彩音暗殺アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 3Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 やや難
報酬 27.3万円
参加人数 8人
サポート 3人
期間 06/26〜06/28

●本文

 ヴァニシングプロは日本のロック系音楽プロダクションの最大手だ。ビジュアル系ロックグループ『デザイア』が所属している事から、その名を知るアーティストは多いだろう。
 また、二代目社長緒方・彩音(fz1033)自らが陣頭指揮を執る神出鬼没なスカウトマンでも有名で、まだ芽が出ていないうちから厳選した若手をスカウトして育成し、デビューさせている。


●富田テレビ
 緒形彩音は副社長のエレクトロンボルトを伴って、富田テレビへ挨拶に来ていた。
 6月26日午後9時から放送のヴァニシングプロを舞台とした火曜ミステリードラマ『ヴァニシングプロ殺人事件』の為だ。
 とはいうものの、既に彩音もエレクトロンボルトも撮影を兼ねて何度も富田テレビを訪れており、今回は放送直前の最後の打ち合わせだ。
「社長、細かい打ち合わせは俺がしておきますから、先にどうぞ」
「そうか、済まないな」
 彩音は各地のライヴハウスや路上ライヴを練り歩き、日夜、新人発掘に精を出している為、社長のイスに座っている時間は1年の1/3もない。実質、ヴァニシングプロを動かしているのはエレクトロンボルトなので(もっとも、重要な決定事項を承認するのは彩音だが)、彼女は残りの打ち合わせは副社長に任せ、制作室を後にした。
「お疲れさまです」
「ああ、お疲れ」
 制作室を後にしてしばらく歩くと、顔見知りの女性と擦れ違った。ヴァニシングプロ殺人事件でメイクを担当していた1人だ。
 彩音も挨拶を返し、そのまま過ぎ去ろうとして、嫌な気配を覚えた。
 反射的に回避する。今まで彩音の頭があった場所を、真紅の爪が通り過ぎる。
 回避しながら体勢を立て直し、振り返ると、そこには先程のメイクの女性がいた。顔や服は変わっていないが、綺麗に手入れされていた爪は数倍の長さに伸び、鉤爪と化している。
「‥‥ナイトウォーカーか‥‥」
 彩音は顔を顰めた。たまたま1人になってしまったのが運の尽きとしか言いようがない。しかもここは制作側の場所なので、人が通る可能性は低い。
 ただ、相手は名前までは覚えていないが、一緒に番組を作り上げたスタッフの1人だ。その生前の外見を色濃く残したままに、ナイトウォーカーに変わり果てた姿は、ナイトウォーカーと数多く戦ってきたとはいえ、見るに忍びない。
 メイクの女性は人間離れした跳躍力で、彩音の頭上から爪を振るう。彩音はソーンナックルを手に付けながら爪をかわすと、女性の肩口に拳を叩き込む!
 鈍い音と共に、たじろいだのは彩音だった。
「うくぅ‥‥甲殻‥‥か‥‥」
 今の感触は服の下、身体に甲殻を纏っているようだ。
 場所が場所だけに、倒すなら確実にコアまで破壊しないと、情報化されて逃げられてしまう可能性が極めて高い。しかし、今の彩音の装備では、1対1で倒すのは難しい。
 なら、取る行動は1つ。
「ボルター、今、どこにいる」
『俺は打ち合わせを終えて会社へ帰っています。社長は今どちらですか?』
 彩音は携帯電話を取り出すと、短縮に登録してあるエレクトロンボルトの番号を呼び出す。その間もナイトウォーカーは攻め立ててくるが、ソーンナックルで防御に専念する。
「現在進行形でナイトウォーカーと交戦中だ。しかも富田テレビの中でな、出来れば情報化する前に掃討したい。私が引き付けている間に、応援を呼んできてくれ」
『了解しました』
 ちょっとコンビニに行ってくるような調子で、さらりとナイトウォーカーと交戦中である事を告げる彩音。エレクトロンボルトは、その声音からかなり危険な状態である事を察知すると、いつも通りに返事をしつつ、電話が切れると、すぐに電話を掛けるのだった。


●成長傾向
 体力・格闘・軽業・射撃

●今回の参加者

 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1308 リュアン・ナイトエッジ(21歳・♂・竜)
 fa1339 亜真音ひろみ(24歳・♀・狼)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)
 fa5387 神保原・輝璃(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文


●運命の悪戯に翻弄されし者達
「ドッキリ‥‥じゃないよね、こレ!」
 煌びやかな装飾が施された蒼いベストにミニスカート履き、白いスリーブを付けた一見ロックアーティスト風の女性と、50cmはあろうか、鉤爪よろしく伸びた爪を振り回す、カジュアルな衣装の女性が戦っている。
 非現実な光景を目の当たりにすれば、マリアーノ・ファリアス(fa2539)のように芸能人を驚かすイタズラ番組か何かだと思ってしまうのも無理はない。
「子供!? くふぅ‥‥!」
 最初はただの子役かと思った緒方・彩音(fz1033)も、マリアーノの事は見覚えがあり、獣人である事も知っている。事実、彼はほぼレギュラーとして出演しているバラエティ番組の収録が終わり、スタジオから玄関へ帰る途中だ。
 この現場を目撃されても問題はなく、ほんの一瞬、安堵の息を漏らした隙を、そのナイトウォーカーは見逃さなかった。鉤爪が容赦なく迫り来る。彩音は上半身を反らすものの、回避が一拍遅れ、左肩の肉を抉られる。
「マリアーノクン、逃げろ! こいつはただのナイトウォーカーではない! 私や君だけで手に負える相手ではない」
「おねーさんを守るのは、ナイトたるマリスの役目だから、なんてネ♪」
 彩音は左肩を押さえ、ナイトウォーカーの一挙一動から目を逸らさずマリアーノに言うが、彼はその言葉をウインクで返して王者のグローブを片手に、ナイトウォーカーと彼女の間に割って入る。
(「ひとの姿を保ったままのナイトウォーカーなら、格闘技が効くんじゃないかナ?」)
 マリアーノはポケットに入っている携帯電話に刹那、視線を落とした後、自身に振るわれる鉤爪を王者のグローブで受け流し、そのまま下段回転回し蹴りを放つ。ナイトウォーカーはバランスを崩すが、壁面がまるで地面であるかのようにそちらへ立つと、マリアーノへ鉤爪を振るってきた。
(「マリスの『地壁走動』と同じ能力!?」)
 獣人の特殊能力と同じ芸当をされ、流石のマリアーノも表情を硬くする。


「こいつは一体何の騒ぎですかー!?」
「あそこにいるの、ヴァニプロの社長、緒方彩音‥‥よね? CMで流れている『ヴァニシングプロ殺人事件』のロケーション‥‥なのかな?」
「ナイトウォーカー!?  こんなところで!」
 出血の止まらない左肩を押さえる彩音と、胸を逆袈裟懸けに鉤爪で切り裂かれた痕のあるマリアーノ。2人の尋常ならざる光景に、神保原・輝璃(fa5387)は思わず声を上げる。フルーティストの妹、神保原和輝(fa3843)の付き添いで、音楽番組の見学に来た帰りだ。畑こそ違うが、音楽を嗜む者として、和輝は彩音に見覚えがあった。
 叢雲 颯雪(fa4554)も富田テレビのスポーツ番組の見学に来たのだが、スタジオの場所が分からずに迷っていたところを友達の輝璃達と偶然出会った。「まぁ、いろいろあったけどまた会ったな」などと世間話に花を咲かせながら、輝璃が颯雪をスタジオへ案内しようとスタッフ用通路を歩いていたのが運の尽き。
(「でも、戦ってる人がいる以上、ナイトウォーカーから逃げるなんて選択肢は無い。相対したのなら倒す以外は選べない! 銃が無いからって見逃せば、その代わりに戦っている誰かが犠牲になるかも知れない‥‥そんなのは、絶対に嫌だから‥‥!」)
 颯雪の得意とする得物は銃だが、当然、こんなところに持ってきていない。しかし、彼女には『倒す』以外の選択肢は無かった。
 颯雪は躊躇う事なく半獣化すると、駆け出しながら『俊敏脚足』を使用し、彩音とマリアーノの頭上を飛び越えてナイトウォーカーの眼前へ迫る。同時に袖に隠し持っていたウィンドダガーを逆手で抜き取り、浴びせるように斬り付けた。
「颯雪の奴、こんな狭い場所で派手なドンパチやらかしやがって」
「何で半獣化を‥‥」
「私達のように人が通らないとは言い切れないし、人間に見られて困るのはナイトウォーカーの存在も同じ事よ。それなら、余計な時間を掛けずにナイトウォーカーを殲滅する選択肢を私は選ぶわ」
 輝璃が言うようにここはスタッフ用通路なので、人3人が横に並んで歩けるだけしか広さがない。そこで颯雪は2人を飛び越したのだ。
 だが、彩音とマリアーノは一般人に見付かっても言い訳が利くように、半獣化せずに戦っている。そこへ颯雪が半獣化して躍り込んだのだから、彩音が注意するのも無理はない。
「‥‥ま、まぁ、でも、颯雪さんの考えも一理あるよ。兄さんという余計な荷物までいるのは計算外にも程があるけど。ここでは銃はおろか弓矢さえも使えない。他の一般人達を近付けさせないようにした上で、迎撃に出たいところだけど‥‥」
「余計な荷物ってなぁ‥‥確かに、こんな場所じゃ取り柄が活かせない上に、俺自身格闘が苦手、その上更にこんな状況だったら‥‥彩音さんを助ける為にも、本当に騎兵隊を呼んでくるしかないな」
 妹に言われるのも何だか癪だが、輝璃も和輝も何も出来ないという事を認めざるを得ない。
 兄妹は頷きあった後、和輝は踵を返して来た方向へ戻ってゆき、輝璃は護身用に持ち歩いているソニックナックルとシャイニンググローブをそれぞれ右手と左手に付ける。
 颯雪の振るったウィンドダガーはナイトウォーカーの強固な甲殻に阻まれ、突き立てる事叶わずにいた。しかし、上手く甲殻の間に刃を引っ掛けると、念を込める。刀身が一瞬鋭い風の刃へ変貌し、甲殻の中を切り刻んだ。
「私の切り札を切らせてもらうよ」
「!? ダメだ! 離れろ颯雪!!」
「え!? あうー!?」
 風の刃が振るわれると同時に、颯雪は空いている左手に『放雷紫爪』を発動する。ウィンドダガーはフェイク、こちらが本命だ。『放雷紫爪』はかすりさえすればいい。触れられれば、あわよくば感電させて気絶させられるし、たとえ耐えたとしても、しばらくは痺れから逃れられない。
 ナイトウォーカーの隙を作る事こそ颯雪の捨て身の目的だった。
 だが、離れて見ていた輝璃は、ナイトウォーカーの様子がおかしい事に気付き、颯雪に離れるよう叫ぶ。
 時既に遅く、ナイトウォーカーの胸元が口のように縦にパックリと開き、そこから極低温の気体が吹き出した!
 肉薄していた颯雪はもろに浴びてしまい、『放雷紫爪』をナイトウォーカーに突き付ける寸前の姿で凍り付き、ゴト!と無機質な音を立てて床に落ちた。
 皮肉にも颯雪が風除けとなり、彩音とマリアーノは冷気を浴びずに済んだが。
「颯雪が無茶して氷の彫刻になり、叢雲家の床の間に飾られました、なんて結果はゴメンだぜ!」
 マリアーノが一旦下がり、入れ替わるように輝璃がナイトウォーカーへ踊り掛かる。彩音が颯雪を引っ張って前線から引き離した。
「あずささん、和輝さんって美人のおねーさんが協力してくれてるけど、そっちでも人間が来ないような処置を頼むヨ」
 マリアーノはあずさ&お兄さんへ電話を掛けた。


●騎兵隊到着!
「久しぶりのテレビ局‥‥っと思ったら、よりにもよってナイトウォーカーっすか」
 番組の打ち合わせを終えたリュアン・ナイトエッジ(fa1308)は、富田テレビのスタッフから大至急スタッフ用通路へ行って欲しいという連絡を受けた。ヴァニシングプロの副社長エレクトロンボルトは富田テレビにも働き掛け、スタッフを介して格闘家のリュアンへ助っ人をお願いしたのだ。
(「確か、スタッフ用の通路は、この会議室からそう離れていないけど、俺と緒方社長は面識はないからやっぱり『知友心話』は通じないっすね」)
 考えを切り替えて、局の中で出会った富垣 美恵利と結城 紗那へ連絡を取り、一般のスタッフも彩音が交戦中のスタッフ用通路へ行かないよう誘導を頼むと、自身は一度半獣化を解き、彩音の元へ向かう。


 その頃、マリアーノから電話を受けたあずさ&お兄さんが、ビルの管理室へ飛び込んでいた。詰めている警備員も基本的に獣人なので、大急ぎでナイトウォーカーが出現した事を説明すると、警備員は『臨時点検』という名目で、スタッフ用通路の防火扉を閉じた。
 そこへ和輝と美恵利、紗那が合流し、スタッフ達に事情を説明して無用な騒ぎを抑えた。


「ふむ‥‥所謂『敵地』で実体化するなど、なかなか肝の据わったナイトウォーカーだな」
「中に入れれば、好物の獣人だらけだ。倒されたとしても情報化出来れば、逃げる場所には事欠かない。それだけ選り取り見取って事だろ!?」
 局内に居合わせたシヴェル・マクスウェル(fa0898)もまた、リュアン同様スタッフを介して助っ人要請を受け、防災扉の中へ、スタッフ用通路へ駆け付けた。
 そこには道場の師範代として番組制作の参考用に冨田テレビのスタッフに呼ばれ、帰る途中だった亜真音ひろみ(fa1339)の姿もあった。
「彩音社長!? 大丈夫ですか?」
「マリアーノクンや輝璃クンのお陰で私は、な。ただ、颯雪クンは‥‥」
「‥‥冗談を言いたくなるくらい不自然な場所とタイミングの襲撃だと思ったが‥‥なるほど、実力に裏付けされて、という事か」
 彩音はマリアーノの応急処置を受けて、肩の出血は止まっていた。だが、マリアーノも輝璃も颯雪を守る為に防戦一方になっている。
 シヴェルは全身霜で覆われた颯雪を一瞥すると、半獣化し、自身に『霊包神衣』を纏わせる。
「今、本職を呼びました。それまで守ってみせます」
「気を付けろ。そいつはただのナイトウォーカーではない。おそらく、遺跡に封印されているような強力なナイトウォーカーだ」
 ひろみも半獣化しながら立ち上がると、演舞を披露する関係で所持していた逆刃刀「仇華」を抜き放つ。
 彩音の『ただのナイトウォーカーではない』という言葉が、重くのし掛かる。
 ひろみは『俊敏脚足』と『地壁走動』を使用し、強化した脚力で壁を駆けたりしながら、ナイトウォーカーを撹乱させつつ、ソーンナックルと仇華を叩き込む。合わせてシヴェルも『金剛力増』で腕力を増したシャイニンググローブで殴り掛かった。
「予想を超える堅牢さだな。全身、とまではいかないまでも、急所を甲殻できっちり守っている」
「だからか、仇華の手応えがない」
「待たせたな。安心しな、あいつはあたしが討つ!」
「気合い入れて頑張るっす」
 2人とも、ナイトウォーカーの鉤爪を一閃ずつもらっていた。強固な上に意外と素速いナイトウォーカーをどう倒そうか攻めあぐねていると、みどりのずのうはの着ぐるみを纏い、両手にバトルガントレットを装備した尾鷲由香(fa1449)とリュアンが駆け付ける。
「このメンバーなら負ける気はしないぜ。ひろみ、マリアーノ、行くぞ!」
「‥‥無駄な事だとは分かっているが、出来れば綺麗なままで死なせてやってくれ‥‥」
「‥‥了解っす」
 由香が音頭を取り、マリアーノとひろみが左右の壁を伝ってサイドキックを仕掛け、彼女は真っ正面から間合いを詰めて至近距離からアッパーを繰り出し、膝蹴りへ繋げる。アッパーは効果があったものの、膝蹴りはさほど効いた様子はなく、鉤爪が降り注ぐ。
 その鉤爪目掛けて、翼で飛来したリュアンがバトルガントレットを叩き込み、数本折っていった。
「どんなに硬い鎧を纏おうが、同じ場所に何度も攻撃を受ければ意味ないだろ? へへ、強い相手ほど燃えてくるぜ。でも、どんなものも、あたしに砕けないものはないさ!」
 反撃の手段を失ったナイトウォーカーに対して、脳天、鎖骨、胸と踵落としを連続で放ち、甲殻を砕いてゆく由香。
 すると、左肩にコアが現れる。
 だが、コア目掛けて踵落としを放つ由香の目の前で、ナイトウォーカーの胸がぱっくりと開いた。用心していても、出した技を急に止める事など出来ない。
「シヴェル!?」
「‥‥多少の攻撃をもらっても、私ならば後でなんとでもなる‥‥それに、仮にも私達の仲間を死なせたんだ。のこのこと逃げられると思うなよ‥‥」
 シヴェルが由香の身体を突き飛ばしでナイトウォーカーの身体を取り押さえた。その全身に冷気を浴びながら。
「‥‥このタイミングで仕掛けてくるなんて‥‥油断したよ」
 由香はギリッと歯を噛み締める。
 氷像と化しながらもナイトウォーカーの動きを止めているシヴェルに報いる為にも、コアへ向かって一撃を放つ。リュアン、ひろみ、マリアーノ、と続き、最後に輝璃がソニックナックルを叩き込むと、ようやくコアは破壊されたのだった。


 前線で戦った由香達は傷を負ったものの、深手ではなかった。マリアーノと彩音もヒーリングポーションとリカバリーメディシンで回復し、マリアーノは彩音から「マリアーノクンのお陰で助かった」と頭を撫でてもらった。
 凍り付いた颯雪はシヴェルは使用されていないスタジオへ運ばれ、水を張った人1人が入る水槽の中へ入れられた。凍り付いたものは、すぐに水に付ければ解凍される事があるからだ。
 10分近く経っただろうか。輝璃達が見守る中、2人とも水槽の中で息を吹き返した。
「‥‥本当なら愛銃を持ち歩きたいところだよ。何か戦える武器を形として持っていないと不安なんだ‥‥だから、これは私に取っては御守りのような物。私にはこれがある、泣き叫んで逃げる以外に選択肢があるんだって‥‥そう思えるから」
「その御守り、俺じゃダメか?」
 バスタオルを被り、身体を温めている颯雪の手の内には、ウィンドダガーがしっかりと握られていた。
「見ない間にいろいろ鍛えられてるみたいだけど、俺だってそんな事が言えるんだぜ? 少しはカッコくらいつけさせてくれよ!」
 凍り付いた颯雪をずっと守っていたのは輝璃だった。颯雪は突然の申し出にきょとんとしながらも、恥ずかしそうに小さく頷いた。