Goddess Layer 8thアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 18.1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/04〜05/08

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、ニューフェイス、現ベビー級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、今の東女の主な軍勢だ。


 アイギス佐久間がダイナマイト・シュガーを始めとする、東女の正規軍と維新軍の若手を連れてロードワークへ繰り出した時の事だ。
 アイギス佐久間達の横を、大型バイクが走り抜けていった。ヘルメットから零れ出た長髪をたなびかせる姿から、女性ライダーのようだ。
 大型バイクはダイナマイト・シュガー達の少し前で停まると、女性ライダーはヘルメットを脱いだ。
「五島?」
「久しぶりだな、佐久間」
「相変わらず良いバイクに乗っているわね」
「フッ、私の恋人だからな」
「五島さんって、パイソン五島さんですか!?」
 アイギス佐久間は若手達を立ち止まらせると、女性ライダーと親しげに話を始める。ダイナマイト・シュガーは、その精悍な顔に見覚えがあった。
 女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』で毎号のように特集を組まれている、『湘北レディース』のエース、パイソン五島だ。
 湘北レディースは神奈川県に本拠地を置き、関東南部から東海地方に掛けて主に興行している女子プロレス団体だ。
 パイソン五島自身、レディースの出身でトップを張っており、今いる湘北レディースのメンバーの大半は彼女のチームの仲間だと言われている。
 その所為もあってか、湘北レディースは規模こそ現在日本にある9つの女子プロレス団体の中で最小だが、ヒールレスラー達によるデスマッチが人気を博している。
「こんなところまでただのツーリングじゃないわね? 東女への試合の申し込みかしら?」
「察しがいいな。だが、厳密には試合の申し込みではない。東女の生きのいいレスラーを何人か貸してもらえないか?」
「“また”デスマッチで欠場者が出たの?」
「いや、まだ出てはいない。ただ、そろそろマンネリ感が拭えなくてな、新しい趣向を凝らしたいと思っている」
「それでうちの娘を出場させたいのね。デスマッチの内容次第ね。もちろん、有刺鉄線は駄目よ。肌に傷が残るから」
「あのー、アイギス佐久間さん?」
 「また」とか「まだ」とか「有刺鉄線」とか、平気で言っているアイギス佐久間とパイソン五島に、ダイナマイト・シュガーは一抹の不安を覚える。それは一緒にロードワークをしている若手達も同様だ。
「ランバージャックでいきたいところだが、そちらは素人だからな。金網デスマッチはどうだ?」
 ランバージャック・デスマッチとは、リングの四方を対戦者以外のレスラーが取り囲み、選手がリングから落ちた際、すぐさまリング内に押し戻す形式の事だ。
「金網デスマッチならいいでしょう。フォール・ギブアップのみね?」
「いいんですか!?」
 あっさり承諾してしまうアイギス佐久間に、驚きを隠せないダイナマイト・シュガー。
「話が早くて助かる。佐久間社長には後日、改めて正式な依頼書を送る」
「凶器は‥‥聞くまでもないわね」
「フッ」
 パイソン五島は話が付いたとばかりにヘルメットを被る。アイギス佐久間が凶器について言及すると、彼女は微笑むだけで、手を上げてそのままバイクを発進させた。
「私も、考え無しに受けた訳ではないわよ? 東女にもヒールレスラーはいるけど、湘北レディースほど過激ではないもの。一度、参考に戦ってみるといいわ」
 出来れば戦いたくない、というのがダイナマイト・シュガーとその場にいた若手達の共通見解だった。


※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー(佐藤由貴):15歳
 言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
 ベルト:東女ヘビー級(防衛2回)、東女タッグ(防衛1回)
 修得技:アームホイップ/投、スリーパーフォールド/極、ヘッドバット/力、エルボー、スーパーダイナマイト(延髄切り)/打、ドロップキック/飛
 得意技:いなずま重力落とし(ノーザンLスープレックス)/投
 その他:――

・アイギス佐久間(佐久間恵美):22歳
 東女の守護神、アイギスの盾と呼ばれる、日本女子プロレス界の女王。静かに情熱を燃やすタイプで、面倒見も良く、自団体・他団体問わず慕うレスラーは多い。投げ技を得意とするオールラウンドレスラーであり、隙がない。
 ベルト:東女タッグ(防衛1回)
 修得技:フロントスープレックス/投、脇固め/極、DDT/力、逆水平チョップ、エルボー/打、ドロップキック/飛
 得意技:キャプチュード/投
 その他:鉄柱攻撃

・パイソン五島(五島伸子):23歳
 湘北レディースを束ねるエース。パイソン五島自身、レディースのトップを張っていた事があり、姉御肌で面倒見がよく、湘北レディースのレスラーから慕われている。豪快且つスピーディーなファイトを展開する。
 修得技:ボディスラム/投、スリーパーフォールド/極、(ダイビング)ヘッドバット、デスバレーボム/力、袈裟斬りチョップ/打、ギロチンドロップ/飛
 得意技:リボルバー357(パイルドライバー)/力
 その他:鉄柱攻撃、イス・ゴング攻撃、凶器攻撃


※※金網デスマッチ概要※※
リングの四方を目の細かい金網で包囲する形式です。上空は空いており、よじ登る事は可能です。
決着はフォール・ギブアップのみで、場外はカウントを取られません。
余談ですが、凶器はリングコスチュームの中に隠せるものがベターです。


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1294 竜華(21歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1890 泉 彩佳(15歳・♀・竜)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa4555 シトリー・幽華(29歳・♀・豹)
 fa5689 幹谷 奈津美(23歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●金網デスマッチ!
 湘北レディースが今回興行を行う湘北文化体育館の中では、湘北レディースのレスラー達が会場設営に勤しんでいた。
「シュガーさんシュガーさん、本物の金網ですよ、金網」
 スゥイート・日高(本名:日高悠郁(はるか)/泉 彩佳(fa1890))とダイナマイト・シュガー(咲夜(fa2997))は、東日本女子プロレスの控え室でリングコスチュームに着替えると、設営の様子を見に来ていた。
 スゥイート・日高は東女が売り出し中のアイドルレスラーだ。ダイナマイト・シュガーと同期で、デスマッチ用の金網を直に見るのは初めてだし、ましてデスマッチも初体験だ。
「設営の邪魔だから退きな!」
 背後から怒声が降り注ぐ。振り向くとそこには、100kgを超える巨体で巻かれた金網を肩に担いだモンスーン・太刀掛(シトリー・幽華(fa4555))が立っていた。スゥイート・日高とダイナマイト・シュガーは慌てて左右に退く。するとモンスーン・太刀掛はスゥイート・日高を一瞥し、リングへ歩いていった。
「な、何か、日高、モンスーン・太刀掛さんの気に障る事したかな?」
「あいつも緊張してるのさ。あたしらからすれば、久しぶりに大きな会場だからねぇ」
 鋭い視線で射抜かれ、身を竦ませるくスゥイート・日高に、ZXP山崎(本名:高道 マトイ/MAKOTO(fa0295))が声を掛ける。
「その分、手加減は出来ない、と?」
「そういう事じゃ。東女様々だとしても、のぉ」
「やれやれ‥‥にしても派手だったり荒々しい荒事がお好きと見える」
 ダイナマイト・シュガー達を庇うように前に割って入った秋山薙(アキヤマ・ナギ/幹谷 奈津美(fa5689))の言葉に、ホーネット本田(本名:桜崎・紫苑/天音(fa0204))は挑発とも取れる笑みを浮かべて、ZXP山崎と共に会場設営へ戻った。
 薙は東女の中堅選手だが、やはり金網デスマッチの経験はない。
「うちのレスラーの非礼を詫びよう」
 薙とスゥイート・日高に、パイソン五島(リネット・ハウンド(fa1385))が頭を下げた。その潔く、威風堂々たる姿は格好良く、ダイナマイト・シュガー達は見とれてしまう。
「実際、ホーネット本田の言う通り、この会場が借りられたのは東女のレスラーが来てくれたからだ」
 湘北文化体育館は観覧席3000席と中規模の会場だが、現在日本に9つある女子プロレス団体の中で最小規模の湘北レディースからすれば会場の規模は大きい。
「東女にもヒールレスラーはいるけど、デスマッチをする程ではないもの。若手に体験してもらいたいのよ」
 アイギス佐久間(竜華(fa1294))の言葉に、ダイナマイト・シュガーとスゥイート・日高は顔を見合わせる。
「佐久間は真女の時から、何でもそつなくこなせたから、そういう事が言えるのだ」
「あら? そつなくこなすには、相応の経験が必要よ」
「分かっているさ。佐久間が人一倍、いや二倍も三倍も練習している事くらいは、な」
 アイギス佐久間の胸に握り拳を軽く当てるパイソン五島。皆、アイギス佐久間が人の何倍も練習している事を知っている。だからこそ未だに日本女子プロレス界の女王として、多くのレスラー達に尊敬され、慕われているのだ。


●シングルマッチ〜15分1本勝負〜
 スゥイート・日高は軽量級のレスラーで、パワーファイトを得意とするモンスーン・太刀掛と並んで立つと、頭1個分以上の身長差がある。
「日高が“小さな巨人”と呼ばれている理由をお見せするよ!」
 ゴングが鳴ると同時に、スゥイート・日高のニールキックが炸裂! モンスーン・太刀掛の巨体が揺らぐ。スゥイート・日高は跳躍力を活かしてニールキックを当てまくる。逆にモンスーン・太刀掛は、今まであまり戦った事のないタイプだけに、攻撃の糸口を掴めずにいた。
 完全に足の止まったモンスーン・太刀掛を、スゥイート・日高はスイング式DDTで投げ飛ばす。客席からどよめきが起こる。
 スゥイート・日高は畳み掛けるように追撃のミサイルキックを放つ。だが、モンスーン・太刀掛に受け止められてパワースラムへ持っていかれ、そのまま場外へ投げ飛ばされてしまう。
「今度はこっちの番だぜ!!」
 スゥイート・日高のチャームポイントの栗色の髪を掴んで引きずり回し、金網に叩き付ける。続けて、手に巻いていたチェーンを解いて鞭のように打ち据えたり、首に巻き付けて絞める。
 湘北レディースの試合では、リングアウト時、カウントは数えられない。
「苦しいか? 試合中に泣いてんじゃねぇ!」
「な、泣いてません!」
 リングの縁に足が届いたスゥイート・日高は、そこを足場にミスティックフリップでモンスーン・太刀掛の巨体を再び投げる。床に叩き付けられた衝撃で、金網が揺れた。
 しかし、コーナーポストからの追撃ミサイルキックはまたも受け止められ、そのままネックハンギングツリーで上下に揺さぶりを掛けられた後、金網へ投げ付けられ、体重を乗せたギロチンドロップの直撃を受ける。
 スゥイート・日高は辛うじて立ち上がると、金網を足場としたフランケンシュタイナーを狙うも、今までのダメージが蓄積しており、無情にも膝が笑ってしまった。
「さっさと、東女の前でギブしろ!!」
「ひ、日高は‥‥東女の正規軍‥‥ギブアップは‥‥しないよ‥‥」
 その隙を逃さず、モンスーン・太刀掛は彼女にカナディアンバックブリーカーを仕掛けると、東女への挑発を交えて場外を一周した。それでもスゥイート・日高はギブアップだけはしなかった。
 そのままカナディアンハンマーを極めて、スゥイート・日高の身体をリング上へ放る。止めとばかりにパイルバンカー――チェーンを巻いた裏拳――を繰り出すが、寸前でレフリーストップ。
 スゥイート・日高はリングへ放られた時点で気を失っていたのだ。
「これが湘北の洗礼だ!」
 モンスーン・太刀掛は勝利の雄叫びを上げた。


●シングルマッチ〜15分1本勝負〜
 続く薙対ホーネット本田の試合は、薙のストレートナックルとホーネット本田のベアナックルによる打撃戦から開始された。
 ホーネット本田はリングコスチュームに隠し持った小さな鉄の塊を握り込んで威力を高めていたが、薙に効いた様子はない。
「私は今の今まで、堅さで稼いできたようなものでね」
 薙自身、投げやパワーファイトより、手技や足技、飛び技による打撃を得意としており、その分打たれ強い。一見すれば華に欠ける節もあるが、堅実なファイト故、コアなファンを抱えている。
「なるほどのぉ。じゃが、こういう趣向はどうかの?」
 ホーネット本田が長い髪を振るうと、薙の頬に鞭打ったような痛さが走る。その隙を衝いてホーネット本田はアームホイップで投げた。
 薙が受け身を取ると、空かさず自身の髪を使ってスリーパーホールドを仕掛ける。実は、長い髪の中に黒いロープが仕込んであったのだ!
「面白いよ‥‥」
「何!?」
「実に面白い事を持ち出してくれるじゃないか」
 薙はロープを振り解くと、お返しとばかりにハイキックを放つ! 一発! 二発! 三発!
 ホーネット本田がその足を取ってアキレス腱固めへ持っていこうとすると、それをかわしてジャンピング・ニーパットで迎撃する。
「‥‥こりゃあ、大した強さだ。しかし!」
 ホーネット本田の体勢が崩れたところへ、必殺の星砕(ほしくだき)――脳天への踵落とし――を放つ。だが、スリーパーホールドのダメージは、予想以上に薙の身体を蝕んでいた。星砕にいつものキレがない。
 ホーネット本田には星砕をかわすとそのまま背後を取り、ジャーマンスープレックスホールドを決めたのだった。


●セミファイナル・シングルマッチ〜30分1本勝負〜
 ZXP山崎には愛車を乗り換える度にリングネームを変える悪い癖がある。先日まで破魔矢発動のA−MAX500に乗っていたが、山崎重工のZXP400に乗り換えた事により、リングネームもMAX破魔矢からZXP山崎へ変わったばかりだ。その都度、トラブルが起こる事から、今ではポスターやチケットには本名も併せて記されていた。
 今日は赤い特攻服に身を包み、どノーマルのZXP400に跨っての入場だ。唖然とするダイナマイト・シュガー。
 試合開始のゴングが鳴る。いつものようにエルボーで主導権を掴もうと、組み付くダイナマイト・シュガーに対し、ZXP山崎は特攻服の背中から木刀を取り出して、上段から打ち据える。初っ端からの凶器攻撃に、ダイナマイト・シュガーはたじろぐ。
「この程度でビビるとは、東女のトップもたかが知れてるね」
 木刀をヘッドバットで迎撃し、へし折るするダイナマイト・シュガー!
 その後、ダイナマイト・シュガーがドロップキックを放てば、ZXP山崎がドロップキックでお返しし、ダイナマイト・シュガーがアームホイップで投げれば、ZXP山崎もボディスラムで投げ返す。一進一退の試合が続いたが、ZXP山崎がダイナマイト・シュガーを抱えて、ボディスラムで場外へ投げ飛ばした。
 受け身を取り損ねたダイナマイト・シュガーの頭部を掴むと、ZXP山崎はコーナーポストへ叩き付けた! 先程のヘッドバットの場所だっただけに、鈍い音と共にダイナマイト・シュガーは額から流血する。
「これで‥‥止めだ!」
 胴への地獄突き→ストマッククローのコンボ、エビルハンドスマッシュでダイナマイト・シュガーの腹を抉り、そのまま掴んで金網に押し倒すと、ZXP山崎は金網をよじ登る。されるがままのダイナマイト・シュガーへ、トペ・スイシーダよろしく超高度のダイビングヘッドを仕掛けるZXP山崎!
「そうだよ、東女のトップはアイギス佐久間さんじゃない‥‥ボクだよ!!」
 東女にあまりいないヒールレスラーという事もあって、真っ直ぐなダイナマイト・シュガーはがむしゃらにぶつかっていったが、ZXP山崎の先程の一言が、彼女に喝を入れ、本来の自分の戦い方を思い出させたようだ。
 ダイナマイト・シュガーはダイビングヘッドをゴロゴロと転がって回避する。床と激突し、悶絶するZXP山崎。この自爆はたまらない!
 その隙を見逃さず、ダイナマイト・シュガーはZXP山崎をいなずま重力落とし――ノーザンLスープレックス――で投げ飛ばし、何とかリングへ戻る。
 ZXP山崎はリングへ帰れず、レフリーストップが掛かった。


●ファイナル・シングルマッチ〜30分1本勝負〜
 東女が1勝2敗で迎えたファイナルマッチ。
 威風堂々とした足取りでリングインするパイソン五島とアイギス佐久間。
 パイソン五島は真日本女子プロレスの分裂以来、会う機会も減っていたアイギス佐久間との対戦を喜んでいる反面、今度こそ勝つという野心的な意地もあるし、自分の団体の、デスマッチという自分の主戦場で負ける訳にはいかないというプレッシャーも感じている。
 一方、アイギス佐久間もこの試合で勝たないと、招待選手が負け越すという状況を背負っている。しかし、その気負いすら自らの高揚感へ変えて落ち着き払っていた。
『さぁ、真女の時の決着を付けようか。それとも東女のアイギスの盾ともあろう女王が、勝ち逃げという事はないだろうな?』
「安心なさい、私は逃げも隠れもしません」
 パイソン五島の挑発的なマイクパフォーマンスにも、真っ向から受け応えた。
 ゴングが鳴ると同時に、パイソン五島、アイギス佐久間とも素速く間合いを詰め、至近距離へ。袈裟斬りチョップと逆水泳チョップの応酬から始まった。
 たっぷり2分チョップの嵐が続いた後、流れを引き寄せようと、アイギス佐久間がパイソン五島の腕を取ってロープへ振り、エルボーを仕掛ける。パイソン五島は肘をかわし、死に体となったアイギス佐久間をボディスラムで投げる。
 今度はアイギス佐久間が脇固めを仕掛ければ、パイソン五島はスリーパーホールドで返す。グラウンドの展開も一進一退の攻防を繰り広げた。
 流れを変えたのはパイソン五島。デスバレーボムでアイギス佐久間をリングに叩き付けると、彼女はたまらずリングの外へエスケープ。パイソン五島も後を追ってリングの外へ降り、戦いの舞台は場外戦へ。
「相変わらず手堅いな‥‥だが、そこに付け込む隙がある」
「きゃふ!?」
 彼女はリングの下からパイプ椅子を取り出すとアイギス佐久間を打ち据え、怯んだところで金網へ叩き付ける。アイギス佐久間の悲鳴が会場に響く。パイプ椅子の座面は凹み、アイギス佐久間の柔肌に金網の跡がくっきりと残る。彼女は頭部と左腕から流血していた。
 デスマッチに慣れているのは、明らかに自分の方だ。その油断がアイギス佐久間の反撃の糸口を作ってしまう。続いてリングコスチュームとして身に付けていたチェーンで打ち据えようとすると、アイギス佐久間はそれを受け止め、パイソン五島の頭部をコーナーポストへ叩き付けた!
「この程度のラフプレイ、想定の範囲内よ」
 パイソン五島をフロントスープレックスで投げると、アイギス佐久間はリングへリターン。パイソン五島も追って戻る。
 再びチョップの応酬から始まり、アイギス佐久間がDDTを繰り出せば、パイソン五島はダイビングヘッドバットで倒し、ギロチンドロップで追撃する、全力を尽くした攻防戦が展開される。
「マグナム弾をとくと味わうがいい!」
 パイソン五島は必殺のリボルバー357――パイルドライバー――でアイギス佐久間を沈める。
 カウント‥‥2.9! 土壇場で返すアイギス佐久間。
 今度はアイギス佐久間がキャプチュードで投げ返す。
 カウント‥‥3! 幾多のレスラーを倒してきたキャプチュードの前に、パイソン五島もまた屈したのだった。