Goddess Layer 8th’アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 2.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/11〜05/15

●本文

※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※
※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるPCの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※

 1990年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
 1980年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、9団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。

 その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
 “東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に24回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。

 だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
 アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍(=革命軍)」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈(ライナ)が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。


 『湘北レディース』のエース、パイソン五島とアイギス佐久間の、ロードワーク中の遠征のやり取りから2日後。東女へ湘北レディースより、正式なレスラーの遠征依頼書が届いた。
 湘北レディースは神奈川県に本拠地を置き、関東南部から東海地方に掛けて主に興行している女子プロレス団体だ。パイソン五島自身、レディースの出身でトップを張っていた経歴があり、今いる湘北レディースのメンバーの大半は彼女のチームの仲間だと言われている。
「五島はこういうところは相変わらず律儀よね」
 あの後、愛車でドライブをしながら湘北へ帰り、その日の内に依頼書を出したのだろう。パイソン五島の律儀な性格に、アイギス佐久間は依頼書に目を通しながら微笑んだ。
 その後、ダイナマイト・シュガーとリリム蕾奈を交えて、正規軍・維新軍・反乱軍より、遠征軍を選抜する話し合いの場が持たれた。
「今回の遠征ですが、わたくしは辞退しますわ」
「もうそんな時期だったわね。分かったわ、反乱軍からはメンバーは募らないし、遠征に行かない正規軍のメンバーも、あるのでもシェリルでも優でも、自由に使っていいわ」
 リリム蕾奈が遠征を辞退すると、アイギス佐久間はカレンダーを見て申し訳なさそうに告げた。
「あの、アイギス佐久間さん、時期って?」
「あなたも知ってるわよね? 東女ではこの時期になると、市ヶ谷病院で慰問を兼ねたチャリティーマッチを開いているの。その陣頭指揮を執っているのがリリム蕾奈なのよ」
「そうだったんですか」
「何ですの、その意外そうな顔は?」
 私立市ヶ谷病院は、この辺では唯一の総合病院だ。最新の医療設備を揃えているという事で評判が高く、東女の掛かり付けの病院でもあり、ダイナマイト・シュガーも何度かお世話になっている。
 現院長も元女子プロレスラーで、治療の他にレスラー達の悩みを聞くカウンセリングも行っていた。
 普段のリリム蕾奈が百合な行動が目立つだけに、ダイナマイト・シュガーは思わず意外な目で彼女を見てしまった。
「市ヶ谷病院には、リハビリをしている女の子も多いのですわ。わたくし達のファイトが、そういった女の子達を元気付けられれば、と、毎年行っているのですわ」
「そういえば涼さん、まだ?」
「ええ、まだ入院していますの‥‥ですから、尚の事、今回はチャリティーマッチを成功させたいのですわ」
 アイギス佐久間が“涼”という名前を口に上らせると、リリム蕾奈の表情がにわかに曇る。
 真鍋涼‥‥リリム蕾奈の妹、ではなく、同じ苗字の、リリム蕾奈を姉と慕っている少女だ。リリム蕾奈が若手の頃に入院した時に出会い、それ以来、付き合いが続いている。
 涼は身体が弱く、幼少の頃から入退院を繰り返しており、ここ数年はずっと入院し続けていた。
 リリム蕾奈が負った怪我は引退してもおかしくない程の重傷だったが、涼との出会いが彼女を再起させたと言っても過言ではなかった。なので、リリム蕾奈はこのチャリティーマッチに力を入れていた。
「そういう事でしたら、維新軍のメンバーも使って下さい」
「ふふ、ありがとう、ダイナマイト・シュガー」
 リリム蕾奈の知られざる一面を知ったダイナマイト・シュガーも、チャリティーマッチへの協力を惜しまなかった。


※※主要登場人物紹介※※
・リリム蕾奈(真鍋蕾奈):18歳
 東女でアイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主だが、百合な性格故、若手にファーストキスを賭けたデスマッチを仕掛けたりする。反乱軍を組織し、百合なレスラー達を囲っている他、東女のヒールレスラー達を束ねている。スピードのある飛び技を得意としている。
 修得技:ブレーンバスター/投、片逆エビ固め/極、ショルダータックル/力、ステップキック/打、ヒップアタック/飛
 得意技:プランチャー/飛

・真鍋涼:17歳
 身体が弱く、幼少の頃から市ヶ谷病院へ入退院を繰り返している少女。その存在は、重傷を負ったリリム蕾奈を元気付け、復帰させた原動力となっている。ここ数年は、ずっと入院し続けている。リリム蕾奈を姉と慕っているが、実は食べられてしまったらしい‥‥。


※※オリジナルレスラー設定時の注意※※
若手は15〜18歳まで。それを越えるとベテランになります。
使用できる技は、投げ技・関節技・パワー技・打撃技・蹴り技の各カテゴリーの中から通常技を5つまで、得意技を1つまで選択できます。得意なカテゴリーの技を2つ選び、代わりに苦手なカテゴリーの技を選ばない、といった事も可能です。
個人設定は無敗でもOKですが、基本キャラ(今回であればリリム蕾奈)や各団体の設定に抵触するような内容は避けて下さい。また、ドラマという媒体上、基本キャラには原則勝てませんので、そういった設定には制約が掛かります。


※※カテゴリー分けと代表的な技※※
投:投げ技‥‥アームホイップ、ボディスラム、ブレーンバスター、バックドロップ等
極:関節技‥‥スリーパーホールド、脇固め、片逆エビ固め、コブラツイスト等
力:パワー技‥ヘッドバット、ラリアート、パイルドライバー、パワーボム等
打:打撃技‥‥逆水平チョップ、エルボー、掌底、延髄斬り等
飛:蹴り技‥‥ドロップキック、ローリングソバット、ヒップアタック、フライングボディプレス等


※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居

●今回の参加者

 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa0836 滝川・水那(16歳・♀・一角獣)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2997 咲夜(15歳・♀・竜)
 fa3658 雨宮慶(12歳・♀・アライグマ)
 fa4613 レディ・ゴースト(22歳・♀・蛇)
 fa4956 神楽(17歳・♀・豹)
 fa5111 相澤瞳(20歳・♀・虎)

●リプレイ本文


●誰が為に戦う?
 私立市ヶ谷病院の外観は、赤レンガの洋館風の造りだ。一見、大正浪漫を思わせるそれは、看板がなければ病院だと気付かないだろう。
 しかし、そんなレトロな外観とは裏腹に、中は最新の医療設備を整え、名医を揃えており、その評判を聞き付けてわざわざ遠くから通院や入院する者も多い。
 真鍋涼(雨宮慶(fa3658))も名医と最新の医療設備を頼った患者の1人だ。彼女は身体が弱く、幼少の頃から市ヶ谷病院へ入退院を繰り返している。ここ数年は退院する事が出来ず、病院に併設されている学校へ通っていた。
「いよいよ明日、涼さんの『お姉様』の試合を直に観る事が出来るのですね」
 涼が入院している個室では、水木・一美(みずき・かずみ/滝川・水那(fa0836))が備え付けのパイプ椅子に座りながら、スクラップされた女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』に視線を落としていた。
 長期間入院しているだけあって、個室はほぼ涼の私室と相違ないくらい私物が置かれている。中でも目を引くのは本棚だ。趣味の読書で読む文学書以上に、『Goddess Layer』とビデオテープが所狭しと並べられている。
 涼は『Goddess Layer』を観賞用と保存用とスクラップ用の3冊定期購読している。市ヶ谷病院の購買に入荷する『Goddess Layer』は、彼女の為と言っても過言ではない。
 また、ビデオテープは全て女子プロレスの試合中継だ。それは東日本女子プロレスに限ったものではなく、涼が『お姉様』と慕うリリム蕾奈(相澤瞳(fa5111))の試合中継ばかりを録画していた。
 一美が今見ているスクラップブックも、『Goddess Layer』やスポーツ紙からリリム蕾奈の記事だけを集めたものだ。
 そして涼が寝ているベッドの棚には、彼女とリリム蕾奈のツーショットの写真が写真立てに飾られてある。室内を見ただけでも涼がリリム蕾奈をどれだけ好きか分かるだろう。
「でも、不思議ですよね。涼さんって荒事は苦手なのに、プロレス好きなんて」
「‥‥プロレスが好き、というより、お姉様のファイトが好きなんです。確かに痛々しい場面も多くありますけど‥‥お姉様のファイトは、こう、見ていると心の中がぽかぽかして、私も頑張ろう! って、勇気付けられるんです」
「分かります、その気持ち」
 内向的で穏やかな性格、読書と森林浴が好きという涼が、プロレス好きという事に違和感を覚える一美だったが、うっとりとした表情でリリム蕾奈の事を話す彼女を見ていると、何となく分かった。
 一美は父親から空手を習っている。試合中の怪我で市ヶ谷病院に入院し、病院の中庭を散歩していて涼と知り合った。歳が近い事と、世話好きという性格もあって、すぐに涼と仲良くなった。
 彼女は空手一筋なので、プロレスの試合を観るのは初めてだし、選手の事も全然知らない。しかし、毎日のように涼からリリム蕾奈の話を聞き、その想いは分かっているつもりだ。
「しかし‥‥ふふふ、涼さんは本当にリリム蕾奈さんの事が好きなのですね」
「はい。お姉様の事を愛していますもの」
 リリム蕾奈の話をする時の涼の瞳は、まさに恋する乙女のそれだ。「愛している」と躊躇う事なく言えるあたり、普通の人なら引いてしまうかも知れないが、一美はその一途な想いが羨ましかったりする。


●チャリティーマッチ・初戦〜30分1本勝負〜
 チャリティーマッチの会場は、市ヶ谷病院の中庭に造られた特設リングだ。毎年恒例とはいえ、長期に渡って入院している患者はそう多くなく、物珍しさも手伝って、毎年、外出できない入院患者を除いて、ほぼ全員が観戦に訪れる。また、外出できない患者には、院内のテレビで中継される。
 涼は一美に車椅子を押されて、最前列にいた。自分の試合以外はレフリーを務めるリリム蕾奈は、涼の姿を認めると駆け寄って抱き締めたい衝動を抑えて、手を振るに留めた。

 チャリティーマッチの初戦は、横須賀 皐月(よこすか さつき/レディ・ゴースト(fa4613))とカーマイン神沢(ブリッツ・アスカ(fa2321))、正規軍の中堅レスラー同士の対決だ。
 皐月もカーマイン神沢もリングネーム通り、それぞれ新緑色とカーマイン(洋紅)色のリングコスチュームに身を包んでいる。また、2人とも年齢やキャリアが近い事もあり、自他共に認める盟友でもある。
「この復帰第一戦でどれだけアイランドに近付けたか、私が見定めてやろう」
「ふふ、あなたは相変わらずですね」
 カーマイン神沢は独自の哲学や言語感覚を持っており、『アイランド』も彼女だけしか分からない世界を追求しているといわれている。その謎の多いコメントが、一部のファンにだけ人気があるのだが‥‥案の定、この場にいる観客には分からなかったようだ。しかし、盟友たる皐月には分かるらしい。
 その皐月は、しばらくの間腰のヘルニアにより戦線離脱し、この市ヶ谷病院で治療を受けていた。復帰第一戦がこの場で行える事と、盟友と戦える事は、彼女にとって嬉しい事だった。
 試合開始と同時に2人とも間合いを詰めると、逆水平チョップの応酬が始まった。カーマイン神沢がその身に受けた限りでは、皐月のチョップの切れ味は少しも衰えていない。
 もう様子見は要らない、とばかりにトラースキックを繰り出すと、皐月はそれを横にかわしてサイドスープレックスを決めてきっちり投げる。
 起き上がったカーマイン神沢はボディスラムで流れを掴もうとするが、皐月はそれもかわしてフロントスープレックスを叩き込む。
 皐月は“スープレックスマスター”と呼ばれるくらいの投げ技の使い手で、同じ投げ技使いのアイギス佐久間もその技量には一目を置いている。
 一方、カーマイン神沢は試合の勝ち負けの波が激しく、格上を破ったかと思えば、次で格下にあっさり負けたりする。
 同じ土俵で戦うのは不利と感じたカーマイン神沢は、ショートレンジラリアットを放つ。それをかわしてカンパーナを仕掛けるが、今度はカーマイン神沢が皐月の動きを読んでセントーンで倒した。
「皐月さんのアイランドはアイランド止まりだな。それでは私のノヴァ・アイランドには勝てないぞ」
 強引に流れを掴んだカーマイン神沢は、必殺のシャイニングウィザードを決める。
 レフリーのリリム蕾奈がカウントを取る。
(「腰のヘルニアで欠場してから8ヶ月。戦ってるみんなを見て取り残されたんじゃないかと不安に思った事もあった‥‥でも、プロレスが好きだからまた復帰できたんだし、カーマイン神沢さんだけにはこんな簡単に負けられないの!」)
 8ヶ月間のリハビリの日々が思い返されると、皐月は右腕を上げた。カウント2.9! 土壇場で返した。
 カーマイン神沢は、再びショートレンジラリアットからシャイニングウィザードへ繋げる必殺のコンボを放つが、皐月は逆水平チョップでコンボを断ち、ドラゴンスープレックスホールドを決めて逆転したのだった。

 カーマイン神沢はリリム蕾奈からマイクを受け取ると、辺りを見回す。皐月と観客は何が起こるのか、固唾を飲んで見守ると、カーマイン神沢は軽く微笑んだ。
「お帰り、皐月」
「‥‥皆さんの応援のお陰で復帰戦の勝利を飾れました。これからもまた戦っていきますので、応援よろしくお願いします」
 カーマイン神沢のその一言で、「ああ、リングに帰ってきたのですね」と実感した皐月は、それだけを言うと、感激の涙を流しながらリングを降りた。
 観客から惜しみない拍手が贈られたのは言うまでもなかった。


●チャリティーマッチ・セミファイナル〜30分1本勝負〜
 セミファイナルは、南条遥(神楽(fa4956))と結城紗英(咲夜(fa2997))、維新軍と正規軍の若手同士の対決となった。
「シュガーを倒すのはこのあたしなんだからね。こんなところで留まっている訳にはいかないよ」
「‥‥シュガーのライバルを名乗ろうというのなら、わたしを越えてゆく事ね」
 タートルネックの赤いワンピースを纏った紗英が指を突き付けながら言い放つと、トップに白百合のワンポイントをあしらい、ショートパンツ風のボトムといった黒のセパレートに身を包んだ遥が、真っ向から受け止めた。
 若手ながら東女のジュニア級王者からヘビー級王者に上り詰めたダイナマイト・シュガーは、紗英にとっても遥にとってもライバルだ。故に現ジュニア級王者の遥は、紗英にとって越えなければならない壁になる。
 一方、遥からすれば紗英の実力は取るに足らないものかも知れない。しかし、このチャリティーマッチは患者達を元気付ける為に開催されている。そういう意味では、派手さはないが、緻密に試合を進めていき、勝ちをもぎ取るいぶし銀的な関節技の使い手である自分より、紗英の元気さの方が観客を励ませるかも知れなかった。
 試合開始のゴングが鳴ると同時に、遥の身体をロープへ振ろうとする紗英。遥はそれを掌底で迎撃する。だが、被弾しつつも紗英は遥の腕を取り、ロープへ振ってエルボーを叩き込む。
 再度、遥の身体をロープへ振る紗英。ショルダータックルを仕掛けてくると、遥はJネックブリーカーで返す。それでも紗英の勢いは止まらず、起き上がり際にアームホイップで投げられ、片逆エビ固めを決められてしまう。
(「‥‥この気迫は‥‥何?」)
「先手先手‥‥先手を取られたらあたしの負けだもん」
 遥は紗英の持てる力の全てを出させる事を目的に戦っていた。しかしそれは、紗英を自分より『下』として見ている事に他らならない。紗英も遥に『実績』がある事は知っており、だからこそ遥のペースに巻き込まれないよう、怖いもの知らずだけが持つ強みを存分に発揮して、休ませる事なく次々と技を仕掛けてきていた。
(「‥‥わたし、紗英を勝手に格下だと決めつけていたようね」)
 いくらジュニア級王者とはいえ、遥も紗英も実力にさほど差はない。むしろ投げ技は紗英の方に分があるだろう。相手のペースで試合を進められる程、遥も若手として実力が突出している訳ではない。
 それを紗英の必殺バックドロップを喰らいながら教えられた遥は微苦笑すると、辛うじて立ち上がり、裏投げからの飛び付き腕ひしぎ逆十字の必殺のコンボで、紗英からギブアップを奪ったのだった。
「うう〜、惨敗だよ〜」
「‥‥ガッツだけならシュガーに勝っているかもね。でも、お互い、もう少し練習が必要ね」
「え!?」
 拍手が湧き起こるリングの中、遥は紗英にだけ聞こえるように耳打ちしてリングを降りていった。


●チャリティーマッチ・ファイナル〜30分1本勝負〜
「事情は分かってるけどソレとコレとは別! 悪いけどベットの上で負け越してる分だけ、リング上では勝ちに行くよ!!」
 問題発言とも思える掛け声と共に、木ノ内 優(きのうち ゆう/MAKOTO(fa0295))はリリム蕾奈へ向かってゆく。タッグパートナー同士の対決だが、最近では優もリリム蕾奈に食べられてしまったとか。
 リング脇には聞こえただろう。涼がはっとしたような、悲しそうな顔を見せた。
 優のラリアートやローリングソバット、逆水平チョップを舞うようにかわすリリム蕾奈の姿は、まさにマタドール。逆にスピードを活かしたステップキックやヒップアタックで優を翻弄する。ショルダータックルは受け止められてボディスラムで投げられ、そのままコブラツイストを決められるが、110cmを誇る自慢のバストを弄られて決まり方が緩み、外されてしまう。
「これで止めですわ!」
「待っていたぜこの時を!」
 早々にプランチャーで試合を決めようとするリリム蕾奈。しかし、優はリリム蕾奈の身体を正面から受け止め、足腰を踏ん張りながらA(アルゼンチン)バックブリーカーからS(シュミット)式バックブリーカーへの必殺コンボ、木ノ内スペシャルへ持っていく。
 思わぬは反撃に、リリム蕾奈は受け身を取り損ね、利き足を捻ってしまう。足が止まったリリム蕾奈を、攻め立てる優。チャリティーマッチとはいえ手加減は禁物だ。
「お姉様! 負けないで! 私の為に勝って!!」
「涼さん‥‥」
 意識が遠退きかけたその時、涼の懸命な声援だけがはっきりと耳に聞こえてきた。見れば車椅子から立ち上がり、一美が目を見開いている。
 優は止めとばかりに再び木ノ内スペシャルを繰り出す。しかも、いつもより多めに揺さぶってから膝に落としたのだからたまらない。
「ふふふ、そうですわね。この勝利はあなたの為に、ですものね」
 だが、ロックが決まる前にリリム蕾奈は強引に振り解き、再度プランチャーを仕掛けた。
「天使!? ‥‥ってンなわきゃない!」
 飛んできたプランチャーの高さに一瞬眼が眩み、日輪を背負ったリリムの背中に何かが見えた瞬間には、プランチャーの直撃を受け、優はマットに倒れていた。

「‥‥あなたの声援が届いたからこそ勝てました。この勝利はあなたに捧げますわ。だから、今日の声援のような頑張りさえあれば病気は治りますわ‥‥必ずね」
「はい、今日のお姉さまのように、私も頑張ります」
「良かったですね、涼さん」
 試合後、一美に後押しされて、リングを降りたリリム蕾奈へ花束を贈る涼。リリム蕾奈はお返しとばかりに涼を抱き締め、励ました。その姿に一美は涙を流していた。
「あの‥‥それで‥‥元気になったら‥‥また可愛がってくれますか?」
「ふふふ、今日、あなたに勇気を渡すつもりですのよ」
 リリム蕾奈は捻った足を診てもらう為、検査入院する事になった。
 その晩、消灯時間を過ぎた涼の個室から、何やら軋む音やくぐもった声らしきものが聞こえたとか聞こえなかったとか‥‥。