Goddess Layer 7th’アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/30〜04/03

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。

 しかし、ダイナマイト・シュガーが維新軍を率いて、正規軍に、アイギス佐久間に彼女の持つ東女のヘビー級ベルトを賭けたタイトルマッチを半ば強引に申し込み、そして奪取してしまった。
 そればかりか、リリム蕾奈の持つ東女タッグベルトもアイギス佐久間と一緒に獲得し、ここに来て東女は、ダイナマイト・シュガーとアイギス佐久間を中心にほぼ統一されたと言っても過言ではなかった。


「今度はこっちから挑戦状を叩き付けようよ!」
 全てはダイナマイト・シュガーのこの一言から始まった。
 女子プロレスラーの実に8割が愛読していると言われる(同誌調べ)、女子プロレス専門雑誌『月刊Goddess Layer』の今月号の表紙を飾っている、『くろしおマーメイド』に所属するアイドルレスラー“キューティ・ペア”のマッキー北都とラッキー南。ダイナマイト・シュガーはデビュー当時より、数ヶ月に一度Goddess Layerの表紙を飾るこの2人と戦ってみたいと思っていた。しかし、くろしおマーメイドは自団体のベルトを持たず、他の団体と互いの看板タイトルを賭けた争奪戦を行う事もなかったので、今まで東女と一緒に興行する機会はほとんど無った。
 しかも、今月は『陸奥(むつ)女子プロレス』との興行が決まっていたが、ダイナマイト・シュガーの意向を汲んでアイギス佐久間が社長の佐久間章枝に掛け合ったところ、あっさりと認めてしまう。
 斯くして東女の今月の興行は、正規軍と反乱軍はくろしおマーメイド、維新軍は陸奥女と、2方面に分かれて行う事となった。

 陸奥女子プロレスは、宮城県仙台市は青葉城近くに居を構える、主に東北六県で活動している女子プロレス団体だ。
 プロレスからショー要素をできる限り外し、本格的な格闘として見せる事から、空手や柔道、レスリングやボクシングといった異種格闘を身に付けた女性達がこぞって門を叩く。
 現エース、“独眼竜正宗”こと伊達沙苗も、元日本空手選手権の覇者だ。
「‥‥早苗、あなたのいない日本空手選手権は、全然手応えがなかったわ」
「‥‥最上‥‥」
 東女より、興行の変更の連絡が入って間もなく、陸奥女のジムでは伊達早苗と1人の女性が対峙していた。
 女性の名は最上泉、早苗の空手の好敵手だ。早苗がプロレスへ転向して空手界を去った後も空手を続け、ここ数年は日本女子空手王者を維持している。
 彼女が早苗に放り投げたのは、今年度の日本女子空手選手権の覇者の印したる盾だった。
「しばらく経ったら空手に戻ってくると思ったけど‥‥まだプロレスを辞めるつもりはないの?」
「悪いが、私はプロレスを愛し、より高みを目指している。それに倒したい相手もいる以上、空手に戻るつもりはない」
「そう‥‥なら、あなたの腕が鈍っていないかどうか、私が確かめてあげるわ。今度、試合があるでしょう? その時、私とあなたの試合を組みなさいな」
「‥‥いいだろう。久しぶりに最上と戦うのも悪くはない。あなたの方こそ、空手に手応えがないと言いながら、腕は落ちていないだろうな?」
 興行が変更になったのは天の采配かも知れないと、早苗は本気で思った。
 こうして陸奥女の興行に、一試合だけ異種格闘戦が盛り込まれる事となった。


※※主要登場人物紹介※※
・伊達沙苗:19歳
 元日本空手選手権の覇者。“独眼竜正宗”の異名を持つが、彼女は伊達政宗の子孫らしい。正宗はその手刀の切れ味から名刀の名が自然と付いた。投げ技や極め技は苦手だが、それを補って余りある程の破壊力のある打撃技と蹴り技を得意としている。
 修得技:ボディスラム/投、スリーパーフォールド/極、ショルダータックル/力、掌底/打、フライングニールキック/飛
 得意技:九頭竜脚(コンビネーションキック(ロー・ミドル・ハイ)×3)/打

・最上泉:19歳
 現日本空手選手権の覇者。早苗が空手の現役時代の良きライバルであり、それだけにプロレスへ転向した時、もっとも反対した人物で、今でもその考えはあまり変わっていない。自分が勝った暁には、それを理由に早苗に空手へ戻ってくるよう説得するつもりだ。
 修得技:ボディスラム/投、――/極、ヘッドバット/力、掌底、裏拳/打、ドロップキック/飛
 得意技:兜割り(踵落とし)/打


※※オリジナルレスラー設定時の注意※※
若手は15〜18歳まで。それを越えるとベテランになります。
使用できる技は、投げ技・関節技・パワー技・打撃技・蹴り技の各カテゴリーの中から通常技を5つまで、得意技を1つまで選択できます。最上泉のように、得意なカテゴリーの技を2つ選び、代わりに苦手なカテゴリーの技を選ばない、といった事も可能です。
個人設定は、基本キャラ(今回であれば伊達早苗や最上泉)や各団体の設定に抵触するような内容は避けて下さい。無敗でもOKですが、対戦相手を無闇に破壊したり、各団体の運営に影響を及ぼすような設定には制約が掛かります。


※※カテゴリー分けと代表的な技※※
投:投げ技‥‥アームホイップ、ボディスラム、ブレーンバスター、バックドロップ等
極:関節技‥‥スリーパーホールド、脇固め、片逆エビ固め、コブラツイスト等
力:パワー技‥ヘッドバット、ラリアート、パイルドライバー、パワーボム等
打:打撃技‥‥逆水平チョップ、エルボー、掌底、延髄斬り等
飛:蹴り技 ‥‥ドロップキック、ローリングソバット、ヒップアタック、フライングボディプレス等


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3658 雨宮慶(12歳・♀・アライグマ)
 fa4038 大神 真夜(18歳・♀・蝙蝠)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)

●リプレイ本文


 陸奥女子プロレスと単身乗り込んできた現日本空手選手権の覇者・最上泉、そして東日本女子プロレス・維新軍の対決の舞台となる、青葉城公園特設リングの3500席ある客席は、前売り・当日券を含め、超満員となった。
 陸奥女のエース・伊達沙苗とライバル・泉の対決は急遽決まった為、事前の宣伝が十分でなかったにも関わらず、格闘技ファンの間で噂が噂を呼び(主に格闘技関係を扱う草の根BBS)、多くのファンが駆け付けた。


●先輩のいない控え室
 東女・維新軍の広橋 美久(雨宮慶(fa3658))は、控え室代わりに用意された大型バスの中で、青を基調とし、パレオや袖繰りにフリルが付いたワンピース水着に着替えていた。
「広橋は佐久間さんに試合を見守っていて欲しかったです」
「‥‥ホームシックか?」
「広橋の頑張りを、ほんのちょっとでも多く佐久間さんに見て欲しいだけです!」
 彼女がごちると、トップに白百合のワンポイントをあしらい、ボトムはショートパンツ風の黒のセパレート水着に着替え終わった南条遥(神楽(fa4956))が聞き返す。
 美久はたまたま観に行った試合で起こった場外乱闘に巻き込まれてしまい、その時助けてくれたアイギス佐久間に憧れて東女の門を叩いていた。彼女は自分の成長を少しでもアイギス佐久間に見て欲しいだけなのだ。
「アイギス佐久間から、『お前達の事をよろしく頼む』と電話をもらってな。私がお前達のセコンドに付く」
 そこへ伊達沙苗(竜華(fa1294))が入ってくると、美久と遥の間に割って入るように美久の頭を撫でた。
 離れていてもアイギス佐久間が見守っている事が分かった美久は、沙苗に元気良く深々と頭を下げた。
「うちらもリングや会場の設営、手伝わんでええんやろか?」
「今回は招待客だから、設営はこちらでやるから心配しなくていい。ただ、控え室がうちの巡業バスで多少狭いかも知れないが」
 リングや会場の設営は基本的に新人の仕事なので、オレンジ色のワンピース水着に着替えた風見優雅(鬼門彩華(fa5627))は少し不安だったりする。
 沙苗は彼女の申し出に微苦笑して応えた。彼女達が控え室として使っているバスは、陸奥女が所有する興行用のバスで、両サイドに陸奥女の名前とマークがペイントがされている。
「遥はうちの弘前と再戦するが、胸を借りるつもりではなく全力でぶつかってきてくれ。うちは当たりが激しいからな」
「‥‥そのつもりよ。わたしに二度の敗北はないもの」
 プロレスからショー要素をできる限り外し、本格的な格闘として見せる陸奥女のレスラー達は、普通のレスラー達と比べて当たりが強い。プロレスに慣れている東女の若手達にそう注意したが、遥の大胆不敵な返答に、沙苗は頼もしそうに笑いながら頷いた。


●タッグマッチ〜30分1本勝負〜
 サンバのリズムに乗って、投げキッスをしながら笑顔で花道を往く優雅。彼女のタッグを組む美久はまだこういう演出に慣れていない事もあって、目一杯手を振るものの、少し引きつった笑顔でリングへ向かう。
 続いて、陸奥女のパピヨン・ルージュ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))と真行寺 蓮実(草壁 蛍(fa3072))が花道を歩いてくる。こちらは入場テーマ等は一切無く、観客の声援と足踏みによる地鳴りがその代わりだ。
 パピヨン・ルージュはカポエイラ出身で、赤いドレスを纏っている。ドレスから覗く褐色の肌がエキゾチックな魅力を醸し出している。
 一方、蓮実は良家の出身と、おおよそプロレスとは結び付かない生い立ちを持っている。名家に嫁いだものの、夫の浮気で大喧嘩、その当て付けで陸奥女に入門したのだが、嗜みで幾つかの武道を学んでおり、何時しか陸奥女の中堅レスラーまで上り詰めていた。リングコスチュームも着物をイメージしているが、ゴテゴテした装飾は一切無く、実力重視である事を窺わせている。
「広橋から行きますね!」
「私から出るわ」
 美久と蓮実がリング中央で対峙して、試合開始のゴングが鳴り響く。
 先手を取ったのは美久。自らをロープへ振ってドロップキックを繰り出す。蓮実は半身ずらして避けると、着地して体勢を整えようとしている隙を衝いてアームホイップで投げる。
 受け身を取った美久は「これなら!」と再度ロープへ飛んでショルダータックルを放つ。蓮実は合気道の当て身投げよろしく、美久の肩弾頭を受け止め、そのままDDT状に落とす。
「美久、相手が悪い! 交代や!」
「蓮実、こちらも代わろう」
 ここで両者共にタッチ。
 優雅は“ナニワの純情乙女”の二の名を持つ、ルチャ系の四次元殺法を使う期待のベビーフェイスだ。ロープワークを巧みに使い、リング内を縦横無尽に駆け回る。
 方や、パピヨン・ルージュはその場でリズムを取ったまま、優雅の出方を待つ。リングコスチュームはカポエイラの衣装よろしく、長ズボンに黒いショートタンクトップといったスタイルだ。
 優雅がソバットを仕掛けると、パピヨン・ルージュは裏拳で返し。
 パピヨン・ルージュが逆エビ固めへ持ち込もうとすれば、今度は優雅が裏拳で返し。
 優雅が掌底を繰り出すと、パピヨン・ルージュはそれを掴んでスープレックスで投げる。
 一進一退の攻防を経て、パピヨン・ルージュは蓮実へタッチ。
 リングの外で優雅の動きを見ていた蓮実は彼女の動きを見切っており、掌底を囮に脇固めへ持ち込む。打撃はあくまで繋ぎ技というのが、彼女のプロレスの持論だ。
 今度は掌底アッパーを密着に近い状態で放ち、卍固めへ移行する布石とするが、これは優雅に見切られてしまい、逆にチョークスラムで寝かされ、弓矢固めを喰らってしまう。
 弓矢固めはストロングスタイルを象徴するような技だが、蓮実はギブアップする事なく、辛うじて脱出。
「そろそろいくで!」
 握り拳を作って掲げ、アピールすると、優雅は必殺の通天閣落とし(ジャンピング踵落とし)を放つ。ところが敵も然る者、蓮実は掌底アッパーで迎え撃つ!
 両者共に回避は念頭になく、必殺の一撃が直撃!!
 満身創痍のまま、辛うじてコーナーへ帰りタッチする。
「パピヨンさんとは身長差がありすぎるから、ぶつかって行くしかないです!」
 美久は143cm、パピヨン・ルージュは185cmと、身長差、実に40cm以上。美久はこのハンデを逆に活かし、低空ドロップキックや低空ショルダータックルなど、執拗にパピヨン・ルージュの足下を狙ってゆく。
 パピヨン・ルージュは直撃を喰らいながらも体勢を崩す事なく、裏拳やスープレックスで返してゆく。
 先に美久の息が上がり始める。身体能力的にまだまだ未熟な彼女だが、人並み外れた根性で技を出し続ける。しかし、動きが鈍っている事はパピヨン・ルージュもお見通しだろう。
 美久はフライングショルダータックルで何とかパピヨン・ルージュの足下を崩すと、アームホイップで投げ、そのまま体固めへ持ち込もうとする。
「その根性気に入った。お前のファイトに最大の賛辞で応えよう」
 次の瞬間、ローリングソバットが勝利を確信した美久の腹部を直撃! リーチのある足技を得意とするパピヨン・ルージュだが、フィニッシュのみに使用するというポリシーを持っていた。故に彼女に足技を使わせるという事は、最大の賛辞だ。
 美久はもんどり打って倒れる。気絶しており、レフリーはパピヨン・ルージュの勝利を宣言した。
「苦しかったけど楽しかったで。もっかいやろな」
「その時はその娘も一緒にね」
 沙苗が美久をお姫様抱っこし、一緒にリングを下りる優雅に、蓮実がたおやかに微笑みながら声を掛けた。


●東日本女子ジュニア級タイトルマッチ〜60分1本勝負〜
「‥‥前回の雪辱、今日晴らさせてもらうわ」
 遥と、柔道着の白と黒をイメージしたリングコスチュームに身を包むシューター弘前(大神 真夜(fa4038))が、リング中央で視線をぶつけ合う。
 この試合は当初、ノンタイトルだったが、遥がジュニア級王者を賭けると言い出した。彼女は以前、シューター弘前に敗れており、そのリベンジマッチに掛ける意気込みを顕していた。
 試合開始のゴングが鳴る。
 遥、シューター弘前共、足を止めて相手の出方を窺う。遥はいぶし銀的な関節技の使い手、シューター弘前は柔道ベースの投げ技主体と、共に接近戦を主力としている。
 先に動いたのは遥。隙がないならこちらから作るとばかりに、掌底で殴り付ける。シューター弘前は彼女の手を捌いて体落としへ繋げようとするが、これはフェイント。遥はそのままスリーパーフォールドを決める。
 シューター弘前は強引に振り解き、掌打で遥のカウンターを牽制すると、腕ひしぎ逆十字を決める。遥はロープへ躙り寄り、ロープブレイクで腕ひしぎ逆十字から脱出する。
「前回とは違う、という事か」
 遥にカウンター狙いはなく、体力の削り合いも辞さない覚悟にシューター弘前は嬉しそうに言うと、再度掌打を繰り出す。遥はそれは繋ぎに過ぎず、本命は投げだと読むと敢えて受け、裏投げに移る瞬間、潰そうとする。だが、シューター弘前は先の先を読んでおり、潰しに掛かる遥の身体に裸締めを決める。
(「‥‥受け身になってはダメだ。ジュニアとはいえ、東女の看板を背負う以上、意地でも食らい付いて行かなくては」)
 先の先の読み合いは、どうしても相手の出方を窺わざるを得ない。無意識のうちに自らのファイティングスタイルをしてしまう遥は、再びロープブレイクで裸締めから解放された後、自らの頬を叩いて活を入れる。
 Jネックブリーカーを決めて主導権を取ると、遥は脇固めへ繋げる。その一瞬の隙を衝き、シューター弘前は彼女の手を取って必殺の一本背負い!
 遥は受け身に失敗し息が詰まる。回復など待たず、シューター弘前は容赦なく畳み掛ける。今はリング中央、ロープまでの距離は遠い。そのまま遥の受け身に失敗した腕に腕ひしぎ逆十字を仕掛ける。
 ところが遥は彼女の仕掛けてきた腕を取り、逆に脇固めを決める。
 リング中央という事が皮肉にもシューター弘前にも災いした。ガッチリ決まった脇固めは解けず、そのままロープまで這って行くが、ロープまでの距離はあまりにも遠い!
 残り数十cmというところで、シューター弘前はギブアップした。
「‥‥これで前回の借りは返したわ。また、いずれ戦いましょう」
 シューター弘前に逆手を貸して立ち上がらせ、握手をする遥。既に利き手は感覚が無くなっていた。
 まさに紙一重の勝負だった。


●ファイナルマッチ〜20分1本勝負〜
 黒帯を締めた柔道着を纏う最上泉(ブリッツ・アスカ(fa2321))と、上はタンクトップタイプ、下はショートパンツタイプのワインレッドのタンキニ水着を着た沙苗がリングへ上がる。
「この制限時間は、私に対するハンデかしら?」
「ハンデではなく、プロレスに慣れていないお前と条件を対等にしただけだ」
 試合時間20分はプロレスの試合としては短い部類に入るが、柔道の試合では規約では最長時間だ。泉の口振りから、存外に「プロレスを認めていない」響きが含まれている。
 試合開始のゴングが鳴ると同時に、泉、沙苗、両者とも一気に間合いを詰める。
 裏拳! 掌底! 打撃技を中心に責め立てる泉。
 掌底! 胴回し回転蹴り(ニールキック)! 迎え撃つ沙苗もまた打撃と蹴り技で応戦する。
 リング中央で足を止めた、息も付かさぬ打撃戦が繰り広げられる。
(「沙苗も腕は鈍っていないようね‥‥え!?」)
 プロレスや異種格闘技戦は意識せず、純粋に数年ぶりのライバルとの緊迫した戦いを楽しむ泉だったが、鉄山靠(タックル)で出鼻を挫かれ、そのままボディスラムでリングへ叩き付けられると、改めてプロレスの試合である事を思い出す。
「柔道なら一本で終わりだが、これはプロレスの試合だ」
「‥‥そのくらい私にもできるわ!」
 見下ろす沙苗を睨め付けると、不意打ちよろしくヘッドバッドを叩き込み、そのまま見様見真似のボディスラムで投げる。
 しばらくボディスラムの応酬が続いた後、泉はこの短時間のうちにプロレスの感覚を掴み、裏拳や掌底にドロップキックやヘッドバッドを織り込み、ボディスラムへと繋げていった。この辺り、沙苗も認める彼女の恐るべき天賦の才だ。
「これで‥‥終わりよ!!」
 押し続ける泉は、必殺の兜割り(踵落とし)を直撃させる! その手応えから勝利を確信した。
「言っただろう、空手の試合ならお前の勝ちだが、ここはプロレスだ。それに私には負けられない理由がある」
 泉の踵落としを額に喰らいながらも、未だ不沈の沙苗。必殺の一撃、しかも直撃だっただけに、耐えられた泉は動揺を隠せない。
 そこへ九頭竜脚(コンビネーションキック(ロー・ミドル・ハイ)×3)が叩き込まれ、ダウンしたところを体固めでカウント3を取られてしまった。

「‥‥プロレスか‥‥転向したあなたは、前と変わらない‥‥ううん、前より強くなっていたわ」
「私の九頭竜脚を喰らい、それでも尚、反撃してくる相手もいる。倒したい好敵手も、もう一度戦いたい相手もいる。私はプロレスでまだまだ切磋琢磨していたい」
「‥‥その気持ち、今なら少しだけ分かるわ。あなた以上にまだまだ手応えのある相手がいるのよね」
 ライバルは熱い握手を交わす。会場中から耳をつんざく拍手が降り注ぐ。
 泉は『沙苗をプロレスで追い掛ける』という新たな目標ができた。だが、今はまだプロレスに転向するつもりはない。沙苗の持つ日本空手選手権の連覇記録を塗り替えた上で、もっと腕を磨いて改めて挑戦するつもりだ。
 沙苗と泉の再戦は、そう遠い日の事ではないだろう。