試験休みアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 フリー
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 なし
参加人数 8人
サポート 0人
期間 07/12〜07/16

●本文

 『Succubus(サッキュバス)』というロックグループがいる。
 ボーカル兼ベースのシュタリア。
 ドラム(場合によってはシンセサイザー)のスティア。
 ギターのティリーナという、女性3人の構成だ。

 彼女達は月と片思いや悲恋といった恋愛を題材にする歌が多く、一部に熱狂的なファン(特に女性)がいるものの、メディアに露出していない事もあり知名度は高くない。
 メディアに露出していない理由の1つが、グループ名『Succubus』――文字通り『夢魔』の如く、彼女達がライブを行う時間帯の大半は夜だ。しかも好んで路上でのゲリラライブを行っているようで、ライブの直前になってファンサイトの掲示板へ書き込むくらいしか告知していない。そうやってファン達がやきもきする姿を見る事でテンションを高める小悪魔的な性格も、やはりSuccubusなのかもしれない。
 そしてもう1つの理由が、ライブ中にも関わらず、人目をはばかる事なくメンバー同士で抱擁し合ったり、接吻を交わす、まさにSuccubusの意味するパフォーマンスだ。
 シュタリアが長女、スティアが次女、ティリーナが三女という姉妹としての位置付けが彼女達やファンの間ではあるが、血は繋がっていない。
 彼女達は姉妹であり、恋人であった。


 ――ここはSuccubusの集う、秘密の花園‥‥。
「シュタリアお姉様‥‥如何でしょう?」
 末っ子のティリーナは猫撫で声で、上目遣いに長女のシュタリアの様子を窺っている。目の前にいるシュタリアは、手に紙の束を持ち、一枚一枚無言のまま目を通し、捲ってゆく。
 3人がゆうに一緒に寝られる大きさのベッドの縁に腰掛けてはいるものの、ドキドキソワソワ、落ち着きがない。
「‥‥合格ですわ。前回より順位を上げたのは褒めてあげましょう」
「良かった〜!」
「ですが、このくらいでわたくしが喜ぶと思ってもらっては困りますわ。わたくしの妹であれば2位如きに甘んじず、常にトップを取るくらいでなければ、ねぇ」
「はぁい‥‥」
 シュタリアは紙束を全て見終わると、顔を上げてにっこりと微笑む。その笑顔にティリーナは彼女に抱き付こうとするが、シュタリアは人差し指をティリーナの唇に当てて制止した。
 ティリーナの前回の期末考査の結果は学年3位。今回、学年2位へ順位を上げたものの、シュタリアはそれでも満足していなかった。
 Succubusの3人は血は繋がっていないが、姉妹同然にここで一緒に暮らしている。また、Succubusはゲリラライブを主な活動としている為、どうしても学校を休みがちになり、学業が疎かになりかねない。
 シュタリアはティリーナを親元から預かっている保護者としての監督責任があり、こと学業に関してはかなり五月蠅い。
 ゲリラライブへの参加も出席日数が足りなければ、ギター担当のティリーナでも、ドラム担当の次女スティアでも容赦なく置いてゆくし、期末考査の結果も、最低クラスで5番以内を取るように、と高い基準を設けている。
 お陰でティリーナはSuccubusとして活動を始めてから、学年で10番以内をキープしていた。
 しかし、上には上がいるもので、スティアは常に学年トップだ。ティリーナにとって強力なライバルと言える。
「とはいえ、頑張ったのですから何かご褒美をあげないといけませんわね」
「でしたら、今から私を愛して下さい」
「あなたは本当、そればかりですわねぇ」
「私達はSuccubusではありませんか。それにここ2週間、シュタリアお姉様から絶頂を戴いておりませんもの」
 ティリーナの欲望ストレートな即答に、流石のシュタリアも微苦笑する。ティリーナは期末考査が始まる1週間前から、考査が終わり、結果が帰ってくるまで、シュタリアと肌を重ねていなかった。
「期末休みを利用してどこかへ遊びに行く、というのはどうかしら?」
 そこへ助け船とばかりに、スティアが提案する。その手には『ファンタジーランド』のチケットが握られている。
「期末考査が終わったら、シュタリアお姉様とティリーナと遊びに行こうと、購入しておいたの」
「ファンタジーランドですか。以前、ゲリラライブを行いましたが、アトラクションでほとんど遊べませんでしたものね」
 流石はスティア、Succubusの良心だけの事はあり、提案も健全(?)だ。シュタリアも『Graduation』、“卒業記念”をテーマとしたゲリラライブをファンタジーランドで行ったものの、アトラクションでほとんど遊べなかった事が心残りだったようだ。
「それに、彼女がどういう服装で来るか、ちょっと楽しみなの」
「彼女? ああ、先日のゲリラライブで変身した彼女ですわね」
「そうそう、あのお嬢様風の衣装、似合ってて素敵だったわ。元が良いんだから、ラフな格好ばかりじゃなく、ああいうお嬢様風の服装も似合うと思うの」
 スティアは先日の『父の日』のゲリラライブで、お嬢様風のワンピースを着て大変貌を遂げた参加アーティストの事を思い出していた。普段はロッカーよろしく、ジージャンを羽織りダメージジーンズ履きだが、だからこそ、お嬢様風のワンピースにウィッグを付けた姿は色濃く印象に残ったようだ。
「ああいう娘をわななかせるのって萌えるのよね。ミラー・オブ・トゥルーラブやマーメイド・ベイ辺りが良いかしら?」
(「スティアお姉様は絶対Sだ!」)
 お嬢様然としたスティアが、微笑みながらそういう事を言うと、得も言われぬ恐怖がある。やはり彼女もSuccubusなのだ。
 ティリーナは“超”が付く程のシスコン――しかも、スティアより、シュタリアにベッタリ――なので、次女に対してこういう事も平気で思うのだった。


 その後、Succubusの公式サイトに、Succubus主催の『ファンタジーランドへ遊びに行こうツアー』が告知された。アーティストのみ参加可能だ。慰安旅行の意味も兼ねて、ゲリラライブや日頃のアーティストとしての活動で疲れた身体を癒して欲しい。
 但し、女性はSuccubusのメンバー達に弄られる危険性があるので、こちらも注意されたし。


●ファンタジーランドの乗り物概要
・レールウェイ・ウィズ・レールガン:ライド系
・パイレーツ・シー:ライド系
・ブラックマウンテン:ライド系
・エクストリームウォーター:ライド系

・プリンセスカルーセル:メリーゴーランド
・トゥーンカー・クラッシュ:ゴーカート
・ロマンティック・ゴンドラ:ゴンドラ

・ミラー・オブ・トゥルーラブ:迷路系
・ゴーストマンション:お化け屋敷系

・プリンセス・キャッスル:探索系
・マーメイド・ベイ:探索系

●今回の参加者

 fa0013 木之下霧子(16歳・♀・猫)
 fa0069 イオ・黒銀(22歳・♀・竜)
 fa0304 稲馬・千尋(22歳・♀・兎)
 fa0329 西村・千佳(10歳・♀・猫)
 fa0506 鳴瀬 華鳴(17歳・♀・小鳥)
 fa1236 不破響夜(18歳・♀・狼)
 fa2073 MICHAEL(21歳・♀・猫)
 fa3345 各務 英流(20歳・♀・小鳥)

●リプレイ本文


●それぞれの思惑を内に秘め
 Succubusのメンバー達と試験休みを利用してファンタジーランドへ遊びに行く当日。
 稲馬・千尋(fa0304)は早朝から木之下霧子(fa0013)に呼び出された。
「おめかしです。せっかく遊びに行くのですから、もっとおめかししないと!」
 千尋はいつも掛けている伊達眼鏡を外し、髪型は毛先近くで縛って纏め、垂らしている。霧子は彼女にシックで落ち着いた、しかし身体のラインがくっきり出る衣装と、それに合わせてタイトなマイクロミニスカートをあてがった。
「服に合わせて下着も買えましょうネ‥‥わぁ、稲馬さんって、凄く‥‥大きいです」
「ちょっと‥‥」
「あ、しかもぷにぷにした手触りが」
 衣装に合わせて大胆で大人っぽい下着を勧め、千尋が抵抗らしい抵抗をしない事を良い事に、霧子は彼女の体付きを堪能しつつ、着替えさせてゆく。
 段々Succubusに毒されている霧子だった。


 ファンタジーランドは平日でもかなり混雑する。電車といった公共機関を利用し、ファンタジーランドの入場門前に現地集合となっていた。
「ファンタジーランドへ来たの、初めてだわ」
「今日は目一杯楽しみましょうね」
 各務 英流(fa3345)とイオ・黒銀(fa0069)は、Succubusの三女ティリーナ(fz1042)と最寄りの駅で集合して、ファンタジーランドへ来ていた。
「英流お姉ちゃん、イオお姉ちゃん、ティリーナお姉ちゃん、おはようにゃ♪」
「一緒に来てくれても良かったのにぃ」
 西村・千佳(fa0329)と鳴瀬 華鳴(fa0506)がやってくる。
 千佳は半ズボンに白のタンクトップとラフで動きやすい格好だ。華鳴は一番のお気に入り、金糸雀が可愛く刺繍され、フリルが惜しみなく施された黒地のパフ袖ワンピースを身に纏い、シャムスで髪を飾り、ブラッドスターを首から下げ、右手首には愛を呼ぶリストバンドを装着している。
「ファンタジーランドか。前来た時はライブに集中していたから、遊んでる余裕なかったからな。かといって、1人で来るところでもなし」
 不破響夜(fa1236)がSuccubusの次女スティアと合流する。彼女の言葉に英流も頷く。
 響夜の傍らにいるスティアは、お嬢様然とした美貌を哀しみに曇らせている。その原因は、タンクトップの上にシャツを羽織り、パレオ風のミニスカートの下はスパッツ履き、足元は編み上げのサンダルと、『実用第一、見た目は第二』を信条とする響夜らしい実用的で涼しげなファッションのようだ。
「せっかくのオフなんだし、今日はとことん遊ぶわよ〜♪(それにしても‥‥ティリーナちゃんと華鳴ちゃんとか‥‥スティアちゃんと響夜ちゃんとか‥‥他にも‥‥)ふふっ、楽しくなりそうねぇ♪」
「んふふ〜、楽しみにゃ〜♪ 今日はお姉ちゃん達にいーーーっぱい甘えるのにゃ♪」
 Succubusの長女シュタリアとやってきたMICHAEL(fa2073)は、早くも修羅場の様相を呈しているカップリングにほくそ笑むと、「楽しむ」という意味で受け取った千佳が早くも彼女に抱き付く。
「皆さん、はぐれても連絡取れるように、携帯番号とメアドを交換なのです♪ ‥‥フフフ、これで皆さんの連絡先をゲットだぜ!」
 最後にやってきた霧子と千尋が提案すると、開園までの待ち時間を利用して11人の壮大な携帯番号とメアド交換会が行われた。


●ブラックマウンテン
「やっぱり遊園地は絶叫系に乗らないと、テンション上がらないわよね」
「あたしもあたしも。絶叫マシン系が凄く好きなのよね」
 千尋とMICHAEL、霧子とシュタリアは、真っ先に真っ暗な屋内を滑走するレールコースター『ブラックマウンテン』へ向かった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‥‥あふぅ!?」
 心ゆくまで絶叫しつつ、暗視カメラの場所をヤマカンで当ててピースしようとした霧子だったが、突然隣に座っていたMICHAELに胸を揉みしだかれ、艶めかしい吐息を吐いてしまう。
「やっぱり激写される時に、絶叫以外の表情をさせてみたいものよね〜」
 MICHAELと千尋は、以前ゲリラライブで来た時に一度乗っており、暗視カメラの位置を覚えていたので、千尋は親指をグッと立て、MICHAELは霧子と同じ考えで、彼女の艶めかしい表情をバッチリ撮影。


●ゴーストマンション
「うみっ!? べ、別に怖い訳じゃないにゃ! は、早く行こうなのにゃ」
「幽霊は苦手だけど、遊園地だと何故かこういう場所へ来るのよねぇ。怖いもの見たさかしら?」
「千佳ちゃん〜、私が付いてるから大丈夫よぉ〜。ティリーナちゃんもねぇ〜」
「怖くないように、手を握りますね」
 千佳と英流、華鳴とティリーナは、幽霊達の集会に使われている曰く付きのマンション『ゴーストマンション』へやってきた。
 とっても恐がりでお化け屋敷が苦手な千佳は、入る前から震え気味。オカルト系大好きな華鳴が宥めつつ、ティリーナにチラチラと視線を向けると、彼女はやはり幽霊が苦手な英流が自分の服の裾を掴もうとすると、その手を取って握っていた。
「にゅー‥‥うみゃ!? うー‥‥にゃぅ!?」
「やっぱりぃ〜、お化け屋敷はこうでなくちゃねぇ♪」
 壁際の人形の骸骨がカタカタと動き、フォログラム映像の幽霊が突っ込んできて身体を通り抜け、スタッフが扮したゾンビが肩に手を置くたびに、千佳が英流の分まで泣き叫んで華鳴に抱き付く。英流も怖い時は素直にティリーナにしがみつき、4人は無事にゴーストマンションから脱出した。


●マーメイド・ベイ
「悪い魔女に石に変えられてしまった人魚姫を助ける為に、珊瑚礁の迷路でサムシングフォーを探す、ねぇ」
「ゲリラライブ、私はここでやったんだ。入れなくてずっと興味があったんだ」
「ふふ、響夜はロマンチストなのね」
 イオと響夜、スティアはファンタジーランドの外れにある人工の入り江『マーメイド・ベイ』へやってきた。入り江の先端にはアトラクションのモデルになっている人魚姫の精巧な石像が佇んでいる。
「この人魚姫の石像‥‥前に来た時は気が付かなかったけど、イオさんに似てない?」
「本当、顔立ちとか胸の辺りとか。これはイオを助けないとね」
「私は私を助けるのね‥‥ふふ、何かこう、可愛い系の乗り物って苦手だけど、こういう趣旨はそれはそれで面白いかも」
 人魚姫の石像は顔立ちやスタイルがどことなくイオに似ていた。響夜とスティアが助ける気満々になると、イオも思わず笑ってしまう。とはいえ、それだけ自分の事を大切な仲間だと想ってくれている証拠だろう。
 珊瑚礁を模した迷宮の中で、3人で手分けをしてサムシングフォーを探し出し、出口に向かうと王子様と元に戻った人魚姫が出迎える。ところが、イオが人魚姫に似ていると分かるとスタッフが気を利かせて、イオに人魚姫の服装を貸してくれたのだ。
 イオが人魚姫になり、スタッフがイオの服を来て、全員で記念撮影をした。


●エクストリームウォーター
「みゅぅ♪ シュタリアお姉ちゃんと〜♪ 嬉しいにゃ〜♪」
 千佳から電話が掛かってきて現在位置を知らせると、MICHAEL達に合流し、早速シュタリアの腕に抱き付く。
 千尋達は最後に高低差20mのところにあるプールに突っ込み、乗客をずぶ濡れにするのが売りの、丸太柄のコースターに乗り込むウォータースライダー『エクストリームウォーター』の順番待ちをしていた。
「夏といえばウォータースライダー系よね。濡れてもすぐに乾いちゃうし〜」
「落ちる事に掛けては、ブラックマウンテンとまた違ったスリルがあるのよね」
 移動中に目に付いた屋台の食べ物をお持ち帰りして食べながら、MICHAELと千尋は歓談している。普段のあまり喋らない千尋しか知らないだけに、霧子はこういう一面が見られて嬉しかったり。
 MICHAEL達の前で丁度前の組の最後尾になり、千佳達は最前列に座る事になった。
「運には結構自信あるのよね!」
 MICHAELも霧子も配られている防水シートは(ワザと)受け取らずに席に着く。
「‥‥ハーモニカが濡れて駄目になるといけないわね。荷物の中に入れて‥‥‥あ、まずい。やっぱ着けておかないと‥‥って動き出しちゃった!」
 説明しよう! 千尋は楽器を持たないと落ち着きが乱れるのだ!
「‥‥大丈夫。全然大丈夫だから‥‥大いに楽しんでるわよ‥‥」
「水が掛かる時はバンザイポーズ! これ基本が大事なのです☆」
「大丈‥‥いーーーーーやーーーーーーーーーーー!!!」
(「フフフ、水に濡れたら透ける衣装にして正解ですヨ☆」)
 あの千尋が珍しく青ざめた表情を見せると、最後の落下で絶叫しながらMICHAELに抱きついていた。隣の霧子は濡れそぼった千尋の艶姿にご満悦である。
「うにゃ‥‥千尋お姉ちゃん透けてるにゃー♪ うにー♪」
「ぁぅぁぅぁぅ‥‥ふぅ‥‥大分濡れたけど、歩いてればそのうち乾くでしょ」
「早くタオルで拭かないといけませんネ♪ 風邪をひいたら大変なのです☆」
「そうそう、アーティストは身体が資本だから、お互いに拭きっこしないとね」
 千佳もずぶ濡れでシャツが肌に張り付き、ちょっと気持ちが悪い。
 ふらふらヘロヘロしていた千尋も、鞄からハーモニカを取り出して首に掛けると即復活する。
 しかし、霧子とMICHAELが復活前に近くのレストルームへ連れて行き、拭きっこを始めていた。
「‥‥は! シュタリアさんって結構‥‥」
「ふふ、もっと弄ってよろしくてよ?」
 どさくさに紛れて悪戯する霧子だったが、相手はSuccubus、堂々としなさいと返されてしまった。


●アカペラライブ
「ドレスやガラスの靴、アクセサリーがある場所の近くになると、魔法のステッキの先端が光って教えてくれるのね。魔法少女物みたいね」
「全部探し出せたらぁ〜、記念品がもらえるみたいねぇ〜」
 『プリンセス・キャッスル』では、英流と華鳴、ティリーナは演技の勉強とばかりに良い魔女になりきって、意地悪な魔女によってお城の中に隠されてしまったお姫様の衣装を探した。
「結構遊んだわね。ベンチで休憩って、遊園地の密かな楽しみよね」
 アイスを食べながらベンチに座る英流とティリーナ。

♪祭りの日も仕事の日も 月は昇るし地球は回る
 だのになんだって休みの日には 時間の速さが違うんだ
 きっとお出かけが楽しみな子供が
 時計のネジを巻き過ぎたんだ
 よいよいよい さっさっさ
 きりきりきり さっさっさ♪

 心地よい疲労の中、英流は自然と自作した童謡が口に上る。
「素敵な歌ですね。メロディを付けるとするとこうでしょうか?」
「ティリーナさん、いつもギターを持ち歩いているの?」
 英流の歌に合わせて、ティリーナは荷物からギター取り出して弾き始めた。
 アカペラのつもりだったが、いつの間にかちょっとしたゲリラライブになっていた。


(「ティリーナちゃんが楽しんでいればそれで良い‥‥良いはずなのに‥‥」)
 2人のライブの姿を見た華鳴は、人知れず何処かへ消えていった。


●ミラー・オブ・トゥルーラブ
「私はいいから、2人で挑戦してきなさいな」
 イオに見送られ、響夜は男性用の入口から、スティアは女性用の入口から入る。
 響夜は本気で走って時間を短縮しようとするが、タイミングが合わないのか、出口前までスティアの姿を見る事はなかった。
 ところが、響夜が出口前に着くと、意外や意外、スティアの方が先に着いているではないか。
「私、可愛い服を着た響夜さんが好きなの。今晩、付き合ってくれない?」
「う、うん‥‥」
 果たして愛の言葉かどうかは分からないが、スティアの言葉に思わず返事をしてしまった響夜だった。


「にゃー、今日は楽しかったにゃ♪ ‥‥って、うみー?華鳴お姉ちゃん遅いにゃー。って、何かいつもと違う雰囲気にゃー‥‥?」
 その後、華鳴が集合時間にやや遅れて合流すると、隣接するオフィシャルホテルへチェックイン。
 響夜はミラー・オブ・トゥルーラブの時の約束通り、スティアに付き合って着せ替え人形よろしくウェディングドレスを着せられまくった。


「隣、よろしいかしら?」
「昼間は賑やかだったからね、少し静かな雰囲気に浸りたくなったのよ」
 打ち上げを楽しんだ後、イオはひっそり1人ホテルのバーへ。静かに飲んでいるとシュタリアがやってくる。
「いけるクチ?」
「イオにお付き合いするくらいは」
「ふふ、ありがと。じゃぁ、リュシフェルで」
 ライチ酒と赤ワインのカクテルで乾杯する2人。その後、バーの閉店まで静かに音楽談議に花を咲かせた。


「私、ティリーナちゃんの全てが好き! 他の誰よりも、あなたが好きなシュタリアちゃんよりも愛している! その事だけは信じて、覚えておいて欲しいの‥‥」
 華鳴はティリーナの部屋へ入るなり、集合場所に遅れてきた時に購入していたお土産を渡し、泣いて自分の想いを全てぶつけた。
「‥‥」
 ティリーナは深い深い溜息を付き、ツインドリル――もとい、縦ロールを弄り始める。
 それが彼女の応えだと分かった華鳴は、踵を返して部屋を出ようとする。と、突然肩を掴まれ、無理矢理ティリーナの方へ向けさせられると、唇を奪われ、深い深いキスをされていた。
「‥‥ぷは! 華鳴、最近のあなた、おかしいですよ!? あなたが突っ掛かってきてくれないと、わたし、調子が出ないんですけど! 変にしおらしい今のあなたは嫌い、ダークな華鳴の方が個人的に好きなのですけど!?」
「‥‥ティリーナちゃん‥‥」
 そういう事だったのだ。千佳も気付いていたが、最近、華鳴の態度が変わった事に一番やきもきしていたのは、もしかしたらティリーナかもしれない。

●ピンナップ


木之下霧子(fa0013
PCツインピンナップ
弥音