共鳴兵器―αアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 16.5万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/14〜06/18

●本文

◆Story
 眠らない街、ネオトキオ。
 深夜を回った時間帯だというのに、街には赤々と灯りが点り、人々が忙しく行き交う。
 いつの頃から、この街は眠りを忘れてしまったのだろう?

 『草木も眠る丑三つ時』という昔の言葉がある。丑三つ時とは午前2時〜2時半の事を指すが、一昔前であればこの時間帯に起きている者は希であった。
 しかし、今は、コンビニは開いているし、ファミレスやカラオケボックス、アミューズメントセンターといった娯楽施設も開いているところが多い。

 だが、そういった人々は『奴ら』の格好の餌食だ。
 『奴ら』は昔から、人間と共に生きている。人間が餌だからだ。
 『奴ら』は闇の住人であり、夜に活動する為、昔ならそう数が増える事はなかった。餌となる人間が夜で歩く事が少なかったからだ。
 しかし、今はどうだ。人々は電気という名の科学を手に入れ、夜の闇にあたかも勝ったかのように街を赤々と照らす。眠らない街に眠らない人々‥‥街には餌が溢れている。

 『奴ら』は『Devil』と総称された。それは便宜上の呼称であり、その姿は神話に登場する悪魔と呼ばれるモノもいれば、奇怪な怪物も存在する。
 それらを一括りにして『Devil』と呼ばれている。

 では、誰が『奴ら』を『Devil』と呼ぶのか?
 『DIVER(=Devil Intercept Vital―Erase Runner)』と呼ばれる、悪魔を狩る者達だ。
 20世紀末から21世紀初頭に掛けて、未解決の凶悪事件が急増しているのも、一説ではDevilの仕業と言われている。
 冒頭で記したように、人が溢れる夜の街はDevilにとって選り取り見取の餌場でしかない。
 そこで、時の日本政府は大胆な政策を打ち立てた。『城之内コンツェルン』を親会社とする、ダイバーの相互支援組織『ダイバーギルド』の設立だ。
 この政策により、ダイバーは法的に保護された存在となり、ダイバーギルドより依頼を請けてDevil達を駆逐し、合法的な報酬を得る事が出来るようになった。
 今までもダイバーが存在しなかった訳ではないが、彼らもまたDevil同様、歴史の裏舞台でひっそりとDevilを狩っていた。

 ダイバーはその強さや経験からE〜A級の5段階に分けられ、A級に近付く程報酬も高くなる。A級ダイバーの中でも、特に優れた技術を持つダイバーはS級ダイバーと呼ばれ、極一握りしかいない。
 尚、ダイバーを本業としている者は少ない。普段は普通に学校や会社へ通っていたりと、本業を持つ者が多い。
 というのも、Devilは本来は夜行性であり、昼間に現れる事はあまりないからだ。

 ダイバーは老若男女、年齢や性別を問わずになれる資格を均しく有しているが、誰でもなれるかというと、その限りではない。
 Devilは低級であれば、一般人や警察でも頑張れば倒す事が可能だ。しかし、中級以降になると、一般人は疎か、警察や自衛隊でも歯が立たない。Devilに人間の通常の武器は効かないからだ。
 ダイバーには必ず、『守護天使(ガーディアン)』と呼ばれるパートナーが1人付く。このパートナーと巡り逢わなければ、パートナーが守護天使として覚醒しなければ、ダイバーになれないと言っても過言ではない。
 守護天使は一様にダイバーギルドから支給された、白い修道女の服を纏っている。しかし、必ずしも女性である必要はない。男性が守護天使となる事もあるからだ。
 守護天使は自らの魔力を具現化して、パートナーであるダイバーに合った武器を生成する。この武器を『共鳴兵器(シンフォニックファイア)』と呼び、あらゆるDevilを倒す事ができる唯一無二の武器であり、ダイバーがDevilを狩れる所以でもある。
 そして、ダイバーと守護天使のペアを『シンフォニッククロス』と呼んだ。


◆Background
◇ダイバーギルド
 ダイバーや守護天使にDevil掃討の依頼を出し、報酬を払う機関。
 ダイバーや守護天使をスカウト・発掘するほか、普通は手に入らない武器や防具も販売している。
 ギルドというように、本部を始め、武器や防具を扱っている店や治療機関などが集合し、組織を成している。
 運営しているのは『城之内コンツェルン』。

◇城之内コンツェルン
 「揺り篭から墓場まで」をモットーに、ベビー用品から軍事産業まで経営する企業。政治に対する発言権も強く、ダイバーギルドの特権を政府に認めさせる程。
 ダイバーや守護天使に販売される武器や防具の製造も手掛けている。
 その源は陰陽師に端を発していると言われており、古来からDevilの存在に気付き、退治してきた一族の末裔でもある。

◇種族
 ダイバーや守護天使になれる種族は以下の通り。
・人間:普通の人間。全てのクラスに順応する。
・強化人間:ドラッグや強化手術、肉体を人工パーツに置き換えた人間。ガンスリンガーやエスパーに高い適性を持つ反面、マジックユーザーには全くの不向き。
・半魔:Devilと人間のハーフ。Devilは気紛れに人間と交じり、子を残す事がある。彼らは半魔と呼ばれ、ヴァンピレスや獣人など、Devilの能力を半分有している。妖怪といった人間に味方する日本古来の良いDevilもここに含まれる。グラップラーやマジックユーザーに高い適性を持つが、エスパーには向かない。

◇クラス
 ダイバーは得意とする武器によって、以下のクラスにカテゴリー分けされる。尚、クラスの兼任は出来ないし、クラスチェンジも出来ないので、クラスを決める時には注意が必要。
・フェンサー:剣や槍といった手持ちの武器を使用する。
・グラップラー:パンチやキック、投げ技や極め技といった格闘技を使用する。
・ガンスリンガー:銃や弓矢といった射撃武器を使用する。投擲もここに含まれる。
・マジックユーザー:西洋魔法から陰陽師、魔女っ子魔法まで、古今東西の魔法を使用する。
・エスパー:超能力を使う。

◇共鳴兵器
 シンフォニックファイアと呼ばれる武器。ダイバーと守護天使の想いの共鳴から生成される為、この名前が付いた。
 ダイバーがフェンサーであれば接近専用の武器が、マジックユーザーであれば魔導書や魔女っ子ステッキが、エスパーであればエンハンサークリスタル(超能力増幅装置)が、クラスに応じて生成される。
 原則、ダイバーが望む得意武器となる。また、その強さはダイバーと守護天使の関係によって変わってくる。

◇パートナーとの関係
 ダイバーと守護天使はその関係によって、戦闘時に戦闘能力に変化が現れる。
・普通:可もなく不可もなく、普通の関係。攻撃― 防御―
・険悪:ケンカ中など。攻撃↓↓ 防御↓↓
・友情:友好関係。攻撃↑ 防御↑
・打算:お互いを利用し合っている。攻撃↑↑ 防御↓
・ライバル:お互い張り合っているが、実は仲が良い。攻撃↑ 防御↑
・恋愛:パートナー同士が恋人。攻撃↓ 防御↑↑


◆成長傾向
発声・芝居・演出

●今回の参加者

 fa1234 月葉・Fuenfte(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa3237 志羽・明流(23歳・♂・鷹)
 fa3846 Rickey(20歳・♂・犬)
 fa4360 日向翔悟(20歳・♂・狼)
 fa4713 グリモア(29歳・♂・豹)
 fa5412 姫川ミュウ(16歳・♀・猫)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文


●DIVER達のとある日常
「はぁぁぁぁぁ」
 月之抄・伊織(つきのせ・いおり)はこの世の終わりが来たような、深い深い溜息を付いた。頭頂にある3本のアホ毛と膝まで届くロングヘアーが、項垂れる彼女に合わせて揺れる。
「伊織ちゃん〜、何溜息付いてるの〜?」
「あ、菫‥‥」
「これが原因ね〜‥‥また随分と派手にやったわね〜」
 伊織に女の子が声を掛けた。今時珍しい、和装の美少女だ。セミロングストレートの緑の黒髪を湛え、紫の瞳で柔らかく微笑んでいる。
 伊織が顔を上げると同時に、月之抄・菫(つきのせ・すみれ)は彼女の手の中にあった紙束を拝借する。それは期末試験の答案用紙だった。悪い意味で見事な点数が並んでいる。
「ほ、ほら、ここのところ『Devil』退治が多かったじゃない!? それで‥‥」
「‥‥仕方ないなぁ、反物納めたら勉強見てあげるから、付き合って」
「流石は菫! 持つべき者は『守護天使(ガーディアン)』よね。了解了解〜、明日の追試の対策、練りたかったしね〜」
 菫は手に提げていた風呂敷包みを見せると、伊織はパッと笑顔になり、家へ帰って鞄を下ろすと、勉強道具を持って菫の後に続いた。


「雪は試験どうだった?」
「まぁまぁ‥‥雷は?」
「俺? ‥‥聞かないでくれ」
 どこかで聞いた事があるような会話をしながら歩く、2人の高校生。
 雪(ゆき)は細身で学ランから覗く肌も色白と、中性的な顔立ちをしている。学ランを来ていなければ女子と間違われてもおかしくないだろう。
 雷(ライ)はやや吊り目でツンツンヘア、外見からして分かるように熱血漢だ。比較的小柄だが肩幅が広くてガッチリとした筋肉質な体型をしている。
 一緒に下校しているが、2人の高校も丁度期末試験の結果が帰ってきたところだ。
「毎回の事なんだから、勉強すればいいのに‥‥」
「俺は『DIVER』が本業だからいいんだよ!」
 まぁまぁと謙遜する雪の期末試験の結果は学年で上位にランクイン。一方、雷は赤点ギリギリの低空飛行中だ。
「追試は本試験よりは簡単だろうから‥‥」
「雪‥‥それはフォローなのか?」
 雪は呆れたように、フォローするが、そのどこかずれたフォローに雷は夕日へ向かって涙する。「仕方ないなぁ」という甘やかしも含んで行き付けの場所へ誘う雪だった。


「なるほど、ありがとね〜」
 明星(ミンシン)はにこやかに手を振りながら、女子高生の一団から離れてゆく。撥ねた癖っ毛が軽快に揺れる。
 上海出身の明星は着慣れた中華服を纏っているが、その物珍しさと、甘く、どこか危険な香りが漂うルックスも手伝って、ナンパ成功率は高い。
 先程も女子高生の一団を掴まえて、この辺で一番美味しい行列の出来るクレープ屋のクレープを奢りながら、最近気になっている事をさり気なく聞いていた。
「今日びの女子高生のネットワークは、下手な情報屋より侮れないからな〜」
「その割には、先程の女子高生全員の携帯番号とメールアドレスをしっかり抑えているではないか」
 明星が携帯電話を弄っていると、後ろから黒いスーツ姿の男性が突っ込みを入れる。20代半ばで長身痩躯、金髪碧眼の欧州人の彼の名はジャック・ミッシェル。胸に城之内コンツェルンの正社員の証たるIDカードを付けている。
 今日の女子高生のネットワークは噂の宝庫だ。少しでも気になる事があると、噂がメールで飛び交うし、夜遅くまで(こっそり)遊んでいる者も少なくない。その分、噂の範囲を出ないものやガセネタも多く、正確性は情報屋には遠く及ばないが。
「彼女達の夜行性が『Devil』の増長に繋がっているのも確かだからな」
「まぁまぁ抑えて抑えて。それに俺に説教しても始まらないし。それより会社はいいのかい?」
 ストイックなジャックは、『Devil』の餌食になりやすい女子高生の素行に頭を痛めていた。享楽主義者で物事を深く考えない明星は「いつもの事」と彼を宥めつつ、話題の先を促す。
「先程、お前が集めていた情報だが、ギルドの正式な依頼として俺達に回ってきた。それを『琅摩』へ通達しに行く途中だ」
「正式な依頼‥‥って事は、俺達の活躍が増えるってもんだね♪」


 喫茶『琅摩』はオフィス街のビル群の中に経っている。
 昼食時はさぞ、会社員達で混む‥‥と思いきや、中はガラガラだったりする。
「こうも客が来ないんじゃ商売あがったりだな‥‥ああっ、だり〜‥‥」
「あたしはぁ、マスターの淹れたコーヒーを誰にも邪魔されずに飲めるからぁ、嬉しいけどねぇん♪」
「そういう事は売り上げに貢献している奴の言う台詞だ」
 マスターの大神隼人(おおがみ・はやと)は、銜え煙草のままコーヒーを淹れてカウンターへ出す。収まりの悪い長めの黒髪を後ろで一本に結わえ、浅黒い肌に黒い瞳をした、かなりのハンサムだ。しかし、怠そうな雰囲気がそれを台無しにしてしまっている。
 カウンターには、腰まである艶やかな黒髪と潤んだ大きな黒瞳、豊満な肢体を持つ妖艶な女性が、だらしなく俯している。キャミソールにショートカットパンツと、目の遣りどころに困るくらいの服装だ。
 彼女の名前は汐崎樹里(しおざき・じゅり)、本業不明の『琅摩』の数少ない常連客の1人だ。
「お客様が来られないのは〜、隼人ちゃんの接客態度が悪いからでしょ?」
「マスター、いつもの1つね♪」
「お、伊織達も今帰りか? マスター、俺と雪にもいつもの宜しく〜」
「‥‥」
「また売り上げに貢献しない客共が来た‥‥」
「あらぁ、みんなおはよぉん♪」
「樹里ちゃん、もう夕方です〜。隼人ちゃんも〜、煙草は健康に悪いからいい加減止めなさい〜」
 そこへ隼人の接客態度に注意しながら菫と伊織が入っている。
 間髪入れず、雷と雪もやってくるが、雪は樹里を避けるようにカウンターから一番遠い席へ。内向的で人見知りな雪は、個性派揃いの常連客の中でも、受理を一番苦手としていた。
 「いつものやつ」――クリームソーダ大ジョッキ――を煽りつつ、追試勉強を始める伊織。『琅摩』ブレンドとカフェ・ラテが来たところで、雷と雪も追試の勉強を始める。
 それから小一時間程経っただろうか。ジャックと明星がやってくると店内を見渡して言った。
「‥‥ギルドからの依頼だ」


●Mission:グールを掃討せよ!
 ジャックの言葉に、隼人の顔付きが精悍のそれへ変わる。雇われマスターから『DIVER』へ変わった瞬間だ。
 喫茶『琅摩』はダイバーギルドの連絡拠点を兼ねている。その為、樹里といった『DIVER』達が常連客だし、一般人の客があまり寄りつかない。
「念の為、人払いは終わったわ〜」
 一度店外へ出た菫が戻ってくる。彼女の正体は半魔の内、座敷童子であり、一般人を寄せ付けない人払いの特殊能力を有している。また、ダイバーギルドで販売されている防具に使用する生地に、恒久的な防護加護を付与したものを納めているのだ。
「最近、繁華街で腐臭騒ぎが起こってるのは知ってるよね? それ腐臭の原因はグールらしいんだ」
「グールは日本語で『屍食鬼』と書くように、死体を食べるアンデッドだ。どうやら『Devil』の残飯がグールやグーラーとなり、夜な夜な餌を求めて徘徊しているらしい」
「もぉ、グールが一杯だなんて想像しただけでヤんなっちゃうぅん‥‥」
「とっととやっつけちまおうぜ!」
 明星が女子高生から仕入れた情報を元に、腐臭騒ぎの原因がグールである事を突き止めていた。ジャックがグールの説明をすると、樹里は露骨に嫌な顔をし、雷は今まで頭脳労働をしていた溜まったストレスを発散するかのように、早く戦いたくて仕方がないといった表情でうずうずしている。
「グールの他にグーラーもいるって事は」
「男女無差別って事だよね。もしかしたら、最初の被害者は樹里さんのような女の人だったのかも知れないね」
 隼人が掃討対象を確認すると、伊織がにわかに表情を曇らせ、憐れむような瞳で樹里を見た。女性のグールを『グーラー』と呼ぶが、グーラーはグールと違って美しい外見を保っており、その性的魅力で男性を魅了し、殺してから食べるといわれる。
 グールに食べられた者もグールとなる。『Devil』が女性を餌食にした後、その女性がグーラーとなってしまい、次々とグール達を増やしている、といった負の悪循環が夜の繁華街の影に蔓延っているようだ。


 数時間後、隼人達は繁華街の裏路地にいた。菫の能力でこの辺り一帯の人払いは済んでいる。
 彼女が隼人と雷、ジャックと伊織の防具に触れると、それぞれの全身が一瞬光り、目に見えない薄い力場が覆った。
「グールの爪には毒が含まれている事が多いから注意して〜。一応、解毒は出来るけど‥‥特にジャックちゃんはリーチ無いから〜」
 座敷童子の他人に幸運を与える力だ。ジャックはグラップラーなので、どうしても接近せざるを得ない。
「この服、センス無いから、本当は着たくないんだよねぇ」
「でもぉ、『守護天使』を護ってくれる服だからぁ。自分の身は自分で護らないとねぇ」
 明星はウィンプルは被らず、纏った白い修道士の服を見下ろして溜息を付く。樹里は修道女の服も身体にフィットし、ボディラインを強調しつつ、マイクロミニの丈という過激なものに改造している。
 樹里が言うように、『守護天使』は『共鳴兵器(シンフォニックファイア)』を具現化している間、その形成に集中しなければならない。集中が途切れると『共鳴兵器』はその形状を維持できなくなり、最悪、戦闘中に消失してしまう事もある。
 そうならない為、『守護天使』に与えられている修道士の服には彼らを護る加護が付与されている。
「‥‥雷」
「ああ‥‥雪! 頼んだぜ!」
 雪が眉間にしわを寄せ、不安と不快の篭った声で『Devil』の気配をいち早く察知した事を訴える。彼はダイバーギルドの保護下で育った精神感応能力者で、その豊か過ぎる感受性はA級ダイバーにも匹敵する。しかし、自分ではコントロールできない為、変な電波を受信しないように人と距離を置く癖があった。
「エンハンサークリスタル‥‥展開」
「それじゃ、行こうか‥‥ゼルストルング発動!!」
「万敵砕く破邪の魔槍‥‥来たりて我らが力となれ!」
「天壌無窮に咲誇れ! 紅蓮煌華!」
 雷が表情を引き締めると、雪が静かに、透き通った声で『共鳴兵器』の具現化を宣言する。
 それを皮切りに、明星が、樹里が、菫が次々に『共鳴兵器』を具現化してゆく。
 生きた人間の匂いを嗅ぎ付けたのか、20体近いグールやグーラーが裏路地一杯にひしめきながら現れた。
「こんなのが裏路地に巣くっていると思うとゾッとするね。やっぱ、俺にはお日さんよりお月さんだな‥‥さて、いっちょ『Devil』退治といこうか!」
 『破邪の魔鎗』を構えた隼人は不敵な笑みを浮かべると、伊織達に先んじてグールへと斬り込んでいく。彼は半魔の内、人狼、月の光を浴びて嬉しそうに『破邪の魔鎗』を振るう。
「早く帰らないと、明日の追試に影響が〜〜! という訳で最初っから最高潮で行くよ! 『奥義! 燕返し!』」
 伊織は、真紅の蓮の如き光が、輝き煌き咲誇る2尺3寸の太刀『紅蓮煌華』を振るう。幼少の頃より祖父に武術を仕込まれており、その身のこなしは一級品だ。
 雷の背には、宙に浮いた大小複数のシンプルな水晶――エンハンサークリスタル――が、羽根が生えたかのように展開している。彼がさっと手を翳すと、掌から超音波が波紋となってグールに放たれ、一体を粉砕する。
「楽勝!」
「我が拳に宿り全てを粉砕せよ‥‥『ゼロストルング』!」
 油断大敵。1体倒したと思ったら、その後ろにもう1体控えていた。グーラーの鋭い爪が雷の身体を引き裂く寸前で、それは白銀のガントレットによって受け止められた。ジャックの共鳴兵器『ゼロストルング』だ。彼は爪ごと腕を粉砕すると、『ゼロストルング』を頭部へ叩き込んだ。
 グールはアンデッドのゾンビの中でも強い部類に入るが、『Devil』としてみれば、E級ダイバーでも『共鳴兵器』を使用すれば、余程の事がなければ後れを取らない相手だ。
 数が数だけに時間は掛かったものの、ジャック達はグールの掃討に成功した。
 ジャックが依頼を終えた事をインカムを通じてダイバーギルドへ報告する。しばらくすればダイバーギルドのメンバーが現れ、後始末をしてくれる。
「お疲れさま」
「やっぱ俺と雪の『シンフォニッククロス』は最高だぜ!」
 安堵の溜息を付く雪に、雷がにぱっと満面の笑みを浮かべて応える。
「やったね!」
「おまえはもう少しこの国のブシドーに学ぶべきた‥‥」
 こちらは嬉しそうにジャックに抱き付こうとする明星。しかし、避けられてしまう。
「もう帰って良いよね!? 今夜は一夜漬け確定だよ〜」
「‥‥にしてもぉ‥‥どぉしてこんな沢山のグールが湧いちゃったのかしらねぇん?」
「『Devil』の中でも悪魔の食い残しだとしたら、元を断つ必要があるな。この周辺をもう少し調べた方がいいかもしれない」
 ギルドのメンバーが来るまで出来る限り後始末をしている菫に、伊織が帰ろうと促す。
 その横では、グールの発生原因が依然謎のままである事を危惧する樹里と、彼女の話を聞いて仕事後の一服をしながら調査の必要性を感じる隼人だった。


●声の出演
 月之抄・伊織:姫川ミュウ(fa5412)
 月之抄菫:美森翡翠(fa1521)

 雷:Rickey(fa3846)
 雪:虹(fa5556)

 ジャック・ミッシェル:グリモア(fa4713)
 明星:志羽・明流(fa3237)

 大神隼人:日向翔悟(fa4360)
 汐崎樹里:月葉・Fuenfte(fa1234)