ヴァニシングプロの花見アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 04/12〜04/14

●本文

 ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
 また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。


●ある日の風景〜お花見〜
 副社長のエレクトロンボルトが、ヴァニシングプロの自社ビルの屋上へと続く階段を歩いていると、微かにギターの音色が聞こえてくる。
 音を立てないようにそうっと扉を開ける。屋上にはフェンスに寄り掛かり、アコースティックギターを弾いている社長の彩音の姿があった。
 桜の花びらが舞う中、彼女は瞳を閉じ、一心不乱に弦を爪弾き、歌を紡ぐ。
 それは、まだ彩音とエレクトロンボルトがヴァニシングプロに就職する前、バンドを組んで路上ライブに明け暮れていた時に彼女が唄っていた、古い古いナンバーだ。
 あの頃の彩音は、自分がヴァニシングプロの前身、緒方プロダクションの社長の娘という事を隠して、エレクトロンボルト達のバンドに参加していた。素性が露呈した後も、彼を始めバンドのメンバーは特に扱いは変えなかった。
 お互い、歳を重ね、今やヴァニシングプロの社長と副社長だが、やっている事はあの頃と何も変わっていないと思う。
「‥‥君か。居るなら居ると一言声を掛けてくれればいいのに」
「いえ、社長がこちらと聞いたものですから‥‥懐かしいナンバーですね」
 歌が終わると、彩音はようやくエレクトロンボルトの存在に気付き、バツが悪そうに髪を掻く。その仕草に彼は軽く吹き出した。
「渋谷クンや山田クンが良いアーティストをスカウトしてくれているからな。私も腕を落とす訳にはいかんよ」
 各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している彩音が、社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。最近は渋谷蓮や山田浩介達の力添えもあってスカウトが上手くいっており、ヴァニシングプロ自体には帰ってきている。
 スカウトする側、スカウトしたミュージシャンを採用するかどうか決める立場にある彩音としては、自身も相応の腕前と聞く耳を持っていなければならないと戒めている。でなければスカウトするアーティストに失礼、というのが彼女の持論だ。
「社長が先日のライブでスカウトしたアーティストのプロフィールです」
「去年から今年に掛けては、大分所属アーティストが増えたな」
 エレクトロンボルトに渡された、新しく所属したアーティストのプロフィールを見ながら彩音は1人ごちる。
 その時、春の心地よい風が彼女の頬を撫で、桜の花びらが髪を舐めてゆく。
「花見のシーズンだし、顔合わせを兼ねて花見をやるか」
「良いですね、花見。場所はどこにします?」
「ここだ」
「ここって、自社ビルの屋上ですか?」
「そうだ。桜も近いし、夜は静かになるから、多少騒いでも周りから文句を言われる事もない。穴場だと思わないか?」
 彩音がウインクすると、エレクトロンボルトは中指で細いフレームの丸レンズのメガネの、レンズ間のフレームを押し上げて掛け直す。
「それに、給湯室があるから料理もできる。出来物も良いが、温かい料理を食べたいだろうしな。夜遅くなったり、酒を飲んで酔えばゲストルームで休めばいいし。もちろん、未成年の飲酒は厳禁だがな。後、楽器もあるから簡単なセッションもできるぞ」
「それはそうですけど‥‥社長の狙いはそちらですか」
 彩音が料理に凝っていたり、エレクトロンボルトがコーヒーにうるさい事もあって、ヴァニシングプロの給湯室は一般家庭のキッチン並の設備が整っている。また、自社ビルの中には、ヴァニシングプロの関係者やアーティスト、招待客が利用できるゲストルームもある。
 とはいえ、彩音はなんだかんだ言ってもアーティストの曲が聴きたいようだ。
「花見だから気兼ねなく大いに食べて大いにのんで騒いでもらって構わないが、桜も綺麗な事だし、“桜”にまつわる歌夜曲のセッションが合わせてできればいいだろう」
「では、アーティスト達にはそのように通達します」


☆★技術傾向★☆
発声・音楽・楽器

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa2993 冬織(22歳・♀・狼)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa3887 千音鈴(22歳・♀・犬)
 fa4559 (24歳・♂・豹)

●リプレイ本文


●ようこそ、ヴァニシングプロへ
「お花見ですか‥‥楽しみですね☆」
 木之下霧子(fa0013)はまだ歩き慣れていないオフィス街の道を、ほわわんとした笑みを浮かべながら歩いていた。
「美味しいお弁当に綺麗な桜‥‥ハッ!? 涎なんて垂れてませんよね!?」
 女の子に声を掛けられて霧子は現実に舞い戻ると口元を拭う。しかし、ヴァニシングプロの自社ビルの入口を20歩近くオーバーしていた。
「分かる分かる〜。花見と聞けばぁ、心浮かれるのも無理ないものねぇ〜」
 慌てて引き返すと、霧子はぺこりと頭を下げた。女の子の傍らにいた少女が霧子のほんわかした心を代弁した。
「んふ〜♪ お菓子いっぱい買ってきたにゃ♪」
「お菓子は千佳ちゃんが買ってくると思ったからぁ、私はぁ〜、お手製の桜餅〜♪」
「わわ☆ お手製の桜餅ですか、本格的ですね。私はシュークリームにお煎餅に駄菓子を持ってきましたよ」
「うみみ!? 華鳴お姉ちゃんがいっぱい持ってきてないのは意外にゃー」
「500円以内に納めるなんてぇ〜、霧子ちゃんのおやつへのこだわりを感じたわぁ〜」
 お互い軽く自己紹介し合う。西村・千佳(fa0329)は両手に、お菓子と和菓子、ジュースが五万と入ったドラッグストアのビニール袋を持っている。鳴瀬 華鳴(fa0506)はお手製の桜餅を持ってきただけのようで、千佳の荷物を半分持っていた。
「お前ら、ビルの前で何話し込んでんだ? 行き付けの店でタコス買ってきたんだ。この店のタコスは絶品だぜ? ちゃんと熱いうちに持ってきたから、冷める前に食おうぜ」
 Tyrantess(fa3596)に声を掛けられ、霧子達はヴァニシングプロのビルへ入った。

 ヴァニシングプロの自社ビル内。給湯室では冬織(fa2993)と千音鈴(fa3887)が、社長の緒方・彩音(fz1033)と料理をしながら歓談していた。
「これは、田舎の爺上の処の郷土料理『だご汁』じゃ。具沢山の味噌仕立ての汁に、平たく伸ばした団子を入れた品じゃな」
「とおるって普段着から和服だから、台所に立って鍋を掻き回す姿も様になるわよね」
「花見は夜からじゃ、花冷えもしようで。温かい物はより美味いだろう。って、ちょっと待て、それはどういう意味じゃ?」
「別におっかさんって呼びたくなった訳じゃないわよ。ただ、料理が好きな女性は魅力的なのかなって。べ、別に私だって出来ない訳じゃないのよ! 積極的にしないだけで‥‥」
「ふふ、好きな男が出来れば、その人の為に作りたくなるものさ」
 カウンターに腰掛けたがお太郎が見守る中、女3人の話は尽きない。
「今回は事務所に訪問、花見に参加させて戴き、ありがとうございます。冬織さんから聞いていましたが、素敵なキッチンですね」
 玖條 響(fa1276)が大きめのタッパーを持って入ってくる。彼が持ってきたタッパーの中は、春の山菜をふんだんに使った、緑豊かなちらし寿司だった。
「ワインに芋焼酎、大吟醸‥‥こ、これは!? 名酒『美少年殺し』ではないか!!」
「手ぶらもなんだし、(馬鹿)妹からビル内にソフトドリンクが備え付けてあると聞いたんでね、ぬる燗なんかもいけるよ」
 響と一緒に入ってきた笙(fa4559)が、がお太郎の隣に酒瓶を並べると彩音の目の色が変わった。
「花見の準備をしてるんだけど、キッチンから何か運ぶモンはあるか?」
 そこへTyrantessが、屋上で花見の準備が整った事を告げに来た。


●花見inヴァニシングプロ自社ビル屋上
 霧子に案内され、オフィスや会議室、社長室からレッスンスタジオに宿泊施設までざっと見学した後、華鳴達は屋上へ。

♪さあみんなで花見に行こう!
 お弁当作って
 美味しいおやつも買って行こう!
 準備はオッケー?
 どんなに遠くても 小雨が降っても
 さあみんなで花見に行こう!
 みんなで 一緒に
 いっぱい楽しもう!♪

 昨晩寝ながら考えたという『お花見マーチ』を唄いながら、霧子は花見にいいポジションを見繕ってござをセットする。
「お花見で最も重要なポイントの1つは場所取りなのです」
「霧子ちゃんの歌はぁ、元気を一杯くれるわよねぇ〜」
「いつ聞いても張りのある歌声だ」
「緒方社長!? おはようございます」
「えへへぇ〜♪ 今日はぁ、お世話になりまぁーすぅ♪ 彩音ちゃん♪」
 目をきらきらさせながらおやつの他に、Tyrantessや千佳が運んできた料理を広げていると、彩音がやってくる。たとえ相手が社長でも、構わずちゃん付けして呼ぶのが華鳴クオリティだ。
 千音鈴や響達も料理を持ってきた。
「ほぉ、オフィス街でも夜桜が楽しめるとは、確かに穴場じゃな。うちのリーダーが桜嫌いじゃで、花見が出来ぬと思っておったが。今宵は楽しもうぞ‥‥のう? がお太郎」
 夜の帳が下りると、オフィス街の真ん中にある緑豊かな神社の満開の桜がライトアップされ、暗闇の中に浮かび上がり、近くに見える。
 冬織はがお太郎を座らせながら、花見する気満々だ。
「今夜は大いに食べて大いに飲んで、創作に活力として欲しい。では、乾杯!」
「「「「「「「「乾杯ー!」」」」」」」」
 彩音が乾杯の音頭を取ると、霧子、千佳、華鳴、Tyrantess、響はソフトドリンクを片手に、冬織、千音鈴、笙は熱燗を片手に杯を重ね合う。
「一部は割と頻繁に会うんだけど、初対面の人も多いのよね。流石は大手ってところかしら? よろしくね♪」
「よろしくお願いします」
 千音鈴に暖かいお茶を注ぐ霧子。ヴァニシングプロは実力主義だが、一応、先輩と後輩になる。
「花見っつーのはあんまりやった事ねーが、酒が飲めねー分までいろいろ食べるとするか」
「綺麗なお姉ちゃんと美味しいお菓子で、大満足にゃ〜♪」
 Tyrantessは半獣化した千佳を膝に乗せながら、彩音が作ったお弁当の定番、唐揚げに始まり、ちらし寿司やだご汁を頬張り、千音鈴が持ってきた桜の花弁を象った和菓子や、懐かしい駄菓子に舌鼓を打つ。
 彼女に抱っこされている千佳は至福の笑みを浮かべ、嬉しそうに猫の尻尾を振っている。
「‥‥俺の最近の存在意義が『尻尾8割以上』らしく、いっそ“癒しっぽ系アーティスト”目指すか!? とか思えてくる」
「それは新しいな。うちでも癒し系ロックを考えてみるか」
「――社長ももふっときます?」
「なに兄貴、社長にお酌させてるの!? 普通逆じゃない!?」
 半獣化した笙は、自棄になりながら美少年殺しのぬる燗を煽る。彩音はお酌をしながら聞き手に回っていた。

♪咲いた花ならいつか散る 当然のこと
 人も誰でもいつか死ぬ 当然のこと

 ずっと人知れず静かに 咲き続けるよりは
 例え一瞬でも全てを 染め上げて散りたい

 吹き抜けろ Sakura Storm
 永久に残るほどに鮮烈に この一瞬を彩って
 吹き荒れろ Sakura Storm
 全てを白く(紅く)覆い尽くして 儚くも力強く

 吹き抜けろ Sakura Storm
 退屈な永遠なんていらない つまらないだけだから
 吹き荒れろ Sakura Storm
 命と引き替えでも構わない 最高の夢が見たい♪

 すると、Tyrantessがエレキギターを片手に【Sakura Storm】を爪弾き、千佳が唄う。
 ミディアムアップのロックで、Aパートは淡々と始まり、どんどん強くなっていく。Cパートの最後のハモる部分は、千佳が先に唄い、Tyrantessが合わせた。
「桜の花は、こう景気よくばーっと咲いて、ばーっと散るのがいいよな。風情がどうのってのは、よく分かんねーけど。桜の花はよく人生に例えられるっていうから、俺の用意した曲は、太く短く、俺の人生観そのものだ」


♪朧夜(ろうや)が誘う 夢幻の刻(とき)
 仄かな光が照らし出す 命の宴
 華(おとめ)達よ 誰(た)が為に

 散り逝く為に生まれて
 短き生涯の意味を知り
 受け継いだ宿命(さだめ)を嘆かずに

 嗚呼 刹那に生きる魂よ
 嗚呼 名も無き欠片と砕けても

 喩え 明日枯れ果てるとも
 瞬く間の生涯を 歴史に刻もう
 絶望も哀しみも乗り越えて
 華達よ 永久へと還れ―‥‥

 「刹那の刻を、永遠に‥‥」♪

 続けて演奏はTyrantessが務め、華鳴が【儚華姫】を披露する。
 刹那の美しさを残して散り往く桜、有終の美を飾るかのような光景。
 それを華鳴が得意とするダークな世界観に呑み込んで作り上げた歌だ。
 舞う桜を身体で表現するように舞い、やや高めの声で熱唱した。


♪春夏秋冬 季節(とき)は廻り続け
 こころあいの風が揺らす 薄紅の群
「元気ですか」元気です
「泣いていませんか」泣いてません
 だけど花ほころぶようには
 まだ笑えなくて

『愛(いと)しい出逢い 愛(かな)しい別れ
 春咲花はそっと見守る』
 揺蕩う想い 惑う私を包む花の雨
 はらりはらり 散音は何を伝えたい?

 貴方を亡くして 嫌いになった花
 朝な夕なに柔らかに咲き誇る
 貴方を想い出させる 意地悪な薄紅の花
『忘れたい 忘れたくない』
 忘れないから 哀しみだけ花弁に埋めて

 舞う桜 降り積もれ
 哀しみに沈む私 花葬して♪

 笙がチェロを取り出すと、ミドルテンポの、切ない響きと力強さを併せ持ったゴシック調のロック、【桜花葬】を奏でる。
 素早い返しで荒いくらいの早めの前奏から、徐々にリズムを整え滑らかに。
 主音は冬織の声が取り、笙のチェロはあくまで装飾的な響き、全体的な音の雰囲気作りに徹する。
 冬織と重なる掛け合い的フレーズ(「」)では、笙は柔らかに声を活かす。
 ハモリ部分(『』)では、重音・分散和音を効果的に使い分ける。
 サビ前にグリッサンドで勢いとメリハリをつけ、演奏の中にも哀愁を帯びて終わる。


♪知らぬ間に心に咲く薄紅の花
 枯れることなく 日に日に彩(あや)に
 花起こす 春風の笑み纏う貴方
 咲き誇る想い気付いてますか?

 はらはら花弁散れど絶えぬ花
 命限れど 無限の想い
 あてどなく 宙舞う薄紅の欠片
 降りしきる想い届いてますか?

 せめて夢で逢えたら 瞳閉じ願うのに
 貴方を想うと眠れない
 なんて悔しい矛盾

 言葉では表せない想い
 薄紅の花と歌に込め貴方へ
 桜咲く 想い舞う

 この花の一よのうちに百種の
 言ぞ隠れる おほろかにすな‥‥♪

 千音鈴の【恋華〜RENGE〜(桜ver.)】は、アコースティックギターによる弾き語り、しっとり和音階のミディアムスローのロックバラード。
 夜桜的な幻想感・艶やかさを醸し出しつつ、桜の枝に想いを託す一途さを言の葉に乗せる。
 最後のフレーズは語るようにスローダウン。


「皆さんのセッション、凄かったです♪ しっかり見て聞いて勉強させてもらいました☆」
 霧子と響、彩音が惜しみない拍手を贈った。


●サクラサク
 セッションが終わると、霧子は散乱した紙コップや良い感じで空になって転がってる酒瓶を拾い、片付け始める。お花見もそろそろ終盤だ。
 
「少し前にドラマの演技練習の延長で、ピアノを冬織さんに習いまして‥‥ドラマ自体も音楽に関係のある内容でしたし、このように沢山の方々の生演奏を聞く機会が出来た事、嬉しく思います」
「音楽を取入れたドラマも増えてるし、色々勉強になると思うわ。私もお芝居は勉強になってるし。そういえば、ヴァニプロを舞台にしたドラマの話ってどうなったのかしら?」
「今、脚本が出来上がったところだ。ゴールデンウィーク前後には形になるだろう」
 響がセッションの感想を述べると千音鈴が頷く。尚、冬織のピアノの指導はスパルタだったとか。
「わしは楽器は専門外じゃでよく分からぬが、特定の楽器がロックを演奏するは斯様に特別な事かえ? 音を奏でるものなれば須く音楽‥‥無論ロックも可能じゃと思うで難しゅう考える理由が分からぬ。歌い手の浅知恵やもしれぬがの」
「ロックは様々な音楽スタイルをルーツとしている。だから特定の楽器、といった枠に嵌める必要はない、と私は思う。ピアノやチェロ、サックスやオルガンを使うロックもあるし、逆にドラムを使わないロックもある。ロックの表現方法はアーティスト次第、多彩な可能性を秘めているんだ」
 食後の梅昆布茶を啜りながら、冬織と彩音はロック談議に花を咲かせた。
 すると、千佳がTyrantessの膝の上で丸くなって気持ちよさそうに眠っている事から、花見はお開きとなった。
 Tyrantessは華鳴と宿泊部屋へ連れ立つ。
「今日は綺麗な花を見させてくれて、ありがとうございました」
 ぺこりんと頭を下げて、霧子は彩音と屋上を後にした。

 屋上には響と千音鈴だけが残った。
「ちおりさんの元気なとこ、というか誰かれ構わずズバッと言うところ‥‥というか‥‥えーっと‥‥と、とにかく! ちおりさんが好きで、それだけは確実なので俺と付き合って下さい!」
 思わぬ響の告白に一瞬キョトンとしてしまう千音鈴。彼女の反応に、響はどきどきそわそわ、挙動不振。
「‥‥嬉しい。だってさっきの歌、響想って唄ったんだもの。顔も好きだし、性格も好きだし‥‥結局全部?」
 千音鈴は微笑むと、顔を真っ赤にしながら響の好きなところを力説する。
「不束者ですがよろしくお願いします」
「俺の方こそよろしくお願いします!」
 2人して頭を下げ、目が合うと、どちらからともなく吹き出してしまった。

「お義兄さん、俺の枕になって下さい!」
 響と笙に宛われた寝室へ入ってくるなり、頭を下げる響に、笙は思わず固まってしまう。
「‥‥笙さんの尻尾は太くてふわふわで枕に最適で‥‥!」
「分かった、分かったから、告白みたいな事を言うな!」
「ちおりさんにも『兄貴は好きにしていいわ。私が許可する!』ってお墨付きです!」
「俺の尻尾は妹の嫁入り道具扱いか‥‥」
 頭を押さえつつ、響にふもふっと戯れられる笙だった。