Goddess Layer 9th’アジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 菊池五郎 |
| 芸能 | 2Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 普通 |
| 報酬 | 2.4万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 06/15〜06/19 |
●本文
※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるＰＣの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※
１９９０年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
１９８０年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、９団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。
その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
“東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に２４回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。
だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、東女のニューフェイス、現ジュニア級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍（＝革命軍）」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈（ライナ）が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、東女の主な軍勢だ。
始まりがあれば終わりがある。
女子プロレスもそう。デビューがあれば引退もある。現役でいられる時間はさほど長くはない。
長く続けていく事は可能かも知れないが、「最盛期」と呼ばれる時期があり、それを過ぎれば肉体は衰え始める。そうなれば後輩に抜かれるかも知れない。
また、格闘技である以上、怪我は付き物。怪我に泣く者もいるだろう。
始まりがあれば終わりがある。
だからこそ、レスラー達は一試合一試合を懸命に戦い、その姿にファン達は魅了されるのだ。
「引退―――――！？ いつや、いつ引退するんや！？」
「次の試合を最後に、ですわ」
『西日本女子プロレス』のジムに、ライトニングバニーの悲鳴にも似た素っ頓狂な声が響き渡る。
西女は東女同様、真女の流れを受け継いだ、西日本で最大勢力を誇る女子プロレス団体だ。真女が分裂した際、西日本の主要レスラー達が集まった為、団体の規模・レスラーの実力共に東女に引けを取らない。
そして、ライトニングバニーとロッキー龍子は“難波の龍虎”と称される、西女の現エースだ。
特にライトニングバニーは、東女のヘビー級所持者ダイナマイト・シュガーを敗っており、女子プロレスの専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の読者の間でも評判が高い。
そのパートナーであるロッキー龍子が、先程、ライトニングバニーに引退する事を告げたのだ。突然の事にライトニングバニーが驚くのも無理はない。
「母が‥‥いい加減帰ってきなさい、と」
ロッキー龍子は視線を落としてごちる。彼女は兵庫県は芦屋の生まれで、家は江戸時代から続く呉服問屋という。生粋のお嬢様だが、何の因果か、健康の為に女子プロレスを始めようと真女に入門した経歴を持っている。
親から呉服問屋を継ぐ為に修行しに帰ってこいといわれたそうだ。
「それで‥‥龍子は頷いたんか！？ ウチら、まだ倒すべき相手がぎょうさんおるんやで！？」
ライトニングバニーはメキシコ生まれのメキシコ人だ。真女に勧誘されて入団した直後に分裂してしまい、何かと馬の合うロッキー龍子と共に西女に所属した。初めて覚えた日本語が関西弁だったので関西弁を喋っているが、どこか怪しかったりもする。
おおよそ信じられない理由に、ライトニングバニーは龍子に詰め寄るが‥‥彼女は目に大粒の涙を溜めていた。俯いているのはパートナーに涙を見られたくなかったからだ。
「わたくしだって‥‥わたくしだって、もっとプロレスを続けたい‥‥アイギス佐久間や独眼竜正宗を倒したい‥‥でも、プロレスと同じだけ家も大切なのです‥‥分かって下さい‥‥」
嗚咽を堪えるかのように声をかみ殺すロッキー龍子。彼女はまだ２０歳、現役の中でも最盛期と呼ばれる一番乗っている時期だ。その半ばで、やり残した事も多い中、引退するのは彼女としても本意ではない。しかし、『家』に縛られている以上、両立させる事が無理であれば、好きでも止めざるを得ないのだ。
ライトニングバニーはその辺りはよく分からなかったが、少なくともロッキー龍子がプロレスを嫌いになった訳ではなく、好きでも辞めなければならない事情ができたという事は理解した。
「‥‥龍子の気持ちはよーく分かった。ウチが最高の引退試合をプレゼントしたるわ！」
「バニー‥‥ありがとう」
「礼はまだ早いで。試合が終わってから言ってや」
『そういう事なら私も協力するわ。ダイナマイト・シュガーは防衛戦が決まっているから無理だけど、出来る限り私やベルト保持者が行けるようにするわ』
「助かるわ。この借りは後で返すさかい」
『いえ、あなたに貸しておくと、いつ返してもらえるか分からないもの。試合後、たこ焼きで手を打つわ』
「ひっどい言われ様やなぁ。よっしゃ、ウチの行き付けの店、連れてってやるで」
『期待しているわ』
翌日からライトニングバニーは他の団体に電話を掛けまくり、選手を借りまくった。
アイギス佐久間も快く応じた１人だった。
※※主要登場人物紹介※※
・ロッキー龍子（伊集院龍子）：２０歳
西女の双頭のエース、“難波の龍虎”の１人。生まれも育ちも生粋のお嬢様で、規律や練習について潔癖気味。パワー技を得意とするオールラウンドレスラーだが、極め技はやや苦手。
修得技：ブレーンバスター／投、スリーパーフォールド／極、スクラップバスター／力、ニーリフト／打、フェイスクラッシャー／飛
得意技：ドラゴンバスター（パイルドライバー）／力
・ライトニングバニー：２１歳
西女の双頭のエース、“難波の龍虎”の１人。メキシコ生まれのメキシコ人で、ちょっと怪しい関西弁を喋る。フットワークを活かした打撃技と、スピード感溢れる空中殺法を得意としている。
修得技：アームホイップ／投、片逆エビ固め／極、ショルダータックル／力、シャイニングウィザード／打、ミサイルキック／飛
得意技：ムーンサルトプレス／飛
※※オリジナルレスラー設定時の注意※※
若手は15〜18歳まで。それを越えるとベテランになります。
使用できる技は、投げ技・関節技・パワー技・打撃技・蹴り技の各カテゴリーの中から通常技を５つまで、得意技を１つまで選択できます。得意なカテゴリーの技を２つ選び、代わりに苦手なカテゴリーの技を選ばない、といった事も可能です。
個人設定は無敗でもＯＫですが、こちらが用意したキャラや各団体の設定に抵触するような内容は避けて下さい。
※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居
●リプレイ本文
ロッキー龍子の引退試合の舞台に選ばれたのは、大阪は天王寺プラザ。
“難波の龍虎”と称される西日本女子プロレスの双頭のエースの１人の引退に、西女ファンのみならず、そのあまりにも早すぎる引退を惜しむ多くのプロレスファンが全国各地から詰め掛け、８０００席ある客席は早々に満員札止めとなった。
オーロラビジョンには今日の試合の対戦表が映し出されている。西女は元より、東日本女子プロレスからも選手が何人か参戦する。特にセミファイナルでは東女のジュニア級タイトルマッチが行われる。
また、変わったところでは、コアなファンを持つ関西のルチャ系インディーズ団体『エンタプロレス』が選手を参戦させていた。
●シングルマッチ〜３０分１本勝負〜
“飛翔乙女”のキャッチフレーズで知られるエンタプロレスのアイドルレスラー鳳 愛奈（大道寺イザベラ（fa0330））と、東女より正規軍所属の藤堂 勇希（水無月鈴（fa3502））が、リング上で対峙する。
愛奈はセーラー服を模したピンクのエナメル水着に身を包み、勇希は柔道着の上着とスパッツというリングコスチュームだ。
エンタプロレスはショーアップした演出が売りだが、意外に試合内容は濃く、コアなファンを獲得している。しかし、悲しきインディーズの性か、極度の財政難で、彼女は団体の代表の妹として、厳しい台所事情を支える為にタレントとしても活動しており、オジサマ層に人気がある。
一方、勇希は柔道をベースに、組み・投げ・極めを重視した正統派の格闘技に近い戦い方をする。
「手合わせよろしくお願いします」
「熱い試合しましょ！ 宜しく！」
試合開始と同時に、一礼する勇希と愛奈。
先に仕掛けたのは愛奈。いきなり後ろ回し蹴りを繰り出す。勇希はそれを逆手でガードし、利き手で掌底を放つ。だが、愛奈は掌底の被弾に怯む事なく、入りが浅かろうと後ろ回し蹴りの応酬を続ける。
勇希が横の回転に慣れたと思ったら、今度はサマーソルトキックも織り交ぜてくる。
（「これがルチャ系の足裁きですか」）
勇希はルチャ系レスラーとの対戦経験が無く、縦横無尽な蹴りの応酬にペースが掴めず、後手に回っていた。
しかし、本来ならこれだけの蹴りの応酬で沈んでもいい頃合だが、勇希は思いの外打たれ強く、愛奈は早くもスタミナ切れを起こし始める。
「何！？」
勇希も愛奈のペースに慣れ始め、彼女の動きを読むと蹴りをかいくぐり、反撃の狼煙としていきなり一本背負いを決める。一瞬の隙を逃さない勇希の反攻に、愛奈は受け身を取り損ね、一瞬、意識を失う。
倒したところへ逆十時腕ひしぎを極めるが、これは場所が悪く、愛奈は即座にロープブレイク。
立ち上がったところへ、勇希は低空タックルを放って再び倒し、今度はチョークスリーパー。愛奈は強引に振り解くと、お返しとばかりに変形三角締めを掛けようとするが、既にスタミナが尽き掛けており不発、逆に勇希にブレーンバスターで返されてしまう。
「畜生‥‥鳳凰乱舞（マグザム）！！ いくでー！！」
愛奈は拳を握り、場内にアピールすると、起死回生の必殺鳳凰乱舞を繰り出した。
鳳凰乱舞は、相手の顎を肩にホールドして飛び、そのまま空中で連続旋回してダイヤモンドカッターを決める大技だ。エンタテイメント要素が非常に強く、スタミナがある時でも成功率は五割に満たない。愛奈は連続旋回を端折り、ダイヤモンドカッターだけを決めるが、自身も自爆し、顔面をしたたか打ち付ける。
しかし、ダイヤモンドカッターの威力は高く、勇希も立ち上がれない。両者ダブルＫＯとなった。
「ルチャとは初めてですけど、あんな動きが出来るなんて思いませんでした。また戦ってくれますか？」
「もちろん。今度は決着つけよな、次こそ私が勝つで」
勇希と愛奈は仲間に支えられながら立ち上がると、握手を交わし合った。
●シングルマッチ〜３０分１本勝負〜
青コーナーへ東女より維新軍所属の黒崎 来兎（因幡 眠兎（fa4300））が、赤コーナーへ西女より狼の覆面レスラー、ディアナ・ウルフ（斉賀伊織（fa4840））が上がる。
ディアナは事前にビデオで観た、来兎の試合内容を思い出す。来兎は１５６ｃｍと小柄ながら、その身体からは想像できないパワーで相手を圧倒するインファイターだ。ニューフェイスで技術不足は否めないが、どんなに打たれても前へ進むスタミナと、数少ない得意分野の打撃は決して侮れない。
「行きます‥‥」
試合開始のゴングが鳴ると、ディアナから仕掛けてゆく。来兎はスピアーで迎撃しようとするが、ディアナの身体は彼女の脇を通り抜けてロープへ。その反動を利用して背後からショルダータックルで強襲！
「どこからでも掛かってこい！」
来兎が挑発する。何とか組み合い、パワースラムやパワーボムへ繋げてペースを掴みたいところだが、捕まれば不利になる事はディアナも重々承知している。故に足を止めずにロープワークを巧みに使ったヒット＆ウェイで、フライングニールキックをお見舞いする。
来兎もジャンピングニーを放つが、ディアナの素早さの前に不発に終わり、逆にアームホイップで投げられる。
「お前の攻撃なんて効いてないぞ！」
「これで止め‥‥」
リングに大の字に倒れても、アピールだけは忘れない来兎。ディアナは彼女目掛けてコーナーポストからムーンサルトプレスを決める。綺麗に決まり、カウントが入るが、来兎はカウント２で返す。
必殺のムーンサルトプレスを受けても尚、返せるだけの底なしのスタミナに、ディアナは動揺を隠しきれない。来兎はその隙を衝いてアンクルホールドを決める。これでディアナの機動性は著しく落ちるはずだ。
「得意の関節技を仕掛けてこないなら、私の方から行くぞ！」
ロープブレイクで立ち上がったディアナ目掛けて、今度は来兎が必殺のウエスタンラリアットを繰り出す！ 彼女の左腕はディアナの顔・首・胸を振り抜き、怯んだところへパワーボム！
「体力ありすぎ‥‥」
カウント３を取られたディアナは一言呟いた。捕まらないよう、グラウンドの展開になる関節技を使わなかった事が裏目に出てしまったようだ。
余談だが、ディアナは西女ファンの間では寡黙な覆面レスラーとして通っているが、実は生来の内気さで人前に出ると緊張して身体が動かなくなる為、狼のマスクを被って視野を狭めているらしい。
●セミファイナル・東女ジュニア級タイトルマッチ〜６１分１本勝負〜
会場中にヘビィメタルな曲が響き渡ると、黒いローブにフードを被った東女は正規軍所属のデモン北条（魔導院 冥（fa4581））が颯爽とリングへ舞い降りる。
「ふははは、今宵のミサは貴様の魂とベルトを戴こう！」
東女は維新軍所属のジュニア級チャンピオン、南条遥（神楽（fa4956））がリングへ上がると、デモン北条はローブを脱ぎ捨て、背中に悪魔の羽を生やし（付け）た黒のビキニに前を紐で括るロングブーツを履いた姿へ変わる。
対する遥は静かに睨め付ける。トップに白百合のワンポイントをあしらい、ボトムはショートパンツ風の黒のセパレートといったリングコスチュームだ。
「‥‥今日もベストを尽くすわ」
試合が始まると、２人ともリング中央でガッチリ組み合う。遥はいぶし銀的な関節技の使い手であり、グラウンドの展開を得意としている。彼女がスリーパーホールドへ持っていくところを、デモン北条はアームホイップで切り返し、先手を取る。
遥が立ち上がったところへ、デモン北条はロー、ミドル、とコンビネーションキックを繰り出してゆく。顔面目掛けて来るハイキックを捌いて、脇固めへ繋げようとする遥だったが、デモン北条は妖艶にほくそ笑むと３発目は踏み留まり、ローリング裏拳へ切り替える。裏拳は遥の脇腹にクリーンヒット！
「ふははは、教科書通りに攻めると思ったかね？」
「‥‥わたしは負けない！」
逃げるデモン北条にＪネックブリーカーを仕掛けようとするが、それは見せかけで、彼女は自らをロープへ振ってカウンターよろしくドロップキックを当てる。
その動きはまさにトリックスター、デモン北条は勝負よりも観客を楽しませる為に戦う。正規軍に身を置くが、そのスタンスはヒールに近い。東女のヒールは反乱軍へ所属する事が多い、彼女が所属しないのは身の危険を感じてらしい‥‥。
デビューして半年でベルトに挑むまでに急成長を遂げたニューフェイスであり、その実力はアイギス佐久間の折り紙付きだ。
「“地獄の使者”たる我が贄となるがいい、南条遥！」
（「‥‥わたしはこんなところで留まる訳にはいかない。シュガーの王座を奪うのはこのわたしよ」）
悪魔な演出の後、死の宣告――フランケンシュタイナー――を決めるものの、遥の意識を切り取るには至らなかった。彼女はカウント２．８で返すと、反撃を開始する。
トリッキーな動きには不動のグラウンドの展開で返し、脇固めやスリーパーホールドで着実にデモン北条のスタミナを奪い、普段の緻密に試合を組み立てていく自身のスタイルへ持ち込む。
最後は遥の必殺コンボ、裏投げから飛びつき腕ひしぎ逆十字を決め、ギブアップを奪った。
「良い試合だったわ。また戦いましょう」
「その命、もうしばらく預けておこう。太らせてから喰らうのもまた一興だ」
先に立ち上がった遥は、デモン北条に手を差し伸べた。
●ファイナル・ロッキー龍子引退試合〜無制限１本勝負〜
ライトニングバニー（ブリッツ・アスカ（fa2321））が先に、西女の全レスラーを引き連れてリングへ上がる。
続いて、ロッキー龍子（レディ・ゴースト（fa4613））が花道に姿を現すと、戦歴を１つ１つ語ってゆく。その間、彼女はリング上のライトニングバニーだけを見つめ、歩んでゆく。
「やっぱり、最後に決着付けとかんとお互いスッキリせんやろ！」
「あなたと戦うのは、わたくしにとって腐れ縁ですものね」
ライトニングバニーは、半分は寂しさを隠す為の強がりだが、残り半分は本気だ。それはロッキー龍子も同じだった。
（「デビュー戦の相手もあなたでしたわね」）
ゴングが鳴ると同時に間合いを取るライトニングバニーを見て、ロッキー龍子はふとそんな事を思い出す。
ライトニングバニーはフットワークを活かし、ショルダータックルやミサイルキックを仕掛けてくる。ロッキー龍子はそれら全てを受け止めると、ニーリフトやスクラップバスターで返す。
（「デビュー戦の時は油断したけど、嬢ちゃんがレスラーになるなんて、考えもせぇへんかったしなぁ」）
手数はライトニングバニーの方が圧倒的に多く、被弾率もロッキー龍子の方が多い。だが、圧されているのは攻め手であるライトニングバニーの方だった。彼女の一撃一撃が重く、それこそ必殺に相当する。
もちろん、ライトニングバニーも一切手は抜いていない。改めてロッキー龍子の強さを実感した。
ライトニングバニーのシャイニングウィザードに耐えたロッキー龍子は、必殺の龍殺し――パイルドライバー――を決める。しかし、いつもの切れ味がなく、ライトニングバニーは身体を入れ替えると、アームホイップでロッキー龍子をリングへ叩き付け、ムーンサルトプレスをお見舞いした。
『なんや、ここはお嬢サマが社交ダンスを習いに来るところやないで？』
『し、失礼な方ですわね。わたくし、身体を鍛えに来ただけですわ』
「（あなたは初対面から失礼な人でしたわ。でも、それと同じくらいわたくしの事を友として大切に思ってくれている‥‥）今まで色々な相手と戦ってきましたわ。でも本当のライバルはアイギス佐久間さんではない、ライトニングバニーさんですわ。だから最後は、わたくしの全てを出して戦わせて戴きますわ」
「今こそデビュー戦の借りを返すで！」
カウントが進む中、ロッキー龍子は不意に、初めて西女の門を叩いた時の事を思い出していた。応対に出たライトニングバニーは、露骨に訝しそうな視線でロッキー龍子を品定めしたものだ。
そして、ロッキー龍子のデビュー戦の相手もライトニングバニーだった。あの時は辛くも勝利を収めたが、ライトニングバニーは今でもその事を根に持っているようだ。
ロッキー龍子はカウント２．９，土壇場で立ち上がると、起死回生のフェイスクラッシャーを放つ。だが、ライトニングバニーの意識を刈り取る事は出来ず、最後はシャイニングウィザードでマットへ沈んだ。
「流石の私も、あの女傑達の魂は奪えないな」
リングサイドで試合を観戦していたデモン北条、そう賞賛の言葉を呟いていた。
試合が終わると、西女のレスラー全員がリングへ上がり、ライトニングバニーを皮切りに、ロッキー龍子は全員と抱擁を交わしてゆく。
『わたくしがいなくても、ライトニングバニーさんがわたくしの分まで戦って下さいますから、安心して後を任せられますわ。今までずっとありがとう』
『ロッキー龍子の倒せなかった相手を倒すんは、ロッキー龍子に勝った、そしてこれからもリングに残るウチの仕事や。ロ、ロッキー龍子の分まで、ウ、ウチがアイギス佐久間も独眼竜もみーんな倒してみせたるから‥‥期待しててや！』
ロッキー龍子がライトニングバニーに礼を言うと、彼女からマイクを受け取り、ロッキー龍子と会場のファンに宣言するライトニングバニー。途中からちょっと涙声になっていまうのはご愛敬。
「アタシも入っていいの？」
最後は愛奈達、この引退試合に参加した全員で記念撮影をした。
団体の枠を超えたこのメンバーが集う事はもうない。ロッキー龍子はもちろんの事、デモン北条達にとっても一生の宝物となるだろう。
