日本群雄奇譚アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
菊池五郎
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/01〜03/07
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●本文
――閃光!
――爆発!!
「‥‥小次郎、煙玉を使うとはなかなかにやるでござる。だが、煙の中から打ち込んでこようとも‥‥む?」
立ちこめる煙の中から現れたのは、木の櫂を木刀よろしく持った1人の偉丈夫。
「‥‥沖田!? 沖田総司か!? その格好は‥‥」
「‥‥斎藤さん!? 斎藤さんこそ、池田屋にいる最中なのに、何で洋服に着替えているのですか!?」
次いで現れたのは、古めかしい警察の制服を着た男性と、袖口を山形の模様に白く染め抜いた浅葱色の羽織りを纏った青年。
「‥‥ここは? 静は八幡の舞殿にいたはずなのに‥‥?」
最後に現れたのは、黄色い立烏帽子をちょこんと被り、肌も露わな白い直垂姿に扇を持った女性だった。
「うむ、試作品ながら、儂の『史歴追憶召喚機』は完璧だな!!」
「岸田博士、凄いです! 本当に呼び寄せてしまうなんて!!」
辺りを見回す彼らの姿を見て、ボサボサ頭にサングラス、無精髭を生やした白衣の初老の男性はニヤリと笑いながら頷き、隣にいるバニーガール姿の女性が嬉しそうに彼に抱きついた。
「御仁、ここは舟島ではないようだが、佐々木小次郎が何処へ行かれたかご存じでござるか!?」
「おお、すまない。説明がまだだったな。儂は岸田脩、この装置、史歴追憶召喚機で君達を未来へ召喚した」
「助手のバニーです」
偉丈夫が詰め寄ると、初老の男性はあくまでマイペースに自己紹介をした。隣のバニーガールも続いて自己紹介する。
「未来、でござるか‥‥? 拙者は作州牢人、円明流宮本武蔵でござる」
「宮本武蔵だと!?」
未来という言葉に首を傾げた後、偉丈夫が名乗った。するとその名前に警察の男性は驚きの声を挙げる。
「ほぉ、拙者の事を知っているでこざるか?」
「あなたの名前を知らない武士はいませんよ。二刀流の宮本武蔵さん。まさか、このような形でお会いできるとは」
浅葱色の羽織りを纏った青年が言葉を引き継ぐ。その声音には嬉しさが含まれていた。
「そういうお主達は?」
「新選組一番隊組長、天然理心流の沖田総司です」
「斎藤一だ。元新選組三番隊組長だが、今は警視局の警部補だ」
武蔵の質問に、浅葱色の羽織りを纏った青年と警察の男性が応える。
「あなたは、静御前でいいのですよね?」
「‥‥はい、静、です」
バニーの質問に白拍子の少女がおずおずと応えた。
岸田博士が開発した『史歴追憶召喚機』とは、歴史という時間が記憶しているその瞬間の偉人(の記憶)をコピーして現代に召喚し、一時的に具現化するという装置だ。
タイムマシンと違い、本人を直接連れてくる訳ではないので、タイムパラドックスなどは一切起こらず、また歴史の記憶を追跡してコピーするだけなので、歴史に干渉する事も一切ない。
しかし、歴史の記憶の召喚と具現化は日本の歴史のみに限られ、しかも強い存在感を持った存在(=偉人)しか指定できず、また具現化も数時間しか保たないのだ。
史歴追憶召喚機の仕組みは分からなかったが、一や総司、武蔵はここが未来である事は何となく分かったようだ。
「拙者は晩年、『五輪書』を記すのか‥‥自分の行く末を知ってしまうというのも、面白い反面、味気ないでござるな」
「しかし、斎藤さんが明治政府に与するとは思いませんでした」
「‥‥言いたい事は分かるが、生き残った者として、新選組の本当の歴史を伝えていく苦肉の策さ」
三人はバニーが煎れた玉露を飲みながら、お互いの身の上を語っていた。
しかし、静御前は千年も前の人間故か、装置について全く理解できず、「岸田博士は神様なのね」と自己完結していた。
「‥‥そう、ですか‥‥義経様は‥‥」
彼女はバニーから義経の最期を聞き、涙していた。
そうこうしている内に、武蔵、総司、一は試合う方に話が進んでいった。
総司は三段突きの必殺技を持つ天然理心流の天才剣士だ。また、一も、総司や永倉新八と並んで、新選組最強の剣士の一人である。
過去の名だたる剣豪と試合える機会など、先ずない。
それは武蔵も同様だった。
「宮本武蔵対新選組! これは面白い!!」
時代劇が大好きで、偉人に会いたい為だけに史歴追憶召喚機を開発した岸田博士は、一も二もなく賛同した。
研究所は郊外にあり、外には高原が広がっている。戦いの場にはもってこいだろう。
ちなみに、静御前は得意とする舞いに用いる扇を鉄製に変えた鉄扇の使い手だった。
かくしてここに、時代を超えた夢の対決が始まろうとしていた。
■主要登場人物紹介■
・岸田脩(きしだおさむ):呼び名は岸田博士。初老の男性で、趣味の時代劇鑑賞が高じて実際に偉人を見て話したくなり、史歴追憶召喚機を開発したマッドサイエンティスト。
・バニー:呼び名はバニー。本名は不明。岸田博士の助手で年齢は20代。趣味でバニースーツを着ているが、頭がよく機転が利く聡明な女性。
・宮本武蔵:巌流島の決闘時に召喚されたので29歳。必殺技は二刀流。
・斎藤一:元新選組三番隊組長、今は警視局の警部補。33歳。
・沖田総司:天然理心流の天才剣士。池田屋騒動時に召喚されたので、22歳。必殺技は三段突き。
・静御前:鎌倉時代の日本一の白拍子にして、源義経の愛妾。21歳。
■技術傾向■
格闘・踊り・芝居
●リプレイ本文
●偉人、揃い踏み!
「武蔵坊弁慶とな!?」
「弁慶もこちらに来られていたのですね」
武蔵坊弁慶の姿を認めた二人の女性は、対照的な返答をした。
一人は巴御前。中原兼遠の娘にして、彼が育てた木曽義仲こと源義仲の愛妾であり、薙刀を片手に義仲と共に女伊達らに戦場を駆け回った姫将軍として知られている。
もう一人は静御前。白拍子の祖とされる母を持ち、彼女自身も鎌倉時代の日本一の白拍子として知られているが、源義経の愛妾としても有名だろう。
「ここがどこの時代であろうと、それがしは千本の太刀を集める悲願を達成するのみ! 女子供、武器を持っていない者に用はない。千本目の太刀は、そこもとの腰に差している太刀を貰い受けるぞ!!」
「武蔵坊弁慶か‥‥相手にとって不足はない!」
しかし、当の弁慶本人は、京都の清水寺へ向かう堀川小路で999本の太刀を集め、次の太刀で千本目の時に召喚されたようだ。これから牛若丸(=義経)と出会うので、当然、静御前や巴御前とも面識はない。
彼が指さしたのは宮本武蔵である。弁慶は『弁慶の立往生』や『弁慶の泣き所』、『弁慶の七つ道具』といった、彼にちなんだ数々の言葉を後世に残した豪傑である。その名を知る武蔵がこの勝負を受けないはずがない。
「吾輩の発明品を武器として見ないとは、見る目がないな。このエレキテル三味線は‥‥」
「まぁまぁ、漢同士の勝負に水を差しちゃいけないわよ」
弁慶に一瞥された着物姿の男性は、手に持つ三味線がどれだけ凄いか説明しようとするが、陰陽師の服装をした者に制される。
着物姿の男性はエレキテル(=静電気発生装置)を発明した平賀源内である。外見こそ二十代半ばだが、実年齢は長崎の出島で手に入れたエレキテルの復元に成功した四十九歳と、相当の若作りだ。また、土用の丑の日に鰻を食べる風習を考案したり、竹トンボを発明したりと、幅広い分野で活躍した日本人の数少ない天才発明家である。
源内を制した者は、その口調から女性かと思われたが、よく見ると中性的な顔立ちをしているものの男性のようだ。彼こそ平安時代の希代の陰陽師、安倍晴明である。
「エレキテル三味線、私は見てみたいです」
そこへ白衣に緋袴――巫女装束――を着た女性が彼の持つエレキテル三味線に興味津々といった様子で声を掛けると、他人に発明品を見せびらかすのが趣味の源内は、早速、嬉々としてエレキテル三味線やらエレキテル木刀といった、今持ってきている発明品の解説を始めた。
「卑弥呼さん、余計な事言うから‥‥」
赤いバニースーツに黒い網タイツ、頭には白いウサギ耳のカチューシャを付け、首に赤い蝶ネクタイ、両手首に白いカフスを巻き、バニースーツ用に調整された燕尾ジャケットを羽織り、審判用のバニースーツに着替えたバニーがその様子を見て溜息をついた。
源内も真逆、熱心に発明品の説明を聞いている巫女装束姿の女性が、邪馬台国を建国した女王卑弥呼だとは思いもしなかっただろう。
●宮本武蔵vs武蔵坊弁慶
武蔵と弁慶がバニーに案内されたのは、研究所の外にある草原を流れる川に架かる橋だった。
「岸田博士の歴史好きが高じて、この橋は五条大橋を模して作ったのです」
「ほぉ、五条大橋の決戦とは気が利いているな」
「五条大橋? ‥‥まぁ、よい。ぬしが太刀、戴くぞ!!」
バニーの説明に、左足を前に出した上段の構えで弁慶と対峙する武蔵。一方、弁慶は首を傾げつつ、弁慶の七つ道具の一つ、鉄の錫杖を取り出して力強く打ち立てた。五条大橋の決戦は後世に作られた伝説であり、当時は五条大橋自体が無く、弁慶と牛若丸は清水観音の境内や、清水寺へ向かう堀川小路で戦ったとされている。
「いざ尋常に‥‥勝負です!!」
バニーの試合開始の合図と同時に、武蔵、弁慶双方、間合いを詰めた。
弁慶が鉄の錫杖を力任せに打ち込むと、武蔵はそれを見切って上半身を反らしてかわし、弁慶の持つ鉄の錫杖狙いで木刀を振り下ろす。その動きはまさに、武蔵が後に記す『五輪書』の剣技に関する項目が纏められた『水の巻』に書かれている、相手より先に動き、相手の武器を攻撃するそれである。
鉄の錫杖へ攻撃が決まり、地面へめり込ませると、武蔵はそのまま相手の面打ちを打ち落とし、武蔵が面を打つ、面打ち落とし面を打ちに行くが、これらは繋ぎに過ぎず、頭部を殴打すると返す刃で胴を打って止めの一撃とした。
「後の世の剣豪がその程度とは片腹痛いわ!!」
「ちぃ‥‥流石は弁慶、俺の攻撃が効いていないというのか」
武蔵の手に残る感覚。木刀は確かに弁慶の身体を的確に捉えていたが、彼は堪えた様子はなく、逆に反撃してきた。
鉄の錫杖が唸る風切り音は、弁慶の攻撃の凄まじさを物語っており、それを受ければ武蔵とてただではすまない。
だが、武蔵にも手がない訳ではなかった。
「その太刀、貰い受ける!!」
「お主の弱点はここだ!!」
鉄の錫杖を旋回させて距離を詰める弁慶。武蔵はその軌道を見切って鉄の錫杖の内側――即ち、弁慶の懐に潜り込むと、脛――弁慶の泣き所――を木刀で薙いだ。これには流石の弁慶も声が出ない。
「それまでです! 勝者、宮本武蔵!!」
「うわ、痛そう‥‥」と弁慶の泣き所にクリーンヒットした様子を痛々しげに顔をしかめながら、バニーが武蔵の勝ちを高らかに告げた。
●安倍晴明vs平賀源内
「おお! 名高い陰陽師の安倍晴明殿がお相手とは。面白そうだ、この対決。発明品の数々、披露して進ぜようぞ!」
「あら、六百年後の都でも私の評判が広まっているなんて、嬉しいわぁ。でも、手加減はしないわよ?」
源内から江戸時代の自分の評判を聞いた晴明は、扇子で口元を隠しながらころころと笑った。晴明は、鎌倉時代から明治時代初めまで内裏の機関の一つで占いや天文、暦の編纂を担当した陰陽寮を統括した安倍氏の祖である。
「この丘に上から草原を見下ろす風景は、平安京のあった京都盆地のように見えるそうで、岸田博士のお気に入りです」
「確かに言われてみれば見えなくはないわ」
二人が雑談しながらバニーに先導されてやってきたのは小高い丘の上だった。何となく見慣れた風景に、晴明も軽く頷いた。
「では、手合わせ願う‥‥吾輩の歌を聞け!!」
「妖狐、行きなさい!」
バニーの試合開始の合図と同時に、源内はエレキテル三味線を弾き始めた。対する晴明は取り出した札に息を拭き掛けると、それは狐の姿を取り、源内へと躍り掛かった。
エレキテル三味線は弦を弾く事により静電気を発生させる、現代でいうエレキギターだ。自分に近い範囲にいないと効果はないものの、この音色を聞いた妖狐は痺れ、札へと戻ってしまう。
「あら、やるじゃない。でも、これはほんの小手調べ。本番はこれからよ。前鬼!」
「晴明殿もだが、召喚された式神とやらにも注意をせねば‥‥」
晴明が札を金棒を持った鬼へ変えると、源内はエレキレル木刀へ持ち変えた。素振りをする際に発生する静電気を刀身に纏わせたそれは、現代でいうビームサーベルみたいなものだ。この刀身に纏わせた静電気は飛ばす事も可能で、前鬼が接近する前に源内は静電気を飛ばして晴明を直接攻撃した。彼は結界魔法を展開して静電気を防ぎ、続けて前鬼が優位に戦いを進められるよう源内の足下の土を動かして足場を悪くした。
「‥‥なかなかやるわね。私だって負けないわよ‥‥出るのよ、水龍!」
晴明の操る式神の中でも、最大級の水龍がその姿を取ると、源内を中心に辺り一帯に雨を降らせた。エレキレル木刀から静電気が消えてゆく。エレキテルの弱点は水に弱い事だった。
「それまでです! 勝者、安倍晴明!!」
「む、無念。流石は晴明殿‥‥我輩の完敗だ‥‥」
「あなた、強いわね。良い試合だったわ」
バニーが晴明の勝利を高らかと告げると、源内はその場にへたり込んでしまう。晴明の戦い方は式神を作って代わりに戦わせ、自らは動かずに魔法を発動させるもの。源内では分が悪いといえたが、善戦したといえよう。
晴明が手を差し出すと、源内はその手を握り返したのだった。
●バニーvs卑弥呼?
「この静電気発生装置に防水加工を施せば、源内は勝てたかも知れませんね」
「卑弥呼さん‥‥?」
雨に濡れて動かなくなったエレキテルをあちこち触る卑弥呼の呟きに、バニーは違和感を覚えた。卑弥呼は三世紀の人間である。エレキテルの仕組みを理解できるとは到底思えないからだ。
「晴明が式神で雨を降らせたのでしたら、私は舞いで雨を降らせてみせましょう」
卑弥呼は取り繕うかのように、白衣の懐から縁に装飾が施された銅鏡のようなものを取り出して空が映るよう立て掛け、続いて銅製の鈴のようなものを取り出し、軽やかに舞い始めた。
――しゃんしゃんしゃらん♪ しゃんしゃらん♪
軽快な音が響き渡ると、空に見る見るうちに暗雲が立ちこめ、雨が降り始めたではないか!
卑弥呼は日本古来の巫女である。その踊りは神楽舞の元となっていてもおかしくないはずだが‥‥。
芸能が本職の静御前が首を傾げる。確かに雨は降ったが、卑弥呼の踊った神楽舞は彼女の知る神楽舞とは似ても似つかない、そう、適当にそれらしく踊っているだけのように思えた。
(「やはり、静御前には見抜かれてしまいましたか‥‥」)
内心、ぺろっと舌を出す卑弥呼。弥生時代に邪馬台国を建設した偉大な女王は、今よりも更にかなり先の時代から過去へ飛ばされた天才女性科学者だったのだ。雨を降らせる能力は、彼女が作成した道具で行われていたものだった。また予言は、歴史を予め知っていれば可能だろう。
現代人のバニーだからこそ勘付いたが、もちろん、卑弥呼はその事を明かそうとは露にも思わず、邪馬台国建国の謎は謎のままであった。
●静御前vs巴御前
今まで戦いや雨乞いを見守っていた巴御前はすっくと立ち上がり、薙刀の切っ先を静御前の眼前へ突きつけた。
「義経氏の首を狩る前の手慰みか‥‥良かろう。これも何かの縁じゃ。静と申したな。共に想う御方の為に戦う者同士、いざ勝負せい!」
「‥‥分かりました。静も義経様の為に戦いましょう」
巴御前は義仲が戦死する宇治川の戦いの開始直後に召喚されたようだ。義仲は義経と敵対し、結果的に敗走する事になるが、その事実はまだ知らないしバニーから知らされていない。それ故、やる気満々に、縁故より静御前を指名したのだ。
方や静御前は、現代に来て全てを知った事で義経の身を案じつつも彼と別れる道を選び、彼女の申し入れを受けた‥‥たとえ、今の記憶が元の時代へ持ち帰る事が出来ないとしても、どんなに時を隔てて離れていても、義経を想う気持ちは髪の毛一本程の揺るぎもない。
紫に染めた立烏帽子を被り、同じく紫を基調とした鎧を纏い、氷のような鋭く冷たく、そして凛とした美貌を湛える巴御前。
黄金色の立烏帽子を被り、白い直垂の水干に緋袴、その上から天女の羽衣のような長い薄布を纏い、楚々として且つどこか艶っぽい雰囲気を纏う静御前。
「ふん。妾を女子と思って見縊るでないわ。中原兼遠の娘、巴の名をその身に刻むが良い!!」
バニーが試合開始を告げると、巴御前は構えた薙刀で円を機軸に舞うように攻撃を仕掛けた。静御前はそれを右手に構えた鉄扇で軽やかに受け流し、こちらも円を描いて舞うように軽やかな攻撃を繰り出す。
薙刀と鉄扇とがぶつかれば、ぶつかった点を軸に新たに円が描かれ、2つの舞いが絶え間なく踏み続けられる。
得物の差もあるだろうが、巴御前の描く円は大きく、静御前の描く円は小さい。静御前の踊る円が徐々にではあるが、巴御前の描く円を攪乱させ、歪ませ始めていた。
「くっ、妾を愚弄するか‥‥ちょこまかと逃げ回りおって! その動き、ただの白拍子ではないな!?」
「これでも義経様のお背中を護れるつもりでいます」
鎧を纏って薙刀を振るう重装備の巴御前はどうしてもスタミナに欠けるので、息が上がり始めていた。しかし、静御前が圧し始めている理由はそれだけではない。
「ふん。白拍子風情にこの技を使うとはな。正眼切り落とし!!」
不意に巴御前の舞いが止まると、円を描く勢いはそのままに、大上段から振り下ろされる、一撃必殺の縦一閃が放たれた。これには流石の静御前も不意を衝かれたかに見えたが――。
気が付くと、巴御前の鎧は斬り裂かれ、首に糸のようなものが巻き付き、紅い筋を作っていた。
それは静御前の左手から伸びた鋼糸だった。彼女は義経を護る源家の乱破(=女忍者)の1人で、暗器の類の使い手なのだ。
「くっ‥‥真逆妾が慢心しておったとでも言うのか‥‥認めん、認めんぞ!!」
「巴御前、あなたの義仲を想う心を感じました。敵同士でなければ、静達は良い茶飲み友達になれたかも知れませんね」
静御前の言葉に、負けを認めようとしなかった巴御前は一瞬虚を衝かれ、そして高らかに笑ったのだった。
巴御前の、静御前の、武蔵坊弁慶の、宮本武蔵の、平賀源内の、安倍晴明の、卑弥呼の身体が光に包まれ、粒子となって天へ昇っていった。史歴追憶召喚機の具現化の限界が来たのだ。
「行ってしまいましたね‥‥」
「うむ。だが、史実には残らない名勝負を心に刻んだわい。次はどんな偉人を召喚しようかのぉ」
光の粒子達を見送るバニーと岸田博士だった。
●出演
巴御前:竜堂刹那(fa2991)
静御前:紅雪(fa0607)
武蔵坊弁慶:常盤 躑躅(fa2529)
宮本武蔵:伊達正和(fa0463)
平賀源内:志羽・武流(fa0669)
安倍晴明:三条院真尋(fa1081)
卑弥呼:風間雫(fa2721)
バニー:草壁 蛍(fa3072)