Goddess Layer 10thアジア・オセアニア
| 種類 | ショート |
|---|---|
| 担当 | 菊池五郎 |
| 芸能 | 4Lv以上 |
| 獣人 | 1Lv以上 |
| 難度 | 難しい |
| 報酬 | 18.1万円 |
| 参加人数 | 8人 |
| サポート | 0人 |
| 期間 | 07/13〜07/17 |
●本文
※※このドラマはフィクションであり、登場人物、団体名等は全て架空のものです。※※※※ドラマチックな逆転劇等はありますが、全て「筋書き」によって決まっており、演じるＰＣの能力によって勝敗が覆る事はありません。※※
１９９０年代初頭、日本の女子プロレス界は戦国時代を迎えていた。
１９８０年代まで日本女子プロレス界を引っ張ってきた『真日本女子プロレス』が分裂、相次ぐ新団体の旗揚げにより、９団体が群雄割拠し、抗争に明け暮れ、しのぎを削っていた。
その中でも最大の勢力を誇っているのが、真女の流れを受け継ぐ『東日本女子プロレス』だ。
“東女の守護神”ことアイギス佐久間は、その圧倒的な強さで他の団体からの殴り込みをものともせず、また東女のヘビー級ベルトの防衛に２４回成功した、まさに“アイギスの盾”と呼ぶに相応しい、日本女子プロレス界の女王だ。その名は東女ファンでなくても、プロレスファンなら知らない者はいない。
だが、母体となった真女がなまじ大きかっただけに、東女も決して一枚岩ではない。
アイギス佐久間の所属する「正規軍」の他、ニューフェイス、現ベビー級ベルト保持者ダイナマイト・シュガーが結成した「維新軍（＝革命軍）」や、アイギス佐久間に次ぐ実力の持ち主といわれる、リリム蕾奈（ライナ）が自分と同じ同性愛者を囲ってる「反乱軍」が、今の東女の主な軍勢だ。
「佐久間社長に取り次ぎを願えないだろうか？」
「あ‥‥！？ はい！」
東女のジム兼事務所の玄関の掃除をしていたダイナマイト・シュガーは、カジュアルスーツ姿の女性に声を掛けられ、掃いていた箒を止める。
ところが、その顔を見た途端、ビシッと「きよつけ」の姿勢に変わる。
ダイナマイト・シュガーは東女のヘビー級ベルトを巻く、東女の立派な看板レスラーだ。興行のポスターには欠かさず印刷されるし、ヘビー級防衛戦は東女が契約しているテレビ局系列で放送されている。
しかし、彼女はまだ入門１年目のニューフェイスであり、扱いは他の新人レスラー達と何ら変わりはない。ジムの周りや中の掃除に始まり、先輩レスラー達のリングコスチュームといった衣類の洗濯、興行へ行けばリングや会場の設営にチケットのもぎりなど、他の新人レスラー達と一緒に当番制で行っている。
今日はダイナマイト・シュガーが玄関掃除の番なのだが。
「名前は‥‥」
「いいい、いえ、知っています！ 『CrusaderZ』のエース、いえ、日本女子プロレス界のエース、“キックマスター”武藤澪さん‥‥ですよね！？」
「お前のような新人でも、俺の名前を知っているとは嬉しいな。もっとも俺も、お前の事は良く知っているよ、ダイナマイト・シュガー。ここ最近の活躍は特に目覚ましいな」
「武藤さんにそう言って戴けるなんて、こここ光栄です！」
女性が名乗ろうとすると、先にダイナマイト・シュガーが応えてしまう。緊張のあまり声が上擦っているが、今のダイナマイト・シュガーにはそれどころではない。
本人は謙遜しているが、おそらく武藤澪の名を知らないプロレスラーとプロレスファンはいないだろう。澪子は３０歳半ばを過ぎても尚現役の、日本女子プロレス界で最もベテランのレスラーだ。アイギス佐久間を“日本女子プロレス界の女王”と呼称するなら、彼女はダイナマイト・シュガーが言うように名実共に“日本女子プロレス界のエース”というべき存在だ。
女子プロレス団体『CrusaderZ（以下、CZ）』は、真女分裂後に澪自身が立ち上げた団体で、長崎県長崎市に本拠地を置き、九州地方を中心に興行している。澪が打撃技や蹴り技への飽くなき追求から立ち上げた団体であり、打撃技や蹴り技を得意とするレスラーが多い。
宮城県仙台市に本拠地を構え、主に東北六県で活動している『陸奥（むつ）女子プロレス』と雰囲気的には似ているが、あくまで「プロレスとして」の打撃技や蹴り技であり、本格的な格闘技として追求していないのが異なる点だ。
CZの代表取締役社長になってからは、澪自身はリングへ立つ機会は少なくなり、目下、後発の育成に精を出しているという。
その偉大な先輩レスラーが、東女に何の用なのだろうか？
「佐久間先輩、ご無沙汰してます」
「久しぶりね。相変わらず生涯現役みたいね」
東女の社長へ通されると、澪は佐久間章枝へ深々と頭を下げた。章枝が現役時代、澪と何度も対戦していた。章枝の袈裟斬りチョップと、澪の真空飛び膝蹴りは、どちらも一撃必殺の威力を誇っており、女子プロレス専門雑誌『Goddess Layer――戦女神達の神域――』の誌面を賑わせたものだ。
章枝はスーツの上からでも、澪が身体を鍛えている事を見抜いた。
「じゃぁ、由貴、武藤をお送りして」
章枝に言われ、玄関まで澪を送るダイナマイト・シュガー。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥よ、よろしければサインを戴きたいんですけど」
「いや、試合をする者同士、今は止めておこう」
たっぷり１分悩んだ後、着ている東女のＴシャツへサインを頼むダイナマイト・シュガー。しかし、澪は意外な言葉で断った。
「え！？ 試合って‥‥真逆！？」
「その真逆だ。さっき、佐久間先輩と話を付けてきた。ダイナマイト・シュガー、お前に挑戦させてもらう。日本女子プロレス界の未来を俺に見せてみろ」
アイギス佐久間ですら章枝が認めないカードを、彼女はあっさり認めたようだ。
偉大な先輩レスラーに対して、ダイナマイト・シュガーは『日本女子プロレス界の未来』を見せる事が出来るのだろうか！？
※※主要登場人物紹介※※
・ダイナマイト・シュガー（佐藤由貴）：１５歳
言動や言葉遣いは男勝りな面もあるが、明るく元気な少女。リーダー的カリスマを秘めているが、実力共にまだまだ荒削りで発展途上。リングネームからパワーレスラーと思われがちだが、打撃技を得意としている。
ベルト：東女ヘビー級、東女タッグ
修得技：アームホイップ／投、スリーパーフォールド／極、ヘッドバット／力、エルボー、スーパーダイナマイト（延髄切り）／打、ドロップキック／飛
得意技：いなずま重力落とし（ノーザンＬスープレックス）／投
・“キックマスター”武藤澪：３６歳
現日本女子プロレス界最古の現役レスラー。“キックマスター”の異名を持ち、彼女の蹴り技はどれも一撃必殺。中でも得意技の真空飛び膝蹴り（ジャンピングニーパット）はＫＯ率９０％を誇る。隙がないように見えるが、実はグラウンドの展開に弱いという一面もある。世代交代の可能性を求めてダイナマイト・シュガーに挑む！
修得技：ボディスラム／投、――／極、ショルダータックル／力、ステップキック、シャイニング・ウィザード／打、（低空式）ドロップキック、フライングニールキック／飛
得意技：真空飛び膝蹴り（ジャンピングニーパット）／打
※※技術傾向※※
体力・格闘・容姿・芝居
●リプレイ本文
長崎県長崎市は、長崎県庁の駐車場に設置された特設リング。観客席は１０００席、中継のテレビカメラもない、かつての出島を臨むこのリングが、『東日本女子プロレス』と『CrusaderZ（以下、CZ）』との戦いの場だ。
●シングルマッチ〜無制限一本勝負〜
狼の絵が入った黒いリングコスチュームを着た水島・涼子（リネット・ハウンド（fa1385））が鎖を肩に担ぎ、先にリングイン。ふんぞり返って青コーナーで龍の描かれたスカジャンを羽織った横須賀 皐月（よこすか さつき／レディ・ゴースト（fa4613））がリングインするのを待つ。
ところが、皐月は彼女とは対峙せず、リングインした足でそのままトップロープに登り、スカジャンを脱いで龍を指差す。
「“スープレックスマスター”の異名は伊達じゃないって事かい。面白い、最近あちこちの団体を荒らし回ってるようだが、ここではそうはいかないぜ。無事に帰れると思うなよ」
皐月のフィニッシュホールドはドラゴンスープレックスホールド、つまり龍は彼女のそれをアピールしていた。涼子はほくそ笑むとマイクと鎖を投げ捨てて、不意打ちよろしく皐月に躍り掛かる。
涼子は皐月よりベテランのレスラーだが、どこの軍団や集団にも属さない一匹狼的な存在だ。今回、東女同様、CZに招待された。
一瞬、反応が遅れた皐月は腕を取られるとロープへ振られ、ラリアートを喰らう。ここでようやく試合開始のゴングが鳴る。
先制攻撃を受けた皐月は、何とか技を仕掛けて強引に自分のペースへ持ち込みたいが、涼子は良く走るし、ロープワークも巧みだ。足を使われるとどうしても後手に回らざるを得ない。
２発のエルボーと２発のラリアートを喰らって、３発目のラリアートでようやくカウンター気味にチョップを叩き込む。
『プロレスは動きが大きくなければならない』という理念を持つ涼子も足を止め、逆水泳チョップで迎え撃つ。
縦と横のチョップ合戦。涼子は見た目も演出もはヒール系っぽいが、ニュートラル系のレスラーであり、実にプロレスらしいテンプレートな試合運びを繰り広げる。
打撃合戦に終止符を打ったのは皐月。先に流れを断ち切ろうとした涼子のボディスラムをいなして体勢を崩し、そのままサイドスープレックスでリングへ倒す。受け身を取り損なって立てない彼女へ、カンパーナを極める。
ロープ際だったのでロープブレイクする涼子。しかし、流れは皐月に傾きつつあった。立ち上がった涼子に今度はフロントスープレックスを仕掛けて再び倒し、鎌固めへ移行してじっくりとダメージを蓄積させてゆく。
「龍の咢（あぎと）に食われて沈みなさい‥‥くふぅ！？」
再度、ロープブレイクから立ち上がった涼子に、フルネルソンからの後方へのスープレックス――ドラゴンスープレックスホールド――を放つ。フルネルソンは完璧に決まったが、それまでのダメージが蓄積してか、ここへきて以前ヘルニアを患った所為か、弱点と化した腰に激痛が走る。
涼子は皐月が僅かに体勢を崩したのを見逃さず、ドラゴンスープレックスホールドを堪えると、下からかち上げるラリアートでペースを取り戻し、ロープワークから全体重を乗せた走りながらのバックブロー――ショックブロー――を叩き込む。
「‥‥負けは負けです、言い訳はしません」
「潔いし、やるじゃないか。けど、これくらいじゃCZには勝てないぜ」
その潔さは認めつつも、リング上での真剣勝負に情けは無用、とばかりにマイクを投げ捨て、リングアウトする涼子だった。
●タッグマッチ〜無制限一本勝負〜
（「このままじゃ、リリム蕾奈さんの『パートナー』になれない。いや、ベッドの中じゃパートナーになってるけど、あっちも主導権はリリム蕾奈さんだし‥‥って、意味が違うし！」）
東女のレスラーに用意された控え室のワンボックスカーの中で、木ノ内 優（きのうち ゆう／ＭＡＫＯＴＯ（fa0295））は１人、黄昏ていた。仲間の志気が下がらないよう、皆の前ではいつも通りを装ってはいるが、リリム蕾奈（夏姫・シュトラウス（fa0761））とタッグパートナーを組んで以降、いまいち成績が振るわない事に気落ちしていた。
リリム蕾奈が呼びに来たので、優は頬を叩いて気合いを入れ、彼女の後について行く。
「わたくしの相棒を務めるなら、最後まで己が意志を貫き、結果を出してみなさい」
「え！？ ‥‥はい」
花道を先に歩きながら、リリム蕾奈は優の方を振り返らず、声だけ寄越した。やはりリリム蕾奈は優のパートナーだ。
「リリム蕾奈と戦うのは久しぶりね。優という娘はビデオを観た限りでは、実力にムラがあったけど‥‥しかし、彼女やアイギス佐久間なら分かるけど、ダイナマイト・シュガーという新人の娘と戦うなんて‥‥」
「武藤さんは世代交代を考えているから、そのリリム蕾奈やアイギス佐久間を倒してきたダイナマイト・シュガーに、世代交代の可能性を見出そうとしているのか‥‥それとも、上の世代として、後進の踏み台になろうとしているのか‥‥」
装飾過剰な、煌びやかなリングコスチュームに身を包んだスパイラル碧（草壁 蛍（fa3072））と、その後から彼女とは対照的に飾りっ気の一切無い地味なワインレッドのリングコスチュームを纏ったバイパー美月（― みつき／相澤瞳（fa5111））がリングへ上がる。
スパイラル碧はフィギュアスケートからプロレスへ転進したレスラーだ。CZの旗揚げ当時から所属している古参のメンバーで、リリム蕾奈との対戦経験もある。
バイパー美月は、真日本女子プロレス時代の武藤澪（ランディ・ランドルフ（fa4558））の付き人をしていた縁で、そのままCZ入りしている。付き合いが長く気心が知れているだけでなく、でしゃばらず後ろで冷静に物事を見極める事から、澪からの信頼は厚い。
優の気持ちを慮ってか、珍しくリリム蕾奈が先に出る。CZの先鋒はスパイラル碧だ。
試合開始のゴングが鳴ると、リリム蕾奈は自らをロープへ振ってショルダータックルを放つ。ローリングソバットで迎え撃つスパイラル碧。打点はほぼ互角で相打ち。
続くステップキックに、ローリングダブルアームラリアットを合わせるが、リリム蕾奈はフェイントを絡めてスパイラル碧の腕をかわし、ニーリフトを叩き込む。
空中移動の速さはリリム蕾奈に分がある。その分を回転の速さで補う、とばかりにスパイラル碧は空中で３回転半して放つキック――アクセルスピンキック――を連続で繰り出す。これには流石のリリム蕾奈も付いて行けず、直撃を受けるが、スパイラル碧当人も平衡感覚が麻痺してきたので一旦タッチ。
スパイラル碧との戦いで機動力の落ちているリリム蕾奈だが、優と交代する気配はない。バイパー美月は逆水平チョップでリリム蕾奈の足を止めると、ドラゴンスクリューを極め、じわじわと着実に彼女の機動力を奪ってゆく。
「リリム蕾奈さん！ 僕は大丈夫だから！」
リリム蕾奈のファイトを見て吹っ切れた優が手を差し伸べる。リリム蕾奈はアンクルホールドから膝十字固めを極めに来たバイパー美月を強引に振り解くと、トップロープからのプランチャーを決め、ここでようやく優とタッチ。
「もしあなたが勝ったら、今日は３倍可愛がってあげるわ」
その際、耳元で囁くのも忘れない。バイパー美月もスパイラル碧と交代する。
スパイラル碧の回転が厄介な事は見ていて分かっているし、彼女も優とのパワー差がある事は承知している。
スパイラル碧は優に掴まれないよう、回転数を増やしてフライングニールキックやローリングエルボーを繰り出す。迎え撃つ優は回転には回転で対抗と、フライングニールキックはローリングソバットで、ローリングエルボーはアックスボンバーで迎撃した。
そこでスパイラル碧はバイパー美月と再度タッチ。しかし、リリム蕾奈は交代は許さない。
「今日だけは頼っちゃいけないんだ！」
優もタッチをするつもりはなく、バイパー美月へ果敢に挑むが、柳に風の如く受け流し、Ｖ１アームロックやキャプチュードを確実に決めて、的確にダメージを与えていく。一見すると地味だが、狙った箇所をピンポイントで攻撃し、相手の動きが鈍ったところで一気に仕留めにいく玄人好みなファイトスタイルだ。
優が起死回生で決めようとしたジャーマンスープレックスですから、前方回転エビ固めで返され、強引に振り解いたところで、必殺のコブラツイストを極める。バイパー美月のコブラツイストは、身体の柔らかさを活かして相手の身体をリングネームの如く強烈に締め上げる為、高確率でギブアップを奪う。
流石にリリム蕾奈がスパイラル碧の阻止を振り切ってカットに入り、２人掛かりでＡ（アルゼンチン）バックブリーカーからＳ（シュミット）式バックブリーカーへのコンボ、木ノ内スペシャルを決め、カウント３を奪った。
「‥‥あなたのその勝利に対する執念‥‥私は何時の間にか忘れてしまっていたようね‥‥その気持ちを思い出させてくれて感謝しているわ。‥‥でも、また次に闘う時は今日みたいにはいかないわよ？」
優の差し伸べた手を掴みながら、バイパー美月は挑戦的な笑顔と共にそのファイトを称えた。
●ファイナルマッチ〜無制限一本勝負〜
「あなた、わたくしやアイギス佐久間と戦う時に、プロレスの未来とか一度でも考えた事がありまして？ そんな難しい事は考えずにただ無心に勝利を願い、そしてわたくし達を倒した。違って？ 今回も同じですわ。余計な事を考えずに、ありのままの自分を出して戦いなさい。そうすれば結果はどうあれ納得してもらえるはずですわ」
「経験の差は埋められないですし、試合運びなんかで勝てる訳はないけれど、今、ボクが持ってる全てをぶつける相手としては申し分ないし、どこまでボクが成長したかを確かめる良い機会だと思ってます」
「へぇ、言うわね。負けたり失望させてしまっても、わたくしがちゃんと念入りに慰めてあげますわ」
「遠慮しておきます。木ノ内先輩に恨まれたくないですし」
リリム蕾奈が試合前のダイナマイト・シュガー（咲夜（fa2997））に声を掛けると、彼女は気負った様子はなく、挑戦者に相応しい面構えをしていた。
「尊敬する大先輩だからこそ、逃げ回るのはボクらしくないから。思い切りぶつからせて貰います」
「来い！」
運命のゴングが鳴り響く。
先に仕掛けたのはダイナマイト・シュガー。一気に間合いを詰めると、澪の腕を取って‥‥と思いきや、強烈なヘッドバットをかます。これには澪も意表を衝かれた。
上手く先手を取ったダイナマイト・シュガーは、今度こそ澪の身体をロープへ振って、帰ってきたところへエルボーを喰らわせる。お返しとばかりに澪がステップキックをダイナマイト・シュガーに当てる。
ドロップキックには低空式ドロップキックで、アームホイップにはボディスラムで応戦する澪。
（「噛み合うな。俺とこいつは相性がいい。こんな楽しい試合は久しぶりだ。なればこそに意味がある！」）
得手不得手問わず技を避けずに受けながら返す方法を模索するのが澪のスタイルだ。『天敵』には何度も苦汁を飲まされてきたが、ダイナマイト・シュガーのスタイルはそれとは違い、自分と良く似ている。それに先程から、澪の攻撃を避けるどころか自分から思い切り踏み込んできて打点をずらし、本来の威力を発揮する前に喰らう事でダメージを最小限に抑えている辺り、ニューフェイスながら多くの修羅場をくぐり抜けてきた経験が現れている。
澪は自然と笑みを浮かべていた。
ボディスラムで投げられたダイナマイト・シュガーは、反撃としてスリーパーフォールドを仕掛ける。唯一、澪が苦手とする技だが、四の五の言ってられない。それでも澪は、強引に手を伸ばしてダイナマイト・シュガーの頭部へアイアンクローを仕掛け、こんな解き方に怯んだところを脱出、低姿勢の彼女にシャイニング・ウィザードをお見舞いする。ふらつきながらも立ち上がるダイナマイト・シュガーへ、必殺の真空飛び膝蹴り――ジャンピングニーパット――を綺麗に決め、ダウンさせる。会場から感嘆の溜息が漏れる。
（「見込み違いだったか？ ‥‥いや、若さ、というのはそれだけで財産だな」）
カウント２．９、ギリギリで肩を上げるダイナマイト・シュガーに、澪は再び笑みを浮かべた。
試合時間は既に１時間を越えている。１日たりともトレーニングを怠った事のない澪だが、やはりスタミナには限界がある。一方、ダイナマイト・シュガーの技のキレは未だ衰えていない。
「こんな楽しい試合、ボクの負けで終わらせるのはもったいないです」
「そうで無くてはな」
とはいえ、ダイナマイト・シュガーは立っているのでやっとの状態だ。今度は十二分に助走をつけて、文字通り必殺の意を持って真空飛び膝蹴りを仕掛けるが、一度喰らって身体でタイミングを覚えたダイナマイト・シュガーは、スーパーダイナマイト――延髄斬り――を絶妙のタイミングで放ち、２人は空中で激突する。
そのまま両者ダウン。レフリーのバイパー美月がカウントを取るが、２人とも立ち上がれない。
両者１０カウントの引き分けという試合結果になった。
ダイナマイト・シュガーはリリム蕾奈に、澪はスパイラル碧に肩を貸してもらって立ち上がると、握手を交わした。
「今度戦う時にはもっともっと良い試合をして、武藤さんをあっと言わせてみますから、是非もう一度戦って下さい」
「まだまだ生涯現役を続けなければな」
若手の持つ突き進む力に喜びを感じつつ、自身は立ち塞がる壁であり続ける事を決意する澪だった。
