五月病アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 不明
参加人数 8人
サポート 1人
期間 05/18〜05/22

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。


 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「シュタリアお姉様‥‥シュタリアお姉様‥‥」
 3人がゆうに一緒に寝られるベッドの上で、ティリーナは姉の名前を連呼する。シュタリアはベッドに腰掛け、上半身だけティリーナの方を向き、彼女の胸と下腹部に手を添えている。
「あ! あ! ん! んん!」
 シュタリアの胸に添えられた手が緩やかな円を描きながら先端をこねくり回し。もう一方の手が蠢くたびに、ティリーナは荒い息を吐きながら声を上げる。全身から吹き出す甘い汗の香りが、辺りにたちこめる。
「そ、そこは‥‥そこはダメぇぇぇぇぇ!!」
 ティリーナは腰を浮かせて半身を仰け反らせ、反り上がった喉から絶叫を上げると、そのままベッドで身体を預ける。
「‥‥今日はこのくらいにしましょう」
「そんなぁ、シュタリアお姉様〜。私、今日はまだ、3回しか絶頂を戴いていません」
 ティリーナの下腹部を愛撫していた指をひと舐めすると、シュタリアはベッドが立ち上がろうとした。
 肩で息をし、至福の笑みを浮かべながら徐々に収まる快楽の余韻に浸っていたティリーナは、その言葉を聞いて表情を一転させ、泣きそうになりながら姉に縋った。
 もっとも、3回も愛されていれば十分な気もするが‥‥“超”が付く程のシスコン――しかも、スティアより、シュタリアにベッタリ――のティリーナにとっては、まだまだ姉の愛が足りないのだろう。
「あなたの事はもっと愛してあげたいとは思うのですが‥‥何というか、気が乗らないのですわ」
「気が乗らないって‥‥シュタリアお姉様、それって『五月病』ではないでしょうか?」
 気が乗らないのに、ティリーナを3回も愛せるシュタリアも、それはそれで凄いのだが。
 姉のいつもと違う受け答えを、ティリーナは敏感に察知した。
「五月病‥‥そうかも知れませんわね」
 五月病とは、この時期特有の、無気力感や不安感などから、疲労を感じたり、やる気が出ない症状の事だ。主に新人社員や新入生などに見られ、5月の連休明けに起こる事が多い事からこの名称が付いたとされる。
 シュタリアは新人社員や新入生ではないので、五月病に該当するかどうかは疑問だが、似た症状は誰にでも起こりえるだろう。
「そうだ、シュタリアお姉様! こういう時こそゲリラライブです!」
「ゲリラライブ‥‥いいかも知れませんわね」
「ゲリラライブで五月病を吹き飛ばすのです!」
 ティリーナが名案が思い付いたとばかりに、両手を胸の前で合わせる。ゲリラライブという言葉にシュタリアも乗ってきた。
「‥‥あの娘は来て下さるでしょうか‥‥」
「え!? あの娘‥‥!?」
 ところが、姉の口から自分とは別の女性の事が上がったものだから、ティリーナは目を見開く。
「いつもゲリラライブに参加して下さる、眼鏡を掛けていて、落ち着き過ぎているあの娘ですわ。ああいう感情の読み取り難い娘の、快楽に全てを委ねた姿を見るのも楽しそうですわね」
「ぅぅ〜‥‥」
 無気力だったシュタリアの瞳に、狂気にも似た妖しい輝きが宿る。姉にいつもの活力が戻りつつあり嬉しい反面、自分以外の女性と仲良くするのは嫌いなティリーナは、複雑な表情を浮かべた。


 その後、ファンサイトに、今度のSuccubusのゲリラライブは昼休み中のオフィス街で行うという書き込みがなされた。
 いつものように彼女達だけではなく、他のアーティストやロックバンドを誘う。呼び掛け=有志なので金銭的な報酬はないが、交通費や飲食費を始めとする必要経費はSuccubus持ちだ。また、今回はターゲットが社会人という事もあり、振り向かせる為に、相応の「発声」や「音楽」センス、「楽器」演奏が必要になってくるだろう。
 尚、今回のゲリラライブは場所が場所だけに、ゲリラライブ中、女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性はなさそうだし、参加者も弄るのは避けた方がいいだろう。
 但し、ゲリラライブ後に開かれる打ち上げに関しては、その限りではない。

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0034 紅 勇花(17歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa3596 Tyrantess(14歳・♀・竜)
 fa4581 魔導院 冥(18歳・♀・竜)

●リプレイ本文


●本番前の摘み食い
 木之下霧子(fa0013)と不破響夜(fa1236)、Tyrantess(fa3596)と紅 勇花(fa0034)、MICHAEL(fa2073)と稲馬・千尋は、Succubusの長女シュタリアと次女のスティアと一緒に、オフィス街でのゲリラライブの下見に繰り出していた。
 一人前の音楽家になる為の勉強、と思い、Succubusのゲリラライブに馳せ参じた霧子は、下見にも気合いが入っている。イメージ練習も兼ねており、千尋からベースの演奏のコツを教わっていた。
 五月病とは無縁の生活を送っているTyrantessは、普段着から露出度の高い衣装なので、オフィス街では違和感がありまくりだと思い、車の中から下見をするつもりだったが、霧子に誘われて後に付いている。
 頭の後ろで腕を組んで歩く響夜は勇花のお付き合いだ。
「『大きめの道路の傍』で『交差点の近く』で『開けた場所』という条件だと、この辺りになるかな?」
「そうねぇ、この辺なら路駐してもしばらくはお咎めなさそうだし」
「土日は実際にゲリラライブをやる平日のオフィス街の交通量や人出を調べるには不向きだし、その辺は金曜のうちに調べておいて正解だな‥‥ん? どうした?」
 勇花は鳴瀬 華鳴(fa0506)や西村・千佳(fa0329)、魔導院 冥(fa4581)も交えて相談して決めたゲリラライブに適した場所を見付けると、当日、車を運転してその場へ着けるMICHAELが確認して頷く。
 するとTyrantessは、先程から勇花が苦しそうに胸元を押さえているのに気付いた。
「‥‥何か最近、胸の辺りがきつくなった気がするんだ‥‥確か、前のファンタジーランドでのゲリラライブの後辺りから‥‥スティアさんのマッサージを受けて育ったのかな‥‥」
「それはもう、勇花さんの胸を堪能させて戴いたもの」
 スティアがにっこりと微笑みながら舌なめずりをする。だが、瞳だけは妖艶な輝きを宿して鋭く、獲物を狙う猛禽類のそれだ。その瞳に射抜かれた勇花は、ビクッと身体を竦ませる。
 残念ながら、Succubusの公式サイトで公開されているゲリラライブの映像では割愛されているが、ファンタジーランドでのゲリラライブが終わった後、オフィシャルホテルにチェックインした勇花はスティアの濃厚で激しくも優しいマッサージを一晩中受け続けたらしい‥‥。
「下見が終わった後はフリーだろ? なら、ランジェリーショップへ行かないか? 勇花さんはプロにきちんと採寸してもらって、カップサイズが上がっているようなら新しいブラを買った方が良いだろうし‥‥わ、私はガーターストッキングに興味があるんだが‥‥」
「でしたら、シュタリアさんも衣装合わせをしませんか? 今回、私と冥さん、シュタリアさんの3人で組みますから、冥さんと相談して衣装を揃えてみたんです☆」
 ここぞとばかりに響夜がショッピングを提案する。すると、意外なところから賛同者――霧子――が現れた。
「MICHAEL、車回せるか?」
「OK〜。どうせ千佳ちゃんの車だから、ガンガン飛ばしましょー♪」
 MICHAELはTyrantessにウインクで応えると、下見に行くので借りた千佳の愛車ランプレッサWRXを回してくる。

 エロカッコイイ路線を目指すTyrantessは、下着に人一倍気を配っている。彼女の行き付けのランジェリーショップへ来ると、勇花はスタッフに採寸してもらい、霧子はシュタリアと千尋と共に試着室へ、響夜はMICHAELとTyrantessにインナーベルトを選んでもらう。
「‥‥やっぱり、カップサイズが1つ大きくなってた‥‥」
 勇花はスティアの着せ替え人形と化し、ブラをごまんと試着した後、エンジェルホープを購入。
「響夜ちゃんは普段着からして、こっちのインナーベルトがいいと思うわ〜」
「お、MICHAEL、大胆だな。これを着けるなら、ここをもう少しこうして‥‥」
「ちょ、2人とも!? そこは‥‥あ、ああ! ‥‥私‥‥そういうのダメ、で‥‥許して‥‥!!」
 響夜はMICHAELとTyrantessの見立てと身嗜みを受けて、インナーベルトを購入。
「シュタリアさんは妖艶な黒のロングドレスで、“夜魔の女王”をイメージなのです☆ 1人で着るのは大変かもなので、稲馬さんも手伝ってあげて下さいな」
「あら、お気に召しませんか?」
「‥‥どうも休み過ぎたみたいで、やる気がほとんど無いの」
 霧子ににぱりんと笑顔で手伝いを頼まれて試着室へ入った千尋は、いつも以上に反応が鈍く、シュタリアはちょっぴりがっかりした。
 しかし、霧子にシークレット悪魔翼と悪魔尾をプレゼントしたところを見ると、彼女に感謝したようだ。


●五月病をぶっ飛ばせ!
 ゲリラライブ当日。MICHAELが運転する千佳のランプレッサWRXに千佳と華鳴、TyrantessとSuccubusの三女ティリーナ(fz1042)が、シュタリアが運転するレンタカーのワゴンに冥と霧子、勇花と響夜、スティアが分乗して現地へ向かう。

 正午を回ると大抵の企業は昼休みに入る。午前中の仕事の疲れを癒すべく、外へ繰り出す者も多い。
 そこへ2台の車が止まると、半獣化してネコミミを覗かせ、肉球グローブに愛用の魔法少女のステッキ型マイマイクを握った千佳が勢いよく飛び出した。
「さって、今回のSuccubusのゲリラライブは‥‥ここ、オフィス街で開幕なのにゃ♪ 五月病や休み明けの月曜日で憂鬱なみんなを元気にする為に‥‥今日は激しく行くにゃー! それじゃぁ最初は“魔界の皇女”のお姉ちゃん達が行くにゃ!」
「ふははは! 私達はキミ達の憂鬱な気分を吹き飛ばす為に降臨した‥‥“魔界の皇女”!」
 半獣化して竜の角と羽、尻尾を出して悪魔に扮し、黒のゴシックロリータに身を包んだ冥が、千佳のアナウンスと共に現れる。彼女の後にシークレット悪魔翼と悪魔尾を着けてセクシーな黒い小悪魔風の衣装を纏った霧子と、同じく半獣化して蝙蝠の羽を生やし、夜魔の女王をイメージした衣装に身を包んだシュタリアが続く。
 霧子のギターとシュタリアのベースが、ハードコアにも近い重低音でゆっくり聴かせるように演奏した後、冥のナレーションが入り、軽快なリズムで『魔界の皇女』の前奏が始まる。

♪琥珀色したマグマから 闇に包まれ悪魔がいずる
 灼熱の海に体を浮かべ ヒトが蠢く世界を見てる

 今正に我等の 美しき姫が この地上に 降り立つ

 黒い瘴気その身に纏い 一人の悪魔が狂気を放つ
 皇女の爪が獲物を捉え 哀れな贄の生き血を啜る

 体に血の洗礼 浴びた姫の 闇の支配が はじまる

 嗚呼 大いなる魔界の皇女の 新しき風が訪れる♪

 歌い出しのAパートとCパートは早口で歌い、他の部分は演奏の速度はそのままに、比較的ゆっくりとした歌い方で冥が歌い上げる。
 全体的にはヘビィメタル調の曲調で、「贄の生き血を啜る」の部分は奇声を上げるような歌い方。
 Dパート終了後、Eパートの間は、霧子がギターから得意のバイオリンへ得物を換え、高速バイオリン演奏が入る。
 シュタリアの後ろで、基本に忠実を心掛けて控えめに演奏していた霧子も、この時ばかりは水を得た魚の如く生き生きとバイオリンの旋律を爪弾く。今度はシュタリアが控えめに、バイオリンの演奏に花を添える。 
 歌い終わった後は、霧子とシュタリアも加わり、「LaLaLa‥‥」としばらく歌い、最後は短く奇声を上げて演奏と共に終わった。


「見て、聴いて、感じたまま、信じたままに突っ走れば道は開ける! それが俺のメッセージだ!」
「今回はギタリストが3人もいる、贅沢な曲よ〜♪ 見事なトリプルギターを聴かせてあげるわ♪」
 冥達が車へ引っ込むと、入れ替わるようにTyrantessとMICHAEL、華鳴とティリーナが出てくる。
 Tyrantessは真っ赤なショートジャケットに、同じく赤のミニタイトを履き。
 MICHAELも真紅のベストに、膝上丈のジーンズ履き。
 華鳴も深紅の、袖とスカート丈が短めの服を着、ティリーナも含めて服を赤で統一していた。

♪夢見る事を忘れて 惑い彷徨う君よ
 空虚な幻影の世界で 何を見る――‥‥?

 硝子と鋼鉄の森 芽吹かず 埋もれて
 咲き誇る前に朽ちた 憐れなる華

 胸の奥で 燻る魂の焔(ほむら)
 心の鼓動と共に 熱く激しく燃やせ

*〔瞬く間の〕刻(とき)の流れ
*〔我武者羅に〕抜き去って
*〔振り返る事も無く〕時代を駆け抜けよ
 君は 名も無き英雄――‥‥!

 消え逝くが天命(さだめ)と 神が告げ
 未来(あす)が暗闇に 呑まれても

*〔名も無き英雄よ〕涙を見せるな
*〔運命に従わず〕挫けるな
*〔最後まで〕生きた足跡(あかし)を
 歴史に 刻んで往け――‥‥!!♪

 『名も無き英雄』は出だしのAパートは控えめに始まり、Bパート、Cパートを経て情熱的に激しくテンポが上がってゆく。
 TyrantessとMICHAEL、ティリーナという3人のギタリストが演奏するので、それぞれがお互いの旋律に埋没しないよう、自身の持ち味を強く出してゆく。
 Tyrantessは奔放さを表すかのように適度にアドリブを入れ、MICHAELはトリルやチョーキングでアピール、ティリーナは間奏を十八番のスリーフィンガー・ピッキングで早弾きする。一歩間違えれば雑音にしかならないが、3人とも調和を崩さないのだから、それぞれのギターテクは甲乙付けがたいのだろう。
 TyrantessとMICHAELと楽しそうにギターを弾くティリーナの笑顔に、心の中でどす黒い嫉妬の炎を燃やしつつ、華鳴はそれを表におくびにも出さずに千佳と唄う。
 サビの部分は、〔〕の中をMICHAELとTyrantess、ティリーナが唄い、その後を追いかけるように千佳と華鳴が紡ぐ。それ以外は全員で合唱した。


「気分転換に1つ、聴いていきなよ」
 華鳴達が撤収する中、いち早く車から出てきた勇花がギターを軽く掻き鳴らし、挨拶代わりに短めのギターソロを披露する。
 ボーカルの響夜と、スティアのシンセサイザーの準備が整うと、『Flat Out』の軽快かつリズミカルな前奏が始まる。

♪ご機嫌なマシンに乗って 目一杯アクセル踏んで
 今すぐ この道走り出そう
 余計な荷物なんて 積む必要はないよ
 スピードの邪魔になるだけさ

 何のために走る? 今はまだ分からない
 それに意味はあるの? それもまだ分からない だけど

 無限に続く道の 果ての果てを見ようと
 最初に思った その思い忘れられない
 馬鹿な夢想(ゆめ)だと みんなは笑うけど
 何かが見えると信じて flat out and GO!♪

 響夜がノリのいい曲に乗せるつもりで作った歌詞は、疾走感を重視したライトロックな曲調にマッチした。
 Bパートでは一端テンポを抑え目にして演奏し、続くサビで一気に駆け上がりつつ、突っ走るようなメロディを奏でてゆく。
 歌詞の最後は響夜と勇花、スティアでハモリって決める。


 今回はシュタリアが五月病(?)という事と、Succubusのメンバーも一緒に演奏したので、Succubusの演奏はなかった。
「五月病や週明けの憂鬱は治ったにゃ? みんなの元気を受けて元気になって欲しいにゃー!」
 千佳がそう締めると撤収していった。


●Succubusの恋愛相談
 シュタリアに先導され、MICHAELはホテルの駐車場に車を停める。
 ここで打ち上げを行うそうだ。
「現地への移動が車だったり、打ち上げが一流ホテルだなんて、VIPみたいでワクワクです☆」
 ルームサービスを頼むと、今日のゲリラライブの映像を見ながら、霧子はMICHAELや響夜達と反省点やライブのコツを手取り足取り教わる。

「私には『外見や仕草が女性のような』彼氏がいる。盟友の薦めもあり、付き合い始めたのだが、2人の時間はそう作れず、しかしそれが寂しい訳ではなく‥‥このまま付かず離れずで良いのかと思ってな」
「恋人の定義とは、人それぞれだと思いますわ。あなたは恋人に何を望むのですか?」
 冥はシュタリアに「相談がある」と真摯な表情で切り出したところ、彼女は快く応じた。
「何を望む、か。実の所、恋人が一体どんなものなのかもよく解らんのだ‥‥」
「でしたら、先ずは恋人の事を知る事から始めては如何でしょうか?」
「彼氏の事を、知る?」
「相手を好きになるという事は、『相手の事をもっと知りたい』と想う事だとわたくしは思いますの」
「相互理解、か」
「そんなに小難しく考えなくても構いませんわ。定番の『お友達から』というものですの」
「いきなり恋人から始めるのではなく、友達として親交を深めていけばいいのだな」
「そうすれば自ずと相手の事を分かってくると思いますし、冥も恋人に何かをして欲しい、逆に恋人に何かをしてあげたい、と思うようになるかも知れませんわ」
「そう思える日が来ると良いのだがな」

「1人の女性にこんなに夢中になったの‥‥初めてだから‥‥!」
 また、他の部屋では、華鳴がティリーナに何度目かになる勝負を挑んでいた。
 おそらく、今の自分では勝機は1%もないだろう。それでもティリーナの、何も飾らない素の笑顔を自分にだけ見せて欲しい、そして自分だけを見て欲しい一途な想いが、華鳴を突き動かした。
「‥‥懲りるどころか、私をここまで高ぶらせるなんて‥‥」
 ベッドの上で大の字に横たわり、目を見開き、意識を手放した華鳴の表情には微笑みが浮かんでいた。
 ティリーナはその横で膝を抱えて座り、ツインドリル――もとい、縦ロールの一房を弄りながら、悔しそうに、でも寂しそうに呟いた。その息は上がっていた。