ!」
「いつでも受けて立つわ」
 その横で普段の冷静さをかなぐり捨てて叫んだ後、マイクをリングに叩き付けるラッキー南。アイギス佐久間は彼女が叩き付けたマイクを拾って応えた。