ホワイトデードラマSPアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 菊池五郎
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/14〜03/18

●本文

 バレンタインデーにチョコレートや品物をもらったら、ホワイトデーに返す――ホワイトデーは菓子業界が始めたと言われるが、バレンタインデーにもらったチョコレートや品物には、想いが託され、篭められている。
 ホワイトデーはその篭められた、託された想いに想いで応える日ではないだろうか。

『お返しはキャンディーが基本だけど、あたしはマシュマロがいいわね』
「マシュマロは、『あなたの気持ちを柔らかく包んでお返しします』という意味が込められているそうです」
『キャンディーが『好き』だったり、マシュマロが『友達でいよう』と、諸説が様々あるようだけど、私はクッキーがいいねぇ』
 ここは七福神が祀られた神社の本殿。
 マシュマロをもぎゅもぎゅと頬張っている、この神社に祀られている七福神の一神、弁財天――サラスヴァティ。
 その弁財天の言葉に応える、この神社に仕える巫女、天埜探女(あめのさぐめ)。キャンディーを口に含みながら、弁財天達にお茶を淹れている。
 クッキーを上品に食す、褐色の肌のエキゾチックな美女。名前はパールヴァティといい、弁財天と同じく女神である。
 弁財天やパールヴァティは人間に顕現(=変身)しない限り、一般人にその姿は見えないが、探女は顕現していない弁財天やパールヴァティの姿を見る事が出来る、数少ない厚い信仰と裏表のない清らかな心の持ち主だ。
 弁財天が食べているマシュマロや探女が食べているキャンディー、パールヴァティが食べているクッキーは、全てお供え物だ。
 神様の力の源は人間達が自分を信じる心、いわゆる『信仰心』だ。お参りされればされる程、信仰心が高まり、その神様の願いを叶える力になると同時に神格が高まる。しかし、弁財天程(=主神クラス)になるとこれ以上神格は上がらないので、自分が祀られている地域に御利益をもたらす為の神力として信仰心が必要になってくる。
 神様はご神饌や神酒といったお供え物を食べる事が出来、それらはサプリメントよろしく、手っ取り早く信仰心を得られるのだ。拝殿には弁財天の意向で、『ホワイトデーの祈願は、お賽銭ではなく、品物を供えるように』と探女が書いた張り紙がされてあった。
 先のバレンタインデーでは編み物教室とチョコレート教室が開かれ、参加した女性達は皆、告白が成功したという噂が流れているように、この神社は御利益がある事で、地元の、特に若者達の間で話題になっていた。
 そしてホワイトデーを迎えたのだが‥‥。
『このお供え物の願い事が厄介なのよね』
 探女が淹れたお茶を飲み干すと、弁財天はパールヴァティに事のあらましを話し始めた。

・O君の場合
 O君が学校を出ようとした時だった。
「今帰り?」
 彼女に後ろから声を掛けられた。彼女はクラスメートの一人だった。普通に話すくらいで、友達といった程度の認識だった。
「コート一枚で寒くない?」
 O君はコートを着ていたが、今日はそれでも底冷えする寒さだった。
 すると彼女は自分が巻いていたマフラーを半分外し、O君の首に巻くと寄り添ってきた。
「こうすれば二人とも寒くないよね。さ、駅まで行こう!」

・S君の場合
 S君が駅のホームで電車を待っている時の事だった。
「今日は寒いね」
 彼女に後ろから声を掛けられた。彼女はクラスメートの一人だった。普通に話すくらいで、友達といった程度の認識だった。
「もう、ポケットに手を入れて、転んだらどうするの! それに背中を丸めてるとみっともないよ」
 すると彼女はS君の手をおもむろに取った。彼女の手には手編みだろう、ミトンの手袋が嵌められていた。
「電車が車で私が暖めてあげるね!」

・M君の場合
 M君が帰りの電車に乗っている時の事だった。部活動をしているM君は疲れており、うつらうつら船を漕いでいた。
「眠そうだけど大丈夫?」
 横に座っていた彼女に声を掛けられた。彼女はクラスメートの一人だった。普通に話すくらいで、友達といった程度の認識だった。
「寄り掛かってもいいけど‥‥」
 すると彼女はM君の頭を自分の股へと誘った。要するに『膝枕』状態である。しかも学校帰りの学生達でひしめき合っている電車内でだ。
「降りる駅を教えてくれれば、そこで起こしてあげるね」

「「「彼女は俺に気があるのかも知れない」」」
 ――男とは哀しい性の持ち主かも知れない。
 全員が全員ではないが、女性に他の人より優しくされると、それを好意と受け取ってしまう事もしばしある。
 咲夜は高校の寮から学校へ通っていた。O君、S君、M君はそれをいい事に、ホワイトデーの当日、誰よりも先に告白するつもりだった。

『つまり、このマシュマロとキャンディーとクッキーは、彼らの恋愛成就のお供え物って事かい?』
『そうなのよ。彼女にホワイトデーを利用して告白するつもりみたい。ただ‥‥』
「彼女の名前は木花咲夜(このはさくや)さんといいまして、既に付き合っている方がいるのです」
 弁財天の話を聞いたパールヴァティに、探女がそう付け加えた。どうやら探女は咲夜を知っているようだ。
『自然と男性に尽くしちゃうタイプらしいのよ』
『天然って奴かい。これで計算してやっているとしたら、ロロ・ジョングランと同じ目に遭わせてやるところだけどねぇ』
「まあまあ、パールヴァティ様」
 ロロ・ジョングランとは、彼女の夫であるシヴァ(=大黒天)を祀ったプランバナン寺院群にあるドルガーの石像へ変えられてしまったお姫様の事だ。古今東西、神の怒りに触れて石に変えられた者は少なくない。
 探女がパールヴァティをなだめた。パールヴァティはあらゆる美の女神であり、性格は穏和だが、こういう過激なところは夫譲りかもしれない。
『お供え物をもらったけど、既に相手がいる女性と恋愛成就させる訳にはいかないのよ』
『それで私を呼んだんだね。分かったよ、親友の頼みなら断る訳にはいかないからね。出来るだけ穏便に諦めさせればいいんだろ?』
 弁財天は音楽や芸術の神で、恋愛成就は苦手だった。かといって、犬猿の仲である美と幸福の女神吉祥天――ラクシュミ――に頼るのは癪なので、パールヴァティを呼んだのだった。

■主要登場人物紹介■
・サラスヴァティ:外見20代後半。弁財天。神としての能力は音楽・芸術と財福。人間の美女に顕現(=変身)するとカジュアルスーツ姿を好む。
・パールヴァティ:外見20代後半。美の女神。サラスヴァティとは親友同士。人間の美女に顕現すると、褐色の肌のストリートダンサー風の姿を好む。
・天埜探女:外見20歳前後。弁財天を始めとする、七福神を祀る神社の巫女。おっとりしていて穏和な性格。
・木花咲夜:外見18歳前後。高校生。付き合っている者がいるが、男性に尽くしてしまう天然な性格の持ち主。
※外見年齢はあくまでイメージであり、配役はこれに沿う必要はありません。

■技術傾向■
 発声・芝居・演出

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0244 愛瀬りな(21歳・♀・猫)
 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0488 エル(16歳・♀・狸)
 fa0658 梁井・繁(40歳・♂・狼)
 fa1323 弥栄三十朗(45歳・♂・トカゲ)
 fa1338 富垣 美恵利(20歳・♀・狐)
 fa1526 フィアリス・クリスト(20歳・♀・狼)

●リプレイ本文


●八方美人は危険がいっぱい!?
 木花咲夜は携帯電話を胸元で握り締め、息急き立てて走っていた。
 着信は久しぶりの、咲夜が付き合っている愛しい“あの人”から。しかし、“あの人”から電話が掛かってくる事はそうない。“あの人”は電話が苦手らしく、いつも咲夜が掛け、“あの人”が切る――その繰り返し。切った後は何とも言えないもの哀しい気持ちになるが、そんな思いをするたびに咲夜の“あの人”への想いは募ってゆく。
 それが“あの人”の方から急に会いたいといってきたのだ。友達とおしゃべりしながら帰り支度をしていた咲夜は、短い用件を高鳴る胸を抑えながら聞くと、友達への挨拶もそこそこに待ち合わせ場所へ駆け出していた。
「はぁはぁ‥‥お待たせ!」
 咲夜は走ってきた勢いのまま、久しぶりに会う“あの人”の胸の中へ飛び込んだ。“あの人”はそんな咲夜を優しく抱き留めた。
「急に呼び出して申し訳ありません」
「ううん、あなたの顔が見られるし、あなたの声が直に聞けるんだもの」
 “あの人”の久方ぶりの温もりを確かめていた咲夜は、顔を上げて謝罪に対して笑顔で応えた。
「その事なのですが‥‥最近、あなたが他の男子生徒ととても仲良く、いえ、親しくしているという話を聞きました」
「してるけど‥‥それがどうしたの?」
 歯切れの悪い“あの人”の言葉に、咲夜は何を言いたいのか分からず首を傾げた。
「誰にでも親しい‥‥それが咲夜の良いところだと、解っているつもりですけど‥‥でも辛いです、咲夜が他の男子生徒に優しくしているのを見るのは。このままだと私の方が咲夜の事を憎んでしまうかもしれませんから、今まで以上に距離を置いた方が良いのかもしれませんね」
 不意に抱き締められていた身体が離され、“あの人”の温もりを咲夜は感じられなくなる。
「久しぶりに会ったのですから、寮まで送っていきます。ほら、危ないですよ。車道側は私が歩きますから」
 その後、“あの人”に女子寮まで送ってもらった咲夜だったが、“あの人”は手すら握らなかった。

「あいつに会う為に咲夜は急いでいたのか‥‥しかし、誰だ、逆光で姿が見えない!」
 咲夜と“あの人”のやり取りを、隠れて見ている男子生徒がいた。“あの人”の話題に上った、咲夜が親しくした男子生徒の一人、大澤田である。
 大澤田は咲夜に声を掛けようと、今日は朝から彼女の様子を窺っていたのだが、教室で声を掛けようとすれば教室移動や体育の着替えにかち合い、廊下で声掛けようと思ったら咲夜が誰かに呼ばれたり、逆に自分が友達に呼ばれたり、ならば昼休みにと後ろから声を掛けたら、背格好や髪型の似た他の人と間違えたり――と、微妙にタイミングが悪く、気付いてもらえないままずるずると放課後になっていた。
 何だかんだと咲夜を追いかけ回した一日である。

 ――人から見ればストーカーである。

 大澤田の隠れている場所からは夕日が逆光となり、“あの人”の顔を確認する事は出来なかったが、咲夜と対比して背格好は高くなく、むしろ咲夜の方が高いようにも見えた。
「こら、大澤田! こんなところでコソコソと何をしている」
「!? なんだ、柊先生か‥‥」
 その時、後ろから声を掛けられ、ドキッとしながら恐る恐る振り返る大澤田。そこには優しげな笑みを湛えた、大人しげな雰囲気の白衣を着た男性が立っていた。
 咲夜や大澤田の高校の校医、柊三十朗だった。大澤田を始め、大抵の男子生徒と顔見知りだ。
「あれは木花‥‥か。邪魔しちゃ悪いだろう」
 三十朗に諭された事もあったが、一人でいるところを狙って告白しようと思っていた大澤田は、“あの人”と一緒に帰る咲夜の後ろ姿を見て今日は諦める事にしたのだ。


●さぁ、自分で考えよう!
「‥‥どうしたのかな?」
 寮の部屋へ戻った後、咲夜はベッドの上に膝を抱えて座り、携帯電話のアンテナを口元に当てながら、虚空を見つめていた。
 “あの人”の話が頭の中をリフレインするのだが‥‥それが最後通告を突き付けられたのだと気付かず、実はさほどダメージを受けていなかったりする。

「木花が寮を出る時間は今頃が平均だな」
 腕時計で時間を確認しながら、女子寮の入口近くの電柱に刑事よろしく張り込み待ち構える男子生徒。“あの人”の話題に上った、咲夜が親しくした男子生徒のもう一人、摂津住吉である。
『好きです! 俺と付き合って下さい!』
『嬉しい、私もよ♪』
「‥‥って、んな具合に上手くいったら、神も仏も必要ねえ!!」

 ――まったくだ、都合がよすぎる。

『お前が好きだ! お前が欲しい!!』
『‥‥病気? 救急車呼ぶ? それとも警察呼ぶ?』
「‥‥って、違う! いくらなんでも木花に限ってこの展開はない! そう、木花なら‥‥」
『お前が好きだ! お前が欲しい!!』
『うん、今日から私は住吉君のモノよ♪ だから、こんなところだけどしてあげるね』
「‥‥って、いきなりチャックを開けるのは拙いだろ!?」

 ――拙いのはお前だ。

『木花‥‥俺‥‥嫌なんだ! 木花とただのクラスメートでいるのがもう嫌なんだ!』
『ならば戦え、命を懸けて! ただのクラスメートから刃音を散らす宿命の敵になろうぞ!』
「‥‥って、これはこの前観た映画の内容じゃねえか!!」

 ――妄想一人芝居もここまでくれば立派である。

「あー、君、うちの高校の生徒のようだけど、ちょっとこっちへ来て、学年とクラスを教えてもらおうか?」
「俺は今、人を待ってて忙しい‥‥って、何で俺!?」
 そこへ女子寮の管理人兼ガードマンの親父さんがやってくると、住吉は肩を掴まれて女子寮の管理人室へと引きずられていく。

 ――当然である。

「管理人さん、おはようございます」
「木花ちゃん、おはよう。気を付けて行くんだよ」
「‥‥嗚呼、待って〜」
 その横を咲夜が歩いていく。住吉は彼女の登校する後ろ姿を涙で歪む目で見つめていたのだった。今日の遅刻は確定だろう。
「ちょっといいかい?」
「はい? ‥‥うわぁ」
 突然、女性の声に呼び止められた咲夜は、振り返ると感嘆の声を上げた。そこには褐色の肌を薄桃色のダンサー風の服で包み、顔の半分を薄いベールで隠した女性が立っていた。その服装や豊満な胸にスレンダーなボディといったスタイルから大人の女性の色香を醸し出しつつ、気品も併せ持っていたからだ。
 女性は真珠と名乗り、占い師だと告げた。咲夜の顔を見ていて、悩み事を抱えていると感じて呼び止めたという。こちらから呼び止めたのだから、占うのは無料だ。昨日の“あの人”の話の内容を未だに考えていた咲夜は、思い切って話した。
「ね、咲夜。考えてごらんよ。あんたの優しさは紛れもなく長所だ。しかし、仮に自分の愛する人が、あんたと同じ行為を他の女性にしたら、あんたはどう思う? その光景を目撃したら? 大抵の人間には『嫉妬』という心がある。あんたにもあるか、あたしにはわからないけど‥‥自分の愛する人が大事なら、その人の気持ちを考えてやらなきゃダメ、だよ。愛する人を失いたくなければ、ちゃんと自分でケジメをつけるんだ」
「ケジメ、ですか? ‥‥ありがとうございました!」
 優しい表情で、子供に言い聞かせるように告げる真珠。彼女の助言は咲夜のまさに欲しいものだった。「何に対してのケジメ?」とその応えをより深く聞きたかったが、朝のホームルームの時間が迫ってきたので、咲夜は頭を下げて礼を言い、去っていった。
「天然ってのは手強いねぇ。これじゃぁ、恋愛成就が苦手な弁財天一人なら苦戦するはずだよ。でも、切っ掛けは作ったから、後は弁財天次第だねぇ」
 真珠――パールヴァティ――は咲夜の小さな変化を見逃さなかった。

 真珠の占いの結果を“あの人”の話と重ね合わせ‥‥ここに来て咲夜はようやく、“あの人”に常日頃の態度を指摘され、“あの人”を失うかもしれないと、朧気ながら思い始めたのである。

「ちょっといいかしら?」
「真珠さん? ‥‥ごめんなさい、人違いでした」
 放課後、寮への帰路に付いた咲夜は、今朝の真珠と同じ場所で呼び止められ、彼女かと思い振り返ると、そこにはカジュアルスーツを着たキャリアウーマン風の女性がおり、慌てて謝った。

 ――よく呼び止められる日である。

 女性は弁天と名乗り、化粧品の試用を宣伝していると告げた。咲夜の顔を見て、化粧品を試して欲しくて呼び止めたという。
「お化粧をすれば、好きな人がもっと会ってくれますか?」
「もちろん、綺麗になれば好きな人もあなたの事をもっと見たくなるけど、どうしたの? 何かあったの?」
 少しずつではあるが不安が心を支配し始めた咲夜は、その事を打ち明けた。この女性になら安心して話せる、女の勘がそうさせたのかも知れない。
「咲夜、あなたが優しいのはとってもいい事だと思うけどね‥‥そのままじゃ、本当に好きな人が離れていっちゃうよ? 人は、好きな人の愛情を独り占めしたがるんだし」
「だから、どうしたらいいのでしょうか?」
「‥‥って、あれ? えっと‥‥もう、最後通告もらった後だったのよね。うー‥‥まあ、ともかく‥‥これもいい機会だし、これを機に自分を変えてみよ? もしあなたがこのまま変わらないなら、きっと最悪の状況になっちゃうよ。自分の力で、どうしたら一番いいか考えて実行してみなさい」
 弁天――弁財天――は咲夜の肩に手を置き、そう告げると去っていった。

(「好きでも何でもない奴に、自分の巻いていたマフラーを半分巻くなんて事はしない‥‥よな。大丈夫、絶対大丈夫だ」) 
 昨日同様、咲夜の後を付け回しながら告白の機会を窺っていた大澤田が自分に言い聞かせていると、キャリアウーマン風の女性が立ち去り、遂に咲夜が一人になった。

 ――チャンス到来である。

「木花!」
「‥‥大澤田君、今帰り?」
 弁天の後ろ姿が見えなくなった後もその方向を呆然と見つめていた咲夜は、大澤田に声を掛けられて正気に返った。
「ああ。木花に聞いてもらいたい事があるんだ」
「私に?」
「‥‥俺、木花の事が好きだ! 俺の彼女になってくれないか?」
 丁度人目のないところだったので、大澤田は思い切って告白した。

『自分の愛する人が大事なら、その人の気持ちを考えてやらなきゃダメ、だよ。愛する人を失いたくなければ、ちゃんと自分でケジメをつけるんだ』
『自分の力で、どうしたら一番いいか考えて実行してみなさい』

「ごめんなさい、私、大澤田君の事、そういう風に見られないの」
「どうして!? 一緒のマフラーを巻いて帰ったじゃないか!?」
「(真珠さんと弁天さんが言っていた事はこの事だったのね)‥‥私、付き合ってる人がいるから、だから、ごめんなさい」
 断られたが、あっさりとは引き下がらず、もう少し粘る大澤田。しかし、「付き合っている人がいる」という台詞を聞いてしまっては、諦めざるを得なかった。

「木花、好きです! 俺と付き合って下さい!」
「摂津君‥‥」
 その後、寮に帰る直前で、木花は今度は住吉に呼び止められ、告白された。確かに住吉にも勘違いさせてしまった節があると思い当たる。
「摂津君、勘違いさせてしまってごめんなさい。でも、私、今、付き合っている人がいるの‥‥だから、摂津君とはつき合えないの」
「そ、そんなぁ‥‥」
「咲夜が勘違いさせてしまったようですみません」
(「お、女!? でも、あの背格好は確か‥‥」)
 愕然と崩れ落ちる住吉。そこへ咲夜とは別の女性の声が掛けられた。決定的な証拠を見るまでは諦めきれず、またも咲夜の後を付け回していた大澤田は、巫女装束を着た女性の登場に驚きを隠せなかった。しかし、咲夜と対比させると、先日逆光で見えなかった彼女が甘えていた人物と重なるのだ。
「木花が付き合っている人って、真逆‥‥」
「はい、私です」
 住吉の震える指を向けられた巫女装束の女性――探女――は笑顔で肯定した。
「これでよかったのかな?」
「ええ。でも咲夜、私を嫉妬させた代償は高く付きますよ?」
 上目遣いに訪ねた咲夜は、探女がにっこりと微笑んだのを見て、その胸に飛び込んでぎゅっと抱き付いた。その場にいる住吉や、物陰から様子を窺っている大澤田を尻目にバカップルぶりを披露した。

 ――確かに、他の男性に入る余地はないのである。

「あ、摂津君、素敵な人が見つかるよう祈ってるわ♪」
「咲夜、あの方にも差し上げないと」
 唖然とする住吉と、探女に言われて大澤田に、吉祥天――ラクシュミ――の恋愛成就のお守りを渡す咲夜だった。

「パールヴァティ、ありがとうね、助かったわー」
「咲夜が付き合っていたのは探女だったのかい!? だったら最初から探女が私達に事情を話してくれればよかったんじゃないのかい?」
「まぁまぁ、探女は結果的にあたし達を頼ったんだしね」
 最後の最後で意外なオチに微苦笑するパールヴァティと、彼女をなだめつつ仲直りした二人を笑顔で見つめる弁財天だった。


♪今、君に送るよ 短い胸に書いた言葉を

 あなたの想い あなたの気持ち
 何も気にしていなかったあの頃
 もしも戻れるなら 抱きしめて心に触れたい

 今ならわかる あの時の気持ち
 だから、君に送るよ 短い胸に書いた言葉を♪


●CAST
 脚本/演出/柊三十朗:弥栄三十朗(fa1323)
 
 パールヴァティ:愛瀬りな(fa0244)
 天埜探女:エル(fa0488)

 木花咲夜:富垣 美恵利(fa1338)
 大澤田:氷咲 華唯(fa0142)
 摂津住吉:九条・運(fa0378)

 ナレーション/女子寮の管理人兼ガードマン:梁井・繁(fa0658)

 サラスヴァティ(弁財天)/エンディングテーマ:フィアリス・クリスト(fa1526)

●ピンナップ


富垣 美恵利(fa1338
PCシングルピンナップ
澤村瑞美